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創作はてなです。ポイントは傾斜します。私は目を覚ました。カーテン越しの午後の日差し。さっきまで幼い私が四つ葉を探している夢をみていた。優美も父も母も穏やかにほほえんでいた。「目が覚めたようだね」。ふいに声。白衣といってもなんだか「仕方ないから着てる」みたいなそんな眼鏡の奥の目が優しい。そうだ、この人は付属病院の心療内科の長谷川先生だ。でも、なんで。「優美ちゃん二日間薬で眠ってもらったよ」長谷川先生によれば古典の授業の後で横山先生と話しているうちに意識を失って倒れたらしい。いじめとか恋愛とかの悩みでなく、優美の存在理由みたいな、そんな話。学内でたったひとり心を見せられる先生。先生は何にもアドバイスしない。そう。そうなんだね。つらいね。そして短い相談のあとに必ず握手してくれる。優美ちゃん、生きてるってことはこうして手をつないだら温かいことなんだよ。わたしはいつも泣いてしまう。優美はいつも「誰か」のために生きてきた。嫌われるのが怖い。「優美ちゃん僕の判断でしばらくここでゆっくりしてもらうことにしたよ。悪いけど携帯はお母さんに預けたよ。しばらくはひとりになろう」長谷川先生は静かに微笑んだ。

●質問者: aoi_ringo
●カテゴリ:生活 人生相談
✍キーワード:いじめ いね はてな ゆっくり アドバイス
○ 状態 :終了
└ 回答数 : 10/10件

▽最新の回答へ

1 ● 狂人日記
●15ポイント

ウン、わかった。

「携帯なんて、無くたって、お外に行かなかったら生きていけるもんね。」

そう呟くと、長谷川先生の眼鏡の奥の目がキラリと光った。

「さて、優美クン、そこで一つ相談なんだが…」

優美は思った。どうして私の名前の呼び方が変わったのかしら?

