テーマ:『それは1分間の出来事だった』を使った文章。
創作文章(ショート・ストーリー)を募集します。
ルールははてなキーワード【人力検索かきつばた杯】を参照してください。
締切は5月29日(日)午後9時以降、締切後に一斉オープンします。
※
・時間は、必ずしも「1分」でなくてもいいです。
・時間を表す言葉であれば、数値でなくても構いません。
・時間を修飾する語を入れるのもOKです。
ドアが開いた。
「箱」から、一斉にあふれ出していく、
人。ひと。ヒト。
みんな、どこに向うのだろうか。
きっとロクなところじゃないんだろう。
きっとそうだ。
そのうちの1人と一瞬、目が合う。
全然知らないヒトだ。
でも、きっと、
今まで何度も会ったことがあるだろうし、
何度も目が合ったことがあるだろうし、
何度もこうやってすれ違っているヒトだ。
はじめまして。
さようなら。
僕はそう心で呟き、みんなが出た後の「箱」に入る。
右手に空いた椅子がある。
僕はそこに座る。
見上げると、頭上に「輪っか」がぶら下がっていた。
首を吊ってヒトが死なないように、頭が入らない大きさの「輪っか」がぶら下がっている。
突然、僕の目の前にヒトが立ち、その「輪っか」を引っ張った。
彼は、にやりと笑いながら言った。
「これを引っ張ると、世界が消滅するんだぜ」
同時に、ブザーが鳴った。
僕は、とてもワクワクした。
プシュー、ガチャン。
けれど、僕の1秒間の妄想は、ドアが閉まる音で現実に引き戻された。
追い討ちをかけるように、車内アナウンスが僕の望まない未来を告げた。
「次は、○×駅、○×駅」
僕を入れた鉄の箱は、今日もまた、敷かれたレールの上を走っていく。
それは一分間の出来事であった。
ボクシングの試合をしていて、
敵と殴り合う瞬間、
時間を止めて、家に帰って、グローブに入りそうな鉄の重りを探して、
見つからなかったので、スーパーに行って探して、
見つからなかったので、
結局実力で勝負すると決めて、
リングに戻って来て、敵のポーズを観察してから時間を再び動かす。
そして、敵のパンチが当たるより一瞬早く自分のパンチを当てた。
その試合が放送された後、
某掲示板で、
選手の動き方がおかしいと騒ぎになっていた。
もう止まらない。止められない。
僕は落ちていく。
誰にも邪魔させない。邪魔できない。
僕は落ちていく。
ゆっくりと、だが確実に僕は落ちていく。
背の高いやつが目の前に立ちはだかる。
あいつにも止められない。
僕は落ちるところまで落ちた。
もうここでおしまいか……。
すると、今まで落ち続けた反動だろうか。
上へ行かなければという気持ちになった。
不思議なまでの上昇志向。
早く、早く上へ、上へ。
一歩ずつ、上へ。
太ったやつが僕を止めようとする。
勢いづいた僕は誰にも止められない。
やっと、やっと僕はここへ帰ってこれた。
さっきまで僕がいた場所。
『それは1分間の出来事だった』
もう止まらない。止められない。
僕は落ちていく……
『出小手』
「はじめっ」
はじかれたように右手が動く、左手は滑らかに下に沈む。軸足に一旦乗った体重を、右足に乗せて一気に前に押し出す。わずかに上がった右手は、相手の中心から左側に切り込む。
鋭く短く右手を落としながら、全体重を右足に乗せて「ドンッ」と踏み込む。
竹刀が相手の右小手に食い込む感触を得る寸前
「こてぇぇぇぇ」
と声を相手にぶつける。
逃げる右手に竹刀を合わせ、体は二太刀目への準備を始める。
つばがぶつかり、体を預ける。
「えぇぇぇぇ」
声を出し続けながら、相手の脇を抜ける。
