大人でも子供でも、遊びに熱中してしまうと、まだイエには帰りたくない、なんて思ってしまうものですね。イエに帰る、イコール楽しい時間の終わり、と考えてしまうんです。
あれは小学生の時。季節は夏休みでした。私達仲良し仲間数人は、まだ日が高いうちから隣町のお祭りに遠征していたんです。隣町といっても線路を挟んだ向こう側ですから、そんなに遠くはありません。ほとんど地元のようなものです。
そのお祭りは、付近一帯を通行止めにして、道の両側にたくさんの露店が並ぶ、なかなか大規模なものでした。大きな通りだけでなく、脇道にも露店が並んでいますから、私達はあっちの道、こっちの道と探検気分で走り回りました。たこ焼きも食べたしラムネも飲んだし、ハズレしか出なかったけどクジも引いたし。御神輿も見たし、山車の行列の後にもついて回って、私達は大満足でした。
でも、子供の楽しみはまだまだ終わりません。一通り回るだけ回ったら、今度は知り合い探しです。
「お、あれ、隣の組のやつらじゃね?」
「ほんとだ、おーい!!」
普段は話をしたこともないような同級生でも、こういう所で出会えば大の仲良しです。新たな友達と出会うたびに、一緒にぐるっともう一周。こんなことを繰り返していると、いくら時間があっても足りません。お囃子や太鼓の音。活気のある人波。私達は時間の経つのも忘れて遊び回っていました。
でも、もっとここで遊んでいたいという私達の願いとは裏腹に、宵闇は確実に近付いてきます。学校の腕章を付けた先生や保護者会の人達が、すれ違う子供達に「そろそろ帰る時間だぞ、もっと楽しみたい人は一旦帰って、改めて大人の人に連れてきてもらうこと」などと声をかけて回っています。私達も呼び止められて注意を受けました。「はーい、今帰る所でーす」と答えましたが、心はもっと遊んでいたい気持ちで一杯でした。
帰り道で、浴衣姿の女子とすれ違いました。お父さんと一緒です。親子で楽しそうにお祭りに向かっています。「俺もあとでお父さんともう一度来よう」「俺も俺も」。友達はみんな口々にそう言っていましたが、私はその日、父の帰りが遅いことを知っていました。母もあまり体が丈夫ではないので、人混みに連れて行ってもらうのは望み薄です。仕方ないか・・・・。私はちょっと重い足取りでの帰り道でした。
「ただいまー」「お帰りなさい、お祭り、楽しかった?」。母が明るく迎えてくれました。私も努めて明るく「うん、向こうでもいっぱい友達に会ってさあ」などと昼間あったことを色々話しましたが、心の中では、『もう一回お祭りに行きたいなあ、見たいなあ、夜のお祭り・・・・』、そんなことばかり考えていました。
「夕ご飯食べられる?」
「うん、昼間たこ焼き一皿食べただけだからお腹空いた」
「たこ焼きだけかあ。じゃ、夕ご飯は焼きそばにしようか。お祭りみたいにマヨネーズかけ放題」
「あ、いいね!!」
ソースの焦げる、いい香りがしてきました。お祭りの匂いです。
「青海苔もかける?」
「かけるかける」
「はい、お客さん、500万円」
「た、高い~」
話にも花が咲きます。私が今日見てきたばかりのお祭りのこと。そして母が子供の頃に体験したお祭りの話。とりわけ母の子供時代の話は楽しいものでした。今はあまり見られないバナナのたたき売りや、わけの分からない品物を口上たくみに売り捌く寅さんみたいな人の話など。私はまるで二つ目のお祭りを回っているような気持ちで聞き入っていました。イエに帰ればいつもの日常。楽しかった時間はもう終わり。そう考えていた私には、思いがけない楽しい夕食になりました。
時計の針が夜9時に近付きます。そろそろお祭りも終わる時刻。父が帰ってきました。手には大きな袋の花火セットをぶら下げています。
「ちょっと時間遅いけど、これ、やらないか?」
「やるやる!!」
母も出てきて、さっそく庭で花火大会が始まりました。イエがこんなに楽しいお祭りの続きになるなんて。私は今、誰よりも楽しいお祭りの夜を過ごしています。赤や緑の美しい光。匂い立つ夏の香り。私はもう、はしゃぎまくりでした。
線香花火が始まると、そろそろ花火も終盤です。
「いつか、家族みんなでお祭り、行こうな」
父がぽつりとつぶやくように言いました。母がコクリとうなずきました。私は何だか瞼が熱くなってしまって、目をゴシゴシとこすりました。父に見られたので、煙い~と誤魔化しました。みんなの笑い声が上がりました。やっぱりイエが一番です!!
