1495172231 【人力検索かきつばた杯】#78

お題:「謎のメッセージ」   
という要素を含むショートストーリーを回答してください。

・本文やタイトルに直接キーワードを使う縛りはありません。
・開催者連想元ネタや質問画像は気になさらないでください。ただの自己満足です。作品に絡める必要は全くありません。むしろ離れてくださるほうが。
・〆切前の加筆・修正はご自由になさってください。大幅に変えた場合はコメント欄などで通知してくださるとありがたいです。
・字数制限は設けません。読みやすく、内容に見合った長さにしてください。
・私個人の好みを前面に押し出した感想(場合によっては講評っぽい何か)を書きます。そんなのいらん、という場合はあらかじめおっしゃってください。

※初心者のかたも歓迎です♪
※お題が易しすぎて物足りないぜ!というかたは、ストーリーの面白さにプラスして楽しめるような、何か手の込んだ仕掛けを盛り込んでください(必須ではありません)。

〆切:2017/6/9(金)の予定です。

回答の条件
  • 1人3回まで
  • 登録:2017/05/19 14:37:11
  • 終了:2017/06/12 16:55:46

ベストアンサー

id:takejin No.8

たけじん回答回数1495ベストアンサー獲得回数1942017/06/08 19:22:09スマートフォンから投稿

ポイント50pt

続編でござい。



《信号受信》  《信号受信》
アラームが鳴っている。主画面には『水素線信号受信中』の文字が躍っている。
「信号波形は」
『表示しています』
静止軌道に上がっている電波観測衛星の、特別チャンネル”水素線”での受信信号は、最優先で解析される。
62年前のミスを挽回するためだ。地上観測所も、低い軌道の電波衛星も、常に観測しているはずだ。
「解析急げ、こっちは静止軌道から受信するだけタイムラグがある。他の観測所に抜かれるな」
『最有力候補の数値化を表示します。最も論理性が高い、二進数パルス解析です』
画面には01の数字と、解析した記号列が並ぶ。
「自然数と、二乗数、三乗数、素数列だな。」
『我々と同じ3次元の住人と思われます。数学的根拠も一致している推定されます』
「パイオニアに載せたメッセージに近いな。考えることは同じだ」
『論理は共通言語ということが実証されています』
徐々に制御室の椅子が埋まっていく。キーボードを操作したり、音声入力をしたりしている担当者以外の人が、次々と部屋に入ってきている。
「騒がしいぞ、信号が途切れるまで、もう人を入れるな」
『はい』
制御室コントロールのAIが、部屋のドアを閉じ始める。
「これ以上は出て行ってくれ、作業の邪魔だ」
『二次元画像、3次元配列、一次元時系列と予測されるデータ群が、後ろに』
「それぞれ、画像と3次元データと、適当な波長に基準を設けた音声信号に変えてくれ」
画面に、画像が表示される。意味不明なランダムノイズの画像群の中に、星空の様な絵が現れた。
「その上から二番目の左から5番目の画像を拡大してくれ」
画面いっぱいに、モノクロの星空が浮かび上がる。見たことのあるような、無いような星空だ。
『可視光に展開します』
画面には、色とりどりの星が現れた。
「さっきと様子が違うな」
『観測波長域が違います。彼らは赤外波長域からセンチ波付近を中心観測領域にしている模様です』
「これは、信号の発信地からの眺めだな。そこから4面で全天ということか」
『位置情報と思われる数値列です。簡易解析では、いて座方向150光年と推定』
「結構近いな」
『ただし、メーザー発信源は、ふたご座方向からです』
「え、いて座と正反対じゃないか」
『はい、受信した水素線コヒーレント波、いわゆるメーザーの発信源は、ふたご座からです。メーザーは、いて座に向かって発信されています。直進性は保証されていますから、到達地点の誤差は0.001光年程度です』
画面には、全天恒星図とその部分拡大が映る。十字線がその一点を示している。
「どういうことだ?これからメーザーの向かう方向の全天画像があるなんて。発信源周辺の画像を紹介してるんじゃないのか?」
こと座の拡大図も映る。十字線が2セット現れる。
『メーザーの向かう先と、恒星観測画像から割り出した位置データです』
「いて座?そこは、見たことがある。Wow!シグナルだ」
『Wow!シグナルの発信源を加えます』
画面に3セット目の十字線が描かれた。メーザーの向かう先の十字線とほとんど重なった。
「これは!Wow!シグナルの発信位置へ向かってるってことか!」
画面に増え続けていたデータ群が、止まる。
『信号が途絶えました。データが2系統に分かれています』
「どういうことだ?」
画面に数字・式・画像が並ぶ。
『はじめの系列は、数学的基礎、位置情報、画像等のデータ群となり、位置情報がいて座方向約150光年』
「そこまでは聞いた」
画面に二列目のデータが並ぶ
『二つ目の系列も、数学的基礎、位置情報、画像等のデータ群となっていて、位置情報がふたご座方向約31光年』
「同じ系統のデータ群で、位置情報が違うのか」
『はい』
目の前のコンソールから、一人のオペレーターが立ち上がり、こちらを振り向いた。
「あの」
「なんだ?」
「返信、じゃないですかね」
「返信?」
『受信した信号を、同じコヒーレント光に載せて、受信したことを発信箇所に伝え、同じ系列で位置情報を連絡しているということですね』
「そうそう」
『確かに論理的です。当方が受信した場合でも、そのように返信することが最良と計算できます』
携帯電話を操作しながら、こう言っていた。
「とりあえず、観測結果とこの考察を世界に発信する。信号がやってこないなら、対策を考えよう」

『データ解析の結果です』
会議室のスクリーンに、画像、数式、数字等が並ぶ。手の動きに反応して、個々のデータの枠が色づいたり、消えたりする。一つのデータ群を指して、こう言った。
「このデータだけ特殊だな。なんだろう」
『この一群のデータは、図面・3次元データ・補足する数式・現象を示す画像・元素を示す記号などでできています』
「元素?」
『3次元データに元素指定箇所があります』
「?」
一人のオペレータが立ち上がり、画面に張り付いて眺めている。
「これ、何かの構造です。いわば図面みたいなものです。このまま3Dプリンタにかければ、できあがるんじゃないでしょうか」
「なにができあがるんだ?」
「この画像と数式から、質量を高速で移動させるエンジン的な物ではないでしょうか」
画面のグラフと数式が変形していく。
『亜光速エンジンとして、その加速過程と根本原理の数式の様です。地球の物理学に近似するよう、数式とデータを修正しました。この通りに作動するかどうかは、物理学者の意見やエンジニアの実験が必要と考えられますが』
「これは、おまけか?プレゼントか?このエンジンを使って、会いに来いってことか?」
独り言を呟いていると、さっきのオペレータは他のデータ群に見入っている。
「このデータ群の詳細は?」
画面のデータが切り替わる。
『先ほどのデータ群と同様と考えると、補足が可能です』
「修正するとどうなる?」
画面には、ちょっと特徴的なグラフが現れた。これは、知ってるぞ。
「なんで、ファインマンダイアグラムを追加した?」
『この数式は、時間遡上若しくは超光速を示しているからです。ファインマンダイアグラムに展開すると、この線に沿った移動を可能にすると言っています。つまり、時間軸をマイナス方向に進めます』
「ワープですね。このエンジンを組み立てると、ワープができるんだ。ワープエンジンの図面なんですね、これ」
オペレータは興奮気味だ。
『実際に超光速航法が可能かどうかは、物理学者の回答を待たなければなりませんが、その可能性は大きいと考えられます』
「波動エンジンの設計図をもらって、イスカンダルに行くのか」
『司令、そのジョークは、この部屋の他の人には通じないと考えられます』

他1件のコメントを見る
id:takejin

BAありがとうございます。こっちの方を先に思いついて、wow!シグナル知らない人の為にはじめの方を書いたんです。
意図的に書いてない部分があるのですが、わかります?
異星人の姿です。パイオニアの裸像の様に、自分達の造形は多分必ず記載すると思いますから。でも、描くと何か限定されてしまうので、あえて避けました。異星人の自撮り画像、見て見たいですね。

