わたしはそっと二階から窓の外をみる。一台のセダンが停まる。そしてチャイム。担任の沢口先生だ。今日は学年主任の桐山先生もいっしょだ。わたしは、聞き耳を立てるが、みんなちいさな声なので、あまりよく聞き取れない。母子家庭の一人娘。もう学校に行けなくなっていくつも季節が変わった。そんなとき、ふいに、母のやや大きい声が聞こえてきた。「学校に行けんことがそんな悪かことですか」母は、興奮するとついふるさとの言葉遣いになる。「いえ、そういうつもりでは」「もうお帰り下さい。あの子をこれ以上苦しめんといてやってください」毅然とした母の声。わたしが、学校に「行けなく」なっても母はなにひとつ言わなかった。いままで通り接してくれた。「あんたはやさしいけん。かあさん、ようわかっとるよ」。「創作はてな」です。よろしければ、続きをお願いします。(方言の誤りはお許し下さい

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  • 終了:2006/11/13 18:33:48
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ベストアンサー

id:miyahiko No.4

回答回数36ベストアンサー獲得回数7

ポイント100pt

あんたはやさしいけん。母さん、ようわかっとるよ」


「・・・うん。」

私はそううなずいた。私が高校に行けなくなってもう半年以上になる。

なぜ私がこんな仕打ちを受けなければならないのだろう、と思う。


「母さんは、ずっとあんたの味方だよ」

いつも、そう優しく話してくれることが、唯一私の支えだった。


「・・・うん。」

私はまた同じように無感動にうなずき、自分の手で頬に軽く触れる。

母さんが心配そうに私の顔を見つめると、そのまま何もいわず、部屋から

出て行った。私は椅子から移動して、ベットに飛び込むとギシギシとゆれ、

止まる。


気だるそうに首だけ機械的に動かすと、壁にかかっている赤や青、黄色といった色とりどり

の紙くずを見つめる。それは鶴の形をしていた。最近学校から送られてきたものだ。

「こんなものが何になるっていうの?」

誰もいないところで独白した。


私は何度も、さめない悪夢のようにあのときの光景をオーバーラップさせる。

この傷を一生抱えていかなければならない。

私は、サッカー部のマネージャーだった。そして、学校対抗の練習試合のとき興奮のあまり、

ラインに立って応援したのが学校での最後の記憶だ。

その時、記憶しているのは「あぶない!」と誰かの叫んだ声だった。

私はその後気を失い、救急車で運ばれたらしいが私が次に覚えているのは、学校ではなく

病院の白い天井だった。隣で母さんが人目をはばからず泣いていた。


・・私に残されたものは、勝利の喜びでもなく、先輩の甘い誘惑でもなく、

全治1ヶ月という診断と、頬に残された3針ほどの切り傷だった。

傷は・・残るらしい。

運悪くボールが飛んできて、運悪く足から外れたスパイクが、運悪く私の顔面に

直撃し、刺さった。全て、計算されたような悪夢だった。


「死ね。みんな死んじゃえ。死ね・・」

憎い、憎い、みんな憎い、誰にもぶつけられない憎悪が

心からあふれ出すと容易に涙に変わった。

涙で足りない悔しさ、憤りは私に呪いの言葉を吐き出させた。

「皆なくなれ。皆死んじゃえ・・ぐっ・・うう・・」

私のいくらかの良心が憎悪と葛藤し嗚咽で足りない分は両手で思いきりかけ布団を

抱きしめさせた。お母さんにばれないように歯を食いしばって、顔に布団を押し付ける。

なぜ私がこんな仕打ちを受けなければならない。

私は呪いの言葉をひたすら吐き続ける。

そうすれば悪夢から目が覚めると確信しているかのように。

ーーーーーーーーーーー

目が覚めるとすでに日が傾いて夕方になっていた。

私はそのまま眠っていたようだ。

気だるい体をベットから起こし、空気を入れ替える為に窓を開ける。

「こんにちは。」

1階の玄関から、女の人の声が聞こえた。

パタパタとお母さんの足音がその後に続く。

しばらく沈黙が続いて

「あきちゃーん、なおこちゃんが来たよ」

という声が響く。

私は何もいわず、二階から降りてきた。

最近、付属大学長谷川研究所からボランティアで派遣されてきたという、

年上の女の子だ。

「こんにちはー。」

彼女は柔らかな笑顔で私に挨拶する。

私は何回かきてくれたその彼女に無言で会釈すると、そのまま階段を

のぼっていった。

彼女はもうすでに心得ているようで、私の後を追うようについてきた。

部屋に入ると、私はベッドに腰をかけ、彼女は椅子に座った。


お互いいつものように沈黙してしばし顔を見つめる。

何にもいわないわけにはいかないので私が口火を切る

「・・・今日は何ですか?」

どうしても、とげとげしくなってしまうのが自分でも解る。

しかし、彼女は全然意に返さず

「いえ、ちょっと顔を見にきただけなんですよー?」

と朗らかに答える。

彼女は、抜けているのか大物なのかわからないけど、

マイペースで少し浮世離れしたようなことを話す。

天然なのかもしれないが、少なくとも頭は良いのだろうと思う。

毒気のないニコニコしている顔を見ているとこっちも釣られそうになるが、

そこは反発しておく。

「あら、千羽鶴ですねー。」

彼女が振り向いた方向に、赤や黄色の鶴の形をした紙くずを見つける。

「違います。950羽しかありません。」

はき捨てるように言う。「38人で25羽ずつ折りました。皆待っています。

不服だったら広げて折りなおしてください。」

まるで人ごとのような手紙が一緒に添えてある。

何が千羽鶴だ。ましてや不完全の紙くずじゃないか。

「赤、白、黄色、青、まるで運動会みたいですねー。」

自分がもらったような口調で彼女が言う。

わけのわからないことを言うのは彼女の天然な部分なので、あえて

突っ込まないで無言で押し通す。

「あきさんは千鶴のいわれって知っていますかー?」

「いや、知らないけど・・お見舞いとかじゃないの?」

彼女は朗らかに

「佐々木 禎子さんが白血病の延命の願いを込めて始めたといわれてますー。」

「それで、彼女は助かったの?」

「残念ながら助かりませんでしたー・・。」

「・・・・・。」

この人は喧嘩を売りに来たのだろうか。

「でも、その願いは平和の象徴として、

 リレーのように人々に語り継がれていますー。」

とにこやかに答える。

「・・・・・。」

私はどう答えていいかわからなかった。

「私は、千羽鶴が在ることではなくて、作ることが重要だと思うんですよー。」

「・・・・・。」

私は、意味がいまいち理解できなかった。今はお店でも

買える物をわざわざ作るというのが。そもそも作ったから在るのだが。

「あらー。時間が過ぎてしまいましたねー。じゃあ、また来ますねー。」

マイペースな人だと思う。ただ、逆にかしこまったりしないでくれるので

私は彼女が好きだった。

彼女はいそいそと階段を下りていくと、お母さんに軽く挨拶して

さっさと帰ってしまった。本当にカウンセリングの人なのかどうか・・。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

