『飛翔賞』開催のお知らせ


 落ちる(http://q.hatena.ne.jp/1231366704)からには飛ばねばなるまい!
 劇中で「空を舞うシーン」の出てくるオリジナルの小説・漫画など創作物を募集します。
 

 と謳っていますが、「そんなことよりオレの歌を聴けえ!」と全く違うことをやっていただいてもかまいません。
 「空を舞う」ことに反逆して、地を這ってもいいですし、某アニメ巨匠を茶化しても結構です。回答者の裁量にお任せします。

 要は、なんであれ回答者が「おもしろい」と思う創作物を提示していただき、その結果わたくし、id:y2k000がおもしろいことです。

「空を舞うこと」を踏み台にして、まったくの自由に、創作の大空を羽ばたいてください。(これが言いたかったんや!

字数制限:200文字以上10000文字以内。
締め切り:18日12:00で募集を終了します。
質問者が最もおもしろがった作品には500p差し上げます。 

回答の条件
  • 1人3回まで
  • 登録:2009/01/14 01:00:56
  • 終了:2009/01/21 01:05:02

回答(27件)

id:some1 No.1

some1回答回数842ベストアンサー獲得回数372009/01/14 05:04:46

ポイント12pt

その男は高度31,330 mから時速988kmで空を移動した。


乗り物には乗ってはいない。その意味では生身だ。

天使ではないことは確かだ。翼がない。

翼も無いのだが、彼にはエンジンなど動力がついたものは何ら身につけられていない。

かといって、弾よりも早く機関車よりも強い超人でもなければ、

魔法、超能力の類を持ち合わせもしない。


しかも、その男、ジョゼフ・キッテンジャーは現実に存在するッツ!


「プロジェクト・エクセルシオ」


スカイダイビングの開始最高高度と最高速度は1960年8月16日に打ち立てられ、いまだこれを凌ぐものはない。


--

実は高速で「落下」してるって事だったりもしますが、

早いのだけがとりえの自分。こちらも参加させていただきます。

id:Mathusala No.3

サディア・ラボン回答回数259ベストアンサー獲得回数42009/01/14 07:46:14

ポイント12pt

少女はグライダーを作ると、


飛鳥不濁其跡

非飛行機雲

安能以濁其跡飛乎

立鳥不濁其跡


というマーキングをして飛び立った。

その時四羽のカラスが横に並んで飛びながら、

一羽ずつ順番に、

「飛ぶー」「飛ぶー」「飛ぶー」「落っこちるぞー、きっとな」

と言って、飛び去った。

すると突風が吹いて墜落した。

id:fumie15 No.4

fumie15回答回数377ベストアンサー獲得回数72009/01/14 11:40:34

ポイント12pt

落ちる

地球を飛び込み台にして 僕らは落ちていく

ものすごいスピードで 僕らは宇宙空間を落ちていく

そこには上も下もなく 右も左もなく

ただ空間をゆっくりと 落ちていく

僕らは地球での全てを 失って

僕らが僕らであるということも 忘れて

僕らは永遠に 宇宙空間を落ちていく

どこまでも どこまでも

いつまでも いつまでも

そのうち地球も 星屑の彼方に見えなくてなって

誰にも止めることが できなくて

誰にも気付かれなくて 時間すらもなくて

目的地もなく 僕らは落ちていく

僕らは肉体も知覚も なくて

ただの自由な 意識の塊として

僕らは宇宙空間の底を 目指して落ちていく

ゆっくりと 光のスピードで

あの流れ星と反対側に 僕らは落ちていく


そのうちきっと宇宙の果てが 見えるはずだから

そのときまで 僕らは落ちていく

どこまでも どこまでも

いつまでも いつまでも

id:nats-umi No.5

悪魔猫回答回数2ベストアンサー獲得回数02009/01/14 17:04:07

ポイント12pt

 シーソーの端に立ち、私はゆっくりと深呼吸をした。汗ばむ手の平を指先で擦り、キッと前を向く。

「準備おっけ?」

「大丈夫?」

「ほんとにいいの?」

 シーソーに横付けした跳び箱の上に立つ友人達が口々に聞き、

「おうっ!いつでも来いやぁ!!」

 腹底から返事をして、私は目標である空を見上げる。

「行っくよぉ……せぇの」

 緊張が静寂となり私を包む。僅かに膝を曲げ、その衝撃に備え――

 合計163kgの質量を受け、私は空に撃ち出された!

 左右の腕を真っ直ぐに伸ばし、私は優雅に冬の空を飛ぶ……はずだったのに、何故か腰から先に飛び出し、頭は完全に地面を向いていた。

「へ?」

 眼下に見える友人達が呆然と空を見上げている。そして、真っ青な空が私の目に飛び込んでくる。

 横を見ると、校舎が静かに起き上がり、また倒れて行くのが見えた。

 でも、あれ?……何で真横に三階の教室が見えるの?

 ふわり、と時間が止まり、風を孕んだスカートの裾が広がる……と、スローモーションだった世界が一気に加速した!

「え?あ……き、きゃぁぁぁあああああっ!!」

 悲鳴を上げると同時に堅く目を閉じ、必死に手足を丸める。

 真っ暗闇の中で私は落ちて行き――背中から地面に落ちると、そのままゴロゴロと転がって行った。

 全身に走る痛みと呼吸困難に私はのた打ち回る。いや、回りたいけど、身体が思うように動かず、痛みから逃れるように仰け反るのが限界だった。

 私は全身を苛む痛みと戦い、薄れていく意識を必死に繋ぎ止める。

 靴は片方脱げ、スカートは半分ずり落ち、制服は土まみれで、髪はグシャグシャ。おでこが痛いのは、きっと擦り傷になっている。

 でも、僅か数秒だけど、私は間違いなく空を飛んでいた。

 脱げた靴を拾って駆け寄る友人達に、私は涙を流しながらVサインを出してみせる。そして、そのまま大の字にグランドに転がった。

「へへへ。やったぜ」

 今日、私は自分の夢を一つ叶えたんだ。

 涙で滲んだ空は、どこまもで遠く青かった。

id:noraneko No.6

のらねこ回答回数3ベストアンサー獲得回数02009/01/14 19:31:33

ポイント12pt

 どうした加減か年が明けてからこのかた、少女たちが重力から解き放たれてしまった。そのため、特に登校時の通学路などの混雑する場所では、少女たちは競って空を飛ぶようになっていた。

 ことにうちの学校の場合、正門までかなり距離があり、加えて道幅の狭い一本道でもあり、予鈴がなる直前ともなると、遅刻寸前の制服姿の女生徒たちがわらわらと空中を乱舞する有様となっている。スカートの中にジャージや短パン、スパッツなどを着用している生徒もそれなりにるが、空中を飛翔できるようになってからこっち、かえって故意に下着を見せる、ということを意識している生徒も珍しくはなかった。

「なあ」

 孝が、スカートを翻して登校していく女生徒たちを見上げてから、わたしに話しかける。

「栞は飛ばないの?」

「まだ時間あるし」

 わたしは、素っ気ない口調を取り繕って、短く答えた。

 あんたに下着を見られたくない、などと、正直に答えられるわけがない。というか、新でも素直にいってやらない。

id:gothicblue No.8

gothicblue回答回数5ベストアンサー獲得回数02009/01/15 00:06:19

ポイント12pt

引きは短く、右足で渾身の蹴りこみ。

小さいテイクバックからフォロースルーは最後まで。

反動を利用しての最大打力。無様なまでのアッパースイング。


誤差+-0.1mm。

打ち損じることなく、鈍い感触と共に、女のバットは男の棒球を粉砕した。


落ちることなく、重力を振り切り上昇していく様はそう、まさに飛翔と呼ぶに相応しい。


   *   *   *


天高く飛び立つ男を見て、何の感慨もなかった。


彼女とて、はじめからこうではなかった。

どのような女でも、少女と呼ばれた時代はあったのだ。

ただ、ほんの少し、イチロ●ーが走塁で転ぶ程度の事故があっただけなのだ。


   *   *   *


彼女には幼馴染がいた。

熱く優しい男であり、紛れもなく彼女の王子だった。

当然のようなすったもんだの騒動(離れたりくっ付いたり)を繰り返し、付き合うようになったのは周囲よりも大分遅かった。


事故が起こったのは、それから半年も経たなかった。


彼女は彼がオタクだったことを知っていたし、ガンダムまでは容認した。

エロゲをしていたことにはドン引きしたが、それもしょうがないとは思ってはいた。


だが、いざ事始めとなった時に

「体はチ●コでできている」

と言った時に、全ては終わった。


「触手かよ!」と突っ込めばよかったのか、とは何度も思う。

その度に詮無きことだと嘆息する。

今更どうあっても事実は変わらない。彼女の華々しい通算記録の第1号は紛れも無く彼なのだ。


   *   *   *


もはや条件反射の領域だった。呼吸するように数字を重ねていく。

オタク的な発言を耳にすると、たとえそれに対する知識がなくとも彼女のバットは狙いあたわず火を吹くのだ。

その数、生涯において実に666人。

単体でのオタクの飛ばし屋記録に上はいたが、その精密な打撃は伝説級ともっぱらの話だった。


その生涯も、終わった。

芸人が無神経に語ったオタク文化に魂を揺さぶられた彼女は収録現場に殴りこむ。負傷。致命傷を負いながらも、動かない左腕を捨て右腕のみで放った最後の打撃は、彼女がただの精密機械でなかったことを示した。


   *   *   *


瞼をあけると懐かしい男の顔があった。


「ごめん・・・」


ようやくバットを手放せた彼女はようやく素直になれる。

宿命に身を焼く前の純真無垢だったあのころに。


「大丈夫、僕は知ってる」


自分を圏外まで吹っ飛ばした彼女に男は微笑んで許す。

どうすればそこまで優しくなれたのか。

ただ信頼の柔らかさがあった。


「男くん」

「そう、君は優しい人だ。ただ恥じらいが人一倍強かっただけ。僕は知ってる」

「男くぅん・・・!」

「だって・・・!」


「オタクに悪人はいないから」


   *   *   *


湧き上がる憎悪を自覚する。

怨嗟の、鬱屈した己の欲望を理解しながら、救わなかったこの男。

「許す」?何故。何故お前が許す側なのか。


手に再び金色が宿る。

それが彼女の魂の叫び。

棒球を砕くのではない。突き立てることこそが、彼女の望み。


濁った眼差しに、再び腐った想いが宿る。


死してなお、腐女子の魂死なず。

ならばそれは二度目の生だ。


   *   *   *


蒼天には、白銀の天使。

デブがいた。ガリがいた。無芸人がいた。

見た目普通リア充の似非がいた。百合好きの人もいた。

余さずオタクだった


だがそれらはオタクなのだ。憎悪すべき醜悪なる邪悪なのだ。


白き翼を生やし天を舞うオタクを前に、ただ一人、地を這う腐女子は高らかにバットを掲げる。



――良いだろう。孤高のダービーの再演だ。


高らかに、まずは再び始まりの男を打ち上げた。

id:thistleyew No.9

thistleyew回答回数6ベストアンサー獲得回数02009/01/15 00:12:42

ポイント12pt

しっぽが落ちているのかと思って、ぼくは

目を疑った。凶悪な小事件かと思ったほどだ。

しかし何故かどうしても目を背けることはできなくて、

かがんで見てしまった。そのしっぽと見紛うそれは輪になっていた。

生きた動物の切れたしっぽではないことだけはわかって

胸をなでおろしたところに、

彼女は降ってきた。まさに降臨した。 

 


「ごめんなさい。それ、あたしの」

ぼくは拾おうと思ったわけではなかったのに…、そう思いながらゆっくり見上げた。

空はまぶしすぎた。それだけではなかった。

見たこともないような何もかも存在自体うすい女の子が目の前で手をさしのべていた。

もとい、その、普通の人間がつかう髪留めを彼女、

正確に言えば、彼女に見える彼女はそれを取りに来たのだろう。

ぼくは、そっと、しっぽを拾って彼女に渡す。

彼女の手は半ば透けている。

「ありがとう」

無機質な声で彼女はぼくに言う。

不思議な、なないろの帽子をかむっていて、よく見えない。

全身は白いコートで覆われている。ブーツは銀色。

何も言わせぬ硬質な雰囲気に、ぼくは黙ってしっぽを手放した。

あれはもしかしたら本当に彼女のものだったのだろうか。 

 

もう一度あえたら、おしえてほしい。

 

 

平凡な女の子には羽根はない しっぽもないし触覚もない(thistle)

id:totsuan No.10

totsuan回答回数331ベストアンサー獲得回数582009/01/15 13:44:54

ポイント12pt

「ねぇ、”空を舞う”ってどんな感じだと思う?」

茜との会話はこんな一言から始まった。当時初対面だったにもかかわらず、こんなきっかけでいいのだろうか?逆ナンパにしてはちょっとラノベチックといえるし、少なくとも意中の相手への告白と受け取るのには無理がある。強いて言うならば・・・問答?いや、哲学か?

