連作創作です。

http://www.hatena.ne.jp/1116725283
条件は第一弾に準じます。更に下記を付け加えます。
1:一回の字数は1000字以上
2:2005/6/7正午締め切り

「おいおい、随分とうわっついた話だな。」
男がしゃがれた声でそう言うと、私の話を聞きながら呆れた顔をして少し笑った。
一生懸命、自分がなんなのか、自分がだれなのかを他の誰かに説明しようとするたびに、自分に他の名前が振られていたり、自分が他の誰かになっていたり。生きていたり、死んでいたり。寝ていたり、目覚めていたり…。
「なぁ、お前だいじょうぶか?」
そんな男の声を…、その音を認識しようとしている自分が、自分の外にいるかのようだ。
他人を他人と認識できない。
だから自分が自分であることがわからなくなる。
もしかしたらそんな事なのかもしれない。
よし、少し冷静になるんだ。
誰の命が奪われたんだ?
私?自分?俺?俺の?自分の妻?友だち?私のトモダチ??
トモダチハジブンノコトカ?

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  • 登録:2005/05/31 19:50:39
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回答(6件)

id:lilkimeminem No.1

lilkimeminem回答回数13ベストアンサー獲得回数02005/05/31 20:36:38

ポイント20pt

やっつけ仕事という言葉が相応しいビルの屋上にその2人の人間がいた。

1人は壁にもたれ腕を組んでいる。もう1人は、目線をさまよわせている。

2人の頭上からは燦々と太陽が照りつけ、もうすぐ夏が来るのを知らせている。

「話はそれだけか?」

1人の男はそう言うとズボンのポケットからタバコを取り出し火をつけた。

「で、結論は、つまり・・・」

「いや、いいんだ」

目線を彷徨わせていた男が少しにらみがちに言った。

「もういいんだ。すまない。交渉はなしだ」

そう言うと、意識的に左右の足を交互に出しているかのように、ぎこちなく下に降りる階段の方に歩いていった。

「おい!ちょっと待て!俺の時間を取ったんだ、せめて宣伝だけでもされてもらう。これが俺の名刺だ。依頼があるなら連絡を」

男はシャツのポケットから名刺を取り、差し出した。

そこには「探偵・調査員」と書かれ、その下には電話番号が書かれていた。名前などはない。しかし、名刺を受け取った男はそんな事も気にする様子もなく、階段を下りていった。

名刺を渡したのは斉藤という男だ。2人の斉藤の交差を見た物は、物憂げにすべてを見下ろす太陽だけだった。


------

初参加です。こんな感じでよろしいのでしょうか?

id:ron39

ありがとうございます!字数がちょっと不足ですね。次回からは1000字以上でお願いします。

2005/05/31 20:43:25
id:Yuny No.2

ねがい かなみ回答回数953ベストアンサー獲得回数132005/05/31 23:47:50

ポイント20pt

http://www.hatena.ne.jp/2人の斉藤の交差を見た物は、物憂げにすべてを見下ろす太陽だけだった。:detail]

俺はとりあえず、ビルの1階のうらぶれたカフェで軽食を摂ることにした。

熱いコーヒーが、まるで数ヶ月ぶりに飲むモノのように感じられた。そうだ、よく分からない事態になったときは、まずは落ち着くことが必要だ……。コーヒーの苦みを頼りに、頭を少しスッキリさせると、先ほどもらった名刺を取り出した。


探偵・調査員 

電話 **********


まったくふざけた名刺だぜ。名前が書いていない上に、電話番号までシークレットと来ている。これでは連絡の取りようがないじゃないか。

無意識に服のポケットを探ると、携帯電話が出てきた。見たことがあるような、なじみが無いようなシルバーブラックのデザインだ。いつ契約したか……覚えが無い。しかし、この店には客用の電話も置いていないし、窓から探してみたが周辺には公衆電話も見当たらないようだ。


携帯電話を見るとは無しに眺めていると、一つの考えが浮かんだ。

電話 **********

つまり、電話の*を10回押せばつながる、ということだろうか? まさか。

俺は会計を済ませ、外に出た。電波の入りやすい場所を探して試してみた。どうせジョークみたいな考えだ。駄目だったらそれでもいい。


『斉藤探偵事務所です。大変申し訳ありませんが、ただ今外出中です。御用の方は、転送……』


留守番電話の音を最後まで聞かず、俺は電話を切った。まさか、かかるとはね。これ以上聞いていてもどうせ留守電になるだけだろう。だが、俺と同じ名字を持ち、探偵という男だ。もう少し話せば何かを知っているかもしれない。また後でかけ直すか。

携帯電話をしまい、自宅への道を歩き出す。住宅地の裏通りの、古びた2階建て一軒家だったはずだ。鍵も……ある。


一軒家? だれと住んでいたのだ?