夕食をテーブルで食べ終わった後、お母さんの食器を洗う

後姿を見つめながら、私は聞いてみた。

「お母さん、千羽鶴のいわれって知ってる?」

「ああ、あきがもらった鶴のこと?たしか室町時代から遊びとして

 広まったものらしいけんど、延命の為って聞いたことはあるよ?」

「そうなんだ。」

「いまはどちらかといえば佐々木禎子さんの方が有名じゃけん、

 願いを込めるということが大事なんかもしれんな。」

「・・・・・。」

夕方になおこさんが言っていたことを思いだす。

私が理解できなかった言葉を質問として言ってみる。

「お母さん、千羽鶴が在ることではなくて、作ることが重要ってどういう意味?」

お母さんが、皿洗いをやめ、こちらを振り向くと無言でこちらに来た。

椅子に座る。

「難しいこときくけんなあ。私も正直よくわからないけんど・・。

 折り紙を折るとそれだけ時間がかかるけん、その時間を消費した分

 をあなたにあげますという意味があるかも知れんなあ。」

「そんなの・・時間がもらえるわけないじゃん・・。」

「だから、時間を使って願いを込めるということだと思うなあ。」

「願い・・かあ・・」

私は少し考えをめぐらす。

 願い、延命、運動会、リレー、人ごとのような手紙、赤、青、黄色、950・・・

ぼんやりとだが、なんとなく思いついたことがあったので、私はお母さんに

お礼を言って、二階の自室に篭る。


私は、人ごとのような手紙にもう一度目を通してみる。

「38人で25羽ずつ折りました。皆待っています。

不服だったら広げて折りなおしてください。」


なんでこんなこと書いたんだろう。

不服だったら追加して千にしてくださいと書くべきじゃないのかな。

折りなおす・・

私はおもむろにプチッと950羽鶴の一羽を取り、折りなおして見ることにした。

何分かかるんだろう・・とおもむろに広げると、文字が書いてあった。

「3組11番 相田健 とにかく良くなって学校に来てくれることを望みます。」

私は、その手書きで書かれた文字を読み返した。

もしやと思いつつ、赤い鶴を取って広げる。

「3組21番 斉藤弘子 いち早い復帰を私は願っています。そしたらまた遊ぼうね!」

・・広げる

「3組14番 木下隆 ウハwwww見つかったww見たからには元気になれよwww。」

まさか全部に書いてあるのか。

私は、全て広げる勢いで読み込んでいった。

なぜか涙が止まらなかったが、嫌な感じは全然しなかった。

全て読み終えるのに何時間かかったのだろう。すでに朝日が昇っていた。

950。全てに手書きでメッセージが添えられていた。それは全て私に向けられた願いだった。

私は、自分のことが恥ずかしくなった。自分のことしか考えていなかった。

いや、それであっても、傷があることだけ考えていて、作ることを考えていなかったかもしれない。

傷があっても、思い出は作れる。私はまた泣いた。憎悪や憎しみはなくなっていた。


私は、目が赤くなってはいたが、朝食を作り始めているお母さんに言った。


「お母さん。私、今日学校に行く。鶴を50羽折って持ってく。」

id:aoi_ringo

これまでの私の質問が微妙に絡まっていて、

感動してしまいしました。本当に素敵ですね。

ありがとうございました。

2006/11/13 18:14:41

その他の回答9件)

id:kurupira No.1

回答回数2369ベストアンサー獲得回数10

ポイント10pt

「・・・わかりました。また後日伺います。」

先生たちは懲りたのか、帰っていった。

私は母に何か言おうとしたけど、何を言っていいのかわからない。

学校ってなんだろう、とふと思った。

id:aoi_ringo

なんでしょうね。

ありがとうございました。

2006/11/13 17:50:49
id:fdskaf No.2

回答回数295ベストアンサー獲得回数2

ポイント10pt

一番の理解者だった母。

母は言う。

学校に行けなくても、死にやせん。

だけどもな、一人では生きていけない。

お母さんも、皆、皆、誰かに支えられて生きている。

それだけ、解っててくれたらいい。

id:aoi_ringo

ありがとうございました。

2006/11/13 17:51:19
id:threecloudjp No.3

回答回数139ベストアンサー獲得回数6

ポイント95pt

数日後。


「薬が効いてきてるみたいだね」

古い回転椅子をキィッと音を立てて回し、担当の医師はわたしに向き直った。

眼鏡の奥のその瞳は、やさしくわたしを見つめている。

わたしはぺこりと頭を下げた。

最近の心境について話をしたら、そう言われた。

前ほど「死にたい」と思わなくなったこと。

なんだかよくわからないが、まぁ何とかなるだろう、と思えるときもある、ということ。

総じて、楽になってきた、ということ。

「ほんとうに、長谷川先生のおかげで、こんなによくなって…」

横でまた母さんがハンカチで目頭を押さえている。


「へー、よかったじゃん」

ゆかりちゃんにその話をすると、にっと笑って一緒に喜んでくれた。

ゆかりちゃんは、半年前から、毎週3回遊びに来るようになった人だ。

たぶんわたしよりだいぶ年上の人なのだろうけれど、なんだかほわーんとした感じの人で、「さん」より「ちゃん」のほうがお互いしっくりくるということで意見が一致して以来、そう呼んでいる。