「な、何だよ、急に?」

当然、僕の会話は軽いツッコミから始まった。まず自分が空を飛べるわけでもないからどんな感じなのかも知らないわけで。まぁ、当然彼女だって恐らく”まともな女の子”だろうから、僕が飛べない事位は知っているだろう。そう願いたいものだ。

「うーんとそうだなぁ、羽根が生えた感じでピューンって・・・」

「それって”風を切る”とか普通に”飛ぶ”って感じじゃない?それに、”空を舞う”のに羽根があると返って邪魔な感じがするのよねぇ・・・」

「んじゃ、ロケットエンジンとかプロペラとか付けるか?」

「速すぎるわよ。むしろ”ぶっ飛んでく!”って感じね。大体、空を舞う生き物っているのかしら?」

「うーん、鳥類一般はそうじゃないの?カモメとか大鷲とか?」

「それって”滑空する”ってイメージだねぇ、私の場合。」

「じゃあ、実在しないけど、天使とかはどう?」

すると、伏目がちだった彼女の目がこっちを向いて一段と大きくなった。危ない危ない。もう少しで吸い込まれそうななったぞ・・・

「そうねぇ、雰囲気的にはかなり近いわね。ゆっくり空中に漂ってて、それでいて自在に動けるみたいだし。でも、なんか惜しいなぁ、あともうちょっと!って感じなんだけど、っていうか、天使の羽根って、何か無駄に付いている気がしない?」

「またそこかい、どれだけ粘るんだよ・・・」

その後もいくつかお互いに候補を出してみたが、なかなか理想形には到達できなかったようだ。

「んむむ・・・あぁ、今日はもうおしまい!ねぇ、明日までにちゃんと考えてきてよ?せっかくいいとこまで近づいてきてるんだからさ?」

「え?!明日も来るの、・・・ってここに?」

「あったりまえでしょ?!」

「・・・はいはい。」

その日が梅雨時の切れ間で見せた突き抜けるような青空だったからなのか、たまたま退屈そうにぼんやりしていた僕をからかいたかっただけなのかはわからないが、よくわからないやり取りはその後も何回か続いた。その度毎に僕はこれはという候補を挙げてみるのだが、彼女にはやっぱり今一つといった感じだった。こんな僕と一緒に話をするのがそんなに楽しいとは我ながら思えなかったが、時折見せる彼女の屈託ない笑顔は僕を晴れやかな気持ちにさせたし、再び性懲りも無く陳腐な例えを披露する約束は、当たり前のように交わされるのだった。

・・・

そんなある時いつもの場所にて、ふと僕は茜に逢う事を心待ちにしている自分に気が付いた。なんだかそわそわして落ち着かない。今日もこれから会う予定だけど、待ち遠しくてたまらない。・・・ん?これってもしかして・・・いやいや、これは気持ちは”舞い上がっている”けど”足が地に付かない”とも言えるな。って、何を冷静に分析してるんだ?そもそも僕と茜は別に付き合ってるわけじゃないし、れ、恋愛感情なんて・・・そんな、な、何言ってんだか。

その日、茜は来なかった。

次の日もその次の日も、茜は来なかった。”浮わついていた”僕の心と身体は少しずつ高度を下げながら、彼女が来なくなった理由をあれこれ考え始めていた。

さらにそれから何日かが過ぎ、僕はやっと「答え」を手に入れた。

でも、それを伝えるべき相手は目の前にはいない。

きっかけは、見知らぬ女性から渡された一枚の走り書きだった。そこには力ない字で「ゴメン、ありがとう」とだけ記されていた。事の詳細はその女性から聞いた。どうも茜の姉貴らしい。全てが嘘のような話だったけど、でもわざわざ嘘をつくほど僕と茜は特別な仲でもなかった訳だし。ただもしこれが全てが嘘だったとしても、そこは精一杯の彼女なりの最後の優しさだったとして受け取っておくことにしよう。ちなみに、その日の空は舞うには絶好のステージだった。僕だったら、きっとくるくる無様に回りながら飛んでったことだろう。何度も言うようだけど、僕は飛べない。

でも、彼女だったら今こそ自分の思うままにこの青空を自由に舞っていることだろう。羽根もロケットエンジンも必要とせず、ただひたすら自由に、気の向くままに。あいにく僕には見えないけど、彼女からはきっと僕が見えているんだろう。相変わらずぼけーっとこの場所に座っているんだから、たまには羽根を休めにここに降りてきてほしいな、って羽根無いじゃん?なんて他愛も無い事を呟きながら、日が暮れるまで僕はその場所に座っていた。

id:thistleyew No.11

thistleyew回答回数6ベストアンサー獲得回数02009/01/15 21:31:32

ポイント12pt

[fiction] 飛翔から想像するイメージとしてのimpromptu

いつも空ばかり見上げていた。

雨が雪に変わる瞬間を見つめたい。

雪がいつのまにか雨になるのはいつなのか見きわめたい。

風音だけでなく雲の動きで風の強さを思う。

冬の低い空を春を待つ為と耐える。

あれは年末の週末だった。快晴の午後。

冷たすぎる風にコートの襟を立て首をすくめ、

ぼくは小走りで駅前のコンビニでカップめんとプリンを買った。

「キャンペーンでくじをひけます。どうぞ」

急いで仕事に戻るつもりだったのに、レジの女の子の業務用笑顔にさえほだされる情けないぼくとしては到底断ることなどできなかった。

「それじゃ」

一枚スクラッチすると微妙に末等が当たってしまったらしい。

何もなくてよかったのにと全く期待しなかったぼくの前に差し出されたのは風船の入った袋。

レジ袋に一緒に入れてもらい店を出るとなんだか少し滑稽に思われてきた。

いつも時間に追われているのがばかばかしく思え歩調をゆるめ包みを開けながら歩いてみる。

人通りの少ない路地に折れ、あざやかな青のゴム風船を何度か引っ張って伸ばし数回息を吹き込んでみる。妙になつかしい。

ふくらみはじめると風船の色がうすくなって水色に近くなる。

そういえば子どもの頃、顔を真っ赤にして頬をふくらませながら風船をかたちづくり、それをいくつもつくれば空を飛べると思っていた。

それなのにちっぽけで薄汚れた大人になってしまったもんだ。

オフィス街で風船をもって歩くなのはさすがに憚られるだろうかと結ばず、ふくらんだ風船を手で押さえたまま空に掲げてみる。

こんなに風船もきれいに見えるものだっただろうか。

そしてまたそのゴム風船から空気を抜いて戻ろうと思ったとき、ふうわりと舞い降りてきたのは……。 

 



目を疑った。現実はそう甘くない。ふうわりどころではない。うろたえてストップモーションに見えたのかもしれない。ずしんっと木材が落下したかのような錯覚をコンマ数秒で修正した。彼女、彼女らしき女性の身体を咄嗟によけようとしつつ風船と同じ色の落下物はぼくの右肩あたりを直撃した。偶々運が良かったのだと分かったのも、危機の際コマ送りのように思えるということと、動物的勘で障害物を避けることができるとわかったのも数日後のことだった。

完全に意識を失うことはなかったような気がする。ところどころ覚えているが朦朧としていた。それは記憶の後出しで、ぼくが聞かされたことからそう思ったのだろう。彼女は同じ病院の、やはり集中治療室で昏睡状態が続いていたらしいと知ったのは更に後だった。顔も知らない。身元も知らない。文字通りぼくに降ってきた彼女にはこれが縁で見舞いに行く口実ができた。彼女の両親がぼくの病室にお詫びにみえたのがきっかけだった。彼女が生き永らえたのは、ぼくがクッションになっていたからだったらしい。ぼくが生き延びることができたのは彼女が降ってきたからだった。

今、彼女はいつもぼくの前で微笑んでいる。やはり彼女はぼくにとっては天使に違いないと確信しているが、それはぼくの心の中だけにおさめておく。

id:COCO No.12

COCO回答回数3ベストアンサー獲得回数02009/01/15 23:33:48

ポイント12pt

f:id:COCO:20090114231921g:image

上での投稿ミス、要らぬお手間をかけさせてしまい、

申しわけありませんでした。

ということで再度投稿させていただきますので、よろし

くお願いいたします。

下でのコメントは後ほどこちらで削除させていただきます。

id:palladion No.13

palladion回答回数3ベストアンサー獲得回数02009/01/16 06:35:27

ポイント12pt

   宙をかけるBBA


 大日本帝国総統A生T郎は焦っていた。相次ぐ失策と失言。紛糾する議会。マスコミによる追求。支持率回復を目論んだばら撒きも当初の予定を大幅にずれ込み実施されたが時既に遅し。ついには身内であるはずの党内議員にまで見放され、造反者も二十名を数えた。そして彼は起死回生の一手を講じる。強制動員された全国三十五万のニートの頭脳と肉体を結集しついに完成したスペーススーツ。その初打ち上げがついに本日行われることとなった。被験者に選抜されたのは千葉市在住豊川トメ(CODE NAME:BBA)。全国民が固唾を呑んで見守る中、カウントダウンが始まる。脚部に装着されたユニットが蒼い輝きを放ちエネルギー場を展開する。零の声と同時に地を発ち成層圏を射抜くスペーススーツを纏ったBBA。管制室だけではない。全ての国民、そして全世界の人間がその幻想的なさまを、歴史がきらめきとともに偉大な一歩を刻む瞬間を目の当たりにし、歓声を上げた。「ババアが……」「ババアが宙を飛んでいるっ!」「なんということでしょう」地上の超超望遠カメラがスケルトンのスペーススーツ越しにおむつを履いたBBAの臀部を追う。BBAは頬を薄桃色に染めその瞳にわずかに涙を浮かべながらつぶやく。「パンツじゃないから恥ずかしくないもん」自己を鼓舞し真空の闇へとBBAは泳ぎ出した。低コスト単体宙行を実現した大日本帝国はこうして超先進科学国としての地位を確立。そしてそれを牽引した総統の名は未来永劫語り継がれることとなった。だがしかし、このときの映像が健全な国民男子に残した性的トラウマは根深く、その後の雪崩の如き少子化には歯止めが効かず大日本帝国はわずか半世紀の内に滅亡することとなった。

id:asahi-arkham No.14

asahi-arkham回答回数1ベストアンサー獲得回数02009/01/16 08:49:37

ポイント12pt

 その店は間口が狭く、そのくせ奥行きが妙に長い、ウナギの寝床のような形をしていて、そこだけピカピカに磨き上げられたガラスの扉を押して中に入ると、丸テーブルが五つ左側の壁にへばりつくように置かれていた。客席はそれだけで、『ラ・ペニソラ』というイタリア風の名前がついているものの気の利いたイタリア料理を出すわけではなく、飲み物のメニューはブレンドコーヒーと、ティーバッグがそのまま入ってくる紅茶と、パックから注いだだけのようなオレンジジュースだけだったからカフェというわけでもなく、かといってできる食事が、量だけがとりえの炊飯器で炊き込んだピラフと、これまた量だけは多い、ドリアとは名ばかりのピラフにホワイトソースがかかっただけのものと、主人の気まぐれでその日のうちでも具が違うことがある日替わりパスタだけではレストランとも呼び難かった。パスタを出すところだけがイタリア風といえないこともない。

 しかしこんな店だったけれども、というより、だったからこそ、紅茶には飲み終わるころには腹がちゃぷちゃぷ音を立てるぐらいたっぷりのお湯がポットに入ってついてきたし、ピラフやドリアは、安いうえにただで大盛りにしてもらえたから、日がな一日お茶でも飲んでぼんやりしていたい老人や近所に下宿している貧乏学生、といった常連がいて、そのおかげでどうにかつぶれないで続いている。

