クリスマス企画の第7日目です。
ルール等、詳しくは http://q.hatena.ne.jp/1197051779 を参照ください。
企画に応募された9名は、全員、参加者Aとして参加いただけます。
また応募しなかった方々も参加者Bとしてなら、だれでも、いつでも参加できます。
参加者Aには、ビンゴカードを1枚ずつWeb上に配りました。
http://www.nurs.or.jp/~lionfan/kikaku_2007_christmas/index.html
今回のキーワードは「おせち料理」です。
それでは「キーワード+あなたの好きな言葉1つ」で
短い小説をつくり、この質問に答える形で応募してください。
締め切りは12/26(水) 23:59までです。
キーワードを明示することも忘れずに。
あと簡単に言及できるよう、小説にタイトルも付けてください。
いいクリスマスでしたか?
「年の暮れ」 キーワード:おせち料理、携帯電話
「えー、これで2万円もするの。」
「こっちは、1万円だけど、海老がないのよね。」
おせち料理の見本を見ながら相談している夫婦の声が聞こえてきた。デパートのおせち予約コーナーの脇を抜けながら、私は考えていた。今年はこのできあいのおせちを買わないといけないのかな、と。
病院のロビーを抜け、6階へ上がる。ナースステーションに一声かけて、病室へ向かう。「山根秀子」と書かれた扉を開ける。
ベッドには、祖母がすやすやと眠っていた。左手と両足に巻いた包帯が痛々しい。花を入れ替え、窓際を整理する。ベッド際のテーブルに、和菓子がおいてあった。
1階のロビーで、携帯電話を取り出す。『おとうと』を押す。
「ほい。」
「来てくれたんだ、お見舞い。」
「まあな。出張のついでだけど。」
「忙しい?」
「ああ。で、どうなの?」
「手の骨折以外は打撲だから。でも寝込むと後が大変だって。」
「そうだよなぁ。で、正月は?」
「まだわからない。」
「じゃあ、あの黒豆と煮しめにはありつけないのか。」
「そうね、あれはおばあちゃんじゃないとね。」
「うちのが残念がるなぁ。とにかく、正月には行くから。」
「うん、わかった。」
病室に戻りながら私は思い出していた。毎年、祖母の陣頭指揮の下で正月準備をしていたこと。食材の買出し、大掃除、正月飾り、おせち料理作り、年越しそば・・・。そばも今年は出前ね。
祖母は、起きていた。
「由美ちゃん。これ。」
祖母の手には、紙が握られていた。
「なあに。これ。」
受け取って、広げてみると、
<黒豆>
という文字が。
「おばあちゃん、これ。」
「作り方だよ。おせちのね。節子さんは料理ができないから、由美ちゃんに作ってもらおうと思って。」
「え、作ったこと無いよ、私。」
「毎年手伝ってくれただろ。見ていたからわかるよ。それに、黒豆と煮しめときんとんとごまめとそばだけにしといたから。」
それだけあれば十分だって。
「決まりごとだから、少しでも作って、ついたちには食べないとね。」
「う、うん。」
あんまり、料理には母譲りで自信が無い。でも、祖母の勢いに負けてしまった。
「来年の正月は、私はここにいるんでしょ。代わりは任せたわよ。」
なんだか声が震えてる気がする。
<おばあちゃん>のいないお正月なんて、ちょっと想像もつかない。祖母もさびしいし、悲しいのだ。
私ががんばらないと、いけないな。
「やってみる。ありがと。」
レシピを見ながら病室を出ようとすると、看護婦さんにぶつかりそうになった。
「山根さん?」
「はい。」
「先生の許可が出たわよ。お正月、安静にしていられるなら、帰ってもいいって。」
「ホントですか。」
祖母の元へ取って返す。
「おばあちゃん、お正月、うちにいられるって。」
「あら、そう。」
「おせち、がんばって作るわ。今日から。」
「え、まだ早いわよ。」
「絶対失敗するから。もってくるから教えて。お正月、おばあちゃんが食べられるものにしないとね。」
「はいはい。じゃあ、がんばって。待ってるわ。」
紙を見ながら、エレベータに乗ろうとしたら、後ろから声がかかった。
「おせち、がんばってくださいね。」
「は、はい。ありがとうございます。」
「おいしいおせち、お待ちしております。」
看護婦さんのウィンクが、エレベータの扉の隙間から見えた。
=======
急に年末になっちゃいましたね。25日過ぎると、クリスマスの文字も消えてしまいます。
回顧(おせち料理/お米)
もう何年になるだろう。
自分の家でつくったおせち料理を食べなくなってから。
花板をはじめ、みんながつくってくれたものに不満などあろうはずもない。
あれだけ念入りに仕込みをしてくれた料理だから、味に不満もない。
ただ懐かしい。
母がつくってくれた黒豆を、こんなにも懐かしむとは思わなかった。
何度も何度も口にしていた。
「まめに働きますように、まめに暮らせますように」
今の私があるのも、父と母の想いがあるからなのだろう。
