【人力検索かきつばた杯】Vol.74


テーマは『リクエスト』(http://q.hatena.ne.jp/1441341826 参照)
1.「滅亡」「タイムスリップ」「メタ」←自由選択
2.妖物なんぞ
3.壮大なSF
 以下、順次追加?

締め切りは9/15前後です。いろんな事情によって左右されます。多分伸びます。

詳しくはこちら。はてなキーワードさん↓
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%CD%CE%CF%B8%A1%BA%F7%A4%AB%A4%AD%A4%C4%A4%D0%A4%BF%C7%D5

なお、開催者がわたしですので、文字数は限界突破! 1万字前後まで受け付けます!! (140文字以内でもあり←ついったー小説家さん用)

返信は、感想的なのが良いのか、講評的なのが良いのかぐらいの希望を受け付けます。のんびりお待ちください。

以上です。

回答の条件
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  • 終了:2015/09/26 17:02:24
※ 有料アンケート・ポイント付き質問機能は2023年2月28日に終了しました。

ベストアンサー

id:a-kuma3 No.7

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ポイント200pt

『A YA KA SHI』


 世界中を巻き込む戦争が起こると言われながらも、最後の大きな戦争を覚えているのはデジタルなデータだけとなってから、数世紀が過ぎた。きな臭いことは何度かあったようだが、三度目の世界規模の戦争は何とか回避されてきた。

 アメリカは世界の警察を標榜し、中国は大国を脅かす位置づけのまま人口だけは増え続け、日本の国土は小さいまま、公用語は日本語のまま、世界の様相はたいして変わっていないまま、世界史で覚えなければいけないことだけが順調に増え、昔と変わらず学生たちを苦しめている。たいして変わらないと言っても、それだけの月日が流れれば多少の進化や進歩はするものだ。未だに自律した機械が人間を支配するようなことも無ければ、自家用車が空を飛ぶこともないが、惑星間航行の技術を手にすることができた。

 中国が押さえていたはずのレアメタルは、独占によって国際的な優位を保とうという国家戦略と、それを手繰り寄せるには未熟な技術。それと一部の層だけが富を享受するという社会構造のおかげで、その大半は石ころのままという期間が続いた。他の大国は、中国が保有する資源を当てにせず宇宙に活路を見いだそうとした。

 環境が過酷すぎて、ろくに採掘量をあげられない月に早々に見切りをつけたアメリカは火星に活路を見いだそうとした。幾つかの国を巻き込んだ一大プロジェクトは莫大な費用と十数年という歳月をかけて、人類が初めて火星の地に降り立ったのが二世紀ほど前のことだ。

 インドの調査隊が古代火星人のものと思われる廃墟をみつけたのは、テラフォーミングにとりかかってから数年後のこと。それらの全てを解析することは能わず、使い方の想像がつくものしか利用することはできなかったが、それでも人類が保有する技術は飛躍的に進歩した。

 そのおかげで、安全で持続的な核融合反応を行うことが可能となり、人類は化石燃料の枯渇によるエネルギー問題から解放された。またタキオン粒子の生成技術は従来の宇宙航法の限界を打ち破り、火星や小惑星帯くらいまでなら、一生のうちに何度も往復することができるようになった。惑星間航行技術と豊富なエネルギーを背景に、火星の開発は加速し、まだ人類が大量に移住できるほどにはなっていないが、火星は鉱物資源の貴重な生産場所となった。

 ロストテクノロジーの発見という幸運の他に技術の進化を促すものがもうひとつあった。いつの時代でも技術の進化を促すもの。それは軍事利用だ。

 人類は地球の重力圏から飛び出すことができるようになったが、各国間の利害関係や民族間のしがらみといったものを振り切ることは適わず、大きな戦争こそ起きていないものの、局地的な小競り合いはどこかそこかで行われ、大国間においては強大な軍事力をもって他国を牽制するという図式はずっと続いている。

 ここ火星でも、形式的には各国の領土というものは無く連合組織によって管理され、技術協力をしながら開発を行っていることになっている。それでも突発的な事態に備えるという意味で自衛的な軍備はここにもあり、そのことが地球とはまた違った新たな緊張の中に置かれている。表面上は火星開発のための技術開発という体裁をとっているが、その軍事的な応用開発が行われていることは公然の秘密となっている。

 改良されつつはあると言ってもまだまだ薄い大気と小さな重力の中では、鉱石の採掘ひとつをとっても地球上では十分であった技術もここでは効率的とはいえず、研究開発も活発に行われている。


「どうだい。君の機体だ。もう飛べるところまでは整備できている。明日にも初飛行といけるんじゃないかな」
「そうね」
「緊張してるの? シミュレータと同じさ。たくさん訓練したんだろう? 大丈夫だよ」

 彼の名はタケル。私と同じ十六歳だ。私専用の機体のメカニックを担当してくれている。といっても、もっと偉い人は別にいる。歳が近いということで話し相手という意味もあってのことだろう。実験用の機体とはいえ整備の大部分は彼に任されている。彼も年齢のわりには優秀な技術者ということだ。

 口数が少ないのは別に緊張しているからというわけではなく、いつもの私はこんなものだし、彼がしゃべりすぎるのだ。

 物心がつくかつかないかのうちに声を失った私は、音声によるコミュニケーションの習慣があまりない。この研究所にくるようになってからトーキーと呼ばれるマシンをもらって、こうやって音声による会話ができるようになった。私は、この研究所で行われている研究のひとつ、精神感応によるセンシングとコントロールについてのお手伝いをさせてもらっている。精神感応の研究は色物扱いだった頃も含めるとかなり昔から行われているが、あまり目立った成果は出ていない。

 このトーキーも精神感応技術の成果のひとつだ。話そうと思う内容を機械に送ることで合成音声に変換して出力してくれる。だれにも使えるわけではないらしく、私のように精神感応力の強い者にしか、まだ扱えないらしい。五感のうちのひとつかふたつを失ったものは、そういった傾向があるらしく五感を補うように精神感応力が鍛えられるのではないか、と主任は言っていた。

 多分、そういう傾向が一般的にあるのだろうが、私がトーキーなどを使える大きな理由はそれではないと思う。実は私の家系は代々 狐使いを生業としている一族だ。狐と言っても動物に芸をさせるというのではない。管狐と呼ばれる妖を使役するのだ。私も管狐を使役する術は幼いころから仕込まれている。そういったことが、いわゆる精神感応力と言うものが他人よりも強いという理由だと思う。

 人類が火星までも手中に収めようとしている現代でも、私たちのような人種がいるように妖もまた存在する。都市が灯りで満たされ夜の居場所がなくなったように見えても、彼らもまた住み処や生き方を変えながら生き永らえてきた。居なくなってしまった妖も多いが、管狐のように人間とのかかわり合いを持ちながら暮らしてきた妖は人間の変化に適応しやすいのだろうと思う。

 彼らと一緒に私たちの一族も昔と同じように続いてきた。あるときは治世に一国を動かすような関わりを持ち、あるときは目立たぬようにひっそりと息を潜めて暮らしてきた。そうやって、日本人が刀を腰に差して歩いていたときから、代々受け継がれてきた。私もまた、受け継ぎ、次へと伝えてゆく一人だ。そういう一族なので、いわゆる普通の人間とはある程度の距離を保ちながら生活してきた。私もそういったことは頭では理解しているつもりではあったが、幼いころから何というか閉塞感のようなものを感じることもあり、十歳を超えるころには外と関わる生活への憧れというようなものが具体的な感情として芽生えてきた。一族を束ねる祖父にお伺いを立てたところ、保守的な祖父の猛反対を覚悟していた私の予想に反してあっさりと許可が下り、祖父の伝手でこの研究所で働かせてもらうことになったのはついこの間のことだ。

 どこまで私たちのことを知られているのかは私には分からないが、こういった役割をもらっているということは一部の人達には私たちのことはある程度までは知られているのであろう。ある意味、モルモット的な役割だということも承知しているし、実験動物だと揶揄するものがいたことも耳には入ってきた。だが、外の世界に対する私の好奇心はそれに勝った。退屈極まりなかった私が持っている能力の確認と、火星で作業をするために必要なひと通りの訓練をこなし、それから更に数ヶ月の旅を経た後に、この火星の地を踏むことができた。火星まで来ると周りの雑音はほとんどなくなった。


「なあ、ナギ。せっかくだからこの機に名前をつけないか。もし良かったら、おれにつけさせてもらえると嬉しいんだけどなあ……」
「別に、かまわないけど」
「実はもう考えてあるんだ。『ファイアーフォックス』ってのはどうだい」

 長い時間を一緒に過ごすことが多い彼には、私の素性はある程度は話してある。理論と技術の世界に生きている彼のことなので、妖などは信じておらず私に話を合わせてくれているだけなのかもしれないけれど、彼のそういうところは嫌いではない。

「え、と……」
「大丈夫。子機の方もきちんと整備してある。言われた通りにスペースを空けて端子も露出させてあるよ。分かってる。皆には内緒だ。カイドウさんにも言ってない。重量も変わってないし、実際に整備をしてみなければ分かるはずはないさ」