ゆかりちゃんは、普段はあまり自分のことを話さない。いつもわたしの話を聞いてばかりだ。

そのゆかりちゃんが、一度、長い時間をかけて自分のことを話したことがある。

普段は気をつけているのだけど、うっかり、ゆかりちゃんに言ってしまった。

「はぁ。死にたいなぁ…」

何の拍子に言ったのかはよく覚えていない。

確か、なにか「やりたいこと」の話題になって、ああだこうだと議論が白熱した後に、つい本音が出てしまったのだ。

ゆかりちゃんは、あまり驚かずに、あぁ、そっかぁ、と言った。

また説教される、と思って内心うんざりしながら身構えていたのだが、ゆかりちゃんは説教をせずに自分の身の上話をした。

以前、両親に交際を反対されていた恋人と、心中を図ったことがあること。

相手は死んで、自分だけが生き残ったこと。

話の最後に、ゆかりちゃんは一言言った。

「死んだって何も解決しないし、誰も幸せにならないよ。」

亡くなった人の影を背負い続けているゆかりちゃんの苦悩が、そのときはっきりと目の前に姿を現したような気がした。

「死にたい」と口で言う人は見たことがあるけれど、実行に移した経験のある人を見たのは初めてだった。

わたしは、ちょっとゆかりちゃんのことをなめていたかもしれない、と思った。

同時に、彼女の言うことは信頼してもよいし、彼女のアドバイスは聞くべきだ、という意識が、わたしの中に芽生えた。


「運動、してみたい」

わたしは母さんに言った。

母さんは、目を皿のように丸くしてわたしを見つめた。

「たとえば、ウォーキングとか、あとヨガとか」

運動は気持ちを明るくしてくれるらしい、とゆかりちゃんにも聞いたし、そうやって何かに興味を持つこともなんだか久しぶりのような気がしていた。

「だって、あなた」

母さんは口をぱくぱくさせている。

何かよくないことを言ったのだろうか。

「…大丈夫なの?」

「うん。ゆかりちゃんについてきてもらう」

「…」

母は複雑そうな顔をして黙り込んだ。

「無理はしなくていいのよ?」

「無理じゃないよ、やってみたいって思ったの」

「でも、からだがついていくかどうか」

「軽い運動から始めたらいいじゃない」

「それにしたって…」

どうして母さんは喜んでくれないのだろう。

わたしは少し期待を裏切られたような気になった。

「わかったわ。いつごろ行くの?」

「わからないけど、こんどの日曜とかどうかな、って話してるんだけど」

「あら、日曜は無理だわ。わたし、シフト入ってるから」

「えっ?」

「だから、シフトが入ってるから」

「母さんは来なくてもいいんだよ?」

「何言ってるの!」

ふいに怒鳴られて、わたしはびっくりしてしまった。

「あなた、そんな…母さんが…」

母さんは口ごもり、うつむいた。

わたしは、母に何か悪いことをしてしまったような気持ちになって、ごめんなさい、と謝りかけた。

しかし、思い直した。

「りんちゃんは筋が通った考え方ができる子だよ。筋を通しなよ」

というゆかりちゃんのことばを思い出した。

わたしは考えた。

母さんはわたしと一緒に行きたかったのに、むげに断られて、傷ついて、怒鳴ってしまったのだろう。

わたしの面倒を見ているときの母さんは、完璧に優しく、完璧に笑顔を崩さない。

そうすることが母親の義務なのだ、と言わんばかりに。

しかし、わたしは、数日に一度、感じるときがある。

母さんは、わたしに、ずっとこのままでいてほしいんじゃないんだろうか。

母さんは、わたしがこうなったから、すべてを許容しすべてを包み込む理想の母親でいられるのではないか。

母さんの気負いはわたしに嫌でも伝わり、「気にしなくていいよ」「気にしなくていいよ」という無言のオーラは圧力となって真綿のようにわたしの首を締め付ける。

本来ならば気にするべきことだという前提認識があるからこそ、母さんは絶えずそのメッセージを発しているのではないか。


「母さんは、来なくていいよ」

わたしは、もう一度、母の目を見てはっきりとそう伝えた。

母さんはもう怒鳴らなかった。

「そう。日程が決まったら教えてちょうだいね…」

力なくつぶやいて、無理に笑顔をつくり、シンクに向かって洗い物を始めた。

ごめんね。母さん。

わたしは母さんの背中につぶやいた。

母さんはきっと、世界一わたしを愛してくれている。

そんなことぐらいわたしにもわかる。

でも、わたしにとってこれは必要な選択だという気がした。

そう思えるのは、たぶんゆかりちゃんのおかげだ。

彼女との出会いは、わたしの人生にけっこう大きな影響を与えるような気がしていた。

id:aoi_ringo

とても素敵です。

母親のマインドコントロールを論じた本を思い出しました。東ちづるの本です。こんな深い展開にはなるとは予想外です。

本当にありがとうございました。

2006/11/13 17:54:55
id:miyahiko No.4

回答回数36ベストアンサー獲得回数7ここでベストアンサー

ポイント100pt

あんたはやさしいけん。母さん、ようわかっとるよ」


「・・・うん。」

私はそううなずいた。私が高校に行けなくなってもう半年以上になる。

なぜ私がこんな仕打ちを受けなければならないのだろう、と思う。


「母さんは、ずっとあんたの味方だよ」

いつも、そう優しく話してくれることが、唯一私の支えだった。


「・・・うん。」

私はまた同じように無感動にうなずき、自分の手で頬に軽く触れる。

母さんが心配そうに私の顔を見つめると、そのまま何もいわず、部屋から

出て行った。私は椅子から移動して、ベットに飛び込むとギシギシとゆれ、

止まる。


気だるそうに首だけ機械的に動かすと、壁にかかっている赤や青、黄色といった色とりどり

の紙くずを見つめる。それは鶴の形をしていた。最近学校から送られてきたものだ。

「こんなものが何になるっていうの?」

誰もいないところで独白した。


私は何度も、さめない悪夢のようにあのときの光景をオーバーラップさせる。

この傷を一生抱えていかなければならない。

私は、サッカー部のマネージャーだった。そして、学校対抗の練習試合のとき興奮のあまり、

ラインに立って応援したのが学校での最後の記憶だ。

その時、記憶しているのは「あぶない!」と誰かの叫んだ声だった。

私はその後気を失い、救急車で運ばれたらしいが私が次に覚えているのは、学校ではなく

病院の白い天井だった。隣で母さんが人目をはばからず泣いていた。


・・私に残されたものは、勝利の喜びでもなく、先輩の甘い誘惑でもなく、

全治1ヶ月という診断と、頬に残された3針ほどの切り傷だった。

傷は・・残るらしい。

運悪くボールが飛んできて、運悪く足から外れたスパイクが、運悪く私の顔面に

直撃し、刺さった。全て、計算されたような悪夢だった。


「死ね。みんな死んじゃえ。死ね・・」

憎い、憎い、みんな憎い、誰にもぶつけられない憎悪が

心からあふれ出すと容易に涙に変わった。

涙で足りない悔しさ、憤りは私に呪いの言葉を吐き出させた。

「皆なくなれ。皆死んじゃえ・・ぐっ・・うう・・」

私のいくらかの良心が憎悪と葛藤し嗚咽で足りない分は両手で思いきりかけ布団を

抱きしめさせた。お母さんにばれないように歯を食いしばって、顔に布団を押し付ける。

なぜ私がこんな仕打ちを受けなければならない。

私は呪いの言葉をひたすら吐き続ける。

そうすれば悪夢から目が覚めると確信しているかのように。

ーーーーーーーーーーー

目が覚めるとすでに日が傾いて夕方になっていた。

私はそのまま眠っていたようだ。

気だるい体をベットから起こし、空気を入れ替える為に窓を開ける。

「こんにちは。」

1階の玄関から、女の人の声が聞こえた。

パタパタとお母さんの足音がその後に続く。

しばらく沈黙が続いて

「あきちゃーん、なおこちゃんが来たよ」

という声が響く。

私は何もいわず、二階から降りてきた。

最近、付属大学長谷川研究所からボランティアで派遣されてきたという、

年上の女の子だ。

「こんにちはー。」

彼女は柔らかな笑顔で私に挨拶する。

私は何回かきてくれたその彼女に無言で会釈すると、そのまま階段を

のぼっていった。

彼女はもうすでに心得ているようで、私の後を追うようについてきた。

部屋に入ると、私はベッドに腰をかけ、彼女は椅子に座った。


お互いいつものように沈黙してしばし顔を見つめる。

何にもいわないわけにはいかないので私が口火を切る

「・・・今日は何ですか?」

どうしても、とげとげしくなってしまうのが自分でも解る。

しかし、彼女は全然意に返さず

「いえ、ちょっと顔を見にきただけなんですよー?」

と朗らかに答える。

彼女は、抜けているのか大物なのかわからないけど、

マイペースで少し浮世離れしたようなことを話す。

天然なのかもしれないが、少なくとも頭は良いのだろうと思う。

毒気のないニコニコしている顔を見ているとこっちも釣られそうになるが、

そこは反発しておく。

「あら、千羽鶴ですねー。」

彼女が振り向いた方向に、赤や黄色の鶴の形をした紙くずを見つける。

「違います。950羽しかありません。」

はき捨てるように言う。「38人で25羽ずつ折りました。皆待っています。

不服だったら広げて折りなおしてください。」

まるで人ごとのような手紙が一緒に添えてある。

何が千羽鶴だ。ましてや不完全の紙くずじゃないか。

「赤、白、黄色、青、まるで運動会みたいですねー。」

自分がもらったような口調で彼女が言う。

わけのわからないことを言うのは彼女の天然な部分なので、あえて

突っ込まないで無言で押し通す。

「あきさんは千鶴のいわれって知っていますかー?」

「いや、知らないけど・・お見舞いとかじゃないの?」

彼女は朗らかに

「佐々木 禎子さんが白血病の延命の願いを込めて始めたといわれてますー。」

「それで、彼女は助かったの?」

「残念ながら助かりませんでしたー・・。」

「・・・・・。」

この人は喧嘩を売りに来たのだろうか。

「でも、その願いは平和の象徴として、

 リレーのように人々に語り継がれていますー。」

とにこやかに答える。

「・・・・・。」

私はどう答えていいかわからなかった。

「私は、千羽鶴が在ることではなくて、作ることが重要だと思うんですよー。」

「・・・・・。」

私は、意味がいまいち理解できなかった。今はお店でも

買える物をわざわざ作るというのが。そもそも作ったから在るのだが。

「あらー。時間が過ぎてしまいましたねー。じゃあ、また来ますねー。」

マイペースな人だと思う。ただ、逆にかしこまったりしないでくれるので

私は彼女が好きだった。

彼女はいそいそと階段を下りていくと、お母さんに軽く挨拶して

さっさと帰ってしまった。本当にカウンセリングの人なのかどうか・・。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

