THEME:「これがわが家の味、幸せ料理と思い出」
“ディア・ライフ”=『親愛なる日々』。イエは暮らしと人生の舞台。「LIFE」という言葉に、生活と人生の2つの意味をこめて、イエと家族のストーリーを語り合いませんか? 心のページに刻まれた思い出も、現在のイエでの愛しいワンシーンも。毎回のテーマに沿って素敵なエピソードを、豊かな暮らしを創っていく〈イエはてな〉のマインドで投稿ください!
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「Welcome to イエはてな」
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テーマ詳細とアイデア例
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※ピックアップ受賞メッセージは、〈みんなの住まい〉サイトにて記事紹介させていただきます。またメッセージは表記統一や文章量の調整をさせていただくことがございます。
※〈イエはてな〉では、はてなスターを「おすすめメッセージ」として活用しています。投稿期間中ははてなスターのご利用を控えていただけますようお願いいたします。
※質問は11月15日(月)正午で終了させていただきます。
鰹は安い切り落とし。これを見つけると、父は嬉々として買って帰ってきます。そしてさっさと台所に入って角煮を作り始めるのでした。鰹は一口大のサイコロ状。ちょっと癖のある魚ですから、塩をして一時間ほどおきます。ここで小休止。父はゆっくりとテレビなど見ながら過ごしますが、番組が終わると次の作業の合図ですから、再び台所に向かいます。
ヤカンにたっぷりの湯を沸かし、塩をした鰹をザルにとって湯をかけます。これで塩と共に臭みを洗い流すということなのでしょう。熱が深部まで通らないようすぐに冷水にとって冷ましながら軽く洗い、再びザルに上げて水を切ります。
煮汁は醤油をベースに、みりん、酒、少量の塩で味を調えた物。鰹を入れ、千切りにしたショウガを散らし、丸のままの山椒の実もパラパラと入れて落とし蓋。あとはコトコト煮ていきます。火は沸騰したら即座に弱火に落とし、時間をかけて煮含めていくのが美味しく作る要点。だいたいこんな料理です。
一時期、私と父はよく衝突をしていました。もちろんそんなに深刻なものではありません。どこにでもあるような世代のギャップが売り言葉に買い言葉となって言い争いになる程度ですが、若さゆえっていうやつでしょうか、言い過ぎた、悪かったと思っても、私からは謝ることが出来ないのです。
ある時、父がコンコンと部屋の扉を叩きました。続いてコーヒー淹れたから持ってきたぞの声。ドアを開けると、父が手にしたお盆の上には、コーヒーカップと湯飲みが一つずつ。そして鰹の角煮が入った小鉢が一つ乗っていました。「入れよ」「おう」。ぶっきらぼうなやり取りの後、私はコーヒー、父は角煮を摘みながらお茶。お互い視線を逸らして押し黙ったままの奇妙な茶会が始まりました。
どうにも間が持たなくなって、小鉢の角煮に指を伸ばそうとしたら、父が「箸、使うか?」。不思議な物です。喧嘩をしていても、親子なら同じ箸が平気で使えます。父の好きな角煮の味もコーヒーと一緒では台無しですが、とても優しい味に感じられました。お互い終始押し黙ったままでしたが、今思い出すと、あれはかけがえのない時間だったと思います。
先日もこの角煮が食卓に登りました。もう父はいませんので母が作った物ですが、その味は今も変わりません。「煮魚っていうのは調味料の分量なんか適当でいいの。大事なのは火加減。お父さんの後ろ姿を思い出しながら作ると同じ味に出来るのよ」。私も台所に立つ父母の背中を思い出しながら同じ味が出せるよう、この料理を受け継いでいきたいと思っています。