その日私は夏休みを利用したバイトの帰りでした。乗換駅のホームで仕事帰りの父とよく行き会いますので、今日もいるかなと探してみると、いつもと同じ場所に立っていました。その日の気分によって、知らんふりして離れたところで電車を待つか、声をかけに行くかが違いますが、その日はなぜか、とても父と一緒に帰りたい気分でした。
「よぅ、今帰り?」
「お前もバイト帰りか、ご苦労さん」
仕事は慣れたか?、うん、なんか俺ああいう仕事向いてる気がするよ、なんて話しながら電車を待ちます。電車が来ました。一緒に乗り込んで、隣り合わせの吊革に掴まります。父親と同じ勤労帰りというところが、ちょっと誇らしげな私です。なんたって、一日働いてきたという立場では対等なんですから。いよっ、親父、あと何年かして俺が二十歳を超えたら、一緒に酒を飲みたいだろうw。そんなことを考えると、クスッと笑みがこぼれてきます。
「なんだ、バイト先で何かいいことあったのか?」
「いやぁ、今日チーフがさぁ」
窓の外に雨粒が流れていくのが見えました。あ、かなり本格的な降りになってきたようです。電車の騒音で音はよく聞こえませんが、かなり雷も光っています。すると、駅でもないのに電車が止まりました。
「大変ご迷惑をおかけします、停止信号です」
ありゃりゃ。ま、いいか。
しかし、電車はなかなか動きません。
「お急ぎの所、大変ご迷惑をおかけ致しております。ただ今落雷のため、ダイヤが乱れております。いましばらくお待ちくださいますようお願い致します」
わはは、夏の風物詩だね。そうだね。付近が一斉にざわめく中で、親子でここにいる私たちは平然としています。家族と一緒というのは心強いです。電車はずいぶん長く止まっていましたが、やっと次の駅にたどり着きました。
ここで電車は立ち往生。いつまでたっても発車する気配がありません。ダイヤは大混乱のようです。「あと3駅だし、ここで降りて歩いちゃおうか」と私。「でもまだかなり雨が強いぞ」と父。「改札を出てすぐにハンバーガーショップがあるから、そこで何か食って待とうよ、もちろんお父さんのおごりで」。「よーし、そうしよう」。交渉成立。今日は久し振りにサイドメニューがたくさん付けられそうです(笑)。イエに電話をして事情を説明すると、あらうらやましい、私もおごってもらいたかったと母。母が雷嫌いでなくて助かりました。ポテトにナゲットにシェイクも付けて、ゆっくりと雨が上がるのを待ちました。
やっと雨が上がりました。
「そろそろ行こうか」
「うん」
豪雨の後の道はまだ人通りも少なく、いつもと違うマチみたいです。私たちは二人、雨に洗われた爽やかな空気の中を肩を並べて歩き始めました。
「思い出すなぁ、お前が子供のころ、よくこんなふうに一緒に散歩したな」
「うん、なんだか早朝に散歩してるような涼しさだよね」
「コンビニあったらあのころみたいに何か買ってやりたいんだがな」
「この道にそんなの無いよ」
「知ってて言ってるんだよ」
楽しい会話が続きます。
おや、踏み切りに続く道の角にパトカーが止まっています。お巡りさんがマイクで迂回案内。どうやら踏み切り故障のようです。雷にやられてしまったのでしょうか。
「遠回りして帰ろうか」
「うん」
親子二人の散歩のような帰り道。今はこんなアクシデントも楽しい出来事です。
久し振りに父とゆっくり話しました。普段話せないこと、学校のこと、進路のこと、お互いが抱えている、相談するほどではないけれど心に引っかかっている悩み事、などなど。遠回りの道は、そんな親子の語らいの時間を、たっぷりと与えてくれました。
遠くでまだ、時々稲光が光ります。子供のころのお祭りの帰りを思い出しました。あの時は遠くの雷を恐がって、必死に父の手にすがりついて歩いていた私でした。
「お父さん、ここからもうちょっと遠回りしない?」
「なんだよ」
「ほら、向こうにコンビニ」
アイスと焼きそばと花火を買いました。焼きそばと花火は母へのおみやげです。あの雷雨は、家族とのコミュニケーションが途絶えがちな世代の私への、天からのプレゼントだったのかもしれません。些細な出来事ではありましたが、今も思い出す、懐かしい夏の日の一コマです。
