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【人力検索かきつばた杯】#67
お題:橙色の光

めでたく開催の運びとなりました。
ショートストーリーを募集します。
締め切りはだいたい1週間後を予定してますが、延長もOKです。
難しいこと分からないので、講評はなしで感想をつけたいと思ってます。

はてなキーワードさん↓
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%CD%CE%CF%B8%A1%BA%F7%A4%AB%A4%AD%A4%C4%A4%D0%A4%BF%C7%D5

●質問者: 銀鱗
●カテゴリ:ネタ・ジョーク
○ 状態 :終了
└ 回答数 : 4/4件

▽最新の回答へ

1 ● 琴木
●75ポイント

『光が奪うもの』


出会いは軍の養成学校二期目の春だった。進級試験を突破したエリート軍人候補たちは専攻によって編成されたクラス表を受け取り、今まで過ごした一期生棟を後にして、これから一年を過ごす二期生棟に向かう。一番奥の一組は、進級試験の上位者の中で宇宙物理工学専攻のクラスである。段ボールに私物を詰め込んで向かう私の目的はそこだった。
私が教室に入ったことを確認するや否や、席についていた新しいクラスメイト達は、よろしくね、頑張ろうね、と次々に笑顔でたかってきたが、その目は笑っていなかった。笑顔の面の下には、妬みやっかみ、その他諸々の薄汚い顔をしているのだ。
「七光り」
「すねかじり」
どこかから、そんな言葉が聞こえた気がした。
「よっこらせ、っと」
不意の大音に驚いて隣を見ると、机に段ボールいっぱいの参考書を置く白衣を着た男子生徒がいた。見たことがない。
「お隣失礼。どうやら僕の席はここみたいで」
「……別に気にしていない」
「よかった。なんだか、空気が重苦しいけど、何かあったの?ホームルーム、まだだよな」
初めてだった。この男は、私を色眼鏡で見ていない。ただの隣の女子生徒としてしか認識していない。
「……空気清浄機みたいだな、お前は」
「初対面の男に、空気清浄器呼ばわりも凄いと思うけど」
「すまない。慣れてないんだ」
「いいんだよ、当たり前だからね。僕は、ムカイシオン。宇宙飛行士の向井さんに、紫の恩情で“向井紫恩”。君は?」
「……知らないのか?私を」
「当たり前だってば、一期の時は違うクラスだったんだから」
初めての自己紹介。その相手が紫恩だった。
「リンダアカリ……私は、凛田紅莉、だ」


「隊長、また見てるんですね。疑似太陽」
「見なければバイオリズムが狂う。常識だろう。私の体調なんかで3rdにいる日本人に心配をかけては、亡くなった祖父に示しがつかない」
「凛田元帥ですか……亡くなってから何年になります?」
「さあな。気にしていない」
私の祖父・凛田陽光は最期の宇宙軍元帥だ。資源の枯渇により人間が住める惑星でなくなった地球、その極東・日本において、一番の権力者だった。第三宇宙ステーション、通称“3rd”への移住の必要性を地球で最初に訴えたのも祖父だ。学生時代、七光りと言われた続けた所以はそこにある。勿論、祖父の力を借りたことなど一度もない。きちんと正規のルートで軍の上層部に出世をし、人口の減少から宇宙軍から改名した日本宇宙隊に隊長を務めている。
「懐かしいですね。思い出します、地球の夕陽。橙色の光がこう、世界を包むというか」
「光学は学ばなかったのか、副隊長。光は、赤・橙・黄・緑・青・藍・紫の順に届く。太陽が沈む夕方はその逆で、最後まで残るのが赤で……」
「頭痛いんですけど。そして隊長を見ていられないんですけど」
「私をか?」
「3rdに住む日本人およそ三百人、この夕陽の時間になると、みんな心配してますよ。知ってるんです、紫恩先輩と隊長のこと」
「やめろ」
「はい」
養成学校で出会い、共に過ごす中、私と紫恩が惹かれあうのに時間はかからなかったと思う。私は四面楚歌だったし、紫恩はこれぞ研究者というか、とにかく変わったやつだった。人と触れ合うより参考書を読む方に時間を費やしていたが、人の輪の中に入るのも上手い奴。私は紫恩の器用さに惹かれ、紫恩は私の一途さがいいと言っていた。思い込んだら、絶対やりとげる。それは、すごいことだよ、と。