あれ?長谷川先生の口元から見える歯、何か尖ってるなぁ。

♪男は狼なのよ?、気をつけなさい? by ピンク・レディー

◎質問者からの返答

そうきましたか。

早かったですね、回答。笑。

ありがとうございました。


2 ● jyouseki
●30ポイント

「先生、わたし入院しないといけないんですか?」

「そうだね」

「どうしてですか?」

「倒れた人は当然、体中を検査するんだけど、君はどこも悪い所がなかったんだ。今は心を休ませてあげないといけないね」

「そうなんですか・・・」

「ここでは、いくらでものんびり過ごしていいんだよ」

「はい、わかりました」


次の診察の日が来た。

「あの、学校の横山先生に会わせてもらえませんか?」

「悪いけど、今は面会できるのは家族だけにさせてもらうよ」

「どうしてですか?」

「君の心を休めるためには、ひとりになる時間が必要だからね」

「そうなんですか?」

「君は気をつかいすぎているみたいだね。もっと楽に生きて行くことを考えようね」

「・・・」

優美は無言でうなずくことしかできなかった。


それから1ヶ月後、優美の面会制限が解除された。

最初にお見舞いに来てくれたのは、横山先生だった。

「久しぶりだね。すごく心配したよ。思ったより元気そうだね」

「先生、会いたかったです。すごく退屈していたんですよ」

「ここは、随分と静かな所だからね」

「また、前みたいに話してくれますか?」

「何の話?」

「生きる意味とかです」

「その話はやめておこうかな」

「どうしてですか?」

「今は病気を治すために休まないといけないよ」

「病院の先生みたいなこと言いますね」

「ははは、また元気になったら話そうよ」

「わかりました」


2ヵ月後、優美は退院した。

携帯電話を手にして、始めに横山先生に電話をかけた。

「お客様がおかけになった番号は現在使われておりません」

「・・・・・・・・・」

優美の頬をつたい、涙が床に落ちていった。


クラスメイトに事情を聞くと、別の学校に移ったということはわかったが、連絡はずっとないままだった。

◎質問者からの返答

この「横山先生」の展開、すごく共感できます。

ありがとうございました。


3 ● midoring
●15ポイント

手をつないだら温かい

離れれば、寒さを感じ

近づけば、傷つける

遠ければ寂しさを感じ

自分のために生きるということの意味を見失い

人のために生きることこそ、自分の価値だと見出し

誰かのために生きてきて

誰かの力になりたくて

誰かに必要とされたくて

本当は寂しくて

本当は悲しくて

本当は・・・

◎質問者からの返答

こころの中ですね。

ありがとうございました。


4 ● karasimiso
●30ポイント

「優美、明日ひま?」、「優美、ちょっとここ教えてくれない?」、「え、だめなの、どうして?」、「優美、一緒に昼ごはんにしよう。」、「優美、放課後つきあってよ。」、「私達親友だよね。」


静かな病室の白い天井を見上げているはずなのに、感じるのはたわいもないはずの友達との会話。話しかけてくる友達の誘いに、「うん、そうだね。」、「うん、いいよ。」と快く応じようとする私。できるだけやさしく、人当たりのいい私。誰とでもにこやかに話ができる私。


「ちょっと、ぜんぜん話がちがうじゃない!」


「こんなのでいいと思ってるの!」


突然フラッシュバックされる友達や先生の怒った顔。恐い。手は硬直し、背筋がふるえてくる。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。許して。許して。許して。許して。許して。許して。許して。許して、、、。そんな悪いことをしたわけでもないのに、泣きながら必死で許しを請う私。


次からはもっとがんばるから、もっとがんばるから、、、、、。次のチャンスを渇望し、次こそはともがく私。


え、どうして、、こんなんじゃだめ、こんなんじゃだめ、こんなはずじゃ、、、。どんなに許しを請うて、どんなに反省しても、思ったように全然ならないで絶望していく私。


いつのまにか自虐的なイメージが頭の中をぐるぐるとまわりはじめる私。


どれくらい時間がたっただろう。ふと時計を見るとまだ午前中だ。別段、誰かと仲が悪くなったわけじゃない。でもあまりにも嫌なことばかり考えてしまうから、長谷川先生の所に相談にいったんだ。そしたら、また頭の中がぐるぐる回り始めて、、。

いや、もっと別のことを考えよう。

白いカーテン。白いシーツ。ずいぶんとボロくなっているベッド。窓の外はセンターラインの無い道路。ちゅんちゅんとすずめの鳴き声が聞こえる。壁に掛けられた丸い時計はかつ、かつと動いている。深く深呼吸をして、世界の音に耳をかたむける。目はつぶらない、嫌なことを考えてしまうから。でもそう言っているうちに眠れなくなったのもまた事実。


世界はこんなにも静かに止まっていて、そして、こんなにも音に溢れている。もっとこの落ち着いた世界を感じていたい。もっと安らぎたい。私にはもう、そんな権利も、資格すらもないような気がするんだけど。


人当たりのよい私、優秀な私。そんな私の防波堤はことごとく決壊してる。本当は私はやりたいことがいっぱいあって、友達にふりまわされて消費していく時間がもったいなくて、苦痛でしかたなかった。「私たち親友だよね」と言って価値観や行動の共有をせまられるのも嫌だった。


また一台、窓の外を車が走って行く。


まだ防波堤は残っている。長谷川先生と、冷徹なもう一人の私。

長谷川先生は「私」を否定しない。

冷徹な私はこの世がいかに無機質でくだらないかを語る。その上で私の悩み、苦しみ、恐怖は私の自然な感情ではなく、周囲との対話の中で擦り込まれたものだと主張している。


今日も一人、病室の白い天井を見つめながら、私が人を恐れ、苦しむ夢を見ていた。歯はがちがちと振るえ、バタッと布団をはねあげ飛び起きては、手や足をブンと振り回す。そして、また布団の中に潜りこむ。その繰り返し。でも、ここに恐れるべき人はいない。大丈夫。長谷川先生ともう一人の私がついている。今はただ、休養と考える時間が必要なだけなんだ。

