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【人力検索かきつばた杯】#41

かきつばた杯を開催します。
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%CD%CE%CF%B8%A1%BA%F7%A4%AB%A4%AD%A4%C4%A4%D0%A4%BF%C7%D5

〆切は
1/3(木)23時? 自動終了期限前(質問者の都合により前後します)

お題:
「深夜急行」

注意事項:
講評/感想は希望者のみ。

====
補足事項:(ポイントに興味のない方は読み飛ばしてOK)
1)内容が一定の基準を満たさない回答は基本点もカットします。(開催者判断)
2)開催者連想元ネタとの一致は、原則として採点対象外ですのでお好みで。
3)キーワードをタイトルや本文に使う縛りはありません。
4)修正履歴は採点に影響しません。
5)コメントはコメント欄にお願いします。

●質問者: GM91
●カテゴリ:芸術・文化・歴史 ネタ・ジョーク
○ 状態 :終了
└ 回答数 : 10/10件

▽最新の回答へ

1 ● sokyo
●42ポイント

『じぶんガラス』

僕は君のことなんて見てなかった
君の向こう側に別の人を見ていた
向こう側の誰かはどんどん仕草を変えて
それゆえ僕はいつも退屈せずにいた
そうして君のことなんてすぐに忘れてしまった

昼になると僕の心は浮き足立って
日差しに誘われて あちこち行きたくなって
君の向こう側がまぶしいほど
身近な方を見ないで過ごすみたいだ


僕は君のことなんて見てなかった
君が反射する僕自身を見ていた
平べったい自分は疲れた顔をして
それこそが君なんだと勘違いしていた
そうして誰のことからも目を背けてしまった

夜になるといつものリズムが浮かび上がって
トンネルに入って 自分が浮かび上がって
君のこちら側がまぶしいほど
鏡の国で向き合って過ごすみたいだ


僕は君のことなんて見てなかった
君が透かし 弾く 別の光を見ていた
いつしか僕は君を脳裏から消し去って
それでも君が大切だとかうそぶいた
そうしてここ1号車の窓辺にこもってしまった

朝になると古い記憶に光が差して
見逃してたなんて 認めたくなんかなくて
気がついたことはひとつだけだ
“ずっとそばにいた君はこの窓ガラスみたいだ”

触れてみたそれはとても冷たい
裏側で僕はまだ温かい


GM91さんのコメント
内容がちょっと詩的なので評価に苦しんだのですが、情感が良い感じにお題を昇華させていますです。

2 ● グラ娘。
●43ポイント

「ほんとに帰るのか?」
荷物をまとめる作業を黙々と続ける私に向かって、彼が問いかけてきた。痺れを切らしたんだろう。
お見合いをするから、明日の早朝から実家に帰ると告げた時、彼の表情は面白いように変わった。はじめは小さな驚きが現れ、悩むような顔つきへ、そして半分諦めたような複雑な表情へ。
そうか……とだけ告げて、以来口を閉ざして、私をただ見つめていた彼だったのに、いざこうして荷物がまとまり始めると、私の言葉に実感が出てきたのかも知れない。
「そうよ」
と私は冷たく言い放つ。
彼との付き合いは長い。高校の時からだ。それがお互い今は三十代の半ば。結婚もせずによくもまあだらだらと付き合い続けてこられたなと思わないでもない。
それにはいくつか理由もあった。
ひとつは二人とも過干渉をよしとせず、適度な距離を取って付き合ってこられたということ。
もうひとつは、私がある意味で仕事の虫だということ。女だてらに研究職にその全てを捧げる毎日では、他に男を探している余裕もなければ出会いも少ない。
それから、彼が生計を立てるだけの収入を得ていないということ。
作家になるのが夢で、高校時代から文芸部に所属していた。といっても、それなりに運動神経もよく、人付き合いも上手い。なんて言うと文芸部員に怒られるか。バイト仲間ともよく遊びに行っているようだ。とにかく趣味で小説を書いている以外はごく普通の平凡な人間だ。適度な男らしさと優しさも兼ね備えている。
旦那にするのになんの不満も無い。その収入という点を除いては……。