「それよりさ、駄目かな。名前」


「やあ、ちょっと良いかな?」

 声をかけてきたのは警備隊のチーフであるミナカタだ。格納庫の入り口からゆうに十メートルはある距離まで私に気配を感じさせずに近づいてこられる彼も、いわゆる普通の人間ではないように感じる。

「もう少し実機での操縦に慣れてからにしたいと思っていたんだが……」

 格納庫内にボリュームを抑えた警報音が鳴り響き、彼の言葉を途中でさえぎった。

「エリアεから救助要請がありました。レーダーに未確認物体を感知。総員、第二級配備。警備隊は発進の準備をお願いします」
「!」
「と、いうことだ。警備隊の後方でセンシングをやってくれれば良い。出られるか?」
「…… 行けます」
「よし、出動は十五分後だ。準備をしておいてくれ」

 私の返事を聞くつもりがあったのか、半分も聞かずに背を向けたミナカタは片手をひらひらと振りながら格納庫を出てゆく。

「大丈夫かい? いや、整備はできているけどさ……」
「うん、多分。訓練しかやることがなかったから操縦はできると思う。それに、この子たちもいるから」
「そうか。トーキーはきちんと無線機につないでおけよ。ぼくも準備にかかる!」

 彼が信じているかどうかは分からないこの子たち。私が使役する管狐はジャケットの内側で良い子にしている。昔ながらの竹筒は火星には生えていないので、彼らの休憩場所は無機質なアルミのチューブの中だ。彼らにも現代っ子というのが要るのかは知らないが、結構 お気に入りの場所らしい。

   ───

「全機、聞こえるか? 五号機、ついてきてるな?」
「ナギ、追尾してます」
「よし。全機、レーダーを確認。インド第二管区、いやエリアεにはアメリカの部隊が先に向かっている。未確認物体は推定ひとつ。その大きさは推定百二十メートル以上。どうやら、レーダーでもはっきりと判別できていないらしい。この大きさが正確なら母船級だ。地球外生命体とのコンタクトの可能性もあり得る。各自、落ち着いて行動すること。以上」

 確かにレーダーにははっきりとしない影がエリアεの辺りに映っている。ESPセンサーの感度を徐々に上げながら精神をエリアεの辺りに集中させる。大きな影は動きながら形を変えているイメージが伝わってくる。

(何、これ?)
(キカイ、じゃあない、よね)

 勝手に顔を出している管狐の九重が一丁前にレーダーをのぞき込みながら私に語りかけてくる。

(これ、まさか……)

 先行しているアメリカの部隊からの映像がパネルに映し出される。エリアεがあったはずの一帯は緑色のぬらぬらとした物質に覆われている。周りの岩石や基地の一部、掘削機などを取り込んで徐々に大きさを増しているように見える。

「こちら、ガーゴイル・ワン。エリアεは壊滅的だ。これより未確認物体に攻撃を仕掛ける。ジャパンの部隊には後方の支援を要請する」

 十数秒後、アメリカの部隊から放たれた数基のミサイルが緑色のゼリーに着弾する。大きな火柱に包まれ一部は霧散したものの対象が大きすぎるせいかダメージを与えた様子はない。アメリカの部隊が第二段の攻撃に移ろうとしたその刹那、緑色のゼリーの中央がめくれ上がったと思うと大きな目玉のようなものが現れる。緑色の閃光を感じたように思ったその後、接近していたアメリカの機は制御を失いあるものは地面に向かい、あるものは未確認物体の方へと突っ込んでいく。

「あれを見ちゃダメ! 光学映像のモニタを切って!」

(あれは…… 妖だ)

 人が言う生物なのかどうかははっきりとはしないが妖は確実に存在した。それを知っている者も気が付かぬ者もいたが、それは確実に存在していたことは私たちがよく分かっている。地球から遠く離れた火星にもその昔には人類がいたらしい。では地球で妖と呼ばれる存在がいても不思議ではない。あの類の妖は地球にもいた。あの光を放つ目を見ると人間は魂を抜かれてしまったり、石にされてしまったりというやつに違いない。

 緑色の物体に取り込まれた掘削機から放たれたレーザーが、日本の部隊の機を襲う。レーザーが推進器をかすめた二号機が推進力を失って地表へと落下してゆく。

(取り込んだ機械を操れるの? どうすれば良い!?)
(あいつの中心にある核を打ち抜けば良い。君たちが使っている火矢で十分だと思う。ぼくらがナギの目になる)
(でも、どうやって……)
(そのために、この乗り物には ぼくらが乗れるやつも付けてあるんだろう?)

 そういった九重はあっと言う間にチューブから飛び出して消えていった。私は残った五本のチューブの蓋を開け狐たちに命ずる。

(お願い、私の目になって!)

 白い筋がチューブから飛び出たかと思うと、あっと言う間にコクピットから見えなくなった。ナギは機首をエリアεの方に回し、ミサイルの発射手順を思い出す。機の正面では、蹴散らしたはずの小蠅がまたたかってきたのに気が付いた緑のゼリーが長い触手の先に取り込んだ掘削機を振り回しレーザーの剣を振り回す。

(ダメ! 近づけない)
(ぼくらがやる。打ち出して!)

 ナギが六つの子機を順に発射すると、それぞれに意思があるかのように掘削機から放たれるレーザーをかいくぐり緑のゼリーに向かってゆく。みるみるうちに近づいてゆく子機からビームがばらばらと放たれる。狙いが定まっていないように見えたビームが日本、三本と緑の触手に集まると、組織がずるりと崩れ先端に掘削機を取り込んだ職種はどさりと地に落ちる。

(ナギ! 分かるね?)

 感じる。
 六つの子機に乗った管狐たちのイメージを。
 機の前方、左右に三機ずつ一列に並んでいる。
 二本の直線が交わるところ。

 そこにやつの核があるはずだ。


(分かるよ! そこを狙えば良いのね?)

 指先が白くなるまで操縦桿を握りしめていた親指をゆっくりとはがし、震える指先でミサイルのロックを外す。深い呼吸をひとつして発射ボタンにかけた指に力を入れる。静かに放たれたミサイルは、一瞬の後に点火したバーナーの火柱を残し一直線に緑のゼリーに向かってゆく。中央に大きく見開かれた目玉が自分の運命を悟ったように思われた瞬間、目玉の中央に吸い込まれたミサイルが薄い火星の大気の中に大きな火柱を上げる。

「ナギ! 戦域から離脱しろ!」

 ミナカタからの指示が耳に突き刺さる。そんなに大きな声を出さなくても、もう大丈夫なの。子機の回収命令をオートコントロールに指示し、ゆっくりと機首を回す。もう、あいつからの攻撃はないはずだから……


   ―――

 帰った子機から戻って来た管狐たちが全てチューブの中に入ったことを確認して、ようやく今の状況を考える余裕が出てきた。やはり、少しは緊張していたらしい。ミナカタは私の機が大丈夫だということを確認した後、無線の向こうで沈黙を続けている。ベースに帰ったら、いろいろと説明をしなければいけないだろう。でも、いったい何をどこまで…… 火星にも妖がいて、私は妖の扱いに慣れているので それの弱点も見当がついたので、管狐たちと協力してやっつけました。という説明がすんなりと受け入れられるとは到底 おもえない。

(あの食えないじいさんが、すんなりと火星行きを許してくれたのは、こういうことだったのか……)
(さあ、ね)

一匹だけチューブに戻らずに、操縦かんを握る右手にとぐろを巻いている九重が応える。


 遠い地球の地で祖父がにやりと笑ったような気がした。




(了)

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id:grankoyan2

好きです。
ソウルが溢れているというか、妖と未来科学。
王道(好きなもの?)の組み合わせって書いてて楽しいですよね。それが伝わってくるのです。

これから始まる壮大なストーリーの序章。
先の事なんか考えてないかもしれませんが、とてつもない何かが始まる予感がします。

アニメ化を所望します。
というわけで、ぶっちぎりでいるか賞(←死語)ですっ!

2015/09/26 17:06:38
id:a-kuma3

いるかをありがとうございました。

「スペースオペラ」という縛りと、自分で出した「妖」のお題をくっつけただけなので、どこかで見たような感じは否めませんが、書いてて楽しかった♪
途中からアニメの第一話をイメージしながら書いてました。

半分はあろうかという舞台設定の説明も、文章としては もっと工夫が要るんでしょうけど、主人公の声でしゃべってると思ってるから(自分では)あまり気になってないという。

最近、かきつばたをずっとサボってたので、かなりスッキリしました :-)

2015/09/26 23:29:43

その他の回答15件)

id:a-kuma3 No.1

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ポイント35pt

「 T is for Timeslip 」    


今度の台風もすごいねえ。いつかの台風のときも地下街に水が流れ込んでくる映像がニュースで流れてたことあったよね。地下街に降りる階段をざあーって水が流れ込んでくるやつ。
目の前であれだと、びっくりしちゃうよね。

ポセイドンアドベンチャーだっけ。閉鎖空間に水が流れ込んでくるやつ。
どんどん水が流れ込んでくるから、天井がどんどん近くなってきて閉所恐怖症の気があるから、想像するとちょっと恐かったね。
まあ、泳げないからその前にお陀仏になっちゃうだろうけど。