夕食をテーブルで食べ終わった後、お母さんの食器を洗う

後姿を見つめながら、私は聞いてみた。

「お母さん、千羽鶴のいわれって知ってる?」

「ああ、あきがもらった鶴のこと?たしか室町時代から遊びとして

 広まったものらしいけんど、延命の為って聞いたことはあるよ?」

「そうなんだ。」

「いまはどちらかといえば佐々木禎子さんの方が有名じゃけん、

 願いを込めるということが大事なんかもしれんな。」

「・・・・・。」

夕方になおこさんが言っていたことを思いだす。

私が理解できなかった言葉を質問として言ってみる。

「お母さん、千羽鶴が在ることではなくて、作ることが重要ってどういう意味?」

お母さんが、皿洗いをやめ、こちらを振り向くと無言でこちらに来た。

椅子に座る。

「難しいこときくけんなあ。私も正直よくわからないけんど・・。

 折り紙を折るとそれだけ時間がかかるけん、その時間を消費した分

 をあなたにあげますという意味があるかも知れんなあ。」

「そんなの・・時間がもらえるわけないじゃん・・。」

「だから、時間を使って願いを込めるということだと思うなあ。」

「願い・・かあ・・」

私は少し考えをめぐらす。

 願い、延命、運動会、リレー、人ごとのような手紙、赤、青、黄色、950・・・

ぼんやりとだが、なんとなく思いついたことがあったので、私はお母さんに

お礼を言って、二階の自室に篭る。


私は、人ごとのような手紙にもう一度目を通してみる。

「38人で25羽ずつ折りました。皆待っています。

不服だったら広げて折りなおしてください。」


なんでこんなこと書いたんだろう。

不服だったら追加して千にしてくださいと書くべきじゃないのかな。

折りなおす・・

私はおもむろにプチッと950羽鶴の一羽を取り、折りなおして見ることにした。

何分かかるんだろう・・とおもむろに広げると、文字が書いてあった。

「3組11番 相田健 とにかく良くなって学校に来てくれることを望みます。」

私は、その手書きで書かれた文字を読み返した。

もしやと思いつつ、赤い鶴を取って広げる。

「3組21番 斉藤弘子 いち早い復帰を私は願っています。そしたらまた遊ぼうね!」

・・広げる

「3組14番 木下隆 ウハwwww見つかったww見たからには元気になれよwww。」

まさか全部に書いてあるのか。

私は、全て広げる勢いで読み込んでいった。

なぜか涙が止まらなかったが、嫌な感じは全然しなかった。

全て読み終えるのに何時間かかったのだろう。すでに朝日が昇っていた。

950。全てに手書きでメッセージが添えられていた。それは全て私に向けられた願いだった。

私は、自分のことが恥ずかしくなった。自分のことしか考えていなかった。

いや、それであっても、傷があることだけ考えていて、作ることを考えていなかったかもしれない。

傷があっても、思い出は作れる。私はまた泣いた。憎悪や憎しみはなくなっていた。


私は、目が赤くなってはいたが、朝食を作り始めているお母さんに言った。


「お母さん。私、今日学校に行く。鶴を50羽折って持ってく。」

id:aoi_ringo

これまでの私の質問が微妙に絡まっていて、

感動してしまいしました。本当に素敵ですね。

ありがとうございました。

2006/11/13 18:14:41
id:tibitora No.5

回答回数3037ベストアンサー獲得回数202

ポイント10pt

あれからしばらくして、中学入学を期にわたしは学校に行く事にした。

ふと、「行ってみようかな」という気持ちになったんだ。

いまは、いわゆる「普通」に学校での生活をおくっている。

たまに「しんどい」と言う理由で学校を休みつつではあるんだけど。

「学校に行けなくなったあのとき、母がそれまでどうりに接してくれていなければ、いまのわたしは無かったかもしれないな。」

そんな事を思いながら、夕飯の支度をして母の帰りを待っている。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

こんな文でもよろしいでしょうか?

id:aoi_ringo

ありがとうございました。

2006/11/13 18:15:17
id:ElekiBrain No.6

回答回数255ベストアンサー獲得回数15

ポイント50pt

 母は何も理解しようとしない。ひたすら、あなたは優しい子だから、という。その言葉を聞く度に、久恵は優しい子を演じるのだ。今日も外は曇っている。もう7月だというのに、晴れ間のない日が続いた。窓の外から、おばちゃんが自転車をこぐ姿が見える。

 半身不随になった久恵は自室に軟禁状態で暮らしている。それもずいぶん長い間だ。症例としてはあまり例のない、心身性の半身不随であるらしかった。母は時々久恵のところへ来ては、全く的外れな私の心理状態をナレーションして帰って行く。

 彼女ほど私の心を理解していない人物はいない。しかし、それよりも、クラスの人間の方が、より無理解だった。あの人たちの言うことは今でも思い出したくはない。

 久恵が学校に訪れなくなって、何度か先生が来る。担任と、学年主任の先生だ。先生達は必ず家へ上がり込んでは、学校に来てくれなければ困ると言った。他でもない、困るのは体面ばかりを気にする先生なのだ。そのうち母は彼らを門前払いするようになった。久恵にしてみれば、それは福音であったが、母が真に久恵の気持ちを理解して追い払ったとは到底言い難い。無理解という一点で言えば、彼女も先生達と大して変わりはしない。

 ある日のことだった、担任は学年主任と車の近くで話をしていた。窓の外から黒雲が不吉な速度で移動するのが見えた。久恵は部屋に置いてある熊のぬいぐるみを手元に置いたまま、何とはなしにその話を聞いた。殆どがつまらない世間話で、車の排気ガスと煙草の煙が、久恵のいる2階の部屋まで入り込んでいた。生徒のことを気にしていればそんなことはしないはずであるが、先生達はひたすら我が物顔で排気ガスと煙草の煙を部屋へとまき散らし続けた。そんな中、ふと担任が言った言葉が耳に入った。本当は聞かなければ良かったと思う。

「ばってん、心身性って、要は仮病でしょ」

 久恵は手元にあった熊のぬいぐるみを持ったまま、身体を痙攣させ始めた。やがて痙攣が酷くなると、呼吸が出来なくなる。しかし、その想いとは別に、痙攣は無意識に拡大してゆき、呼吸が止まりそうになる直前に、ベッドから、後ろの壁を必死に叩いた。やがて母がものすごい形相で階段を上がってくる音が聞こえ、扉を開けると、手に持った酸素吸入器を口元に押し当てて、ぼろぼろと涙を流した。母の久恵に対する心の持ちようは間違っていたものの、母の私を心配する気持ちだけは本当なのだと、久恵は思った。

 翌日、久恵は母に対して、先生をこの部屋に通すように伝えた。母は心配した様子だったが、久恵は珍しく意見を押し通した。久恵は毎日手に持っていた熊のぬいぐるみの毛を抜き始めた。力を込めて、目はうつろなまま、ひたすら毛を抜いてゆく。




「久恵ってさあ、気持ち悪いっちゃんね」

 クラスの女子はあえて久恵に聞こえるように言った。そいつらは何人かのグループに分かれており、派閥を作っていたが、久恵はそのどれにも属しておらず、よって、久恵にはそうした組織化された派閥が存在することすらわからなかった。

