日本の美術館は、何故美術館所蔵物を常設展示せず、企画展示するところが多いのでしょうか?


日本の美術館は国宝や重要文化財等素晴らしい芸術品を所有しているにもかかわらず、
常設展示せず、期間限定の企画展示しかしないところが多いように思います。

有名な曜変天目等もごく限られた時にしか見れませんし、
近代日本画の巨匠の絵も、どれも皆ごく限られた時しか見ることが出来ません。
何故日本の美術館はここまで美術品を出し惜しみするのでしょうか?

ある程度美術専門の人ならともかく、一般人は一度行った美術館に3度も4度も行きません。
この美術館の出し惜しみが、日本で一般人から美術を遠ざけている大きな要因の一つではないかと
考えています。

美術品の劣化を防ぐため、という意見を良く聞きますが、劣化し易いと言われる日本画はともかく、
陶磁器や刀剣等、他国の美術館なら常設展示しているものまで企画展示しているのが不思議です。

また、日本画の国宝は劣化を防ぐため年間60日以上展示してはいけないという法律があると
聞きましたが、本当でしょうか?

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  • 終了:2012/03/12 00:05:07

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id:kumonoyouni No.1

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「国宝・重要文化財の公開に関する取扱要項」に次のような記載があるようです。


国宝・重要文化財の公開に関する取扱要項の制定について:文部科学省

庁保美第七六号

平成八年七月一二日各都道府県・指定都市教育委員会教育長あて文化庁文化財保護部長通知国宝・重要文化財の公開に関する取扱要項の制定について

このたび、重要文化財等の適切な公開に資するため、別紙のとおり国宝・重要文化財の公開に関する取扱要項(平成八年七月一二日 文化庁長官裁定)を定めました。ついては、今後、博物館その他の施設において重要文化財等の公開を行う場合には、この要項に基づいて重要文化財等を取り扱われるよう、貴管下の市(区)町村教育委員会及び博物館その他の施設並びに国宝・重要文化財の所有者等に対し、このことを周知されるとともに、実施について遺漏のないようお願いします。


別紙

平成八年七月一二日

文化庁長官裁定


国宝・重要文化財の公開に関する取扱要項

国宝・重要文化財(美術工芸品等。以下「重要文化財等」という。)の公開は、国民が文化財に親しむ機会を確保する観点から積極的に推進する必要がある。しかし、我が国の文化財は材質がぜい弱なものが多いため、公開によって貴重な文化遺産が損なわれることがないよう保存について細心の注意を払わなければならない。

このため、博物館その他の施設において重要文化財等の公開を行うに当たっては、この要領に基づき適切な取扱い等を行うことにより、公開と保存の調和を図る必要がある。

なお、重要文化財等の材質、形状、保存状態は個々に異なっており、実際の公開に際しては、それぞれの文化財に応じ専門的知識に基づいた責任ある判断を行う必要がある。

一 公開を避けなければならないもの

き損の程度が著しく、応急措置を施しても公開のための移動又は公開によってさらにき損が進行するおそれがある重要文化財等については、抜本的な修理が行われるまで公開を行わないこと。

二 公開の回数及び期間

(一) 原則として公開回数は年間二回以内とし、公開日数は延べ六〇日以内とする。なお、重要文化財等の材質上、長期間の公開によってたい色や材質の劣化を生じるおそれの少ないものについては、この限りでないこと。

(二) たい色や材質の劣化の危険性が高いものは、年間公開日数の限度を延べ三〇日以内とし、他の期間は収蔵庫に保管して、温・湿度に急激な変化を与えないようにする必要があること。

三 公開のための移動

(一) 原則として年間二回以内とし、移動に伴う環境の変化に十分な対応を行うとともに、重要文化財等の梱包又は移動の際の取扱いは慎重に行うこと。

(二) 材質がぜい弱であるもの又は法量(寸法)が大きいもの若しくは形状が複雑であるものなど、き損等の危険性が極めて高い重要文化財等は、移動を伴う公開を行わないこと。

