未発表オリジナルの創作小説・イラストを募集します。
選考の結果、最も優れた作品には200ptを差し上げます。
応募者全員に共通する課題テーマは「萌え」(具体的には、少なくとも一人は美少女キャラが登場すること)、課題モチーフは「夏」「上/下/同級生」「転校生」「委員長」「女教師」から選択(複数可)してください。
400字程度(プラスマイナス一割程度の誤差は可です)の日本語文章、または最大400kb(マイナーなデータ形式はなるべく避けてください)の画像・音声・動画等を、回答で掲示(画像などはリンクで可)してください。
投稿作品は「萌え理論Magazine(http://d.hatena.ne.jp/ama2/)」または「萌え理論Blog(http://d.hatena.ne.jp/sirouto2/)」へ転載するかもしれないことを予めご了承ください。
創作物の紹介ではなく、書き下ろしでお願いします。他人のコピペは回答拒否のペナルティ。
その他細かい事項はhttp://d.hatena.ne.jp/ama2/20060825/p1を参照してください。
『星座の名前』
たんぼの中の一本道。
私は濡れた地面をよけながら歩く。
「あれは?」
マコトが夜空を指差す。
「えーと、はくちょう座かな」
私は、先生が教えてくれた星座の名を答える。
「じゃあ、あれ」
「えっと、さそり座?」
首をかしげた瞬間、つまづいた。
先生は星座の名前も、算数の公式も知ってる。
でも、私の怖がりの部分は知らなかった。
二人きりの教室にマコトが入ってきた時、私は息が出来なかった。
土の地面。
長い髪が夜空をさえぎる。
私の手は汚れていた。
マコトがしゃがみ込んだ。
「……ごめんね」
私はそうつぶやく。
どうして、マコトじゃなかったんだろう?
稲の葉がざわざわと音を立てる。
マコトがぎこちなく私の手を握った。
「何も、変わらないから」
女の子みたいな声。
でも、はっきりと強い声。
突然、胸に熱いものが込み上げ、涙となってあふれた。
「あ、れ……?」
マコトがそっと私の頭を抱く。
恐怖とか、温もりとか、誰かを好きな気持ちとか、私の抱える訳のわからない全部が、次々にあふれては落ちた。
私はマコトの肩に頭を押し付けたまま、声をあげて泣いた。
とりあえず萌えというのがよくわかりません。
しかも見事に文字オーバーです。
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タイトル:「いづれの山か、天に近き」
「讃岐くん、補習ねー」
苦手な古典の授業、相当勉強したはずなのに、大田センセーは無情にもオレの夏休みに死刑を言い渡した。
「補習の最後の日にテストするからー」と、笑顔で分厚いプリントを手渡されたのが夏休み前日。頭から湯気を出しながらのテストが終わったのが、今。
センセーは無駄のない動きでオレたちのテスト用紙にチェックを付けている。
「テストをー、これから返しまーす」
のんきに間延びした声が、ランダムに名前を読み上げていく。
「讃岐くーん」オレの番だ。
テストを受け取る瞬間、怖さに目をつぶった。汗まみれの手が、ひんやりしたセンセーの手にぶつかる。
「きゃ」センセーの小さな声が聞こえた。慌てて目を開く。
…目の前に映るのは、「89」点。…やった!
ついガッツポーズを取るオレに、センセーは満面の笑みで小さく告げる。
「きみ、最下位よ」
次の日オレとセンセーは一日中視聴覚室で二人っきりだった。
果てのない暗記カードの山にまみれて。
(終)
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やっぱり萌えというのがよくわかりません。
作品が400字制限なので、今回から講評は200字制限にします。最初の作品。文字数は完全にセーフです。「山」は伏線でしょうが、オーバーなタイトルの割りに補習を受けるだけの展開でやや羊頭狗肉ぎみですね。想定の範囲内な描写はなるべく省略して「汗まみれの手が、ひんやりしたセンセーの手にぶつかる。」といった印象的な部分を際立たせましょう。
『星座の名前』
たんぼの中の一本道。
私は濡れた地面をよけながら歩く。
「あれは?」
マコトが夜空を指差す。
「えーと、はくちょう座かな」
私は、先生が教えてくれた星座の名を答える。
「じゃあ、あれ」
「えっと、さそり座?」
首をかしげた瞬間、つまづいた。
先生は星座の名前も、算数の公式も知ってる。
でも、私の怖がりの部分は知らなかった。
二人きりの教室にマコトが入ってきた時、私は息が出来なかった。
土の地面。
長い髪が夜空をさえぎる。
私の手は汚れていた。
マコトがしゃがみ込んだ。
「……ごめんね」
私はそうつぶやく。
どうして、マコトじゃなかったんだろう?