2017/06/12 18:53:59
id:libros

地球人と異星人があらかじめ交わした自撮り画像は、お互いそこそこ盛っていたので会ってびっくり、なんて。

異星人の外観をあえて描写しないのは、良い演出だと思います(^^)

2017/06/12 19:15:40

その他の回答(8件)

id:libros

質問文を編集しました。詳細はこちら

id:grankoyan2 No.1

只野迂舞某回答回数67ベストアンサー獲得回数162017/05/20 15:09:08

ポイント50pt

「これは全本監督、思い切った策にでましたね」
「ええ、メッセージ投手は本日一軍に登録されたばかりです。しかも以前の経歴は全く不明」
「一節には、メッセンジャー投手の弟ではないか? という説も流れていますが。
 とにかく、スコアレスで9回まできたタイカース、ノーアウト満塁のピンチで思い切った策にでました」

 キャッチャーの桜野が慌てて監督に詰め寄る。
「監督!」
「どうした桜野」
「どうしたもこうしたもありませんよ! 彼とはバッテリーを組んだことはおろか、キャッチングしたこともありませんし、球種だってサインだって」
「そのことなら問題ない」
「問題ないって、言われても」
「とにかく投球練習をしてみればわかる」

 監督は意味ありげに言い含めると、ベンチへ下がった。

(とにかく受けて見ろったって)
 桜野の視線の先、ピッチャーマウンドではメッセージがプレート前を慣らしている。
 とにかく桜野は、しゃがみこんで捕球の体制を整えた。
 その時である。

……聞こえますか、聞こえますか? キャッチャーの桜野さん……

 日本語でもない、英語でもない、言語化されていないが、意味は伝わる何かが桜野の頭の中に流れ込んでくる。

(これは……)
……そうです、桜野さん、わたしです。今マウンドに居るピッチャーのメッセージです
(テレパシー?)
……原理はわかりませんが、そのようなものです。これがあるのでわたしとはサインの交換は要らないのです。さあ、投げる球を教えてください。
(それは僕の仕事だから、考えるさ。だけどあんたが、いやあなたが投げられる球種を僕は知らない。まずはそれを教えてくれ)
……古今東西、過去と未来に存在するありとあらゆる球種を投げ分けられます。コントロールもいいです。

 ありとあらゆる球種と聞いて、桜野はいぶかしがったが、とりあえず様子を見ることにした。
(じゃあ、外角高めに外れるカーブ。できればボール2個分以上はずしてくれ)
……わかりました。投げます。

 メッセージは見事に桜野の指示通りにカーブを外角高め、ボール2個分外に投げ込んだ。
(これならいけるかもしれない)
……ええ、安心してください
(いちいち俺の考えに反応しなくてもいいです)
……すいません、心が読めてしまいますので
(じゃあ、これからあなたに向けて伝えたいことには頭にメッセージさんを付けますから、それにだけ反応してください)
……
(メッセージさん、これからあなたに向けて伝えたいことには頭にメッセージさんを付けますから、それにだけ反応してください)
……わかりました

 投球練習を終えて、桜野は確信していた。
(七色の変化球、抜群のコントロール。状況は悪いが抑えられるはずだ)

 そして打者が打席に立つ。
 その時、桜野が思いついた。
(メッセージさん、まさか打者の考えが読めるなんてことは……)
……できますよ、今の打者は一球目はバットを振るつもりはありませんね。
(それならアウトローギリギリのストライクで警戒つつ確かめてみるか)
……
(あ、メッセージさん、アウトローギリギリのストライク。球種はストレートで)
……わかりました

 そして、メッセージが投げて見事にワンストライク。
 その後も、打者の読みを外しつつ、早い速球、切れのある変化球、抜群のコントロールでストライクを重ねていく。
 二者三振でツーアウトに漕ぎつけた。
(あとひとりか。だけど、このバッターは北多摩に反応して鬱タイプ。読み愛は痛痒しないか)
……
(メッセージさん、あなたの一番特異なボールはナンですか?)
……わたしはどんな球でも投げられます。得意や不得意はありません
(そうか、奈良セオリー通りにバッターの苦手なコースをせ目ていく鹿……)

 桜野に突然奇妙な感覚が襲ってくる。
 メッセージから伝わってくる思いも自分の考えも一応自身のベースである”日本語”で理解していた。
 が、とつぜん日本語化しなくても意味が理解できるようになった。
 そして、それをきっかけに、雪崩のような情報が桜野に流れ込んでくる。

(院フォメーションの洪水や……)

……喜ばしいことです。桜野さんには資質があったようですね

(脂質?)

……宇宙意思とのリンクです。アクセス権限を委譲します。今日から桜野さんは全能ではないですがある意味では全知である存在です。
……そして、あなたがまた別の人を覚醒させ、その人がまた別の人を覚醒させ人類は大いなる進歩を遂げるのです

「タイム!」

 おかしなことになっているので、全本監督はピッチャーを、そしてキャッチャーも交代した。
 試合自体は、交代した投手がピンチを切り抜け、裏の攻撃でホームランが出てタイカースの勝利に終わった。
 ベンチに下がった桜野は呆けたように座り込み、俯いて日本語ではない何かをぶつぶつと呟いていた。

 2/3回 無安打、0失点、三振2
 これがメッセージの生涯成績だった。

id:libros

トップバッターに相応しい、勢いがある作品で楽しかったです。
野球から宇宙意思へ、予想外の方向に膨らんだかと思うと、あっという間に収束してささやかな生涯成績の記録で終わる。緩急具合が心地よいです。

もし私が書くとしたら、
桜野捕手が「メッセ投手は打者の考えが読めるのでは」と思いつく

メッセ投手が「私の仲間になればあなたも読めるようになります」と誘惑し、桜野は深く考えずに承諾してしまう

心が読めるようになった桜野は、メッセ投手の正体と企て(人類の覚醒)を知ると同時に、「インフォメーションの洪水」を浴びて人事不省に陥る。

桜野は交替。メッセ投手は「人類にはまだこの能力は早すぎたか」と人類の覚醒を諦める。

メッセ投手のささやかな戦績だけが残る
という筋立てにするかな、と思いました。ちょっともったりしすぎかな…。

あと、徐々に表記が崩壊して「インフォメーションの洪水」へと雪崩れこむ場面がなかなかカッコイイので、序盤の文字使いは注意されたほうがいいかなと(一節→一説/慣らして→均して/体制→体勢)。

2017/06/12 16:28:14
id:hokuraku No.2

hokuraku回答回数530ベストアンサー獲得回数972017/05/22 08:18:46スマートフォンから投稿

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朝6時。なんとか今日のプレゼン資料が完成した。もうくたくただ。
データを保存しようとしたら
かてふ やあら のちふお
けちす まきざ どなきす
というメッセージボックスが出てきたが、徹夜明けなんてそんなもんだ。保存はできている様だし、寝惚けて小人さんが何かやったのだろう。朝礼まではあと2時間あるし、少しでも仮眠を取らないと。

・・・・

社員の皆さん、おはようございます。今日も一日、ミスの無いよう張り切って仕事しましょう。
今日は皆さんにひとつお知らせがあります。
昨今、情報セキュリティの重要性が声高に叫ばれています。アリの巣のようなほんの小さな隙間からダムが決壊するように、少しの油断が大きな事故に繋がりかねないのです。
そこで我が社と致しましては、情報セキュリティの大幅な向上を図るべく、全ての電子ファイルの読込に「ふっかつのじゅもん」を要求することと致しました。この措置は本日の0時から実施されており…

id:libros

隙なく無駄なくコンパクトにかつ美しくまとまって、非の打ちどころがありません。申し分なし!
実は私、ドラクエをやったことがないのですが、そんな私でも、「ふっかつのじゅもん」が適合しなかったときにプレイヤーを襲う途方もない絶望・喪失・徒労の嵐はなんとなく知っています。それだけ浸透力が強かったのかな。若いかたもそのあたりご存じなのかと検索してみたら、《ふっかつのじゅもんが復活》とのニュースが。タイムリーな話題だったんですねこれ。