年の瀬を迎えた時、無事掛け取りを終えることができたのも。
晴れた空のもと、ご来光を見ることができたのも。
今年一年間が今まで通り、平穏に過ごせますように。
さぁ、ご注文をいただいた御節を届けにいくとしようか。
よね、お米。これからわたしはお得意様にごあいさつをしてくるから、お留守番を頼みますよ。
taisin0212様、しっとりした和風の小説、ありがとうございます。
「年の暮れ」 キーワード:おせち料理、携帯電話
「えー、これで2万円もするの。」
「こっちは、1万円だけど、海老がないのよね。」
おせち料理の見本を見ながら相談している夫婦の声が聞こえてきた。デパートのおせち予約コーナーの脇を抜けながら、私は考えていた。今年はこのできあいのおせちを買わないといけないのかな、と。
病院のロビーを抜け、6階へ上がる。ナースステーションに一声かけて、病室へ向かう。「山根秀子」と書かれた扉を開ける。
ベッドには、祖母がすやすやと眠っていた。左手と両足に巻いた包帯が痛々しい。花を入れ替え、窓際を整理する。ベッド際のテーブルに、和菓子がおいてあった。
1階のロビーで、携帯電話を取り出す。『おとうと』を押す。
「ほい。」
「来てくれたんだ、お見舞い。」
「まあな。出張のついでだけど。」
「忙しい?」
「ああ。で、どうなの?」
「手の骨折以外は打撲だから。でも寝込むと後が大変だって。」
「そうだよなぁ。で、正月は?」
「まだわからない。」
「じゃあ、あの黒豆と煮しめにはありつけないのか。」
「そうね、あれはおばあちゃんじゃないとね。」
「うちのが残念がるなぁ。とにかく、正月には行くから。」
「うん、わかった。」
病室に戻りながら私は思い出していた。毎年、祖母の陣頭指揮の下で正月準備をしていたこと。食材の買出し、大掃除、正月飾り、おせち料理作り、年越しそば・・・。そばも今年は出前ね。
祖母は、起きていた。
「由美ちゃん。これ。」
祖母の手には、紙が握られていた。
「なあに。これ。」
受け取って、広げてみると、
<黒豆>
という文字が。
「おばあちゃん、これ。」
「作り方だよ。おせちのね。節子さんは料理ができないから、由美ちゃんに作ってもらおうと思って。」
「え、作ったこと無いよ、私。」
「毎年手伝ってくれただろ。見ていたからわかるよ。それに、黒豆と煮しめときんとんとごまめとそばだけにしといたから。」
それだけあれば十分だって。
「決まりごとだから、少しでも作って、ついたちには食べないとね。」
「う、うん。」
あんまり、料理には母譲りで自信が無い。でも、祖母の勢いに負けてしまった。
「来年の正月は、私はここにいるんでしょ。代わりは任せたわよ。」
なんだか声が震えてる気がする。
<おばあちゃん>のいないお正月なんて、ちょっと想像もつかない。祖母もさびしいし、悲しいのだ。
私ががんばらないと、いけないな。
「やってみる。ありがと。」
レシピを見ながら病室を出ようとすると、看護婦さんにぶつかりそうになった。
「山根さん?」
「はい。」
「先生の許可が出たわよ。お正月、安静にしていられるなら、帰ってもいいって。」
「ホントですか。」
祖母の元へ取って返す。
「おばあちゃん、お正月、うちにいられるって。」
「あら、そう。」
「おせち、がんばって作るわ。今日から。」
「え、まだ早いわよ。」
「絶対失敗するから。もってくるから教えて。お正月、おばあちゃんが食べられるものにしないとね。」
「はいはい。じゃあ、がんばって。待ってるわ。」
紙を見ながら、エレベータに乗ろうとしたら、後ろから声がかかった。
「おせち、がんばってくださいね。」
「は、はい。ありがとうございます。」
「おいしいおせち、お待ちしております。」
看護婦さんのウィンクが、エレベータの扉の隙間から見えた。
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急に年末になっちゃいましたね。25日過ぎると、クリスマスの文字も消えてしまいます。
taisin0212様、これもいいですね。
主人公の気持ちがすごくよく伝わります。
タイトル:会議(キーワード:おせち料理/新曲)
今日は新曲の打ち合わせ。
「おはよーございます」
レコード会社の会議室に入ると、すでにプロデューサーの姿があった。
「おはよぉ。今日は新曲の会議だけど、いい案浮かんだ?」
「はい!」
私は元気よく答えた。
いい案が浮かんだ。といっても、漠然としたものだったり、昨日思いついたものだったりするけれど。
会議は予定通りに始まった。
「さて、今回の新曲は1月くらいに出そうと思うんだけど……」
「何か、案がある?」
「私、今まで『冬』の歌ってないんですよ。だから、冬の歌を歌いたいなぁって思ってます」
「ほぉ。冬の歌、ねぇ」
「具体的な歌詞とかは思いついてる?」
「実は……そこまで考えてないんです」
冬の歌を歌いたい、とだけしか考えてなかった私。