常連客たちのもうひとつのお目当ては看板娘のフユちゃんで、彼女が桃色やひよこ色の服を着て立ち働いていると、月並な言いかただけれども、薄暗い店内でそこだけ花が咲いたようになる。フユちゃんは十六、七歳で、主人の姪っ子ということだった。

 さて。

 その機械は、店の右すみのキャッシュレジスターのかたわらにかなり大きな場所を占めており、レジスターの前に立つためにはそこのうしろを体を横にして摺り抜けなければならなくて、細身のフユちゃんはともかく、でっぷりと腹が突き出した主人のミサキ氏は半身を入れることさえままならず、反対側から操作をするはめになっていたのだが、光もあまりさしこまないすみっこにあり、なおかつ表面が長年かけて降り積もったほこりで輝きをまったく失っていたから、その存在に気づいている客はほとんどいないようであった。

「それ、エスプレッソ・マシーンだろう」

 客のひとりがそう言ったのはある昼下がりのことだった。

 ほとんど毎日店にやってくる男の客で、言葉遣いや着ている服から判断すると学生のようなのだけれども、夕食だけを食べにくるときもあれば、平日でも昼どきにやってきてコーヒー一杯で長々と粘っていくときもあり、何を職業としているのかはっきりとはわからない。入口からふたつ目のテーブルの奥よりの椅子が定位置で、たまに、考えごとでもあるのか、肘をついて手にあごをのせて遠くを眺めるようにしていることがあり、そうしているときの顔はひどく年をとっているようにも見えて、だから本当の年齢もよくわからなかった。

 その日はちょうど昼食めあての客足が途絶えたころにふらりと入ってきて、注文を取りにきたフユちゃんにそう聞いたのだった。

「エスプレッソ・マシーン?」

 フユちゃんが訊ね返すと、

「あの、すみっこにある機械さ。使っていないの?」

「ああ。あれは、こわれているんだそうです」

 もし使っていないなら引きとっていって直してみてもいいだろうか、と男が言うと、あれはもともと前にここを借りていたひとが残していったもので、こわれている上に使いかたもよくわからないから、あげちゃってもいいよ、というミサキ氏の答えで、それならと男は大盛りのピラフを注文して平らげたあと、どこからか借りてきた自転車の荷台にマシーンをくくりつけ、ふらふら走って帰っていった。


 『ラ・ペニソラ』から歩いて十分くらいのところに、れんが造りの三階建てのアパートメントがあって、門のところに掲げられている木の看板に目をこらせば『わかば荘』と読めるのだが、築何年かもわからない、雨に黒ずんだ外壁からその名前を連想することは難しく、前庭にたわわに実をつける巨大なみかんの木があることから、近所では『みかん屋敷』と呼ばれていた。そこの屋根裏に住んでいるから、修理しているところを見たかったら来てもいいよ、と帰りぎわに男が言ったから、お店が休みの日曜日ごと、フユちゃんは部屋を訪れるようになった。

 修理ははじめ順調だったけれども、特別な部品を外国の製造元に注文しなくてはならないことがわかり、ここのところストップしていた。

 今日、そろそろ部品も届くころかとフユちゃんが訪ねてみると、男は留守だった。

 『みかん屋敷』の屋根裏はふた部屋だけあって、ほとんど垂直に近い急な階段を登りきった先の左右にドアが並んでいる。左に「アルベルト・ワタリ」、右には「シド」とだけ書かれた表札が貼ってあり、はじめて来たときには名前を知らなかったから、フユちゃんはずいぶん困ったものだけれども、右が男の部屋である。今日はどちらの部屋の扉も閉まっていて、そのかわり天井に開いている窓にむけてはしごが立てかけてあり、天気のいい日には屋根で寝っころがっていることもあるよ、という男の言葉を思い出してそこを登ってみると、天窓から顔を出したフユちゃんに気づいて読んでいた本から視線を上げたのは、別の男だった。

 その男は長めの髪を七三に分けて、うっすらと無精ひげを生やし、すこし老けているようにも見えたけれど、肌の張りや目の色からするとシドと大差ない歳のよう、手にしているのは、革で装丁されたぶあつい本である。

 男は座ったまま、フユちゃんははしご段のいちばん上につかまったまま、ふたりしばらく黙って見つめあっていたけれども、

「ミサキさん、ですか?」

 先に口を開いたのは男のほうだった。

「はい。そうですけど」

 フユちゃんが、不思議そうな顔をすると、

「シドから、よく話を聞きます」

「あ、じゃあ、あなたが、『教授』?」

「そうそう。シドから聞きましたか」

 そう言って、笑う。すなわち彼は、アルベルト・ワタリと表札を掲げている、シドのとなりの部屋の住人で、あだ名を『教授』というのはいつも歴史書ばかり読んでいるかららしい。

「奴はいま出かけてるから。ここでいいなら待っていますか」

「そうします」

 フユちゃんが天窓を隔てて屋根に座ると、『教授』はふたたび本に目を落とし、フユちゃんはしばらくもぞもぞしたあとで、青い空の上で雲がふわふわかたちを変えながら流れていくのを眺めることにした。

「あそこを飛べたらな、って思うことが、よくあるんです」

 『教授』がそう言ったのはずいぶん時間が経ってからのことだった。フユちゃんがふり向くと、

「僕は、魔法使いになりたかった。魔法使いになって、空を飛んでみたかったんです。実際は、いくら魔法を使っても、できないことなんだそうですが」

 彼は、はずかしそうな、ひかえめな笑顔をうかべる。

「でも、魔法には、そんな夢を見させてくれるちからがあるような気がします」

 フユちゃんがにっこり笑うと、『教授』はさらに続けて、

「シドは魔法使いなんですよ。彼に言わせると、魔法使いには夢はないらしい。でも、やっぱりうらやましく感じます」

「夢、かぁ」

 フユちゃんは立ち上がり、ゆっくり両手をひろげた。目を閉じる。やわらかい風が、髪や袖口、スカートの裾に触れていく。腕を持ちあげる。そろそろと。風を抱くように。

 そして。

 身を乗り出して、目を丸くしている『教授』の前で、フユちゃんは屋根の上から一インチほどの空中に浮かんだ。

 ややあって、ぱっと目を開いて屋根に降り立ったフユちゃんは、『教授』の視線に気づくと、頬を赤くした。

「私はこれくらいしか飛べないけれど、空は飛べないわけじゃないんです。私よりしっかり修行をつんだ魔法使いはいっぱいいるし、そういう人の誰かはきっと、あの雲があるあたりも飛べるんじゃないかな」


 シドはそれからほどなくして帰ってきて、天窓から顔を出すとフユちゃんにむかって、

「お、来てたんだ」

 と言い、手にした小包の箱を見せると、これでやっと修理が終わるよ、と、微笑んだ。注文した部品が届いていたのを郵便局まで取りに行っていたのだと言う。

 フユちゃんが部屋に入ると、エスプレッソ・マシーンはぴかぴかに磨き上げられ、店にあった頃とは見違えるほどである。シドはさっそく荷物をほどき、何重にも重ねられた緩衝材をどかすのももどかしく交換部品を取り出すと、機械の裏ぶたを開けてがちゃがちゃとやり、それで修理は完了らしかった。

 もう前もって用意していたらしく、コーヒー粉やらカップやらが取り出され、あっという間に準備が整う。

 フユちゃんの好奇心いっぱいの視線をうけながら、シドは小ぶりのマグカップを銀色に光るノズルの下に設置すると、うやうやしくスウィッチをひねった。

 ぶしゅう、と、豪快に湯気が上がり、ノズルから液体が放出される。

「わぁ。こんなふうになるんだ」

「子供のころ、これと同じような機械が祖母の家にあってね」

 カップを渡しながらシドが言う。

「小さかったから、コーヒーは飲ませてもらえなかったけれど、祖母がこの機械を使っているのを見るのは、好きだった。雲のように湯気が噴き出して、エスプレッソが出てくる」

 もう一杯、自分のために淹れたほうに口をつけて、しばらく味を楽しむようにしてから、

「あれは、魔法のようだったなあ」

「魔法……」

 フユちゃんも渡されたカップからひとくち飲んでみたけれども、どうも苦すぎるようだったので、砂糖つぼからスプーンに一杯、砂糖を入れてかきまわす。

「今となっては、もう、魔法ではないけれどもね。仕組みがわかってしまったから。なんで、蒸気が出るのか。どうすれば、コーヒーができるのか。全部知っているから、何も不思議なことはない」

 カップの中身をぐっと一息に飲み干して、

「どうなっているかわからないから魔法だったんだ。不思議なものだったから、夢があった。そうしてみると、魔法使いというのはおかしなものだよ。魔法を使うために、魔法の仕組みを勉強するんだから。自分が使う魔法がなぜそのように働くか、全て知っている。魔法でなにができて、なにができないか、全部わかっている。自分にとっては、全く不思議なものではないんだ。だから、魔法使いにとっての魔法は魔法じゃない」

 それを聞いてフユちゃんは、くすり、と笑い、シドは彼女のほうをいぶかしげに見る。

「なにか、おかしいかな」

「さっき、屋根の上で、『教授』と空を飛ぶ話をしました」

「あいつは、いつもその話を持ち出すな。魔法には夢がある、とでも言ったんだろう」

「魔法で空は、飛べませんか」

「飛べないことはないだろう。屋内での浮遊術は確立された魔法だ。真剣に飛行術を研究した魔法使いは何人もいたし、酒に酔ったいきおいで空を飛ぼうとした奴らもいた。けれども、彼らのほぼ全員が、地面に叩きつけられて命を失った。風向き、急な気流の変化、空中の障害物、気象、温度、気圧。屋外で飛行するには、コントロールしなければならないことが多すぎて、手におえない」

そう言いながら、シドがもういちどカップをノズルの下に置き、抽出の準備をはじめようとするのを、フユちゃんが、

「あ、私にやらせてください」

 と、押しとどめ、シドの教えを請うて水を入れ、粉を入れ、

「これを押すんですよね」

 スウィッチをまわすと、しゅうっ、と、蒸気がわきあがる。

 それがおもしろくて、飲んでは淹れて、淹れては飲んで、かわるがわる、ふたりで何度も繰り返した。

 いいかげん口の中に苦みばかりが残るようになったけれども、エスプレッソはちっともまずくなかった。


「何でだろう。君がエスプレッソを淹れているときは、魔法を見ているような気になる」

 さすがにはしゃぎ疲れて、窓際の椅子にふたり腰かけているときに、シドが言った。

 フユちゃんは、笑った。

「だって、私も魔法使いだからね」


---

5、6年ほども前に書いたものの焼き直しのため長めですが、こういうものでもよろしいのでしょうか。

id:feebee16 No.15

フィービー回答回数1ベストアンサー獲得回数02009/01/16 17:47:03

ポイント12pt

 

 天国に忘れ物をしたから、取りにもどろうかと思った。だけどちょっと考えて、結局やめた。星のひかりたちも凍りそうなほど寒い夜だし、でも帰ったところでコートを羽織ってまた出発するなんてことは絶対ゆるされないし(わたしたちはいつだって薄着でいなきゃいけない)、それに目的地はもう目と鼻の先なのだ。だからこのまま世界の重みに引き寄せられることにした。だいたいもどったところでお説教されるだけなのだ――大切なしるしを寝室に置いたまま出かけるものがありますか!

 神話みたいに分厚くて、どことなくいんうつな雲を抜けると、いとちいさきかたまりが真冬の夜空に踊るように舞っていた。細やかな雪たちだ。それを見たとたん、わたしは自分が天使の輪を目覚まし時計の脇へ置き忘れてきたことをすっかり忘れてしまった。うれしさがまるで滝みたいにこみ上げてきて、そんな些細な事柄なんかどこかへ流れて消えてしまったのだ。なんてきれいなの! そう叫びながらわたしは思わず両手を叩いた。こういう単純なところがわたしの性格のいいところだって思うんだけど、でも天使長は認めてはくれない。天の戒律だとかコンプライアンスだとか、天国を天国たらしめる(と天使長が主張する)ものをいつも累々と押しつけてくる。契約を常に留意なさい、とか言って。だけどこんなふうに世界へ舞い降りる雪たちを目にして興奮しない天使なんてちょっといないと思うんだけどな。だって雪はしずけさと天国のいろどりとを一度に世界へ届けてくれるのだから。天国はちいさなかけらとなって日常のちょっとしたシーンにひっそり舞い落ちるのだ。わたしはひとつとして同じかたちのない雪の結晶たちにそっと息を吹きかけ、そのすべてにあいさつし(「すてきな旅を!」)、うきうきした気持ちで落下するスピードを速めた。目指すはとある街の一角でつつましく暮らす若い夫婦の家だ。

 

 

 その街の大通りに降りようとしたとき、あたりはバターをよく練り込んだパン生地の焼ける香りに満ちていた。それは街でいちばん人気の、もみの木で造られたログハウス風のパン屋から立ち上ってくるあまい香りだった。

 

  本日のクロワッサン、最終便が焼き上がりました!