一歩、二歩、三歩振り向く。
残心をとりながら、目の隅に旗が見えた。
赤が三本上がる。
それは、5秒半の出来事だった。
「小手ありぃ」
魔法少女である豆柴クリステルは、一本の棒のようなモノを持っていた。
棒のようなモノにしか見えないが、これは実は立派な魔法武器。名前を『それは1分間の出来事だった』という。変な名前だが、マジックアイテムというものは得てしてそういうものだ。
かくいう俺の持っているこのアイテムは『前回のかきつばた杯に参加できなかった』というもので、少女を裸にする、ただそれだけのアイテムだ。
そして俺は『前回のかきつばた杯に参加できなかった』を使おうと、それを振り上げた。
しかし、豆柴クリステルの一撃の方が早かった。
魔法少女は『それは1分間の出来事だった』を使った。『それは1分間の出来事だった』は使用すると、スケベニンゲンが死ぬ。
「うぎゃー」
俺は死んだ。スイーツ。
ドアが開いた。
「箱」から、一斉にあふれ出していく、
人。ひと。ヒト。
みんな、どこに向うのだろうか。
きっとロクなところじゃないんだろう。
きっとそうだ。
そのうちの1人と一瞬、目が合う。
全然知らないヒトだ。
でも、きっと、
今まで何度も会ったことがあるだろうし、
何度も目が合ったことがあるだろうし、
何度もこうやってすれ違っているヒトだ。
はじめまして。
さようなら。
僕はそう心で呟き、みんなが出た後の「箱」に入る。
右手に空いた椅子がある。
僕はそこに座る。
見上げると、頭上に「輪っか」がぶら下がっていた。
首を吊ってヒトが死なないように、頭が入らない大きさの「輪っか」がぶら下がっている。
突然、僕の目の前にヒトが立ち、その「輪っか」を引っ張った。
彼は、にやりと笑いながら言った。
「これを引っ張ると、世界が消滅するんだぜ」
同時に、ブザーが鳴った。
僕は、とてもワクワクした。
プシュー、ガチャン。
けれど、僕の1秒間の妄想は、ドアが閉まる音で現実に引き戻された。
追い討ちをかけるように、車内アナウンスが僕の望まない未来を告げた。
「次は、○×駅、○×駅」
僕を入れた鉄の箱は、今日もまた、敷かれたレールの上を走っていく。
さよならバービロン♪
それは一分間のできごとだった・・・
そうだれかが人を殺した事件だ
警部(これは・・・)
そう1分たったあとに殺人を行われている家もあったのだ!!
そしてその家は近くだったのだ!!
そして挟まれている家があった
その家が犯人だった!! こんなやつつくったけどこれでいい?w
1分間の出来事で印象に残っていることですか?
うーん、正確には1分かどうかわからないですけど、これなんかどうだろ。
大学生の頃の話に地元のコンビニでアルバイトをしていたことは前に話しましたよね?
通常は授業が終わった後の夕方から夜9時までのシフトだったのですが、夏休みなどの長期休暇の時は稼ぎたいので夜勤に入ることもありました。
夜勤の勤務時間は0時から朝8時まで。深夜は客も少なくて暇なことは暇なんですけど、その代わりに清掃や納入された商品の検品と陳列などそれなりに仕事はあるのですよ。どちらかというとそちらがメイン。
そして近辺は工場が多かったので朝は新聞・雑誌に煙草や飲み物を購入する客が次から次へと来店してちょうど7時台がラッシュアワー。ああ、あの辺の工場は8時始まりが多かったので。だからその時間帯はレジ前の行列が切れることなくて休む間もなくレジを叩いていました。
え?コンビニのバイトって楽そう?
いやいや、たまに聞かれるんですけど、まったくそんなことないです!
