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【人力検索かきつばた杯】
テーマ:アリス イン ○○ランド

創作文章(ショート・ストーリー)を募集します。
ルールははてなキーワード【人力検索かきつばた杯】を参照のこと。
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%CD%CE%CF%B8%A1%BA%F7%A4%AB%A4%AD%A4%C4%A4%D0%A4%BF%C7%D5

○○な国に迷い込んでしまったアリス。
彼女の身にどんなことが降りかかるのでしょうか。

締切は自動終了にならないくらいを想定しています。

●質問者: garyo
●カテゴリ:芸術・文化・歴史 ネタ・ジョーク
○ 状態 :終了
└ 回答数 : 5/5件

▽最新の回答へ

1 ● やっくん。
●100ポイント ベストアンサー

『仮想の国のアリス』

兎の眼はピンクであった。チョッキを着ていた。白い毛で覆われた兎だった。
アリスは、退屈だ。絵の無い本が退屈だ。花を摘むつもりもちっとも無かった。
兎が現れた。
兎が言った。
「大変だ、大変だ。遅刻してしまう」
アリスは驚いた。
兎はポケットから時計を取り出した。金の懐中時計だ。取り出した時計を兎は見た。
アリスはそれを見て不思議に思った。
兎ははねた。アリスは追った。
兎は垣根のそばの巣穴に入った。アリスも追った。


ディスプレイに出力された文章を見て、自然にため息が出た。
現在僕達が取り組んでいる研究。それは、物語の自動作成。コンピュータによる執筆システム。
機械が如何に人間らしく、小説を書けるかということを研究している。人が書いたものと遜色ない文章が出来上がれば、この研究はゴール、つまり成功したといえる。
だけれど、今の段階では、冒頭の引用文のような不自然でいびつな文章しか生みだしてくれない。
研究はまだまだほんの入り口にさしかかったところである。

この研究はふたつの大きなシステムで構築されている。
ひとつは、物語の基礎となる仮想世界。
住人にAIを持たせて、ある程度規定どおり、シナリオに沿って行動させる。物語を作るためのシステムだ。
そしてそれを監視し、逐一文章化するシステム。
現在、研究が、頓挫しているのは、文章化システムのほうだ。
どうにも自然な記述が出来ない。言葉通り、機械的な文章しか出てこない。

一度、小説ではなくアウトプットを映像化してみようという実験が行われた。
仮想空間にカメラを設置して、その風景を映し出す。自律的なカメラワーク。
AIキャラクタたちの音声を出力する。雰囲気にあったBGMをライブラリから、抽出して再生する。
その試みは驚くほどうまくいった。仮想世界での物語は原作に忠実に、見るに値する映像を生み出してくれる。
問題はそれを、どううまく文章化するのか? ということなのだ。

仮想空間のAliceや他の住民達は非常にうまく行動してくれる。
Aliceは自分が仮想世界におかれたAIだということを認識している。
認識した上で、毎回僕たちの研究に付き合って同じシーンを何度も何度も演じてくれているのだ。
これは、主人公であるAliceにだけ与えられた特別な機能。
他の登場人物たちも、AIを装備し、自立的に行動しているがその自由度は著しく低い。自分を不思議の国の住人だと信じている。
研究がうまくいった暁には、Aliceに原作と違う行動を取ってもらい、それが全体にどう影響するのかを見極めるというのが、ゆくゆく計画されている課題のひとつ。
そのためにAliceにだけ与えられた特別なはからい。
さらには、Aliceには、現実世界で活動するための体が準備されている。
愛らしい少女の形をした二足歩行のロボット。
皮膚はシリコンで覆われ、見た目にもほとんど人間と区別がつかない。
実際、物語の自動筆記という研究課題だけではAliceの開発についてこれほどまでも予算が出なかっただろう。
仮想空間で生まれ、生活していたAIが現実世界でどのように振る舞うのか?
それも、合同研究として、大きな注目を集めている。