 

 子どもを連れた痩せた女性が、黄色いチョークでそう書かれた黒板のかかる扉を開け、店内へいそいそと入り込んでいくのが見えた。午後七時を過ぎてもお客さんでいっぱいの人気店なのだ。でも痩せた女性の脇にいた子どもは、入り口の扉の前で歩をとめ、店には入らなかった。10歳くらいの、母親と同じようによく痩せた男の子だ。母親が店の中へ消えるのを黙って見守ると、彼はくるりと扉に背を向け、雪の舞う夜空にまっすぐ顔を上げた。一重なのにくりっとした瞳はまるで宝石みたいに輝いていた。細い首にはモスグリーンの毛糸のマフラーがぐるぐる巻きつけられていて、その中からぽってりとしたピンクのくちびるが覗き、ちいさく開け放たれた口からは白い息がふわりと漏れていた。この子はだれの担当だったかしら、とわたしは思った。わたしじゃなかったはずだけど。そんなことを考えていると、男の子は大通りの脇の歩道へといきおいよく駆け出し、そして夜空に向かって思い切り両手を伸ばした。雪をつかもうとしたのだ。冷たく美しい幾何学模様のいくつかが手袋をつけていない彼のかさかさの手に触れ、透明な水にもどると、男の子はうれしそうにほほえんだ。はじける水滴みたいにすてきな笑顔だった。その笑顔の引力に引かれてパン屋のほうへふらふら近づいていったら、男の子が目をまん丸くして叫んだのだ。

「ママ! 空から女の子が降ってきたよ! ママ!」

 でも男の子のおどろきの声は母親には届かなかった。木枠にはめ込まれた大きなガラス窓の向こう側で、たくさんのお客にもまれながら、彼女はクロワッサンに手を伸ばしていたのだ。お客のほとんどは女性だった。なにせこの街でいちばんの人気をほこるパン屋の、いちばんおいしい商品なのだ。わたしだって天使じゃなきゃ食べてる。満月みたいに目を丸くして口をぽっかり開けたままこちらを見つめている男の子を横目に、わたしは雪のおかげで天国色に染まりはじめた大地に両足を着けた。世界のたしかな重みを全身で感じながら、鼻で大きく息を吸い込むと、きりりと引き締まった冬特有の空気と、焼きたてのクロワッサンのあまい香りがからだじゅうに満ちた。その感じが久しぶりに地上に降りたよろこびとからまり、わたしはこころを躍らせながら男の子に声をかけた。

「こんばんは。すごくすてきな香りよね。ここのクロワッサンは本当においしいんだろうな。あなた食べたことある?」

 目を見開いたまま、男の子は左右に首を振った。

「え、食べたことないの?」、今度はわたしが驚く番だった。だってなにしろ有名なパン屋なのだ。

 男の子は伏し目がちにうなずいた。

 あ、失敗した。そう思いながらわたしもうなずいた。うなずきながら、初対面でいきなりぶしつけな質問をしてしまったことを恥じた。だってもとはといえばわたしが天使の輪を忘れてしまったことが原因なのだ。あれが頭上に浮いてさえいれば、誰にもわたしの姿は見えやしない。あの輪は、まだまだ未熟なわたしの天使力を増幅してくれる役目も兼ねているのだ。

「きみは誰?」、男の子がわたしをじっと覗き込んで言った。冷たい風が雪たちをひらりと躍らせ、彼の着ている継ぎはぎだらけのデニムのジャケットを揺らした。

 さて困ったことになったぞ、とわたしは思った。だって天使が子どもに嘘なんかついたらことだ。

「あなた秘密を守るのは得意?」

「うん」と男の子は真剣な顔で言った。「ぼく秘密はぜったい守るよ、いつもママにそう約束してるよ」

 わたしは男の子を信じることにした。目がうんときれいだし、それに天使が子どもを信じないなんて考えただけでもおそろしいことだから。「よーし。じゃあ約束よ。これは本当にないしょの話なんだから」、声をできるだけひそませてわたしは話しはじめた。天国にいるくせに地獄耳の天使長に聞こえたりしたらちょっとばかり厄介なのだ。「あのね、このパン屋さんの三軒となりのあのちいさな家に、とってもなかよしの夫婦が住んでるでしょ。それは知ってる?」

「うん」

「その家にね、もうすぐふたりの愛のあかしが生まれるのよ」

「赤ちゃんでしょ」と男の子はくすくす笑いながら言った。「『愛のあかし』だなんて、きみ面白い言い方するね」

 顔が赤くなるのを感じながら、わたしは早口でささやくみたいに言った、「わたしはその赤ちゃんの永遠のお友達なのよ」

 男の子は顔をしかめた、「永遠のお友達?」

 わたしはうなずいた。

「よくわからないよ」

「そう? じゃあもっとこっちにきてくれない? 誰かに聞こえちゃまずいから」

 男の子はちらりとパン屋の中を覗いた。ぱっちりした一重の瞳をすっと動かして母親を探し、レジの前で並ぶ彼女の姿を見つけるとほっとしたような顔つきを見せ、それからわたしのとなりに寄ってきた。そしてわたしの姿を上から下まで仔細にながめ、いきなりデニムのジャケットを脱いだ。それをわたしに差し出し、「そんな布みたいな薄い服だけじゃ風邪引いちゃうよ。しかも雪が降ってるのにサンダルだし。これ着ていいよ」

 なんてかわいい子なのかしら! とわたしは思った。胸がきゅんとした。この子の守護天使は誰なのか、天国へ帰ったら調べてやろうと決めた。ああ、わたしがそうだったらよかったのに!

「ありがとう。でもわたしは平気」

「気にしなくていいよ。ぼくはつよいから」

「ううん。本当に大丈夫」とわたしは答えた。天使は風邪なんか引かないのだ。もっとすごい病気にかかっちゃうことはあるけど。たとえば堕天病とか。それにもし子どもに風邪を引かせたなんてことになったら、それこそ天使のこけんにかかわる。「あのね、わたしはここよりもっと寒いところで生まれたのよ。うんと寒くて、とても暗いところで。だからどんなに寒くてもぜんぜん平気なんだ。さあそのジャケットを着てくれない? 着てくれないともう話はできないな」

 男の子はちょっと悲しそうな顔をしてうなずいた。そしてピンクのくちびるをぎゅっとすぼめ、パッチのたくさん当てられたデニムのジャケットをふたたび羽織った。なんてかわいいの! とわたしは思った。そんな切なそうな顔をされたら守護天使本能をくすぐられてしまう。

「ほんとにありがとう」とわたしは言った。やわらかな気持ちがこころに広がるのを感じながら。「で、さっきの続きだけどね、永遠のお友達ってやつね、わたしは生まれたばかりの赤ちゃんを、赤ちゃんがこの世界に誕生したその瞬間から、そっと見守ってるのよ。つらいときも悲しいときも、うれしいときも楽しいときも。目には見えない場所で、わたしはずっと赤ちゃんを見守り続けるの。その赤ちゃんがいつか天国へ旅立つそのときまで」

「きみは天使なの?」と男の子は唐突に言った。雪の粒が彼の吐いた白い息に触れ、きらきらと輝きながら水に変わった。

 わたしは笑った、「そろそろ行かなくちゃ」

 ちょうどそのときパン屋の扉がきいと音を立てて開き、中からひとりの女性が姿をあらわした。男の子の母親だ。彼女は大きな声で男の子の名を呼び、パンの入ったちいさな紙袋をかかげてにっこりほほえんだ。そして今夜の食事は赤豆のスープとクロワッサンであることを告げ、しんしんと雪の降り続く歩道にひとりたたずんでいる息子のところへ駆け寄った。

「待たせてごめんね。寒かったでしょう。こんなに濡れて」

 頭の上に薄く積もった雪を母親に払われながら、男の子は夜空を見上げた。そしてきょろきょろと何かを探すように頭を動かした。でもそこには夜空が広がっているだけだ。いとちいさき結晶のすべてをそっといだいた真っ暗な夜空が。

「どうしたの?」と母親が言った。「なにか探してるの?」

 男の子は母親の顔を見つめ、口を開きかけた。でもそこから漏れたのは白い息だけだった。一瞬の空白を置いたあとで、男の子はふたたび口を開いた、「ううん、なんでもない。それより早くお家に帰ろう? ぼくもうお腹ぺこぺこだよ」

 母親が男の子の乾燥した手をかたく握ると、ふたりはゆっくり歩き出した。白く染まった歩道に、よっつの足跡が伸びてゆく。

「待たせて本当にごめんね」

「ママさっきもあやまったよ、もうあやまらないで」

「だって――」と口にし、母親は言葉を探しはじめた。しんと静まり返った大通りに雪を踏みしめる足音がじんわり響く。「これでもう学校で悲しい思いをすることもないわね」

 男の子はにっこりほほえんだ。母親によく似た笑顔だ。

「悲しくても平気だよ。クラスのみんなに馬鹿にされたって、ママがいてくれればそれで平気だよ。それにぼくうんとつよいんだから。ジャケットがなくても風邪なんか引かないくらい」

 夜のすきまにからだをそっとひそませて、わたしはふたつの背中が消えゆくのを見守っている。やがてパン屋からもお客たちがすべて引き、大きなガラス窓から漏れていた灯りがふっと消える。すると雪のもたらす静寂が一気に街へとあふれ出し、そこで起こるすべての物音はそのやわらかみのうちへ吸い込まれていく。これから夜がだんだん深まっていくのだ。りんとした冬の風が天国の色彩を届けるものたちをふたたび躍らせ、そのときパン屋の三軒となりのちいさな家から高らかに産声が上がる。女の子の産声だ。あたらしい命がまるでちいさな結晶のようにこの世界へ舞い降り、わたしはその場所へ向けてそっと翼を広げる。

 

  * * *

 

こないだの【降臨賞】のために書きはじめた作品だったのですが、期限までに書き上げることができず、それに1000文字におさまらなかったので、宙に浮いたようなかたちでふらふらしてた作品です。今回この【飛翔章】をとある方から教えていただき、投稿させていただきました。投稿させていただくにあたり、ちょっと修正しました。

id:shizki No.16

shizki回答回数2ベストアンサー獲得回数02009/01/16 23:51:16

ポイント12pt

『降臨賞』に続く企画『飛翔賞』に参加することにしました。今回だと二作しか思いつきませんでした。リンクを貼っておきます。

http://samuraimoon.blog67.fc2.com/blog-category-35.html

id:kikuties No.17

kikuties回答回数2ベストアンサー獲得回数02009/01/17 01:27:42

ポイント12pt

 近所のイトーヨーカドーで鳥もも肉を買った。白いプラスチックのトレーにピンク色の肉がちょこんと乗っていて、「宮崎産」「レジにて2割引」というシールが貼られているものだった。急に鳥もも肉はレジ袋から飛び出した。僕は最初、それを呆然と見ていた。しかしよく考えると、ここで鳥もも肉に逃げられては今晩の夕飯がなくなってしまう。お腹を空かせた妹に示しが付かないではないか。そんなことを考えているうちに鳥もも肉は大空を舞い始め、僕もその後を追うことにした。鳥もも肉はまるで地球の外から操られているマリオネットのように動いた。僕は今晩の夕飯を逃さないために必死だった。赤羽駅を下に掠めると、鳥もも肉は飛鳥山公園の上空を飛翔し、東京都庁の間をすり抜け、東京タワーをくぐり抜けて再び上昇していった。僕は東京タワーにぶつかりそうになりながらも、無我夢中で鳥もも肉の後を追った。地上でなにやらこちらを指さしている人がいたが、お腹が空いていたので気にならなかった。しかし追跡は長く続いた。太平洋を越え、やがて絶海に浮かぶ孤島が目についた。そこはハワイのリゾートビーチだった。鳥もも肉はようやく着陸した。僕はハワイのビーチに降り立ち、アメリカ人に驚かれることによって初めて自分が空を飛んでいたことを意識した。けれども、鳥もも肉を捕らえるのが先だった。