時給はさほど高くない割には覚えること・やること多くて大変なんすよ。
それでも4年近く続けられたのは自分に合っていたのかもしれないですけど。
そんな中で特に印象深い出来事があります。
あれは大学2年の3月のことでした。
いつものように夜勤をこなし、もうすぐ勤務時間が終わるかという時間だったと思います。
行列の最後の客を「ありがとうございましたー」と見送って自動ドア越しに駐車場を見たのですが、前に買い物したお客さんが軽自動車に乗って駐車場から出て行くのが見えました。
うちは片田舎の店なので駐車場はそれなり広く取ってある方だと思います。ただ、面している道路がカーブになっているんで左右が見づらくて、出入りの際ちょっと危ないんですよね。車来てないと思って道路に出たら実はすぐ後に来てたみたいな。
その軽自動車が道路に出た途端ですよ。その後ろからトラックがキキーッっとすごい音を立てて急接近。そんであわや衝突、というところでトラックはハンドル切って駐車場の方に突っ込んできたのです。
そのまま止まりきれずに車体を若干傾けながら店に向かってきて、今動き出したばかりのバンの左側面にドスン!と激突。そのまま店の目の前で二台とも横倒しに。バンの運転手もよけようがなかったでしょう。
軽自動車の不注意はもちろんでしょうけど、そのトラックもたぶんブレーキで対処できないくらいだから結構なスピード出ていたと思うんですよね。でも駐車場に入ってきてからは少なくとも私の目にはスローモーションのように写っていました。
そしてぶつかった衝撃で二台の車はいともたやすく変形していくと同時に破片のようなもの撒き散らしたのですが、なにかキラキラするものがこちらに向かってくるのが見えました。
それが閉まりかけていたドアの隙間からクルクル回転しながら飛んできて、レジ後ろの棚に置いてあった贈答用のお菓子の箱にグサっと突き刺さりました。振り返って見るとトラックのワイパーの先の部分でした。
そういう時って自分自身で危険を認識していても咄嗟に動けないものなんですね。運が良かったということですけど、もう30cm下にずれていたらと思うとぞっとしました。
その後は警察や救急車だけでなく近所から野次馬までやってきて駐車場はカオス状態。
私はというと、目撃者ということで近くにいたお客さんと一緒に事故の状況を警察に話したり、駐車場の片付けを手伝ったりで結局帰宅できたのは午後1時過ぎ。夜勤明けということもあって身も心もくたくたになって大変な一日でした。
あれから10年以上経ちましたがあの事故の様子だけは忘れることがきませんね。
その瞬間は数分くらいに感じたのですけど、実際は自動ドアが開閉する間に起こった出来事だったのです。
すぐ隣に立っていた彼が友達を蹴っ飛ばした。
蹴っ飛ばされた友達は僕の足元まで来て、そこで止まった。
残り時間はあと少し。僕がやらなければならないことは明白だ。
僕は、友達を思いっきり蹴った。
友達は、大きく弧を描き大空高く舞い上がる。
呆然と見上げる半そでシャツをさらに腕まくりした新聞配達の少年や、坊主頭のその後輩。
望遠レンズを構えた記者。あねご肌の応援団長などが、それぞれの頭の中で思い思いに心中を叫ぶ。
友達は、鋭く回転しながら空手チョップの達人の脇を通り抜けてゴールネットを突き破り、そのまま虚空へ消えていった。
長く見積もっても、数秒間の出来事。
しかし、テレビアニメの放映時には、それは数分間の出来事だった。
しかも、いいところで分断され2週に渡って放映された。これは本筋とは関係ない話。
<ここまでで、約8分>
既確認飛行物体――内部にいる彼らにとっては――の中で繰り広げられる混乱。
『高エネルギー体接近!』
『迎撃用意!』
『カウントダウン省略、直ちに発射せよ!!!!』
成層圏を突き抜けて飛来した物体を、打ち落とすべく放たれた一条のビームはその目的を果すことなく
飛来物を貫通し、青く輝く惑星へ向けて邁進した。一棟のこじんまりした建築物に向けて。
その直後、彼らの乗った既確認飛行物体は、多少の勢いを削がれながらも尚迫り来るサッカーボールと激突し大破した。
その事実を確認した彼らの本隊は、地球にも強力な攻撃兵器ありと判断し地球への侵略を先送りにした。
それは、彼らの襲来を予見し、実際に決戦兵器を開発、地道な訓練を行っていた集団にとって幸運な出来事であったか、
はたまた、活躍の機会を奪う不運な出来事であったのかは、今もって謎である。
<ここまでで19分>
「扶亜よ、見よ! 新発明<屈折君>じゃ。これはあらゆるエネルギーを屈折させる非常に便利な装置でな」
「どうみても、子供が探偵ごっこで使うような潜望鏡にしか見えませんが……」
「それなら、これはどうじゃ? あらゆるエネルギーを増大または減少させる<リキバートンネル>」
「それは……例のあれですの? SモールライトやBッグライトの変わりに使う秘密道具がモチーフで?」
某研究施設で、不毛な会話を行う親子の心情などいざ知らず、天井を突き破って室内に侵入を果たした光線は、
<屈折君>によって方向を変えられ、<リキバートンネル>によってそのエネルギーを増大させながら窓ガラスを
貫いて、一瞬にして通り過ぎた。
「……お父様? 今のもお父様の発明か何かですの?」
「いや、儂は知らん。が、地球には存在しない高度な技術によって意図的に為された攻撃っぽいなぁ。
一応、例の機関に報告しておいてくれるか」
「了解いたしました」
<ここまでで、26分>
(あっ!)