「お母さんがうるさいのよ。だってもう35でしょ? うちは妹と二人兄弟だから、跡取りの問題もあるし……。妹の彼氏は養子に入る気なさそうなんだって。もうじき結婚するらしいけど。それで、降って湧いたように、私のことを気に入っていて婿養子に入っても良いって言ってくれている人が突然出てきちゃったもんだから。浮かれてるのよ、お母さん。毎年毎年、早く孫の顔を見せろって、そればっかりなんだもの」
「お前は……その……なんだ。その見合いで仮にだな、その……見合い相手がそこそこいい奴で……仮にな、魅力を感じたりしたりしたら……」
彼はそこまで言って言いよどんだ。
はっきり言えばいいのに。私には彼の生活を支える覚悟は出来ている。彼との子供を作るのは難しいかも知れないけど、籍を入れてしまっても全然構わないとずっと思っていた。
結婚に消極的だったのは彼のほうなのだ。
プロの作家として食べていけるようになるまで結婚はしない。といっていた若かったあの頃。
それが、なんとかという賞を取るまでは……に変わり、一冊でも本を出すまでは……ひとつでも受賞するまでは……と妥協を繰り返してきたものの、彼の作品は一向に日の目を見る気配が無い。
夢を諦めきれないのか? それともプライドなのか。
なんにせ、彼は、私のことを愛してくれ、大事にしてくれるのに……。
こと、結婚になるとしり込みしている。
お見合いのことは、そんな彼の本当の気持ちを探るためにした話でもある。
これで、止めないような男なら、ほんとに見限ってやるって言い切れないぐらい彼に情も移っちゃってるんだけどね。

「お見合いキャンセルできないかな?」
と彼がぽつりと呟いた。
「それは無理よ。もうレストランも予約入れちゃってるし、体裁とかいろいろあるじゃない?」
「お前のお母さんには俺が言うよ」
「そんな時間はないわよ。現地に直接行くことになってるの。始発で出てもぎりぎり。そんな重要な話、電話なんかじゃ済ませられないでしょ?」
「深夜バスがある! 深夜急行バスに乗れば、明日の朝には、お母さんに会えるんだ。そこで俺……言うよ。お前のことは俺がちゃんと面倒見るって」
「それってプロポーズ?」
「そうとらえてくれて構わない」
「面倒みるってどうするの? 夢は諦めるの?」
「諦めはしないけど……でも、仕事を探す。ちゃんと稼げるところを。仕事をしながらでも小説を書くことは続けられるから……」
「お金のことは心配しなくてもいいわよ。私の稼ぎで十分暮らしていけるわ」
「それじゃあ、俺の気がすまない」
「私はね、夢を追い続けるあなたが好きなの。仕事なんて始めちゃったら、小説を書く時間なんてなくなっちゃうわよ。ただでさえ……それなりに時間がある今でも全然芽が出ないんだから……」
そうはいいつつ、私は彼の小説が好きだ。応募前に必ず読んで感想を言っている。彼は律儀にその感想を聞いて、作品に反映させてから応募している。
ある意味では私のために小説を書いてくれているのだ。
「でも……それじゃあ君のご両親に……」
どこまでもプライドや世間体を気にする奴だ。どこかで開き直ってくれたら、もっと上手くいくのに。
でも、彼の気持ちはわかった。やっぱり私のことはちゃんと考えてくれている。
小さな結婚式を挙げて、ふたりでこじんまりと暮らすのも悪くないかもしれない。
両親だって、私が言えば納得してくれるだろう。
「わかったわよ。お見合いには行く。でもきちんと断ってくる。それからお父さんとお母さんにも言っとくわ。ちゃんと結婚相手が見つかってるってね。近いうちに結婚するからって。それでいいでしょ?」
「だけど……」
「お金のことなら心配しなくていいわよ。私の収入もあるし……。それにこれからあなたの作品に感想を言うのを止めにするわ。私の意見を聞かないで応募したら大丈夫。実はあなたの作品って結構評判いいのよ。ためしに私の意見を取り入れて改稿する前の原稿をいくつか出版者に持ち込んだことがあるの。どれも好印象だったわ。わたしの趣味ってどこかおかしいみたいなの。だから、私の望むストーリ、結末に変えちゃうと結果が出ないだけみたいなのね。こないだ送った原稿も、もし良かったら出版しないかって言ってきてるところがあるけど……。どうする? 連絡先教えようか?」
「な……そんな……」
「ごめんね。今まで言い出せなくて。いつも書いた小説を私好みに書き換えてくれることが嬉しくって。それに覚えてる? 高校の時に約束した事。あなたが本を出したら、なんでもあなたの約束をひとつ聞くって言ってたの?」
「ああ、そんなこともあったっけ……」
「あなたの約束はわかりきってたわ。私が仕事を続けてるの嫌いでしょ? 結婚したら女は家庭に入るのが当然だってずっと言ってるもんね。だから私から条件がひとつ。あなたの小説で食べていけるようになるまでは、私は仕事を続けるわ。ひょっとしたらそれからも。だからあの時の約束は無しってことで。それでいい?」
それだけ言って、私はノートパソコンの電源を入れて、とある小説賞のサイト開いて彼に見せた。
そこには、大賞作品として、彼の作品の名前が掲載されていた。作者名は彼ではなくって私の名前。
「ね? 大賞作は出版決定なんだって。おめでとう! でもこれはあなたの本じゃないわねぇ。私の名義で出版されることになるから。なんでも女流作家ってところも話題になりそうなの。もう何度か打ち合わせに行って、話しが進んでるの。でも私って小説なんて書けないから、作品の修正ができなくって。今度編集者にあったらほんとのことを言うわ。あなたが書いたって。でも発表しちゃったから、ペンネームは変えられないでしょうねぇ。ごめんね。あなたの夢を奪っちゃって」
私はにんまり微笑んだ。私も一応文芸部に所属していた。ペンネームもその頃のものを使っている。
それで、彼と賭けをしていたのだ。私の名義での本が出版された時には彼になんでも言うことを聞かせるという賭け。
私は賭けに勝った上、理想の伴侶を得たことになる。


