「妄想銀行」という看板を見つけたのは、路地裏の角。とてもちいさな看板で、初めて来たのにどこか懐かしい。手動のドアをあけて、店内に入ると、「お預け入れ」と「お引きだし」そして「定期」の三つがあります、と案内板に書いてある。どこか、執事を思わせる老人がひとり窓口に座っている。「どうぞ」「あ、はい」勧められるままにわたしは、かなり古い布製の椅子に座る。


「創作はてな」です。よろしければ、続きを考えてください。

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  • 登録:2006/10/21 21:33:34
  • 終了:2006/10/22 03:58:47

ベストアンサー

id:hanatomi No.3

hanatomi回答回数853ベストアンサー獲得回数362006/10/21 21:46:07

ポイント30pt

なつかしいなぁ。大昔、学生の時に大学の裏手にあったこの銀行の支店に入ったことあったっけ。

老人はまっすぐな姿勢で品良く言った。

「どの妄想を貯金なさいますか?」

私は答えた。


「学生時代の女友達と再開でき、恋愛をするという妄想を・・」

「かしこまりました。」


そう、私は明日結納する。しっかりしていて、それでいて細やかな思いやりのある職場の同僚と、新たなスタートに向けて動き始める。彼女のためにもこれからすっきり、

現実的に生きたいと思う。


僕はふと思い出した。

「あ、それと、「西海岸で豪華新婚旅行」の妄想、引き出しといてもらえますか。ボーナスに向けてやる気出そうと思って。」

id:aoi_ringo

いいですね。

こういうのをイメージしていました。

ありがとうございました。

2006/10/22 03:52:43

その他の回答(5件)

