学生の頃にやっていたバンド。夏こそ集中練習をしようと話し合っていたのですが、1回の練習ごとにスタジオ代がかかります。バイトもやらずにバンド三昧の学生には、これはなかなか厳しいものがありました。それぞれ小遣いが無いわけではありませんが、親からもらったお金をスタジオ代に注ぎ込むのは、何となくロックスピリットに反する気がします。
そんな時、友人の一人が、吉報をもたらしてくれました。「親戚の持ってる空き家が借りられるかもしれないよ」と。
「親戚の兄ちゃんも以前バンドやっててさあ、そこ使って練習してた記憶があるんだよ。畑のど真ん中だから、農作業のおじさん達から苦情が出るほどの騒音でなければ何とかなると思うよ」
彼はバンドのメンバーではありませんが、とてもいい友達です。その夜、早速親戚の人に電話を掛けてくれて、OKどころか一夏自由に使って構わないという、素晴らしい報告をくれたのでした。空き家とのことで電気が来ているかどうかが心配でしたが、まだ契約は解除されていないので、ブレーカーを上げれば使えるとのこと。
「俺も遊びに行くよ、肉持ってくからみんなでバーベキューしようぜ」
電話の向こうの彼の声も弾んでいました。
バンド用の機材一式をどうやって運ぶかという難問もありましたが、これも別の友人のお兄さんがトラックを出してくれることになって解決です。4トンの幌無しトラックですが、雨さえ降らなければ大丈夫。
「そういえばボーカルアンプはどうするよ」
「あ、俺たちの機材だけじゃマイクの音が出せないわけか」
「って俺たち自前のマイクもスタンドもないだろ」
しかし、これも仲間の応援で解決。足りない機材は別のバンドから借りられることになりました。
「俺らも行くからセッションしようぜ」
どんどん遊びに来てくれる仲間も増えてきました。
こんなふうにみんなの友情パワーで実現した一夏ぶっ通しのロングラン合宿。早朝、機材をトラックに積み込み、運転手役のお兄さんとその弟である友人が先発。私達は電車とバスを乗り継いで現地入りです。現地で合流して、家を貸してくださる方にご挨拶。
「おうおう、よく来たなあ、○○から話は聞いてっから。自治会にも話は通してあっから、盆踊りくれえの音は出して構わねえよ」
手ぶらではまずいだろうと途中で買ってきたのし紙付きの一升瓶を差し出すと、気を使わせてしまったなと、畑からスイカを採ってきてくれました。
「水道も出るから冷やして食え」
「あ、ありがとうございまーす!!」
車を出してくれたお兄さんは翌日仕事とのことでしたので、すぐに帰らなければなりません。同行してくれた友人も、ここで一旦帰ります。機材を下ろして、さっそく頂いたスイカを食べることにしました。冷やす暇もなく食べることになってしまったので生暖かいスイカでしたが、でもその味は格別でした。
夜はみんなでまず掃除。貴重な家をお借りするのですから、まずはピカピカに磨き上げるのが礼儀です。普段ならそんなことを進んでする奴は一人もいませんが、「合宿」という響きが、私達の何かを変えてくれていたのかもしれません。やっと一通り終わると汗びっしょり。風呂はここの持ち主のお宅でお借りできることになっていましたが、この日は水道の水を浴びました。ひゃ~~、冷たいっ!! 子供の頃の夏を思い出しました。
食事は、カセットコンロに乗せた飯盒で飯を炊き、初日の夜はレトルトカレー。食事が終わると、まだ寝るのは早いとばかりに、アコースティックギターを取りだして軽く何曲か流しました。ホーホーと遠くで鳴いているフクロウとセッションです。就寝は寝袋。キャンプの夜みたいでした。
アンプを使った本格的な練習は翌日から。でも、豊かな自然の中の生き物のことを考えて、ちょっとパワーは抑えめです。これが今まで音量に頼ってロックらしさを表現していた私達に、演奏技術を磨くことの大切さを教えてくれました。
あ、何か忘れてないか? 午後は近くの畑を回って、農作業に精を出している土地の皆さんにご挨拶です。
「わけえモンの音楽はいいのう」
「でもロックっちゅーのはもっとこう、ぐわっーとでけえ音じゃねえのか? 遠慮しねーでどんどんやんな」
「ナス食うか? キュウリやトマトもあるぞ、好きなだけ持ってけ」
「町まで行くのに足あんのか? 一夏いるなら買い物もせにゃなんめえ。おーい、おめえんとこに乗ってねえバイクあったなー?」
「おー、明日にでも運んできてやんべえ」
皆さん、こんなよそ者の若僧を大変な歓迎ぶりです。私達がドギマギしていると、ここはみんなで支え合って生きていく場所なんだから郷に入ったら郷に従えだと、逆に叱られてしまいました。
それからは、もちろんみっちりバンドの練習もしましたが、地域の人達との交流も楽しかったですね。エレキピアノを弾いてみんなで一緒にラジオ体操をやったり、草刈りを手伝ったり。8月のお盆には、さすがにロックというわけにはいきませんが、やぐらの上に登って、アコースティックで何曲か披露させてもらいました。やぐらの上で仰いだ星空の美しかったこと!!