GM91さんのコメント
お題の処理がちょっと強引だけど、物語としてはまとまってて読みやすいです。 嫁さんが、出版や受賞を隠してる件はいくらなんでもひど過ぎるので意外と評判いいのよねくらいにしておいた方がいいかも。でもまあココがストーリーの見せ場なのかもしれんしなあ、複雑。 更にどうでもいいですが嫁さんが某篤姫の脚本の人と被ってしゃあない。

3 ● 琴木
●37ポイント

葛城美穂はガタンゴトンと気持ちの良い電車のリズムに乗せられて、とある場所に向かっていた。現在夜中の十一時。時期が時期だけに急の用で新幹線は取れず、深夜を走る急行電車しかとれなかった。それでも個室をとれたのは不幸中の幸い。美穂には男一人と、女一人の連れがいた。
「真っ暗……少し怖いな。」
「美穂、少しは寝たら?美穂がいくら睡眠時間を削っても、時間は早くならない。寧ろ体感時間は遅くなるよ。」
「あれ、綾乃。起きてたんだ。」
彼女は小塚綾乃。美穂の大学時代からの友人である。そして、その隣で呑気に寝ているのは、もう一人の連れの男。坂本求(もとむ)。彼も大学時代の友人だ。昨今、綾乃ほどの付き合いはないものの、青春時代を共に過ごしたかけがえのない友人である。
「求を見てみなよ。自分の幼馴染に久々に会うっつーのに、この様よ。」
「求はマイペースだからねぇ……だからかな。賢斗と気が合ったのは。あいつもマイペースだったし。」
「美穂……」
三人はこれから、美穂の元恋人・桜木賢斗の結婚式に向かう。