 久恵はひたすら目立たないように勤めた。しかし、それが逆に彼らの中で浮き上がったように見え、いじめは加速する傾向にあった。久恵が好きだった男子の前で、そいつとつきあい始め女子が、わざわざ放課後に、見せつけるようにキスをしていたこともあった。去り際に思いを寄せていた大切な男は、

「キモ」

 と一言だけ発して教室を去っていった。そんなことが毎日続いた。日々靴や鞄がなくなり、そのたびに動悸が早くなった。教師は一連の状況を見て見ぬふりをし、普段通りに授業を進めた。そんなことが続き、久恵はある時身体から力が抜ける、奇妙な感覚に襲われた。特に足には全く力が入らず、下駄箱に居た久恵は必死に立ち上がろうとするが、ついには立ち上がれなかった。下校する男子が足蹴にして久恵は校庭に転んだが、彼らはただその姿を見て笑うのみだった。多くの女子もニヤニヤとその光景を見た。

 医師は動かなくなった足に異常はないと言った。いくつかの病院を回ったが、どこに行っても異常は見あたらないという。やがて精神的なものではないかというアドバイスをもらい、精神科にて心身性のものであることが判明した。その日から、母は極端に涙もろくなった。父が死んでも毅然とした態度を崩さなかった母は、その日からヒステリックになることもしばしばだった。




 熊のぬいぐるみの毛の多くは抜き去られ、まるでストレスを抱えた動物のようになった。先生が階段を上がって来るのが聞こえ、全く精神的な事を考慮せず、大きな音と共に、乱暴に扉を開いた。母親が無愛想な態度で椅子を運ぶと、担任は一応恐縮した態度を取り、そこへ腰掛けた。そこからはよくあるありきたりな話だった。お前の将来のことが云々、本当に思っていないことが次々と担任の口から飛び出した。今日は学年主任はいなかった。

 久恵は熊のぬいぐるみを見つめたまま聞いているのか、聞いていないのかも分からないまま、ひたすら黙ったままだった。やがて担任は席を立つと、入り口のノブを回した。その時、久恵は言った。

「仮病ですか」

 担任は慌てた表情をした。明らかに動揺する担任を尻目に、久恵はぬいぐるみの腹部からはみ出た綿を抜き取り始めた。

「何のことや」

 担任はあからさまにしらばっくれた。それでも久恵の表情は変わらず、ぬいぐるみの綿を抜き続けた。

「先生、いつか殺しますから」

 人形は無表情のまま久恵を見た。久恵も人形を無表情のまま凝視した。埃が静かに舞う部屋の中、時間が止まったままだった。担任はやがて、ゆっくりとノブを回すと、出来るだけ足音をさせずに部屋を出て階段を下った。久恵は彼がどんな顔をしていたか、全く確認することはなかった。

 担任が部屋を出ると、久恵の身体が震え始めた。その震えは次第に大きくなり、やがて腕で自らの身体を抱いても、止まらなくなった。そして、動悸は速くなり、酸素が薄くなってゆくのを久恵は感じた。命の危険を感じて、久恵は壁を叩いた。やがて母が階段を駆け上がり、部屋の中へ酸素吸入器を持って入ってくる。そして、慌てた様子で久恵の口に呼吸器をあてがうと、久恵は肩で息をし、見開かれた目で宙を仰いだ。

 母の目からまた、涙が流れた。しかし、母は目を反らさなかった。なにか、その目には、いつもの母の雰囲気はなく、何かの想いが溢れているかのようだった。突然、涙を流しながらも、母は震える久恵の頬を両の手で掴み、必死に、懇願するかのように久恵に向かって言った。

「闘わな、いかんよ。闘って勝つしかないと!」

 なぜそんな事を言ったのかは分からなかった。きっと、母は自分にそう言いたかったのだろう。しかし、久恵の中で何かが音を立てて、さあっと引いてゆくのが分かった。海の潮が、満ち潮から引き潮になるかのような、そんな奇妙な感覚があった。やがてその感情は久恵の身体を冷たく包み、動悸は収った。呼吸は平常時へと戻っていった。母が呼吸器を久恵の口から外す頃、久恵の中で引いた潮はやがて大きな氷河となり、久恵の全てを停止させた。再びぬいぐるみの熊に向かって目線を落とし、久恵は一切想いを浮かべず凝視した。母は久恵の容態が良くなったことを見届けると、微笑んで部屋を後にした。しかし、久恵の心は冷たい氷河の底で凍り始めていた。




 感情は特になく、ぬいぐるみの毛を抜くことをやめた。それから驚くべき速度で、久恵は回復していった。痙攣は治り、部屋の中までなら問題なく歩けるまでになった。やがて、あの担任の来訪から一ヶ月も経った頃には、久恵は自分でスカートを履いて、台所へ立っていた。しかし、その目はどこかうつろだった。母が涙を流して久恵に抱きついた時も、久恵はテーブルに置かれた醤油やソースをぼんやりと眺めるばかりだった。その日から、登校は始まった。母はリハビリをある程度入れた方がいいと言ったが、久恵は聞かず、学校へと向かった。

 学校では、久恵の席は取り除かれており、誰かがわざとやったのは明白だった。久恵は凍り付いた心のまま倉庫へと自分の机を取りに行くと、教室に戻った。しかし、机を置くべきところにわざとらしくあのグループが陣取っているのが見える。久恵は椅子と机を抱えたまま教室に入って近づくと、その女子生徒のグループに向かって放った。手前のリーダー格に当たった時点で埃が舞い上がり、机はけたたましい音を立てて床に転がった。クラスの生徒全員が振り返ったが、久恵はその全員にわざと冷たい眼差しを投げかけた。

「ごめん。手が滑ったとって」

 久恵は悪びれもせず机を起こすと、グループはおののいて、その場から離れた。別に、もう一度机を投げる予定もなかった久恵は、残った埃を払って椅子を拾い上げ、座った。

 教室はざわめいたままだった。何かが変わった。クラスの全員がそう感じていた。中には久恵に向かって、後が怖いぞ、と冷やかしを入れる男子もいたが、そんなことは久恵の耳には入らなかった。

 放課後、再びいじめが始まったのが分かった。靴がなかった。靴を隠したのは、いつか久恵を足蹴にした男子。既に目星が付いていたが、どこにも証拠がない。以前はここで引き下がっていた。しかし、久恵は下駄箱から教室へ向かうと、だべっている男子生徒3名に声をかけた。

「あのさ、そこにいる石橋君とだけ話があるっちゃけど、他の二人、外してくれんね」

 他の2名はいつになくはきはきとした態度で喋る久恵に対してなにか異様な迫力を感じていたが、強がって、

「コクるとや? お前も一応人間やったんかいな」

 と冷やかし、その場を去った。廊下に足音が聞こえなくなるころ、久恵は石橋にこういった。

「石橋君って、童貞ね」

 突然の久恵の言葉に石橋は驚いた。

「なに言うとるとかいな。とっくの間に捨てとるばい」

「私とヤリたくなかね」

 空気が固まった。久恵は石橋の“その部分”におもむろに手を伸ばし、開いた。

「嫌ね」

「い、嫌やなか」

 だが、そこから久恵の表情が変わった。胸に密かに納めていたカッターを取り出すと、“それ”を握ってノコギリのように引き始めたのだ。

「なにしとるとや!」

 石橋は叫んでチャックを上げると、久恵を蹴り離し、震え始めた。久恵は並んでいる机にしたたかに頭をぶつけ、うつぶせになって床に倒れた。しかし、痛みを感じている様子も見せないまま、久恵は半身を起こし、石橋を見た。瞳孔が開いている。