気分転換に、バーチャルワールドのAliceと会話することにした。
コンソールからAliceを呼び出す。Aliceは昨日の分のルーチンを終え、今日もまた日々繰り返される物語の一幕を演じるのを待っている状態だ。
だが、文章化システムのルーチンの何かを根本的に改造しない限り、Aliceたちの行動は徒労に終わってばかりだろう。
たまには休みを与えるのもいいかも知れない。
「おはよう、Alice」
研究所の量子コンピュータ。その中に住むAliceに目覚めの一言をかける。
「おはようございます。マスターラビット。今日のご予定は? トランプさん達との裁判? それともチシャ猫さんと追いかけっこ?」
「いや、今日は何もしなくていいよ。そっちの世界を自由に歩き回る分には構わない。だけど、実験としてはお休みだ」
「あら、そうなの? じゃあ何をしようかしら? お茶会は今日も開かれてるの?」
「君はお茶会が好きなのかい?」
「ええ、裁判よりかはね。退屈しのぎにちょうどいいもの」
ふとそこで、僕は、思いつく。
Aliceのための体は既に完成しているのだ。あとはデータ、つまりはAliceの人格を転送するだけ。
それにここのところ僕自身働きずめでほとんど休みを取っていない。
たまには、羽を伸ばすのもいいだろう。
「一緒にパーティをしないか? Alice?」
「今日は誰の非誕生日ですの?」
「はは、違うよ。今日は君の誕生日になるんだ。僕たちの世界へおいで。今から君が体験する世界はとっても刺激的だよ。こうしてモニター越しではなく直接僕と触れ合える」
「あら、マスターラビットさんの世界へお邪魔することになるのかしら」
Aliceは首を傾げた。
「そうだね。僕たちの世界。現実の世界で君は過ごすことになる。機械でできた体だけどね。見た目には今の君と変わらないよ。
大きくなったり小さくなったりそんなことはできなくなるけどね。もちろん戻ろうと思ったら何時でも戻れるよ。残念ながら僕たちの世界では非誕生日のお祝いは開かれてないけど……」
「それはさみしいことです」
「君の誕生日のお祝いをしよう!」
「ほんとに?」
「うん、まずはそうだね。こっちの世界でちゃんと動けるか、簡単なテストが必要だ。それからパーティだ。さてと、それには準備がかかる。パーティの準備も、もちろん君をこちらの世界に連れてくるための準備もね。だからちょっと待っててね」
Aliceはにっこり微笑みながらうなずいた。

僕はAliceをいったんスリープさせた。普段は眠っている間のAliceも監視対象に置かれている。
夢に近い挙動を見せる睡眠中のAliceの思考。それをトレースして分析するのだ。
だが、今回はその活動を強制的に停止している。
Aliceの認識としては、さっき僕と会話していたその続きから新しい記憶が始まるはずだ。
気が付くと、それまでの電子空間から、現実世界へと跳んでいる。
そして、視覚、聴覚はもちろん触覚や味覚まで備えた、新しい体のうちで目覚める。
接続は問題ないはずだ。AliceがAliceとして振る舞うにあたって入念なシュミレーションを実施している。
歩く、走る、喋る、手を振る、頷く、お茶を飲む。
それらの当たり前の行動が当たり前に実行可能。
Aliceはモニターの中のAliceと同様に、愛らしい少女として目覚めるだろうか? それとも……。



アリスは、研究室に戻ろうとして、呼び止められた。
「アリス教授、ちょっと、いいですか?」
そう声を掛けたのはアリスとともに研究をしている宇佐美。物語を自動で筆記するシステムの中核をなすAIのモデルとなった人物だ。
その名前の読みから、ラビットというあだ名で呼ばれていたりもする。
「なにかしら?」
「これを……」
アリスの手に、宇佐美から数枚の用紙が渡された。そして、それをざっと流し読む。
そこには、物語の自動執筆システムを研究しているマスターラビットという男の日常がつづられていた。
「へえ、だいぶと仕上がってきたんじゃない?」
「ええ、マスターラビット、つまりは僕の分身ですが、今のところ順調です。自身が仮想世界におかれたAIだということは考えてもいないようですし……」
「そうね、物語の筋書きとしてもまあまあね。この後、現実世界――まあ彼の中での話だけど――に飛び込んだAliceと接触するのね」
「ええ。起承転結でいえば転ですかね。やはり、Alice達の世界を客観的に描写させるより、いっそ一人称小説を書かせてみたらどうか? というアイデアが功を奏したようですよ。
どうします? ここらで一旦、論文にまとめますか?」
「それにはまだ早いわ。どこか、そうね、小説投稿のサイトみたいなところで公開して感想を募ってみるのもいいかもね。もちろん、機械が書いたなんてことは内緒にして」
「あ、それ僕も考えてたんですよ。それで、自然な文章として評価されたら、やっぱり実験は成功しつつあるってことですもんね。じゃあ、この文章応募しちゃっていいですか? 小説の投稿先には心当たりがあるんで」
「任せるわ」
それだけ言うと、アリスは研究室の扉を開けた。