さらに、入れ替わり立ち替わり遊びにやってくる友人達。花火にバーベキュー、もちろん他のバンドの連中が遊びに来てくれればセッションです。夜、田んぼの畦に出て、アカペラでボーカルやコーラスの練習をしたのも楽しい思い出でした。しばらく滞在しているうちに私達はすっかり現地に慣れ、ちょっと風のある夜なら蚊に刺されないことを発見したのです。
「今夜はいい風だ」
「よーし、練習は外に移動!!」
行き帰りはカエルの歌の輪唱です。豊かな自然の中で、みんなすっかり童心に返っているようでした。
音楽三昧で過ごしたこの夏は、私達の演奏技術を一回りも二回りも成長させてくれました。また、豊かな自然と温かな地域の皆さんの人の輪に囲まれて過ごした経験は、それまでの私達にはなかった音楽性を与えてくれました。合宿中に、新しい曲もたくさん生まれました。
そして文字通り「同じ釜の飯」を食い合って、家族のような強い絆を得たわがバンド。親元を離れて自炊をし、地域の人達と交わってきた経験は、私達の人間性をも、大きく育ててくれたようでした。
数々のかけがえのないものを掴んで帰った私達を、さらにこの合宿のために様々な力を貸してくれた仲間達が迎えてくれました。こうして演奏のテクニックも音楽性も、人としての経験も人間性も、仲間の輪も、大きく成長させてくれたあの年の夏。
今、私が抱いている田舎暮らしの夢やレストラン付き農園構想なども、この夏の思い出が下敷きになっていることは言うまでもありません。もちろん実現したら、そこで音楽もやりますよ!!
学生の頃にやっていたバンド。夏こそ集中練習をしようと話し合っていたのですが、1回の練習ごとにスタジオ代がかかります。バイトもやらずにバンド三昧の学生には、これはなかなか厳しいものがありました。それぞれ小遣いが無いわけではありませんが、親からもらったお金をスタジオ代に注ぎ込むのは、何となくロックスピリットに反する気がします。
そんな時、友人の一人が、吉報をもたらしてくれました。「親戚の持ってる空き家が借りられるかもしれないよ」と。
「親戚の兄ちゃんも以前バンドやっててさあ、そこ使って練習してた記憶があるんだよ。畑のど真ん中だから、農作業のおじさん達から苦情が出るほどの騒音でなければ何とかなると思うよ」
彼はバンドのメンバーではありませんが、とてもいい友達です。その夜、早速親戚の人に電話を掛けてくれて、OKどころか一夏自由に使って構わないという、素晴らしい報告をくれたのでした。空き家とのことで電気が来ているかどうかが心配でしたが、まだ契約は解除されていないので、ブレーカーを上げれば使えるとのこと。
「俺も遊びに行くよ、肉持ってくからみんなでバーベキューしようぜ」
電話の向こうの彼の声も弾んでいました。
バンド用の機材一式をどうやって運ぶかという難問もありましたが、これも別の友人のお兄さんがトラックを出してくれることになって解決です。4トンの幌無しトラックですが、雨さえ降らなければ大丈夫。
「そういえばボーカルアンプはどうするよ」
「あ、俺たちの機材だけじゃマイクの音が出せないわけか」
「って俺たち自前のマイクもスタンドもないだろ」
しかし、これも仲間の応援で解決。足りない機材は別のバンドから借りられることになりました。
「俺らも行くからセッションしようぜ」
どんどん遊びに来てくれる仲間も増えてきました。
こんなふうにみんなの友情パワーで実現した一夏ぶっ通しのロングラン合宿。早朝、機材をトラックに積み込み、運転手役のお兄さんとその弟である友人が先発。私達は電車とバスを乗り継いで現地入りです。現地で合流して、家を貸してくださる方にご挨拶。
「おうおう、よく来たなあ、○○から話は聞いてっから。自治会にも話は通してあっから、盆踊りくれえの音は出して構わねえよ」
手ぶらではまずいだろうと途中で買ってきたのし紙付きの一升瓶を差し出すと、気を使わせてしまったなと、畑からスイカを採ってきてくれました。
「水道も出るから冷やして食え」
「あ、ありがとうございまーす!!」