「あんたが今まで私にしたことを今からやめるったい。やめらんと、あんたが私を犯したって言いふらすけど、それでもええとかいな」

 完全な心理掌握だった。状況としては、久恵が行ったことは犯罪であり、事実だけを言うなれば、不利に働くはずだった。しかし、その状況証拠とは別に、石橋の息の根を止めるには十分な脅迫だった。もし断れば、久恵は何をするかもわからない。石橋の身体中に汗が滲むのが分かった。

「すまん、もう関わらんことにするけん」

 石橋はそれ以上、何も言うことが出来なかった。精一杯格好を付けて言ったはずの台詞も、うわずっていた。




 数日後、久恵を面白く思わないあのグループのリーダーが、放課後、久恵を呼び出した。どうも、机を投げられたあの日の失態が、彼女たちの中でくすぶっていたらしい。

女子トイレは彼女たちに占拠された。もし担任の先生に見つかっても、ここは女子トイレ。逆に親に訴えればいくらでも担任の首を飛ばすことが出来る。

 リーダーは美佳といった。今時の不良は外見では判別がつかないというが、美佳もその例に漏れなかった。美佳は栗毛のウェーブ・ヘアーで、まつげにはマスカラをたっぷりと付け、偉そうに腰に手を当てて久恵をトイレの端へと追い詰めた。

「最近元気になったようやないの。おめでと」

 そう言うが早いか、美佳はバケツ一杯の水を頭から久恵に被せた。水浸しになった久恵を見て、グループの女子生徒がけらけらと笑った。

「あんまり派手なことせんほうがええっちゃないと?」

 美佳は表情一つ変えないまま、久恵を見続けた。だが、水を被せられた久恵の表情は変わらない。美佳を見据えたままだった。

「なんね、文句があるんやったら、はっきり言わんとや!」

 美佳は久恵の目の前まで近づくと、怒鳴った。だが、それでも久恵の表情は変わらなかった。水の滴る音が女子トイレに響き、辺りはその音だけに支配されていた。美佳が喋っている時には他の女子は口が出せなかった。それほどまで、美佳の権力は絶対だった。

 しかし、そんな静寂の中、美佳の足に奇妙な異物感があった。冷たい何かが身体に入り込むのを感じ、美佳は瞬時に視線を落とした。

 そこには、久恵の手と、蛍光灯に照らされる光る銀色の物体があった。その銀色の物体の上に、赤黒い何かが伝っているのが見えた。

 美佳は絶叫した。だが、放課後の誰もいない廊下にその声がこだまするだけだった。

 恐怖を感じたグループの一人が廊下に躍り出る。すると、その様子を見た他の女子も、火の粉を散らしように廊下へと走っていった。

 美佳は床に倒れ、そこへ久恵がまたがって何度も腰や足をめった刺しに刺した。鮮血が床一杯に広がり、排水溝に吸い寄せられた。

 やがて、担任の怒鳴り声が聞こえる頃、久恵は気絶した美佳に対して無心で刃物を振り回している自分に気がついた。




 それから、いろんな事を言われた。刺した気分は? と聞いてくる生徒もいたし、いい子だったのに、と、ニュースでインタビューに答える近所のおばさんも見た。もっとも、そんな放送がある度に、母はチャンネルを変えてしまったので、全てを見ることはできなかった。

「普通の子なのに」

「心の闇が引き起こした」

「学校の先生は一体何を」

「性格異常の事を考慮に入れ」

「精神鑑定はまだ行われていないんですよね」

「親が悪い」

「キレる子供が増えただけ」

「体罰を復活させるべき」

「やった事に対して反省していないんでしょ、この子は」

「気ちがいに刃物」

「悪魔」

 あらゆる言葉の断片が久恵の耳に入った。どれも身勝手で、誰も自分の心を代弁することはなかった。久恵はそれらの心を凍り付いた心のまま、黙って聞いた。母はあれから台所のテーブルに伏せたまま長時間眠ることが多くなった。テーブルには食事と、死んだように眠る母の姿があった。




 久恵は、あの“職業教師”の勧めで、今は半身不随となったグループのリーダー、美佳の元へ訪れることになった。白い壁の、巨大な建物にあるガラスの扉を開け、灰色の階段を上がった。いくつもの病棟を越え、いくつもの角を曲がり、その部屋に、昼の黄色に照らされるまま座る美佳がいた。髪は当時の様子とは違い、三つ編みにしており、栗毛のウェーブもすっかりストレートに変わっていた。おそらく就寝しやすいという理由であろう。

 美佳は黙ったまま外を見つめていた。足音がしてもこちらに振り向く様子はない。担任は、お前が何をやったか、自分の目で確かめてこい、と言った。担任にしてみれば身体的被害者だけが正義であり、心理的な被害は単なる仮病だった。

 やがて、久恵は美佳の元へと近づくと、美佳の見つめる窓の外を一緒になって眺めた。9月が訪れ、太陽は残暑の陽炎を揺らめかせた。飛行機が、飛行機雲を作りながら遠くの空を通り過ぎてゆく。風がカーテンを揺らし、久恵の前髪をなびかせた。

 突然、ひっ、という声が聞こえた。久恵がベッドの方に振り向くと、美佳がこちらを見て震えている。やがて震えは大きくなり、美佳は涙を流しておびえ始めた。

 久恵の凍り付いた心の中で、何かが弱くなってゆくような感覚があった。氷は次第に崩れ、久恵の動悸を激しくした。美佳の震えは止まらず、久恵の方を見たまま震え続けた。久恵の胸が早鐘を打つ中、久恵は自分の頬に暖かいものが伝ってゆくのが分かった。もう、これ以上は氷の壁で全てを塞ぐことは出来なかった。

 美佳の視線は、まるであの時の久恵のようだった。胸元で寝間着を掴み、身体を萎縮させながら、その時の久恵は壁を叩いたのだ。だが、この部屋の壁にはナースコールのボタンがあるだけであり、母の代わりに、見ず知らずの看護婦が駆けつけるのだろう。美佳の手元にはぬいぐるみさえない。彼女は間違いなくこの病室で、誰とも会話することなく一人でいる。

 涙は久恵のあの頃の気持ちを思い出させていた。しかし、それは氷のような冷たさではなく、強い決意を持って久恵の胸を突き上げた。

 久恵は美佳の前にしゃがむと、美佳の頬をしっかりと両手で掴んで、涙でくしゃくしゃになった顔のまま、叫んだ。

「私を憎んでいいから、お願い、闘って!」








id:aoi_ringo

いいですね。

この世界観は独特であり、強いです。

ありがとうございました。

2006/11/13 18:24:11
id:hanatomi No.7

回答回数853ベストアンサー獲得回数36

ポイント30pt

その日、夢を見た。

不思議な夢だった。



子供たちはみな生まれたとき、空中に自由に散らばっている。


それが大人になるにしたがってだんだん、

蜘蛛のような糸でがんじがらめに結ばれてしまうようなのだ。

その世界を見ていた。








幾重にも幾重にも

漁場で使うような網を干したような暗い空間があり、

そこに多くの人が引っ付けられている。

いや、良く見ると縛り付けられている。



縛り付けられている人は

うなだれ、目をつむり、くるしそうにしながら

それでもあれこれ叫んでいる。





「なんてさけんでいるんだろう・・・」

少し近づいて聞いてみた。




太った男性は汗をぶるぶるとばしながら

こういっていた。

【・・・・しなくちゃならん!  ×××しなくちゃならん!!!】


【△△しなくちゃならん!  ○○でなくちゃならん!!!】

【決まっているのだ! ○×すべきである!!!】

【○×しなくちゃ、ならん!!!!】








今度は女性に近づいてみた。

おかっぱでまじめそうな、ピンクの服を着た女性だ。


【そ・う・よ。○。○。し・な・く・て・は・い・け・な・い・の】

【し・な・く・て・は・い・け・な・い・の】

【み・ん・な】【き・い・て】

【× △ し・な・く・て・は・い・け・な・い・の】


うつろな顔で、ロボットのように

ただ言葉をつぶやいている。




【わ・か・つ・て】【い・ま・す・か】

【◎ △ し・な・く・て・は・い・け・な・い・の・で・す】



体はぐるぐる巻きにされていて、

みんなと同じように宙に吊られていて

手と足だけが自由になってる。

ぶらんと、つりさげられているが、

言葉だけは機械的に発している。



私はもう少し近づいた。




「!!」



さ・・・沢口先生!!!!!!!!