◎質問者からの返答

「嫌われたくないわたし」の描写が素敵だと思います。

ありがとうございました。


5 ● ElekiBrain
●50ポイント

よく分からなかった点があります。ですから、私は以下のように解釈して話を書きました。




花畑から呼び戻された優美は、白い天井を見た。そこは保健室の一室だった。ただ、普段見ている光景とは違う。普段の優美は入り口からこちらを見ているのだ。優美はベッドの上で横になっていた。窓のカーテンがそよぎ、厳冬の到来を優美の頬に伝えた。それとは対照的に部屋の蛍光灯が退屈そうに瞬き、室内を極めてフラットに映し出す。すぐ傍には遮蔽用の布。優美はどうしてここにいるのかが分からなかった。
たしか、古典の授業後、横山先生と話していたはずだったのに。
優美は何度も思い出そうとしたが、なかなか思い出すことできない。ただ、自分が保健室にいること、そして何かの症状があって倒れたということだけが分かった。何を考えても纏まらず、優美は蛍光灯をぼんやりと見つめるままに任せた。やがて、優美の頭の中に、夢に見たあの花畑が広がった。そこには広大な平原が広がり、赤や青の色とりどりの花が咲いている。
父がいた。父はカメラを手にとって優美を何枚も撮り続けている。とても嬉しそうな顔をして、膝をついたり、寝転がったりして優美を写す。母は太陽に輝く真っ白な帽子を頭で押さえ、向かい風に目を細めている。優美は四つ葉のクローバーを探し、時々見つけては、夢中になって両親に報告した。それはとても幸せな記憶だった。
突然、左側の方で、ドアのノブが回った。少し重たいベージュの扉は鈍い音を立てて開いた。そこにはよく見慣れた顔があった。
優美の頭の中に広がる草原は消え、入り口から歩いてくるその人物の顔に視線が向けられた。やがてその人物は近づいてくると、優美に言った。
「どうですか、気分は」
とても優しそうな顔を浮かべたその人物は、心療内科医の長谷川であった。長谷川は唯一優美が心を許して話すことが出来る人物であった。
「長谷川先生。どうしてここに」
優美は怪訝な顔をした。なぜなら、彼はこの学校の専属保健師ではない。どのような理由があってここに来ているのだろう。
「お母さんから連絡があってね、それで優美ちゃんの様子を見に来たんだよ」
長谷川は言った。
優美は突然不安な気持ちになった。
なぜ、長谷川先生がこの学校にわざわざ出向くのだろうか。それにはきっと重大な意味が隠されている。母が行きつけの心療内科医を呼ぶという行動に出たのも初めてだ。
優美が不安な面持ちになったのを察してか、長谷川が口を開いた。
「ああ、いやね、別にそう大したことじゃないんだけど、学校の廊下で会話中に倒れたらしくてね」
優美は驚いた顔をした。
「あの、誰と話している時ですか」
「横山先生とだよ」
長谷川は続けた。
「なに、心配することはない。精神的なものだから、じきに直るよ」
長谷川は優美の手を握ると、静かに微笑みを浮かべた。優美はどんなときよりも、この長谷川の大きな手に包まれているときが幸せだった。全ての不安を忘れて、暖かい気持ちになる。窓の外の冷たい空気も、それほど怖くはない。