稲の葉がざわざわと音を立てる。
マコトがぎこちなく私の手を握った。
「何も、変わらないから」
女の子みたいな声。
でも、はっきりと強い声。
突然、胸に熱いものが込み上げ、涙となってあふれた。
「あ、れ……?」
マコトがそっと私の頭を抱く。
恐怖とか、温もりとか、誰かを好きな気持ちとか、私の抱える訳のわからない全部が、次々にあふれては落ちた。
私はマコトの肩に頭を押し付けたまま、声をあげて泣いた。
記述が透明で正確なのでスムーズに読めます。「星座の名前」から夏の澄んだ夜空を想像できます。地面に転ぶまでの間に回想を挟み、「長い髪が夜空をさえぎる」「私の手は汚れていた」で、この場に不在の先生との関係を暗示し、星座のような三角関係が物語の幅を広げます。情景描写が常に内面を反映していますが、その中でも特に、瞬く星とこぼれる涙の重ね合わせも美しいイメージを描きます。結晶のように鮮やかな作品。
タイトル:後輩潰し
「いい? これは先輩命令。絶対、顔動かしたら、あかんよ」
誰もいない教室にて突然僕と向かい合い、僕の頬を両手で押さえて先輩は言った。急な出来事に、僕は目を泳がせる。しかし、逃げた視線の先には、彼女のふっくらとした唇があるのみだった。
「せ、先輩?」何とか絞り出した声は緊張でうわずっている。
「先輩、確か彼氏いるっすよね? 一体何でいきなりこんな」
「……しぃっ」
頬に触れていた左手のひとさし指を僕の唇へ当て、彼女は「静かに」とささやいた。
「もう一度言うわ。顔は動かさない。もちろん口も」
僕は黙ることしかできないようだった。
左手の位置を再び頬に戻し、ゆっくりと顔を僕へ近づける先輩。ああ、もうどうとでもなれ!
ぶちゅう。
ニキビの潰れる音が聴こえた気がした。僕の頬にできたニキビが。
「んっふっふっふぅ」
先輩の妙な笑いが目の前から聴こえてくる。
「こんなに潰しがいがありそうなニキビ、ウチの彼氏の頬にはできへんからなぁ」
(終)
コメント欄に誤爆したかもしれません。していたらすいません。
ドキドキシチュエーションと誤解させるパターンです。連載型の作品でそういう場面があるのは微妙なスパイスになるんですが、超短編はそれしかシーンがないので、「なーんだ」で終わってしまう危険性もあります。特に今回の場合は「彼氏」がいるのでニキビと一緒に希望も潰されています。その落胆が「後輩潰し」なのでしょう。が、どうせガッカリ落ちなら、途中で「彼氏」は書かない方がオチの衝撃が増すのではないでしょうか。
タイトル『それはちょっと違うと思う』
「翔ちゃんを殺しちゃった。どうしよう。裏山に早く来て」
僕が幼なじみ兼お隣さんのミサエ(仮名)からの電話を受けたのは夏休み最後の日の夜。外は大雨だった。
ミサエ(仮名)の彼氏にして俺の親友の翔ちゃんはかなりの美少年で、ミサエ(仮名)は流行のツンデレ美少女。二人はパッと見ではお似合いのカップルだった。
しかし実際翔ちゃんは浮気三昧で、ツンデレなだけに本州一キレやすいミサエ(仮名)の部屋から夜な夜な包丁を研ぐ音が聞こえてくるようになるにつけ、これは翔ちゃん殺されるぞと思っていたのだけど、本当に殺されるとは思わなかった。かわいそうな翔ちゃん。恐るべしツンデレの「ツン」。
裏山に着く。雨に濡れたうなじと透けた下着と血まみれの右手がいい感じのミサエ(仮名)は翔ちゃんだったモノを抱きしめて泣いている。これがツンデレの「デレ」か。ミサエ(仮名)は僕が近づくのにも気づいていないだろう。
何だか気分が良い。
ここに来るまで二人を別々の所に埋めるつもりだったけど、同じ所に埋めてあげることにしよう。二人とも本当に仲が良いんだね。
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458文字。ベッタベタです。規約に違反してたらごめんなさい。
普段ダイアリで文章は書いていますが、小説(もどき)を書くこと、しかも萌え要素を入れて書くことは私の中で割とニューだったので、なかなか新鮮でした。噂の萌理賞に参加できて良かったです。