そう、ぐるぐるまきにまかれて

心や感情、言葉を全て失って



ロボットのようになって

つながれているその女性は、沢口先生だったのだ。




ひどい。。。

誰がこんなことを。。。。




そして見た。

その瞬間見てしまったのだ。




沢口先生が

「○・○・し・な・く・て・は・い・け・な・い」


と言う度に、

誰かに対する糸がのびていって、それが相手を縛り付けてしまうのだ。




そんな・・



逃げ出したい気持ちだった。



少しはなれたところにいる、中年の親父は、そう、学年主任の

桐山先生だった。



彼のばあいは少し黒味がかった太い糸で体中を巻かれていて、

宙吊りになりながら

その糸をやぶらんかといういきおいで彼はあばれていた。

彼も又、

「○○すべきだ」「××すべきだ」「△△すべきである!」

と、議論をするような口調で叫んでいた。





お互いにそう言うことで、相手も自分も縛り付けている。




怖い世界だった。みながつながれていた。


異常で異様な暗い世界だった。




・・・・。

ため息をついて、視線を少し下のほうへやった。

その人たちを見るのが辛くなったのかもしれない。



・・・

あ!!








その世界の下のほうの地面の隅っこに、

ぺたんと座り込んで泣いている女の子がいた。






「あ!私だ。」




ぬいぐるみを片手に持ちながら、

空中に吊られた人々を眺め、おどろいて、ないて、どうしようもなくなっている。



ああ・・・・



わたしはじっと見つめていた。



彼女は長い間そうやって座っていたが、

おぼつかない足で立ち上がり、

よぼよぼと、光の見える穴の出口の方へと歩き始めた。




座っていた彼女の足元には

切られた白い糸が落ちていた。



そうか。

これ、おかあさんが切ってくれたんだ。

がんじがらめの糸を切って、


そんな言葉なんていらないって

言ってくれたんだ。




だから私、地面に落ちれたんだ。






ありがとう。おかあさん。



彼女は走り出した。



トンネルの中の、

蓑虫のような、トンネルのこうもりのような奇妙な人たちを後にして、




自由な明るい世界へと。


そこには滑り台があり、

青空があり、

そう、いつもの町に似ていたが、どこかが少し違った。

だんだん景色がはっきり見えてきた。







そして、

誰にも助けてもらえなくああなってしまった

桐山先生と、坂口先生の事をおもったら

少し胸が痛かった。



彼らのおかあさんは


彼らを助けてあげなかったんだ。


きっと彼らのお母さん達もまだきっと、

あそこにつながれていて、

しらずしらず子どもを縛ってしまっていたのかもしれない。



そう。。彼らはずっと、縛られたままなのだ。

おかあさんもいっしょに。。。。









私は、私であることをとても幸運に思った。

そして、光の中で生きていくことを決めた。




少し強くなった気がした。

太陽と、友達になれる気がした。



手をぐるぐる回しながら、一気にトンネルを駆け抜けた。

やっほぉ!と叫びたい気分だった。

やる気がみなぎり、

強い何かが心の奥で燃えていた。

id:aoi_ringo

詩的な世界ですね。

ありがとうございました。

2006/11/13 18:25:59
id:ttz No.8

回答回数690ベストアンサー獲得回数7

ポイント10pt

帰ろうとしない先生たちを見て、一度ベットに横になった。目を閉じて考える。学校・・・行きたくない。行ってもどうせまた同じ事の繰り返しだ。いじめ。もう耐えられない。

その時また母の大きな声が鳴り響いた。

「警察呼ぶわよ!」

わたしは驚いてまた窓に顔を覗かせた。

と、母が後ろ手に包丁を隠し持っているのが見えた。

いけない!わたしはとっさに部屋を出、階段を駆け下り外へ出た。

「お母さんやめて!」

「あんたは黙ってなさい!」

わたしは無理やり母の手から包丁を取り上げると、庭へ投げ捨てた。

先生たちは驚きを隠さなかった。

一つは、包丁を持っていたことに対して。もう一つは、わたしが大声を出しながら外へ出てきたことに対してだ。

気が弱くていつもいじめに遭っていた。物静かで何をするにもおっとりとしていた。特にそんな姿しか見たことがなかった沢口先生の目に、この事は桐山先生以上に、あまりにも強烈に映った。

「それだけ出来れば大丈夫。」

そう言うと、沢口先生は静かに微笑んだ。

「明日から、いや、今から一緒に学校に行こう。」

先生は優しい笑顔を見せていた。

わたしの中に、何かが流れた。

id:aoi_ringo

ありがとうございました。

2006/11/13 18:26:44
id:sokyo No.9

回答回数1377ベストアンサー獲得回数97

ポイント20pt

 私が二階のいつもの部屋にいたら、家の前の坂道をたくさんの石の粒が転がってくる音がした。それから何か重たいものが歩くような音。その度に地面が揺れ、窓ガラスがかたかた鳴る。姿は怖くて見られないけれど、私にはもうわかっていた。また“モアイ”が、来た。

 あいつの大きな影で、私の窓辺が日陰になった。カーテン越しの光でわかる。私はいつもみたいに、布団をかぶってくるまる。お母さんはどこかな? どうしてここにいてくれないんだろう?

 玄関の扉が開いて、家中がぐらぐら揺れた。それから大きな石の固まりがずかずかと入ってくる音。そのとき私は予想外の事態に気づく。今日、あいつはひとりじゃない。あいつの後ろから、仲間が列をなしてついてくる! やつらが不気味な歌をうたっている。怖い。お母さんはどうしているんだろう? あいつが階段を登る音がする。あと何段なのか、私はうっかり数えてしまう。3…2…1…。

 

 

 朝だった。また“モアイ”の夢で目が覚めた。寝汗でぐっしょりだ。はぁ。

 

 モアイ像って本でしか見たことがないけれど、私の中でのモアイ像はすごく大きくて、重くて、怖い。そう考えていたら、(笑わないでね)顔をよく見たことのない沢口先生や桐山先生の顔も、なぜだかモアイの図がはりついて離れなくなってしまった。沢口先生の声。石がしゃべってるみたいだもん。自分でも変だってわかっているからだれにも言えないけれど。だからこの夢、きっと先生がうちにくるのを表しているんだと思う。夢占いの本には載ってないけど、それくらいなら私にだってわかる。でももう朝だから、安心してね。そう自分に言い聞かせてみる。

 

 一階に降りるときには、私はまだ、夢を引きずってておそるおそるだ。でも、お母さんの顔を見るとすごく安心してしまう私がいる。それから一緒に食べる朝ご飯。ポップアップトースターの音とか、スープの湯気とか、いつも通りのテーブルクロスの模様とかが、私に取りつく夢の残骸を一枚ずつはがしてくれる。ここは私の家だし、お母さんも隣にいるし、少なくとも今は“モアイ”なんていないんだから。安心してね、って自分に注ぐ呪文は、もう、いらない。