考え事をしながら歩いていたので、帰り着いたときには、日はすっかり暮れて肌寒くなっていた。鍵をまわし、門扉を開く。夕刊や郵便物を確認し、玄関を開ける。すべてが慣れきった動作のはずなのに、微妙に禁じ得ないズレ……違和感。

ダイニングの机上に荷物をすべて放り出す。駄目だ。新聞も郵便物もまともに目を通す気になれない。何よりこの虚脱感、疲労感は何なのだ。コーヒーを飲んだはずなのに、眠気がする。

誰もいない家。深く考えずにベッドルームへ行き、その夜はバタリと眠ってしまった。夢も見ない深い眠りの中で、無意識にクロックの音を聞いていた気がする。カチカッチカチカッチ……。


犬の遠吠えが眠る街に響いた。満月が登り、しばし街の灯となり、名残惜しそうに去ってゆく。カチカッチカチカッチ、カチカッチカチカッチ……。この音を聞いていたのは、実は俺だけではなかったと知るのは、事態が急転する明日のことだ。

id:ron39

いよいよ乗ってきましたね。チョー面白くなりそうですね。映画化されたらどーしましょ。

2005/06/01 02:45:20
id:itkz No.3

itkz回答回数4ベストアンサー獲得回数02005/06/01 03:17:33

ポイント20pt

http://www.hatena.ne.jp/...事態が急転する明日のことだ。:detail]

木の扉が軋み声をあげながら開き、男が入ってくる。木の机に向かう。受話器を取り上げると肩と頬で挟み、左手でつまんだ名刺に力の無い目を向ける。タバコを噛み潰しながら電話のダイヤルに指を入れて回すと、名刺を机の上の書類の山の中に捨てる。木の椅子に勢いよく座り込んだ。

電話の先を呼ぶけたたましいベルが何度か繰り返す。男は右足を何度も短く踏み鳴らす。苛立ってタバコをさらに強く噛む。受話器を手で持ち直し、机の上の書類をはたき落とす。残された書類の中から名刺を取り上げ、眉間に皺を寄せ電話番号を読み直す。落下していた書類の最後の一枚が、ぱらりと床に落ちる。電話の音を残し、部屋の中の動きが止まる。名刺を見ていた男の眉間がゆっくりとひらき、目が焦点を失い、食い込む歯がゆるんでタバコが落ちる。薄い金属が噛み合うような短い音を最後にベルが止まる。受話器のスピーカーから男の耳に声が流れ込んでくる。

「斉藤だ」

男は何かを言おうと口を広げるが、タバコが無いことに気付き右手をくちびるに当ててなでる。

「おれの渡した名刺はまだ持ってるか?」

「あ、ああ」

「その名刺はお前にやるよ。今、窓の外にいる。ちょっとこっちを見てもらえないか」

男はすぐ後ろのブラインドに指を入れ、ひろげた隙間から渋滞した道路を眺める。男の事務所から少し離れた場所には電話ボックスがある。そこに名刺を渡した斉藤と名乗る男の姿が見えた。斉藤はこちらとは逆の方向に顔を向けると、慌てて電話を切った。電話ボックスから飛び出して走り去っていく。その後ろから、斉藤を黒い服の女が追う。


   ----

男が受話器を置き、短い金属音が鳴る。上半身を折り曲げて床にある火の消えたタバコを拾い上げる。扉の方へと歩きながら、そばにあるゴミ箱の方向へ吸い殻を投げる。吸い殻はゴミ箱のわきに落ちる。そのままノブを掴み、勢いよく引く。外には太ったメガネが立っていた。ノブを握る力が弱くなる。男は一歩踏み出してゆっくりと扉を閉めると、メガネの前で頭を掻いた。

「原稿はできたのか」

男は今出たばかりの扉に顔を向け、メガネに向き直る。

「いや、もうすぐ終わります」

「今日から新人が来るんだから、びしっとしてもらわんと困るぞ」

メガネは腰に手を当ててふうと息を吐くと、巨体を揺すって通路の奥に歩いていった。


巨体が角を曲がり見えなくなる。男はもう一度頭を掻き、同じ方向へ向かう。脇の扉のノブが音を立て、男の足音が止まる。スーツの女が顔を出す。

「あ、もういらしてたんですね。新しく来た子がいますから、どうぞ」

女に促されて部屋に入る。女が「こちらです」と言う先に、男よりも少し若い新人がいた。新人が丁寧に挨拶をすると、男も軽く返した。

「それじゃあ、あとはお願いします」

女が部屋からいなくなる。男は新人の肩を叩くと、新しいタバコを取り出してジッポライターで火をつけた。


   ----


男はレストランでサンドイッチを口にねじ込んでいる。店の外はひっきりなしにクラクションが鳴っている。新人は口の中をコーヒーで流し込んでいる。男もコーヒーを口に入れ、カップの角度を上げ、一気に飲み干して机の上に置く。

