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【人力検索かきつばた杯】#79
お題:「侵略」
という要素を含むショートストーリーを回答してください。
初心者のかたも歓迎です。

・本文やタイトルに直接キーワードを使う縛りはありません。
・〆切前の加筆・修正はご自由になさってください。大幅に変えた場合はコメント欄などで通知してくださるとありがたいです。
・字数制限は設けません。読みやすく、内容に見合った長さにしてください。
・私個人の好みを前面に押し出した感想(場合によっては講評っぽい何か)を書きます。そんなのいらん、という場合はあらかじめおっしゃってください。

〆切:2017/10/2(月)の予定。

1504850568
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●質問者: libros
●カテゴリ:芸術・文化・歴史 書籍・音楽・映画
○ 状態 :終了
└ 回答数 : 6/6件

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質問者から

人力検索かきつばた杯とは - はてなキーワード
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%CD%CE%CF%B8%A1%BA%F7%A4%AB%A4%AD%A4%C4%A4%D0%A4%BF%C7%D5


1 ● 只野迂舞某
●50ポイント

おとうさんロボット

おとうさんロボットは、ぼくのおとうさんが、作ったロボットです。
おとうさんは、お酒があんまりのめません。
なので、おとうさんロボットがかわりにのみます。
どうして、おとうさんロボットがひつようかというと、ジャージャーズバーのうりあげをかくほすることだといってました。
ジャージャーズバーは小さなおみせで、おきゃくが6人しかすわれません。
はんじょうしている時は、10にんぐらいはおきゃくがはいります。
おとうさんはジャージャーズバーのじょうれんでした。
自分でもお酒をのんで、ジャージャーズバーのマスターさんにもお酒をおごっていたのです。
ジャージャーズバーのうりあげの半分くらいはおとうさんのお金でした。
ジャージャーズバーのマスターさんは、江戸っ子みたいに、よいごしの金を持たないしゅぎなので、おとうさんは毎日毎日かよっていました。
とちゅうで、おとうさんはかんぞうをこわしました。
おとうさんはウーロンちゃをのみにジャージャーズバーにかよって、ジャージャーズバーのマスターにお酒をおごっていました。
マスターはつうふうというびょう気になって、あまりお酒をのめなくなりました。
そのぶん、おとうさんがマスターの分もお酒やウーロン茶をのんで売り上げをキープしようとがんばりましたが、かんぞうにつづいてすいぞうもだめになりかけて、ヤバくなりました。
なのでおとうさんはロボットを作ることにしました。
おとうさんロボットは、たくさんのお酒をのむことができます。
ないぞうタンクには10リットルのお酒をためることができ、一度のトイレでタンクを空にできて、またお酒がのめるようになるのです。
はじめ、10リットルを30びょうではいしゅつするようにちょうせいしていたのですが、それだとトイレがびちょびちょになったり、すごいごう音で、他のおきゃくさんのめいわくになるので今はかいぞうして、すこしずつはいしゅつするようにかいりょうされました。
どうしておとうさんはジャージャーズバーの売り上げを気にするかというと、ジャージャーズバーのマスターにお世話になったからなんだそうです。
おとうさんとおかあさんはジャージャーズバーがきっかけでけっこんしたそうです。
それもあってぼくが生れることができました。
なので、おかあさんもおとうさんがジャージャーズバーに毎日毎日かよっていてももんくは言いませんでした。
でも、いまは、おとうさんのかわりにおとうさんロボットがジャージャーズバーにかよってお酒をのんで売り上げにこうけんしているので、ぼくはおとうさんとおかあさんといっしょにばんごはんを食べて、テレビを見たりゲームをしたりして、楽しいからしあわせです。
ぼくはまだお酒はのめませんが、大人になったら、ジャージャーズバーでお酒をのんで、マスターにもお酒をいっぱいおごりたいと思っています。
まだぼくの中にあるタンクは小さいのでたくさん物を食べたりのんだりできませんが、20さいになったら大きいタンクにかいぞうしてもらいます。