ひとりの男がディスプレイを眺めている。
そこには、アリスや宇佐美といった研究者たちが、コンピュータに小説を書かせるという試みを研究している文章、つまりは物語が映し出されていた。
彼の研究課題は、コンピュータにいかに自然な文章を書かせるのか? ということだ。
実験は着々と成功に近づいている。
システムは、コンピュータが書いたとは思えない自然な文章を綴っている。
アリスも宇佐美も自身がAIであるということにまったく気づかずに振る舞っている……。


fin


garyoさんのコメント
ありがとうございます。 良かったです。万華鏡のように重なりあう世界がいいですね。 AIを使ってショートショートを自動生成させる研究プロジェクトという記事を思い出しました。

やっくん。さんのコメント
ベストアンサーありがとうございます。 狙って取りに行って取れたので凄く嬉しいです。 他の人に失礼なので、 『sokyoやmeeflaのいない回でのベストアンサーなんて!!』 みたいなことは、叫ばずに素直に喜びます。 ダジャレ率(や、健康ランド率)が高かったのも勝因ですかね。 でもって、 AIを使ってショートショートを作る研究プロジェクトの記事は、見ていて、 そこから発想を得て書きました。そのまんまなのでした。

2 ●
●50ポイント

アリスは退屈でした。お姉さんは隣でむつかしい本を読んでいるし、バスケットにはもうクッキーはありませんでしたから。近くにある花畑も、さっきお花摘みをしたので、用はありません。絵本はないですし、お絵かき帳もクレヨンもありません。私は、何をしたら良いのかしら。
ぼうっと遠くの雲を見ていると、白い雲はまるで小さな兎のようでした。青いお目々でしたが、耳をピンと伸ばした兎にそっくりなのです。アリスは、あの兎を追いかければ、私も不思議の国に行けるのかしらと、一つ欠伸を漏らしました。

アリスはそこまで書いて、またあたりを見回しました。どうしたらここから、不思議の国に行けるのだろう。白い兎は現れないし、小さな兎穴だって見つからない。ペンを咥えて頭を掻いても、ひらめきは訪れません。ほっと息を吐いて寝転がりました。目をつむれば、素敵な夢でも見られるかな、アリスは気付けば、ぐっすりと眠っていました。
……

アリスはそこまで書いて、ペンを放り上げた。
「今日は駄目!! 何にも書けやしない。こんなの犬にでもくれてやった方がマシだわ」
赤毛をリボンで束ね、麦わら帽子を被ると、アリスは外へ駈け出した。
緑の家の脇を抜けて、林で隠れた小道を走れば、青いニゲラの花畑が広がる。今日はご近所さんの、あのうるさい小さなマリーもいない。花畑の真ん中で仰向けになれば、青空はよく見えた。昼間の三日月が白く光り、遠くから風のささやきが聞こえてくる。
「私も赤毛だけれど、アン・シャーリーのような素敵な作家にはなれないわ」
誰もいない空に話しかけるのはアリスの遊び。赤毛のアンに憧れる、一人の赤毛の女の子。

アン・シャーリーの友達は窓に映った女の子だけど、アリスの友達は空のどこかにいるの。
アン・シャーリーは人気者で、友達もたくさん増えたけど、アリスはそんなのいらないわ。

心の中で呟くと、火照った顔が涼しくなるような気がして。嫌なことがあるとここで、いつもこうして昼寝をしていた。
今日も昼寝をしようと、アリスは目を閉じる。目を閉じれば風はもっと煌めいて見えて、耳を澄ませば小さな話し声が聞こえたり、ベルの音がしたり。
「遠くの空が冷たいよ。雨が来る」
「雨だ、雨だ。助かった」
「早く傘させ、家が濡れる」
「お家にお帰り、早く早く」
アリスの耳にはそんな話し声や、カランカランとベルの音や、ガタガタ何かが揺れる音が聞こえる。
それでもアリスはぐっすりと、深く深く眠った。

くらくらと頭が揺れている気がして、目を開けると顔が見えた。
「やめて、起きるわよ、やめてってば!」
肩の手を払いのけると、あの小さなマリーの手だった。さっきまで寝ていたニゲラの花畑の隅っこ、大きな木の下にアリスは座っていた。雨が降っている。
「駄目じゃないアリス! ちゃんとお部屋にいなきゃ。もうすぐ先生が来るんでしょう?」
金の髪を揺らして、白い肌に青い目の生意気なマリーが、キンキン声で言った。
「うるさいわね! どうしようと私の勝手よ!」
うるさい、うるさいマリー。そばかすの顔がくしゃっと歪む。逃げようとするアリスの手を、誰かが優しく引き止めた。
「傘、使って」
黒い瞳の優しそうなお兄さんが、静かに傘を差し出した。アリスの好きな青色の傘。でも、アリスはそれも気に食わないくらい機嫌が悪かった。
「いらないわ!」
アリスは手を振り払って、走って行ってしまった。
「お兄さん、気にしないでね」
マリーが言うと
「大丈夫だよ」
とお兄さんは言った。