id:daggersherkee No.1

daggersherkee回答回数61ベストアンサー獲得回数22006/10/21 21:43:02

ポイント15pt

銀行とは似ても似つかない室内。

だが丁度はよい。この椅子も古いが掛け心地はよく、かなりの高級なものだろうか。

戸惑っているとその老人は「初めてのご利用ですか?」と尋ねてきた。

まずは口座を開く必要があるらしい。

id:aoi_ringo

静かなおかしさがありました。

ありがとうございました。

2006/10/22 03:50:51
id:kurupira No.2

kurupira回答回数2369ベストアンサー獲得回数102006/10/21 21:45:10

ポイント10pt

「今日はどんなご用件で」

と老人がゆっくりとしゃべった。

「いえ、不思議な看板を見つけたもので」

と私は慌てて答えた。

そう言うと老人はパンフレットらしきものを私にくれた。

「また何か有りましたらお尋ねください」

と老人は言った。

銀行を出た後、早速見てみると銀行の業務内容が書かれていた。

id:aoi_ringo

ありがとうございました。

2006/10/22 03:51:25
id:hanatomi No.3

hanatomi回答回数853ベストアンサー獲得回数362006/10/21 21:46:07ここでベストアンサー

ポイント30pt

なつかしいなぁ。大昔、学生の時に大学の裏手にあったこの銀行の支店に入ったことあったっけ。

老人はまっすぐな姿勢で品良く言った。

「どの妄想を貯金なさいますか?」

私は答えた。


「学生時代の女友達と再開でき、恋愛をするという妄想を・・」

「かしこまりました。」


そう、私は明日結納する。しっかりしていて、それでいて細やかな思いやりのある職場の同僚と、新たなスタートに向けて動き始める。彼女のためにもこれからすっきり、

現実的に生きたいと思う。


僕はふと思い出した。

「あ、それと、「西海岸で豪華新婚旅行」の妄想、引き出しといてもらえますか。ボーナスに向けてやる気出そうと思って。」

id:aoi_ringo

いいですね。

こういうのをイメージしていました。

ありがとうございました。

2006/10/22 03:52:43
id:sun5sun No.4

sun5sun回答回数358ベストアンサー獲得回数72006/10/21 22:11:30

ポイント10pt

私はお引き出しを選んだ。

そう。過去の思い出の引き出し・・・・

若がりしアノころ。

まだ結婚したてだったあのころ。

妻はもう居ない。翌年、病気で亡くなった。

私はタイムスリップし、妻との時間を過ごした。

妄想銀行。

今度は、なにを引き出そうか、毎回楽しみである

id:aoi_ringo

ありがとうございました。

2006/10/22 03:53:29
id:mmmx No.5

mmmx回答回数201ベストアンサー獲得回数142006/10/21 22:51:29

ポイント25pt

「例のものは、ご持参頂けましたね?」

一点を見つめていたせいか、執事風の老人がこちらに向かい話しかけている。

「はい。」

そう言うと安心した面持ちで彼はまっすぐ向き直った。

背筋がぴん、と真っすぐな、イギリスの紳士を思わせる人だ、と思う。


初めてのこととはいえ、事前に万全なる準備をしてきたのだ。

わたしは小さな黒いハンドバッグから—母の形見だ—数枚の紙切れと

銀色に錆び付いてしまったブレスレットを右手で取り出す。

カサ、という音とジャラリ、という音が小さく響き 私はそのままそれを、

お預け入れとして開く口の中にそっと入れた。

察知した機械が静かに口を閉じると同時に、手前のやたら眩しい画面に

「暗証番号を入力して下さい」と表示される。

これだって事前に準備をしておいたのだ 私は迷わず、ゆっくりと番号を押す。


きっとここにこれを預け入れたことも、暗証番号も何もかも、

私がわざわざ言わなくてもあの人にはわかるだろう。

そう思うというよりそう確信できる。


立ち上がり振り返ると紳士な老人は姿勢を正したまま、先ほど確認した体勢とまったくかわっていなかった。

かわっていたのは外の明るさだけのようだ。

これだけの動作なのにどれくらいの時間が経ったというのだろう、

この空間には不思議に時間の経つスピートを調節でもできるのかしら。

不思議だけれど悪くはないわ、 そうおもうと少し、笑顔になった。

id:aoi_ringo

星新一の作品みたいでした。

ありがとうございました。

2006/10/22 03:54:52
id:kennet No.6

kennet回答回数17ベストアンサー獲得回数02006/10/21 23:56:57

ポイント20pt

席に着くなりその老人は唐突に私に質問した。

「お客様はどのようなご融資をお望みでしょうか?」

全て了解している、という口調だった。私は少し逡巡したが、それでも正直に答えることにした。

「私には妻がいます。そして2歳になる娘がいます。そして私はガンに侵されています。もって半年でしょう」

老人は黙っていた。私は続けた。

「妻は美しく、聡明です。私が死んでも、きっとまた素晴らしい伴侶と新しい家庭を築けると思います。それはもちろん娘にとっても素晴らしい家庭という意味でです」

老人はやはり黙っていた。

「勿論私は悔しい。死にたくなんてない。しかし私は死ぬんだ。間違いなく私は近いうちに死ぬんです。妻は勿論知っている。そして混乱している。死に行く私にはできることは少ない。残せる財産なんてほとんどない。ただ、ただ私にできることは妻と娘を精一杯愛することだけです。私は愛していたと、そしてたとえ私が死んでも愛していると、ただそれだけです」

だから。ただ今私が願うのはそれだけだから。

「だからあなたにお願いがあります。融資といえるのかも分かりません。担保なんてありません。ただ僕に残せるのは今ある命の中で妻と娘を精一杯愛することだけです」

それでもいいのなら。

「私の娘。娘もいずれ結婚する日が来るでしょう。たった一日でいいんです。その日の妻と娘の夢を私に融資してくれませんか?」

私の願いに老人は初めて口を開いた。

「何故です?」と。

「愛しているからですよ」

私は何故か少し微笑みながらそう答えた、と思う。

 意識が朦朧とする。視界がぼやける。妻が泣いている。娘が不思議そうな顔で私を観ている。医者がいて、看護婦が急がしそうで・・・。

 心配することはないよ。僕は愛している。いつまでも愛しているよ。きっとまた会える日がくるさ。

あの老人はあの時

「ご融資させていただきます」と確かにそう言ったのだから。

id:aoi_ringo

不思議な世界ですね。

ありがとうございました。

2006/10/22 03:57:09
  • id:TomCat
    ぐはっ。推敲している間に終わってしまいました。戻るボタンで戻って誤字を修正している間に(^-^;
    またコメントで参加させていただきます。残念っ(^-^;
     