202x年
政府の発令した健康促進のための飲酒量制限法により、キャバクラなどはその営業形態を様変わりさせていた。
キャバ嬢は、自分で酒を飲むことを控え、自分とそっくりの容姿のアンドロイドに酒を飲ませる。(これは、ひとりを指名したら二人ついてくるのと同等というお得感から、客側からはおおむね好評であった)
また、客側も酒を控えるか、あるいはドンペリなどを開ける時用に、自身を模したアンドロイドを同伴させるようになった。
それはキャバクラやホストクラブ、ガールズバーなどから巻き起こった現象であったが、やがてそれは町中の呑み屋へと拡散していった。
今では、呑み屋などの酒をメーンで取り扱っている店舗で飲んでいる客の実に8割が酒豪仕様にカスタマイズされたロボットなのだという。


librosさんのコメント
回答一番乗りありがとうございます!

librosさんのコメント
バーカウンターにいるロボット、ってとこから星新一の「ボッコちゃん」を連想して、なんだかノスタルジックな気分で読みました。 身代わりロボットに飲ませてまで酒を消費することで世の中が円滑に動いていく、というねじれっぷりが現代的で面白いです。

2 ● 只野迂舞某
●50ポイント

イレイサー


僕はひどく小さなカプセルの入った小箱を目の前にして、思考の迷路にはまり込んでいた。



人類がヒトの脳の完全シミュレートに成功して既に数十年。
当初は脳の障害や痴呆などの治療、つまりは医療目的で研究開発されていたニューロンネットワークを更新するナノマシン技術。
研究者以外でもその可能性に気付く者は多かった。もちろん、倫理的な問題から表面上は規制対象とされていたが、某国の研究者は国家的プロジェクトとして秘密裏に研究を進めていた。その研究材料となった多くの罪も無き貧しき国民の犠牲の上に、様々な用途で利用できるようになるまでに至った。
そして世界中の誰もが知っていることであるが、同じような研究を内密に推し進めていた国家は一国だけではなかった。
というよりも、ほとんどの国で国家規模、あるいはマフィアのような裏社会の組織規模で同時に研究が進んでいたのだ。
某国が非難の対象となったのは、その研究成果を売り出して外貨を得ようとしたことが漏えいしたからに過ぎない。買い手には事欠かなかったことが漏えいの大きな原因と言えよう。なぜなら通常の倫理観を持った国家であれば、一歩間違えれば廃人になる危険性のある人体実験を(それほど数多くは)行えなかったのだから。
ある程度の安全性が担保されるに至って、世界規模で研究は加速して行った。



ともかく、そんな歴史を経て今の世界が成り立っている。
新たな記憶や情報を埋め込むニューロンアップデータ。これにより、人は学ぶということを行う必要はなくなった。
生活習慣や概念をアップデートすることで健康的な暮らしが送れるようになる。例えば、ジョギングを日課としたり、食べ物の好みを変えることで食習慣も変えられる。
それまでと異なる神を信じることができるようになり、今までは宗教上の理由で結ばれることの無かったカップルがいたるところに生まれた。(もちろん、信仰と恋人を天秤にかけて熟慮した結果ではあるが)



かつては高額であり、また使用に対する恐怖や背徳感から使用者は一部に限られていたが、時代が経つにつれ、抵抗感は次第に薄まって行った。
誰しも、我が子の成績が悪ければ、教科書に記載されている情報や学力試験の要点をアップデートしたくなるものである。あるいは素行が悪ければ、人格矯正用のアップデータを。
上流階級の誰しもがアップデータを使用し始め、富を独占していく。
それに引きづられるように中流階級の者たちがアップデータを恐る恐る使用する。
あとはドミノ崩しのようであったという。
結婚相手として相応しい人格の持ち主はアップデータ使用者がほとんどとなり、就職試験で採用されるものもアップデータ使用者がほとんど。
未使用者は低能力者として差別されるに至る。各国の政府が貧困やその他諸々の対策として、無料でアップデータを配布するという暴挙に出たものの、それは肯定的に受け止められ、愚挙だと指摘するものはほとんどいなかった。