衝撃のラストシーン。軽い語り口は常套手段。しかし、殺すパターンは、インパクトが強くなりますが、同時に非現実的になりやすいです。今回の場合、オチは強いが動機が弱い。「実は保険金が~」とか外的事情を除いて、例えば「俺・僕」(女もありうる)が翔を好きだったとは考えられます。その場合、「同じところには埋めてあげられない。翔ちゃんは僕のものだから」と死体に執着した方が、殺した動機が納得できます。
20字で切って句読点はブラ下げてあります。
12345678901234567890 -------------------- 「コータのヤツ、水島にコクられたよ」と前 の席の田中が校庭のサッカー部を眺めて言う。 おれは数学の罰テストと格闘中。田中は「学 年一位で主将。美人女子ゲットか。あやかり て~」と続く。「おまえは? おれと同じで コクられはしなくても、好きなコくらい…」 おれが少しイラつき首を横に振ると「この 組イイのが揃ってんのに。どんなのがタイプ よ?」と顔を覗き込んできた。おれは睨みつ け溜息をつく。「別に女なんて…強いて言う なら微笑んだ顔がかわいいヤツかな」 答えを聞き田中は大笑いしだした。鞄を掴 み「女は胸だよ!」と教室を出て行く。おれ はふくれて問題を解き終え、教卓に向かった。 「ごめんな。放課後に待たせて」と言うと、 教卓で本を読んでいた委員長は顔を上げた。 「ううん。係の仕事だもん」と答え、メガネ を少し気にしてから、にっこりと微笑んだ。 「山下クンのそういう気遣い、スキだな…」 彼女の頬の赤みは残暑の熱気のせいだろうか。 --------------------
文字数は一割くらい増減しても全く構いません。読める範囲での文章の整形も自由です。さてこの作品、脇役の田中がメインになってしまいました。自分の好みを語るだけではドラマが生まれません。物語を動かすには、ただ思う・語るだけでなく、人物を行動させましょう。「ごめんな。」から始めてしまってもいい感じです。重要なのは彼女との関係で、ただでさえ字数が少ないから、そこをメインに描きたいところです。
『い能力部』
部員は僕と笹木の二人だけ。
「私たちは、選ばれた人間なのよ!」
笹木はメガネに手を添えながらいつも宣言する。
笹木の『メガネが曇らない』能力は、寒い所から暖かい所に入ってきてもメガネが全く曇らないという能力である。
「これはつまり『温度の固定』ってことよね。レンズを絶温してるってこと」
それでも笹木は前向きだ。二人だけのこの部が今在るのも委員長を地でこなす彼女のおかげである。
「私たちの能力にはきっと先がある。大事なのはルールと仕組みを理解すること」
僕の『テレビのリモコンを見つける』能力も、僕自身には便利なのかよくわからないのだが、笹木は褒めてくれる。
笹木はいつも真剣なのである。
「委員長、新しい能力が見つかったみたいなんだけど」
「ホ、ホント!」
「ちょっと、もっとこっちきて」
「うん、うん」
「あのさ、前から思ってたんだけど」
笹木の真剣な目を見る。
「やっぱり、すっげー可愛い」
笹木の顔が文字通り真っ赤になった。
「どうだろう、この能力」
今度はメガネまで曇った。おお、新能力だぞ、笹木。
(おわり)
大友克洋的スーパー超能力大戦へのアンチテーゼと、吉田戦車的な日常の不条理四コマの台頭の流れに、「それほどすごくない超能力」ネタは属しているでしょう。少しの設定で独自のキャラが産まれるので、きわめて短編向きのネタと言えます。しかし、まだ工夫の余地はあります。例えばメガネなら、相手の気持ちが分かるとか、リモコンなら、彼女の感情も操作できるとか。やりすぎると単に「すごい超能力」になってしまいますが。
タイトル:こうちゃんといた夏。
夏休み。部員の交流を深めるためという名目で、とある海岸に来ていた。
俺は後輩のこうちゃんの元へと行った。
「こうちゃん!」
俺は彼女に話しかける。
「あ、先輩。これは…砂遊びです!」
「まだ何も聞いてないし。しかも見れば分かるし。ただ、何してるのかなーって思ってね」
「えっと、お城を作ってたんです」
「楽しい?」
「はい!」
彼女は満面の笑みと共に答えてくれた。
夜はみんなで花火をした。
「わぁ~。きれいですね。先輩!」
「そうだね。でも、こうちゃんの方がきれいだよ」