2017/06/12 16:29:21
id:Africannewbeer No.3

Africannewbeer回答回数3ベストアンサー獲得回数02017/05/22 14:40:40スマートフォンから投稿

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「受け取りの……サインを……」

 戸惑いながら郵便物を差し出す配達員を呆然と眺めながら、篠崎香菜は白昼夢を見ているよな感覚で受取書に名前を記した。

「でも……本当に……来るなんて思ってなくて……申し訳ありません」

 言って、深々と頭を下げる若い配達員に、十九年前に亡くなった夫に似た面影があって、香菜は反射的に微笑んだ。

「私も、同じ。主人の遺言だったのに、信じて無かったの。だから、近所の紗由理さんと賭けみたいなことまでしちゃって……負けちゃったわね」

 香菜は、答えながら封筒を受け取り年齢にそぐわない可愛らしい仕草で、それを胸元に当てがって深く息を吸い込む。気候が変化しても潮風の香りが変わることはない。海からの暖かい風は、白いものが目立つ髪を優しく撫でて通り過ぎていく。

「でも、良くこの場所が分かりましたね?」

 ヘルメットを被り顎紐を掛ける間中、数年前まで力強い生命力を誇示していた干上がった海を眺めていた配達員が、赤い車体の単車に股がりながら訊いた。

「鴨鳴神社の鳥居から、真っ直ぐに三キロって主人が、何度も、何度も言ってたから。貴方も、それを目印に来たんでしょ?」

 その問いに、単車のハンドル部に装着された装置を指差す配達員。

「最近は、GPSもあてに成らないから無線で局とやり取りしながらでないと何処にもたどりつけないんで」

 配達員はそう言うと、振り向かずに都心部に向けて走り去ってしまった。

 香菜は誰もいない海水浴場入り口付近を暫く見詰めてから、封筒の中を確認した。白い便箋が数枚。長い間、郵便局の保存室に眠っていたそれは、年数を感じさせない程に清んだ白に輝いている。


『香菜。君は今日で、62歳だね。おめでとう。僕も一緒に、この日を祝えているなら幸せだけれど。多分、それは叶わない。

 高梨が言うには、僕の命は残り半年らしい。名医と呼ばれる友人を持つと、心強い半面。絶望的なその正確さを呪いたくもなる。とは言え、残された時間を時は正確に刻んでいるのだし僕も悲観的な事ばかり言ってもいられない。僕には、未来の人類の為に見つけ出さなければならない事がある。どんな、人種でも、どんな、宗教でも、人には決められた時間を生きる権利があるし、生きる義務がある。でも、その時間が定められているなら、誰かが正直にその事を伝えなければいけない。恐らく、事実は権力によって閉じ込められて62歳になった君にも伝わっていないだろうと思う。

 もしも、事実が公表されていたり、新たな希望が発見されているなら。こんな女々しい戯言が書かれた手紙は気にせず捨て去ってくれ』


 便箋の一枚目に書かれた冒頭を読んで、癖のある文字と言い回しに胸が熱くなる。年甲斐もなく大声で主人の名前を叫びたくなる。香菜は、もう一度深呼吸をしてから持っていたハンカチを敷いてその場に腰を降ろすと、日傘を座して身を焼くような直射日光を遮った。


『僕は真実を伝える。だから、君は、この事を信じてくれ。信じてくれたのなら、他に何もする必要は無い。その必要は無いんだ。

 先ずは、何故それに気付いたのかを書くべきなのだけれど。学術的な根拠を数百枚分の論文として君に伝える事は便箋の枚数を考えると不可能だと思えるので端的に伝える事にする。

 人類は、今から26年後の今日。滅亡する。それは計算上間違い無い事実だ。奇しくもその日が君の誕生日なのは人類にとっては無意味だが、僕にとっては大きな意味がある。本題だが、地球は数年後に自転速度が劇的に落ちている。それが人類の滅亡?と、思うかも知れない。だが、それが引き金になることは間違い無い。地球が自転しているからこそ、人類は生きていける。詳しい理屈は説明しても理解が難しいだろうから、何がそのサインと成るかだけを伝えておく。自転が弱まると海が干上がる。正確には海の水が移動するだけだが、海水の移動は致命的だ。世界の気候が激変する。地球の重力の在り方も変化する。一日の長さも変化する。変化に伴い、衛星を使った技術等も利用できず、食料の確保もままならなくなる。混乱だよ。世界の危機に、その時の人間が上手く対応していれば良いが、恐らくは無理だ。権力を持つものが蓄えるだけ蓄えて、僅かに残る居住可能地域を独占する。

 でも、それでも……人類は地球の自転が無くなって長くは生きられない。もって数年だ。それでも……』


 確かに主人が生きていた頃とは、世界はスッカリ変わっている。食糧は配給制になり日本は他の国との付き合いを止めている。他国からの侵略を拒む為に自給自足の選択をして外交を極限に抑え、元々、海だった土地の防衛に必死だと訊く。だが、テレビが伝える事は次第に明るい希望が見えてきている。とか、政府が推進する農業と畜産こそがトレンドだと人気タレントが挙ってドラマに出演したりと、世の中が必死になっている。この世の終わりが直ぐ側にあることは伝えられてはいない。香菜はゆっくり噛み締めるように考えながら、最後の便箋を見詰めた。

 そこには絶望的な環境の中でも生存可能だと思われる動植物の名前と、残念だが君は生き残れないという趣旨の文章が綴られている。

「これを、年寄りのお婆ちゃんに送り付けてどうするんでしょうね。まぁ、貴方らしくていいけど……」

 言って立ち上がろうとしたした足元に小さなカードか落ちて。香菜は、それを拾い上げた。

 そこには、「初めて君と出逢えた場所で……」から始まるメッセージが短く添えてあって、香菜は少女のように微笑んだ。

id:libros

人類の終焉を描いているのに、穏やかな雰囲気に満ちた不思議な作品です。香菜さんの優しく上品なキャラが特に好き。
気になった点をいくつか。
 ・夫の手紙が、科学者が書いたにしてはいささか散漫(私信だからこんなものかもしれないけど)
 ・「人類は、今から26年後の今日。滅亡する。」この条件で日付まで確定するのは不自然に感じる。
 ・夫の手紙が「人類の終焉の経緯」と「自説が隠ぺいされたかもしれないが、あなたは真実を知っておいて」の説明だけに終わってるのが物足りない。香菜さんならずとも「これを私に送り付けてどうしろと」と言いたくなる。おそらく、ラストで足元に落ちたカードに、夫から香菜さんへの思いを綴ったメッセージが書かれていると思われるが、女子としてはそこが一番読みたいのに端折らないでほしい(←いきなり女子目線)。
 ・No.4の作品もですが、文字使い(誤字脱字句読点など)に注意したほうが。せっかくのいい場面で表記が変だと気が散るので、もったいないです。

2017/06/12 16:47:15
id:Africannewbeer No.4

Africannewbeer回答回数3ベストアンサー獲得回数02017/05/26 20:28:57スマートフォンから投稿

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全てが、消えていた。

 正確には、消えなどいないが野本俊にはそう思えた。朦朧とする意識の中で腕を伸ばし虚無の世界を手探りで手繰り寄せる。布擦れの音が微かに耳に届いて、野本はこれが現実の世界であることに気付いた。

「こ、ここは……」

 水分を奪い取られたように、喉が咥内のどこかに貼り付いて声が出ない。身体の全てが、鋼製の錆びた加工品のように軋む。瞼を開いている筈なのに眼球内部の水晶体に射し込む光は一切存在していない。漆黒の闇。言葉としては記憶しているが体験したこともない恐ろしい程の闇。

「おぃ……誰か……」

 唾を飲み込みながら言葉を繋ぐ。

「誰か、居ない……のか……」

 野本は緩慢に動く身体を闇の中で僅かずつ動かしながら、見えない誰を呼び続ける。それを暫く続けていると、再び意識が遠退いた。


…………

「誰か! 誰か、居ないのか!」

 数回の混乱昏睡と覚醒を繰り返し五感を取り戻した野本は自分が倒れていた場所に立ち上がり、四方八方に手を伸ばしながら闇の中にある自分の立ち尽くしている位置を探ろうとしていた。此処がどこで、何が起こっているのか。全く掴めない。残っている記憶も火花のような閃光と、数人の男女が繰り返す「破滅」だとか「創造」だとか、単体では何を伝えたいのか意味の通らない音の羅列。