校舎の外では雪が降り始めていた。突発的な症状だったこともあり、今は別段問題はなく、優美は体調を回復させていた。あれから学校にも滞りなく通い、長谷川もそのことを応援した。
優美は少し遠くに見える黒板の記号の羅列をノートに書き写していた。静かな教室で、ガス・ストーブの暖かさが不快な空気を作り出す。授業の内容は数学だった。
優美がノートを取っていると、突然、隣の席にいた女子生徒が小声で話しかけてきた。
「優美、ごめん、後でノート見せて」
その子は彩という。彩とは特に仲が良いわけではない。だが別段仲が悪いわけでもない。優美はその頼みをいつも断り切れないでいた。優美は努めて笑顔を作り、彩に小声で言葉を返した。
「うんいいよ」
すると、彩は優美の顔を見て、いたずらっぽい笑顔を浮かべ、
「ありがとね。助かる。ほんと持つべきものは友達よね」
と言った。
友達。
その言葉に優美は何かの違和感と嬉しさと、複雑に折り重なった気持ちを感じていた。なにか、割り切れないものが優美の中に沈殿して、積み重なるのが分かった。優美はいつも、人間関係に関しては人一倍気を遣っているつもりだった。どんなときでも笑顔で話すように心がけたし、出来るだけ人を傷つけないようにした。何かを要求されれば快く応じたし、出来るだけ人の意見に合わせるようにした。
だが、それでも優美の中で、何かがくすぶっていた。そうして、その何かがくすぶる度に、優美はその想いを自分の内側に積み重ねてきた。
人のせいにしゃちゃいけない。
優美は普段からそう思う癖を付けていた。
授業が終わり、休憩時間になると、彩は優美の方を振り向きもせず、数人のグループの中に入って話し始めた。
別におかしいところはない。彩とは下校途中で一緒に話すこともあったし、別に中が悪いわけでもない。しかし、話せば話したで、彩とはどうしても気まずくなった。なぜそうなるのか、優美にはその原因が自分でも分からなかった。
何気ない風景と、何気ない風景から切り離された優美がそこにいた。




母と父との関係は良好だった。父は勉強の出来る娘を何より自慢したし、母も娘の将来に過大な期待を寄せていた。
優美はそんな家庭環境の中、いつしか笑顔を覚えた。
この言い方は奇妙だ。人間は赤ん坊のときから、笑顔を自然発生的に浮かべるものだ。しかし、優美は笑顔を後天的に覚えたのだ。
なぜそうなったのかは優美には分からなかった。
ただ、一つ言えるのは、この家庭に生まれて幸せそのものであると言うこと。
そう思った優美だったが、心の奥底で何かが蠢いた。
鈍重な違和感。
そんなとき、優美はまるで確認するかのように、幼い頃訪れた、広大な草原の情景を思い出すのだ。
そうすればそうするほど、優美の心には麻薬のような暖かさが染み渡ってゆき、優美は“何か”を直視せずに済む。
母はある時、私が買ってきた服を見て、言った。
「あら、あなたに似合う服は私が買ってあげたじゃない」
母はそれきり褒めもしなければ、けなしもしなかった。ただ、非常に落胆した顔をしていたのを覚えている。私はできるだけ最高の笑顔で母に話しかけた。
「そうね、お母さんのセンスの方がいいものね」
私はどうしてか、それ以上その場にいることができなかった。
後で部屋に帰って鏡を見ると、口角が上がり、確かに笑顔にはなっていたが、目は恐ろしく不安な表情をしていた。
そんなことを思い出しながら、優美は自室から階段を降った。久しぶりの日曜日だったから、父に自分の書いた詩を見てもらいたかったのだ。階段を降りきると。右手に台所が見える。少し油で煤けた棚や、よく磨かれた皿が棚に並んでいる。優美は嬉々としたまま、書いた詩を胸にかかえ、眼鏡をかけて新聞を読む父の元へと向かった。
「お父さん、詩を書いてみたんだけど、どうかな」
父は「うん」だか「ああ」だか分からないくらいの返事をして、新聞を見続けた。
「お父さーん、せっかくの休みなんだから、相手してよ」
私は父の腕を掴むと、軽く揺さぶってみた。すると、父は面倒くさそうに唸ると、優美の持っていた詩集を手に取り、目を通し始めた。しかし、その速度が速い。まるで書類に目を通すかのように父は詩集を読み切ると、言った。
「お前、宿題はやったのか」
突然の父の質問に、優美は驚いたが、すぐさま返答した。
「うん、やったけど」
「そうか、偉いな。父さんは昔そんなに早く宿題を済ませることが出来なかったからな」
父は微笑を浮かべて、満足そうに新聞を手に取ると、再び険しい顔へと戻った。
「うん、ありがとう」
優美は出来る限りの笑顔を浮かべ、詩集を手に取り、階段を駆け上がった。興奮しているような冷たいような、形容しがたい感情があったが、そのまま部屋の扉を開けると、詩集をゴミ箱の中に捨ててしまった。
いいの、母や父が日々嬉しそうにしていれば、私は満足。




