父の部屋の大掃除を手伝っていたら、ごっそりと写真が詰め込まれた箱が出てきました。父も既に忘れていた物だったらしく、へぇ懐かしいなと、掃除の手を休めて懐かしの写真鑑賞会が始まりました。ほとんどが学生時代の写真です。整理していない写真の束を実家から持ってきて、そのままにしておいた物のようでした。
服装も髪型も今とは随分違います。それだけでもとても面白い物でしたが、ハッと目を引いたのは、とある古いアニメの登場人物に扮した写真でした。
「こ、これって○○○○?」「おー、知ってるか。」「本編は見たことがないけど、一応有名だからだいたいは知ってる。」「そうかそうか。」
明らかにオタクが集まるイベント会場での写真ですが、父はそれを隠そうとしませんでした。むしろ熱く当時の作品や活動について語り始めたのです。これには驚きました。
「お父さんてオタクだったんだ。」「そうだな、でもお父さんの時代にはマイナーすぎて世間には知られてなかったから、そんな呼び方すらなかったけどな。」「同人誌作ってたの?」「お父さん達は実写映画作りが中心だったな。だから作品発表は大学での自主上映会が主だった。でも映像制作には資金がかかって、撮ってるよりバイトの方が忙しかったよ。」
そう語る父は、学生時代に戻ったようにキラキラとして見えました。
「本も何冊か作ったぞ。といっても評論誌だけどな。当時の同人界では、そういう評論活動も盛んだったんだ。本のテーマが決まると、みんなで草稿を書いて持ち寄って、それから討論会なんだ。作品の世界観の解釈一つを話し合うだけで丸一日費やすこともあった。そうして議論を積み重ねて、各自読み応えのある評論に仕上げていく。そういう過程が楽しかったな。しかし出来上がった本は悲惨だった。まだワープロもない時代だったから全て手書きなんだが、みんな字が汚いんだよ。」
「当時のコスプレは、今で言うコスプレとは随分違っていた。当時は大型フィギュアを作る感覚でロボットやアーマーや小道具などを作り、それを実際に身につける。衣装を真似してキャラに扮するというより、自分の製作物を発表することの方が中心だった。といってもお父さんは手先が器用な方じゃなかったから、随分苦労したけどな。」
今のオタクとはちょっと違う世界。でも魂は同じ。何だか父がとても身近に感じられてきました。一枚の古い写真から知らなかった父の一面が発掘されて、断絶しがちな青年期の息子と親との絆が深まったことは、今思うととても幸せなことでした。
父もあと少しすると仕事から解放されて、第二の青春を楽しめる世代になります。もしまだオタクという呼び方すら無かった頃の世代がもう一度創作の世界に戻ってきたら、面白いことになるかもしれません。父は、何か考えているようです。
父の部屋の大掃除を手伝っていたら、ごっそりと写真が詰め込まれた箱が出てきました。父も既に忘れていた物だったらしく、へぇ懐かしいなと、掃除の手を休めて懐かしの写真鑑賞会が始まりました。ほとんどが学生時代の写真です。整理していない写真の束を実家から持ってきて、そのままにしておいた物のようでした。
服装も髪型も今とは随分違います。それだけでもとても面白い物でしたが、ハッと目を引いたのは、とある古いアニメの登場人物に扮した写真でした。
「こ、これって○○○○?」「おー、知ってるか。」「本編は見たことがないけど、一応有名だからだいたいは知ってる。」「そうかそうか。」
明らかにオタクが集まるイベント会場での写真ですが、父はそれを隠そうとしませんでした。むしろ熱く当時の作品や活動について語り始めたのです。これには驚きました。
「お父さんてオタクだったんだ。」「そうだな、でもお父さんの時代にはマイナーすぎて世間には知られてなかったから、そんな呼び方すらなかったけどな。」「同人誌作ってたの?」「お父さん達は実写映画作りが中心だったな。だから作品発表は大学での自主上映会が主だった。でも映像制作には資金がかかって、撮ってるよりバイトの方が忙しかったよ。」
そう語る父は、学生時代に戻ったようにキラキラとして見えました。
「本も何冊か作ったぞ。といっても評論誌だけどな。当時の同人界では、そういう評論活動も盛んだったんだ。本のテーマが決まると、みんなで草稿を書いて持ち寄って、それから討論会なんだ。作品の世界観の解釈一つを話し合うだけで丸一日費やすこともあった。そうして議論を積み重ねて、各自読み応えのある評論に仕上げていく。そういう過程が楽しかったな。しかし出来上がった本は悲惨だった。まだワープロもない時代だったから全て手書きなんだが、みんな字が汚いんだよ。」
「当時のコスプレは、今で言うコスプレとは随分違っていた。当時は大型フィギュアを作る感覚でロボットやアーマーや小道具などを作り、それを実際に身につける。衣装を真似してキャラに扮するというより、自分の製作物を発表することの方が中心だった。といってもお父さんは手先が器用な方じゃなかったから、随分苦労したけどな。」
今のオタクとはちょっと違う世界。でも魂は同じ。何だか父がとても身近に感じられてきました。一枚の古い写真から知らなかった父の一面が発掘されて、断絶しがちな青年期の息子と親との絆が深まったことは、今思うととても幸せなことでした。
父もあと少しすると仕事から解放されて、第二の青春を楽しめる世代になります。もしまだオタクという呼び方すら無かった頃の世代がもう一度創作の世界に戻ってきたら、面白いことになるかもしれません。父は、何か考えているようです。