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グラ娘。 ベストアンサー |
ミラクル博士の素敵な日常のトライアングルは無敵だった
博士の研究対象は一見して異常だ。粉モンに命をかけているといっても過言ではない。
「博士?、今日の実験は?」
「それは、良い質問だ。今日は、CH3COOHのお好み焼きにもたらす、ふんわり度の
おさらいだよ」
博士は、そういうと、研究室――半ば調理室でもあるのだが――の中でキャベツを刻み始めた。
言っておくと、キャベツを刻む作業は、頑として他人に譲らない。
どうあっても、博士一人で幾らでも刻む。
過去にこんなエピソードがあった。
「これ、うちで使っていたものなんですけど」
学生が取り出したのはフードプロセッサーだ。使ってた割には意外と綺麗で傍目には
新品同然に思える。
「いやあ、うちのお袋凝った料理とかあんまりしないんで。良かったらキャベツ
刻むのにでも使ってくださいと思って持ってきました」
博士激怒。
2時間半に渡り、包丁によって刻まれたキャベツと、機械処理されたキャベツの
お好み焼きにもたらす差、つまりはフードプロセッサーの功罪を延々と語り最後の最後に
なって
「そんなもん使って美味しいお好み焼が作れるのなら、最初から使っているよ。
でもダメなんだ。やっぱり包丁でないと。それに幅やらなんやら、すべてそのキャベツの
固さ、葉の厚さ、鮮度、品種、様々を考慮して調整してやらなくてはならない。
たかがキャベツの加工というなかれ。そこには数多の研究が既に行われ、現代の
科学では、熟練の職人には敵わない分野であるということを私が照明済みなのだよ」
そんな博士の注ぐ愛情の60%ほどは『お好み焼き』。
30%ほどが、『タコ焼』へ。
残りが『ネギ焼』。
粉モン博士とも異名をとる彼だが、実はこの3品以外にはまったく興味が無い。
こんなエピソードもあった。
「博士?、卒論のテーマをもんじゃ焼にしようと思うんです。
もんじゃ焼の土手におけるソースの浸透率などを……」
その学生は、最後まで言い終えることなく、博士のバックドロップの餌食になった。
博士はバックドロップで意識を失った学生に対して三角締めでとどめを刺すほどの、無茶っぷりだった。
そう、博士は学生時代にはプロレス研究会に所属しており、軽量ながらも筋肉質で
ヘビー級とも渡り合える稀有な学生レスラーだったのだ。
バックドロップが繰り出された理由は、未だに明らかにされていないが、どうやら博士は
粉モンでも、自身の興味を惹く3品以外は、毛嫌いしているか嫌悪しているか憎悪している
のだろうと、学生、研究生の間で噂され、以降それらの話題はタブーとなった。
そんな博士でも、朝マックに行けばホットケーキのバリューセットを頼んだりする。
どうやら、ホットケーキは研究対象でもなく、憎悪の対象でもないらしい。
ある朝、数人の学生とマックブレックファーストをしていた時のことだ。
徹夜明けの朝だった。
「博士はいっつも、ホットケーキには、シロップもバターもつけませんよね?
なんかのポリシーがあるんですか?」
ミラクル博士曰く、
「お好み焼きにソース、マヨネーズ、マスタード、青海苔、花かつお、これを欠かしたことはありません。例え研究時にでもです」
「いや、それは知ってます。ホットケーキです」
「お好み焼にはルールがあります。私の決めたルールです。これは何人たりとも
破ることはできません」
「はあ」
「ホットケーキにはまだルールを制定していません。ところで、これらはやっぱり
ホットケーキに塗るものなのですか?」
博士は、シロップと、バターを指差して学生に聞く。
「はあ、だからついてるんだと思うんですが」
「では試してみましょう」
そういって、博士は、ホットケーキにシロップとバターを塗りだした。
そして、満面の笑みを浮かべた。
「これ、美味しいですね!」