四 陳列、撮影、点検、梱包及び撤収時の取扱い

陳列、撮影、点検、梱包及び撤収に伴う重要文化財等の取扱いは、十分な知識と経験を有する学芸員が行うこと。

五 公開の方法

(一) 原則として、展示物の大きさや展示作業上の安全性、機能性及び耐震性を考慮して設計された展示ケース内で展示する(法量(寸法)が特に巨大なもの及び材質が特に堅牢なものを除く。)とともに、展示ケースには次の措置を講じること。

[cir1 ] 展示ケースのガラス等は、十分な強度を有するものを使用すること。

[cir2 ] 移動展示ケースは重心の位置を低くし、横滑りなどの防止措置を施すこと。

(二) 重要文化財等の材質、形状、保存の状態を考慮した適切な方法によるとともに、次の措置を講じること。

[cir1 ] 展示ケース内の温湿度調整方法は、展示室の環境や構造及び管理方法を十分に考慮した上、適切な方法を採ること。

[cir2 ] 巻子装(巻物)のものなどを鑑賞の便宜のために傾斜台上に置く必要がある場合には、原則として傾斜角度を水平角三〇度以下にすること。

六 公開の環境

重要文化財等の公開は、じんあい、有毒ガス、かび等の発生や影響を受けない清浄な環境のもとで行うとともに、温度及び湿度の急激な変化は極力避けるとともに、次に掲げる保存に必要な措置及び環境を維持すること。

[cir1 ] 慣らし

多湿な環境に常時置かれてきたもの及び寒冷期に長距離を輸送されてきたものの梱包を解く時は、十分な慣らしの期間を確保すること。

[cir2 ] 温湿度の調整

温度は摂氏二二度(公開を行う博物館その他の施設が所在する地域の夏期及び冬季の平均外気温の変化に応じ、季節によって緩やかな温度の変動はあっても良い。)、相対湿度は六〇パーセント±五パーセント(年間を通じて一定に維持すること。)を標準値とする。ただし、金工品の相対湿度については、五五パーセント以下を目安とすること。

なお、温湿度の設定に際しては、同一ケース内に材質の異なる文化財を展示したり、展示する作品が展示の前に長期間置かれていた保存環境と大きく異なる場合などには、重要文化財等の種類及び保存状態に応じて適切に判断すること。

[cir3 ] 照度

イ 原則として、照度は一五〇ルックス以下に保ち、直射日光が入る場所など明るすぎる場所での公開を避けること。また、特にたい色や材質の劣化の危険性が高い重要文化財等については、公開期間(露光時間)を勘案して照度をさらに低く保つこと。

ロ 蛍光灯を使用する場合には、紫外線の防止のためたい色防止処理を施したものを用い、白熱灯を使用する場合には、熱線(発熱)の影響を避けるよう配慮する必要があること。

七 公開の協議

重要文化財等の公開がこの要項によりがたい場合には、事前に文化庁文化財保護部美術工芸課と協議すること。


ご参考になれば幸いです。

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id:kumonoyouni

博物館資料論 ?[資料保存によると、劣化の要因は

2-1. 劣化の原因

 光,温度,水,空気(酸素)が4大要因で,2つ以上の因子の相乗効果は大きい.
 密閉空間(光なし,温・湿度変化なし,酸素の補給なし)は,保存に最適.

1) 光
 光に含まれる紫外線は退色の原因となる.太陽光と蛍光灯は特に紫外線が強いので,紫外線吸収フィルターや退色防止蛍光灯を用いる.

 染料と顔料はともに退色するが,染料はより急激に退色する.
 →展示公開期間や資料にあたる光量と時間を制限する.

2) 温度
 高温は化学変化が起こりやすくなり酸化をうながし,老化させる.金属では錆や紙では黄化(ヤケ)など資料の劣化を促進する.低温や温度変化が大きいと堆積変化を起こし破損しやすくなる.