そうそう、びっくりしたといえばさあ。こないだ、いきなりタイムスリップしちゃってさあ。
多分、とんでもなく未来。
いきなりくらっときて気が付いてみたら、周り一面焼け野原みたいな所なんだよ。
空が赤黒い感じの雲で覆われてて たまに稲光なんかが光っちゃうし、さながら世界の滅亡の瞬間に立ち会っているような感じ。
妙に蒸し暑いし、濡れたら何だかヤバそうな感じのスコールのが突然 降ってくるんだよ。
それに、ミサイルだか隕石だか分からないんだけど、ときおり爆発音とかするわけ。
一日も経つと腹もへってくるしさあ。何が起きてるかなんて理解できてないし、意識はもうろうとしてくるし。
もうメタメタよ。

どうやってそこに行ったかなんて分からなってないから、自分で帰るってわけにもいかないし。
そうだなあ、一週間くらいは居たんだろうなあ。

え? 一週間も飲まず食わずだったら死んじゃうだろうって。

それがねえ、二日 経ったくらいかなあ。
メカニックな感じの物置小屋くらいの大きさのものを見つけてさ。っていうか、急に現れたような気がするんだよね。
暑いわ、腹は減ってるわで、ぼんやりとはしてたんだけど、そこにそんなものは無かったはずなんだよ。

それがさあ。どうも屋台みたいなものらしいのよ。まあ、屋台かなと思ったのは後のことなんだけど。
手の形が書いてあるパネルみたいのがあって、そこに手を置くとさ、頭の中に声が響いてくるの。
「ご注文は?」って。
うん。大きな自動販売機という感じじゃないんだ。きっちりと箱型をしてるんじゃなくて、切り欠きがあるのよ。腹の高さくらいから頭よりもちょっと高いくらいのところまで、こう、ちょうどカウンターみたいな感じでね。

それでね。マジで腹減ってたし、なんで声が聞こえてくるのとか、そんなことよりも、餃子くいたいなあ、とか、ラーメンも良いなあとか、焼肉とか寿司も美味しいよなあとか、そういうことしか頭に浮かんでこないわけ。そしたら、目の前のパネルに餃子とかラーメンとかの画像がぱーっと並ぶのよ。
ついタッチしちゃうじゃない。もう、なんにも考えてなかったね。そしたら「かしこまりました」って声がまた頭に届くのよ。目の前のパネルがカウントダウンに変わって、そりゃあもう、どう考えても出来上がるまでの時間じゃない。

カウントが減ってくると匂いがしてくるんだよ。
腹はぺこぺこだし、本当に待ち遠しかったね。

パネルの表示がゼロになると、表示が「お待たせしました」って変わってさ。そう、そこだけはパネルに文字が表示されたね。
湯気がたってて、もう見るからに皮はパリパリで中はジューシーな感じの餃子がすうっと出てきたのよ。タレや辣油はもちろん、きちんと白いご飯と箸も一緒にね。餃子は羽根がついてて、いい色の焦げ目がついててさ。メイラード反応って言うの。見た目とか匂いとか、もうヤバいわけよ。

旨かったねえ。

腹へってたこともあるかもしれなかったけど、本当に旨かった。食べたら本当の意味でヤバいんじゃないかなんて考えるような冷静さはこれっぽっちもなかったよ。

突然 現れたから、消えるのもいきなりかと思ったんだけど ずっと残ってたね。
焼肉やラーメンも食べたよ。天ぷらやウナギも食べたし、ビールも飲んだよ。

え、都合が良すぎるだろうって。うん、そうだよね。
思うにさ、この世界でも迷い込んできた野生動物を保護したりするじゃない。
自然に返す前に餌さとかあげてさ。
そういうのじゃないかと思ったんだ。


それにさ、世界が滅亡するようなときには、飯屋(メシア)が現れるのが定番じゃない。



(おしまい)

id:miharaseihyou No.2

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ポイント30pt

2050年、ある隕石の落下から世界は変わった。
異常に密度の高い、その隕石は、後にHAZARDとあだ名されることになる。

太平洋上に落下した隕石は直接の被害もほとんど無く、学術調査も一年以上経って予算が付いてからだったが、落下から数ヶ月後に太平洋沿岸の諸国で奇妙な事故が発生し始めた。

一番最初はハワイのリゾートホテルだった。
カードでの支払いができない客が大量に発生した。
困り果てたホテルの経営者は客に頼み込んで、臨時に借用証を書いてもらってその場を凌いだ。
その頃から各地のサーバーや個人のパソコンがエラーを頻出させるようになった。
一ヶ月後には銀行のサーバーまでがダウンするに及んで、世界経済はパニック状態に陥った。

先行して開始されていた調査により、原因は新種のウィルスによる金の食害であることが判明した。
このウィルスは電気を良く通す金属に付着して、電力を栄養にして繁殖する。
シールドしてあっても、わずかな接点から侵入して、最終的には電子回路そのものを酸化させ、不良導体に変えてしまう。
最初は接点だけの不良だったとしても、徐々に内部に入り込んで、全ての金部品を作動不能にしてしまう。
銀や銅で素子を作ったとしても、寿命を延ばすことにはなっても、それほど永持ちしない。

数ヶ月後には既に世界中の銀行が営業を停止し、管理をコンピュータに頼る全ての大企業も崩壊寸前だった。
規模のメリットが逆の意味で使われ、大企業は文字通り手書き算盤で管理可能な小企業の集団であるグループ企業に変身し、様々な理由で徐々に崩壊していった。

銀行が崩壊した結果、通貨は旧来の紙幣硬貨がしばらくは使われていたが、徐々に物々交換に近い形に変化した。
収入を奪われた大都市の住民は難民と化し、そのまま移動できなかった人は数年で餓死した。
以前は見捨てられていた山野に人々は農地を求めて分散し、帰農した。

一方、機械化された全ての産業が全滅したわけではなかった。
製鉄や造船はIC化されていた全ての部門を可能な限り手作業に置き換え、物資とエネルギーが不足する中で生産を維持した。
電力会社も手作業で停電が頻発する中でも、一時的には無料奉仕の状態で送電を維持した。
特に大口の産業電力で存続可能だと思える会社には優先的に送電が行われた。

高速鉄道や航空会社は全滅したが、マニュアル制御可能な旧式の鉄道は営業母体まで変化させながらも辛うじて存続した。
電話会社は電話線網が全滅して潰れたが、送電線網を持つ電力会社は情報量が激減しながらも、送電線経由の通信で最低限の通信網を維持した。

斯くして、世界各地で、わずか数年で、農業を主体とする地方社会と、重化学工業を主体とする産業社会が、物々交換に近い手形取引をベースとして国家を再合成した。
世界人口は数分の一にまで減少した。


神戸の街は、港に面している。
朝は良子の好きな時間だ。
眠い目を擦りながら、きらめく海を見るのが彼女の日課である。
普通の客は夜半までには帰ってしまうので、朝の彼女を邪魔する者はほとんどいない。
売春宿の二階から青い水面をぼんやりと眺めながら、皆が起きてくるまでの時間を過ごす。

昨夜は良夫が来た。
良夫というのは偽名で、本名は辰夫といい、寄せ場人足の若頭である。
良子を身請けするから女房になれと迫ってきた。

良子は長い黒髪を撫でながら思った。
「誰が言うことを聞くモンか!」
どうせ数ヶ月で別の女を作って来なくなる男など欲しくない。

撫でている黒髪のおかげで、彼女は大分と得をしている。
客の少ない妹分は、宛がい扶持を減らされて、流行病でいなくなった。
田舎に行けばここまで堕ちることもなかったかもしれない。
だけど、彼女はこの街が好きだった。

身内は誰も彼もが、生きているのかどうかも分からない。
優しかった父としっかり者の母は、最初の暴動の時に巻き添え喰らって死んでいた。
妹がいたが、どこにいるのやら。
そんなことを思いながら、少しだけ目立ち始めたお腹をそっと触る。
この子だけは産んでやりたいと、苦海に沈みながらも願う彼女であった。

id:a-kuma3 No.3

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ポイント40pt

「It feels trashed-out because of META」    


「またゲーム? こんなところで」
「別に良いじゃないか。電力の供給には余裕があるようだし、何よりもここは誰にも邪魔をされない」
「キースが探してたわよ。何か頼みたいことがあるって」
「な?」

 コクピットの上からのぞきこんでいるアーリンがけらけらと笑う。

「また、いつものをやってるのね」
「ああ。終わりがあるようで実はずっと続けられる」
「よく飽きないわねえ」

 好奇心に満ちた赤い目をくるくるさせながら、また同じことを聞いてくる。

「資料映像だってろくに残ってない時代を題材にしてまで戦闘シミュレーションなんて。まあ、ろくに戦闘もない辺境の地に配備されて退屈してるということなのかもしれないけど」
「昔の時代が題材ではあるんだけど、もうちょっと凝っててね。ある時代の戦闘部隊がタイムスリップして更に昔の時代に来てしまう。飛ばされた時代では、世界中を巻き込んだ戦争が行われていて、そこにまきこまれてしまうんだ」
「未来から来たのが相手じゃ戦争にならないんじゃないの?」
「技術的には進んでいても、魔法がある世界だ。それに人数的には圧倒的な不利。資源はあってもそのままでは戦闘物資としては利用できない。そんなに簡単じゃないのさ。火力という意味では圧倒的だから、世界を滅亡させる恐怖の帝王が現れた、というような扱いなんだけれども……」
「キースが探してたことは伝えたわよ」