ある意味ではユートピアの誕生である。
各人の個性が失われ、刺激や愉しみが不足していると感じたならば、期間限定で個性や刺激を求めるアップデートを施せばよい。
さまざまな嗜好用のアップデータが販売される。
砂漠で三日もの間彷徨った疑似体験を植え付けられれば水道水がどれほど美味く感じられるか。体験したものにしかわからないその幸福感が、ランチ一食分程度の値段で購入できるのである。



さて、そんな中、ある風変わりなアップデータが開発された。
アップデータに関する記憶の一切を消去する、通称イレイサー。
それは記憶を消去するだけでなく、記憶をアップデートするという事に対する忌避感や背徳感までもを植え付ける機能を持っているために、イレイサーなどという名称は相応しくないのかもしれない。
あるいはアップデータが広まった後の歴史自体を消去するという意味合いが込められているのか。



「脳を作り変えるなんて馬鹿げたことは止めて。イレイサーを使って正気に戻って」
カレンが訴えかけてくる。
「馬鹿げたも何も、イレイサーだって本質的にはやっていることは同じだ」
僕は言い返したが堂々巡りであることには変わりない。
カレンは自身の脳が既にアップデータによって変革していることは理解しているが、実感していない。
彼女は、今現在――興味本位でイレイサーを使用した後――の自分こそが自然でそれ以外の人間の脳は異常だと考えている。
「でも、あなたはまたアップデータとやらを使用して自分を作り変えてしまうのよ」
「今更そんなことを気にしても始まらないさ」
「愛する人が人の理に反するようなもので変わってしまうのが嫌なのよ」
「アップデータは本当に必要な時にしか使わないことを約束してもダメなんだよね」
「もちろん」
「だけど、カレンの脳だって小さい頃から何度もアップデートされている。もはや自然に得た情報なんて日常生活の記憶しかないはずだ」
それだって、嫌な記憶は消去され、都合の良い記憶に置き換えられているのだろうけれど。
「でもこれからの私は間違いなく私で居続けられるわ。あなたと一緒ならどんな困難だって乗り越えられる」
「僕、じゃなくてイレイサーを使用後の僕という条件付きでだろう」
「もちろん」
再び僕はイレイサーの入った小箱に目を落した。
アップデータの使用には個人の意思決定が必要である。本人がそれを受け入れるという意思を持って使用しないと脳の改変が上手く行かないのである。また、それは洗脳などを回避するセーフティ装置の役割も持っていた。
寝ている間に勝手に使用して効果があるのならばカレンは無断で僕にイレイサーを使用するだろう。
そっちのほうが良かったのかもしれない。無駄に悩まずに済む。
幸いアップデータのおかげで僕の知識や思考力、これまでの人生経験は非の打ち所のないほどの立派なものになっている。
この先アップデートなしでも生きていくことぐらいは可能だろう。
だけれども、ショックを受けた時、どうやって立ち直ればよいのか思い出せない。
カレンを喧嘩してしまった時にどうやって仲直りすればよいのか。アップデータなしに。
それがまさに今の状況だ。
どうしてカレンはこんな厄介なものを使用してしまったんだ。
そもそも誰がこんなものを、何の目的で開発したんだ。
アップデータのおかげで世の中のほとんどが上手く行っているというのに。



この時の僕はまだ、イレイサーの存在を深刻な痴話喧嘩の火種ぐらいにしか考えていなかった。
そうじゃないということを知ったのはカレンを失って、さらにそれから数年経ってからのことになる。


librosさんのコメント
二作目ありがとうございます! これは続編がありそうですね。わくわく!