「どうして逃げたんだ?」

 僕がそう尋ねると、鳥もも肉はだだをこねる子供のように答えた。

「だって、自由になりたかったから」

id:DocSeri No.18

芹沢文書回答回数127ベストアンサー獲得回数22009/01/18 00:15:57

ポイント12pt

「メタンガスロケット?」

「原理的には可能なはずだ」

「まあロケットそのものの原理としてはな。しかし……大丈夫か?内圧にせよ温度にせよ、なかなかに過酷だぞ」

「その辺は覚悟している」


「燃料の生成効率がひとつの課題だな」

「法的にバイオフューエルしか認められてないことはある意味強みだが」

「まあな。幸い、変換効率の高い株が調達できた。これを投与する」

「原料は?」

「炭水化物なら何でも良いのだが、効率と生命維持の観点からブドウ糖が最適と判断した」


「軽量化の方はどうするんだ」

「必要最低限な系を残して全部分離する予定だ。帰還を前提としていないから、最低限の制御系と知覚系、燃料、噴射系、あと少々の骨組さえあれば」

「恒常性が維持できそうにないが」

「噴射開始から10分ばかり保てば上等」


「手術室は準備した。しかし処置から打ち上げまでの猶予は130分しかないぞ」

「理解している。処置官僚後、すぐ出発できるよう屋上に手配済みだ」

「屋上から?」

「補助的に水素気球を使う。上空で着火し爆風の勢いを借りて始動する手筈だ」

「かなりの負荷になるが大丈夫なのか?」

「設計上はな」


「四肢の切除完了。続いて内蔵の処置に入る」


四肢も呼吸/循環器系も失い、固定された頭部と消化器系だけになった男はすぐに病院塔屋上から水素気球の上に固定され浮かび上がった。約1時間半で高度30kmまで到達、そこから腸内で生成したメタンガスを噴射し一直線に宇宙を目指すのだ。

脆弱な生体組織で噴射可能なガス量でどこまで行けるかは判らない。大気圏を脱するのはまず無理だろうが、せめて中間圏まで到達することを期待してはいる。

最初の爆発で吹き飛ばなければ、高度計とヴァイタルサインが彼の生存高度を記録する筈だ。信号は彼の言葉とともに無線送信され、彼のオフィスで記録することになっている。


……それにしても、と彼は視界内で急激に小さくなる気球を見送りながら溜息を吐いた。

あれだけの覚悟と行動力があるなら、その情熱を自殺以外に向ければいいのに。

「最高高度自殺記録だな……まあ宇宙で殺ったのを除けばの話だが」

id:tamasima No.19

tamasima回答回数3ベストアンサー獲得回数02009/01/18 00:28:56

ポイント12pt

 飛べそうな気がした。

 海底に立つ自分を想像する。手のひらを広げ、胸の前に伸ばした。ゆるやかに腕をおろす。指の間を通る水の抵抗を想像する。

 手首をこめかみまで挙げる。指を広げてて宙を掻く。全身で加速度を、耳で水の流れを意識した。

 数回繰り返す。

「すー、はー、すー、はー」

 深い呼吸とともに水面に向かって浮かび上がる自分の身体。目を閉じた想像の中で。

 次に落下をイメージした。私は頭から真っ逆さまに雲を突き抜けていく。

 両腕を大きく広げる。脱力したまま両眉の前に翼をかざし、腰の後ろまで強く羽ばたくと垂直落下から水平飛行に移った。顔を正面に向けて幾度も羽ばたいた。

 目を閉じて翼をしならせると湿った濃い空気を掻き分けるたびに加速度が加わってぐんぐんと上昇していく。

「いける」

 校舎の屋上にある時計台から私は飛び立った。

id:tokoros No.20

tokoros回答回数3ベストアンサー獲得回数02009/01/18 04:23:12

ポイント12pt

『ぶっとび男』(3000字弱?かな)


 朝目覚めると巨乳の女の子がオレの上で寝ていた。

 夢だと思って手を伸ばすとスリ抜けたので、二度寝を決行した。

 昨夜の呑み会では騒ぎすぎた。サークルの数少ない女子が全員参加してくれたのは、いつもは男臭いばかりの酒宴に清涼感をたっぷりと与えてくれた。

「……吉永さーん……」

 服の下で主張している豊乳は、混じりッけなしの、偽りなしの、Dカップ。

 幸薄の顔立ちに豊満ボディは反則技だ。

 反則切符をオヌシの胸のあいだに捻じ込んでくれるわ、わはははは――

「うわっ……変態」

 声が出ていた。いや、上からも落ちてきた。

 見ればまだ女がいる。浮かんでいる。空中に。

 オレは沈黙した。思考が止まる。輪転機がうなりをあげて、号外を刷り上げている。

「(……ちょ、ま……え?)」

 状況説明を求めたい。昨夜の記憶が曖昧なのは違いないが、お持ち帰りなどという、それこそイケメンに限る所業を、タンタンメンみたいなオレが成し遂げたというのか。

 産経、いや、朝日、いやいや、ニューリパブリックにも掲載される重大事件であるのは間違いなさそうだ。ネタだと言ってよ、ハニー。

「もー……顔でも洗ってきたらァ」

 女は浮かび上がって洗面所を指差した。

「……ああ、そうする」

 冷静に、冷静に。内心で繰り返しながら、真冬の冷水で顔を洗う。

「どう? 落ち着いた?」

 鏡には起伏の乏しい顔が映っている。オレの顔だ。間違いない。

「ああ……だいぶ、おち-―」

 ふと気づく。オレの後ろで浮かんでいる彼女の姿が鏡に映っていないではないか。汚いもの(オレの二日酔い気味の顔とオンボロアパートの壁!)があるばかりだ。

「よし、では混乱著しい君に、優しいお姉さんが説明しよう」

 女は胸を張った。真冬なのに露出の激しい格好なので、胸元がのぞいている。

「正体は吸血鬼!」

「違う!」

「お化け!」

「おしい!」

「天使!」

「うれしいけど、違う!」

「じャぁ、悪魔?」

「地獄に落としてやろうか?」

「け、けっこうです……」

 オレの心は海よりも広く、水溜り並みに浅い。残弾数がゼロになったところで大人しく彼女の説明に聞き入ることにした。

「ごほんッ。では説明しよう」

 長いので省略するが、よーするに天上から派遣されたキューピッドであるらしい。偉いお方からの命令で、下界で草をはむ哀れな子羊を導いてやらねばならないのだという。

「それってつまりオレのこと?」

「呑み込みが早いネェ。じゃぁ、さっそく……」

 正座で傾聴していたオレではあったが、すっかりあきてしまったので、2chを開いてVIPでスレを立てようかと本気で悩んでいた。

「ってオレの話(うた)を聴け!!」

 自称派遣キューピッドのキューちゃん(自分で「呼んでね」といった)は、どこからか取り出したハリセンでオレの後頭部を三十回ほど叩いた。触れ合うことの出来ない間柄をつなぐのが、このハリセンだけというのが涙を誘う。

「だってさ、つーか、キューちゃんさんはさ、特殊な力とかあるわけ?」

「ない。アドバイザーと呼んで」

 自信満々に答える姿が腹立たしい。いっそ彼女を襲ってやろうかと企むが、スリ抜けてしまっては仕方がない。

「なによ、ジロジロ見ないでよ。変態。殺すぞ」

 最後のひとことは殺意がこもっていたので、以後注意しよう。目がマジだった。

「それでェ、好きな子、いるんでしょ?」

 自然と口から吉永さんの名前が出てしまった。

 きっかけはノドから手が出るほど欲しかった。

 変な力を借りてでも可能性を広げておきたい。

「ふんふん。で、その吉永さんにアプローチはしてるの?」

「……とりあえずケータイのアドレスと……」

「うんうん」

「住所と、実家の場所と、mixiのアカウントは調べた」

「ストーカーね」

 下半身を中心に固めていた臆病な自尊心が剥ぎ取られる思いがした。もう下半身は素っ裸だ。寒風で縮こまって、ひどく情けない。

「すすす、すすす」

「だいじョーぶ! わたしのアドバイスをしっかり聞けば、彼女と結ばれるの間違いなし」

「……ホント、ですか?」

 すがりつきたい気分になった。

「ええ。それじゃ、さっそく――」


 1時間ほどで彼女のマンションに到着した。

 キューちゃんがずっとオレの周りを飛んでいること以外は、いつもと変わらない。

 吉永さんは4コマの比較言語学概論に出るだけだから、まだ家にいるはずだ。

 彼女の履修表は、ばっちり頭に入っていた。

「まったく、ホント立派なストーカーね」

 空を舞うキューちゃんが笑う。意外と爽やかな笑顔を見せるのだから、オレは「もしかして褒められてるんじゃね」と軽い勘違いを起こしそうになった。

「まだ寝てるみたいね。寝顔かわいかったァ」

 マンションの7階まで派遣キューピットは飛んだのだった。

「それで、どーすんだよ」

 いくらオレでも空は飛べない。寝顔は見たい。

「鍵は開けておいたわ」

「は?」

 意味が分からない。

「君の想い、身体で伝えてきなさい!」

 唐突過ぎる。ハリセンで背中を小突かれたが、素直に承服しかねる。

「いくらオレでも馬鹿じゃない。そんなことをしたら……」

「実は嘘をついていたの」

 キューちゃんは、しをらしい声を出した。

「特殊な力、あるの。彼女に愛の矢を打ち込んでおいたわ。君を見ればもうメロメロ、じゅるじゅるよ!」

 しきりに身体をくねらせて、軽薄そうな口調で背中を押してくる。

 お膳立ては完璧。あとは君の行動だけ。

 いますぐ階段を駆け上がり、息を切らして彼女のベッドに飛び込め。

 さっさと行けよ、このクソ野郎! 童貞チキンのストーカー!

 キューちゃんは口汚くオレのを罵り、Fワードがずらずらと並ぶようになった。

 オレも男の端くれ、やらずに死ねるか! だ。

「大丈夫。君なら出来る。君だからやれる。君にしかできないんだよ」

 キューちゃんは、最後ばかりは優しいことも言ってくれるらしい。

 もう迷いはなかった。オレは駆け出した。

「彼女は嫌がるかもしれないけど、嫌よ嫌よも好きのうち、だと思ったりねぇ……いちおう、言ったよぉー……聞いてないか、くくッ」

 もう何も聞こえない。鼓動だけがオレの身体を支配している。

 彼女の部屋のドアは確かに施錠されていなかった。

 靴を脱いで上がりこみ、そのままベッドまで空中を滑るように向かった。

 それは悲鳴だったのかもしれない。

 オレは獣のように彼女の衣類を剥ぎ取って、むしゃぶりついた。

 草をはむ羊はもういない。満腹になるまで彼女を食べて肉食獣になってしまった。

「……ねぇ……なんでこんなことしたの?」

 泣きながら吉永さんは訊ねた。オレは答えられなかった。

 吉永さんの頬は薄っすら紫に染まり、シーツには鮮血が散っている。

 わずかに開かれた窓に誘われて、オレはベランダに出た。

 キューちゃんが空で待っているようだった。

 オレも空を舞えそうな気がした。

「アイ・キャン・フラーイ!」

 きっとオレは落ちることなく空を舞える。飛んでいける。


 了

 

オチがない。どこまでもオチがない。飛び続ける話。

id:aoirobeta No.21

aoirobeta回答回数1ベストアンサー獲得回数02009/01/18 10:20:12

ポイント12pt

【空の夫婦喧嘩】


ただいまー、と玄関を開けると、ミチコが仁王立ちで腕組みして玄関に立ってた。今何時だと思ってるの? というミチコの問いに、ご、ぜ、ん、に、じ、とゆっくり答えた。

「あのね、毎日こんな時間まで仕事してなんになるって言うの? こんなに働かせる会社なんて労働基準法違反でしょ。あなた土日に家事やってくれるって言ってたけど、土日はぐったり疲れて寝てるじゃない。結局私が家事はほとんど全部やってるのよ。出来ないなら最初からやるとか言わないでよ」

「今が一番忙しい時期なんだよ。わかってるだろ? 家事だってやってるだろ。ゴミだしとかさ」

「あのね、言っとき・ま・す・け・ど! あなたのゴミだしは、家からゴミを持ってゴミ捨て場まで持っていくだけでしょ? だいたい、生ゴミの日が何曜日か知らないでしょ? 資源ゴミの日は? 分別してるのは誰? 今のゴミ捨ての分別がどんなに大変かあなた知ってるの? 共働きで、結局家事をやってるのはほとんど私でしょ?」

「それはこの前も話したろ? ミチコの家事が大変なところは、家政婦を雇おうって!」

「仕事ですれ違いのまま家政婦を雇うって、本末転倒もいいところじゃない!? あなたこれだけ遅くまで働いてこき使われて、私と年収は変わらないでしょ! あなたが仕事をやめて家事をやってくれてもいいのよ?」

日本では昔から男が仕事して家族を支えるものなんだよ。ごちゃごちゃ言わないで、ミチコが家事をやってくれればいいんだろ!