「とりあえず、仕事のさぼり方から教えてやるよ」

新人はカップを口から離し、間をおいて苦笑いする。

「それじゃあ行くか」

「あ、はい」

新人は慌てて残りを飲み干すと、男の後ろについていく。男が会計を済ませる間に新人は店を出る。外はクラクションの渦だった。ひしめく車の間から誰かが走り出してくる。男が財布をポケットに入れながら店の扉を開ける。新人はこちらに走ってくる人間を見つめている。相手は新人の目の前で走るのをやめて、よろめくようにひざに手をつくと、息を上げたまま新人を掴む。

「邪魔だ!」

男が、よろけた新人の向こう側に見たのは、斉藤だった。

斉藤は男に掴みかかろうとする。クラクションの波が大きくなる。その中に、かき消されるような低い音が鳴って、斉藤の腹からわずかに赤い飛沫がふき出す、動きが鈍くなる、体が崩れる。男に右手だけをかけて、ずるずると血糊をつけながら、地面に倒れ込む。男は自分の体を触り、赤い手のひらを見て目を見開く。新人はしりもちをついたまま、靴の裏を何度も地面に擦らせながら立ち上がり、逃げていく。

男が前を見ると女が立っていた。

「アハ、アハハ、死んじゃっ、ハハ、た、アハ、ハハハハ、アハハハハハ!」

苦しそうに大笑いして、女はどこかへ消えていく。男は足に乗った斉藤を蹴り上げてよろけると、慌てて走り出す。


   ----

木の扉が大きな音をあげて開き、男が入ってくる。木の机に向かう。木の椅子を蹴飛ばす。震えた手で机の上を漁る。手から血のうつった書類を手にとる。歯を小さくかちかちと鳴らしながら目を通す。人骨を食らう人間、二つの月、止まらない笑い、そして、おれを作り直す女!

電話がけたたましい音を鳴らす。慌てて受話器を取る。手が震えている。男は何か言おうと口を広げるが声が出ない。受話器のスピーカーが震える。

「逃がさないから、ハハ、ハハハ!」

男は両手で電話を受話器ごと遠くに突き飛ばす。ふところからジッポライターを取り出すが地面に落とす。這いつくばるようにして拾うと、肩から震える指で何度もがちがちと鳴らして、ようやくあたりの書類に火をつける。男は震えたままタバコを取り出して、あたりの火と煙を吸い込む。書類が燃えていく。カーテンに火がうつり、瞬く間に部屋が赤く染まっていく。男はうずくまったまま何度も咳をして、タバコが落ちる。扉の開く音。男は慌てて身を固める。周期の速い足音がして、止まる。男の前には新人がいた。

「なにやってんですか! 早く逃げましょう!」

男は新人に引きずられるようにしてもつれた足で部屋を飛び出す。不規則に大きく息を吸って、目を見開いている。新人が再び男の腕を引こうとしたとき、男がふところから名刺を取り出す。

「こ、これが、おれの、名刺だ」

顔をいからせた新人が奪い取るように名刺をふところにしまい、男の服を引くと、通路の角から女が現れる。

「アハ、アハハ、ハハ、アハハハハ!」

男は新人を振り切り逆方向へと走り出し、そのまま通路の窓から飛び降りる。女は新人を突き飛ばして男を追いかける。


名刺を渡したのは斉藤という男だ。二人の斉藤の記録が燃えていく。新人は血のついた名刺を持って通路を逃げ出した。

id:ron39

やべ。面白すぎる。斉藤藤斉でググったらもう出ていた。

2005/06/01 03:23:02
id:farrah No.4

farrah回答回数1ベストアンサー獲得回数02005/06/01 16:13:01

ポイント20pt

http://d.hatena.ne.jp/連作創作です:detail]

初回答でよくわからないのですが、こんな感じでよいのでしょうか?


