あれはまだ、弟が中学生のころでした。今年こそは海に行きたいと言っていたのですが、あいにく両親は都合が付きません。擦った揉んだした結果、姉の私が同行するなら行ってきてもいいよということになりました。
しかし久し振りの海なので、二人ともろくな水着を持っていません。さっそく姉弟で買いに出かけることになりました。弟は中坊のくせにお洒落っ気満点で、前にTVで誰々がはいていたみたいなのがいいかな、それとも、などと出かける前から研究に余念がありません。
「姉ちゃんの分も俺が選んでやるからな」
ええ~~。
いくつかのお店を回りましたが、事前研究の甲斐あって、弟の分はすぐに決まりました。しかしいくらお洒落にうるさいといっても、やはりまだ中学生。私の分を選ぶのには手こずっていました。そこで私がいくつか候補を選び、その中から選択してもらうことに。
やっと決まって帰り道。「あんたお洒落を気取ってる割にはずいぶん迷ったじゃない」とからかうと、弟は「分かってねぇなぁ」と唇を尖らせました。そして視線をずらして恥ずかしそうに、「大事な姉貴が着るんだから、かわいくて、それでいてやらしい視線を受けない水着を探してたんだよ」と。あ…そうなんだ。ちょっと弟の思いやりにキュンとなった瞬間でした。
いよいよ海に行く当日です。眠い目を擦りながら、早い電車で出かけます。運良く座れたので、弟はずっと電車の中で寝ていました。こういうところはまだまだ子供です。そろそろ目的地。弟はハッと目を覚まし、隣を向いて「姉ちゃん!」。しかしそこには私が席をお譲りした和服のおばあちゃんが。電車が止まるまでの、弟の恥ずかしそうな様子といったらありませんでした。ククククク♪
到着です。更衣室を借りて着替えていざ海へ。さぁ泳ごうかと声をかけると、弟は「ばっかもーん」。あ、準備体操かというと、それもあるけどまずUVケアだろという答え。あ、そうか。
「俺の付き合いで大事な姉ちゃんを火ぶくれにするわけにはいかないからな」
またまた大事な姉ちゃんて…。きゅん。
弟に日焼け止めを塗ってもらって、準備体操もして、いざ海に。きゃー、つめたい。きゃーしょっぱい。でも最初は二人で浅瀬で楽しんでいたのですが、弟はすぐ深い方に向かってクロールしていってしまいました。自慢じゃないけど、私は生まれてこの方、足の届かない水に入ったことがありません。しばらく一人で浅瀬で遊んでいましたが、そのうち飽きて、砂浜に座ってぼーっとしていました。すると知らない男の人の声。
「彼女一人?俺らと遊ばない?」
「あ…あの…」
断ろうと思うのですが、びっくりして、緊張して、うまく言葉が出てきません。
「連れがいるとしても、今は一人なんだろう、あそこで冷たい物でも一緒に飲もうよ、おごるからさ」
えと、えと、ご厚意は有り難いのですが、私はそんなことにお応えできる人では…。
「いいじゃん、行こうぜ、海は楽しまなくちゃ」
い、いえ、私人見知りするたちなので、知らない人とは楽しめないんです~、ひぇぇぇぇぇぇん。
心の中の言葉も出せないでいたその時、弟の声。
「わりぃな、その子は俺の連れだ」
う、うわぁぁ、これぞ乙女の永遠の憧れの王子様。大げさですが、この時は弟が本当にそう見えてしまいました。
危機が去って、私はちょっと涙目です。
「姉ちゃんは自分が思ってるよりずっと、その、なんだ、人の目を引くんだから気を付けなきゃダメだろう」
「う、うん…」
それから弟は、ずっと私のそばにいてくれました。
「私はここにいるから一人で楽しんできていいよ」。そう言うと、「いやこれもけっこう楽しいから」。うそばっか。地味に砂山を作ってるお姉さんのお付き合いをして楽しいわけがないでしょう。お礼に浜茶屋で、焼きそばとかき氷をおごりました。
「やっぱ海へ来たらこれだよな、うめ~」
そんな言葉にも、私を思いやってくれる優しさが感じられました。
帰りの電車の中では、やはり眠そうにウトウトしている弟です。「今日はありがとね」と言うと、弟はコテっと頭を私の肩にもたれてきました。今の顔は小学生だったころと同じ顔をしています。でもあの時は、年上の私の連れとしてもおかしくない顔をしていました。あなたはもう、人を守れるほど強くなったんだね、今日はお姉ちゃん、もうちょっと甘えていい?私も弟にもたれかかって目をつぶりました。短い時間でしたが、とてもすてきな夢が見られた気がしました。