その日私は夏休みを利用したバイトの帰りでした。乗換駅のホームで仕事帰りの父とよく行き会いますので、今日もいるかなと探してみると、いつもと同じ場所に立っていました。その日の気分によって、知らんふりして離れたところで電車を待つか、声をかけに行くかが違いますが、その日はなぜか、とても父と一緒に帰りたい気分でした。
「よぅ、今帰り?」
「お前もバイト帰りか、ご苦労さん」
仕事は慣れたか?、うん、なんか俺ああいう仕事向いてる気がするよ、なんて話しながら電車を待ちます。電車が来ました。一緒に乗り込んで、隣り合わせの吊革に掴まります。父親と同じ勤労帰りというところが、ちょっと誇らしげな私です。なんたって、一日働いてきたという立場では対等なんですから。いよっ、親父、あと何年かして俺が二十歳を超えたら、一緒に酒を飲みたいだろうw。そんなことを考えると、クスッと笑みがこぼれてきます。
「なんだ、バイト先で何かいいことあったのか?」
「いやぁ、今日チーフがさぁ」
窓の外に雨粒が流れていくのが見えました。あ、かなり本格的な降りになってきたようです。電車の騒音で音はよく聞こえませんが、かなり雷も光っています。すると、駅でもないのに電車が止まりました。
「大変ご迷惑をおかけします、停止信号です」
ありゃりゃ。ま、いいか。
しかし、電車はなかなか動きません。
「お急ぎの所、大変ご迷惑をおかけ致しております。ただ今落雷のため、ダイヤが乱れております。いましばらくお待ちくださいますようお願い致します」
わはは、夏の風物詩だね。そうだね。付近が一斉にざわめく中で、親子でここにいる私たちは平然としています。家族と一緒というのは心強いです。電車はずいぶん長く止まっていましたが、やっと次の駅にたどり着きました。
ここで電車は立ち往生。いつまでたっても発車する気配がありません。ダイヤは大混乱のようです。「あと3駅だし、ここで降りて歩いちゃおうか」と私。「でもまだかなり雨が強いぞ」と父。「改札を出てすぐにハンバーガーショップがあるから、そこで何か食って待とうよ、もちろんお父さんのおごりで」。「よーし、そうしよう」。交渉成立。今日は久し振りにサイドメニューがたくさん付けられそうです(笑)。イエに電話をして事情を説明すると、あらうらやましい、私もおごってもらいたかったと母。母が雷嫌いでなくて助かりました。ポテトにナゲットにシェイクも付けて、ゆっくりと雨が上がるのを待ちました。
やっと雨が上がりました。
「そろそろ行こうか」
「うん」
豪雨の後の道はまだ人通りも少なく、いつもと違うマチみたいです。私たちは二人、雨に洗われた爽やかな空気の中を肩を並べて歩き始めました。
「思い出すなぁ、お前が子供のころ、よくこんなふうに一緒に散歩したな」
「うん、なんだか早朝に散歩してるような涼しさだよね」
「コンビニあったらあのころみたいに何か買ってやりたいんだがな」
「この道にそんなの無いよ」
「知ってて言ってるんだよ」
楽しい会話が続きます。
おや、踏み切りに続く道の角にパトカーが止まっています。お巡りさんがマイクで迂回案内。どうやら踏み切り故障のようです。雷にやられてしまったのでしょうか。
「遠回りして帰ろうか」
「うん」
親子二人の散歩のような帰り道。今はこんなアクシデントも楽しい出来事です。
久し振りに父とゆっくり話しました。普段話せないこと、学校のこと、進路のこと、お互いが抱えている、相談するほどではないけれど心に引っかかっている悩み事、などなど。遠回りの道は、そんな親子の語らいの時間を、たっぷりと与えてくれました。
遠くでまだ、時々稲光が光ります。子供のころのお祭りの帰りを思い出しました。あの時は遠くの雷を恐がって、必死に父の手にすがりついて歩いていた私でした。
「お父さん、ここからもうちょっと遠回りしない?」
「なんだよ」
「ほら、向こうにコンビニ」
アイスと焼きそばと花火を買いました。焼きそばと花火は母へのおみやげです。あの雷雨は、家族とのコミュニケーションが途絶えがちな世代の私への、天からのプレゼントだったのかもしれません。些細な出来事ではありましたが、今も思い出す、懐かしい夏の日の一コマです。