 何度目かの説明を また途中でさえぎって、アーリンはずんぐりとした機体からひらりと飛び降りる。

「戦闘の合間のひまつぶしに戦闘するなんて、異国の方の考えは私には理解できそうにないわ」

 ひらひらと手をふって笑いながら格納庫を出ていくアーリンの姿は、コクピットの中にいても見えるようだ。


 彼らの間では、おれは訳あって遠い国からここに流れ着き、素性については明かしたくない、ということになっている。彼らにとって、おれはちょっと変わっている異邦人だ。おれが、いつのどこに、どうやってやって来たのかということに比べると些細なことかもしれないが、彼らのことを理解できないのはこちらも同じだ。

 宇宙空間で戦闘ができる程度には発達した技術を持つ彼らだが、どうやら、その技術の中身を理解しているのがいないらしい。ここに来てからの短い間でおれが行ったことがないずっと中央の方にはいるのかもしれないが、立ち寄った都市や集落の様子や、ここと本部との通信内容を聞いても、どうやらそうらしいのだ。装置の使い方やそのメンテナンスは半分以上は自動化され、残りは完璧な保守マニュアルのおかげで、この年期の入った機体でも現役で飛ばすことができる。

 操縦も保守も大半がコンピューター制御されているというのに、その存在をあまり意識してないことも不思議だ。保守マニュアルだけではなく、開発用キットやリファレンスなども存在しており、この機体搭載用のコンピューターにすら入っているというのに、保守と使用という以外の行為は頭にないらしい。

 一番使われているらしい言語は見たことが無いものだったが、それほど難しいものではない。おれの知識や経験でも扱えるようになるまでには大した時間は必要が無かったくらいだ。というよりも、随分と古いはずの知識でも理解の外にあるような概念や記法がほとんどない。プログラミング言語はあまり進化しないということはよく言われていたが、どうやら本当だったらしい。コクピットのパネルに映されているこのゲームも持ち込んだ携帯ゲームを取り込んだやつだ。彼らにとっては、維持しながら使えれば十分なマシンの違った使い方を知っている少し変わったやつ、というだけでそれ以上の興味はわかないらしい。まあ、そのおかげでこうやって、食料と居場所らしきものが手に入っているわけなのだが。


 ふいにアラームが格納庫内に鳴り響く。

「第一種戦闘配備! アタッカーは各自、出撃の準備!」

 どうやら、これからリアルな方が始まるらしい。

 メインのストーリーモードの方でデータを保存し、オートバトルジョブを二つほど設定する。こっちの城は弾薬を節約しつつ前線を少し前へ。メインの前線の方は守備を主体にして、エリアをふたつほど下げた位置に移動するように設定する。こっちの離れた村にも、一応 牽制をかけておこう。騎馬をいくつかまわしておけば良いだろう。帰還するまでの時間なら、三つのジョブが適当なところだろう。

「ヒロト遅れてるぞ!」
「はいはい。すぐに行きますよ、っと」

 まだスイッチを入れていないマイクに返事をすると、発進の準備にとりかかる。フロントパネルのゲームを消し、通常の画面に切り替えて、シートベルトを装着してから発射位置への移動プログラムを起動する。実機のコクピットにいるわけだから、出撃まではそう時間はかからない。

 グリーンランプを確認した後、カタパルトの発射ボタンをタップする。発射後の軽いGを感じている間に、二回ほど緩いカーブを通過すると、そこはもう射出口の外だ。射出されたずんぐりとした機体についた厚めの翼が密度の高い大気を切り裂く。姿勢制御完了の文字がゴーグルに表示され、メインエンジンが点火される。

「ヒロト出たぞ。どこだ」
「A7のエリアから二時の方向。レーダーに敵の機影がみえない。数は少ないと思うんだが、低空で近づいてきてるらしくて、よく分からない」

 左手で握ったサブの操縦桿をぐいっと傾けて機首をA7の方に向ける。A7の二時の方向には、峡谷が二本通っている。数が少ないのなら、敵の侵入経路は狭い方だ。

「ルート187に向かう。峡谷の上の方を頼む。こちらは正面から迎え撃つ」

 先に出ているはずの二人に指示を出し、セミオートモードに切り替えてブースターに点火する。急激な加速で数を増したカルマン渦が機体を揺さぶる。数秒で加速のGは弱まり、A7エリアの地形データを確認してナビゲーターにロードする。一番狭いところで、幅は機体の三、四倍というところか。クルーズコントロールは弱めでも大丈夫そうだ。

「ヒロトだ。後、二十秒ほどで着く」
「バッカス、了解」
「アーリン、了解したわ」
「あと十秒で谷に入る。明かりを頼む。七、六、五……」
「照明弾 打ちます」

 濃密な空気を照明弾の明かりが浸食してゆく。

「上は任せた。谷に入るぞっ」

 谷のよどんだ空気に突っ込むと、更に数を増した空気の渦が翼を引きちぎらんばかりに揺さぶってくる。

「機体制御良好。索敵モードに入る」


 コンソールパネルをしまい、メインの操縦桿を両手で握る。フロントに映る映像に神経を集中する。通常の重力波感知によるものに赤外線映像のデータをマージして感度を上げてある索敵システムに、敵の機影がぼんやりと映し出される。機影は三つ、いや、四つか。最初の一撃で二機、できれば三機。ぼんやりと映る機影にミサイルの照準をロックする。

「ファイア!」

 機体下部から放たれた四本の矢は、重い大気を切り裂きながら火柱をひいて敵機へと向かう。頭についてあるセンサーのうちのひとつだけ感度を少しだけ下げてあるミサイルは、密度の高い大気の抵抗を受けて不規則な螺旋を描きながら目標に向かっていく。ミサイルがまき散らす赤外線の陰に入るように機体をやや下げた位置に移動させ、第二撃の準備をとる。

 高熱源を感知したらしい敵機がミサイルの迎撃行動をとり始める。こちらのものよりは何十倍かは強力なレーザーがよどんだ大気を切り裂き、機体のシールドをチリチリといたぶる。パワーがあるとは言え、はっきりとこちらの位置は分かっていないはずだ。

「まだこの距離じゃ当たらないさ」

 第二撃のミサイルのうちの二発をはっきりと映っている機影に、もう二発のミサイルを谷の上部に照準をロックして発射する。レーザーの照準をゴーグルに表示し、メインの操縦桿のロックをパチンと外す。

「さあ、集中!」

 先に撃った四発が次々と爆発する。多分、直撃はしていないだろう。ミサイルが放った熱線のハレーションをカットするためにパネルの表示の感度が下がる。映される映像は重力波だけのモードと変わらくなったが、ヒロトは敵の位置ははっきりと把握している。後で撃った二発が敵機を捕らえて炸裂し、敵機が炎に包まれる。爆炎のすぐ近くを下からくぐり抜けざまに残りの敵機の位置をすばやく確認する。

「残り、二機。もらったっ!」

 すれ違いざまに発射されたレーザーが敵機の中央を貫く。頭上では残りの二発のミサイルが少し遅れて爆発する。降り注ぐ大小の岩が、レーザーを食らって制御を失いかけた一機に止めを刺した。

「後、一機」

 熱線の嵐から自分を取り戻したモニタが頭上に最後の一機を映し出す。岩石のシャワーを巧みにかわしながら谷の開口部に向かっている。

「上に逃がした。頼む!」

 谷の中から吹き上がる爆発を目印に、既に迎撃体勢にあったマーリンとバッカスは、飛び出してきた敵機の後ろをピタリととる。

「この距離なら!」

 二機から放たれたレーザーは大気に力を奪われながらも敵の制御を失わせるには十分だった。推進力を失った機影はフラフラと大地に降下してゆく。

「リアルなやつは、やっぱりキツい。プレイヤー数は、ひとつだけだしなあ。とはいえ、ゲームでしか戦闘機なんて操縦したことがなかったおれがこうやって敵を撃ち落としてるんだから、実際、すごいテクノロジーなんだよな、ここのは」

「さすがね、ヒロト」
「運が良いだけさ」

 自らカスタマイズした索敵システムで補っているとはいえ、今回で二度目という圧倒的に少ない実戦経験。ゲームで鍛え上げた反射神経があるにしても、ただのゲーム好きなプログラマにしては上出来すぎる成果。芸は身を助くとは、よく言ったものだ。しかし、結果の大半は この時代のテクノロジーのおかげではある。

「一機は損傷が少なそうだ。回収に行ってみるか?」

 前回の出撃で敵の機体に興味を示していたのを覚えててくれたらしい。マニュアルがない敵機の残骸は、彼らにとってはゴミ以外の何物でもない。おれにもハードのことなんかはよく分からないが、あの強力なレーザーはものにできれば、かなりの戦力アップになるだろう。重力波と熱線のデータをマージした索敵システムは、まずまずの感度だし、ハレーションの制御も良い感じで対応できている。そろそろ他の機にも組み込んでみても良さそうだ。

 先に着陸したアーリンとバッカスが、もう敵の機体のすぐそばまで行っている。少し遅れて着陸し、ハッチを開けたおれの目に、敵のコクピットに動く影が映る。敵兵が生きているのかもしれない。