『僕たちの名前には、色が入っているよね』
『ああ』
『赤と、紫。光学的にいうと、一番離れているね』
『……』
『でも、環になれば、ずっと手を繋いでいられる』
無事に日本宇宙隊に入隊して間もなく、祖父が亡くなった。日本宇宙隊の入っているビルは荒廃した日本では一番高い。酸素マスクを被らずにはいられない程廃れた地球で、数少ない高層ビル。祖父の葬儀の日は珍しく快晴で、橙色の光を携えた夕陽が私たちを照らす。もうすぐ暗くなる。紫恩の顔も見えなくなる。
『紅莉、3rdの移住に成功したら君に伝えたいことがあるんだ』
言ったのに。
『今、言えなくて申し訳ない。とても大事なことだ』
なんで。

3rdに向かう残り五百人弱の乗った宇宙船は、最大登場人数が四百人。百人もの人間が詰め込まれていたから、必然といえば必然、不幸と言えば当時の日本宇宙隊の上層部を恨め、といったところだった。これでも枯渇した資源を最大限に活かしたのだ、と思えば先祖を恨めばいい。
『隊長!凛田隊長!機体バランスにトラブル発生です、胴体着陸します』
『やむを得ない、全乗員に非常用装備を……』
『足りませんよ!百人分の装備が足りません!』
『隊長!』

『なんだ!』
『研究者たち五十名が、装備を提供すると……』

胴体着陸は、半分成功半分失敗だった。無傷三百名、重症五十名。研究者全員を含めた残りの百五十名は――

何を言いたかったのか疑問だけ残すなんて卑怯だ。一番憎いのは自分の無能さと宇宙空間の脅威。私から紫恩を奪ったすべての起因が憎い。
「何が、言いたかったのか……」
「隊長。どうか、宇宙を憎まないでくださいね。いつか、許してやってください。お二人が出会ったのも、この環境があってこそです」
「ああ、分かっている。それでも私はこの橙色の光が憎いよ。この橙は私の心に鎖をかけたんだ。そのくせ、居なくなったと思ったら全てを根こそぎ奪う」
「……自分は、先輩から隊長を任されています」
「知っている。ただ、私は靡かない自信があるぞ」
「分かっています。先輩を差し置いて、奪うなんてできません」
「日が暮れた、か。見回りに行くぞ、副隊長」
「はい」
まぶたに焼き付いている青春の光。字の如く青くはない、橙色の暖かい思い出。私は、紫恩の言葉を信じる。それしかできない。
「想い出は、永遠ですよ。いっぱいもらったはずです」
「……いいこと言うな、お前は」
「先輩の後輩ですから」
「国語は苦手か?」
「若干」
制服をただし、あと何回見られるか分からない疑似映像の電源を切った。心の中で、行ってきますと呟いた。


琴木さんのコメント
開催おめでとうございます。 ということで、本編です。こじつけすぎたかが心配。 曖昧なラスト、というものにチャレンジするも微妙。 ……感想待っています。よろしくです。

銀鱗さんのコメント
ありがとうございます。 色々ストンと納得できて、清々しいです。読後感超爽やか。 コブマリさんの書かれるカップルは毎回素敵ですね、後輩君と紅莉さんのその後がとても気になる木… なんだかあったかい気持ちになれました。そして資源は大切に使おうと思いました。 三年二組 銀鱗

2 ● a-kuma3
●75ポイント

「A CHECK LAMP IS ALWAYS GREEN」


「muffine2 も応答しない」
「どうやらハードエラーらしいから、すぐに復旧は無理だと思うよ」
「今日は店じまいにするか。後はよろしく」

コンソールに割り込んできたメッセージを閉じると、目の前のラックでオレンジ色のランプが点灯している muffine2 にコンソールをつなぎ直すと ―― こいつも落ちてる。モニタのコンソールから、前に CE に聞いた診断メニューを立ち上げると、やはり温度異常のビットが立っている。
これで三台目だ。
空調の機器も良いし、ラックの中に熱がこもっているわけでは無い。連絡を取ったサポートの CE も、しきりに聞いてきたが、温度異常のわけが無い。仮にセンサーが壊れたにしても、立て続けに三台というのは、ちょっと考えにくい。