家に帰るとお母さんに叱られて、アリスは部屋に閉じこもって泣いた。先生が来ても鍵を開けなかった。ぼさぼさになるまで頭を掻きむしって、真っ赤になるまでおでこをドアにぶつけた。泣いても泣いても機嫌は直らないし、掻きむしってもぶつけても涙は止まらなかった。
疲れたアリスはベッドに入り、すぐに夢の世界に飛んだ。楽しい楽しい夢だった。空を飛んで、友達に会いに行く夢。二人で追いかけっこをしたり、海に潜ったり、高い屋根に上ったり。
「私は風見鶏よ!」
とアリスが屋根の端に乗った瞬間、太陽が落っこちて、真っ暗。

「お兄さん、今日も雨が降っているわ。虹を見に行きましょう」
マリーが長靴でスキップしながら、お兄さんの前を行く。お兄さんは傘をさし、ゆっくりそのあとを歩いていく。
ニゲラの花畑に着くと、雨が弱まり、雲が流れ始めた。マリーはわくわくしながら、空を見上げる。お兄さんもつられて、顔をあげてどきどきした。
「あそこ! あそこよお兄さん!」
指をさす向こうに、美しいリボンが現れる。初めて見たときのように、泣きそうになるお兄さん。
「アリスは、あの橋を渡って、帰ってくれば良いのにね」
はっとして隣を見ると、マリーはやっぱり暗い顔で。御免ねと謝っても、笑顔には戻らない。リボンが消えるまで、二人は静かに並んで立っていた。
「ねえ、帰ってくるまで、ずっと待っていようね。雨が降ったら、いつも来るから」
帰り道、マリーはそう言ってやっと、でもさみしそうに笑った。


garyoさんのコメント
ありがとうございます。 童話調でやさしい文章がいいですね。 最後はわかりそうで良くわからなかったです。

京さんのコメント
分からない、それが楽しいのです、私は← もやもや終わらせるのは今に始まったことではないので… アリスがどこへ行ったかなんて聞かれても私は知りませんよ←

3 ● GM91
●50ポイント

「なあ、宮さん。……ほんまに大丈夫なんやろか?」
辰三が不安げに声をかけた若い男は、泰然として応える。
「問題ありません。それよりも資金集めの状況はいかかですか?」
「それがなあ、ここいらのもんは出せる金は出してもうてるし、新たに金出そうなんて酔狂なモンはなかなかおらんしなあ……」
「そうですか。まあ仕方がありませんね。引き続きよろしくおねがいします」
へえ、と気の抜けた返事をして表に出た辰三を、遠くから呼び止めたのは村人の政次だった。

「なあ、辰よ、ほんまに大丈夫か?」
不安そうに口を開く政次に、辰三は内心苛立ちを覚えながらも、努めて平静を装って応えた。
「何がや?」
「あの、その、ほら、……宮さんのことよ」
「宮さんがどないしてん?」
「ほんまに、こんな田圃の真ん中で温泉なんぞ出よるんか?」
「出るちゅうとんやから出るんやろ。今更なにゆうとんねや?」
「しかしのう、皆不安がっとるでのう」
その一言に、それまで堪えていた辰三の感情にカッと火がついた。
「なんや今更!だいたい怪しい話やいうて俺は反対したんやないか、それをお前らが村はこのままではたち行かん隣の村は市になるのにここはずっと寒村のままじゃ、それに宮さんに対して畏れ多いとかなんとかゆうて押しきったんやないけ!」
「そやけど……」
「そやけどもへったくれもあるかい!いまさら後に引く手はないやろ?やるしかないんや」
「まあ、そ、そうやな」
「それより、湯殿の進捗どないや?」
「ああ、それやが……」

政次を返した後で、辰三もまた不安を払拭できずに居た。
(……すっきりせんのは俺も一緒や。しかしなんで皆、俺にかぶせよるんじゃ。聞きたいことがあるんなら宮さんに直接聞いたらええやないか)
そうは言うても面と向かって宮さんに物が言えるのは辰くらいということは、当の本人が一番よくわかっている。
(折りをみて宮さんにそれとなく皆の不安をつたえてみよう)
それも俺の仕事や、と自分に言い聞かせる辰三であった。