「危ない!」

 腰のハンドガンを抜くと、やや距離はあるが牽制の意味も含めてコクピットに何発かぶちこむ。

「何よ急に! 危ないじゃない!」
「危ないのはそっちだろう。まだ生きてるかも」
「ああ、ヒロトは初めてだったか。大丈夫だから、こっちに来いよ」

 ハンドガンの狙いを定めたまま、警戒を解かずにコクピットをのぞきこむ。

「なんだ、機械?」
「そうだ。この辺りに攻めこんでくるのは大体こいつらだ」
「近寄っても大丈夫よ。こいつら、戦闘機を操縦する以外には何もできないから」

 ロボットとも装置とも形容しがたいものが、開けられたハッチの中でうねうねと四本の機械の手を動かしている。確かに、肉弾戦が得意なようには見えない。

「どうだ、使えそうか」
「分からない。これ、ベースに持ち帰っても良いかな」
「ヒロトならマニュアルが無くてもなんとかしちまうかもな。他の者に取りに来させる。おれたちは帰ろう」

 大昔の USB が下位互換で認識されるような世界だ。接続の方式に、そう何種類もあるわけはないだろうという期待はある。現在位置をベースに通知すると、各自の機体に乗り込んで帰投する。帰り道の操縦はオートパイロットに任せて、ゲームの続きだ。



(ん、やられてる?)

 表示したゲームの画面では、オートバトルジョブに赤い×印が表示されていた。多少わきを固める程度のつもりで回しておいた騎馬の小隊が全滅していた。この時代の兵士たちだけだったので戦力的には補充は利くので、痛い損失ではないが、そう簡単にやられるような駒ではなかったはず。まだちょっかいを出していなかったところとは言え、マップ上 たいして重要なところとも思えないし、それほど強い敵が回されているはずはない。詳細データを表示すると、どうやら一騎は捕虜にされたらしい。


 辺境地区への牽制攻撃、自動戦闘、想定外の全滅、捕虜、タイムスリップ……

「!?」

 認識という名の波に脳髄が包まれる。常識的にありえないという判断基準の重さは、タイムトリップという非現実的な状況に陥っているおれにとっては、羽よりも軽い。


 まさか。まさかな……

 思考のみで問題解決が遠そうなときには、実行によって手掛かりを探る。今までも何度も繰り返したパターンだ。前線に置いてあった主力部隊を辺境の村の方に移動させる。異動が完了するまでに、十五ターンというところか。何日後のことかは分からないが、結果が出るなら数日のうちのことだろう。


 もし想像の通りならば、この時代のことが好きになりかけている自分は、ゲームのプレイヤーとしての自分と逆の陣営にいることになるということは考えないことにして、ターン終了のボタンをタップする……



(多分、続かない)

id:takejin No.4

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ポイント20pt

「あ」

「セーフ。音立てちゃダメ。シーッ」

「これをここにおいて。と、ここを叩いて」
「わっ」
「うわうわ、落ちる落ちる」
「っぶね。なにこれ。音叉じゃないか。ブーンって」
「水野さん、起きてたの」
「望月君に起こされるくらいなら、寝てた方がましだ」
「え。その論理は成り立たな」
「とにかく、その音叉で起こすのは失敗だ」
「第3稿はどうなりました?」
「ここにある。っと、この本何?あ、○○の証人の小冊子」
「ふ、伏字ですか」
「面倒な団体だからな」
「人類は審判にあって、滅亡するんですって。ハルマゲドンとかなんとか」
「それ買ったの?」
「いや、置いてった。いろいろしゃべってたら、あきらめたらしい」
「その調子でしゃべってたら、そうだろうな」
「どんぶりに春巻きの卵とじが乗ってる定食だよな」
「??」
「春巻き丼。がなまって、ハルマゲドン」
「三浦春馬が出ているゲド戦記はン?と言う出来」
「アニメよりいいんじゃないの?それ」
「春の魔物は外道」
「ンはどうした」
「ン?しまったァ」
「江戸の町で張る髷という髪型が流行ったのだが、それにはある人物がかかわっていた。人はその人物をドンと呼んだ。人呼んで、張る髷ドン」
「話が進まないです」
「なんなの」
「滅亡ですって。ほらこれ」
「かきつばたね」
「このあいだの、水野さんの軌道エレベータのやつ」
「あれは、ちょっと手間だったな。望月君のツイッタの映画評論もいい感じだったな」
「既に二人とも回顧モード」
「で。滅亡って聞いたら、ハルマゲドンってこと?」
「たまたまもらったからなんだけど。いつも疑問に思う事があって」
「たぶんわかるな、それ」
「でしょう?人類滅亡っての」
「人類”だけ”滅亡ってなに?どうやるのさ」
「わかんない。地球滅亡ってのも怪しいし」
「大量絶滅って、過去に地質学的には起こってるんだけど。原因不明なのと、おぼろげなのと、犯人わかってるのと」
「有毒な酸素撒き散らして、90%以上の生物殺したやつね」
「これだって、滅亡って言わない」
「人類狙い撃ちの細菌でもばら撒く?」
「でも、全部死ぬとは限らないし。Ωマンみたいにはならないだろう?」
「自然破壊は他の生物に迷惑だし。戦争だと全滅にするのは難しい。地球を破壊するか」
「それじゃあ、地球全体が滅亡だろ。人類って限られてない」
「だいたい、どんな得があるのさ」
「侵略だと、メリットが無いのでは?ってキッチュ松尾も言ってるし」
「だから、宇宙人は来ないんだよねぇ」
「で、どうする。滅亡のお題」
「無理。でいいんじゃね」
「以上、いい訳でした」
「いいわけぇもんが、言い訳なんかするんじゃねぇよ」

id:takejin

場繋ぎでございます。
しばしお待ちを。

2015/09/17 12:34:58
id:miharaseihyou No.5

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ポイント30pt

辰夫は神戸の高級住宅街の一角に新居を買い取った。
何度も繰り返される暴動で下町はあらかた焼き尽くされてしまったが、お屋敷街は一軒ごとの敷地が広かったことが幸いして旧時代の建物が相当数残されていた。
元の持ち主はほとんどいなくなっていたが、六甲山系の山麓に新興の富裕層の住宅街が点在しつつあった。

良子は自分一人が住むには広すぎる屋敷を宛がわれた格好だった。
必要なら女中を雇えと言われた。
お腹の子供のことには知らないふりをされた。
死ぬまで黙っているつもりだったが、子供は辰夫の種だった。
何一つ言われないのには安心したものやら腹が立つやらだったが、辰夫は優しかった。

神戸は坂の街である。
坂を上り下りする体力がなければ、その当時のお屋敷街には住めなかった。
些細な買い物だけでなく、職人を呼ぶにも出入りの商人に頼み事をするにも、細々としたこと全て歩いて用を足す必要があった。

電話は有線回線が交換手を使って主要な産業拠点を結びつつあったが、一般には高嶺の花だった。
電子回路が全滅したので旧時代の自動車は動かなかった。
内燃機関の電子制御はマニュアルに置き換えるには進化しすぎていて、エンジンそのものを作り直さなければ使えなかった。
古い車体を改造して、意外にも電気自動車が普及し始めていた。
鉛電池を積んで低速で各地を結ぶ陸上輸送が生き残った鉄道網を細々と補完していた。

電力は旧式の火力発電が生き残っていて、三交代で運転する給電施設はもっとも安定したエネルギーの供給源となっていた。
散々作られた太陽電池パネルはコンバーターが駄目になったが、集約された電力工場でマニュアル制御により一部の電力を取り出すことができた。
コンビナートの復旧は旧時代のコンマ数パーセントと言った所で、メンテの都合もあって24時間操業ではなく、ガソリンや軽油は貴重品だった。
高速道路は巨大なオブジェと化して、時々時代物のトラックが急ぎの荷物を運ぶのに使われていたが、彼方此方の崩落などあって徐々に使えなくなりつつあった。

彼方此方で寸断される道路網に代わって、物流の主役に躍り出たのが海上輸送だった。
内燃機関はマニュアル制御にしてやれば動いた。
レーダーは高価な軍用の真空管式のものがあったが、ほとんどの見張りは肉眼に頼ることになった。
瀬戸内海は天然の良港が多かったこともあって、新時代の物流の中心になり始めていて、なかでも神戸は造船所や製鉄所を抱え、活況を呈しつつあった。

id:miharaseihyou No.6

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ポイント30pt

地球上の電子回路を全滅させた新種のウィルスは正式な学名はあったが、通称”ゴールドイーター”と言われていた。
この微生物は数々の謎を持っていた。
起源はHAZARDだと言われてはいたが、厳密な検証が行われたわけではない。
起源については諸説紛々としていて、宇宙細菌というのも有力な仮説だが、某国の細菌兵器が流出したのではないかという説もあった。
某国についてはアメリカを筆頭に、中国、ロシア、イラク、日本というのまであって、もちろん各国は否定しているが、かなり怪しいというのが通説であった。

ウィルスを絶滅させるための調査と研究には電子顕微鏡と遺伝子解析のための高速演算装置が必要だったが、電子回路を維持するには窒素封入するしかない状態で、崩壊寸前の国連は機能しなかったし、アメリカにしても国防用のシステムの維持さえ途切れ途切れの状態で、本格的な研究は足踏み状態だった。