librosさんのコメント
実際に体験して培った記憶と、プログラムで書き換えたそれとはどう違うのか、などとぐるぐる考えさせられました。 ここからいよいよ面白くなってきたな! というところでぷっつり終わっている感がハンパなく、続きをとっても期待してました。ちょっぴり残念。

質問者から

終了予定日が近づいてまいりました。10/2(月)日没後に締め切ります。あと一週間です。
お題がよろしくないのか、日程がよろしくないのか、あまり作品が集まらなくて落胆しております。まだまだ回答&コメントを熱烈募集中です。よろしくお願いいたします。


3 ● たけじん
●50ポイント

隣の机で、恵子先生が悩んでいる。眉を寄せ、ちょっと上を向いた細い鼻と小ぶりの上唇との間にスリムなピンクの三色ボールペンを挟み、口を小さく尖がらせて、右手に頭を乗せ、左手の中指で机をトントントトンとリズムよく叩いている。緩くウエーヴのついたサラサラな髪は、時折かき混ぜる右手のせいで、後ろで止めているバナナクリップが外れかけ、少し絡み合いながら顔や肩にかかっている。僕は、これが恵子先生が生徒の事で悩んでいるサインと知ってるし、その姿が外が暗くなった職員室のカーテンの引かれていない窓ガラスに映っているのを、今眺めている。たぶん、その悩む姿は僕しか知らないはずだ。なぜなら、他の先生がいるときには、あの唇がとがっているのを見たことが無いからだ。
「恵子先生。また、なにか生徒がやらかしました?」
僕がいることに初めて気が付いたという様子で、急にきちんと座りなおすと、髪をかき上げて恵子先生はあわてて答える。
「い、いえ。悩んでいるわけではないんです」
「どうしました?」
「今日、国語の授業である単語に対する作文というか、印象というかをまとめるということをしていたんです」
「ええ」
「そこで、”侵略”って単語を取り上げたんです。10分ほど、なにも調べずにその言葉から連想する単語や文章を書かせたんです。これがそうなんですけど」
恵子先生は、クリップで止まったB5サイズの紙の束を見せてくれた。
「書いた後で、辞書を調べさせたら教室がざわついて」
「え、どうしてです?」
「自分の印象と違う。全然知ってる内容と、辞書の中身が違っていると」
「そうなんですか。あの金子や佐野綾香でもですか?」
「ええ、国語の成績が優秀な子も同じだったんです」
僕は大きく頷いて言った。
「”侵略”って、ほぼ戦争行為のことですよね。自国の利益のために他国の領土や主権や財産を奪い取るという」
恵子先生が、紙の束から僕に視線を移して、大きく頷いた。
「はい、そうです」
恵子先生は机の上の大辞林を開き、慣れた手つきで、細くて白い人差し指で侵略の項を示した。
「ここに、【侵略】ある国が他国の主権・領土・政治的独立を侵すために武力を行使すること。 ” 侵略者” ”他国の領土を侵略する”、と書いてあります。」
「そうですね、侵略とはこのことで間違いないと思います。」
恵子先生は、開いた大辞林の上に、さっきの紙の束を置いた。そして、右手で頬杖をつき、左手で紙の束を少しずつめくりながら、僕にこう言った。
「でも、生徒たちは、こうなんですよ。この、金子君の文章が象徴的なんです」
僕は、紙の束の一番上の一枚を受け取った。そこには、こう書かれていた。
『侵略とは、我々とは違う世界からやってきた我々とは違う者たちが、我々の世界を乗っ取り、我々を排除若しくは隷属させることである。違う世界とは、基本的には地球以外のことを指しており、侵略者は人類ではないエイリアンである。一般的な使い方は、「宇宙からの侵略者」である。すなわち侵略をあえて狭く定義するならば、別世界特に宇宙からの異星人による侵攻を侵略と呼ぶ。』