「先輩、私に火をつけちゃイヤですよ?」
「あ、ああ。そうだね」
俺はちょっと戸惑いながら答えた。
部員同士の交流なんて名目に過ぎない。
真の目的は、この場で好きな人に告白するというものだ。
俺は先輩の口車にのってしまった形なのだが…。
俺はこうちゃんを呼び出し、「付き合って下さい」と、彼女に告げた。
彼女は笑顔でこう答えてくれた。
「いいですよ、先輩。それで、何に付き合えばいいんですか?」
と。
「天然か計算かイマイチ分からない女の子」は、一つの人物類型です。ただ、設定は中高生くらいでしょうが、小学生でも部活はありえるので、単に幼い可能性も残ります。「先輩、私に火をつけちゃイヤですよ?」と「何に付き合えばいいんですか?」のアンバランスさや、それをグダグダ説明しないのは良いセンスですが、取り残されたような読後感もあります。細かいですが、最後の「と。」は意図がないなら削っても構わないでしょう。
『もっと夏への扉』
夏休み、先輩に「二人っきりで話したいことがあるの」と呼び出された。先輩の家に着くと、彼女は満面の笑みを浮かべ、「これから第四百とんで五十一回ガマン大会を開催しますっ!」と言って、俺に褞袍、襟巻、毛絲帽などをやり手マヌカンの要領で着せる。騙された。初めて入る先輩の部屋は、全身の毛穴が開くほどに蒸し暑く、中心には季節外れのコタツと土鍋。「先輩、これ……」「さぁ、いよいよ決勝戦。最終種目は鍋焼きうどん早食い対決です、どーぞ!!」先輩は初めてサーカスを見る子供のような目で俺を見てる。俺はただただ食べた。何で対決なのに、食ってるのは俺一人なんだろう? 数十分後、どうにか完食すると「美味しかった?」もう何も言うまい。「シャワー借りて良いすか?」「Hなことする気?」黙れ。無理矢理シャワーを借り汗を流して、部屋に戻る「優勝者の貴方には私手編みのマフラーと帽子を差し上げます。ちゃんと新学期から使ってね」そう言って先輩は先ほどまで俺が着けていた襟巻と毛絲帽を恥ずかしげに渡す。もう何も言うまい。
なにげに題名が凄い。この作品の二割位の価値がタイトルにありますね。さて「夏」というテーマに真っ向から挑んでいる作品。他の人は使わない「コタツ」とかの単語が目立つのが強みです。「とんで」がとんでないとか小ネタも多く、「やり手マヌカン」「初めてサーカスを見る子供のような目」など言語感覚も楽しい。「何で対決なのに、食ってるのは俺一人なんだろう?」とか、ノロケすれすれのユーモアも、嫌味がなく良い感じです。
タイトル:委員長崩し
http://www.jtw.zaq.ne.jp/cfedh601/00/mm.html
課題モチーフの委員長と夏でブロック崩しゲームです。
このような形式でも大丈夫でしょうか…?
不可ならばイラストとして審査お願いします。
形式はOKですが、爆裂健のJAVAアプレットなので、プログラム部分は評価の対象にはならず、イラスト2枚と脱がす過程が、実質的な審査の対象です。そのイラストですが、脱がしても靴下は履いたままなのが重要ポイントですね。ただスク水に合わせて紺のハイソックスの方が、萌え度がグッと高まります。しかもその方が委員長キャラに合ったコスチュームでしょう。淡い塗りですが、水着の質感は出ています。可憐な絵。
『死が二人を結ぶまで』
-- 溶明
「だーかーらー、別に割り勘でいいって言ったのに」
(だって、あんたはまだ高校生のガキじゃないの。見栄張りたいのはわかるけど)
-- 綿飴の残り香
「でもさあ、最初は驚いたよ、実習生として姉ちゃんが来るなんて」
(いつまで私の事をそう呼ぶつもりなんだろ。慕ってくれるのは嬉しいけど)
-- 遠く聞こえる花火の音
「それにほら、こんなに可愛くなってるし」
(バカ、こういう時は綺麗になったって言うものでしょ? 全くこいつは)
-- 祭囃子から遠ざかる二つの足音
「実はさ、あのときはショックだったんだよ、大学に行くのに地元を離れるって聞いたときは」
(こいつの家の事は知っていたし、同情しなかったわけじゃないけど)
-- 何度も通った、だけど見知らぬ道
「みんなさ、俺から離れていくんだよね。なんでだろ」
(ああそうか、わたしがわざわざ戻ってきたのは)