あれはまだ、弟が中学生のころでした。今年こそは海に行きたいと言っていたのですが、あいにく両親は都合が付きません。擦った揉んだした結果、姉の私が同行するなら行ってきてもいいよということになりました。
しかし久し振りの海なので、二人ともろくな水着を持っていません。さっそく姉弟で買いに出かけることになりました。弟は中坊のくせにお洒落っ気満点で、前にTVで誰々がはいていたみたいなのがいいかな、それとも、などと出かける前から研究に余念がありません。
「姉ちゃんの分も俺が選んでやるからな」
ええ~~。
いくつかのお店を回りましたが、事前研究の甲斐あって、弟の分はすぐに決まりました。しかしいくらお洒落にうるさいといっても、やはりまだ中学生。私の分を選ぶのには手こずっていました。そこで私がいくつか候補を選び、その中から選択してもらうことに。
やっと決まって帰り道。「あんたお洒落を気取ってる割にはずいぶん迷ったじゃない」とからかうと、弟は「分かってねぇなぁ」と唇を尖らせました。そして視線をずらして恥ずかしそうに、「大事な姉貴が着るんだから、かわいくて、それでいてやらしい視線を受けない水着を探してたんだよ」と。あ…そうなんだ。ちょっと弟の思いやりにキュンとなった瞬間でした。
いよいよ海に行く当日です。眠い目を擦りながら、早い電車で出かけます。運良く座れたので、弟はずっと電車の中で寝ていました。こういうところはまだまだ子供です。そろそろ目的地。弟はハッと目を覚まし、隣を向いて「姉ちゃん!」。しかしそこには私が席をお譲りした和服のおばあちゃんが。電車が止まるまでの、弟の恥ずかしそうな様子といったらありませんでした。ククククク♪
到着です。更衣室を借りて着替えていざ海へ。さぁ泳ごうかと声をかけると、弟は「ばっかもーん」。あ、準備体操かというと、それもあるけどまずUVケアだろという答え。あ、そうか。
「俺の付き合いで大事な姉ちゃんを火ぶくれにするわけにはいかないからな」
またまた大事な姉ちゃんて…。きゅん。
弟に日焼け止めを塗ってもらって、準備体操もして、いざ海に。きゃー、つめたい。きゃーしょっぱい。でも最初は二人で浅瀬で楽しんでいたのですが、弟はすぐ深い方に向かってクロールしていってしまいました。自慢じゃないけど、私は生まれてこの方、足の届かない水に入ったことがありません。しばらく一人で浅瀬で遊んでいましたが、そのうち飽きて、砂浜に座ってぼーっとしていました。すると知らない男の人の声。
「彼女一人?俺らと遊ばない?」
「あ…あの…」
断ろうと思うのですが、びっくりして、緊張して、うまく言葉が出てきません。
「連れがいるとしても、今は一人なんだろう、あそこで冷たい物でも一緒に飲もうよ、おごるからさ」
えと、えと、ご厚意は有り難いのですが、私はそんなことにお応えできる人では…。
「いいじゃん、行こうぜ、海は楽しまなくちゃ」
い、いえ、私人見知りするたちなので、知らない人とは楽しめないんです~、ひぇぇぇぇぇぇん。
心の中の言葉も出せないでいたその時、弟の声。
「わりぃな、その子は俺の連れだ」
う、うわぁぁ、これぞ乙女の永遠の憧れの王子様。大げさですが、この時は弟が本当にそう見えてしまいました。
危機が去って、私はちょっと涙目です。
「姉ちゃんは自分が思ってるよりずっと、その、なんだ、人の目を引くんだから気を付けなきゃダメだろう」
「う、うん…」
それから弟は、ずっと私のそばにいてくれました。
「私はここにいるから一人で楽しんできていいよ」。そう言うと、「いやこれもけっこう楽しいから」。うそばっか。地味に砂山を作ってるお姉さんのお付き合いをして楽しいわけがないでしょう。お礼に浜茶屋で、焼きそばとかき氷をおごりました。
「やっぱ海へ来たらこれだよな、うめ~」
そんな言葉にも、私を思いやってくれる優しさが感じられました。
帰りの電車の中では、やはり眠そうにウトウトしている弟です。「今日はありがとね」と言うと、弟はコテっと頭を私の肩にもたれてきました。今の顔は小学生だったころと同じ顔をしています。でもあの時は、年上の私の連れとしてもおかしくない顔をしていました。あなたはもう、人を守れるほど強くなったんだね、今日はお姉ちゃん、もうちょっと甘えていい?私も弟にもたれかかって目をつぶりました。短い時間でしたが、とてもすてきな夢が見られた気がしました。