この文章の下に、ちょっと不器用な線で、タコ足のBEMが描かれている。ギザギザの歯と手?に持っているいくつもの武器の様な物が、いかにも侵略者である。その絵の下には、INVADERと赤く描かれている。
「なるほど、他の生徒も侵略者は人類ではない、という認識なのかな?」
「そうなの。だから、辞書にエイリアン的な説明が一切ないことに違和感を覚えたらしいの」
口調が砕けてきたことに、恵子先生は気づいていないらしい。僕は、そのことには触れずに、他の紙をめくってみた。確かに、異星人とか異世界人とか人類じゃない物が攻めてくる、地球を奪われるという記述ばかりだ。
「武本隆のここ、特徴的ですね」
「あ、それ?うん、そうそう」
マンガの様に描かれた宇宙人(たぶん映画”宇宙人ポール”のポール)と軍服を着たゴリラ(これは”猿の惑星”)が描かれている下に、それぞれ○と×が描かれているのを指して、僕はこう言った。
「猿の惑星は侵略じゃなくて、宇宙人がやってくると侵略。この宇宙人ポールなんて、不時着だったと思うんだけど侵略者扱いか。絵はうまいけど」
「どう教えたらいいのかしら。中国政府と「侵略」と「進出」でもめてる場合じゃないでしょ。侵略にしたら、我々日本人が異星人にならないと、この子たちには通じないんだから」
「元々の定義を知ったうえで、彼らなりの解釈をすることはよしとする、が妥当でしょう。中国に侵略が違和感だったら、金子君の「侵攻」がいい線ではないですか?」
「そうね、知ったうえで応用してほしいわねぇ。侵攻ならいいかもしれない。うん」
恵子先生は、紙の束の上にレポート用紙を重ねてはさみ、そこに「侵略」と「進出」と「侵攻」を書いて、侵攻に赤い丸を付け、真ん中に?を書いた。それを見ながらニッコリとほほ笑むと、机のわきのコーヒーカップを手に取った。
「あら冷えてる。先生にもコーヒー入れましょう」
と恵子先生は僕のコーヒーカップも持ち、職員室の隅にあるポットに向かった。
「濃いめのブラックでいいですか?」
「はい、よく御存じで」
「いえ、私が甘くてミルクたっぷりじゃないと飲めないお子様なので、大人だなぁっていつも思ってたんです」
僕はコーヒーを受け取りながら、こう言った。
「ありがとうございます。で、この侵略って単語ですけど、どうしてこういう印象なんでしょうね」
「あの子たちが受けとる情報が、”侵略”に関しては、映画とかマンガがほとんどだからではないでしょうか」
「侵略物って多いですよね」
「ええ、そう思います」
「僕はね、ウルトラセブンのせいだと思うんです」
「ウルトラセブンって、あのウルトラセブンですか?シュワッチって」
恵子先生は両手を十字に組み合わせて、スペシウム光線のポーズを取る。先生、それセブンじゃなくてウルトラマンだけど、かわいいからそのままにしておこう。
「ええ、そのウルトラセブンです。先生が生まれる前、ひょっとしたら先生のお父さんが小さいころに見ていたんじゃないかという古いテレビ番組です」
「あの、怪獣とかでてくるんでしょう?」
「そうですが、番組の根幹が”異世界からの侵略者との戦い”なんです」
「へええ、全部がなんですか?」
「ええ、ウルトラマンとは別の考え方で作られたんです。それも、今では考えられないくらい熱心に」
「先生、その、ウルトラセブンのファンなんですか?」
「一応、ファンというか、趣味というか、研究しているというか」
「え、研究ですか?すごいですね」
「い、いや、まあ、その非常に興味がありまして」
「ふううううん」
恵子先生は、興味深げに僕の顔を見つめた。と思うと、急に微笑んで、
「意外です。そうなんですか。ウルトラ…セブン」
「宇宙には、悪い宇宙人ばっかりで、地球はいつも狙われていると」
「ちょっと偏見じゃないでしょうか」
「そう。なんだけど。傑作揃いで、今見ても面白いんです」