-- 足元の蟻地獄 / 頭上の蜘蛛の巣 / 誰も知らない表情
「もう、離れちゃダメだよ?」
-- 溶暗
台本調の書式。「わたし」が常に内語で語るのはこの場合、「姉ちゃん」のような俯瞰的な視点を示しています。そのように内容と形式はだいたい合っているとは思いますが、題名や「蟻地獄」「蜘蛛の巣」といった象徴的細部が仰々しくて、「だーかーらー」など軽い口調と今ひとつ噛み合いません。何か事情があるのは察せられますが、あまり深刻な様子に見えないですね。会話での描写は工夫の余地がありそうです。
『萌理委員長熱く語る』
「――お付き合いする為、私に萌えてもらおうと考えました。萌えとは何に感じるか? 色気より清楚、堂々より怖々、大型動物より小動物。私は様々な例から、一つの傾向を帰納しました。萌えは可愛さ切なさ愛おしさ庇護欲などを含みますが、総じて弱みに対し生まれる感情! 私が失敗すれば、貴方は萌えるはずです! と本人に言ってしまうドジ、これは萌えでしょう」
眼鏡を光らせポーズを決める彼女。
どうしようもなく、僕は思いついた事を言う。
「狙ってやったら弱みじゃないんじゃ」
それに彼女は
「あっ」
と絶句した。
だが数秒後、
「って、今の失敗萌えたでしょう」
と同じポーズで言い放つ。
「それ言ったらさっきと同じだし」
「えっ」
再び絶句するが、やはり数秒で戻る。
「今のも萌えでしょう! これは永久循環です。素直に萌えるか、私の努力が失敗した事に萌えるか。いずれ貴方は私に萌えるしかありません!」
「なるほど」
とりあえず同意して、
「でも萌えたって付き合いたくなるとは限らないし」
「!! ……そんな……って……ぇう、うぁ……うぐぁぁ」
その泣き顔が好みだったので、僕は彼女と付き合うことにした。
(本文469文字)
基本的にメタ萌え系はあまり高く評価しませんが、この作品の場合は、単体でキャラが立っているのと、身内でないと理解できないネタではないので、成立しています。ただ、既に告白されている優位な立場に立ってキャラをいじるパターンは、展開の緊迫感がやや欠けます。冒頭の演説はさほど意外ではないのでもう少し省略して、ポーズはどういうポーズなのかとか、委員長の類型に頼らず、もう少し描き込んで欲しいところです。
『小谷さん』
「イガワくん、あれ、どうしたの? すごかったね!」
ふいに小谷さんが笑顔で話しかけてきて、びっくりした。
3年間、同じクラスで過ごしてきた。1年のときから、かわいいなと思っていた。でも、それだけだった。隣の席だったとき、「イガワくん、数学でききたいことあるんだけど」って彼女のノートを見せてくれたり、クラスコンパでカラオケがはじまったとき、「ねえ、イガワくんも歌ってよ。イガワくんの歌、聴いてみたい!」って笑いかけてくれたり、それだけだった。でもそれだけで、ぼくは嬉しかったんだ。
「うん、まあ。なんか、浮いちゃったよな……」
後夜祭ステージで、ぼくは友人と飛び入りコントをやった。全校にはそこそこ受けたんだけど、普段静かなぼくがやったものだからクラスのみんなは冷めた目でぼくを見ていた。
「えーすごく面白かったよ! 隠れて練習してたの?」
3年間、ずっと彼女の笑顔があったような気がする。あとから人づてに聞いたんだ。彼女の妹さんのこと、家族のこと。なんでぼくはもっと話をしたり、聞いたりしてあげられなかったんだろう。
「じゃまたね、イガワくん!」
(465字)
「じゃまたね、イガワくん!」が切ない作品。物語の序中盤は平凡ですが、最後の「3年間~」の部分に、この作品の三割…いや半分以上の価値がありますね。後悔する結末は読後感が良くないのですが、その分印象に残るという面もあります。「冷めた目」とか全体的に写実的ですが、特に最後の台詞は、「喧嘩するほど仲が良い幼馴染」みたいなまんが・アニメ的キャラの逆で、(非モテ的には)リアルだと思います。
「盗まれた手紙は二度届くか」
「重そうですね」
竹で編まれた大きな籠は背負っている彼女自身が収まりそうな程に大きい。中にはさまざまな形や色をした封筒が入っている。
「そうでもないよ、これの重さは感じないように出来てんの私。だからお気遣いなく」