「クソッ! クソッ!」

 苛立ちに任せて脚を踏み出したい衝動に駆られて、その度に本能が脳内に強い警告音を響かせる。闇の中に踏み出し奈落の底に落ちていく映像が繰り返されて、自分自身の身体を拘束していく。

「なんだよ! なんなんだよ、これは!」

 絶叫を凌駕した獣のような咆哮を繰り返す。
 だが、誰かが見えない世界から救い出してくれるような気配は微塵も感じることは出来ない。狼狽、疲労して気を失うように眠るまで野本は叫び続けた。

………

 再度目覚めた瞬間。発せられた刹那消えるような、短く薄い電子音を野本は感じた。鼓膜の振動や皮膚に感じる刺激ではない。気配のような至極些細な電子音を感じた。

 感覚を研ぎ澄まし、確かに存在する音を全て感じとる。やがて、微かな明かりに目が慣れて視界が薄く浮き上がるように闇に消されていた音が静かに積み重なり音の羅列になる。

「ザメ……」
「キガキマ……」

 音が声として正体を現すのに従って野本の記憶も鮮明になっていく。

 地球滅亡を伝える各国のトップに、狼狽える国民。暴動に混乱。それを、鎮圧するために繰り返される殺戮と絶望の縁から逃れるために自ら私を選ぶ弱者達。

 希望は微塵も無い。地球は自転を止めて、四季も諦め、灼熱の昼と、極寒の夜を半年後とに繰り返す。

 自分も死を決める場所を探して街をあてなくさ迷っていた。だが、突然に後頭部を殴られ目の前に閃光が走った。激痛に悶絶する間に連れ込まれた施設の一室。白衣の男女が泣きながら自分に語り掛ける。破滅と創造は対になっていると。時間が無かったと。偶然に見付けた男女がアダムとイブになると。初期段階の操作をする人間がいなければ長い冬眠のコントロールが出来ないと。生きろ。生き続けろ、と。

 

そして……


 突然、眩い灯りが突然に室内を照らし出した。全面分厚い壁に囲まれている室内を照らし出す。

「メザメテ、クダサイ。ジカンヲカケテ、メヲナラシテクダサイ。ソトニ、デルトキガキマシタ」
 
 機械的な声が室内に響く。

 野本は闇から転じた光を受け入れる事が出来ずに瞼をキツく閉じたまま手探りで、音の方角に這い進む。

 柔らかく温かい何かに指先が触れて動きを止める。

「う……うぅ……」
 
 若い女性の声が、野本の直ぐ側で聞こえた。

id:libros

突然真っ暗闇に取り残された恐怖感が克明に描かれていて、迫力がありました。
「偶然に見つけた男女」を殴って拉致って、事前になんの説明も無くアダムとイブに仕立てる、という筋書きは若干無理があるので、そうせざるを得なかったと読み手に納得させる理由付けがうまくできていれば、さらによかったと思います。

2017/06/12 16:48:20
id:takejin No.5

たけじん回答回数1495ベストアンサー獲得回数1942017/05/29 16:34:25スマートフォンから投稿

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「さあ、準備万端整った」
俺は、コンソールの前に座り、センターからの指令を待っていた。ここは、水素線信号全方位発信装置の心臓部だ。
「こちら信号発信センター、発信信号列を訂正した、確認を要請する」
転送されてきた信号列を確認する。物理的に信号列を配置する必要があるこの装置は、内部から操作する必要がある。俺は、各励起コントローラのペレット群の配列を指示した。中心地点から対称に存在する励起部対が、装置表面に約3000あり、全てが同時に作動する必要があるのだ。全ての物理配列を確認し、俺はセンターに報告した。
「発信信号列を確認。全ペレット配置は、発信信号列とシンクロした。反応制御装置を解除した。ペレットが安定している期間中に発信する必要がある。」
「センター了解。退避は完了している。カウントダウンを開始しろ」
「了解」
俺は、コンソールの右隅にある赤いボタンのカバーをはずした。
「発信」
とつぶやいて、赤いボタンを押す。コンソール画面に、数字が浮かんだ。カウントダウンが開始された。
俺は、技術担当責任者には必要ないと言われている、回避ポーズを取った。俺は独り言をつぶやく。
「星全体の核反応を制御してメーザー信号発信源にするんだ。何が起こるか、わかんないだろう?」

観測装置からの信号が、画面に映し出されている。中心に捉えられているのは、青白い星だ。画面の右には、刻々減っている数字が刻まれている。あと14カウントで零になる。
「現在、発信しました」
係員の声とは別に、画面は変化していない。
「あとどれくらいだ?」
司令官の声に、係員が答える。
「25カウントです」
画面の左にも減っている数字が刻まれている。あと少しで零だ。
「一瞬光るはずだ」
技術担当責任者がつぶやくと同時に、画面中心の青白い星の明るさが、強くなった。明滅しているようにも見えるが、よくわからない。
「信号モニタしてるか」
「設定どおりの信号列です」
観測班班長が答える。
画面上部の数字が減少していく。
「出力安定しているか」
「出力、コヒーレンシー共に予定通りです」
画面上部の数字がほとんど零に近づいたとき、画面中央の青白い星が、黄色い色に変化しはじめた。
制御室内に警報が響く。
「異常事態発生、異常事態発生。圧力値平衡状態から遷移中。発信装置圧力異常」
画面の星が大きくなっている。
「制御不能、制御不能」
警報が叫ぶ中、画面の星は赤く暗くなり、急速に巨大化していく。司令官が技術担当責任者に問う。
「どうなっている」
「水素線球面波メーザーが、発信したエネルギー以上に内部に向かって作用したようです。発信制御用励起ペレット群が、順番通りに反応せず、一遍にエネルギー解放を行った結果、発信装置の爆縮と、発信恒星の蒸発散逸が起こったと考えられます」
「ということは、発信は失敗か?」
「発信信号列はほとんど終わってましたので、発信はほぼ成功です。が、計画で考えられていた、二回目以降の信号発信は不可能でしょう。同じ系列の恒星が、近くにありません」
司令官は少し残念な様子だ。
「全宇宙へのメッセージは、一回きりであきらめるしかないのか」
「そうなります。しかし、この出力で全方位に向けてメッセージを送っています。球面波のパルス列は、予定通りの内容になっています。水素線波長域の到達距離から考えると、十分誰かのいる範囲に届いているでしょう。」
「この短時間で一回だけのメッセージを受け取って反応できるのが、我々の仲間となりうる段階に来ているということだな」
司令官は姿勢を立て直した。
「そうです。それ以外は無視するしかありません」
技術担当責任者に司令官は近づき、囁いた。
「それと、発信装置のあいつ」
「はい、科学の発展に犠牲者はつきものです」
「そうだな、兄のお前が言うのであれば、しかたあるまい。冥福を祈ろう」
「はい」
しばらく、黙ってコンソールを見つめていた司令官は、こう言った。
「全宇宙からの回答を待とう。時間はかかるだろうが、我々には仲間がいるに違いない」
「はい。送信した信号に載せた、我々の位置や基礎となる数字、簡単な変換コードと芸術と文化の一部、返事の方法と亜光速ドライヴの基礎理論は、受信者が解析できれば返事ができるはずです」
「場合によっては、訪問してくれるかもしれん」
「辛抱強く待つのだな」
「はい」

長い年月が経過した。銀河系の別の場所、ビッグイヤー電波天文台。

「さて、受信結果のチェックだ。8月15日分からだな」
私は、コンピュータのプリントアウトをレビューし始めた。結構な量の紙を端から端までびっしり書かれた記号を読むのだ。作業中に独り言が増えるのは、仕方がない事だと最近思う。
おや?これは!
「Wow!」
私はそう叫んで、プリントアウトの紙に同じくWow!と思わず書いてしまった。左から二番目のチャンネル2に、他の時間帯とは違う見たこともない6文字”6EQUJ5”が書かれていたからだ。”U”があるなんて!と私は思い、その6文字も赤く囲んだ。
「他の信号は?一周後はどうなんだ?」
私は同じチャンネルをたどり、地球が一周した時間をチェックした。しかし、同じ方向から同じ信号はやってきていなかった。3日分をチェックしたが、受信したのは”6EQUJ5”だけだった。
私は受話器を取り、リーダーのボブに電話した。
「水素線に信号が72秒、強度が高い、Uがある。」
「おい、本当か?」
「本当だ。だが、一回きりだ。時刻は1977年8月15日23時16分だ」
「そうか、すごい事だ。詳しいことは後で聞く。そっちへ行く」

いて座の方向からやってきた水素線のシグナルは、ビッグイヤー電波天文台で72秒間受信できた後、途絶えてしまった。だいたいの方向と、おぼろげな波形の信号というはかない痕跡を残しただけだった。
私たち人類は、はるかな異星からの信号を受信しそこなったに違いない。その信号には、判読できる科学的なメッセージが載せられていたはずなのだ。

id:takejin

元ネタは、メッセージじゃなくて、コンタクトですが。

2017/05/29 18:45:37
id:libros

信号発信装置の事細かな仕様説明がセーガンぽくて実に格好良いです。
発信された信号がWow!シグナルだった、という展開も夢があって面白い。
人類が受け止め損ねたメッセージは、いつかどこかの宇宙で、誰かが受け止めてくれるのでしょうか(遠い目)。
……と、思ったら続編が!嬉しい!