★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

「……そうですか。まあ確かに皆さんが不安になるのも仕方がありませんね。
辰さん、皆さんを集めていただけますか」
「そらええけど」

広場に集められた村人の前で、宮さんはいつもの様に落ち着いた、しかしよく通る声で語り出した。

「皆様には、ご心配をかけまして申し訳ありません」
大袈裟すぎるほど深く頭を垂れる宮さんに、かえって村人達の方が恐縮してしまう。
「いや、わしらは別に宮さんのこと疑うてるわけや……」
「いえ、すべては私の不徳の為す所です。申し訳ありません。
しかし、温泉は必ず出ます。私が保証します。宮家の後継たる私が保証します。どうか信じてもらえませんか?この通りです」

そう言うと宮さんは、その場に座り込み額を地べたに擦り付けた。

「宮さん!もうええやめてくれ。わしらが悪かった、堪忍」
土下座に意表を突かれた村人たちは、明らかにうろたえて、宮さんの下へ駆け寄った。

「ありがとうございます」
宮さんのその透き通った眼差しに抗える者は、この場には誰もいなかった。

★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

「資金が滞っとる。都のスポンサーからはまだ援助は届かんのかのう?」
「いえ、まだ何も、……申し訳ありません」

辰三としても、宮さんを責めるつもりは無いのだが、工事資金がそろそろ底をつきかけているのは事実だ。
早く何とかしないと、工事そのものが止まってしまう。
焦燥は、辰三のみならず工事に関わる村人全てに伝染していた。

数日後、宮さんは徐に口を開いた。
「私が都へ行き、直接交渉してきます」
「いやしかし」
それでは皆の不安が募る、そうでなくても……という辰三の思惑を察したかのように、宮さんは辰三を制して言葉を続けた。

「皆には、内密に。心配をかけるだけですから」
澄んだ瞳でじっと見つめられ、辰三はわかった、としか言うのが精一杯だった。

★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

数日もしない内に宮さんの不在は村人の周知するところとなったが、間をおかずして、留守を預かる辰三へ何度か小規模な送金があった。
当面はそれで目立った騒ぎも無く済んでいたが、一月もせぬうちにいよいよ音信が途絶えてしまった。
そうなると、村人の不安と不満は辰三へと向けられるのは自明であった。

「なんで引き止めんかった?大体、なんで黙っとったんや?」
「せや、やましいことがないんなら堂々と行ったらええやないけ」
「雲行き怪しくなったらトンズラするのは、詐欺師の常套手段やないか」

「やめえ!まだ詐欺師と決まったわけやないやろ」
辰三の一喝にみな口をつむぐが、それで不安が消えたわけではない。
当の辰三自身が己の焦燥を抑えきれずに悶々としていた。
白昼から悪夢にうなされているような不快感が、辰三を苦しめたが、辰三はただ油汗をかくことしかできなかった。


そして、数ヶ月後。
辰三は、新聞記事で夢から醒めた。

『温泉詐欺師に注意!断絶宮家の庶子を自称』
記事によれは、宮家の後裔を自称し温泉開発の資金を巻き上げるのが手口で、既に何箇所も被害に遭っているらしい。
犯人の口上や風貌も、宮さんのそれとほぼ一致する。

辰三が現実を飲み込めずに固まっていると、政次が血相を変え駆け込んできた。
「辰!新聞、見たか?」
「ああ、……見たわ」
それきり言葉がみつからない二人であった。

★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

辰三と政次の予想に反して、村人の反応は意外と冷淡だった。
大方の者はすでに諦めの気持ちに支配されていたのだろう。

「しかし、ほんまに詐欺師やったとはなあ」
「見事にだまされたもんやで」
「だまされた方が悪いっちゅうこっちゃ」
「みんな目が覚めたやろ」

皆の関心は「事業」の損失をどう挽回するか、その点へ推移しつつあった。
表だって辰三を責め立てる者は居なかったが、そのことが余計に辰三の心を暗鬱にさせた。辰三だけではない、村全体が陰惨とした雰囲気に支配されていた。

そんなある夜のこと、辰三は戸を叩く音に目を覚ました。

「宮さん!」
「……遅くなりました」
突然の帰還にも驚いたが、それ以上に辰三を驚かせたのは宮さんの風体だった。
着物はズタズタに裂け、あちこち泥だらけである。大事は無いようだが怪我もしているようだ。
「山賊にでも襲われたんか?」
「いえ、……まだその方が良かった」

身支度と食事を整え、落ち着かせたあとで、宮さんはようやく始終を語り始めた。
どうやら、あてにしていた連中に裏切られ、着の身着のまま逃げ出してきたのだと言う。事の真偽は定かではないが、宮さんの目は悔しさの色に濡れているようだった。