自然消滅だった。大学を飛び級した賢斗と普通の女子大生だった美穂は、段々と逢う機会も減り、連絡さえ取らなくなった。大学二年の秋、卒業が決まったと噂で聞いた。それきりだ。だからと言って美穂は賢斗に未練と言うものを持たなかった。物理的に離れる前から、心は少しずつ離れていっていたのかもしれない。
「ハワイみたいだったよ、あんたら。」
「常夏。」
「違うわよ。よく言うじゃん、ハワイは遠い未来、日本に引っ付くって。あんたたち表向きは仲がいいように見えたけれど、あたしの目には、恋愛っていうアメリカから別の国に引っ張られる、島に見えた。」
食堂車から帰って数時間後、お飲み物はいかがですかと言われて注文したロイヤルミルクティーは冷めきっていたが、美穂はそんなことは気にせずそれに口を付けた。カップに口紅がつく。この唇が、数年前は賢斗のそれについていた。それは紛れもない事実。
「我が親友ながら、ケンも酷いよなぁ。元カノだぜ?普通送るか?結婚式の招待状なんて。嫁さんも傷つくだろうに。」
「あら求、起きてたの。」
「お前らの声がでかいの。」
数週間前、三人の元に届いた桜木賢斗の結婚招待状。まったく意味が分からないけれど、青春時代を一緒にいた三人は、あいつらしいと苦笑し、自然とペンは丁寧に“御”の字を消して、出席に丸を付けた。今回一緒に行くことになったのは、綾乃が二人にメールをおくり、はたらきかけたからだ。
「みーちゃん、いいのかよ。」突然、求の声に棘が出た。「なぁに?」
「俺は、あいつ好きだけどさ。あ、ゲイってわけじゃなくてね。でも、みーちゃんにとっては元彼なわけでしょ。辛くないのかい。」
「いいのよ、本当に吹っ切れてるんだから。」
「あたしが保証する。大丈夫よ、求。」
それでも求は心配なようで、ニコリと笑う美穂の目を逸らすことはしなかった。営業マンの求は、これまでの経験で人の感情は、目に現れるという持論を持っていた。
「みーちゃん、彼氏は?」
「いないよ。大丈夫だって。あたしはね、決別しに行くのよ。過去と。」
思えば美穂は、未練こそないものの賢斗を忘れた日はなかったように思えてならなかった。自然消滅いという、なんという情けなさ。自分に魅力がないのだと当初は思ったりしたが、時がその氷の塊を崩していくことに――そして、この大切な友人二人に幸せを覚えていた。
「賢斗も私も、新しい道へ進むのよ。賢斗は、私に自分のことを忘れろって、そういう理由でこの招待状、くれたんじゃないかな。あの人、優しさのベクトルが違う方を向いているじゃない。だから、俺の晴れ舞台を見ろって、悔しければお前も結婚してみろって、そう言いたいんじゃないかな。ま、お生憎様。私はもう、あいつのモノじゃないし、そうなるつもりもないけれど。」
美穂は一気にまくしたて、ロイヤルミルクティーをガブっとひと飲みした。現実に素直でシビアな美穂。綾乃と求は顔を見合わせ、安心してお互い口角をあげた。
「そういえば、賢斗ってさぁ……」

思い出話に花が咲き、外を見ると、もう朝だった。
「見て見て!」「なんじゃい綾ちゃん。」
「見事なり晴天。真っ青な綺麗な空……」
美穂に対する深夜による心の取り調べは終わった。もう、心の中にはこの綺麗な空のようでしかない。
「あいつ、雨男なのに。」求が笑う。
「お嫁さんが全てかき消したんじゃないの。俺様賢斗君が、尻に敷かれてたりして。」綾乃も笑う。
「賢斗……幸せになれるね。」美穂も、笑った。怖いぐらいの深夜の暗闇が、すべて持って行ってくれたのかもしれない。友人たちの優しい不安と、美穂のゆるぎないはずの決心を薄く覆う不安を。
「おーい!」
「あ、賢斗!」

結婚おめでとう、賢斗。


琴木さんのコメント
講評希望します。中辛でお願いします。

GM91さんのコメント
「美穂に対する深夜による心の取り調べ」と言うのが話の主題なのであれば、美穂のセリフだけじゃなくて内心の描写がもっとあると良いかなと思います。夜行で旅する若者ってな雰囲気はいい感じです。