出来れば手伝いたかったのだけど先輩に先回りされてしまった。
「届ける相手が見つからないときはどうするんですかこれ」
「大丈夫、ラブレターに直接触れば相手の居場所がわかるから。だから君も安心していいよ」
そういってにっと笑った。
「ただ例外もいくつかあって、例えば相手が亡くなった人とかだとどうしようもないんだけどね。その場合は宛先不明として差出人のところへ届けるんだけど、あれだけはいつまでたっても慣れないなぁ。」
「僕の出した相手はとても元気なので大丈夫ですね」
籠に目をやる。この町で配り終わると彼女は転校していく。ずっとそれの繰り返しだ。はたして恋文神へのラブレターは届くのだろうか。
ラノベ的で特徴的な設定が面白いですが、「設定だけ」でドラマが展開しない。届ける相手について説明する部分がくどく、やや理に落ち過ぎている感じがします。『デスノート』も細かいルール設定が面白いわけではないでしょう。ごく素朴に、手紙が届くのか、願いは叶いうるのか、という辺りが気になります。恋文届けが死神のような超越者なのか、ただ趣味でやってるのかで違いますね。「恋文神」が比喩なのかどうか。
またまたよろしくお願いします。改行なしで400字。
『先輩ヒドゥンレター』
「先輩、今度映画見に行きませんか」
コードを書いてる時にタクヤがそんなことを言ってきたので、からかってやることにした。
飲んでいた缶コーヒーを机に置く。コツンと音を立てて。これが合図。
「いやじゃないけど。簡単にうんとはいえないわね」
「いじわる言わないでくださいよ。どうすりゃいいんです?」
「わたしとデートしようってんだから、覚悟してるんじゃないの?」
「よりによっておれも大変な人を好きになったもんだな、降参です」
よし、うまくいった。缶コーヒーを口へ運ぶ。コツンと音を立ててから。
「わかった?あたしの気持ち」
「え?」
「少し考えればわかるわよ。これ飲んでいいからね」
あたしは缶コーヒーをモニタの前において立ち上がる。タクヤは不思議そうな顔をしている。
気付くかしら。今の会話モニタに表示させといたんだけど。
部屋を出てドアに寄りかかって部屋の中の声に耳を澄ます。
「縦読みかぁ!」
よしよし、それでこそあたしの後輩。
題名や縦読みは面白いですが、反面それだけという印象もあります。基本的には小噺より物語の方が評価は高いです。「コード」とあるので、PGやSEのようなIT系の職業でしょうか。応募規定に鑑みても、「あたし」はほぼ女性に決まりですが、女性PGならかなり貴重な存在なので、その職業の特有の描写が一つ二つあると印象に残りますね。PCだけでも、キーボードを打つ細い指についてとか、書きようがあるわけです。
「委員長に抵抗あり!」
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沢山の衣装に囲まれて、彼女は更衣部屋で泣いていた。
「やっぱり、できないよ」
理佳という名の彼女は、それだけ言うとまた泣き出してしまった。俺は、理佳に寄り添うように床に座った。
俺が理佳を撮影モデルにしてから、半年ほどが経っていた。彼女は毎回、少しの小遣いのためにコスプレ用の衣装を着て、俺がそれを撮影する。今日は、彼女が以前から嫌がっていて最後に回していた、「委員長」のコスプレ衣装を着させようとしたのだが、やはり気が進まないようだった。
俺は俯く理佳に、優しく声をかけた。
「今まで、理佳は何を着てもよく似合ったし、衣装を引き立てる素晴らしいモデルだった。けどな、俺はいつの間にか、衣装よりも理佳自身を見るようになっていたんだ。どんな衣装を着るよりも、ありのままの理佳の方が可愛くて、綺麗なんだ。だから、今日はもう衣装を着なくてもいい。それよりも、俺の彼女になって欲しい」
少し間があって、彼女は俺の方を向いて、微笑みながら答えた。
「タダなら良いわよ」
理佳が俺を部屋の外に締め出したのと、部屋の中からかすかな衣擦れの音が聞こえたのは、ほぼ同時だった。(了)
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今回も2割オーバーという感じです。