・・・オレの中でブチッと何か切れた。

「おい、ミチコ! 表に出ろ!」

「上等よ」

俺とミチコは窓を開けて、マンションのルーフバルコニーに出た。娘が出来て買ったマンションはそう広くはないが、見晴らしは割と良かった。共働きならそんなに生活を切り詰める必要なくローンを支払っていけるが、一人だけしか働かないなら生活はそうとう切り詰めないと厳しい。

俺がそんな事を考えているうちに、すでにミチコは呪文の詠唱に入っていた。

「・・・・・・ギルイータ・インフェルアス・ウィン・ガイアス・・・大気に満ちる風の精霊よ、我に翼を授け天への階段に導きたまえ・・・」

呪文の詠唱が終わるや否や、今にも雨の降りそうな厚い雲が広がる空にミチコの体は浮かび上がった。

ミチコの旧姓は、ミチコ・エル・ラ・デュール・ギエン。ヨーロッパの小国の貴族の娘だった。ミチコのおばあさんが日本人で、ミチコの家系は親日家ではあるのだが、ミチコは長女で家を継がなければならなかった。結果、俺との結婚は親族の猛反対にあい、駆け落ち同然で結婚して現在に至る。あと、ギエン家は代々魔術を生業とした家系だった。そういうわけで、俺の嫁は空を飛んでいるわけだ。

俺は自分に集まる力に意識を向けた。地球の重力が俺の意識の中でビジュアライズされる。俺は意識の中で可視化された自分にかかる地球の重力を、反対方向に向ける。ゆっくりと空に浮かび上がる俺の属性は、ありていに言えば超能力者ということになる。ミチコを追って、空に飛ぶ。俺とミチコは、近所迷惑にならないようにマンションから50キロほど離れた山奥まで飛んだ。

俺はすぐに、厚い雲の中に貯まっている電子に意識を集中し、電子にかかる力の方向をゆっくりと変えていった。雲の中の電子は集まり、そして、雷という現象が引き起こされる。貯まった電子をそのままミチコに雷としてぶつけた。

ミチコも慣れたもので、すでに雷をレジストする魔法障壁を張っていたが、幾分喰らったらしい。髪の毛の一部がカールし、プスプスと煙が上がっている。

「この前、美容院に行ったばっかりなのに!」

ミチコはチリチリになった髪を見て、キィィィ!と烈火のごとく怒って、炎の矢を飛ばしてきた。炎の矢は数が多くてめんどくさいので、俺は雨雲の中に逃げた。体に雨雲の中の水分がつかないように、自分の周りの空気の層をぶ厚くしてコーティングする。そのまま雨雲の中を上に進んで、雨雲を突破した。雲の上なら夫婦ゲンカを目撃される心配もないだろう。今日は満月も綺麗だし・・・

-----しまった・・・今日は満月だ。

気づいた時にはミチコは満月の光を存分に浴びながら、魔力充填バリバリの特大魔法の詠唱を始めていた。もう避けきれないくらいの強大な魔力がミチコの周囲の大気に貯まっていた。俺は自分の足下に広がる雨雲を見て、電気エネルギーと大気の流れを組み合わせてプラズマを大慌てで生成するよう意識を集中した。プラズマは雷と風で作る元気玉みたいなものだ。だが、ミチコの特大魔法に比べると、明らかに見劣りしている。あとは気力で補うしか無い。

ミチコは勝利を確信して、ニヤリと微笑み、詠唱を終えた。

ダメだ。やられるうぅぅぅ!!!!

その時、連日深夜まで働いて、さらに、超能力の大盤振る舞いをしていた俺の体に異変が起こった。突然、急激なめまいと胸の痛みに襲われた。疲労と無理のしすぎがピークに達したのかもしれない。思えば、俺はもうそんなに若くはないなあ・・・

生成したプラズマは急速にしぼみ、空に体を保っておくことすらままならなくなってきた。いつもなら、いくら満月時の嫁の特大魔法を喰らっても、ゲンコツで10発くらい思いっきり殴られたくらいにはダメージを軽減することは出来る。だが、今なら喰らったダメージも軽減できないし、飛べなくなって地上に叩きつけられ、恐らく・・・死ぬ。

ミチコはすでに特大魔法を放っていた。今出来るのはプラズマを特大魔法に当てて少しでもダメージを減らすことだ。俺はミチコの方に目がけてプラズマを放った。

だが、次の瞬間、特大魔法に当たると思っていたプラズマは、まっすぐミチコに飛んで行って当たった。ミチコはプラズマにレジストすらしていなかった。俺の異変に気づき、特大魔法の軌道を捻じ曲げ、宇宙の彼方に放っていたのだ。いくら満月から魔力が充填されるとは言え、特大魔法の発動後に軌道を捻じ曲げれば魔力の消費は半端ない。特大魔法の発動と軌道修正で魔力を消費し尽くしたミチコにプラズマをレジストする力はなかった。ミチコの素の体にプラズマは炸裂し、ミチコは黒焦げになって空に一旦停止し、そして、ゆっくりと自由落下を始めた。

-----うううううううううッ!

俺は声も発することも出来ずにその光景を見ることしか出来なかった。

落ちていくミチコに手を伸ばすが、自分の体すらコントロールが効かない。自由落下をしながら、少しずつミチコに軌道を修正するのが精一杯だ。

雨雲に入る直前に、ミチコの左手に右手が届き、ミチコの体を抱きしめた。そして、そのまま、雨雲に突入した。ミチコは意識を失っていて、俺にはもはや水滴を避ける力もない。ずぶ濡れになりながら必死にミチコと俺の二人分の体重を重力から抗わせようとするが、俺の超能力は重力に対してもはや何の効力も無かった。

雨雲を抜け、もうミチコと心中するしかないと思った時、ミチコの目がゆっくりと開いた。

「だから、言ったでしょ、無理しないでって・・・私が働くって・・・」

落下による空気の轟音の中、はっきりと、ミチコの声が聞こえた。

そうだ・・・ミチコは俺の体のことを心配していたのだ。

以前、俺は過労で倒れた事がある。若い時と同じ徹夜上等のノリで働いていたが、体は少しずつ無理が効かなくなっていたのだ。俺は、倒れたあとはしばらくは自重していたが、体調が悪くならないのをいいことに、少しずつ、だんだんとまた無理をするようになっていたのだ。

「ごめん・・・」

俺の声に、ミチコは静かに頷いた。

俺達は、そのまま地表に叩きつけられた・・・

「もう・・・」

死んだと思った俺は、生きていた。そして俺は、女の子の声を聞いていた。

俺とミチコが叩きつけられた地表はトランポリンのように、衝撃を吸収し、何度となく俺達をバウンドさせながら、やがてエネルギーの吸収を終え、俺達を優しく受け止めていた。

「ケンカしたらだめです」

空を見上げると、娘のアスナがおさげのパジャマ姿で泣きながら空に浮いていた。

幼稚園年少組のアスナは、魔術とも超能力とも言えない力を、全くの「タメ」なしで発動する。俺にもミチコにもその力の源泉はわからない。そして、俺達夫婦よりも力が強大だ。家でケンカすれば、物理的にというか力づくでケンカを止められてしまう。やむなく俺達は空でケンカをしてたわけだ。

だが今回は、どうやら娘に助けられたみたいだった。

「アスナ、お父さんとお母さんのケンカをとめることはできるけど、なかよくさせることはできないんだもん。お父さん、お母さん、なかよくしてよう・・・」

アスナはわあわあ泣き出してしまった。

俺は空から降りてきたアスナと、腕の中で横たわるミチコを抱きしめた。

俺は二人に何度も謝って、もう少しアスナとミチコと一緒に居れる方法はないか、ゆっくり考えようと思った。

id:hanhans No.22

hanhans回答回数11ベストアンサー獲得回数02009/01/18 11:03:13

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「これから天に飛翔しようかと思います」

 飲み会の席で、ある男がそんな事を言い出した。男は身長、体重、身なり、雰囲気。どれをとっても普通の人だ。それに冗談を口にするタイプでもなかった。事実、飲み会に参加している面々も、彼がそういうことを言ったのを聞いた覚えが無い。そもそも、誘っても毎度辞退して、飲み会に来た事がなかったのだ。

 それなのに、今日は飲み会についてきてあまつさえ天に飛翔する、とか言い出す。

「おいおい、もう酔ったのか?」

 隣席の男が問いかけるが、男は既に他人の言葉など耳に入っていないようで、黙々と、ただ「天に、天に、天に」とつぶやきなら椅子から降りて、下においてあった自分のかばんを漁り始めた。

 そうしたら、かばんの中から一本の棒が出てきた。いや、一本ではない、二本、三本、四本と出てくる。

 周りがあっけにとられている中でも、男は黙々とその棒と棒を組み合わせ始めた。どうやら先の方の大きさが異なっていて、小さい方を大きい方に入れているようだ。男がしばらく棒と格闘する中、周りの人達は徐々にまわりくどい一発芸かなにかだと思うようになっていた。囃し立てる声すら出てくる。

 しかし、男の顔を見れば分かるが、なにか芸をしよう、というのにしてはやけに表情が真剣だ。鬼気迫る、と言い表した方が良い位の表情で、棒を組み立てている。それに、誰も気がつかない。

 棒が組み立て終わった。棒の全長は、飲み屋の天井に突き刺さりかねないほどになっている。重さもそうだが、バランスも悪そうだ。中ほどからふらふらと揺れている。しかし、男はどこか満足そうにその棒を立たせている。しばらくそうして男が突っ立っていると、隣の席にいた男が、男を囃し立てた。

「で、それからどうするんだ? まさか、棒高跳びするとかじゃないだろうな?」

「いや、天に飛翔する」

「? 一体どうやって」

 そこに、カウンターにいる店員が割って入ってきた。

「お客さん、困りますよ! そんなものだされちゃあ! 他のお客さんの迷惑ですよ!」

 店員のもっともな言葉。だが男は毅然として言った。

「大丈夫だ。すぐ終わる。いや、もう終わったと言うべきだろうな」

「終わるも何も、今すぐしまってください!」

 わけの分からない事を言われた店員は、困惑の表情を浮かべるが、このまま放っておくわけにも行かないからか、カウンターから男のいる側へ動き始めた。

 しかし、男は動じる気配すらなく言う。

「大丈夫だ。ここでの俺の仕事は終わった。●●●●●の野望も昨日のうちに粉砕しておいた。これでこの地上も安泰だ。だから、することの無くなった俺はこれから帰る」

「ギギルギルの野望? 一体何言ってるんだ? それに帰るじゃなくてだね、お客さん」

 店員が後一歩、というところまで近づいた瞬間。

「さらばだ。地上人。地上の酒もなかなかのものだったぞ」

 男は物干し竿のようになったまたがり、地を蹴った。

 瞬間。

 男は、言葉どおりに天に飛翔した。あっという間に天井にまで到達すると、天井に大衝突し、突き破り、上昇し、星空の彼方へと消えていった。

 天井が開けた飲み屋で、客も店員も呆然とただただ夜空を見上げるばかりだった。

id:nekoyanagiw No.23

nekoyanagiw回答回数4ベストアンサー獲得回数02009/01/18 11:22:46

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そこそこ眺めが良く、日の当たる校舎裏の丘は、昼下がりの学生たちにとっては人気の場所だ。昼飯を食べた後の、もっとも頭を使いたくない時間帯にここで光合成に励むことを選択する奴は数多い。俺と確雄もそんな連中の仲間で、弁当を食べた後にすることがなければ、こうして草の上に転がって残りの休み時間を過ごすことにしている。