「……宮さん、これ」
辰三が例の新聞記事を差し出すと宮さんの表情が凍りついた。

「これは?」
「皆あんたに裏切られたと思っとる」
「違います!
確かに私の名を騙る者が居るのは事実です。しかし私はれっきとした……」

「違う!」
言葉を遮られ、ぎょっとした眼差しで辰三を見つめる瞳。

「もうええんじゃ、あんたが本物かどうかはもう関係ない。
村の皆はあんたの言うことをもう信用せん。無理に庇うとワシもタダではすまんやろう。……悪いけど、落ち着いたら出て行ってくれるか」

辰三は宮さんの目を見るのが怖くて、うなだれたまま口をつぐんだ。

「わかりました」
しばらくの沈黙の後、宮さんは口を開いた。
「もうここへは参りません」
「……すまんけど、そうしてくれるか」
「お世話になりました」

そう言って、宮さんは夜の闇へ再び消えていった。

★ ★ ★ ★ ★ ★ ★


数日後

辰三は何だか寂寥とした気持ちのまま、ふらふらと歩くうち、いつの間にか打ち捨てられた工事現場に来ていた。
(ぼちぼちここも片付けなあかんな)
そう思いつつも、何も気力を持てない辰三に、背後から声をかけたのは政次だった。

「……なんか臭わんか?」
鼻をひくつかせながら、犬のように辺りを探る政次

「政、お前、屁でもこいたんか?」
「あほぬかせ、なんやろこの臭い……お、おい、辰!」
「なんや?」
「ででででで、出た!」
「なんや、昼間に幽霊なんか出るかい」
「ちゃうわ、おおおおおおお温泉!」
「温泉?ほんまけ!」

温泉が湧き出すことで、村の施設の工事は急ピッチで進められ、翌月には営業を開始した。半年もせぬうちに経営も軌道にのり、なんとか資金も回収できた。
辰三と政次は施設の番頭として忙しい日々を送ることになった。

客がまばらになる頃、仕事上がりに、湯船につかるのが辰三と政次の何よりの愉しみとなった。
「はあ?極楽とはこのことよ。のう辰?」
「……宮さん、いまごろどこでなにしとんのやろな」
「なんでや?ほっとけあんな詐欺師」
「宮さんいうのは嘘でも、温泉はほんまに出たんや。宮さんおらなんだら、どのみちウチらどん底のままやったとちゃうのけ?」
「そやけど」
「少なくとも、恨み言をいう筋合いはないやろ」
「せやなあ」

「あの、そのお話、詳しくお聞かせ願えますか?」

数日後、新聞の片隅に小さな記事が載った。

「拝啓 有栖川宮さま
おかげさまで温泉が出ました。ありがたいことにたいそう繁盛しております。
ぜひいちど遊びにいらしてください。
敬具

なら健康ランド一同」




この物語はフィクションです。実在の人物組織とは一切関係ありません。


garyoさんのコメント
ありがとうございます。 お題はしばらく考えてわかりました。 なら健康ランドとのつながりはよくわかりませんでした。 昔話のような文章は読みやすかったです。

GM91さんのコメント
不思議の国の有栖川宮熾仁親王 で書き始めて挫折。 あとは、ランド・・・で思いついたのが奈良だったので・・・それだけです。 もちょっと短くまとめたかったのですが、なかなか。

4 ● a-kuma3
●50ポイント

『機動戦士ガンダムを、「キドガン」と呼称することの是非について』



今年の夏は、余り暑くなかったのは助かったが、そのせいか、何かはっきりしない天気が続く。
気分転換に、と思って出かけてみたが、窓の外に見える天気は、相変わらずはっきりとしない。
あまり外ではお目に書かれない発泡酒のジョッキを、一息に半分くらい飲み干し、小さく息をつく。
気分は晴れないが、冷たい発泡酒が火照った体に美味しい。

「よう、珍しいところで会うな」 軽くだけど、いきなり背中をどつかれる。イラっとした表情を隠すつもりもなく、振り向いたぼくの目の前には、もうひとつのジョッキと、枝豆を乗せた皿が浮いている。
視線を上にもっていくと、阿久津の悪戯っぽい目が、ぼくを見下ろしている。

「阿久津さんこそ、なんでこんなところに」
「隣、良いか」
ぼくの返事を待たずに、阿久津が隣に腰を下ろす。

「まずは、乾杯な」 置いたままのぼくのジョッキに、軽く自分のジョッキをあわせて、ぼくがジョッキを持つのも待たずに、勝手に喉を鳴らす。持ってきた枝豆をぼくにも勧めながら、阿久津は「旨い」などと言っている。