「優美ちゃん、生きてるってことはこうして手をつないだら温かいことなんだよ」
目を開いた。天井があった。外は真っ暗で、僅に外へと漏れる蛍光灯の光が、なぜか不吉に見える降雪を映し出していた。天井の模様が学校の保健室と違う。この模様は、いつも通う心療内科のもの。
すぐ傍には長谷川がいた。長谷川はパイプ椅子に座ってうつむいたまま、優美の手を握っていた。
どうやら、長谷川はそのままの姿勢で寝ているようだった。
そう、いま聞いた言葉は夢だったのか。
優美はそのまま天井を見つめ続けた。
やっと学校に通えるようになったのに、またぶり返したのね。
雪の降りは激しくなり、突風が時々窓を揺らした。突然、ガラスが割れるのではないか、と言うほどの風が吹き荒れると、その音を聞いた長谷川が目を開いた。
「おはようございます」
と優美は言った。
「ああ、ごめんなさい、寝てしまったようで」
長谷川はゆっくりと身体を起こすと、握りっぱなしだった手を離し、膝に手を当てると、ゆっくりと身体を起こした。
「雪が沢山降るね」
長谷川の口元から白い息が漏れた。
「最近は毎年異常気象ですから」
「そうだねえ」
しばらく会話が続かなかった。優美はそういう時間が嫌いだった。なにか、どことなく不安になる。以前、彩と話している時もこんな空白が静かに襲ってきた。それはとても鬱屈した空気で、どうやって会話していいかも分からなくなるほどの静寂を呼び込んだのだ。
「先生」
優美は突然口を開いた。そうすることにより、無理矢理静寂をかき消そうとした。
「何だね」
と長谷川。
「どうして私は倒れるようになったんですか」
長谷川は窓の外に降り積もる雪をじっと眺めたままだった。時計の針の音が部屋に響き、風がガラス戸を叩いた。長い沈黙が再び訪れ、優美の心を不安が満たす頃、長谷川は口を開いた。
「それはね、君が君じゃないからなんだよ」
長谷川はよく分からないことを言った。だが、優美の思考とは別に、心の中で何かが沈静化してゆくような感覚があった。腑に落ちる、と言い換えた方が良いだろうか。いや、そんな単純なものではなく、なにか、こう、もっと――。
「どういう事ですか」
心の中に湧き起こった想いを確かめるかのように、優美は長谷川に聞き返した。
「君が、君自身を要求するということです。つまりは、だれの要求でもない」
またしても理解できなかった。しかし、僅かな確信だけは心の中で強くなっていった。
長谷川は突然、ベッドの下に置いてあった鞄から書類を取り出して優美に渡した。
「それはね、君のカルテだ。普段は患者さんに見せることはないんだけどね」
長谷川はそういうと立ち上がり、鞄を持った。そして、優美の方を見もせずに歩き始めた。
優美は不安になった。このまま一人、このベッドの上で置き去りにされるような気がしたのだ。
「先生、お帰りですか」
微笑んだつもりだった。
だが、優美の顔はどうしても不安を隠せなかった。長谷川はその声を聞いて脚を止めると振り返り、優美に対していつになく厳しい表情を見せた。いくら普通の様子を装っても、長谷川を騙すことは出来なかった。
「優美ちゃん、あなたの心の声に耳を澄ませなさい」
それっきりだった。
カルテを頼りなさそうに持つ優美の元を離れた長谷川は、扉を開け、部屋を出ると、もう戻ってはこなかった。部屋は突如、がらんとした空気に包まれ、扉は相も変わらず風に吹かれてけたたましい音を立てた。その音が優美の心を否応なしに震わせ、嵐のような感情を巻き起こした。
どうして先生は私を置き去りにしたんだろう。不安で仕方がない私を置き去りにしたんだろう。私が不安なことを知っていながら、ずっと手を握ってくれなかったのだろう。先生はきっと私の事なんてどうでもいいんだ。そんなことを考えている私はなに? どうしてそんな自分勝手なことばかり考えるの? こんなことを考えてはいけない。そう、人のせいにしてはいけない。だけど、私だったら困っている人を置き去りにして去ったりはしない。例え自分が嫌だとしても。
全てが言い訳に過ぎなかった。それを分かっていたのは何より優美自身だった。心の中の空洞は大きくなり、カルテの上にこぼれた痛みの雫が、ポツポツと皺を作った。
優美は止めどなく沸き上がる感情と思考を抑え、カルテに目を通し始めた。
そこには、日々優美の心理を分析し、ひたすら原因の解明に尽力する長谷川の魂を込めた文章があった。
優美は、読み進めてゆくうちに、唯一長谷川に愛されていることを知った。もちろん、その愛は恋愛感情などではない。しかしそこに刻まれていたものは、他人に対して注げる最大の愛情だった。一人の医師として、いや、一人の人間として、長谷川は優美に正面から向き合っていた。それは同時に、長谷川が優美を一個の人格として認めていることに他ならなかった。
愕然となった。
優美は自分の情けなさが悔しくて、ひたすら涙を流した。しかし、それは先ほどとは違い、空虚な感情ではなかった。
「私は毎日みんなに優しくしているのに」なんていつも思い浮かべていた自分に腹が立った。本当は優しくも何ともないのに、いい人を演じている自分に腹が立った。
それは、結局は自分のためにやっていることなんだ。長谷川先生はそんなことは全く考えていない。それなのに私は。きもち悪い。本当に気持ち悪い。自分は汚い。本当に嫌い。
カルテを読み続ける優美の顔が歪んで、目の前での光景がぼやけた。風は前よりもきつく、雪は窓に張り付くように積もり始めた。何時間もそんな光景が続き、時計は朝の四時を指していた。やがて窓の外に降り積もっていた雪は重みでサッシに落ち、朝の五時を迎える頃、優美は灰色に輝く雪景色をうつろな目で眺めながら、ふと思った。
認めること。それは、どんなことだろう。
優美の脳裏にはなぜか、両親の顔が浮かんだ。しかしそれは、あの草原に立つ両親ではなく、いつもの食卓に座る両親であった。