ブルッ

胸ポケットで社給の携帯が震える。塗装がはげ下地のプラスチックがむき出しになった、ふた昔ほど前のガラケーのふたを跳ね上げる。

「また、早百合か……」

着信したメールは、サポートからのものではなかった。開かなくても、メールに何が書いてあるのかは想像がつく。機械のお守りがそんなに大切なのか。私と機械のどっちが大事なのか。という、お決まりの文面に決まってる。仕事が忙しいからと、連続してデートをすっぽかしていることに、何かを察してなのかどうかは知らないが、この数日、やけにメールがしつこい。嘘から出た実というわけではないだろうが、今日は、本当にサーバのトラブルだ。軽く毒づいて携帯を胸ポケットに戻し、上げた目に入ったのはコンソールの画面に映るワンレンの ―――

「うわっ。早百合っ」
「誰が早百合よ」
「何だ、圭子か…… 驚かせるなよ」
「何よ、勝手に驚いて。仕事が忙しそうだと思ってきてみたら、あんな女のこと、考えてたのね」
「いや、違うって」
「まあ、いいや。私は先に帰るわね。頑張ってね?」

後ろ手に手を振りながら、圭子は形のいい尻を振りながらサーバールームを出ていった。なんで、女はあんなに似たような格好ばかりするんだ。紛らわしい。
また、胸ポケットで携帯がブルった。無視を決め込んだ俺は、こいつも立ち上がらないだろうなと思いながら、ブートのコマンドを打ち込む。

「…… メールを ……」

はっとして振り返った目の先には、閉められたサーバールームのドア。いや、早百合の声のはずがない。コンソールに目を戻すと、ブート時のチェックが実行されているメッセージが流れている。S-RAM、コンソール、タイマーと OK のメッセージが続いた後、致命的なエラーでブートシーケンスが終了する。

やっぱり、こいつも同じか……

... Message from pts/122

メールに返信しなさいよ


「!」

まさか早百合のはずがない。
いや、そもそもネットワークを認識するところまで立ち上がっていないのに。

... Message from pts/122

メールに返信しなさいよ

また機械の相手?
ずっと、そうやっていれば良いんだわ
今度は、ドーナッツを食べちゃおうかなあ...


OS すら起動していない状態のコンソールにメッセージが次々と流れていく。
目の端にオレンジの明かりが飛び込んでくる。
隣のラックでは、donut7 のパネルがエラーを示している。

馬鹿な……

とにかくハード交換だ。サポートのメールアドレスに、状況確認の電話を折り返すようにメールを打つ。 24時間対応のサポートはありがたいが、直接、こちらから電話連絡をする口がない。イライラしながら電話を待っている間にも、donut2、donut6 と、オレンジ色のエラーランプが次々に点灯してゆく。donut を収めたラックの半分以上がオレンジのランプで埋められたとき、間の抜けたアニメの主題歌が携帯から流れ出す。

「来た! もしもし、もしもしっ!」
「こちら、カスタマーサポー …… と、申し ……」
「あ、すみません。電波の入りが悪いんで、ちょっと移動します!」

相手にこちらの声が届いているのかもわからないが、電波の入りが悪いサーバールームを飛び出し、重たい防火扉を開けて、外の非常階段に出てサポートに話しかける。

電話は、切れていた。

いや、またかかってくるだろう。胸ポケットから煙草を取り出して火を点け、急いた気持ちを落ち着けるように、大きく三度ほど煙を吸い込んで吐き出す。

駅からほど遠いところに建てられたビルの周りは、人家もあまりなく、夜になると二十一世紀の日本とは思えないくらいの闇に包まれる。それでも、まばらに設置された街灯と月の光のおかげで、地味朦朧が跋扈するほどの暗さではない。

よく晴れた空には、三日月がにんまりと笑っている。

「満月じゃなかったっけな……」

昨日、見た月の大きさが思い出せずに、禁煙のシールが貼られた非常口の扉の前で、手すりにもたれかかりながら、二本目の煙草をぼんやりとふかしていたときに、携帯の着メロが鳴りだす。