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 針が音を、カチ、カッチ、カチ、カッチ、カチ、カッチ、カチ、カッチ、刻むのだが、それは、電池の消耗や時計自体の経年劣化などで時刻を追う役割を徐々に忘れていったせいだろうか、いつしかカチ、カチといった規則正しい音を奏でなくなっていて、カチ、の後に、常にカッチという音が続いてしまう。だから、カッチの、「ッ」という促音の分だけ針は、たとえば家中から忌み嫌われる痴呆老人が身体から出る垢だとか糞尿といった排泄物、もしくは味噌汁やスープなどといった食物を、家族への腹いせに擦り付け塗りたくってしまった所為にも見える赤黒い汚れにまみれてしまった柱に掛けられたあの時計の針は、カチ、カチという律儀な正確さで追わなくてはならない正しい時間から、常に遅れ続けている。

 しかしこの家には痴呆老人などおらず、いや仮にいたとしてもそこまで邪険に扱うまい、と常々思っているのだが、それはともかく、つまりこの部屋は正しくないのだと僕は思い始めた。時計が正しさから常にずれ続けている。「ッ」という促音の分だけ、いつも時間が後退しているのだ。しかしそんなこと、今まで考えたことはなかったのに。


 今夜は「ッ」のせいでなかなか眠れない。布団に横になり、目は閉じるのだが、真夜中の垂れ込める鈍い空気と、疲れでぐにゃりと重たい身体に、カチ、カッチ、カチ、カッチ、カチ、カッチ、カチ、カッチという音はいやに響き、耳障りというか、カチ、カッチ、カチ、カッチ、カチ、カッチ、となるその度にぴりぴりした針の先に突付かれているようでもあり、ああ、ひどいな、眠れる気がしない。特に「ッ」という促音が犯罪的だ。カチ、カチならまだいい。だけど、カチ、カッチとはなんなのだ。僕は苛立ち、ぐるりと寝返りをうってみるけれど、それで眠れるようになるばかりかますます意識はハッキリとしてくる。もちろん、まあ、時計がだんだん壊れてゆくのは至極当然のことで、買い換えればよいとみんな僕に言うかもしれない。だけど、そんなことは言われなくてもわかっている。ただ少なくとも、まだ僕は電池も換えていなかったし、時計自体買い換えてもいない。そもそも僕はこの時計を気に入っていたのだ。このカチ、カッチという音でさえ。昨日までは。


 僕は眠りを半ば諦めかけ、閉じていた目をついに開き、布団から身体を起こして、胡座をかいて考える。さすがに、ぎりぎりまで起きていて、限界になれば、それで寝れるだろう――朝がつらいけれど、一日くらいどうにかなる――そう思って、少しばかりささくれ立った畳に転がっていた紫色の100円ライターを拾い、煙草に火を点ける。薄明かりは点いているが眠るために暗くなっている部屋の中に、マルボロライトの煙が細く一筋、ゆらりと昇り、次いで僕の口から吐き出された白い煙は、入道雲のような塊となって飛び立ってゆく。

 そこで目を落とすと、布団の脇にある卓袱台の上に、一枚の、名刺だろうか、そのくらいの大きさの白く厚い紙が、いつも僕が乱暴に煙草の灰を落としたり消していたりするせいでその周りにまで灰が飛び散ることがよくある灰皿の傍らに、ちょこんと置かれていた。ただそれは今日、はじめて新人として行った仕事場で、誰だっけな、斎藤さん、斎藤さんだったと思うけど、あの人にもらった名刺だったような気がして、そういえば斎藤さんは、僕に名刺を渡すとき顔色がばかに悪かったみたいだけど、いや、いや、そもそも僕は、斎藤さんから名刺をもらったのだろうか。そして眠る前に、正確に言うなら横になる前に、卓袱台に僕はそれを置いたのだったろうか。


 紙をそっと手にとって裏返した。目を凝らしてみるとそれは、「斉藤藤斉」とだけ書かれたシンプルな、というより、これだけでは名刺としての機能に乏しいと思うのだが、やはりまずまず名刺だった。しかし、それには、黒ずんだしみが点々とある。黒いしみ、これはなんなのだろう。カチ、カッチ、カチ、カッチ、カチ、カッチ、カッチ、カッチ――もしかして血だろうか? 血かもしれない。インクではないような気がするし――カチ、カッチ、カッチ、カッチ、カチ、カッチ、カッチ、カッチ――いずれにせよ、見ているとだんだん具合が悪くなりそうな名刺で、なんで僕がこんなものを持っていないといけないのか、そこのところが判然としない。カチ、カッチ、カッチ、カッチ、カッチ、カッチ、カッチ、カッチ――しかし時計の音が先ほどから遅れ続けている。いよいよあの時計も老年期に突入したということなのか、いや、違う、そうではなくて、これはたぶん――カッチ、カッチ、カッチ、カッチ、カッチ、カッチ、カッチ、カッチ、カッッチ、カッッチ、カッッッッチ、カッッッッッッッ――どんどん時間が後退して、後退して、間違っていってるのだ。この部屋は間違っていく。きっともう眠れない。