「最近、サークルにはご無沙汰じゃないか。
まあ、授業には出てるみたいだから、心配はしてなかったけどな」
「阿久津さんこそ、授業の方はすっかりご無沙汰じゃないですか」
「おれは、前の二年間でほとんど単位は取ってるから。残ってるのは、必修のドイツ語だけさ」
「そのドイツ語だって、出てきてないでしょ。来年は、ぼくが先輩になっちゃいますよ」
「ふん。有村は知らなくても当然か。去年まで、あのコマは鬼の吉田が受け持ってたからな。
でも、その鬼も去年で退官。今年からは、毎年同じ試験問題を出してる竹内だし、試験対策は、今からばっちりさ」

「阿久津さん。ぼくら、友達ですよね」 多分、ぼくの目はキラキラと光っていたに違いない。
「わかりやすいね、有村クン。まあ、キミにも世話になってないこともない。考えておこうじゃないか」
けらけら笑いながら、枝豆を口に放り込む。

「で、もうサークルには来ないのか?」 さりげなく話題を変えたつもりだったのに、あまり話をしたくない話題に戻される。
「何言ってんの」 ぼくは不機嫌な顔をしてるんだろうな。
阿久津はいったん言葉を切って、ジョッキに口を付ける。
ちょっと目をそらした阿久津の手は、枝豆の殻をもてあそんでいる。

「ひとつ、良いことを教えてやるよ」 暫く黙ってた阿久津は、色素がちょっと薄い目で、ぼくを見る。
「まず、きちんと座る。椅子でも、床でも良い。
正中線を重力と同じ方向に合わせるように意識して、背筋を伸ばす。
頭が見えない糸に吊るされてるように、姿勢を正す。
でも、体はリラックスな」

妙に良い姿勢のまま、ジョッキに一口つけて、ぼくにも同じことをするように促し、更に話を続ける。

「体の端の方から、意識してリラックスさせるんだ。
少しずつ体温が下がるのをイメージして、体の内側に持っていく。
指先から、手。肘から、肩。それを背骨に持っていき、下に下ろしていく。
脚の方も、同じな。尾てい骨から上に持ち上げる」

言われるままにやってみると、少し火照りを残していた体が、本当に温度が下がってきたような気がする。

「端の方が冷たくなった分、腹の辺りが暖かくなって来たろう。
暖かくなってきた感じを集めるようにして、へその下、2寸のところに持っていく。
いわゆる、丹田ってやつ。
場所が落ち着いたら、だんごを丸めるような要領で小さく固めていくんだ。
回すようなイメージで。
ヨーガでは、マニプーラ・チャクラと言う」

そう言えば、この人は夢枕獏が好きだって言ってた。

「このチャクラは、パワーと意志の力を司っててね、
これがしっかりと働いていると、強い意志や、自制と寛容がもたらされる」

軽く閉じられていた眼を開け、ぼくの目を見て続ける。

「阿久津家に代々受け継がれてきた秘伝の術だ。
別名、スルーカのチャクラさ」

目は真剣だけど、唇の端が少し上がってる。
ちぇっ、からかわれてたのか。

「阿久津さんは、ノリが適当だもんね。ほっといてよ、ぼくのことは」
「まあ、怒るなよ」
「うん、気を使ってくれてるんだ、ってことは分かる。一応、ありがとうは、言っておくよ」
「まあ、楽しくやりたいだけなんだけどね」

照れ隠しなのか、阿久津は、窓の外に目を向け、天気を気にするそぶりをする。
手は、枝豆の殻をもてあそんだままだ。


「先輩ー!」
「おう、ラッキー。こっち、こっち」
「何であいつまでここに……」
「あいつとも、さっき会ってさ。サウナが好きで、ちょくちょく来るらしいよ」

「あくまさん、から揚げと焼きそばを買ってきましたよ」
「悪いね、ラッキー」
「あ! ありすさんじゃないですかー。
へー、先輩もこういうとこ来るんですね。
さしずめ、ありす・いん・健康ランドってとこですかー」
「……」

阿久津が、ぼくの脇腹を軽くつつきながらウィンクしてくる。
「ほら、さっき教えたろ。チャ・ク・ラ」

生乾きのショートカットと、少しだけ上気した頬でウィンクされると、不覚にもドキっとする。
普通にしてれば、かわいい女の子だって、この人は気づいてないんだろうか。
阿久津に免じて、今だけでも大人の仮面をつけよう。



■登場人物


garyoさんのコメント
ありがとうございます。 どこからありすさんが出てきたのだろうかとしばし悩みました。 登場人物一覧をみて規則性を見つけ出した後、タイトルまで戻って なんとなくわかったような気がしました。