「やっと来たか。もしもし」
「…… どうして、返信してくれないの……」

着信はサポートからではなかった。

「それどころじゃないんだ。本当にサーバーがダウンして」
「何よ、本当に、って! 最近、ずっと……」
「とにかく、忙しいんだ。切るぞ」

早百合の声をさえぎって、通話を打ち切り、軽くため息をついて、非常階段の手すりにもたれかかる。

「前は、あんなんじゃなかったのになあ」



「私は、変わってないよ」



首筋を冷たい手でつかまれた感触に身を引いた後、俺の周りの重力が霧散した。
すっかりと地球の影に入ってしまった月が橙色の顔をして無表情に俺を見て……



a-kuma3さんのコメント
着信 1件。 >> From: サポート窓口 To: 山田 圭介 様 Subject: [INS-95218] お問い合わせの件に関して この度は、ご迷惑をおかけして、大変に申し訳ございません。 頂いた情報を元に、調査をしたところ、ファームウェアに障害があることが判明しました。 温度センサー監視処理では、起動してからの通算秒を24ビットのデータとして保持しています。 通算秒が一巡した場合の判定に問題があり、16進数で FFFFFF 秒(10進数で、16777215秒≒194日)を経過した場合に、動作に問題がない温度の場合にも、温度異常を検知してしまう場合があるという障害があることが判明いたしました。 ファームウェアの修正情報については、数日のうちにご提供できると思われますが、応急処置としてタイマーをクリアすることでサーバの再起動が可能になります。 タイマーのクリア方法につきましては、添付いたしました手順書をご確認いただければと思います。 今後とも、弊社の製品をよろしくお願いいたします。 <<

銀鱗さんのコメント
ありがとうございます。 せ、先生! よく分かりませんでした… 彼女は天才ハッカー?はたまたストーカー、もしくはゴースト?? そのうえお月様の描写がまた素敵ですね、いい感じに怖いです。 しかしそんなにマフィンとドーナツ食べちゃったら、早百合さん太っちゃうんじゃ…

3 ●
●75ポイント

いかやきプリンセス

「森ふらな、中学三年生です」
「浅木桃、中学一年生です」
「清川咲乃、中学三年生です」
「秋山まき、中学二年生です」
「木下蘭子、中学二年生です」

「「「「「わたしたち、五人合わせて、いかやきプリンセスです!」」」」」

某関西某所の某デパート(死語)の某イベントスペース。

インディーズアイドルのいかやきプリズム、通称【いかプリ】はライブの真っ最中であった。

何を隠そう、いかプリは、かの有名な例のBKA48とは違うほうの大人気のアイドルグループの妹分であり、事務所も一緒で、いわば関西支部のようなできたてほやほやともいえない地味に人気の出てきているグループなのである。

そして、わたしは、そんな彼女たちを見守る一人のファン。
数年前までは、数十人程度しかいなかったファンももはや千人に迫る勢いであり、その筋では1万にんくらいは動員できる自力があるのではなかろうか? などとも言われている。

しかし、それはそれ。
インディーズアイドルとして、やってはいけないのは身分をわきまえずに急成長すること。
事務所の人間もそれをわかっているために、ゲリラライブや、平日真昼間に、人が来なさそうなことも見越しながら、小さな会場で小さなライブを行い、その後のファンとの交流を深める握手会などのイベントも実施しているのである。

はたして、ライブも終盤に差し掛かろうとしていた。

「では、最後の曲になります、聞いてください」

少女たちは唄い出す。それにあわせてファンは、サイリウム(太めの電池式のペンライトでアイドルを応援するのには必須のアイテム)を光らせて曲に合わせて振る。

サイリウムの色は6色である。

森ふらなは、紫色。
浅木桃はピンク色。
清川咲乃は黄色。
秋山まきは青色。
木下蘭子は緑色。

それに、脱退して今は居ない元リーダーの中崎映のイメージカラーであった赤。

会場は6色のサイリウムに染まる。

ボルテージは最高潮。

損な時であった。

会場から悲鳴が上がる。

アイドルオタクをこじらした人間のなれの果て。
アイドルオタクへの情熱が負のエネルギーに転化して怪物となった他界獣と呼ばれる化け物が現れたのだ。

他界獣はファンに襲い掛かる。スタッフに襲い掛かる。

が、それを黙って見ているいかプリではない。

彼女たちはまた、アイドル業の傍らに立怪獣と戦う美少女戦士でもあるのだ。

「勝手な真似はさせへんで!」
「もう、桃がめっちゃめちゃにしてやんよ!」
「ほんま、せっかくのライブの途中に困りますなあ」
「やっつけちゃう!」
「ドキドキでーす!!」

口々に叫びながら、少女たちは果敢に他界獣の攻撃をいなし、取りだした武器で持って攻撃する。

が、それでやられる他界獣ではない。

必殺技が必要なのだ。

「いくよ! みんな!!」

ふらなの掛け声で一斉にフォーメーションを取る5人。

5人のえねるぎーをまとめ、さらには脱退した元メンバーから受け継いだマジックアイテムの力も得て、6色のエネルギー光線を放つ、いかプリの必殺技が発動する。

「「「「「お逝きなさい!! レインボーレボリューションアタック!!」」」」」

今までの他界獣であれば、その一撃に耐えきることなく、まさに他界していただろう。
(実際には、けがれた心が浄化されて、真人間に生まれ変わるのだが)