    ----------
     
    「さて、どのようなお取引をお申し付けでしょうか」
    老人は静かに言った。
     
    「あ、あの・・・・、とりあえず普通口座でも・・・・」
    しどろもどろで答えると、老人は、ふぉっふぉっふぉっと笑って言った。
    「口座は既にお客様がお持ちのものをお使いいただきます。ここでお取引いたしますのは『時間』なのでございますよ」
     
    「は、はあぁ??」
    私は、すっとんきょうな声を上げてしまった。時間を預ける。時間を引き出す。それがこの銀行の業務なのだと言う。
     
    「たとえばでございます。お客様は1日24時間のお時間をお持ちでございます。当行で定期をお組みになりまして、このうちから毎日10分ずつをお預けいただきますと、いまわのきわにそれを引き出してお使いいただけるわけでございます」
     
    ははあ。1日10分。1年で3650分。時間にして約60時間。10年貯蓄すれば25日分以上か。これだけあれば、やり残したことが十分出来るな。私は頭の中でソロバンを弾いた。ただひとつ、疑問な点がある。利息は? 利率はどうなっているんだ? すると、老人は言った。
     
    「お客様。時間はお金と違って、運用する市場がないのでございますよ」
     
    ・・・・は?
     
    「ですから当行は、お客様のお時間をお預かりするにあたりまして、逆に時間維持料を頂戴するわけでございます」
     
    ・・・・はあぁ?
     
    「いえいえ、ご心配には及びません。時間維持料は、お客様の『妄想』でお支払いいただきますので」
     
    つまり、こういうことである。預け入れるのは、人生の中で一番無駄な「妄想」に費やす時間。すると時間はそっくり定期に積み立てられ、妄想の部分だけ分離されて、この銀行に徴収されるというわけだ。
     
    「人生の最後を飾る貴重な時間に、若き日の妄想などご不要でございましょう?」
    「あ、あは、たしかに時間と一緒に妄想まで返してもらっても、そりゃ困る」
    「その通りでございますとも」
     
    私はこの合理的なシステムについて納得した。特に私は現実主義者を自認しているので、人生の中で最も無駄なのは妄想に費やす時間だということに、大きな共感をおぼえるのだった。
     
    私はすぐさま10年定期を契約し、証書を受け取った。10年経っても「いまわのきわ」とやらがやってこなければ、10年単位で自動継続する。
     
    私は平均余命からすれば、あと50年は生きられる。そうしたら、なんと4ヶ月分くらいの時間が貯まる。これはすごい。預け入れは明日からだ。私は、人生の残りの4ヶ月で何をしようかと、わくわくしながらその日を過ごした。
     
    さて、翌日だ。目覚めて歯を磨いて、テレビを見ながら朝食を食べる。あれ?いつもならお気に入りの女子アナが出てくるのが楽しみで仕方がないのに、なぜか今朝はときめかない。ま、いいか。
     
    電車に乗る。いつもながらの満員電車だ。もみくちゃになりながら、やっといつもの駅でホームに吐き出される。まったく毎日のことながら嫌になる。あれ?いつもなら、同じ車両に乗ってくる可愛い女性のことが気になってきょろきょろしているはずなのに、今日はそんなこと、ころっと忘れてしまっていた。ま、いいか。
     