車を出してくれたお兄さんは翌日仕事とのことでしたので、すぐに帰らなければなりません。同行してくれた友人も、ここで一旦帰ります。機材を下ろして、さっそく頂いたスイカを食べることにしました。冷やす暇もなく食べることになってしまったので生暖かいスイカでしたが、でもその味は格別でした。
夜はみんなでまず掃除。貴重な家をお借りするのですから、まずはピカピカに磨き上げるのが礼儀です。普段ならそんなことを進んでする奴は一人もいませんが、「合宿」という響きが、私達の何かを変えてくれていたのかもしれません。やっと一通り終わると汗びっしょり。風呂はここの持ち主のお宅でお借りできることになっていましたが、この日は水道の水を浴びました。ひゃ~~、冷たいっ!! 子供の頃の夏を思い出しました。
食事は、カセットコンロに乗せた飯盒で飯を炊き、初日の夜はレトルトカレー。食事が終わると、まだ寝るのは早いとばかりに、アコースティックギターを取りだして軽く何曲か流しました。ホーホーと遠くで鳴いているフクロウとセッションです。就寝は寝袋。キャンプの夜みたいでした。
アンプを使った本格的な練習は翌日から。でも、豊かな自然の中の生き物のことを考えて、ちょっとパワーは抑えめです。これが今まで音量に頼ってロックらしさを表現していた私達に、演奏技術を磨くことの大切さを教えてくれました。
あ、何か忘れてないか? 午後は近くの畑を回って、農作業に精を出している土地の皆さんにご挨拶です。
「わけえモンの音楽はいいのう」
「でもロックっちゅーのはもっとこう、ぐわっーとでけえ音じゃねえのか? 遠慮しねーでどんどんやんな」
「ナス食うか? キュウリやトマトもあるぞ、好きなだけ持ってけ」
「町まで行くのに足あんのか? 一夏いるなら買い物もせにゃなんめえ。おーい、おめえんとこに乗ってねえバイクあったなー?」
「おー、明日にでも運んできてやんべえ」
皆さん、こんなよそ者の若僧を大変な歓迎ぶりです。私達がドギマギしていると、ここはみんなで支え合って生きていく場所なんだから郷に入ったら郷に従えだと、逆に叱られてしまいました。
それからは、もちろんみっちりバンドの練習もしましたが、地域の人達との交流も楽しかったですね。エレキピアノを弾いてみんなで一緒にラジオ体操をやったり、草刈りを手伝ったり。8月のお盆には、さすがにロックというわけにはいきませんが、やぐらの上に登って、アコースティックで何曲か披露させてもらいました。やぐらの上で仰いだ星空の美しかったこと!!
さらに、入れ替わり立ち替わり遊びにやってくる友人達。花火にバーベキュー、もちろん他のバンドの連中が遊びに来てくれればセッションです。夜、田んぼの畦に出て、アカペラでボーカルやコーラスの練習をしたのも楽しい思い出でした。しばらく滞在しているうちに私達はすっかり現地に慣れ、ちょっと風のある夜なら蚊に刺されないことを発見したのです。
「今夜はいい風だ」
「よーし、練習は外に移動!!」
行き帰りはカエルの歌の輪唱です。豊かな自然の中で、みんなすっかり童心に返っているようでした。
音楽三昧で過ごしたこの夏は、私達の演奏技術を一回りも二回りも成長させてくれました。また、豊かな自然と温かな地域の皆さんの人の輪に囲まれて過ごした経験は、それまでの私達にはなかった音楽性を与えてくれました。合宿中に、新しい曲もたくさん生まれました。
そして文字通り「同じ釜の飯」を食い合って、家族のような強い絆を得たわがバンド。親元を離れて自炊をし、地域の人達と交わってきた経験は、私達の人間性をも、大きく育ててくれたようでした。
数々のかけがえのないものを掴んで帰った私達を、さらにこの合宿のために様々な力を貸してくれた仲間達が迎えてくれました。こうして演奏のテクニックも音楽性も、人としての経験も人間性も、仲間の輪も、大きく成長させてくれたあの年の夏。
今、私が抱いている田舎暮らしの夢やレストラン付き農園構想なども、この夏の思い出が下敷きになっていることは言うまでもありません。もちろん実現したら、そこで音楽もやりますよ!!