2017/06/12 16:48:45
id:CSQG No.6

ゾロア回答回数9ベストアンサー獲得回数02017/05/30 20:47:08

ポイント50pt

Reply to you

 さっき自販機で買った、缶コーヒーがやけにぬるい。
 そんなとき、気がつくと私は、缶を首元に当て、温めようとしている。
 もちろん、飲んで、当てて、飲んでを繰り返しても、一向に温度は変わらない。
 少し冷えたままの体は、やけになってそれを飲み干した。

 飲み干した後で、思い出した。

 これ、彼の癖だった。


 彼はいつも寒い日に、好みなのか、必ずと言っていいほど缶コーヒーを買っていた。
 それを片手に持っては、今の私と同じように、缶を首元に当てた。
 本人曰く、それを人の体温に触れておくと、少しだけ温かく感じるんだとか。
 そしてそれを飲んでは、白い息をひとつ、「うまい」と呟いていた。

 んなわけないでしょ。いつの時代の迷信よ。
「まったく、あんたはいつまでたっても、ばかなんだから」
 と、そんな風に、彼を笑ってやったのを覚えている。


 ーーその迷信というやつは、時が経った今、無意識のうちに、
 私が引き継いでしまっていた。

 (誰だ、今“ばかはどっちだ”とか言ったの。)


 でも、そんなこと言われても、否定はできない。

 その何気ない動作を、「彼の癖」と思い出すたび、やっぱり胸が痛くなる。

 「それ」が染みこんでしまった私の体は、ゆっくりとコーヒーを消化していく。

 彼との「思い出」を、またひとつ飲み込んでしまう。



 とりあえずその缶は、コンビニ前のゴミ箱に捨てて、家に帰ることにした。
 灰色の空。緑を失った木々。錆かけた公園の遊具。ベンチ。そして私。
 小学生らしき子供が、いつもの如くサッカーをして遊んでいる。
 (“子どもは風の子”か。羨ましい限りだ)
 自宅が見えるなり、アパートの階段をゆっくり昇り、凍った手でドアノブを回した。

 無造作に部屋の灯りをつける。
 さっきまで重く肩に圧し掛かっていた荷物を、畳の上に軽く投げる。
 私は、立ったまま、いつもと同じためいきをつく。
 ジャンバーすら脱ぐのも億劫なまま、疲れた体を床に倒した。

 ......

 騒がしい、テレビの音声。
 静寂に包まれた、部屋の空間。
 ただそこに、隣り合って座る、私と、彼。
 ただそこで、黙ったまま、ふたりは画面を眺めている。

 ふたりの間の静寂を劈くように、急に彼の左手が、私の右手に触れる。
 右を向くと、はにかんだまま、彼が下を向いている。
 次第に、頬が赤くなっていく彼。寂しがり屋の彼が出すサインだ。
 (“何の”サインかについては、あまりつっこまないでもらいたい)
 それにつられて、私も頬を赤らめる。
 そして、急にこぼれる笑み。
 なによ、いきなり、と囁いては、私も彼の手に触れる。
 寂しがり屋の私と、よく似た彼の“それ”に応じるように。
 指を一本ずつ、小刻みに絡めてみる。彼が左を向く。
 やっとのことで、私たちは顔を合わせる。
 一直線上に重なる瞳。似た者同士であることを、改めて確認するように。
 すると、彼の右手が、私の赤い頬に触れる。
 ふたりは、次第に、顔を、近づけ、瞳を、閉じたままーー......

 静寂に包まれた、部屋の空間。
 ただそこに、隣り合って座る、私と、彼。
 ただそこで、互いの体温を、感じていた。

 ......


 今、私はここで、たった一人で、畳の冷やかさを感じている。
 さっきのコーヒーが、少しずつ体を冷やしていくようだ。

 気がついたら、私の目元は、涙でぬれていた。



 ーーダメだな、私。
 散々、彼のことを冷やかしたクセに、可愛いとか思っていたクセに、

 私は、眠っても起きても、ただ泣いてばかりだった。

 あなたがいなくて。

 もう会えないのに、まだ「思い出」にしがみついている私が、

 情けなくて。

 私の頬に触れ、涙を拭ってくれる、その手はもういないんだ。


 今のあなたは、私のこと、どう思ってんだろうな。

あの時、あなたはどんな顔をしていたの?

泣いていたの? 本当に泣いていたの?
僕がいなくなってスッキリしたんじゃないの?

違うの?

 とか思ってんだろうな。


 ばかじゃないの。

 ふざけないで。

 今でも私は、寂しがり屋で、泣いてばかりなのに。

 あなたのいない、空しい毎日を生きているのに。

 どうしてそんなこともわからないの。

「まったく、あんたはいつまでたっても、ばかなんだから」
 って、もうあなたに、言うこともできないのに。


 こんなことを、あなたに話せたら、きっと笑ってくれるのかな......。


 溢れた涙を袖で拭い、壁のカレンダーを見た。
 そっか、もうそんな季節なんだって思いながら、私は立ち上がった。
 窓の外の夕暮れに、雪が降り始める。
 街は、イルミネーションのせいか、いつもより、すこしだけ賑わっているようだ。

 ーー凍ったままの手で、またドアノブを回す。


 外に出て、さっきと同じ缶コーヒーを買い、同じように首元に当てた。
 なぜかはわからないけど、さっきよりもずっと温かく感じるようになった。


 きっとあなたのことだから。
 今日なら、ここであなたに会えるかな、って思っている。
 たとえそうじゃなくっても、ちゃんと私は待っているから。

 私の前にあなたが現れたときは、、、びっくりするんだろうな。

 でも、大丈夫だよ。

 その時がきたら、ちゃんとあなたに、「おかえり」っていうからね。

id:libros

現実の蒸し暑い気候をひととき忘れさせ、冴え冴えとした冬の空気や人肌の温もりを感じさせてる、ロマンティックな作品ですね。
二人とも不器用で、思いをはっきり伝えるのが苦手なんだろうな、再会したらどうなるのかな、とかいろいろ想像がふくらみます。
どの部分が「謎のメッセージ」なのかが私にはわからなくて(読解力低くてごめんなさい)、缶コーヒーを体温で温める動作のことなのか、彼がはにかみながらそっと触れてくることなのかな、などと考えております。

2017/06/12 16:49:33
id:gm91 No.7

GM91回答回数1025ベストアンサー獲得回数912017/06/03 21:31:08

ポイント50pt

『宿敵』

 お体に障りますから床へお戻りください、と繰り返す与兵衛の半ば嘆息交じりの声に、その都度あいまいな返事を繰り返しながら俺は、彼奴の涼しげな面をどうやって歪ませてやるか、ただそればかりを思案していた。
 縁側から見下ろす庭は、いつまでもしとしとと降り続く長雨の中で、まだ真昼というのに薄暗く陰気な気配に支配されているように見えた。

「旦那様、お体に障りますから」
「ああ、わかった」
 もう何度目か分からない与兵衛の懇願に屈するかのような格好で俺は床へと戻った。
 気だるさに侵された自分の体を横たえるのを見届けるが否や、与兵衛が障子をそろそろと締め切ってもなお、俺の目に映るのはただただ陰惨な気配そのものだった。