 階下の方で、かたかたと音が鳴り始めた。恐らく玄関が、揺れている音なのかもしれない。かたかたとした音は、やがてがたがたと、そしてそのうち、がたがたがたがたガタガタガタガタ次第に大きくなる。これはただ事ではないと感じた僕は、急いで窓に駆け寄り、煙草のヤニで濁り汚れたカーテンをそっと片隅だけ開けて、下をうかがってみた。すると、黒く長い髪の、黒い服を着て、黒い紙袋を抱えた、どうにも奇っ怪な風采の女が街頭に照らされ、僕の家の玄関をがちゃがちゃ揺らしているのがはっきりと見えた。女の顔がふいと上げられ、隙間から覗く僕の目と彼女の目が合った。そのように思えた。冗談だろうと思うけれど、だけど、この部屋自体がもう間違ってしまったのだから、仕方がない気もする。


「アハハ、ハハ、見つけ、ハハ、アハ、た、アハハ」


 女が、狂人の紋切型めいた、げんなりするほどお決まりのような文句で声を張り上げている。だから僕はうんざりしてみる。そうしてうんざりしておけば、僕自身には何も起こらないように思った。取り乱したり、恐れたりすることは、間違いに呑み込まれることではないのか。だけど同時に、もう遅い気もしていた。もう時計は止まっていた。がたがたがたと玄関は揺り動かされ、そのうちそれは突き破られるのだろう。まずは何だろう、そうだ、警察に電話をしないと――恐らく通じはしないのだが。

id:screammachine No.5

あさくさ回答回数13ベストアンサー獲得回数02005/06/01 18:58:01

ポイント20pt

http://www.hatena.ne.jp/連作短編 投稿1:detail]