4 ●
●47ポイント

『駈ける』

「お嬢さん、もう夜も遅いんですから、お帰んなさいな。いくら城下町が安全だからって、深夜は何が起こるか分からないんですよ」
駅員がそう言ってランプの油を足しながら困った顔をした。確かに、底抜けに明るい城下町でも、路地裏などは昼間から酔っぱらった男や、ちょっと怪しい商いをする者が居る。しかし彼女は帰るつもりなどなく、微笑んでまた線路の先を望んだ。便りの通りなら、次に来る急行列車に乗っている筈だ。
「軍学校を卒業したと聞いたんです。彼を一番にお迎えするって約束したの」
それを聞けば反対する者は誰も居ない。この国の男児は軍学校に通うことが義務付けられており、6年は帰ってこない。その帰りを待った健気な少女を、そして彼女に迎えられるであろう青年を邪魔しようなどとは思わないだろう。駅員は溜息を吐くと、小さな飴を二つ取り出して彼女の手に握らせた。
「二人で食べると良い。私は近くに居ますから、何かあったら呼んでくださいね」
彼女は彼に頭を下げて、外套の前をしっかり閉め、また遠くから来るはずの光を待った。

城下町の商家で父親が運んできた品を納めている間、彼女――ノノアはただ暇を持て余し、そこの息子であったマチアスに遊び相手をしてもらっていた。一つ下の彼は幼いノノアのお転婆ぶりに付き合わされてもいつも笑顔で、いつまでも「機織りの娘さん」としてしか見てくれなかった。だが、軍学校に行く前に駅に迎えに行くと約束できた。それだけでもノノアにとっては大きな進歩であり、この3年間を待つ間に恋へと変わった想いを今日伝えられるかと思うと、嬉しくもあり、緊張もした。
3年間だ。弱虫で木登りすら上手くできなかったあのマチアスが、飛び級して軍学校を卒業したという報せは信じられないものだった。成績も優秀で、武術も群を抜いて上達したと。入学したての頃何度も送られてきた便りにはいつも「帰りたい」の文字があったが、ロビンという名の友人の話が書かれた便りを最後に突然何も寄越さなくなり、信頼できる仲間もでき、精神も鍛えられたのだろうと思った。
急成長を見せた幼馴染に戸惑いを隠せないが、ノノアもまた3年の間に女らしくなっていた。母親に機織りを教わり、知り合いの染物屋や仕立て屋などに洒落た服を仕立ててもらったり。近所の娘たちと遊べば花摘みや飯事ばかりで、お転婆な彼女も少しずつ大人しく女らしくなった。16にもなれば言い寄ってくる男もできたが、ノノアは未だマチアスに想いを寄せていた。

遠くから光が闇を射て、列車が姿を現した。ゆっくりと煙を上げて滑り込んだ黒い塊は、扉を開けて人を吐き出す。ノノアは成長した彼の姿を見つけられる自信がなかったが、降りてきた10人ほどの人の中に、それらしき姿は見当たらなかった。さっと血の気の引く思いがして、慌ててひとりひとり声をかけていくが、皆知らない人だった。列車の中も見たが、深夜の空いた車両には年の近い男子は一人も居なかった。
「あの、私と同じくらいの年の男の子を見ませんでした? 軍学校から今日帰るはずなのです」
人の良さそうな中年男性に訊くと、彼は首を横に振って思い出したようにこう言った。
「平原を駈ける馬を見ました。軍学校の最寄りの駅のあたりです。人が乗っているのは見えましたが、少年かどうかは分かりません。しかし、軍学校で貰う黒い馬でした」

礼も言わずにノノアは駈け出した。彼の失踪を報せんと、全速力で。何度も二人で夕日を眺めに登った大樹も、水遊びをした小川も視界の隅に飛んでいき、寝静まった住宅街も、酔っぱらいの声の挙がる路地裏も過ぎて、表の通りに出る。月が冷たいほど眩しかった。広場は昼の賑やかさを失い、窓の明かりすらももう消えた店ばかりで、彼の家である店だけが息子の帰りを迎えようと明かりを灯していた。
「おじさん、おばさん!! ノノアです、開けてください!!」
戸を叩くが返事はなく、裏口なら気付いてもらえるだろうかと薄暗い道を曲がろうとした、そのとき。