もちろん、することがないからここに来ているのであって、寝っ転がる以外に何をするわけでもない。周囲を見回せば、カップルが好感度稼ぎをしていたり、カップルが次のイベントに進むためのフラグ立てに勤しんでいたり、カップルが「お前ら、もうエンディング到達してるよね。それスタッフロール後のおまけCGだよね」状態のオーラを発したりしている。あと、一人でギターの練習してる奴とか。あれは馬鹿だ。


「お、積雲。雄大積雲」

隣に腰を下ろした確雄の言葉に引っ張られて、俺も親友の視界を追う。青空にぽっこりと浮かぶ巨大な雲が、丘から見下ろす我が町に影を落として君臨していた。

「入道雲って言えよ」

「さっきの地学で出てきたろ。復習だよ」

何故か「死ね」と思ったが、口に出すとなんとなく会話が繋がらなくなりそうな気がした。舌打ちして、雲を眺めてみる。目を凝らせばようやく判るような速度で、じわじわと輪郭を変える入道雲。もとい、雄大積雲。

「…てか、ラピュタだよな」

「間違いなく入ってるな」


先週の金曜に見たロードショーが、脳内で再生される。親方、空から女の子が。いい子じゃないか、守っておやり。金は要らねえ、飛行石さ。

どうやら確雄も、同じ物を頭に浮かべていたらしい。濁った目で呟く。

「…あー、空から女の子降ってこねえかなあ」

「来るか馬鹿」

君のアホ面には心底うんざりさせられる。

「冷たいなあ。夢くらいみたっていいじゃねえか」

「お前の性欲の夢なんて、聞きたくないんだよ。どうせならもっと、夢のある夢にしろ」

「空を自由に飛びたいな、とかか?」

「まあ、何でもいい」


そこで確雄は唐突に押し黙った。視線をどこか判らない一点に集中し、うむぅ、などと唸っている。

「何だよ?」

「待て、今考えてる」

それからろくに返事もしない。確雄の奇行は割と良くあることなので、俺は辛抱強く待つことにした。

やおら被りを振って、顔を上げた確雄の目には失望の色が浮かんでいた。


「やっぱり駄目だ」

「何が」

「空を飛ぶのは、まずい」

真剣に空を飛べた場合の算用をしていたらしい。真剣な馬鹿だとは思うが、その結論に至った経緯については少し気になった。

「何でだよ」

「考えても見ろ。もし自由に空が飛べたとしたら」

「……」

あの雲の周りを、すいすいと泳ぐ自分を想像してみる。

「…気持ちよさそうじゃねえ?」

「それだけですむかよ。いいか、俺たちの社会は、俺たちが二足歩行の動物だと言う前提で作られているんだぞ」

「何の話だ」

「だから、俺たち人類が空を飛べる生き物だったらって話だろ。もしそうなら、社会は飛行生物にふさわしいように大きく違った発展を遂げるはずなんだよ。生活、文化、習慣その他諸々が全く違う世界になる」

いつの間にSFの話になっていたのか。お前が空を飛べたらなあ、ってだけの話じゃないのか。

「何が言いたいのか判らんぞ」

「つまり、だな」


そこで言葉をいったん止めて、確雄は視線を丘の下に向けた。俺も釣られて同じ方を見る。ちょうど校舎脇の通路を、数人の女子が談笑しながら歩いているところだった。中には、同じクラスで、かるた部部長の亜紀も混じっていた。確雄の視線は、明らかに亜紀に向いている。


超能力だろうか。


不意に起こった風が、丘の上から亜紀たちに向かって吹いた。ちょうど丘と校舎に挟まれて、風の吹き溜まりになる通路だ。そこにいる亜紀たちにとっては、思いのほか強い風だったろう。下から上に、体を持ち上げるようにして吹く風。

「ひゃっ!」


位置が悪い。丘の上からでは、巻き上がった布切れの下は見えなかった。俺と確雄は同時に舌打ちをした。

慌てて下半身の布を押さえる亜紀たちを眺めながら、確雄がさっきの言葉の続きを言う。

「つまり、だ。空を飛べるような世界では、恐らくスカートと言う衣類が生まれない」

「ああ」


なるほど。

id:Wallaby No.24

Wallaby回答回数1ベストアンサー獲得回数02009/01/18 11:57:56

ポイント11pt

雨はもう三日も降り続いていた。

私は雨で冷たくなった手でアパートの玄関の鍵を開けた。

後ろ手で玄関のドアのロックをすると、軽く息を吐く。

ハイヒールを脱ぎ、髪をザッっとゴムでまとめて、化粧を落とし、冷たい水で顔を洗った。

スーツのままでソファーに寝転がって、テレビをつける、ついでにラジオもつける。

ハンガーにすぐ掛けないとスーツにしわがついてしまいそうだったが、こんな日はそれだけのこともわずらわしい気分だった。

一人暮らしを始めてもう六年になるが、いまだに無音の状態に耐ることができない。

ふと電話に目をやると留守番電話の赤いランプが点灯していた。

「ピー、メッセージヲイッケンオアズカリシテイマス」

「えー、もう良いのかな、、。高校時代お世話になった一年下の橋本です」

「いま、○○高校で今年から陸上部の顧問やっているんですが、まだ県記録、先輩の記録でしたよ」

「私、なんか感動しちゃって、それでつい連絡しちゃいました。突然すみませんでした、今度あのころの陸上部のメンバーで集まるので先輩もきてくださいね」

「それではまた連絡します」

「ピー、ゴゴ7ジ23フン、イッケンデス」

・・・・

私はかつて空を飛んだことがある。

10年前、まだ私が女子高校の三年生で、高校総体の県大会の時のことだ。

私は棒高跳びの選手だった。通っていた高校の陸上部は特に強くなかったが、女子棒高跳の競技人口が少ないことも手伝って、私は県大会の決勝まで進むことが出きたのだ。

「次は女子棒高跳決勝が行われます」

アナウンスが流れると、私を含めた10人の選手が自分の身長より長いポールを持ち並んでトラックの外側を歩いて入場した。

私のベスト記録は3m45だったので、係員に3m30からの開始することを伝えた。

私は助走箇所を決め、ポールと置き、設置させたベンチに腰を下ろすと、セミロングの髪を後ろしっかりまとめた。

競技は3m00から始まり、その高さで3人の選手がフィールドを去っていった。

3m30にバーの高さが上げられ、私の跳躍の番となったころには選手は半分に減っていた。

私はジャージを脱ぎ、白に青のラインが入ったユニフォーム姿になった。

助走開始位置につくとポールを斜め上に掲げ持ち、わずかにたわむポールの先端を見つめた。

「先輩、ファイトー、がんばってください」

バックストレート側の芝生のスタンドから2年生の橋本と1年生藤川が身を乗り出して、声を張り上げていた。

私は、一瞬目を閉じ、自分がバーの上を飛び越える姿を想像した。

それから息をフッと強く。周りの音が消える。

助走をはじめ、ポールを溝に突っ込み大きくたわませた。

次の瞬間、一気に足を振り上げた。

その45分後私は自分のベスト記録をクリアし、未知の高さである3m60を前にしていた。

気がつけば残っているのは、県内一の強豪高校で県記録3m55保持者の磯貝さんと私の二人だった。

すでに磯貝さんが3m50を飛んでいる現段階では、3m45から3m60へのアップは賭けだったが、すでに失敗の跳躍も含めて、6本近く跳躍していたため握力も腕の力も限界に近かった。

自分の身長より2mも高いところにバーがあった。思わず動物園のキリンを思い出した。

磯貝さんの一回目の跳躍はバーに体当たりに終わった。

私の一回目の跳躍はバーの下を体はくぐっていった。

二回目もふたりとも失敗。またしても私はバーに触れることすらできなかった。

ついに三回目の跳躍に磯貝さんが向かった。助走位置に立つ彼女の息遣いが確かに私の耳にも届いた。

結果的に彼女の記録は3m50に終わった。体はバーを越えたが、残った右手がわずかにバーに触れたのだ。無常にもバーはマットに沈む彼女の上に落ちてきた。

私は助走位置に立つ。

ポールを持つ手が小刻みに震える。

たっぷり3秒は目を閉じた。

私は走り出した。

足が刻むステップと、後輩たちの応援、自分の呼吸の音がいやに鮮明に聞こえた。

ポールを溝に突き刺したとき、私の腕は疲労で脱力していた。

いつもより大きくたわむポール。

体が跳ね上がるのを感じた。

そして私は空を飛んだのだ。

空に向かう力と重力がつりあう高さで、一瞬からだがとまるのを感じた。

重力から開放されたのを確かに感じた。

ほんの刹那、一瞬の出来事だったはずだが私には、上を見上げている後輩たちの姿、遠くに連なる山脈が見えた。

そして均衡が破れ重力のより落下し始めた私が目線をあげると、そこには白い雲薄く広がった青空があった。

ほどけた髪がポールに触れるのを感じたが、私はマットに沈んだ。

たっぷり2秒は待ったがポールは落ちてはこなかった。

・・・・

天気予報は長かった雨が終わることを告げていた。

あの時が、私の栄光時代だったとは言わせない。電話が来るまで私は棒高跳をやっていたことも忘れていたし、そのくらい遠くに来たことも自覚している。

でも、もう空は飛べない。

私はソファーから起き上がると、スーツをハンガーに掛け、エプロンをつけてキッチンに向かった。

明日になったら、ジャージとランニングシューズを買いに行こう。

私はパスタをゆでながら、そう思った。

ソースパンから漂うトマトの甘酸っぱい香りが部屋中に広がっていった。

id:nasaibai No.25

nasaibai回答回数2ベストアンサー獲得回数02009/01/18 11:59:28

ポイント11pt

8ページの漫画を描きました。

http://d.hatena.ne.jp/nasaibai/20090118

不勉強で他の皆さんのようにこちらに直接画像を貼り付ける方法がわからなかったので

日記へのリンクで失礼します。

id:hard-wired No.26

hard-wired回答回数1ベストアンサー獲得回数02009/01/18 12:01:02

ポイント11pt

 

「飛んだからには、落ちねばならない」

 彼女は、私にそう言ってきかせた。

「着地の事を考えずに飛ぶヤツは、タダのバカか、さもなくば自殺志願者だ」

 彼女、榎並冬子は空が飛べた。

 とはいっても、別段彼女の背中に天使の羽根が生えているわけでも、ましてや一昔前のアニメにでてきたような超能力があるわけでもない。それは純粋な彼女の身体能力に因るものだ。

 彼女と私との出会いは、丁度2年前の冬だった。


 当時の私は、多少不登校ぎみだった。高校一年生の冬。春に高校生になった時点で自分の立ち位置を変えてしまえばまだ話は違ったのだろうが、そういったいわゆる高校デビューもできなかった。休み時間も誰と話すでもなく、ただ教室の隅で本を読んだり寝たふりをしたりしてやりすごしていた。そうやって、周囲に干渉したいという欲望を押さえ込んだり、周囲からの干渉を避けたりする事に労力を使うのにも飽きてきたのが丁度冬ごろだったのだ。要はその場にいなければいいだけの話ではないか。

 親には学校に行く振りをして家を出て、うまく駅のトイレに滑り込む。個室で普段着に着替えてしまい、そのまま個室の中で小一時間をつぶす。今は携帯があるからそれもあまり苦にならない。軽く寝てしまう事もあった。あとは晴れて自由の身だ。

 平日の繁華街を歩く事は、それだけで新鮮だった。別に買い物をするわけでもないし、わかりやすくゲームセンターでたむろするわけでもない。ただただ歩き回った。特に好きだったのは繁華街の表通りを一筋はずれたようなところにある、場末の臭い漂う裏通りだった。表の華やかさからは想像もつかないようなさびれた佇まい。錆付いた非常階段や、荒れ放題のごみ捨て場や、ざらついた独特の気配が何よりも好きだった。