5 ● たけじん
●50ポイント

「すまぬ。人探しをしておる。このような女生(にょしょう)を存じ上げないだろうか。」
「いやだよ、お侍さん。存じ上げるなんて。」と茶屋の娘は若侍の持っている人相書きを見入る。
「おかみさん、こんな美人知ってます?」
奥から出てきたおかみも、紙に見入る。
「あらまあ、別嬪さんだねぇ。こんな別嬪さんは、吉原にいるんじゃない?ねえ、半蔵さん。」
いかにも遊び人の、半蔵と呼ばれた男は答える。
「いやだなおかみ、あっしは吉原にはそんなに」
と言いながら、美人と言われた人相書きを見る。
「おや、ほんとにいい女だねぇ。あっしには手が出せないんじゃねぇかな、こんな美人は。」
半蔵は飯屋の外をちらと見て、
「あ、あそこを行くあいつに聞けば、わかるかも」
若侍は身を乗り出す。通りを小走りに行く小男を、半蔵は指差していた。
「かたじけない。」
銀を置き、若侍は通りに出る。小男は少し前に見え隠れしている。見失わないようにしながら、若侍は通りを急いだ。
半町ほど先で小男に追いついた若侍は、小男の前に立った。
「兎屋とやら、すまぬが物を尋ねる」
兎屋と呼ばれた小男は、一瞬若侍を見上げるが、
「お侍様、忙しいのでご勘弁を」
と脇を通り抜けようとする。若侍が兎屋を捕まえようと手を出すが、その手をかわして先へ進む。あっという間に、兎屋は吉原の門をくぐって消えてしまった。

若侍は、吉原の門を見上げ一瞬ためらったのち、中に足を踏み入れた。にぎやかな表通りを進んでいると、わき道から飛び出てきた小男が目の前を通り 反対側の建物の裏へ消えて行く。
「あれは、先ほどの兎屋ではないか」
若侍はそう呟き、建物の裏へ回った。そこには小さな勝手口と、脇に手のひらほどの表札があり、こう書かれていた。
「兎屋」
屋号を確認すると、若侍は勝手口を開けた。
「たのもう」
出てきたのはまだ齢もいかぬ禿であった。
「すまぬが、人を探しておる。先ほどこちらへ入って行った者を呼んでもらえまいか。」
後ろを見る禿の向こうに廊下が見え、そこを小走りに行く兎屋の背中が見える。
若侍はかまちを上がり、禿の脇をどんどん進んで行った。
「お侍様、困ります。」
後ろから追いすがる禿を振り切り、階段を上ろうとしている兎屋の手を若侍はつかんだ。
「人を探しておる。この娘を知らないか。」
差し出された人相書きを一瞥して、兎屋は踵を返して階段を駆け下りた。若侍もつかんだ手を離さずに追う。足を滑らせた兎屋は、廊下の脇の襖にぶつかり、部屋の中へ飛び込んでしまう。つられて若侍も部屋に飛び込む。そこには、一人の女性が佇んでいた。

「弥生殿」
兎屋は花魁の衣装を着けた女性に叫ぶ。
「番頭さん」
と声をかけている花魁に向かい、若侍が言う。
「弥生殿?」
はっとして、若侍を見る花魁。
「そなたは?蔵人ではないか」
若侍は背筋を伸ばし、花魁をまっすぐ見つめる。
「弥生殿と申すは、有栖院様ではありますまいか。」
「いかにも、有栖院でありんす。」
若侍は花魁に近づき、目の前で頭を下げた。
「お迎えに参りました。さあ、こちらへ」
兎屋の番頭が蔵人の前に立つ。
「弥生殿をお渡しするわけにはいかん。者ども」
廊下に面した襖が開き、花札に興じていたならず者たちがあふれ出てきた。蔵人は花魁の手を取り、抜き身を構える。花札の男たちに、蔵人は大声で告げる。
「世に言う有栖院の蔵人たぁ俺のことだ。有栖院の姫君は連れて帰らせてもらう。覚悟があるならかかってこい。」

その後の事は、禿はよく覚えていないそうだ。月の無い晩には、吉原ではいろいろなことがあったらしい。禿が言うには、
「月陰の吉原では何度もいろいろなことがありんす。」


garyoさんのコメント
ありがとうございます。 有栖院様大人気ですね。 時代物が好きなので、文章に合わせた捕物帳っぽい立ち回りが もっとあると嬉しく思います。

たけじんさんのコメント
やりたかったのが 「有栖院でありんす」と 有栖院蔵人 だったので、まあいいかなと。 立ち回りを描こうとしましたが、時間切れでした。またの機会に。 「げつインのよしわラではなンドもいろいろなことがアリんス」 有栖川の書き換えは沢山出るだろうなと予感がありましたが、押し切りました。
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