大人でも子供でも、遊びに熱中してしまうと、まだイエには帰りたくない、なんて思ってしまうものですね。イエに帰る、イコール楽しい時間の終わり、と考えてしまうんです。
あれは小学生の時。季節は夏休みでした。私達仲良し仲間数人は、まだ日が高いうちから隣町のお祭りに遠征していたんです。隣町といっても線路を挟んだ向こう側ですから、そんなに遠くはありません。ほとんど地元のようなものです。
そのお祭りは、付近一帯を通行止めにして、道の両側にたくさんの露店が並ぶ、なかなか大規模なものでした。大きな通りだけでなく、脇道にも露店が並んでいますから、私達はあっちの道、こっちの道と探検気分で走り回りました。たこ焼きも食べたしラムネも飲んだし、ハズレしか出なかったけどクジも引いたし。御神輿も見たし、山車の行列の後にもついて回って、私達は大満足でした。
でも、子供の楽しみはまだまだ終わりません。一通り回るだけ回ったら、今度は知り合い探しです。
「お、あれ、隣の組のやつらじゃね?」
「ほんとだ、おーい!!」
普段は話をしたこともないような同級生でも、こういう所で出会えば大の仲良しです。新たな友達と出会うたびに、一緒にぐるっともう一周。こんなことを繰り返していると、いくら時間があっても足りません。お囃子や太鼓の音。活気のある人波。私達は時間の経つのも忘れて遊び回っていました。
でも、もっとここで遊んでいたいという私達の願いとは裏腹に、宵闇は確実に近付いてきます。学校の腕章を付けた先生や保護者会の人達が、すれ違う子供達に「そろそろ帰る時間だぞ、もっと楽しみたい人は一旦帰って、改めて大人の人に連れてきてもらうこと」などと声をかけて回っています。私達も呼び止められて注意を受けました。「はーい、今帰る所でーす」と答えましたが、心はもっと遊んでいたい気持ちで一杯でした。
帰り道で、浴衣姿の女子とすれ違いました。お父さんと一緒です。親子で楽しそうにお祭りに向かっています。「俺もあとでお父さんともう一度来よう」「俺も俺も」。友達はみんな口々にそう言っていましたが、私はその日、父の帰りが遅いことを知っていました。母もあまり体が丈夫ではないので、人混みに連れて行ってもらうのは望み薄です。仕方ないか・・・・。私はちょっと重い足取りでの帰り道でした。
「ただいまー」「お帰りなさい、お祭り、楽しかった?」。母が明るく迎えてくれました。私も努めて明るく「うん、向こうでもいっぱい友達に会ってさあ」などと昼間あったことを色々話しましたが、心の中では、『もう一回お祭りに行きたいなあ、見たいなあ、夜のお祭り・・・・』、そんなことばかり考えていました。
「夕ご飯食べられる?」
「うん、昼間たこ焼き一皿食べただけだからお腹空いた」
「たこ焼きだけかあ。じゃ、夕ご飯は焼きそばにしようか。お祭りみたいにマヨネーズかけ放題」
「あ、いいね!!」
ソースの焦げる、いい香りがしてきました。お祭りの匂いです。
「青海苔もかける?」
「かけるかける」
「はい、お客さん、500万円」
「た、高い~」
話にも花が咲きます。私が今日見てきたばかりのお祭りのこと。そして母が子供の頃に体験したお祭りの話。とりわけ母の子供時代の話は楽しいものでした。今はあまり見られないバナナのたたき売りや、わけの分からない品物を口上たくみに売り捌く寅さんみたいな人の話など。私はまるで二つ目のお祭りを回っているような気持ちで聞き入っていました。イエに帰ればいつもの日常。楽しかった時間はもう終わり。そう考えていた私には、思いがけない楽しい夕食になりました。
時計の針が夜9時に近付きます。そろそろお祭りも終わる時刻。父が帰ってきました。手には大きな袋の花火セットをぶら下げています。
「ちょっと時間遅いけど、これ、やらないか?」
「やるやる!!」
母も出てきて、さっそく庭で花火大会が始まりました。イエがこんなに楽しいお祭りの続きになるなんて。私は今、誰よりも楽しいお祭りの夜を過ごしています。赤や緑の美しい光。匂い立つ夏の香り。私はもう、はしゃぎまくりでした。
線香花火が始まると、そろそろ花火も終盤です。
「いつか、家族みんなでお祭り、行こうな」
父がぽつりとつぶやくように言いました。母がコクリとうなずきました。私は何だか瞼が熱くなってしまって、目をゴシゴシとこすりました。父に見られたので、煙い~と誤魔化しました。みんなの笑い声が上がりました。やっぱりイエが一番です!!