が、今回の敵はいままでの他界獣とは違った。
しかも、知性を残しているようだ。

「ききまへんなあ。そんな不完全な必殺技」

最大にして最強(さいつよ)の攻撃が効果を表さなかったとしても。
少女たちは諦めない。

「一発でだめなら、もう一発!!」

と、レインボーレボリューションハリケーン(レインボーれぼしゅーションアタックの上位技)を連発する。

が、しかし。

「だから、ききまへんって」

他界獣には効果が内容だ。

「やっぱり……」

声を漏らしたのは、彼女たちのマネージャーにして戦闘時の作戦指令を兼ねている西野さんだ。

「西野さん?!」

「あなたたちの必殺技には欠点があるわ。重大な」

その言葉に少女たち五人もはっと思い当る節があった。

そう。レインボー以下略とは、7色のエネルギーをぶつける光線技なのである。

しかし、彼女らは5人。元メンバーから借り受けた赤のエネルギーを供給するマジックアイテムを合わせても6色分のエネルギーバリエーションしか生じさせることができないのだ。

「不、完全……」
「この先の強敵には今のままでは……」
「勝てないの」
「そんな……そんなことって」
「せやかて!!」

少女と共に、少女と少女のマネージャーとともに。少女と少女のマネージャーとまわりのスタッフとともに。
絶望に打ちひしがれる人々。

「あはははは。5人でレインボーとか笑ってまうわ。
ほな仕上げや。もう二度とアイドル活動できへんように、お前らの心を穢してやるでえ」

他界獣は、縦横無尽に立ち回り、ファンの推し力(ファンがファンであるために、アイドルを応援する気持ち)を吸い取って行く。

「こ、このままでは……」

その時奇跡が起こった。
いや、奇跡ではなかった。

俺の持つサイリウムが橙色に光だしたのだ。
やっぱり奇跡だった。紫推しの俺のサイリウムは電気回路の都合上、紫以外では光らないはずなのだ。

奇跡を起こしたのは俺の心に芽生えた感情。

今まで、笑顔を与えてくれ、そして他界獣から守ってくれた彼女たち。
その力になれれば、少しでも彼女たちのためになにかできれば……。そんな気持ちだ。

それは俺だけではなく、周囲の「いか家族(いかプリのファンのこと)」にも同様に起こった奇跡である。
会場が橙色の光で満ち溢れる。

マネジャーが叫ぶ。

「これならいけるわ! ふらな、桃、咲乃、まき、蘭子。五人の力をひとつにするのよ。
そして、7色めのエネルギー。ファンのみなさんの想いもエネルギーに変えて!!」

「「「「「わかった!」」」」」

少女たちがファンと想いをひとつにし、放たれた究極の必殺技。

ファイナルレインボーレボリューショントルネードは、他界獣を飲み込んだ。

かくして世界に平和が訪れるかというとそうではない。

まだまだ、他界獣は各地で生れ落ちるのだ。それと戦い続けるには、新メンバーの橙色担当を入れるか、ファンと気持ちをひとつにし続けるしかあるまい。
諸事情により前者は難しい。

会場はアンコールの渦に包まれている。

この人達となら。この暖かいファンの人達となら。これからも力を合わせて戦っていける。

そう心に刻む5人の少女たちであった。


銀鱗さんのコメント
ありがとうございます。 関西弁アイドル可愛いですね…訛りアイドル良いですね… レインボーとかお約束なのにファン参加型ってのが最高ですね! 彼女たちのピンチを救えるなんてファン冥利につきるでせう。 この番組は。背中にぴったりフィットちゃんと、御覧のスポンサーの提供で。お送りしました。

4 ● sokyo
●75ポイント

『橙』

「The End」が現れて、画面はいつものオープニングに戻った。草原を駆け抜ける、一頭の馬。緑の衣裳。
「もう終わったか?」
パパが聞く。僕は頷く。パパはTVを10チャンに変えた。ニュースステーション。草原に比べたら圧倒的に狭苦しいスタジオで、久米さんが深刻そうな顔をしている。
アメリカの惨状なんて、画面の向こうの話だ。僕はそっと自分の部屋に戻った。
部屋は静かだ。頭の中で、まだオカリナのメロディが響く。
「今日はもう寝なさい」
部屋の外からママの声。その通りだった。こんなに夜遅くまでゲームしてたことは、今まで一度もない。
ぼんやりお風呂に入った。そのまますぐに寝た。