目覚めた先に見えた天井は、木目。ここはあの診療所ではない。
いつもの、なんら変わりのない朝。優美はベッドから身体を起こすと、窓を開け放した。再びやってきた休日の朝の空気を胸一杯に吸い込み、伸びをする。階段の下からは、台所でなにやら料理をする音が聞こえてくる。
優美はふと、足下にあるゴミ箱に目を落とした。そこには、くしゃくしゃになった詩集が見えた。優美は自室の扉を開けると、素足のまま階段を駆け下りた。右手の台所が見え、そこで母はなにやら朝食の準備を忙しくこなしている。父は相変わらずしかめっ面であぐらを組み、新聞を読んでいた。優美はおはよう、とだけ告げると、顔を洗い、自室で新しく買ってきた服に着替えた。ふと、ゴミ箱が目に入る。優美はゴミ箱の中に入っているくしゃくしゃの詩集を拾い上げると、二度、確認するようにうなずいた。そうして、詩集を持ったまま階段を駆け下りると、既にテーブルに並んだ食事が優美を迎えた。
だが、優美は食事には全く目もくれず、一目散に父の元へと歩み寄った。
「お父さん、もう一度、詩集読んで」
父は相変わらず新聞を読んでいる。
「お父さん!」
優美は普段見せたことのない表情で、父に迫った。だが、父は面倒くさそうに、言い放った。
「それならこないだ見ただろう。そんなことより、今週テストじゃないのか」
その父の憮然とした態度に、優美はいつになく激しい怒りを露わにした。
「お父さん、テストじゃなくて、この詩集を見て!」
母がつぎかけていた味噌汁のおたまを持ったまま、固まった。父は新聞からやっと目を離し、優美を驚いた顔で見上げた。そこには、怒った表情のまま涙を流す優美がいた。食卓の湯気だけが部屋の中で動いて、外から小鳥のさえずる声が聞こえてくる。だが、そんな情景は今のこの三人の中には入ってこない。
優美は父に背を向け、母の方へと振り向いた。その顔は未だに怒りで引きつっている。涙を流した跡が赤くなっていた。
「お母さん、私が買ってきた服、どう?」
母は驚いた顔のまま、動くことが出来なかった。なにしろ、優美がそんな表情を見せたのは初めてのことだったからである。
「何か言ってよ」
「優美、いつも良い子なのに、どうしてそんな顔をするの」
いつも良い子。
母の一言は優美の心をぐしゃぐしゃにかき回した。
「違うよ! 違うの! 違う!」
優美は半狂乱になり、食事もとらずに部屋に駆け上がり、ベッドに飛び込むと、枕に顔を埋めた。
先生。
心の中で長谷川のことを想ったが、考えれば考えるほど苦しくなった。