恵子先生は、ちょっと面白くなさそうに、頰を膨らませている。
「でも、宇宙人が侵略者だって言うんでしょう」
僕は、恵子先生の顔を覗き込み、頭の上の外れかけているバナナクリップのあたりを、ポンポンと軽く叩いた。
「恵子先生、どうして侵略って言葉を生徒に書かせようと思ったんですか?」
「あの、ちょっと興味あるというか、気になるっていうか」
「僕は、侵略って言葉に興味があるっていうところに、興味がありますね」
恵子生生は、目を丸くして僕の方をじっと見ている。
「え、どういうこと」
「いや、侵略なんて言葉、特殊なSF映画を見たりしないと、気にならないんじゃないかなぁ、と思ったもんですからね」
恵子先生は、左に小首をかしげている。
「でも先生は、侵略って興味があったり研究したりしてるんでしょう?」
「でも、恵子先生がSF映画見るっていうのも、変な気がするんですけど」
恵子先生は、落ち着かない様子で机の上にあるコーヒーカップを持ち上げた。
「恵子先生、そのコーヒー、もう冷めちゃってますよね」僕は、恵子先生の横に置いてあるコーヒーカップに視線を投げた。恵子先生の手は、カップを持って行く途中で止まった。
「熱っ」
恵子先生はコーヒーカップを、手から落としてしまった。しかしコーヒーカップは、そのままますぐ机の上にゆっくりと降下し、コーヒーはこぼれなかった。それを見てにっこり笑う恵子先生に、僕も微笑みかけた。
「悪い宇宙人なんて、地球にやってこないですよねぇ」
恵子先生は机から立ち上がり、すっかり暗くなってしまった窓から外を眺めた。
「先生は、どうして地球に宇宙人がやってこないと思うんですか?」
僕も窓際に立って、夜空を眺めてこう言った。
「だって、地表に降り立つ必要なんて、ないじゃないですか」
「周回軌道から、観察するってことですか?」
恵子先生は、右手を上に上げて大きく左右に振っている。
「そう、周回軌道から観察用のプローブを降ろしたり、観測装置を着陸させたりするのが、普通だと思うんですよ。時には物好きな研究者が地表に降り立つこともあるでしょう。でも、乗っ取る目的で来ないとは思いますけどね」
「どうして?」
「だって、こんな平凡な星、そこいら中にあるじゃないですか」
恵子先生は窓から僕のほうに向き直り、僕の目をまっすぐに見つめた。僕も恵子先生をまっすぐに見つめ返した。
「ええ、ほんとに平凡な星だと思いますよ。住んでる人たちは宇宙には悪い宇宙人がたくさんいる、と思ってるみたいですけどね」
恵子先生はゆっくりと、僕に言った。
「先生は、いくつの星をご存知なんですか? 」
「結構たくさん知っている、で良いでしょうか。この星の住民が、ほとんど人畜無害って事は分かっているんですけどね、僕の経験則から」
僕は、恵子先生の大きな瞳を、しばらく見つめていた。
「まぁ、周回軌道から遠隔操作で調査をするっていうのも、わかります。わざわざ重力井戸の底に降り立つコストは高いですから。でも、調査としては手薄かもしれません。その希薄な情報から、地表の生物を全部焼き払うって判断するのも、問題かと思いますが」
恵子先生は僕の方に一歩踏み出して、こういった。
「先生は、どこまでご存知なんですか?」
「宇宙には、悪い宇宙人はいないって言う事ですよ。あえてアドバイスするなら」
僕は宇宙を指して言った。
「悪い宇宙人はいないという番組を作ったらどうですか?単純なここの人たちは、それで宇宙には友好的な生命体で溢れてると、思うようになるでしょう」
「その番組は、ウルトラセブンみたいな?」
「そう、センスオブワンダーに溢れた、楽しい作品でね」
恵子先生は、自分の椅子に座って、紙の束を手に取った。
「侵略って言葉が、この辞書の定義で違和感がなくなるのね」