 女はコーヒーのカップをしばらくもてあそぶと、窓の外からおれの方へ目線を向けて言った。

「私が最後に彼を見たのは、彼が仕事から帰ってきて、駅で待ち合わせしたときでした。そのあとで、私はスーパーに買い物へ、彼は


先に家へ帰っていきました、それが最後でした」

 女は目線の定まらぬまま、喋り続けた。テープレコーダーは回り続けていた。

「それで、買い物を終えて、家へ向ったんですね?」

「そうです」

「そのときに、何か怪しいものを見ませんでしたか」

「怪しいもの?」

 女はゆっくりとその細い手指を口元に近づけると、眉間にうすくしわをよせて考えはじめた。美人の悩む姿ってのは、いつ見てもいい


もんだ、それが同棲相手を惨殺されたうえに、第一発見者だというのだから興奮しないほうがおかしい。いや、おかしいのはおれか、


猟奇事件を探し出しては、関係者にインタビューを繰り返す、架空の出版社と架空の名前、おれは趣味でルポライターをやっているの


だ。ゆっくりまわるテープレコーダーに、女の息遣いが記録されていく。愛する者を失った悲しみ、怒り、それらを記録していくのがお


れの愉しみだ。

 今回はしかも相手が美人とくる。この事件を見つけたときは、その猟奇的な殺され方に魅力を感じていたが、次第に面倒臭さの方


が勝ってしまった。調べるうちに、あまりの関係者の少なさに辟易したのだ。殺されたのは調査会社の社員、しかも途中入社したて


の新人で、会社には誰も知り合いがいない。前歴は不明、戸籍をたどりゃ両親ともに鬼籍だし、兄弟親戚のたぐいもいない、建売住


宅の住人どもは、隣人の顔どころか性別も知らない有様。だがおれはそこに光明を見出した、大枚はたいて現役刑事から買った情報


で、ホトケが同棲していたことを確認したおれは、必死で女の所在を突き止めたのだ。

 電話口に出た声を聞いただけで、おれは射精するかと思った。それほど女の声は「愛するものを失った哀しみ」に満ち溢れていたの


だ。あまりに奇妙な事件だし、マスコミ嫌悪になってやしないかと危惧したが、女は拒否するでもなくおれとの待ち合わせ時間を決め


た。

 教えられた私鉄の駅を降りると、女が待っていた。塗れたような黒髪、線の細い顔立ち、憂いを帯びた眼、質素な服でおれを出迎え


た女は、大きな紙袋を抱えていた。


「そういえば、黒猫を、見たような気がします、家に帰る途中で」

「黒猫?」

「丸い、金色の目をした、黒猫が」

「なるほど」

 おれはメモ帳に「黒猫の目」と書きながら、何が奇妙なものかと女をせせら笑った。こうやって問い詰めていくと、ほとんどの奴はな


んでもない風景に恐怖を感じるようになっていく、おれの誘導で記憶を捏造し、その檻に閉じ込められていくのだ。

「普段は見ない黒猫が、そのときだけは見えたんですね?」

「そうです、あとは、とくにおぼえていません」

「そして、あなたが家に帰ると、外側の扉に鍵がかかっていた」

「いいえ、鍵はかかっていませんでした、まるで鍵がかかっているみたいに、空かなかったんです」

「それは妙ですね、刑事さんは何と仰られていました」

「たぶん、気が動転していたのだろうと……でも」

「そう、あなたはその時点ではまだ……彼を見ていない」

 女はおれのストレートな物言いにショックを受けたようで、うつむいて黙り込んでしまった。おれは続けた。

「お気を悪くしないでいただきたい、ただ、正直な考えを述べただけなのです」

「いいえ、すみません……あなたの言うとおり、私はまだ、気が動転していたわけではなかったのです」

「けれど、ドアはしばらく空かなかった」

「はい、私が何度もガチャガチャとドアノブを動かしていると、その音に気づいたのか、カーテンがゆれたんです」

「カーテン?」

「彼の、部屋のカーテンが……そのとき、彼の部屋にも、どこにも電気が点いていないことに気づいて……」

「……見たんですね?」

「……」

 女は憔悴している、幾分悪くなった顔色から、それは勿体ぶっているのではないことがわかる。

「いいんです、独自の調査である程度のことはこちらも承知しています、ジャーナリズムの常として、真実との整合性を確かめたいだ


けなのです」

 口からでまかせがポロポロとこぼれた。

「さあ、何を見たんです、言ってください」

 女は乾いた唇を動かせば割れるかのようにそっと開いた。

「私が、覗いていたんです、カーテンの隙間から、じっと」

 おれは息を呑んだ。報告書と違うじゃないか、カーテンの隙間から覗いていたのは、黒髪の女、容疑者であってこの女じゃない、何を言っているんだ?もしかしたら、同棲相手が死んだショックで、気が狂ったのかもしれないな、

「しばらく目を合わせると、私はカーテンの隙間に消えました、気がついたらドアが開いてて、私は家に帰ったんです」

 嫌な感じになってきた、常軌を逸した女の言動にはあまり快感をおぼえない、おれはインタビューを早めに切り上げることに決めた。

「あなたが部屋に入ると、彼が倒れていたんですね」

「ええ、ベッドの上で、眠っているみたいで……だけど……おなかが……」

 報告書にも書いてあった、スーツを着たままのガイシャは、みぞおちからヘソの下までざっくり切られて殺されていたんだ。死因は失血死って書いてあったかな。生きたまま腹を切られたらしい、写真を見たがあばれた様子はなかった。

 そのとき、テープが切れて、ガチャリとレコーダーが止まった。おれは気づいて、上着のポケットから渡し忘れていた名刺を取り出した。そういや、なぜ忘れていたんだろうな、駅で会ったときも、喫茶店に入ったときも、テープレコーダーを出すときも、いつだって渡せたはずなのに。不思議な女だ、おれが誰かも知らないまま、べらべらと喋り続けるなんて。手をつっこむと、ポケットの中には一枚だけ名刺が入っていた。おれはその名刺を取り出してテーブルの上に置いた。

「遅れましたが……」

 名刺を見た女が頬を引きつらせた。

「どうしたんですか?何か失礼なことでも……」

 女は歯をカチカチと鳴らしながらテーブルの上に置いた名刺に視線をおとした。つられておれも名刺を見る。

「彼のおなかには、たくさんの名刺がつめこまれていました」

 くそ、また報告書に書いていないことを。

「すべての名刺には、同じ字体で、斉藤藤斉と」

 カチカッチ、カチカッチ、カチカッチ

 突然壁時計の音が耳障りに鳴った。歯車がずれているのか、妙なリズムを刻んで時計が鳴る。

 カチカッチ、カチカッチ、カチカッチ。

 おれはテーブルの上に置いた名刺から目をはなせない、それはおれの名刺ではなかった。おれの名刺はクリーム色の安物で、は


じには出版社の名前が印刷されている。だが、その名刺には、おれの指で隠れた部分以外には何も印刷されていなかった。

 カチカッチ、カチカッチ、カチカッチ。

 おれはゆっくりと手前に指をすべらせて、テーブルに貼りついた名刺をはがそうとした。だが真っ白な名刺は、テーブルに貼りついた


まま、おれの指から離れていった。

 真っ白な名刺には、黒い墨で斉藤藤斉と書いてあった。

 カチカッチと鳴る音が、おれの頭のすぐ前で聞こえた。脇の下にじっとりと汗をかいている、手足の先が冷たい、おれは間違えた。こ


れは俺ごときが首を突っ込んでいい事件じゃなかったのかもしれない、

 ガサガサと紙袋が鳴った、毛の多い生き物が、袋の中でうごめいていた。

 おれは、何が起こっているのかを、なかば理解しながら、その性癖と好奇心に突き動かされて、正面を向いた。

 紙袋から首を出した黒猫が金色の目でおれを見ていた。

「アハハ、ハハ、見つけ、アハハハ、アハハハ」

id:Yuny No.6

ねがい かなみ回答回数953ベストアンサー獲得回数132005/06/04 15:28:37

ポイント20pt

http://www.hatena.ne.jp/「アハハ、ハハ、見つけ、アハハハ、アハハハ」:detail]