 天下の豪商、そう呼ばれるようになってからもう久しい。
 商売は綺麗事では務まらない。己の才覚のみが頼り。負ければ家は傾き、そこには何の救いも無い。
 ただ勝ったもののみが、富と名声を手に入れる。
 俺は、ただひたすらに、己の戦場を駆け、斬り結び、数多の商売敵を叩き潰してきた。

 そうやって俺は体一つで成り上がり、欲しいものは全て手に入れてきた。
 ……はずだった。

「死んでも死に切れない、か」
 思わず口にした言葉に、ふと気がつき自嘲してしまう。

 そう、あの若造に一泡吹かせたい。
 それまではくたばるわけにはいかねえ。
 この俺が、知略の限りを尽くしても、彼奴にだけは敵わなかった。
 富や名声などどうでもいい、俺はとにかく彼奴に勝ちたい、ただそれだけを想った。
 俺の目の黒いうちに、何とか一矢報いたい。しかし、一体、どうすればいい?
 俺は床の中で逡巡しながら、浅い眠りへ落ちていった。

 * * * * *

 これは一体、と訝しがる与兵衛に俺は半ば得意げな心持ちで言い放った。
「果たし状、よ」
 果たし状でございますか、と間の抜けた声を漏らした与兵衛に、俺は丁寧に諭してやった。
「そうよ、これは俺と彼奴の果し合い。逃げる事は許さん、と伝えよ」
 承知致しましたと畏まり、手紙を懐に入れ立ち上がった与兵衛の背中に、俺は彼奴の苦悩に歪む様を思い浮かべた……。

 さあ、どうする、尻尾を巻いて逃げ出すか、俺の前に跪くか。
 好きな方を選ぶがいい。
 俺は久々に爽快な気分で床に付いた……。

 * * * * *

 桔梗屋の主は病篤く、とうとう気がふれたらしい、と町人どもが口々に噂する中、僧形の男達がその高札の前で足を止めた。

 高札を見上げ、そこに書かれた文句を読み上げた一行は忽ち青ざめた。
「これは、どういう……?」
「謎かけか」
「こんなのはただの詐術です。帰りましょう!」
「いや、それでは逃げたということになる」
「しかし」

 困惑を隠せない一行の中心で一人沈黙を守っていた少年は、高札の文句をまるで反芻するかのように何度かつぶやいた後、不敵な笑顔を浮かべて言い放った。

「なるほど、面白い」

 えっ、と驚き振り返る一行には目もくれず、少年は今度は声を張り上げて高札の文字を読み上げた。


「このはし わたるべからず」

id:libros

風格に満ちた、渋く重厚な時代小説風の文体に、どんな真剣勝負が繰り広げられるのかと、胸ときめかせてたらこのオチ! 素敵です、参りました。
聡いかたは「桔梗屋の主」でオチを察してしまうかもしれないので、この語はラスト直前に配置するのがいいかもと思いました。

2017/06/12 16:50:01
id:libros

終了予定日が近づいてまいりました。6/9(金)日没ごろ締め切ります。
「今書いているのでもう少し時間を!」というかたがもしおられましたら、お知らせください。

id:takejin No.8

たけじん回答回数1495ベストアンサー獲得回数1942017/06/08 19:22:09スマートフォンから投稿ここでベストアンサー

ポイント50pt

続編でござい。



《信号受信》  《信号受信》
アラームが鳴っている。主画面には『水素線信号受信中』の文字が躍っている。
「信号波形は」
『表示しています』
静止軌道に上がっている電波観測衛星の、特別チャンネル”水素線”での受信信号は、最優先で解析される。
62年前のミスを挽回するためだ。地上観測所も、低い軌道の電波衛星も、常に観測しているはずだ。
「解析急げ、こっちは静止軌道から受信するだけタイムラグがある。他の観測所に抜かれるな」
『最有力候補の数値化を表示します。最も論理性が高い、二進数パルス解析です』
画面には01の数字と、解析した記号列が並ぶ。
「自然数と、二乗数、三乗数、素数列だな。」
『我々と同じ3次元の住人と思われます。数学的根拠も一致している推定されます』
「パイオニアに載せたメッセージに近いな。考えることは同じだ」
『論理は共通言語ということが実証されています』
徐々に制御室の椅子が埋まっていく。キーボードを操作したり、音声入力をしたりしている担当者以外の人が、次々と部屋に入ってきている。
「騒がしいぞ、信号が途切れるまで、もう人を入れるな」
『はい』
制御室コントロールのAIが、部屋のドアを閉じ始める。
「これ以上は出て行ってくれ、作業の邪魔だ」
『二次元画像、3次元配列、一次元時系列と予測されるデータ群が、後ろに』
「それぞれ、画像と3次元データと、適当な波長に基準を設けた音声信号に変えてくれ」
画面に、画像が表示される。意味不明なランダムノイズの画像群の中に、星空の様な絵が現れた。
「その上から二番目の左から5番目の画像を拡大してくれ」
画面いっぱいに、モノクロの星空が浮かび上がる。見たことのあるような、無いような星空だ。
『可視光に展開します』
画面には、色とりどりの星が現れた。
「さっきと様子が違うな」
『観測波長域が違います。彼らは赤外波長域からセンチ波付近を中心観測領域にしている模様です』
「これは、信号の発信地からの眺めだな。そこから4面で全天ということか」
『位置情報と思われる数値列です。簡易解析では、いて座方向150光年と推定』
「結構近いな」
『ただし、メーザー発信源は、ふたご座方向からです』
「え、いて座と正反対じゃないか」
『はい、受信した水素線コヒーレント波、いわゆるメーザーの発信源は、ふたご座からです。メーザーは、いて座に向かって発信されています。直進性は保証されていますから、到達地点の誤差は0.001光年程度です』
画面には、全天恒星図とその部分拡大が映る。十字線がその一点を示している。
「どういうことだ?これからメーザーの向かう方向の全天画像があるなんて。発信源周辺の画像を紹介してるんじゃないのか?」
こと座の拡大図も映る。十字線が2セット現れる。
『メーザーの向かう先と、恒星観測画像から割り出した位置データです』
「いて座?そこは、見たことがある。Wow!シグナルだ」
『Wow!シグナルの発信源を加えます』
画面に3セット目の十字線が描かれた。メーザーの向かう先の十字線とほとんど重なった。
「これは!Wow!シグナルの発信位置へ向かってるってことか!」
画面に増え続けていたデータ群が、止まる。
『信号が途絶えました。データが2系統に分かれています』
「どういうことだ?」
画面に数字・式・画像が並ぶ。
『はじめの系列は、数学的基礎、位置情報、画像等のデータ群となり、位置情報がいて座方向約150光年』
「そこまでは聞いた」
画面に二列目のデータが並ぶ
『二つ目の系列も、数学的基礎、位置情報、画像等のデータ群となっていて、位置情報がふたご座方向約31光年』
「同じ系統のデータ群で、位置情報が違うのか」
『はい』
目の前のコンソールから、一人のオペレーターが立ち上がり、こちらを振り向いた。
「あの」
「なんだ?」
「返信、じゃないですかね」
「返信?」
『受信した信号を、同じコヒーレント光に載せて、受信したことを発信箇所に伝え、同じ系列で位置情報を連絡しているということですね』
「そうそう」
『確かに論理的です。当方が受信した場合でも、そのように返信することが最良と計算できます』
携帯電話を操作しながら、こう言っていた。
「とりあえず、観測結果とこの考察を世界に発信する。信号がやってこないなら、対策を考えよう」