眼鏡委員長という類型が多い中、コスプレとカメラという設定は面白いです。ただ、委員長の衣装はただの制服だろうから、そんな抵抗があるのかとは思います。別の何かでも構わないけど課題だからそうしたという。あと台詞でガクンと精神年齢が下がる印象です。特に「タダなら良いわよ」という台詞! 即物的でロマンがないことこの上ないですね。試しにこの台詞だけ削除してもう一度読むと、理佳が全く別のキャラになります。
"Her majesty"
「……なによ。助けてくれなんて誰も言ってないでしょ。お礼なんて絶対言わないんだから」
「なぁ、あの可愛い靴はどうしたんだ?」
「今は履きたくない気分なの! 裸足な気分なの! だからもうほっといて」
「隠されたのか。女子のいじめはインシツだよなぁ……。お前ももう少し転校生らしくクラスになじんだらいいのに」
「――クラスになじむっていうのは、偉っそうに女王面しているヤツのグループに従うって意味なの、この国では? それは初耳ね」
「そんなトゲトゲしなくたっていいだろ、少しだけ我慢すればいいんだから」
「ほらやっぱり。『我慢』なんじゃない。友達なんか居ても居なくてもいいけど――」彼女は力強く顔を上げ、透き通るような碧眼で彼のことをじっと見つめた。「私は私を失くしたりしたくはないの」
教室に差し込む夕日が彼女を照らし、緩やかに波打つ金の髪に光の輪を輝せる。それは彼女が頭上に戴く冠だった。
彼は彼女の前にひざまずき、彼女の素足にうやうやしく口づけた。その時彼は、彼女の足の指の爪、小さな一つ一つに何か光る液体が塗られていることに気がついた。
彼の唇の温度を感じると、彼女はそっと足をひいた。
(489字)
転校生のモチーフ。いきなり足フェチです。「時をかける少女」じゃなくて「足をなめる少年」ですね(これはひどい)。ペディキュア(足のマニキュア)より素足の方がいいと思うな。なんとなく。またこれもやはり海外の知識や描写が少しあった方が、単に読者が知らないというだけでも印象的になると思います。ひざまずくことで、それまでの立場が逆転するところに性的な享楽があり、結末が見所になっています。
例えば、清登とか、岡嶋とかと食堂でお昼を食べている時。
2組の古谷がゲーセンで不良とトラぶったらしいぜ。何したんだよ。なんでも、古谷は格ゲーなんてやったことないのに、不良の席に乱入して、レバーをガッチャガッチャ動かして、挙句に勝っちゃったんだってさ。したら、その不良が「ハメ臭いんじゃねーの?」って絡んできて。で、古谷が「あ、そうなんですか。私初心者なものでして」って答えたもんだから。ははは。、その不良がヒートアップしちゃって…。
五つ先のテーブルに、由紀が座っていることに気がついた。いつものメンバーと一緒だ。彼女はAランチを食べている。
目線が合う。
彼女がそっと微笑む。
キノウ ハ タノシ カッタ ネ。
僕は、ほんの少し、ほんの少しだけ頷く。
タノシ カッタ ネ。
数百人いる食堂の中で、一瞬飛び交う、秘密の通信。
そんな時だ。そんな時、僕は彼女をとても愛しく思うんだ。
「数百人いる食堂の中で、一瞬飛び交う、秘密の通信」が話のキモなんですが、何によって通信しているのかが不明ですね。アイコンタクトのような微妙なものなのか、ケータイのメールのように直接送るものなのか。全く関係ない話題を冒頭に振るという構成を含めて、独特の文体を形成していますが、字数が少ないのでもう少し通信を説明しても良かったと思います。二人だけが水面下で秘密の交流をするという題材自体は良いと思います。
『夏の終わり』
夏休み。午前の部活が終わり、体育館の壁を背に座って弁当を広げる。俺の隣には何故か妹の楓がいる。楓の隣には偶然楓を見つけた涼子先輩がいて、からかうみたくニヤニヤ笑っている。
「『お弁当を忘れて妹が届けに来る』なんて、ただの都市伝説だと思ってたよ」
「悪かったですね」
「いやいや、むしろいいもの見たって感じ」
「……きちゃだめだった?」
楓が囁くように聞いた。いまさら何を。ちらりと見遣ると、そこには否応なしに罪悪感を抱かせる涙目があって、途端、涼子先輩が睨みつけてくる。
「いや、助かったよ。ほんと助かった」
仕方なくそう言うと、