 

 お母さんが仕事に行ってしまって、午前中 私はずっと本を読んでいた。主人公の女の子が鳥と話ができるようになる話だ。日なたの窓辺。私はガラスの向こうに目をやる。そうしたらちょうどスズメみたいな小さい鳥が、電線にとまった。私はその子に念力を送ってみた。通じるかな? その鳥はちょっとこっちを向いたような気がしたけど、でもそのあとすぐに飛んでっちゃった。鳥とお話しできるまでの道のりは、思ったより険しそう。

 

そのあと、ユウちゃんとヒロからの手紙を、並べ替えることにした。今日は久しぶりに書き出しの言葉のあいうえお順にする。

 

 ヒロって、すごくおかしいんだ。前にも私はヒロの手紙を書き出しあいうえお順に並べたことがある。そのときに気がついたんだけど、ヒロは書き出しに、「やっほー。」か、「元気?」か、「うっそー。」しか使わないんだ。だから私は手紙でヒロにそういう風に書いて送ってみた。そうしたらヒロから返ってきた手紙の書き出しは、「うっそー!」だったの。ヒロってぜんぜん進歩しないんだから! でも私は、ヒロのそういうところが、ちょっと好きなんだ(恥ずかしくて言えないけど、ね)。それに比べて、ユウちゃんは書き出しのレパートリーがすごく広い。うらやましいなあと思ってときどきまねしてみるんだけど、そういうときに限って、いつもうまくいかなくなる。

 

 全部 並べ終わって、前の手紙を読み返していたらいつの間にか暗くなっていた。そんな私が窓の外を見てみたら、ちょうどのそのときお母さんが帰ってきた。お母さんのコート、すごく冷たい。外の季節を、私はそうやって知る。でもコートの内側はすっごくあったかい。だから私はいつも、お母さんが帰ってきたらしばらくあったかいコートを着せてもらうんだ。たぶたぶのコートは、なぜだかすごく気持ちがいい。でもそのまま夕ご飯を食べようとしたら怒られちゃった。もっと着ていたかったのにな。

 

 ストーブのじんわりした音と、時計の秒針が進む音を聞いていたらだんだん眠たくなってきた。もうそんな時間だ。お風呂からあがった私の髪、お母さんが丁寧に丁寧に乾かしてくれる。私が一番 好きなのってもしかしたらお母さんに髪を乾かしてもらうことかもしれない。ユウちゃんやヒロはどうかな? 今度 聞いてみようっと。

 

 お母さんはいつだって、怖がりな私が眠りにつくまでずっと隣にいてくれる。今日は本物の“モアイ”は来なかったな。あ、でも今朝の夢では見たか。もう少しすると、私は眠ってしまって、夢を見て、その夢はまたあいつの怖い夢なのかもしれない。でも今はお母さんが隣にいる。だからきっと平気だ。

 

 隣のお母さんをちょっとぎゅっとする。そしたらぎゅっが返ってきた。お母さんってあったかい。朝のスープよりも、夜のコートよりもずっとあったかい。はあ、いいなあ。さっきの、やっぱり訂正するよ。私は髪を乾かしてもらうのも好きだけど、この時間のほうがもっと好きだなあ。だってお母さんとの距離がもっと近いもん。寝てしまいたくないなあ。ずっとこのままがいいなあ。

id:aoi_ringo

やさしいですね。

ありがとうございました。

2006/11/13 18:28:23
id:garyo No.10

回答回数1782ベストアンサー獲得回数96

ポイント10pt

ドア越しに母の声を聞きながら私はベットに入り頭から布団をかぶる。横になり手足を丸め胎児のように丸くなる。

この暖かい空間だけが私を癒してくれる。

始まりは些細なことだった。

 ・ ・ ・

子供の頃から良く迷子になっていた。「あんたはすぐいなくなるから目が離せんわ」と母は良く言っていた。

他の姉妹は迷子になると泣き出すので判るが私は泣かないから判らないそうだ。

集団行動が苦手ですぐに一人でどこかに行きみんなとはぐれてしまう。

学校にいってもそうだった。

昼休みに窓際の席でグランドで遊びまわる同級生を見ながら一人本を読んでいた。

「それじゃあ問3がわかる人。……いないのか。じゃあ河合さん答えて」

机の上に両手を置いてうなだれたまま小さな声で答える。

沢口先生が何を答えさせたいのかまで見えてしまうと解答するのも馬鹿らしくなってしまう。

あえて別な答を言ってみる。

「…というわけで答えは-3になるわけだが……おかしいなどこかで間違えたみたいだ」

数学の桐山先生は答えが合わなくて頭をかきながら黒板を見ている。

「…そこのルートを取るときに中が正であるという条件が抜けてます」

「そうだったな、すまん、すまん。つまりa-b>0から…」

そんな態度が同級生の気に障ったのだろう。

 ・ ・ ・

 最初は無視だった

 母親に相談しなかったのは自分でいじめられているということを認めるのが

できなかったからだろう。

 朝、熱を出してみたり、今日は遅刻だから休むといってみたりした。

 母は「そんなこといったらダメじゃけぇ」といって学校まで車で送ってくれた。

 ・ ・ ・

 ある日体育の時間に更衣室で着替えていると

 「あ~まったく河合はムカつく」とドアを開けて由布子が入ってきた。

 中に入って私に気がついたがお互い何も言わずに黙っていた。

 由布子とは同じ文芸部の仲良しだった。そのときまでは。

 ・ ・ ・

 朝の学校に間に合う時間が近づくと気分が悪くなる。

 頭が痛くなり鼓動が早くなる。「駄目。気分が悪い」そういって部屋に入る。

 それが過ぎるととても楽になる。

 一週間も続くと外に出られなくなる。近所の人が自分を見たら笑うに違いない。

 学校にいって休んだ理由を聞かれたら何て答えればいいんだろう。

 胸の鼓動が早くなり頭に血がのぼる。呼吸が激しくなり息ができなくなる。

「だいじょうぶ?」母がビニール袋を口に当てて背中をさすってくれる。

 涙目で頷きビニール袋を口に当てたまま部屋のドアを閉める。

 ・ ・ ・

 

 これからどうなるのかなぁって思う。

 勉強しなきゃって思って机についても教科書を開けない。

 何か資格を取るため勉強したいけどあせるばかりで何もできず罪悪感だけが募っていく。

 もう疲れたので、最後に一つだけゲームをすることにしました。

 この手紙を読んで私が誰か当ててみてください。

 13日の24時が締め切りです。それまでに判らなかったら、そういう運命なんだなと

 諦めて自殺します。

 それではよろしくお願いします。

 

 文部科学省様

id:aoi_ringo

タイムリーですね。

でもいじめって深そうですね。

いつか書いてみたいです。

ありがとうございました。

2006/11/13 18:30:10
  • id:nobnob3
    続きが読みたいです
  • id:aoi_ringo
    お待ち下さい。
    みなさんがすてきな作品を書いてくださいます。
  • id:aoi_ringo
    開封が遅れておりますが、10席埋まってから開封します。
    いましばらくお待ち下さい。
  • id:aoi_ringo
    無事に満席となりました。ありがとうございました。
    開封ですが、丁寧に読みたいので、
    明晩とさせていただきます。
    楽しみにお待ち下さい。
  • id:garyo
    今回は間に合ったみたいです。
    念のため書いておきますが、ラストはフィクションですので……。

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