十年以上かかって分かってきたのは表面的な現象だけと言っても良かった。
ウィルスと言われてはいるが、この微生物が餌にするのが純粋な電気、電力であること。
良導体の金属表面にだけ不規則な酸化皮膜を作り、成長は金属の抵抗値に逆比例すること。
地球上の微生物に類似種がいないらしいこと。
従って、銅線などは何年もかけて徐々にコーティングしてくれるが、接点は溶接してしまう方が無難だった。
電子回路は表面を不規則にショートされて機能不全に陥る。
樹脂封入されたIC内部は大丈夫でも基盤はやられる。

神戸の港に寄せ場人足が必要になったのはゴールドイーターが
原因だった。
大規模なクレーンターミナルはコントロールを電子装置に依存していて、マニュアル制御にしようとしても全てを作り直した方が早い状態だった。
似たような不具合は世界中の貿易港で発生していて、荷積み荷下ろしは結局の処、古式蒼然たる人力に頼るしかなかった。
とは言っても小規模なクレーンやフェリーくらいはあったから、バタ板渡して落ちたら終わり・・・というのは少なかった。
しかし、毎日何千トンもの荷役を人力でやるには莫大な人手が必要だった。

辰夫は寄せ場に集う人足の周旋だけでなく、金銭の管理や借金の取り立てまで手広く任されていた。
人足の組にはタコ部屋もあり、余所の寄せ場との縄張り争いもあり、切った張ったはしょっちゅうだった。
切れ者の辰夫は実力主義の世界で徐々に頭角を現している成長株だったのである。

id:a-kuma3 No.7

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『A YA KA SHI』


 世界中を巻き込む戦争が起こると言われながらも、最後の大きな戦争を覚えているのはデジタルなデータだけとなってから、数世紀が過ぎた。きな臭いことは何度かあったようだが、三度目の世界規模の戦争は何とか回避されてきた。

 アメリカは世界の警察を標榜し、中国は大国を脅かす位置づけのまま人口だけは増え続け、日本の国土は小さいまま、公用語は日本語のまま、世界の様相はたいして変わっていないまま、世界史で覚えなければいけないことだけが順調に増え、昔と変わらず学生たちを苦しめている。たいして変わらないと言っても、それだけの月日が流れれば多少の進化や進歩はするものだ。未だに自律した機械が人間を支配するようなことも無ければ、自家用車が空を飛ぶこともないが、惑星間航行の技術を手にすることができた。

 中国が押さえていたはずのレアメタルは、独占によって国際的な優位を保とうという国家戦略と、それを手繰り寄せるには未熟な技術。それと一部の層だけが富を享受するという社会構造のおかげで、その大半は石ころのままという期間が続いた。他の大国は、中国が保有する資源を当てにせず宇宙に活路を見いだそうとした。

 環境が過酷すぎて、ろくに採掘量をあげられない月に早々に見切りをつけたアメリカは火星に活路を見いだそうとした。幾つかの国を巻き込んだ一大プロジェクトは莫大な費用と十数年という歳月をかけて、人類が初めて火星の地に降り立ったのが二世紀ほど前のことだ。

 インドの調査隊が古代火星人のものと思われる廃墟をみつけたのは、テラフォーミングにとりかかってから数年後のこと。それらの全てを解析することは能わず、使い方の想像がつくものしか利用することはできなかったが、それでも人類が保有する技術は飛躍的に進歩した。

 そのおかげで、安全で持続的な核融合反応を行うことが可能となり、人類は化石燃料の枯渇によるエネルギー問題から解放された。またタキオン粒子の生成技術は従来の宇宙航法の限界を打ち破り、火星や小惑星帯くらいまでなら、一生のうちに何度も往復することができるようになった。惑星間航行技術と豊富なエネルギーを背景に、火星の開発は加速し、まだ人類が大量に移住できるほどにはなっていないが、火星は鉱物資源の貴重な生産場所となった。

 ロストテクノロジーの発見という幸運の他に技術の進化を促すものがもうひとつあった。いつの時代でも技術の進化を促すもの。それは軍事利用だ。

 人類は地球の重力圏から飛び出すことができるようになったが、各国間の利害関係や民族間のしがらみといったものを振り切ることは適わず、大きな戦争こそ起きていないものの、局地的な小競り合いはどこかそこかで行われ、大国間においては強大な軍事力をもって他国を牽制するという図式はずっと続いている。

 ここ火星でも、形式的には各国の領土というものは無く連合組織によって管理され、技術協力をしながら開発を行っていることになっている。それでも突発的な事態に備えるという意味で自衛的な軍備はここにもあり、そのことが地球とはまた違った新たな緊張の中に置かれている。表面上は火星開発のための技術開発という体裁をとっているが、その軍事的な応用開発が行われていることは公然の秘密となっている。

 改良されつつはあると言ってもまだまだ薄い大気と小さな重力の中では、鉱石の採掘ひとつをとっても地球上では十分であった技術もここでは効率的とはいえず、研究開発も活発に行われている。


「どうだい。君の機体だ。もう飛べるところまでは整備できている。明日にも初飛行といけるんじゃないかな」
「そうね」
「緊張してるの? シミュレータと同じさ。たくさん訓練したんだろう? 大丈夫だよ」

 彼の名はタケル。私と同じ十六歳だ。私専用の機体のメカニックを担当してくれている。といっても、もっと偉い人は別にいる。歳が近いということで話し相手という意味もあってのことだろう。実験用の機体とはいえ整備の大部分は彼に任されている。彼も年齢のわりには優秀な技術者ということだ。

 口数が少ないのは別に緊張しているからというわけではなく、いつもの私はこんなものだし、彼がしゃべりすぎるのだ。

 物心がつくかつかないかのうちに声を失った私は、音声によるコミュニケーションの習慣があまりない。この研究所にくるようになってからトーキーと呼ばれるマシンをもらって、こうやって音声による会話ができるようになった。私は、この研究所で行われている研究のひとつ、精神感応によるセンシングとコントロールについてのお手伝いをさせてもらっている。精神感応の研究は色物扱いだった頃も含めるとかなり昔から行われているが、あまり目立った成果は出ていない。

 このトーキーも精神感応技術の成果のひとつだ。話そうと思う内容を機械に送ることで合成音声に変換して出力してくれる。だれにも使えるわけではないらしく、私のように精神感応力の強い者にしか、まだ扱えないらしい。五感のうちのひとつかふたつを失ったものは、そういった傾向があるらしく五感を補うように精神感応力が鍛えられるのではないか、と主任は言っていた。

 多分、そういう傾向が一般的にあるのだろうが、私がトーキーなどを使える大きな理由はそれではないと思う。実は私の家系は代々 狐使いを生業としている一族だ。狐と言っても動物に芸をさせるというのではない。管狐と呼ばれる妖を使役するのだ。私も管狐を使役する術は幼いころから仕込まれている。そういったことが、いわゆる精神感応力と言うものが他人よりも強いという理由だと思う。

 人類が火星までも手中に収めようとしている現代でも、私たちのような人種がいるように妖もまた存在する。都市が灯りで満たされ夜の居場所がなくなったように見えても、彼らもまた住み処や生き方を変えながら生き永らえてきた。居なくなってしまった妖も多いが、管狐のように人間とのかかわり合いを持ちながら暮らしてきた妖は人間の変化に適応しやすいのだろうと思う。

 彼らと一緒に私たちの一族も昔と同じように続いてきた。あるときは治世に一国を動かすような関わりを持ち、あるときは目立たぬようにひっそりと息を潜めて暮らしてきた。そうやって、日本人が刀を腰に差して歩いていたときから、代々受け継がれてきた。私もまた、受け継ぎ、次へと伝えてゆく一人だ。そういう一族なので、いわゆる普通の人間とはある程度の距離を保ちながら生活してきた。私もそういったことは頭では理解しているつもりではあったが、幼いころから何というか閉塞感のようなものを感じることもあり、十歳を超えるころには外と関わる生活への憧れというようなものが具体的な感情として芽生えてきた。一族を束ねる祖父にお伺いを立てたところ、保守的な祖父の猛反対を覚悟していた私の予想に反してあっさりと許可が下り、祖父の伝手でこの研究所で働かせてもらうことになったのはついこの間のことだ。

 どこまで私たちのことを知られているのかは私には分からないが、こういった役割をもらっているということは一部の人達には私たちのことはある程度までは知られているのであろう。ある意味、モルモット的な役割だということも承知しているし、実験動物だと揶揄するものがいたことも耳には入ってきた。だが、外の世界に対する私の好奇心はそれに勝った。退屈極まりなかった私が持っている能力の確認と、火星で作業をするために必要なひと通りの訓練をこなし、それから更に数ヶ月の旅を経た後に、この火星の地を踏むことができた。火星まで来ると周りの雑音はほとんどなくなった。


「なあ、ナギ。せっかくだからこの機に名前をつけないか。もし良かったら、おれにつけさせてもらえると嬉しいんだけどなあ……」
「別に、かまわないけど」
「実はもう考えてあるんだ。『ファイアーフォックス』ってのはどうだい」