    会社に着く。デスクに座ってPCをつけると、課のマドンナと呼ばれる女の子が、おはようございますとコーヒーを運んでくれた。こんなサービス満点な課はここだけだ。
     
    「おい、なにボーっとしてるんだ、コーヒーこぼすぞ」
     
    私は突然の同僚の声でハッと我に返った。そして気が付いた。いつもなら私は、このマドンナのにっこりと微笑む可愛い姿に、ああー、あんな子が彼女だったらなあ、と妄想たくましく鼻の下を伸ばしながら、熱いコーヒーをふうふう吹いている所だったのだ。その時間が、すっぽりと欠落している。定期に、預けられてしまったのだ。
     
    それからの私の毎日は、全くの無味乾燥なものになってしまった。1日たった10分の中に、人はどれだけの夢を描き、それを人生の潤いとしていたか。そのことを痛いほど思い知らされることになった。
     
    ガチガチの現実主義者を自認し、夢物語のような空想をバカにしきっていたこの私でさえ、些細な妄想が消え失せただけで、これほどに乾いた毎日になってしまう。夢の、空想の大切さを思い知らされて、それを売り渡してしまった自分に愕然とした。もう今は、人生の終わりに手に出来るはずの、4ヶ月という長い時間の使い道さえ、考えることが出来なくなっていた。
     
    私は「妄想銀行」を探した。路地裏という路地裏を探し回った。しかし、もうあの風変わりな銀行は、どこにも見当たらなかった。
     
    いや・・・・。今さら探し当てたとしても、もう遅すぎるのかもしれない。定期の解約に成功すれば、再び妄想に浸れる自分が蘇る。しかし、その時感じられるはずの喜びすら、もはや想像することができないのだから。
     
    私は今、ただ目の前の仕事を正確にこなすことだけに集中している。こんな無味乾燥な人生に、何の価値があるのだろう。そして、この人生に終わりが来ても、私はさらにあと4ヶ月、生き続けなければならぬのだ。
     
    1日10分の妄想積み立て。ご利用は計画的に。
     
  • id:aoi_ringo
    すみません・・。
    ちょっと早く締め切りすぎました。
    ごめんなさい。
    もう少し、ゆっくりとします。
    でないと、妄想は楽しめませんね。
  • id:TomCat
    こちらこそすみません(^-^;
    私はまず映画のシーンみたいな情景を想像して、それを文章に書き写すみたいな手順で書いていくのがクセなんです。だから、この程度の文章量でも、平気で6時間くらいかかっちゃうんですよ。めちゃくちゃ遅筆なんです(^-^;

    でも、奇しくもこんな時間に同時にアクセスしていたというのも楽しい出来事でした。ライブ感覚で、とっても楽しかったです。またよろしくお願いします(^-^)
  • id:aoi_ringo
    おはようございます。
    今朝はありがとうございました。
    そんなに時間かかるんですね。
    すみません。
    わたしも、そういう方々に耐えうる質問を
    考え続けようとおもっています。
    これからもよろしくお願いします。
  • id:ElekiBrain
    ElekiBrain 2006/10/22 15:56:02
    先ほど、「えみちゃん(http://q.hatena.ne.jp/1161429322)」の話のコメント欄に「妄想銀行は見送ります」と言い切ってしまいましたが、ちょっとTomCatさんの話のサイド・ストーリーを書きたくなってしまい、結果的には書いてしまいました。
    TomCatさんの話のその後です。