『データ解析の結果です』
会議室のスクリーンに、画像、数式、数字等が並ぶ。手の動きに反応して、個々のデータの枠が色づいたり、消えたりする。一つのデータ群を指して、こう言った。
「このデータだけ特殊だな。なんだろう」
『この一群のデータは、図面・3次元データ・補足する数式・現象を示す画像・元素を示す記号などでできています』
「元素?」
『3次元データに元素指定箇所があります』
「?」
一人のオペレータが立ち上がり、画面に張り付いて眺めている。
「これ、何かの構造です。いわば図面みたいなものです。このまま3Dプリンタにかければ、できあがるんじゃないでしょうか」
「なにができあがるんだ?」
「この画像と数式から、質量を高速で移動させるエンジン的な物ではないでしょうか」
画面のグラフと数式が変形していく。
『亜光速エンジンとして、その加速過程と根本原理の数式の様です。地球の物理学に近似するよう、数式とデータを修正しました。この通りに作動するかどうかは、物理学者の意見やエンジニアの実験が必要と考えられますが』
「これは、おまけか?プレゼントか?このエンジンを使って、会いに来いってことか?」
独り言を呟いていると、さっきのオペレータは他のデータ群に見入っている。
「このデータ群の詳細は?」
画面のデータが切り替わる。
『先ほどのデータ群と同様と考えると、補足が可能です』
「修正するとどうなる?」
画面には、ちょっと特徴的なグラフが現れた。これは、知ってるぞ。
「なんで、ファインマンダイアグラムを追加した?」
『この数式は、時間遡上若しくは超光速を示しているからです。ファインマンダイアグラムに展開すると、この線に沿った移動を可能にすると言っています。つまり、時間軸をマイナス方向に進めます』
「ワープですね。このエンジンを組み立てると、ワープができるんだ。ワープエンジンの図面なんですね、これ」
オペレータは興奮気味だ。
『実際に超光速航法が可能かどうかは、物理学者の回答を待たなければなりませんが、その可能性は大きいと考えられます』
「波動エンジンの設計図をもらって、イスカンダルに行くのか」
『司令、そのジョークは、この部屋の他の人には通じないと考えられます』

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id:takejin

BAありがとうございます。こっちの方を先に思いついて、wow!シグナル知らない人の為にはじめの方を書いたんです。
意図的に書いてない部分があるのですが、わかります?
異星人の姿です。パイオニアの裸像の様に、自分達の造形は多分必ず記載すると思いますから。でも、描くと何か限定されてしまうので、あえて避けました。異星人の自撮り画像、見て見たいですね。

2017/06/12 18:53:59
id:libros

地球人と異星人があらかじめ交わした自撮り画像は、お互いそこそこ盛っていたので会ってびっくり、なんて。

異星人の外観をあえて描写しないのは、良い演出だと思います(^^)

2017/06/12 19:15:40
id:maruta15 No.9

maruta15回答回数1ベストアンサー獲得回数02017/06/09 16:48:00

ポイント50pt

はじめまして。マルタと申します。新参の飛び込みですみません。宜しくお願いします。

『前へならえ』

 会社員の田中は夕暮れの海岸を歩いていた。波は凪いでいる。辺りに人影は無い。
 砂浜には魚介干しの竹組みが朽ちるままに放棄されている。
 それを蹴り崩そうと試みたが、砂に軸足をとられてよろめいた。
 なかったことにして歩き続け、乾いた岩を探して腰を下ろした。
 
 M&Aで派遣されてきたアメリカ人上司の言葉が頭に響く。
(君には決断力というものが足りないようだ。先送りばかりでは評価できない)
 妻の声が重なる。
(その煮え切らない態度がもういやなのよ。あなたはいい人だけど、私にも人生があるの)

「俺だって色々さあ……」
 田中は呟きながら顎を上げた。と、体を支えようとした右手が予想外に沈み込んだ。同時にひやりとした感触が有った。
「うわっ」
 岩の深い窪みから右手を慌てて引き抜くと、一緒に何かが、軽い金属質の音を立てて転がり出てきた。
 おそるおそる拾い上げると、それは小さい水差しのようなものだった。
「カレーのやつ……? いや、なんだか、魔法のランプみたいだな」
 船虫でも入っていないかと恐れつつも、よく見てみる。薄暗くてわかりにくいが、指ざわりだけでも見事な装飾が施されているのが分かる。
「その通り」
 野太い声と同時に注ぎ口から大量のケムリが噴出し、目の前が真っ白になった。
 視界が晴れるとそこに立っていたのは、アラビア風という他ない出で立ちの大男。
「説明が省けていい。さあ、何でもいいぞ。言うがいい」
 どっしりとした腰に手を当てて不要な程の声量を轟かせた。
「えっええっ?」
 田中はたじろいだ。「えっと……ルー、ですか? カレーの」
 大男はため息をついて、しっかりと声を作って言った。
「我は願いの魔人。古代の盟約により願いを一つだけ叶えてしんぜよう」
 それを聞いて田中は唖然としながらもいくらか納得し、
「あ、あなたに出会えるとは思いませんでした。こんな……こんな日本的な所で。てっきり物語の中か、少なくとも中東あたりにいらっしゃるものかと」早口で言った。
 大男は、その反応はわかっていた、とでも言うようにゆっくりと頷きながら答える。
「うむ。そう思うのも無理は無いが、実際はかなり昔に貿易船でこの国に来たので、もうここのところ私を呼び出すのはお前の国の人間ばかりだぞ」
「そうでしたか。それはそれは遠いところからよくぞおいでくださいました」
「妙な気の使い方も昔から皆かわらぬな、この国の人間は。ところで早く願いを決めい」
「あ、はい、そうですね。何でも一つですか。えーっと、これは大変な決断だ」
「ぱぱっと決めてしまえ」
「あの、その、」
「なんだ」
「三つじゃないんですね、こういうのは三つと聞いた事があるような」
「一つだ」
 魔人が少しむっとしたようにみえたので、慌てて田中は取り繕った。
「ああ、一つというパターンもありますね。ええ、すいません欲張ったわけじゃないんです。ただ三つの願いという話をちょっと思い出してしまいまして」
「まあ、私もその話は知っている。実際に他の魔人や小悪魔が三つの願いを叶えているのかどうかはわからんが、うちは一つだ。しかし小悪魔どものような詐欺まがいの誤魔化しはしないぞ。正真正銘なんでも必ず叶えるのが願いの魔人としての誇りだ」
「おお、流石、です。感服いたしました」
 とりあえず相手を上に置くいつもの習慣を発揮すると気持ちが落ち着いた田中は、願いについて考はじめた。
 何でもとなると、金さえ有れば満たされる欲望を叶えるのはつまらない。となると大金持ちになるというのも、いまいちのような気がする。
 魔人が言った。
「すまん、言うのが遅れたが、不老不死と、他人の心を操る事、あと、願いを増やせというのはナシだ」
「あ、大丈夫です。わかっていますよ定番の除外事項ですね。こうした願い事の常識ですね」
「う、うむ。やはり物分りがいいな、この国の人間は。欲が薄いというか」
「いやあ、欲はしっかりとあるんですけどね」
 田中はまた考え出した。特別な能力を身につける、というのもすぐに思いつく。空を飛ぶ、透明になる、瞬間移動……。自分だけが、他の人間にはできない便利な力を行使する快感は素晴らしいものだろう。
 が、飽きたらどうだろう。走ったり泳いだり、道具を使うことと同じように、自分にとって当たり前の力だと感じられるようになった時、新鮮な喜びが失せてしまったらどうなるのだろう、つまるところ、それも根源的な欲望を満たす手段として使われるだけだろう。下手をしたら通常の技術や科学で満たすことが可能な、欲望。結局、大金持ちになるのと変わらないではないか。
 夕日が落ちようとしている。手元に目を落とすと、持ったままのランプの中に何か入っているのに気付いた。
 紙切れの様だ。つまみ出してみると、細かい模様のついた和紙のようで、丁寧に折り畳まれている。
 魔人が言った。
「それは、前に私を呼び出した者からのメッセージだ。どう受け取るかはお前次第だ」
 開くと、日本語で何か書いてある。

【あなた一人の願いでは無い】

「うう……」
 田中はうめいた。漠然としているのに苦悩をダメ押しするようなメッセージだ。
 しかし今の田中には、なんだか伝わってくるような気がした。
 そうだ。個人的な欲望を叶えるだけなんてつまらないことなのではないか。もっと大きな視野を持って考えるべきなのではないか。
 そうなると候補はいくらでもある。経済格差、温暖化現象、などとよく耳にする言葉がすぐに浮かんだが、きっと自分の知らない大問題も日本に、いやこの世界には存在しているだろう。それさえ解決すれば人類が一歩前進するような。
 昔から存在する人の世の苦悩を、一挙に解決するような答えも有るのかもしれない。
 この願いの権利、個人などが、扱えるわけがない。