 長い時間を一緒に過ごすことが多い彼には、私の素性はある程度は話してある。理論と技術の世界に生きている彼のことなので、妖などは信じておらず私に話を合わせてくれているだけなのかもしれないけれど、彼のそういうところは嫌いではない。

「え、と……」
「大丈夫。子機の方もきちんと整備してある。言われた通りにスペースを空けて端子も露出させてあるよ。分かってる。皆には内緒だ。カイドウさんにも言ってない。重量も変わってないし、実際に整備をしてみなければ分かるはずはないさ」

「それよりさ、駄目かな。名前」


「やあ、ちょっと良いかな?」

 声をかけてきたのは警備隊のチーフであるミナカタだ。格納庫の入り口からゆうに十メートルはある距離まで私に気配を感じさせずに近づいてこられる彼も、いわゆる普通の人間ではないように感じる。

「もう少し実機での操縦に慣れてからにしたいと思っていたんだが……」

 格納庫内にボリュームを抑えた警報音が鳴り響き、彼の言葉を途中でさえぎった。

「エリアεから救助要請がありました。レーダーに未確認物体を感知。総員、第二級配備。警備隊は発進の準備をお願いします」
「!」
「と、いうことだ。警備隊の後方でセンシングをやってくれれば良い。出られるか?」
「…… 行けます」
「よし、出動は十五分後だ。準備をしておいてくれ」

 私の返事を聞くつもりがあったのか、半分も聞かずに背を向けたミナカタは片手をひらひらと振りながら格納庫を出てゆく。

「大丈夫かい? いや、整備はできているけどさ……」
「うん、多分。訓練しかやることがなかったから操縦はできると思う。それに、この子たちもいるから」
「そうか。トーキーはきちんと無線機につないでおけよ。ぼくも準備にかかる!」

 彼が信じているかどうかは分からないこの子たち。私が使役する管狐はジャケットの内側で良い子にしている。昔ながらの竹筒は火星には生えていないので、彼らの休憩場所は無機質なアルミのチューブの中だ。彼らにも現代っ子というのが要るのかは知らないが、結構 お気に入りの場所らしい。

   ───

「全機、聞こえるか? 五号機、ついてきてるな?」
「ナギ、追尾してます」
「よし。全機、レーダーを確認。インド第二管区、いやエリアεにはアメリカの部隊が先に向かっている。未確認物体は推定ひとつ。その大きさは推定百二十メートル以上。どうやら、レーダーでもはっきりと判別できていないらしい。この大きさが正確なら母船級だ。地球外生命体とのコンタクトの可能性もあり得る。各自、落ち着いて行動すること。以上」

 確かにレーダーにははっきりとしない影がエリアεの辺りに映っている。ESPセンサーの感度を徐々に上げながら精神をエリアεの辺りに集中させる。大きな影は動きながら形を変えているイメージが伝わってくる。

(何、これ?)
(キカイ、じゃあない、よね)

 勝手に顔を出している管狐の九重が一丁前にレーダーをのぞき込みながら私に語りかけてくる。

(これ、まさか……)

 先行しているアメリカの部隊からの映像がパネルに映し出される。エリアεがあったはずの一帯は緑色のぬらぬらとした物質に覆われている。周りの岩石や基地の一部、掘削機などを取り込んで徐々に大きさを増しているように見える。

「こちら、ガーゴイル・ワン。エリアεは壊滅的だ。これより未確認物体に攻撃を仕掛ける。ジャパンの部隊には後方の支援を要請する」

 十数秒後、アメリカの部隊から放たれた数基のミサイルが緑色のゼリーに着弾する。大きな火柱に包まれ一部は霧散したものの対象が大きすぎるせいかダメージを与えた様子はない。アメリカの部隊が第二段の攻撃に移ろうとしたその刹那、緑色のゼリーの中央がめくれ上がったと思うと大きな目玉のようなものが現れる。緑色の閃光を感じたように思ったその後、接近していたアメリカの機は制御を失いあるものは地面に向かい、あるものは未確認物体の方へと突っ込んでいく。

「あれを見ちゃダメ! 光学映像のモニタを切って!」

(あれは…… 妖だ)

 人が言う生物なのかどうかははっきりとはしないが妖は確実に存在した。それを知っている者も気が付かぬ者もいたが、それは確実に存在していたことは私たちがよく分かっている。地球から遠く離れた火星にもその昔には人類がいたらしい。では地球で妖と呼ばれる存在がいても不思議ではない。あの類の妖は地球にもいた。あの光を放つ目を見ると人間は魂を抜かれてしまったり、石にされてしまったりというやつに違いない。

 緑色の物体に取り込まれた掘削機から放たれたレーザーが、日本の部隊の機を襲う。レーザーが推進器をかすめた二号機が推進力を失って地表へと落下してゆく。

(取り込んだ機械を操れるの? どうすれば良い!?)
(あいつの中心にある核を打ち抜けば良い。君たちが使っている火矢で十分だと思う。ぼくらがナギの目になる)
(でも、どうやって……)
(そのために、この乗り物には ぼくらが乗れるやつも付けてあるんだろう?)

 そういった九重はあっと言う間にチューブから飛び出して消えていった。私は残った五本のチューブの蓋を開け狐たちに命ずる。

(お願い、私の目になって!)

 白い筋がチューブから飛び出たかと思うと、あっと言う間にコクピットから見えなくなった。ナギは機首をエリアεの方に回し、ミサイルの発射手順を思い出す。機の正面では、蹴散らしたはずの小蠅がまたたかってきたのに気が付いた緑のゼリーが長い触手の先に取り込んだ掘削機を振り回しレーザーの剣を振り回す。

(ダメ! 近づけない)
(ぼくらがやる。打ち出して!)

 ナギが六つの子機を順に発射すると、それぞれに意思があるかのように掘削機から放たれるレーザーをかいくぐり緑のゼリーに向かってゆく。みるみるうちに近づいてゆく子機からビームがばらばらと放たれる。狙いが定まっていないように見えたビームが日本、三本と緑の触手に集まると、組織がずるりと崩れ先端に掘削機を取り込んだ職種はどさりと地に落ちる。

(ナギ! 分かるね?)

 感じる。
 六つの子機に乗った管狐たちのイメージを。
 機の前方、左右に三機ずつ一列に並んでいる。
 二本の直線が交わるところ。

 そこにやつの核があるはずだ。


(分かるよ! そこを狙えば良いのね?)

 指先が白くなるまで操縦桿を握りしめていた親指をゆっくりとはがし、震える指先でミサイルのロックを外す。深い呼吸をひとつして発射ボタンにかけた指に力を入れる。静かに放たれたミサイルは、一瞬の後に点火したバーナーの火柱を残し一直線に緑のゼリーに向かってゆく。中央に大きく見開かれた目玉が自分の運命を悟ったように思われた瞬間、目玉の中央に吸い込まれたミサイルが薄い火星の大気の中に大きな火柱を上げる。

「ナギ! 戦域から離脱しろ!」

 ミナカタからの指示が耳に突き刺さる。そんなに大きな声を出さなくても、もう大丈夫なの。子機の回収命令をオートコントロールに指示し、ゆっくりと機首を回す。もう、あいつからの攻撃はないはずだから……


   ―――

 帰った子機から戻って来た管狐たちが全てチューブの中に入ったことを確認して、ようやく今の状況を考える余裕が出てきた。やはり、少しは緊張していたらしい。ミナカタは私の機が大丈夫だということを確認した後、無線の向こうで沈黙を続けている。ベースに帰ったら、いろいろと説明をしなければいけないだろう。でも、いったい何をどこまで…… 火星にも妖がいて、私は妖の扱いに慣れているので それの弱点も見当がついたので、管狐たちと協力してやっつけました。という説明がすんなりと受け入れられるとは到底 おもえない。

(あの食えないじいさんが、すんなりと火星行きを許してくれたのは、こういうことだったのか……)
(さあ、ね)

一匹だけチューブに戻らずに、操縦かんを握る右手にとぐろを巻いている九重が応える。


 遠い地球の地で祖父がにやりと笑ったような気がした。




(了)

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id:grankoyan2

好きです。
ソウルが溢れているというか、妖と未来科学。
王道(好きなもの?)の組み合わせって書いてて楽しいですよね。それが伝わってくるのです。

これから始まる壮大なストーリーの序章。
先の事なんか考えてないかもしれませんが、とてつもない何かが始まる予感がします。

アニメ化を所望します。
というわけで、ぶっちぎりでいるか賞(←死語)ですっ!