    ------------------------------------------------------------------------

     私は、親父が死に際に言っていたことを思い出した。
    「妄想銀行にいってはだめだ。もし見つけても、絶対に預け入れだけはしちゃだめだ」
     親父は病床で、苦しそうに、大粒の涙を流しながらそう語った。私には、親父が病気の痛みで泣いているのではなく、むしろ妄想銀行の事で泣いているような風にすら思えたものだ。それくらい、親父は病に伏せる前から、ことあるごとに妄想銀行の名を口にしていた。親父は4ヶ月間もの間苦しみ抜き、そしてこの世を去った。
     目の前の執事風の男をまじまじと見つめながら、私はここが確かに妄想銀行であることを確認していた。お預け入れ・お引きだし・定期預金の三つの表示が天井からぶら下がり、ライトで照らされている。普通の銀行のライトアップとは違い、まるでショー・ウィンドウのようなライティングだ。僕はおもむろに周囲を見渡した。受付の執事以外に人影はなく、普通の銀行の背後にあるはずのOA機器すら見あたらない。クラシカルな木造のカウンターと白塗りの壁が、まるで上等なホテルのような外観を思わせた。ゴルゴがよく言う“スイス銀行”とやらは、こんな上等な雰囲気なのだろうか。そんな事を考え手いると、静かに佇んでいた執事風の受付が、突然口を開いた。
    「お客様。当行では妄想はお慎みください。全てお預け入れとして管理させていただいているためです」
     僕は面食らった。ゴルゴのことだろう。それにしても、なんで私の考えていることが分かったのだろうか。何か仕掛けでも? それとも単なる偶然? よくは分からなかったが、私はきょとんとしたまま受付を見つめた。すると、しばらくして執事は再び口を開いた。
    「お客様、お預け入れとお引きだし、どちらになさいますか? 定期もございますが」
     さすがにその手には乗らなかった。預け入れは親父に再三注意されていたことだ。私は手に持っていた親父の預金通帳を取り出すと、
    「引き出しで」
     と言った。そういえばここはATMがない。ATMがあれば、もっと便利なんだが。私の脳裏に赤いATMがありありと浮かんできた。ついでにこんな機能もあればいいのになどと追加の想像を入れていると、作業をしていた執事がその手を止めた。
    「ですから、あれほど妄想はおよしなさいと言っているのです」
     私はまたもフイをつかれ、妄想はかき消えた。なんてやりづらい銀行なのか。レシートをもらって待っている人は週刊誌か新聞を読むか、無心でそこら辺をうろうろしなければならないのか。まあ、そもそもこの銀行には週刊誌も、待つ際に配られるレシートの配信機も見あたらないのだが。しばらく行内の様子を出来るだけ妄想せずに見渡していると、執事が作業を終えたらしく、じゃらじゃらとチェーンで巻かれたやたら大きな金属製の箱を持ってきた。IT化が進んでいないのも甚だしい。未だに現物管理なのか。いつの開拓時代だ。しかし、それよりも驚いたのは、執事が軽々と、苦もなくその箱を運んできた事だった。私は執事の体型を確認したが、どう考えてもやせ細っていて、そんな力があるとは思えない。執事はひょいとその箱を持ち上げると、カウンターの上に置き、手慣れた手つきでチェーンを外し始めた。やがてチェーンが外し終わると、厳重にかけられた10cmはあろうかという巨大な南京錠に漫画みたいな馬鹿でかい鍵を差し込み、ひねった。ガチャリという音と共に南京錠は外れ、執事は
    「どうぞ」
     と言ったまま椅子に腰掛けた。巨大な箱が邪魔になって、小柄な執事は座ったとたんに見えなくなった。
     私は箱に手をかけると、ゆっくりと開いてゆく。最初、ピンク色のものが見えた。それはふわっと空中に浮かび、やがて私の胸元辺りに入ってゆく。


     満員電車電車の中に私は座っていた。車両のデザインが少し古い感じがした。釣り広告もなんだかセンスが古い。それに、今TVに出ている俳優が広告に載っているが、ずいぶんと若い頃の写真を使っているようだった。ああ、そうだ、私は通勤途中だった。ふと見ると、若い女性が目に飛び込んでくる。とても綺麗で、彼女の回りだけ輝いているように見える。私はちらちらと彼女の方を見ながら、出来るだけ気づかれないようにした。しかし、それもつかの間だった。彼女がこちらの視線に気づくと、すし詰めの満員電車の中を窮屈そうにしながらこちらへ向かい、きつい口調でこう言い放った。
    「毎日毎日、じろじろ見ないでください! この変態!!」
     私は驚いて、うろたえた。それと同時に広がる恍惚感。え? 恍惚感? なんだこりゃ。訳が分からない。彼女は私がにやけているのにさらに激怒したのか、私にビンタを張った。私は天にも昇る思いで――。