僕も椅子に座り、頷いた。
「そうだと思います。それくらい影響力のある番組を作らないといけませんが」
と言いながら、紙束を熱心にめくっている恵子先生の頭の、バナナクリップを外した。
恵子先生は、紙束を持った姿勢のまま、机に倒れこんでしまった。そのまま、軽い寝息を立てている。僕の手元には、黒いバナナクリップがある。そのバナナクリップの輪郭が少しぼやけ、軽く振動した。僕は、こう思った。
「これは、ウルトラセブンみたいじゃないか」
すると、
(衛星軌道へ移動する兆候→他星系への汚染可能性→調査。有害認定→惑星表面→生命活動停止予定。最終調査中→情報受理→最終回答変更中)
という様な絵とも字ともいえない情報が、僕の頭の中に浮かび上がってきた。たぶん、目の前の振動しているバナナクリップから、何かが発せられているのだろう。
僕は、あえて声を出した。
「あなた方がどちらの星系からいらしたのか、僕は知りません。まあ、知りたいとも思いません。ただ、たまたま宇宙船の故障で近くに来たついでに様子を見て、妙に興味を持った星で。物好きなことに惑星表面まで降りたって調査していたところなので。こわされるとつまらないんです。僕みたいな半不時着者も侵略者って言いそうな、この星の人たちはちょっと危ないかも知れません。それに、悪い芽は早めに摘んだ方がいいと言うのにも賛成です。それに殲滅するのなんて簡単ですよね。今、僕にだってできます。でも、もうちょっと見てみたいんですよ。この星」
(そちらの情報量→充分。最終結論→延長。状況監視→そちらに依頼。)
「ありがとうございます。しっかり監視してますから、長い目で見てやってください」
(いつから→監視。)
「この星の時間単位で50年前からです。そうです、ウルトラセブンが始まったころです。見えない宇宙船がウルトラセブンに破壊された頃から、ずっと見てました。僕の宇宙船も基本見えないシステムですから」
(帰還する。頑張れ→諸星先生)
「ええ、続けますよ。このボランティア。誰も知らないんですけどね」
僕の手の上から、バナナクリップが消えて行った。上空をまわっている僕の宇宙船から、月軌道付近から大型の宇宙船が遠ざかっていくという情報がやってきた。さようなら、どこかの星からの侵略者さん。
僕は職員室を出ていくときに指をパチンと鳴らし、恵子先生が目覚めるのを確認して外に出た。
「さて、この学校でのボランティアも終了か。僕は、また他の街へ風来坊として、侵略者さんのプローヴを探しにいかないと。恵子先生さようなら。アンヌ隊員に似て可愛かったんだけどなぁ」
僕は、校門前から乗ったバスを、街を見下ろす丘の上で降りた。街を見下ろしながら、いつものセリフを、黄色いジャンパーを大きく振り回しながら、町に向かって投げかけた。
「宇宙人がなぜ地球上に来ないか、知ってるかぁぁぁぁ」
やまびこも帰ってこない。
「それはぁ」

「上から降りてくるのがめんどくさいからだぁぁぁぁ」


静寂を背に、僕は街を後にした。


librosさんのコメント
素敵な作品をありがとうございます! 感想は後ほど書きます。

a-kuma3さんのコメント
メトロン星人を思い出しました

たけじんさんのコメント
卓袱台はありませんけどね

librosさんのコメント
冒頭、人物&状況設定を説明がましくなく読み手に把握させる技量が素晴らしいです。 一方で、説明的文章が少ないために、私の読解力ではわかりにくい箇所もありました(なぜ突然カップが熱くなったのか、とか)。 折りしも10月1日はウルトラセブン放送50周年だそうですね。悪い宇宙人ばかりじゃない、夢のある番組をぜひつくってもらいたいです。

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