THEME:「今も耳に響く……イエの音、家族の音」
“ディア・ライフ”=『親愛なる日々』。イエは暮らしと人生の舞台。「LIFE」という言葉に、生活と人生の2つの意味をこめて、イエと家族のストーリーを語り合いませんか? 心のページに刻まれた思い出も、現在のイエでの愛しいワンシーンも。毎回のテーマに沿って素敵なエピソードを、豊かな暮らしを創っていく〈イエはてな〉のマインドで投稿ください!
*回答条件* 下記のページをご覧になってご投稿くださいね!
「Welcome to イエはてな」
http://d.hatena.ne.jp/ie-ha-te-na/20080731
テーマ詳細とアイデア例
http://d.hatena.ne.jp/ie-ha-te-na/20100519
※ピックアップ受賞メッセージは、〈みんなの住まい〉サイトにて記事紹介させていただきます。またメッセージは表記統一や文章量の調整をさせていただくことがございます。
※〈イエはてな〉では、はてなスターを「おすすめメッセージ」として活用しています。投稿期間中ははてなスターのご利用を控えていただけますようお願いいたします。
※質問は5月24日(月)正午で終了させていただきます。
我が家には昔アマチュア無線の受信機がおいてありました。その受信機が一年でもっともうるさくなったのが、コンテストというものが行われているときでした。コンテストは確かできるだけさまざま地域で、できるだけ多くの相手と交信するのを競うものだったと思います。禁止事項として同じ相手と2度以上交信してはいけないようになっていました。このコンテストが行われているとき、ものすごくにぎやかで、楽しくコンテストに参加しました。
いつもはあまりトンツーはしない私でしたが、コンテストの時はここぞ男気の見せ所とばかりに、電信(トンツー)部門で参加していました。
開始直前の静まりかえった空が、一気に電波と電波のぶつかり合いに変わるんですよね。あの熱気。忘れられません。
QRZ? DE J○1○○○ K
J△6×××
J△6××× 5NNxxxx 1ST6 VYTU K・・・・
どなたかお呼びでしたか?こちらはJ○1○○○です、どうぞ
J△6×××です。
J△6×××さんですね。コンテストナンバーは5NNxxxxです。最初の九州ですよ、すごく嬉しいです。どうぞ・・・・
一見無味乾燥な電子音と略語の羅列に、ほんと、心がこもるんですよね。もしかしたらid:momokuri3さんともid:w83さんとも 、コンテストのお空でお会いしているかもしれません。
私が子供のころから電気、電波に関することが大好きだったのは、間違いなく父の影響です。父もそういうことが大好きで、よく海外の短波放送を聞いていました。そして時々、音声の放送ではなく、ピーピーいうモールスに耳を傾けていたことがあったんです。それは子供心にも、とても興味深い物でした。
こんなの聞いて意味がわかるの?とたずねると、まあ8割くらいなら解読できるかなとのこと。父は特に無線の免許などは持っていませんでしたが、昔の電気電波好き少年は、常識としてモールス符号くらいは知っていたとのことでした。父が子供のころは「模型とラジオ(科学教材社刊・1984年廃刊)」「初歩のラジオ(誠文堂新光社刊・1992年休刊)」や「ラジオの製作(電波新聞社刊・1999年休刊)」といった電子工作を題材にした青少年向け科学雑誌が全盛期で、そうした雑誌を1年も読んでいれば、必ず一回くらいはモールスをおぼえようといった特集記事があったらしいのです。
ねぇ、これ何て言ってるの?と聞くと、父は聞こえてくるモールス信号を、鮮やかな手つきで書き取ってくれました。しかし見せてもらった紙は、2文字か3文字のアルファベットの組み合わせばかりが並んでいます。今のご時世、子供だって多少の英単語は読めますが、そのどれもが私の知らない文字列ばかりです。
「なに、これ」
「モールスの世界では言葉をそのまま打つことは少ない。ほとんどの単語が略語になっているんだ。このQから始まる3文字は国際条約で決められた世界共通コード。たとえばQTHといったら無線局の存在する位置という意味になる」
「この数字は?」
「こういうのは特に定めた決まりはないけれど、無線の世界では誰もが知ってる略語だね。73と言ったらさようならの意味。特に男性から女性に対して送る時には88という数字を使う」
「へー、面白い」
「この599というのはRSTコードと言って、最初のRは了解度、つまり信号の聞き取りやすさを5段階で表す。5が最高で完全に了解できるという意味。次のSはシグナルの頭文字で電波の強さを表す。普通のラジオ放送のように強く届いてくれば評価は9だ。Tはトーンの頭文字で、音の質を表す。ピーピー言う音が濁り無く聞こえれば9だ。無線の世界ではこういう情報を交わして、通信状態やそれぞれの無線機の状態を確かめ合うわけだ」
「へぇぇぇぇ」
少しダイアルを動かして別の信号を受信すると、今度は同じモールスでも、ちょっと崩れたリズムの音が聞こえてきました。
「こういう崩した打ち方をするのはベテランに多い。ほら今、トツーーート、と真ん中の音を長く伸ばしたね」
「うん」
「モールスではトツートは了解という意味なんだけど、この人は今、へぇぇそうなんだぁという驚きや感動の意味を込めて、真ん中の音をぐーっと伸ばしたんだと思うよ」
「そんなのもわかるの?」
「わかるよ。こんな原始的な通信方法でも、人はちゃんと心を伝えられるんだ。だから人間はすばらしい」
文章にすると実際の言葉のやり取りとはちょっと変わってしまいますが、「だから人間はすばらしい」という言葉だけは当時の記憶そのままです。無味乾燥にしか思えない電子音にさえ、心を乗せて飛ばすことが出来るんだ。この発見は、子供心にも人のすばらしさを強く印象づけてくれたように思います。
今、私がイエはてなにいるのも、この時の体験があったからかもしれません。文字だけの語らい。でもその中に、まるで相手の表情までが読み取れるような心が込められている。そういうコミュニケーションがここにはあります。
子供時代に触れたモールスから今はインターネットを介した通信へ。方式は大きく変わりましたが、でも通信は心を伝えるものという捉え方は、今もずっと変わりません。どんなに通信方法が変わっても、人はそれに心を乗せていくことが出来る。だから人間はすばらしい。子供時代に父と聞いた電波の音が、今も私にそれを教え続けていてくれます。