「ほんと?」
楓の顔がぱっと明るくなった。
「ほんとほんと」
「えへへ」
「うん、愛だね愛」
何言ってんですか涼子先輩。
「楓ちゃんには残りの夏休み毎日でも来て欲しいくらいだよ」
ほんと何言ってんですか涼子先輩。
「いいの?」
楓が勢いよく涼子先輩のほうを向いた。
「えっ? うん、あたしが許す! ……君ね、だめだよ。こんな可愛い子独り占めしちゃ」
「あー、卵焼きうめー」
意外なことに、「先輩と妹(の三角関係)」というモチーフはここで初出なんですよね。ヒロインが二人いるだけでも華やかに見えます。ただ、タイトルが平凡で、オチがやや弱いです。「あー、卵焼きうめー」ですっとぼけるのは、一風変わって面白い落とし方ですが、余韻が出ないですね。「妹の楓がいる。楓の隣には偶然楓を見つけた~」は「楓」が被りすぎですね。「妹の楓がいる。その隣には偶然彼女を見つけた~」で十分でしょう。
「彼女はずっと夕暮れの中に」
彼女がなぜそこにいるのか、私は聞かされていなかった。
ただそこへ行って彼女の話し相手をするのは歳の近い私の役目だった。
彼女に会ったのはその夏が最後だった。
座敷牢の格子の向こうで彼女はいつものように無邪気に微笑んだ。
持ってきた千代紙はお気に召したようだった。
生まれてから十六年間一度も外に出たことのない彼女は、歳よりも幼く見えた。
赤い着物に流れるような黒髪と薄暗い土蔵に浮かび上がる白い肌は、今も鮮明に覚えている。
それから程なくして空襲によりあたりは焼け野原となった。
土蔵を含め屋敷も焼失したが、焼け跡から彼女の亡骸は遂に発見されなかった。
彼女を見たという話を聞いたのは戦後のことである。
夕暮れ時に赤い着物姿の娘が街角に佇む姿を見たという人があとを絶たない。
場所は決まってかつて屋敷があった近くである。
私も夕暮れ時に何度かそのあたりを訪ねたが、ついぞ彼女に会うことはできなかった。
戦後六十年経った今も時折彼女を見たという話を聞く。
あの頃の姿そのままだという。
伝奇風の設定が魅力。赤は吸血の暗示? 説明不足か過剰かの判断はいつも難しいですが、彼女の正体をほのめかすのみで台詞もないのは、この場合良い選択です。ただ長大な時間を400字に詰め込み窮屈で、「夏」のモチーフが薄く、タイトルのスケール感が乏しい(「六十年の夕暮れ」とか)問題はあります。しかしそれらを差し引いても面白く、ミステリアスな少女は素敵です。前半で座敷牢に夕日が差し込む情景があったら完璧でした。
気がついたら磔だった。
「気がついたわね、魔学の尊い犠牲1号」
「えっ、先輩? これはどういう事ですか。デートは? 真夏のあばんちゅ~るは?」
「ごめんなさい。でもあなたが生きて終わるったら、ちゃんと続きをするから、ね?」
「待ってください死ぬ可能性があるんですか!」
「ありがとう。君が甘んじて尊い犠牲になってくれたおかげで、夏の大会はなんとかなるわ」
「なるって言ってませんよ一言も! 私を使って何をするつもりなんですかぁ!」
「簡単に言うと、夏の大会で勝てそうに無いから一気に冬にする」
「意味がわかりませんっ! 意味がわかりませんっ!」
「じゃあレッツゴー!」
「きゃああああっ」
「…」
「失敗しましたね」
「…」
「あんな邪念全開で大それた事をするからですよ」
「…」
「私、生きてますよね」
そこで先輩は、頭の埃を払いつつ。
「ちょっとだけよ?」
(終)
「気がついたら磔だった」。外連味のある冒頭は、短編では超OK! また「全会話型」ですが、軽いタッチなので構わないでしょう。ただ、題が欲しいのと、冒頭の勢いが結末で止まるのが残念です。
結局追加応募がなかったので、20人で選考しました。もうすぐ選考結果を発表致します。
記述が透明で正確なのでスムーズに読めます。「星座の名前」から夏の澄んだ夜空を想像できます。地面に転ぶまでの間に回想を挟み、「長い髪が夜空をさえぎる」「私の手は汚れていた」で、この場に不在の先生との関係を暗示し、星座のような三角関係が物語の幅を広げます。情景描写が常に内面を反映していますが、その中でも特に、瞬く星とこぼれる涙の重ね合わせも美しいイメージを描きます。結晶のように鮮やかな作品。