     銀行の風景が辺りに広がった。「最初の妄想はいかがでしたかな」執事が語りかけているのに気がついた。私は、すぐに、今見た映像と感覚それそのものが預け入れた妄想であることを察知した。そして、ある重大な事実に気がつくまでそうはかからなかった。
    「親父はドMだったのか」
     愕然となった。まさか、バリバリと仕事をこなし、家庭でも社会でも一目置かれる親父がそんな人物だったなんて。私の落胆をよそに、執事はてきぱきと第二、第三の箱をカウンターにどかどかと乗っけてゆき、次々とチェーンと南京錠を外す。
    「どうぞ」
     私はおそるおそる次の箱を開けた。


     「おはようございまーす」信じられないくらい愛らしい女の子が私のデスクにコーヒーを運んでくれる。私は、
    「いや、悪いね」
     と爽やかに言った。おっと、そろそろ休み時間だ。私は給湯室に向かうと、鏡を見つめた。誰だ。見たこともないような美男子が鏡に映っている。私が手を挙げるとそいつも同じように手を挙げる。私が首をかしげるとそいつも首をかしげる。どうやら私のようだった。私は給湯室でしばらく鏡に見とれていると、背後から声をかけられた。声の主はコーヒーを運んできたあの娘だった。
    「あの、社長さん。ご一緒にお食事しませんか?」
     顔を赤らめて恥ずかしそうにその娘は言う。社長? いや、親父は社長だったのか? いや、ああ、そうか。それが妄想の妄想たるゆえんか。私はその娘の申し出を受け入れると、その娘は嬉しそうに手に持った弁当を広げ始めた。
    「社長さんの事を思って、一生懸命作りました。どうぞ」
     背景がピンク色になってどこからともなくメロウな曲が流れる。なんだこれ。
     私はさすがにあきれるしかなかった。しかし、ここは親父の妄想内部。私は親父妄想の心地よい感情に押され、そのままその社員と甘いひとときを過ごす。
    「ハイ、社長さん。アーン」
     だし巻きを彼女が私の口へと運ぶ。
    「私、社長さんだったら食べられてもいいカナ」
     ばかばかしい茶番劇に私の本来の感情が気づき始めると、妄想の世界は次第にかき消えていった。


     「いかがですかな」執事はすでに一つめの箱を片付けて座っていた。すでに私はあほらしくなっていたが、まだ残っている箱をいくつか片付ける事にした。どれも相当陳腐な内容が目立った。中でも、大型のロールスロイスに乗り回し、ベガスにあるカジノの大オーナーになって、美女をはべらかして豪遊する、ベタ展開の妄想は失笑する他なかった。私の決意は固まりつつあった。
    「すみません。定期預金は出来ますか」


     それから60年後。私は病床で息子にこんな事を涙ながらに口走っていた。
    「絶対に、絶対に妄想銀行へはいってはだめだ。あそこだけは、あそこだけは……」
     その後、息子は妄想銀行へいってしまうのだろう。止めても無駄なのかも知れない。
     私は自分の預金の事を思い出して、悔しいやら、恥ずかしいやら、しかし、どうすることもできないまま、私は人生を思いかえした。今までの想いがまるで8ミリフィルムのように蘇ってくる。数々の思い出を振り返る中で、私は息子に自分の妄想を見られる事を半ば覚悟し始めていた。そして、息子の未来に想いを馳せる。いや馳せようとした。しかし、それは全て預金になってしまうようだった。そうか、そうだよな。私はせめて、この妄想が入ったの箱を息子が見てくれることを願い、何度も息子の未来を思い描こうとした。
     やがて、おまえがその銀行のその箱を開ける時、おまえはどう思うのか。私は楽しみにしているよ。
     そして、私は静かに旅立った。




    おわり
  • id:aoi_ringo
    ありがとうございました。
    笑いのポイントはすごいと思います。
    ありがとうございました。

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