発作的な笑いを収め、俺は猫を見つめた。黒猫は睨みつけるように、俺の方を向いている。この猫がすべてを知っているはずだ。笑うしかないおとぎ話のような考えだが、今までの事件の流れと、趣味ながら長く続けて来たルポライターとしての勘がそう告げていた。この事件で何かあると、必ず黒猫、月、コーヒーが関わっているような気がしていた。


猫の目を見つめていると、そもそもこの事件に関わったきっかけ、そして今までを思い出す。


俺はもともと、趣味のルポライターとして、本業の宅配業の合間を縫い、小さなブログを立ち上げて街で起こるちょっとした事件を追い続けていた。事件のネタ探しには宅配業は役に立つし、元々ゴシップや都市伝説が好きだったから、やっていて面白かった。大きくはないが、それなりの反響もあった。

ネタ探しには足と耳で稼ぐほか、webも役に立った。街の噂専門サイトなどを巡ると、普段は気が付かない地元の話がいろいろと書かれている。また、探し物に人手を求めるサイトの書き込みなども役に立つ。いわゆるQ&Aサイト、人力検索と言われているたぐいのものだ。読んでいるだけでも面白いが、あるとき、あるURLの書き込みが気になった。

http://www.hatena.ne.jp/1116725283

人力検索はてな - 創作をしましょう。才能ある皆様での連作となります。当方はかなり頻繁に閲覧できますので、その都度開封します。連作作家は、メモ帳などに草稿を書かれ、前の方の内容を確..

ここで書かれている事件は、もしかして俺の地元でのことじゃないのか?


実は、街の噂BBSのたぐいでも、「カチカッチ」とひどい耳鳴りがする人、斉藤と言う探偵が色々と詮索しているとか、この世とは思えない美女が黒猫を連れていたとか、似たような話がいろいろと出ていたのだ。宅配業でお客さんと立ち話をしたときに、そんな話を聞いたこともある。ただの都市伝説じゃない。


二つの月が出たという夢をみた、というのも、時々見かけた話だ。面白いことに、耳鳴りを抱えた人がこの夢を見るケースは割と多くて、俺のライターとしての好奇心をくすぐった。

「決めた。次のネタはこいつだ」


なぜ、耳鳴りを抱えている人が増えているのか。

なぜ、その人たちは2つの月を見たのか。


そして、そうした人たちを観察していた「斉藤藤斉」というコードネームを持つ者が、なぜこうもやたらに多かったのか。


俺はひとりの「斉藤藤斉」氏を訪ね、まるで別件の取材だと偽って喫茶店で話をしたことがある。その男はやたらとアメリカンコーヒーを頼んだ。そして、彼は自分の存在感に奇妙な二重性を抱えていた。


『確かに俺は「斉藤藤斉」というが、自分の住まいなどが、俺のものなのかどうか、生活感覚に自信がない』

『本当に俺は俺なんだろうか?』


「斉藤藤斉」氏の話をもとに、「斉藤藤斉」に関わる者を訪ね歩くと、奇妙なことにみんなコーヒーを頼むのだ。喫茶店には他にも紅茶や、ソフトドリンクもあるというのに。「斉藤藤斉」と自分を認識している者も沢山いた。その手の噂を追い、いったい何人の「斉藤藤斉」の話を聞いたのだろう。

そして取材が終わって喫茶店を出ると、必ず黒猫を見かけた。そして謎めいた美女も。ちょっとした尾行と執念で、俺はその美女を捜し出し、こうして取材を申し込めたというわけだ。


「どうなさいました?」

女が心配そうに見つめてきた。

「いえ、何でもありません」

そりゃそうだ。猫を見て、いきなり笑い出したのだから。俺は冷めてしまったコーヒーを飲み干し、もう一杯頼んだ。

「まだ何かご存知なんじゃないですか? 沢山の名刺に違和感は感じませんでした?」

事件の異様さは俺の想像以上なのかもしれない。しかし、ここまで追って来たんだ。絶対に真相を突き止めてやる。俺は自分を励まし、力を込めてそう尋ねた。それが伝わったのか、彼女はこう言った。