 その日も私は、特にどこへいくという目的もなく、ただふらりと裏通りへと足を踏み入れた。前の晩が日曜だったこともあってか、祭り騒ぎの後特有の、酒気を含んだ据えた臭いが鼻を突いた。左右はどちらも背の高いビルにさしはさまれていて、陽の光も満足に差してこない。見上げると、左右のビルがお互いに自分の制空権を奪い合い、ベランダや階段の踊り場を差し出して取っ組み合いの喧嘩をしているように見えた。

 その階段の踊り場が、下から見ても眺めのよさそうな位置にあったので、衝動的に私は手近にある非常階段を駆け上がった。普段運動などほとんどしないものだから、途中からわかりやすく息切れをおこしてしまったが、それでもなんとか目的の場所にはたどり着く事ができた。大きく息をつきながら、街を見下ろす。

 そこからの眺めは想像した以上だった。下から見上げていた時には考えてもいなかったような場所にまで視界が通る。向こうにみえるのは方角からいって駅ビルだろう。普段なにげなく通過しているが、外からみるとあんな姿をしていたのか。駅があちら側だから、私の家は方向的にはむこうがわだろう。さすがにここからは見えないだろうか。

 そんなとりとめもない事を考えながらぼんやりしていたものだから、唐突に声がかかった時にもとっさに反応できなかった。そもそも私がいた非常階段の踊り場という場所が、急に声をかけられるような場所ではなかったこともある。しかし、今考えればこれはこれで正解だっただろう。彼女の正確さのほうがよほど信用できる要素だったはずだ。

 彼女は、上空から唐突に現れた。今私がいる踊り場も、地面から考えれば相当高度があるはずだが、彼女はそこに上から飛んできた。彼女を見た瞬間に私が思考に上らせたのは、正に「人が飛んでる」という言葉だった。それと、もう一つ。「凄い」

 彼女が「どいて!」と声を挙げた時には彼女自身はまだ空中にいた。反射的に身体を硬直させてしまった私の目の前、距離にしておそらく1m未満。その瞬間の映像を私は今でも鮮明に覚えている。

 だぁん! と、優雅とはとてもいえない轟音をひびかせ、彼女は私の目前に着地した。スカートを翻し、両足を柔らかく曲げて衝撃を吸収していく様子がスローモーションのように見える。飛んできた速度からして、全て曲げきってもまだ足りない。このままいくと地面に叩きつけられる。彼女はあらかじめさし出していた右手を地面に触れ、そのまま肩口からころりと転がる。柔道などでみる受け身と同じ理屈だろうか。

 口を半開きにして状況を飲み込もうと努力している私に向かって、彼女はスカートの裾を両手ではたきながら無傷で立ち上がった。「やあ、ごめんごめん」と人懐っこい笑顔で事も無げに言う。

 思えばこれが始まりだった。

 彼女と私はその後打ち解け、携帯番号やメアドも交換したが、それをつかって交流することはほとんどなかった。なにも打ち合わせなく私が裏通りにくると、彼女はたまにこうやってビルからビルへ「飛んで」いた。それを私が見つけ、ビルの屋上でコンビニのサンドイッチなどを食べながら、とりとめもない話を延々とした。

 彼女は私よりも一つ年上の高校二年生だった。都内でも有名な進学校だったので、受験が圧力を増してのしかかってくる頃だ。彼女も、私と同じように閉塞感を感じると学校をさぼり、こうやって繁華街をぶらつくのが習慣なのだという。そして、その裏通りライフの中で独学で身につけたのが、先刻の跳躍(というよりは飛翔)と、受け身の取り方だった。最初はやっぱり打ち身擦り傷痣だらけだったそうだ。一度スカートを引っかけて裂いてしまい、家に帰って親に大騒ぎされた、という武勇伝もあった。年頃の娘を心配する親の心中を想像し、自分の親の事を思って少し胸が痛んだ。それからスカートを履かなくなったのかといえばそんなことはなく、彼女からいわせると「むしろ良い練習になる」だそうで、空を飛ぶ様な人が考える事はよく分からない。

 私が「飛び方」を教えてほしい、と申し出た時、彼女は口をぽかんと開けてしばらく私の方を見つめた。その口から次に発せられた言葉は「バカじゃないの」だった。

 そうかもしれない。しかし、私も考えた末に申し出た事だ。半端にやるつもりはない。そう伝えても彼女はまだ渋った。

「失敗したら下手すると投身自殺だよ? そこまでしてやりたい事なの?」

 そういわれると身がすくむ思いがしたが、同時に鳩尾に正体の分からない熱いものが込み上げるのも感じた。それは多分、私が目に見える形で直面した、ほとんど初めての「リスク」だったからかもしれない。そうまでしないと、「飛べ」ない。それが私を熱くさせているのだ。

 そうでなければやる意味がない、といった意味の事を訴えたと思う。彼女はもう苦笑を浮かべるしかない、といった風で私の申し出を快諾した。

 それからは、彼女と会う度に練習になった。高度別の受け身の取り方に始まり、飛ぶ瞬間の踏み切り方、足場の見つけ方、そして怪我をした時の応急処置まで、様々な事を習った。彼女も教えるのが特別うまいというわけではなかったが、独学から得た実感を伴った言葉には説得力があった。

 なにより、彼女の飛ぶ姿は、美しかった。

 ビルの間を、屋上から地面まで、足場を探しながら飛んで降りる。ビルにはパイプ、手すり、非常階段、空調の室外機、そういった足場が無数にある。足場に着地し、身体全体を使ってしなやかに衝撃を殺す。両手も使ってバランスと姿勢を整える。もう目はその足場を見ていない。前の足場から飛んだ時点から、既に対面のビルを瞬間的にサーチし、次の足場を探している。選択肢の中から充分に妥当なものを選択し、また飛ぶ。迅かった。

 いつかテレビで見た、崖を駆け下りるカモシカを連想した。動物的な動き。私にも可能だろうか。そう思いながら、ただ彼女の飛ぶ姿を見ていた。


 彼女に教えを乞うてから、1年あまりが経った。私も踏み切りや受け身に慣れ、彼女には到底及ばないものの、どうにか「飛べる」ようになってきたころだった。

「来週が、最後の練習だ」と宣言された。

 普段は意図して意識しないようにしてきていたが、やはり時はきてしまった。

 桜の花びらが舞う、美しい、暖かい日だった。私は桜の絨毯の下校路を外れ、そのまま繁華街に向かった。

 私が到着した時、そのビルの屋上には既に榎並冬子が立っていた。

 制服姿で、凛然と屋上に立ち、春の暖かい風に吹かれていた。

 その右手には、卒業証書の筒。

 振り向いた彼女は、やはり笑顔だった。

「海外に行くことにした」

 彼女は成績も良い。悪くない選択だと思った。そう伝えると、彼女は少し照れくさそう顏で卒業証書で自分の頭を軽く小突きながら、また笑った。

「そろそろ地に足をつけていかないとな」

 つられて私も笑顔になる。彼女はこれから、もっと大きな意味で「飛ぶ」のだ。そう考えるとまるで自分の事のように嬉しくなった。お互いに簡単に別れを告げる。

 抜けるような青い空の下、春の風のもと、二人の種類の違うセーラー服が靡いた。風に帆のようにスカートを張らし、どちらともなく踵を返して背を向ける。ビルの違う辺から、それぞれ踏み切る。

 それぞれの飛翔を。


 そんな昔を思い出して、無理をしたのがまずかった。OLという仕事にも今のスーツにももう慣れてきて、油断をしていたのもある。書類を急いで持っていかないといけないという状況にも原因はある。なにより、丁度よくビルの窓が開いていたのが一番まずかった。

 ビルの屋上から踏み切り、となりのビルの室外機に身体を沈め、蹴りつけ、開いた窓めがけて飛ぶ。轟という風を切る音を久しぶりに感じて嬉しくなった。窓のふちにまず右足をかけて衝撃を殺す。ステップするように廊下へ。左足、次いで右足が着地し、速度をおさえていく。右手小指付け根から廊下につき、肘外側、右肩、背中、腰。受け身も完全に決まる。

 なんだ、まだできるじゃないか、と満足げに一人にやつきながら立ち上がり、スーツのヨゴレをはたいていたら、こちらを見ている目に気付く。

 まずった。見られた。ああ、噂されるだろうなあ。変人扱いかな。ひょっとしたらクビまであるぞ。この人見た事あるな。となりの部署の人じゃなかったかしら。ああ、こんな男前を前にして空から飛んでくるスーツ女。

 冷や汗が背中を伝うが、背筋は伸ばして。こうなったらもう笑い飛ばすしかない。

 不敵な笑みを浮かべ、言ってやるのだ。

「驚きました? 私、実は空が飛べるんですよ」

―了―

id:mizunotori No.27

mizunotori回答回数37ベストアンサー獲得回数62009/01/18 12:19:57

ポイント11pt

 ドアを開けると先輩が飛び跳ねていた。爪先を揃え、髪を振り乱し、すとーんとーんとリズムよく跳躍している。先輩の巨乳が凶悪なまでに跳ね回っているがこれはどうでもいい。あたしは貧乳派だし。今日の見所は水色のしましまぱんつだわ。

「おはようございます先輩、今日はいったいなにをどうトチ狂ったんですか?」

 先輩はあら、とこちらに目を向け、

「飛翔、しかるのちに着地しているだけよ、おはよう後輩」

 そしてまた大きくジャンプ。可愛くぱんつ。いやいやぱんつに誤魔化されまい。この人はこんなので空を飛んでいるつもりなのか、空を舞っているつもりなのか。誰に何を吹き込まれたのか知らないが、“飛翔”の要件をまったく満たしていない。リリエンタールに謝れ。ライト兄弟に謝れ。

「先輩はばかです」

「ばかだわよ、でもそこが可愛いでしょ」

 そう言って彼女はようやく飛翔と着地のリピートを停止して、そばにあった椅子に腰掛け、すらりと伸びた脚をあたしに見せ付けた上で、それを組んだ。ぱんつが見えている。先輩はわざとらしく嘆息し、呟いた。

「上昇と落下、どちらが萌えると思う?」

 唐突すぎて理解できなかった。たっぷり五秒くらい水色のしましまを見つめてから、あたしは問い返した。

「……なんの話ですか?」

「飛翔と降臨、と言い換えてもいいわ」

「なぜ言い換える必要があるんです」

 あたしの問いに、先輩は答えない。

「ねえ後輩、わたし思うんだけど」

「聞きましょう」

「飛翔よりも降臨のほうが萌えると思うのよね」

「そもそも萌やす必要があるんですか?」

「すべての行為は萌えのために存在するのよ後輩。それでね、降臨してくる少女って、たしかにぶつかると危ないし、ぱんつも見えないけど、」

「足から落ちてくればスカートがめくれて必然的にぱんつが見えるのでは?」

「もう、いちいち口を挟まないでよ。そんな裏返った傘みたいな痴態に萌えは生まれないわ。落ちてくるときは頭からよ」

 ぱんつが見えればなんでもいいあたしと違って、先輩には妙な美学があるらしい。

「……どこまで話したっけ、そう、ぱんつも見えないけど、でもね、降臨には必ず終わりがあるのよ」

「終わり?」

「そう、落下していればいずれ地面に到着する。終わりがあるからこそドラマが成り立つ。逆に言うと、飛翔に終わりはないの。さっきわたしは『飛翔、しかるのちに着地』と言ったけど、正確に言えば『飛翔、しかるのちに落下して着地』なのよね。飛翔からダイレクトに着地することはできない、必ず落下ないし降臨を経由する必要があるのよ」

「まあ定義にもよると思いますけど、単純に考えればそうなりますね」

「つまり飛翔は降臨に頼らないと物語が完結しないの、飛翔単体で萌やすことは、不可能とまでは言わないけど、非常に困難なのだわ」

「なるほど、つまり萌えを目指すなら降臨したほうがいいということですか」

「ええそのとおり、そのまま死んでしまう可能性の高い、とても危険な道だけど……」

 悲しげにそう言って、先輩は目を伏せる。

「でも見てて後輩、いつかきっと降臨少女になってみせるから」

 決意の言葉を呟く先輩は、その発言内容を除けばとても様になっていたけど、残念なことに、唯一の観客であるあたしの注意は先輩の下半身にしか向いていなかった。


後日、屋上のフェンスにしがみついて震えている先輩が発見されたのだが、その話はまた別の機会に。

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