* *

夕方は僕にとって、至福の時間だった。リビングには西から日が射して、橙色の光でいつも包まれていた。でも僕はそんなの全然気にしていなかった。スイッチを入れて広がる、あの平原の世界。それは甘美で、正しくて、代わりの利かない場所だった。
僕の家には、アドバンスもプレステもなくて、64だけがあった。平日の夕方、ママが帰って来るまでのわずかな時間だけ、自由の時間は、僕のものだった。いつか来るお別れも、分かってはいたけれど。

* *

幼い僕には時間がかかったけれど、その日は、数年後の10月にちゃんと来た。
その日ママが帰ってきて、僕は生まれて初めて、このことでお願いをした。
「今日だけは、最後までやらせてほしいんだ」
と言った。ママはあっさり、いいわよ、と言った。
いつしか夕方は夜になった。ご飯を食べてからまたコントローラを握った。パパが帰ってきたのには気づかなかった。
ラスボスとの戦いは、思ったよりもずっと長かった。僕は気の抜けない戦いに背筋を伸ばした。同時に、いつの間にか帰ってきていたパパからの視線でも緊張した。今までにこんなところを見られることなんてなかったから。
エンドロールまでは長く、そしてあっという間だった。僕はあの少年とひとつだった。何度も聞いたオカリナのメロディが、冒険の思い出を彩る。みんなが集まってくる。剣を再び刺す。妖精が旅立っていく。姫と再会する。
いろんなことが、元に戻っていく。
そして「The End」が現れる。舞台はオープニングに戻る。草原を駆け抜ける、一頭の馬。緑の衣裳——。

* *

次の日も平日だった。
積み残したことはたくさんあった。まだハートが全部集まっていない。ミニゲームもまだある。話しかけていない人がいる。切っていない雑草がある。
僕は、64のスイッチを入れた。乗り馴れた相棒を駆って進む。昼の間にあの橋を抜けないと。そのためにはこっちを走らないと。
けれど。
僕は、昨日の夜のことを思い出してしまった。あのときパパは、僕と同じように画面を見ていた。
パパにとって、ゲームの世界は、画面の中の世界だった。僕にとっての、あのアメリカのビルのように。
昨日の夕方までだったら、ゲームは世界の全てだったのに。
あのときから、どうしても、ゲームがテレビの中から出てこなくなった。

お前が雑草を切っているんじゃない。
ガーネットのような貨幣は、お前のものじゃない。
お前はコントローラのボタンを押しているだけだ。
雑草を切っているのは、画面に映った少年だ。
貨幣は、彼にしか使えない代物だ。
お前のものじゃない。
彼のものだ。


彼は、中途半端な場所で馬から下りた。平原の昼は終わろうとしていた。
太陽が低いところから彼らを照らした。

僕は電源を切った。

昨日まであんなに楽しかったこのゲームが、くすんだ膜の向こうへ遠ざかってしまったように感じられた。大好きだった人たちの口調が、なんだか空々しい。大好きだったメロディが、なんだか飽き飽きする。
おかしいじゃないか。剣だって元に戻った。姫とだって再会した。いろんなことが、元に戻ったんだ。

それなのに、僕の気持ちは昨日みたいにならないなんて、おかしいじゃないか。

僕は、誰もいないリビングで、BGMもない部屋で、ただぼうっとしていた。小さな塵が、光を弾いてきらきらした。この気持ちは今まで知らなかった。あのキャラクタたちは大人として僕に接してくれたけれど、こういう感情の名前は教えてくれなかった。
テレビの向こうの久米さんは、アメリカのことを「他人事じゃない」って言った。ならどうして、あの少年の世界は、僕のものにならないんだろう。19

どうしてこんなに辛いんだろう。
こんな気持ち、知りたくなかったのに。

僕は泣いた。初めて橙が僕を包んだ。それを知った。


銀鱗さんのコメント
ありがとうございます。 sokyoさんずるい!!!!!待ってずるいですそれは!!!!! クリア後の喪失感とか、現実に戻れないまま一日が終わっちゃうとか、まさにそんな感じだなあと…描写が的確すぎてぐうの音も出ないです。 何かもうほんと、「それな」とか「ほんまそれ」って感じです。 言葉にできません。
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