2015/09/26 17:06:38
id:a-kuma3

いるかをありがとうございました。

「スペースオペラ」という縛りと、自分で出した「妖」のお題をくっつけただけなので、どこかで見たような感じは否めませんが、書いてて楽しかった♪
途中からアニメの第一話をイメージしながら書いてました。

半分はあろうかという舞台設定の説明も、文章としては もっと工夫が要るんでしょうけど、主人公の声でしゃべってると思ってるから(自分では)あまり気になってないという。

最近、かきつばたをずっとサボってたので、かなりスッキリしました :-)

2015/09/26 23:29:43
id:takejin No.8

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ポイント15pt

《預言者へのお告げ的予言》

預言者よ、あと3日後に人類は滅亡すると、人々に告げよ。
「それでは、人々があまりに憐れです」
では、それを回避したいかどうか、人々に尋ねよ。
「わかりました」

id:takejin No.9

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ポイント20pt

《集団的予言》

暗い部屋に、大きなディスプレイが写っている。
そのディスプレイに向かって、半円形のテーブルが置かれ、その円周部分に5人ほどの人が座っている。
中央の人物が呟く。
「この点は、移動する個体を示しているんだな」
「はい」
「この拡散パターンを当てはめるってわけだ」
「はい。今回の事例に当てはめてみます」
ディスプレイの画像が変わり、たくさんの赤い点が、地図上を動く様子が示されている。
そこに、青い点が加わった。
「ほう。同じような動きだな」
「はい。この青い点は、粘菌の避難行動、ネズミの避難行動、ゴキブリの避難行動などから抽出した、危険回避行動パターンを示しています」
「このバッテンはなんだ?」
「はい。この危険回避行動パターンの特徴である、滅亡予言特異点です」
「この間の説明の様に、未来に起こる滅亡の中心点というわけだな」
「はい、その点から遠ざかることで、滅亡をまぬかれる確率が高くなるわけです」
「その点を予測することは、本来は不可能なはずなのだな?」
「はい、現在得られている情報体系では、予測できないはずです」
「しかし、粘菌やネズミは予測したと」
「そうなります」
暗い部屋に沈黙が降りた。

ディスプレイの青い点が、拡散する中心から消え始めた。
「この時点で、選択的滅亡が開始されています」
「拡散開始と、滅亡開始との時間相関はわかっているのか」
「はい」
「今回の事例では」
「スケールを当てはめると、 あと3日になります」

「シリア難民の動きから、人類滅亡まであと三日か」
歳をとった方の男性は、地図上の一点を指し示している。
そこは、エルサレムと表示されていた。

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《預言者的予言》

「子羊たちよ、人類はあと3日で滅亡すると主のお告げがあった。子羊たちよ、それでよいのか」

「滅亡を望まぬならば、ツイッターで望まぬことを示すがよい」

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《科学的予言》


「これは…」
軍事衛星の映像をハッキングしているケントが、画面に顔を近づけている。
もともと目が悪いのだが、今日は鼻先が画面にくっつくほどだ。
「どうした」
私の問いかけに答えず、キーボードの操作音が響く。
「重力異常。エルサレムを中心として、同心円状に重力変動がある」
「重力波を検知したのか」
「いや、重力異常が波状なだけだ。だんだんエネルギーが増大している」
「影響は?」
「あと3日すると、地表の建物が破壊されるレベルになる」
「そうすると?」
「3日後には、エルサレムは全滅だな」

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《新興宗教的予言》

「このままでは、人類は滅亡する。悔い改めよ」
ブザーとともに、玄関のドアの向こうから異様な声が聞こえてくる。また、キの字の教会の方から来た人たちだな。
「人は死後、裁きにあう。正しく生きなければならない」
なんで、日曜日の朝からこんなのに付き合わなければならないんだ。しかも、昨日から夏風邪で熱もあり、食欲もないのに、だ。
「朝から何ですか」
ドアを開けると、美少女が立っていた。ニッコリ笑うと、
「悔い改めよ」
と、低い声で告げる。ちょっとびっくりして、腰が引ける。半分だけ開けて止めたドアノブが、外に引っ張られていく。
開いた扉の後ろには、大柄な老人が立っていた。
「人類は滅亡する」
老人の顔にあった声が発せられた。美少女の声を思ったのは、この老人の声だったのか。
「人類が滅亡するって、どこからの情報ですか?」
私は、あえて美少女に聞いた。熱でフラフラしていたから、美少女と話をしたかったわけではない。
長い髪の少女は、大きな瞳を私に向けて、小さなピンク色の唇を開いて言った。
「神様からのお告げです。このままでは、来週人類は滅亡します」
来週アイドルのコンサートがあるかのように、少女は滅亡を口にする。神も安請け合いをしたものだ。
「どうやれば防げるんです?」
老人が少女の背後に廻る。少女は、また微笑んで、黒いベルベットの袋と、ペラペラの小冊子を取り出す。
「この本を千円で買ってください。この本に、その回避方法が書いてあります。」
ほう。結構ストレートだな。
「買わないとわからないんだね」
少女は大きく頷いた。
寒気がするのだが、もう少しこの美少女を眺めていたい。
「滅亡の定義を教えてくれないか?」
少女は首をかしげ、老人を見上げる。
「一人もいなくなる、ということだ」
「ふむ。人類以外はどうなの?」
「罪深きは、人間だ。それ以外は生き残るのだ」
「巻き込まれないの?」
「神は、正しく選択される」
「どうやって、滅亡するわけ?」
「天変地異である」
「それって、他の生き物も巻き込まれない?」
「神は正しく選択される」
おかしくないか?
「洪水でも、その辺の猫死なない?」
「神はお救いになる。救われぬものは、罪を犯したものだ。猫でさえも」
うわ、ミスは認めない主義だな。
「生き残る人間もいるの?」
「悔い改めたものは、救われる」
え。
「死後裁きにあうんじゃ」
「罪深き者が、まず裁かれる」
「じゃあ、人類全部滅亡しないじゃない」
「神は、正しく選択される」
なんだか、色物と白い物を分けて洗濯するみたいだな。
「その本の中の行為を、私がするだけで、人類全部の滅亡を防げるんだね」
「そうなる。神は全てを見ている」
スケベだなぁ。
「君の全ても見られてるの?」
少女は微笑むだけだ。
「私は、人類代表であり、人類の敵と戦うヒーローなのだな」
「そういう者ではない。悔い改めるべき、罪びとなのだ」
よくわからねえ。
「他の罪びとは、悔い改めなくていいのか?」
「罪びとは、悔い改めなければならない。罪びとなのだから」
おいおい。
「私以外の罪びとが悔い改めなかった場合は?」
「ハルマゲドンが起こり、人類は滅亡する」
「悔い改めると?」
「そのものは救われる」
「人類滅亡を防ぐには?」
「人類全部が悔い改めなければならない」
この矛盾を抱えて、なぜ布教活動ができるのだろう。さすがに、視界がかすんできたので、帰ってもらおう。
「もう帰って。その本もいらない。お金払わない」
老人と美少女は、この世の物とは思えない表情を作り、こう言った。
「天罰が下るであろう。あと3日である」
扉を閉めた。足音が遠ざかる。

id:takejin No.13

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《 ツイッター的予言》

・滅亡するんだって
・人類の終わり
・滅亡したくね
・マジ死にたくねぇ
・とりあえず滅亡したくないにRT

id:takejin No.14

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《カレンダー的予言》

2015年9月29日以降のカレンダーが消えていく。

id:takejin No.15

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《預言者の返信》

「人々は、あと3日で滅亡することを望んでいません。主のお慈悲を」
良くわかった。あと3日で滅亡させることはやめよう。

id:grankoyan2

質問者から

2015/10/07 00:15:19

あんまり、本戦と関係ないんですが、こういうことがあったよ、ということで。

かきつばた杯出身作家が商業デビューしたようです。(しらじらしい)

インタビューが載ってますよ!

https://novelgym.jp/news/news_detail/335

id:takejin No.16

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《ある日の事》
















2015年9月27日に人類は滅亡した。

  • id:a-kuma3
    9/15 過ぎたけど、まだ閉めないよね?
  • id:grankoyan2
    今日明日はちょっとばたばたしてるので週末かSW以降に〆ます。

    今書いてるよってかたはコメントください。
  • id:miharaseihyou
    途中まで書いたけど、真面目に完結させると大河巨編になりそうなのでこの辺りでギブアップ。
    締め切りまでに時間が取れたら続編を書くかも。
  • id:grankoyan2
    明日締め切りますー
  • id:a-kuma3
    「勢い」を最優先しました。
    修正できなくなってから、自分のを読み直そうと思ってます :-)
  • id:a-kuma3
    宣伝までメタかよっ!
  • id:miharaseihyou
    頭が限界なので、正味ギブアップします。
    これ以上書くと身体が持たない。
    何とか出産まで行きたかったが・・。
  • id:grankoyan2
    宣伝は、規約違反ですからねー
  • id:miharaseihyou
    あれ?未だ仕舞ってない。
    さてはドンブリが転けたか?
    せっかくあきらめたのに、未練が・・。
    だいたい大きすぎるネタだって気付いたのが書き始めてからだったからなぁ。
    最初はね、良子と辰夫の出合いのシーンからの予定だったんだ。
    長い黒髪を肩から流しながら走るシーンで、散歩のお供は芝が良いかな?とか。
    遠くから眺め上げる辰夫は母子家庭で・・とか。
    細かい設定を詰めていったら神戸にロケハン・・・冗談ポイポイ・・・。
    細かいシーンをつないで、格子越しの再会とか、LED電灯の明かりが明るくなったり暗くなったりとか、行灯風の電灯が消えた瞬間に・・・そう、二人の濡れ場シーンまで用意してたんだ・・・が色々調べている時間がなかった。
    そういうので手を抜くと後から突っ込まれるって・・分かってる?ソコの人。
  • id:grankoyan2
    未練が残ってしまうとあれなので締め切りました。
    配点等々はしばしお待ちください。

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