a vole in the watering can again cloudless
という俳句の訳が、
「ハタネズミが じょうろの中に 再び晴れ渡って」
なんです。意味が分かりません。英訳自体はおかしくないと
思うのですが……。
ドイツの方の俳句なのですが、なにかドイツ独特の比喩とか
言い回しなんでしょうか?
分かる方いらっしゃいましたら、教えて頂けないでしょうか。
俳句には一つの句に対して色んな解釈が有る場合が有りますので、質問文中の英語俳句について、解釈の仕方の一例を書く事にします。
質問されておられる俳句は、
「第二十一回 お~いお茶新俳句大賞 英語俳句の部」
http://www.itoen.co.jp/new-haiku/21/gaikokugo.php
の「英語俳句の部 優秀賞」の中の一句ですね。
a vole in the watering can again cloudless
(直訳)ハタネズミが じょうろの中に 再び晴れわたって
――――――――――――――――――――――――――――― ドイツ Martina Heinisch 49歳
この英語俳句では、英文の「直訳」を少し「意訳」側に寄せる様にして読みとってみると理解し易くなるのではないか、と思います。
まず、使われている単語について考えてみましょう。
形容詞の「cloudless」の元々の意味は「雲が無い、晴れ渡った」というものです。
ここから「何の陰りも無い」、「不審なところがない」、「問題無い」などの意味が派生しています [ジーニアス英和第辞典/大修館書店] [新英和中辞典/研究社] 。
名詞の「vole」というのは「ハタネズミ」と訳されている通り、小型のネズミの総称です。
英語版Wikipediaの写真を見ると、こんな感じで可愛く見えますね。
[ http://en.wikipedia.org/wiki/Vole ]
次に、既に十分ご存知の事とは思いますが、俳句の技法について少し復習してみましょう。
日本語の俳句には御馴染の季語や季題の他、「切れ」や「客観写生」などが有ります。
http://ja.wikipedia.org/wiki/俳句#切れ
英語俳句でも用いられています。
http://ja.wikipedia.org/wiki/俳句#海外における俳句
英語俳句(Haiku in English参照)は3行17音節で構成されるのが典型的であるが、1、2、4行(またはそれ以上)のもの、16音節以下のものも珍しくない。
英語俳句においても季語(season word)、切れ(cut)を入れるのが通則とされている。
気候風土の違いもあって季語には日本にはない文物・習慣も多く採用されている。
切れ字はないが、句読点や疑問符、感嘆符、ダッシュ等の使用により切れを明示することがある。
「切れ」の位置を「,」と「、」で表す事にして、仮に
a vole in the watering can again, cloudless
という風にしてみましょう。英語俳句を通常の英文に近い形に見立てて、ネズミの状態をはっきりさせる為です。
これをオリジナルの直訳に反映させると、
ハタネズミがじょうろの中に再び、晴れ渡って
となりますよね。
これらの事から意訳してみると、
「ちっちゃいネズミがじょうろの中にまた入っちゃってるよ、お天気が良いからかな ( ちっちゃいネズミが可愛い感じで、何の問題もないし、お天気も良くて、のんびり、のんきな感じがいいよね )」、
などと解する事ができると思います。
読み人は、今すぐじょうろを使う必要が無いのでしょうか。それとも、「ネズミが入っちゃったから、驚かさない様にじょうろを使わないでおこう」、などと考えたのでしょうか。この辺りは正に想像を膨らませられる、楽しい部分になりますよね。
こう理解すると、「切れ」の位置が「can」と「again」の間にあるとしても、この句の深いところの解釈は殆ど変わりが無いと考えられると思います。
日本語でも言葉の意味などを少しは深く理解していないと、文中から描かれた情景を汲み取ったりする事ができない場合が有りますよね。外国語俳句でも同様だと思います。
同じく優秀賞を受賞した句で分かり易い例が有りました。「ハタネズミ」の句の2つ下のものです。
Monday a swarm of gardeners on the tulips
(直訳)月曜日 大勢の園丁が チューリップの世話をしている
――――――――――――――――――――――――――――― ニュージーランド Barbara Strang 65歳
「a swarm of gardeners」を「大勢の園丁」としていますよね。
「swarm」には単に「群れ」、「大勢」だと言う意味が有ります。この言葉に「 ( 群れで行動する ) 昆虫の群れ」とか「ハチの群れ」という第一義が有る事も理解していれば、例えば「沢山のハチがチューリップの周りを忙しく飛び回っている」という感じの情景が想像できたりします。意訳で「ハチの植木屋さんたちが」などという風にする事もできて、より分かり易くする事ができるという訳ですね。
コメント(1件)
凄く分かりやすかったです。
日本語でも難しいのに、英語だとニュアンスを
読み取るのは難しいですね。
でもそこが俳句の楽しさかも知れませんね。