さすがに、お偉い方々はもとより、プロデューサーまで呆れてしまうだろう。と思った。
しかし……
「じゃあ、今から考えよう」
そう言ったのは、紛れもないプロデューサーだった。
「えっ!?」
私は思わず驚きの声を上げてしまった。
お偉い方々も「おいおい……」と呟いたり、あっけにとられた表情をしていた。
「だって、そのための会議でしょ?」
プロデューサーは、当たり前のように言った。
確かに、何かを打ち合わせるのが会議なのだから、この考えは正しいのかもしれないけど……。
「例えば、冬の歌でしょ? そうだねぇ。冬といえば、雪とかヴァレンタインとか……」
周りの空気が感じられないのか、それとも感じてないフリをしているのか。
何かを考え出すプロデューサー。
このプロデューサーは、本当にマイペースだ。
毎回毎回、突拍子もない提案をして、その提案を半ば強引に通してしまう人。
それがプロデューサーなのだ。
私は、そんなプロデューサーがちょっぴり好きだったりする。
「そういえば、冬って正月でもあるよね」
「えっ、あ、はい」
突拍子もなく、私に話し掛けてきた。
会議なのだから、当然なのかもしれないけれど。
「よし。決まった!」
プロデューサーは何か思いついたようだ。
今回は、どんな妙案が出てくるんだろうか。
私は期待と不安で、胸がいっぱいになった。
きっと、いい意味で裏切ってくれるだろう。私はそう信じていた。
そして、プロデューサーは告げた。
「次の新曲は、『おせち料理』に関する歌にしよう!」
その場にいたプロデューサー以外の誰かが、何か言葉を発することが出来たのは。
この発言の40秒後のことだった。
====
あああああ。
本当は『ライオン』という単語を使いたかったのにー。
次こそは。次こそは必ず!!
あればの話ですが(^-^;
kumaimizuki様、ああ、これはぜひ続きを読んでみたいよ!!
キーワード:おせち料理 + 紙袋
タイトル:おばあちゃんのおせち
祖母が病気で倒れたのは、夏の盛りの頃だった。
なんとか一命をとりとめて秋の終わりには退院したけれど、右側の半身に少し麻痺が残ってしまった。
そして今は冬。
あれだけはしゃいだクリスマスもとっくの昔になって、今日は大晦日だ。
私は紙袋が傾かないよう、慎重に歩いていた。中には、某有名デパートのおせち料理詰め合わせ(重箱は別売り)が入っている。
我が家は毎年、年越しを祖母の家で過ごしていた。そして、元旦の朝には祖母の作ったおせちを食べた。
だけど、退院以来祖母は私たちの家で過ごしていたし、もう祖母特製のおせちは食べられないだろう。私は祖母が味付けた筑前煮が特に大好きだったのに・・・。そのさみしさを振り払うように、私はいつもならチラシを眺めて終わるだけだったデパートのおせちをこっそり予約しておいたのだ。
「ワン!ワンワンッ!」
玄関に入ると、飼い犬のポチが吠え立てた。私にはちっとも懐かない犬なのだ。きっと、私と子分だと思っているに違いない。
「うるさいっ」
私はポチにジャブを繰り出す仕草で答え、家に入った。
「おばーちゃーん!見てみて、お・・・」
紙袋を捧げ持つようにして、祖母がいるはずの和室に飛び込んだ。無人だった。
「あれ?」
首をかしげる。すると、鼻先に、どこか懐かしい、しょう油の匂いがした。何かを煮込んでいる匂いだ。
私は台所へ向かった。
するとそこには、不自由な右手をかばうようにして、慎重に立ち動く祖母の姿があった。退院以来、初めて見る光景だった。
「・・・おばーちゃん?」
「おや、お帰りなさい、今ねぇ、筑前煮を作ってるから」
「煮物・・・って、おせち用の!?」
「そうよ、あなたもお父さんも、私の筑前煮がないと、年があけないでしょうからね。他のものはさすがに作れなかったけど、これだけは私が作らないとねぇ・・・」
「大丈夫?手伝うよ」
「あら、ありがとう」
「エプロン、取ってくる」
私は紙袋を背中に回し、祖母の目に入らないようにして台所から出た。
「ワン!ワンワンワン!」
「・・・ポチ・・・」
私は紙袋の中から、プラスチックのパッケージに包装されたおせちを取り出した。
乱暴に封を切って、ポチのエサいれに盛り付けた。黒々としたキャビアがポロリとこぼれたけれど、勿体なくなんかなかった。
「せっかくおばあちゃんがいるんだから、他のおせちだって、作り方、私が習えばいいんだわ。新年までまだあと半日あるっ!」
私は紙袋を丸めてゴミ箱に放り投げると、エプロンをつけながら台所に向かった。
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クリスマスが終わっちゃって、しかもキーワードがおせちだと、一気に年末・お正月って感じですね~。
hosigaokakirari様、ありがとうございます。
そのとおり、もう急速に正月モードです。
taisin0212様、これもいいですね。
主人公の気持ちがすごくよく伝わります。