青く光る眼が見えたと思った瞬間、ノノアの身体は『音一つ出さずに』石畳に叩きつけられ、宙に跳ね上がった。意識の途切れた彼女の目が最後に映したのは大きな黒い手――魔物の手だった。街に姿を現すことのない魔物が、どこからか紛れ込み、人を襲ったのだ。「唖」と呼ばれるそれらは音を喰らう。道を曲がった先の建物は幾つか既に倒壊しており、魔物の通った後には赤黒い血が点々と垂れていた。転がされたまま呻く人の姿も、ノノアの姿も、魔物の陰に飲まれて黒く沈んでいく。
「はああぁぁっ!!」
ふいに背後から浴びせられた斬撃によって、魔物は動きを止めた。突然現れた少年は大剣を魔物の胸に突き立て、とどめを刺す。断末魔の叫びを挙げ灰となって散った手から解放されたノノアを彼は受け止め、そっと地に寝かせた。外傷の少ないことを確認し、ほっと溜息を吐く。何事かと近くの店から人が現れるのを見ると、彼は急いでその場から離れ、物陰に隠れた。
「何とか間に合った……」
「それにしても、城下町まで入れるようになるなんてね。闇の力がまた強力になってきてるんだわ」
へたりと座り込んだ少年の服のポケットから、小人の少女が顔を出す。二人は騒ぎを聞いてかけつけた人々を見ながら、小声で囁いた。
「急いで神殿を目指しましょう。このままじゃ、音の無くなってしまう日までそう遠くないわ」
「分かってるよ。この街の近くなんだろう? すぐに着くさ」
二人は互いの瞳を見詰め、覚悟の程を示し合い、暫くして立ち上がった。少年のまだ幼さの残るその顔には似合わない、重たい何かがはっきりと表れ、またそれは固い決意を感じさせた。
「行くよ、ロビン!!」
朝日が昇らんとする東の空は花色に染まり、少年の影を優しく抱き寄せながら光を大地に降り注ぐ。

全てを背負うには、まだ若過ぎた。


京さんのコメント
結局突っ走っちゃいました。うーん、難しい。 講評お願いします。そうだなあ…マスターのブレンドコーヒーが飲みたいです。 さとうとミルクもちょっと入れといてください。

GM91さんのコメント
ストーリーがまとまってないが、設定に奥行き感があるのが良い。続編を読みたい。

5 ● 琴木
●43ポイント

人類を揺るがす隕石衝突の日――“アースデッド”から数年。ほぼ壊滅した地球を立て直したのは、機械の星から来た異星の科学者たちだった。かつての緑という栄光を失った地球は、異星の科学者たちによって“第二の機械の星”へと変貌を遂げた。濃い大気によって太陽光が遮断され、暗かった空は、彼らの恐ろしい科学力によって映像という形で青空を取り戻した。生き残った数千の地球人のために、彼らは一人一体の人工知能から発達した、人造人間を与えた。それが、地球を機械の星の彼らに委ねる為の交換条件だったのだ。

それから数百年、地球人の人口もかつての半分程度に増え、機械の星から来た異星人は、地球からの撤退を決定した。新しく選ばれた異星の代表の意向だった――
「泣かないで……泣かないでください、彼方(かなた)さん。」
「“さん”、なんて言うなよ。リア……」
北条彼方。日本国の古代の人物である尼将軍の子孫である。アースデットの日、日本は優秀な系統を受け継ぐ一族は生き残そうと、核のために作ったシェルターに避難させた。北条家は、地球の科学者として名をはせていたのだ。その何代目か、もう分からないくらいの当主の彼方にも、機械の星は人工知能を与えた。それが、リアだ。
「彼方さん、あなたにもう私たちは不必要です。地球はもう、私たちが手を加えなくても生きていける。私たちは、不必要なんです。」
「都合のいい話だ。こんな感情抱かせるなら、最初から出会わなければよかった……」
大学で地球史を学んだ彼方はこの体制を不服と思っていたが、幼い頃から一緒にいたリアへ、次第に恋愛感情を抱くようになった。それはリアも一緒だった。最初は表情のない家政婦のような人工知能は、時と共に感情を覚えていったのだ。
「もう、行かなくてはならない。今夜零時、この家に来る電車に乗って、私は故郷に帰らなければならない。」
「お前が生まれたのは、地球だ。」
「彼方さん、私をかくまえばあなたは殺される。」
「それでもいい。」
彼方はリアを力いっぱい抱きしめる。止めどなく、瞳から涙が流れる。それはリアも同じで、一生懸命堪えていた。これ以上、愛しい人が傷つかないように、肩を震わせ堪えていた。
「離して……ください。」「嫌だ。」押し問答だ。
リアは、自分を抱きしめ涙を流す地球の男の髪を、優しく梳いた。一粒の涙が、彼方の髪にポツリと落ちる。それを見て、リアは覚悟を決めた。
「えいっ!」「リアッ!」
最大の力で彼方を押したリアは、走って屋敷から出た。もう列車の音がしていた。彼方も夢中で追いかけるが、機械には勝てない。それが、この時代の現実だ。
「あれが……電車。」
「そう、あれがこの星から私たちの星へ唯一繋がる……深夜急行・ヘヴン。」
「リア!リア!」
泣いて叫ぶが動かない、彼方の身体。リアが金縛りをかけているのだ。
「元気でね、彼方――」
リアは列車へ足を踏み入れる。