 一般的に保存に適した室温は,17~20℃.
 照明光源の熱は温度を上昇させる→クルビームランプ(熱線60%カット)を使用.

3) 水
 高湿ではカビが発生し,低湿では乾燥して破損する場合がある.
 一般には保存に適した湿度は55~65%.

4) 空気
 酸素による酸化は資料を老化させる.汚染された空気は亜硫酸ガス,硫化イオウ,などイオウ化合物や塵埃(ダニなど微生物)を含み,溶解や損傷の原因となる.

5) 塩分
 湿気を保って酸化をうながし,結晶化して破損を引き起こす.

6) ネズミや害虫
 キクイムシ,カツオブシムシ,シミ,シロアリ,ゴキブリなど→燻蒸

7) 菌
 アオカビ→殺菌(酸化エチレン,ホルマリン)

があり、陶磁器も塗料が使われてたりするので、常設しておくと劣化することが考えられます。

※関連サイト
 MUSEUM FACILITIES <コクヨ美術品・博物館・資料館用家具> Vol.2
 http://www.e-theoria.com/inquiry/pdf/catalog.pdf

ちなみにレプリカを常設したらどうかという話は、実際にそうしているところもあります。

例えば
国立歴史民俗博物館 - Wikipedia

歴博の常設展示においては、土器・石器のような長期展示可能なものを除き、実物資料の代わりにレプリカが多用されている。常設展示されていない実物資料は企画展示で公開される場合がある。「洛中洛外図屏風甲本」の原本は例年秋に公開されている。


TRENDY美術空間に記載のある

楓図壁貼付と松に秋草図屏風は、京都の智積院の展示室では、かなり間近で見ることができますし、本物の他にレプリカでも見ることができますので、国立博物館よりも智積院の方がお薦めスポットです。ですが、京都までの時間と交通費を考えれば、じっくり見ておきたいところです。離れてはいるものの、松林図屏と一緒に展示されることは基本的にないのですから、がんばって見たいものです。枯木猿猴図などもじっくり見たい作品ですね。

※関連サイト
 智積院庭園


俵屋宗達-風神雷神図屏風-(画像・壁紙)

本作は京都の建仁寺が所有権を有しているものの、保存状態や保護設備、資料的価値等の点を考慮し、現在は京都国立博物館に収蔵され、建仁寺には精密なレプリカが展示されている。


ご参考まで

2012/03/06 09:40:17
id:pke92Ldf2R

具体的な資料ありがとうございます。

リンク先の「本来,博物館は資料を良好な状態で保存する「蔵」の役割が大前提」という文章が
気になりました。
なるほど、博物館の目的は、一に保存で展示は二の次、という考え方もあるかもしれませんね…
色々考えされられます。

保存は確かに大事です。
国宝等は、何百年、何千年に渡る将来世代の人々も含めた共有の財産であり、
それを私達の好奇の目に晒させるために、一世代で食いつぶしてしまってはいけない。
しかし、展示も同等に大事だ、と考えます。

いかに価値のある美術品であれど、どんなにそれを最高の状態で保っても、
その価値を感じてくれる人がいなければ意味が無いはずです。
(あくまで美術品に限った話であり、他の文化財等はまた違う話です)
美術品を展示することは、その「価値を感じてくれる人を育てる」教育的意義があり、
そしてそれは保存と同等に重要なことだと考えます。

提示していただいた資料の通り、あらゆることが劣化の原因になる以上
保存を第一に考えればあらゆる美術品を蔵にしまっておくべきなのでしょうが、
展示と保存、その兼ね合いをどうするべきか、個別の美術品ごとに
考えなければならないということなのでしょうね。

それらを踏まえ、やはり日本の美術館は展示をしない期間は
レプリカ、あるいは写真、印刷物を展示出来るようになって欲しいと考えます。

2012/03/08 03:19:13

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