毎日のように、外では雪が降り続けている。優美はひたすらノートに黒板の内容を写し取っていた。両親の過大な期待と多分に無理を利かせた努力のおかげで、優美はノートを取りながら、その作業と平行して、綺麗にまとめることが出来るようになっていた。そのため、優美のノートの見やすさはクラス内でも一番であると評判だった。
そうなると、私のノートにたかる生徒が現れる。
以前までは、“たかる”などという単語を使ったことがない。それは一人で何らかの思いを巡らせているときでもそうだ。いつも、誰かを庇いながら暮らしていた。嫌な単語は頭の中でもみ消していた。しかし、今は違った。優美の中で、何かが変わろうとしていた。
隣で声がする。いつもの彩の声だ。
私は小声でノートをせびる彼女に向かって、不安な気持ちを胸に、軽く深呼吸をすると、厳しい表情で言ってやった。
「ノートくらい、自分でとりなよ」
そんなことがあってから、彩との関係は一時期悪化したが、今でも友達関係は続いている。むしろ、以前よりも親密になったくらいだ。彩は時々気になる男子のことを私に相談するようになった。私は安易な慰めを全く言わなくなっていたけど、それが逆に彼女の支えとなったらしい。おかげで、彩に限らず、今の私は誰にでも相談を持ちかけられるようになった。長谷川先生の精神鑑定の知識が、今になって役に立っていることは、今のところ秘密だ。このくらいの“騙し”なんて、以前の私に比べればかわいいものだと思う。
父と母とは前よりも険悪になったけど、私の心は晴れ晴れとしている。言いたいことを言い、そして以前よりも他人には厳しく、けれでもより親しくするようになった。よく分からなかった自分の気持ちも、以前よりは分かるようになった。
夢一杯、嘘一杯のポエムは破り捨てた。今詩集を書いたらきっと違うものになるだろう。
そして、あの草原の思い出を思い出すこともなくなったし、今後、長谷川先生の手を握ることもないはずだ。







◎質問者からの返答

ごめんなさい。

設定がやや伝わりにくかったですね。

時は遅いのですが、一応書いておきます。

これから気をつけます。

優美=私は、心理的な悩みを抱えている女子高生。

横山先生は、優美の理解者である古典の先生。

長谷川先生は、優美の主治医である大学病院の医師。

でした。

主人公が「いい人」の殻を破ろうとする意思が読み取れました。ありがとうございました。


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