「リア様、地球のことは忘れましたか?」
「さぁ……」
地球を去って一週間。ようやっと故郷が見えてきた列車は、泣く者あり、喜ぶ者あり、とにかく騒々しかった。ボーイがワインを注ぎにリアの個室を訪ね、分かりきっていることを聞いた。穏やかなリアでさえ、少し腹の立つ話題だ。
「懐かしいわね、この味。」
「はい、地球ものでございます。」
「あんたって嫌な男……彼方とは大違い。」
「傷つくだけかと思いますが、これもマニュアルなのでお許しを。地球の様子、御覧になりますか?」
「……ええ。」
ボーイがリモコンを取り出し、スクリーンに向けてボタンを押した。
『坊ちゃま。リア様はいかれたのでしょうか……』
彼方の側近だ。自分がいなくなると決まった時、一番にその旨を伝えた相手でもある。
『リア?何のことだ?』
「リア様、あなたはもしや……!」
「そうよ。消したわ。」
彼方に、人工知能の記憶はなくなっていた。リアの残した最後の愛(ちから)だ。彼女も、ちゃんと彼を愛していたのだ。愛する男が流す涙を、見たくなかったのだ。
「彼に私は……必要ないもの。」
「余計なお世話ですが……それでも、彼方様にとって、あなたの存在は、あなたが生まれた時から必要とされていたのかもしれません。」
「え?」涙が出るのを抑えるためにスクリーンから目をそむけたリアが、少し驚いてスクリーンを見た。
『早く仕事をしろ。追いつかなくなるぞ、研究所の建設。下がうるさいからな。』
「我々の感じる一週間は、地球人の一年に相当します。北条家は、彼方様を筆頭に人工知能の開発を始めました。家政婦型のロボットの用で……我々とは、精度がかけ離れていますが。」
「どうして……消してきたはずよ、私の記憶……」
『坊ちゃま、何故そう急がれるのですか?』
『興奮するんだよ、人工知能を考えるだけで。なんだか……懐かしい気がして。』
「彼方……!」
彼方はリアを忘れた。しかし、心が憶えていた。リアと暮らした日々。ぬくもり。愛。
『思うたび心が揺れるんだ。』
「私も、よっ……」
リアの瞳から涙がこぼれる。ボーイは黙ってそれを見ていた。窓の外はもう、脳のチップに刻まれただけで、見たことのない故郷が広がっている。

愛だとか、ぬくもりだとか、そんな形のないものに縛られる、哀しいけれど尊い心。
それを大事に大事に、本能で守っていく。
人間とはそういうものであってほしい。少なくともリアは、そう思って故郷の土に自分をのせた。


琴木さんのコメント
また書いてしまいました……BGMは紅白です。講評希望です。皆様、良いお年を。

GM91さんのコメント
設定、ストーリー共に楽しめました。松本零士的ストーリーがちょっとツボ。文章がちょっとギクシャクしてるのがちょっと残念。

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