「……何もかもお話しいたします。あなたにならお話しできると思います。私の罪を」


ウエイターが新しいコーヒーを運んで来た。カップを取り替え終わるのを待って、彼女はすべてを話し始めた。

私は大学で心理学を修めましたので、インターネットユーザーの「心の病」を追っていくブログを書いていました。もう2年くらい前からになりますでしょうか。


1年ほど前から、仮面の自分に気がつかされたといったご相談を受けることが多くなっていました。インターネットの自分と、現実の自分は、違う、違いすぎると。

このペルソナをどうやっていったらいいかというご相談が増えていました。

わたしはそういったご相談を受けて、どうすればいいか、ブログには書けずにひとり悩んでいました。そうしたとき、ネット上ではネット上の人格を、その人のために与えてあげれば役割を演じているだけで良いのだから、その人たちは安心できるだろうと考えたのです。そのために、仮想の話としての人物を考える必要がありました。何となく思いついた名字は「斉藤」でした。そして、「斉藤」をネット上で演じる者たちのことを「斉藤」を搭載した者という意味で「斉藤藤斉」とし、読み方を日本人らしく「さいとうふじなり」としました。


『私が知っている、斉藤藤斉さんという人は、ネットではこのように強いヒーローを演じ、ストレスを解消して普段の生活もがんばっている』


というような偽りのたとえ話をし、ネットではネット、生活では生活と割り切ればよいのでは、と一人一人に教え諭したのですが、ご相談頂いた方には誤解されてしまったようですね。

「自分は斉藤藤斉という強い人物なんだ」と思い込むことで強くなろうとする妄想を、多くの人に与えてしまったようでした。その結果、私の預かり知らぬところで「斉藤藤斉さん」は一種の潜在的ブームになってしまったようでした。強い探偵の斉藤藤斉さん、暖かい家庭と一軒家を手に入れた斉藤藤斉さん、絶対に逮捕されない暗殺者の斉藤藤斉さん、何度も修理されている人造人間の斉藤藤斉さん、などなど、沢山の斉藤藤斉さんが生まれてしまった。妄想だけならいざ知らず、実際に斉藤藤斉さん同士で殺人事件も起こってしまった。あの名刺の山はショックでした。


私は大学の恩師に会いにいき、どうしたらいいかご相談しました。色々な対策を立てては。

「失敗したようね。」

「ああ、今度こそうまくいくと思ったのに」

といった会話を交わす日々。なかなか打開策は打ち出せませんでした。

斉藤藤斉さんたちは精神不安定から来る奇妙な耳鳴りを抱えておられ、また現実に妄想を持ち込んで覚醒し続けるためにコーヒーを好みました。私はセラピストとして特に斉藤藤斉さんが多いと思われるこの地域に診療所を作りました。そして、診察が終わった後、斉藤藤斉さんたちを尾行すると、奇妙な取材者を見かけるようになってきました。そう、失礼ながらあなたのことです。いつかこうして、接触があるのではないかと半ば恐れ、半ば期待もしていました。いつか誰かにすべてを告白してしまいたい。知らないでしたこととはいえ、背負ってしまった十字架をすぐにでも下ろしたい心持ちでしたから。


二つの月に関しては、おそらく、自分は二人いるという仮面妄想の象徴として、月が無意識に選ばれたのではないかと思います。自分の中には月が二つある。自分には時間が二つあるという妄想があるのではないかと思います。

この街には、「自分がこの世で最強の人物である斉藤藤斉だ」という妄想を抱えた人たちが沢山います。彼らを診察していて分かったのですが、現実を現実として捉えきれていない、危険な人たちです。しかし、心を病んだ痛ましき人々です。セラピストとして、また、「斉藤藤斉さん」を生んでしまった張本人として、どうにかして差し上げたいと思っているのですが。何か方法はありませんか?

俺は一気に話されたコトの真相の重さにおののいた。妄想で殺人が起こるとは知っていたが、まるで予想外の真相だ。

驚いている場合じゃない。趣味とはいえ仕事として、話をまとめあげて記事にしなければ。はやく気持ちを「仕事」に戻さなければ。焦る心の中で「カチカッチ、カチカッチ、カチカッチ」と耳鳴りがした。まさか俺自身も、斉藤藤斉たちを追ううちにこの病にかかっちまったのか!?


しかし、この「真相」にはまだ語られていないことがあり、真実はさらに先にあるということまで思いが至らなかった。そう、なぜ人々が「斉藤藤斉」像を作り上げるほど、インターネットの病にかかってしまったかということである。

俺がその「本当の原因」に思いが至るためには、「斉藤藤斉」によるさらに大きな事件に関わらなくてはならないとは、このときは予想もしていないことだったのだ。

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