「あ、あの、これは重大な問題なのでもう少し時間を、日を改めてというわけにはいかないでしょうか」
「すまんが、そういうわけにもいかないのだ。あの夕日がおちるまで、この場でということになっている」
「そうですか。これは困りました」
 田中は脂汗を拭った。こんなことになるなんて。
 つまらない願いを言って一生後悔するようなことになるのだろうか。
 昔の人々は、このランプを使ってきた代々の人たちは、何と答えたのだろう。
 きっと現在なら科学で解決できてしまうような、たいした事の無い願いばかりなんじゃあないだろうか。だから今の世の中は問題で溢れ返っているままなのだ。
 そうなると今の自分だって同じことだ。いくら考えたところで、未来の進んだ世界では「なんでこんな馬鹿な願いを」と思われるようなことを選んでしまうのだろう。
 もっと進んだ社会の中で頭のいい者がじっくり検討して、魔人にしか解決できない問題を解決してもらうべきなのだ。
 魔人が言った。
「すまんが、そろそろ時間が来る。早く決めてくれないか」
 夕日が最後の光芒を投げかけてくる。
「も、もうちょっと」
 言いながら田中は思い出した。自分は優柔不断だと、決断力がないと上司や妻にも言われていることを。
 ゆっくりと紙を閉じる。ぴたりと視線が定まる。そのまま一瞬お辞儀をするように顔を手元に近づけると、一気に起こして言った。
「決めました」
「言うがいい」
 田中の視線が定まったのは、紙の表の柄だった。いや、柄だと思っていたのはびっしりと書き込まれた文字だった。それは、無数の日本人名。
「私の願いは…………」
「何でも必ず叶えるぞ」
「次の人と同じで」
 田中は胸ポケットから万年筆を取り出して、紙の隙間に小さく小さく自分の名前を書き加えると、折り目どおり丁寧に閉じきって魔人に手渡しながら、言った。
「次にあなたを呼び出して願いを言う方と、同じ願いに致します」
 魔人は紙を受け取りながら、大きくため息をついた。
「だめですか?」
「いや、願いは聞き届ける」
「すみません、私、決断力が無くて」
 申し訳なさそうに言う田中に、魔人はわかったわかったと力なく手を振ると、次第にケムリとなって消えてゆく。ぶつぶつと呟きながら。
「また、この願いか。この国の人間達は皆これだ。協力して「暫定的不老不死」を叶えてい事に気付いているのだろうか」
 魔人は、ぺこぺこと頭を下げ続ける田中を見ながら、
「いや、単に国民性だろうな。律儀にメッセージを預かる私も私か。そういえば日本語も上手くなったもんだ――」
 欲求不満気味な魔人の愚痴が長々と聞こえていたが、目が醒めると田中はそれを覚えてはいない。

id:libros

安定感のある文体で、とても読みやすいです。伏線、布石、細部への配慮もばっちり。決断力のない主人公の逡巡もダレないよう丁寧に書かれていて、ショートショートのお手本のよう。相当書き慣れておられる感じがします。
先送りする日本の国民性が、意図せず「暫定的不老不死」をもたらしている、というアイデアも面白い。
これだけ巧みな文章をお書きになれるのに、「願いをなんでも叶える」のような、過去にさんざん使われているネタをもってこられるのは非常にもったいない気がします。もっと斬新で奇抜な発想にぜひ!挑戦していただきたいです。

2017/06/12 16:51:23
  • id:libros
    ちうわけでメッセージ観てきました。いやっふー! ←最初に言うことがそれか
    http://www.message-movie.jp/

    えーと、質問画像はこちらから拝借しました。
    flickr
    https://www.flickr.com/photos/l-hasard/3682453893
    ヘプタポッド文字の応用で円相も解読できるかもやね(違っ!

    librosからは回答リクエストを送りません。
    本企画がもしお気に召しましたら、関心を持たれそうな方面へ何らかの方法で「かきつばた杯#78やってるらしいよ」と広めてくださると嬉しいです。
  • id:gm91
    1げっと!
  • id:libros
    すみません、うっかり「質問文を編集」してしまいましたが、一言一句変わってません。なかったことにしてください。
  • id:grankoyan2
    今から書きます。
  • id:gm91
    整いました!
  • id:libros
    あと一時間ほどで締め切ります。
  • id:libros
    ただいまコメント作成中です。
    ベストアンサー選べないよ!でも選ぶよ!
  • id:gm91
    びーなす様、コメント欄にはまだ若干の余裕がございます。
  • id:libros
    不測の事態がありまして、終了処理がもたもたしてすみません。
    どうにかこうにか終了いたしました。
    ベストアンサーは悩みに悩んで、No.8たけじんさんの続編に。ポイントは原則に則り均等配分としました。減点したくなるような作品は皆無でした。
    寄稿してくださった皆様がた、素晴らしい作品を本当にありがとうございます。心よりお礼申し上げます。
    長かったような短かったような3週間、とても楽しかったです。ご参加&ウォッチしてくださった皆様も楽しんでくださいましたでしょうか。
  • id:maruta15
    お疲れ様でした。楽しかったです!
  • id:libros
    はてなキーワード「人力検索かきつばた杯」のベストアンサー受賞者を書き換えようとしたら、
    >>
    キーワードを編集するには、はてな市民である必要があります。
    <<
    と、編集を受け付けてくれません。これって、現在の私が市民認定されてないということでしょうか。
    どなたかに編集をお願いすれば簡単ですが、できれば自分で編集できれば嬉しいです。ご助言お願いいたします。
  • id:gm91
    BAおめです!>たけじんさん
  • id:gm91
    >はてな市民

    ブログとかハイクやってると数日後になれます。
  • id:libros
    id:GM91さん、ご新規さんを勧誘してくださったり、こまめにコメントをつけてくださったり、ありがとうございました(深謝)。

    > ブログとかハイクやってると数日後になれます。
    5/19はキーワード編集できたのに、昨日はできなかったので「もしや市民権剥奪か!?」と焦りましたが、さきほど再挑戦したらうまくいきました。お騒がせいたしました。
    これで主催者のミッションはオールクリアですよね。
    ぅ終わった~ッ!(心からの雄叫び)
  • id:gm91
    お疲れ様でした!m(_ _)m
  • id:takejin
    どうもです。>GM91さま。
    お疲れ様でした。>librosさま。
  • id:wingwish
    何故か締切を18日までと勘違いしてたアホが通ります。みなさまお疲れ様でございました。

    この度は私の軽率な発言により企画、開催、また沢山の方々のご参加の様子を拝見することができ、光栄であると同時に参加することができなかった悔しさが溢れます。
    (再試やら課題やらで時間を取られて上手く話をまとめることが出来なかったのもありますが、、)

    すべての作品を読ませていただきましたが、やはり先輩方から学ぶべきところがまだまだ沢山あり、どうせ参加するならもっともっと成長した姿をみせたいなあと、もっと自分の納得のいく作品を書きたいなあと。
    長々と言い訳くさい文になってしまいましたが、もう、本当に、
    またお会いできる機会があることを祈っています。本当に。
  • id:libros
    伊吹。(id:wingwish)さん、コメントありがとうございます。
    今回はご参加いただけなくて残念です。このような大役を担うきっかけをつくってくださったことに、深く感謝しております。

    > 何故か締切を18日までと勘違いしてた
    回答期限を「30日後」に設定していたので、紛らわしかったでしょうか。
    終了処理でもたついたり、ほかにも、あそこはあーすればよかった等々反省するところはさまざまありますが「こんな私でもそれなりになんとかなった♪」と変な自信がついたので、いつかまた主催者として舞い戻ってくるかもしれません。(あるいは他のかたの主催で、執筆者同士として居並ぶことになったりして。)
    人力検索がある限り、かきつばた杯は不滅です。
    お会いできる機会はきっとあります。その日を楽しみにしています(^^)
  • id:libros
    かきつばた杯#79、いかがですか?
    http://q.hatena.ne.jp/1504169520
  • id:libros
    人力検索かきつばた杯#79、本選スタートいたしました。
    皆様のお越しを心待ちにしております。
    雑談コメントも歓迎です♪
    http://q.hatena.ne.jp/1504850568

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