地面に落ちた百円硬貨を拾おうとした、何の変哲も無い少年が身を屈めた瞬間、その頭上をど太い光軸が突き抜けていった。
ちなみに、すんでのところで被害を免れたこの少年は、後に地球を絶対なる危機から救うために闘うはめになるのだが、
それは少しだけ未来の出来事。
<なんか時間がかかって35分経過>
満を持して放った魔球、後述2号が真芯で捉えられた。すんでのところで打球は切れてファールとなったが、
もうこの打者には通用しないだろう。
(くそう! こうなったら新しい魔球を試すしかない!)
(来い! キミの全ての力を、僕は叩きのめそう!)
「食らえ! 地区対抗親睦ソフトボールリーグボール3号!!!!」
(えっ! それ投げるの? それって確かキャッチャーにとっても、地球にとっても最凶のボールだったって……
だから実践では使えないどころか、理論的には完成していても決して練習だろうがなんだろうが投げてはいけないって……)
究極の魔球である略3号の原理は、某3号の理論を更に進化させたものである。
某3号が――空想科学読本ではなんと解析されようが――スイングしたバットの風圧によって軌道がずれるため、
決して当たらないはずのボールであったのに対して、略3号はそもそも、どうやっても当たらない魔球なのだ。
バットもボールも、原子レベルではスカスカの状態なので、なんかうまいことやったらすり抜けることも可能なんじゃない?
という安易な発想の元に考案され、とある科学者の独自理論を元に握り方や投球フォームが伝授された。
運よく投球に成功し、その後もそれ相応の運のよさを持続できればバットはおろか、キャッチャーや審判をすり抜けて
宇宙の彼方に飛んでいくらしいが、運が悪かったらその結果は考えたくも無い程のエネルギーを秘めているらしい。
まさに真の意味での魔球。
既に投じられてしまった魔球が……まさにバットに捉えられようとしたその瞬間…………
<なんだかんだで小一時間>
「キミはナニをネガウ?」
「…………全ての魔球を打ち破りたい!! 全ての宇宙、過去と未来の全ての魔球をこの手で…………」
「へぇ~~、そうなんだ……」
「えっ!? 叶えてくれるんじゃないの」
「そうだよ、聞いただけ」
「むっ、無責任な……」
おしまい。
構想にかかった時間 暇を見つけてこつこつと。算出不能。
文章を書いた時間 約一時間
この回答の価値 プライスレス(無価値ってこと? いや20ポイント前後のはず。)
『はてなポイント』じゃ買えない価値がある。買える物は『はてなポイント』で。お早めに。
・
・
・
推敲にかかった時間、ほぼゼロ。誤記等の見直しで10分ほど。
それは約70分間の出来事だった。
神田青年は文字通り全身で落ち込んでいる。
強い日差しを受けて照り返す舗装路は、昼過ぎには真夏日の温度を越え、帽子も被らずに俯いたままとぼとぼと歩く彼の姿は遠目には陽炎に揺られるほどです。今の彼の歩幅は推定約15cm、歩調も途切れがちです。
「あ~あ、なんでこんなことに」
本日、彼は会社を首になりました。原因はほんとにツマラナイことからです。
「なんであの先輩、僕の取り上げたスマホつかって社長の頭の欠点(というか欠損)をツイートするかなあ」
濡れ衣もいいところなのですが、彼には弁明する暇も与えてもらえませんでした。皆さんも気をつけましょう、注意一ツイート怪我一生です。
「明日からどうやって生きていけば・・・」
彼は下を向いたまま歩いていたため、何かにぶつかってしまいます。
「こっらー、われ。痛いやないけ」
"何か"ではなく"人"だったようです。
でも落ち込んだままの神田君の耳には届きません。
ぶつかった事に意識は向かず、前に足が進まなくなったために自然に持ち上がった視線の先に、市営地下鉄の入口階段が飛び込んできました。
(そうだ、もう一思いに終わりにしよう。これ以上生き恥をさらしても・・・)
こういう衝動的な行動を認知障害と呼ぶそうですが、気の良い神田青年にはそんな心理学的な経緯などもちろん分かりません。そのため自分の負の行動を正当化するループした精神状態になってしまっているようです。ブツブツとこれまでの人生がいかに自分に不運であったかの恨みつらみを並べながら、市営地下鉄果名駅 のA1入口の会談を降りていきました。
そんな神田君を、先ほど彼にぶつかった男がじっと見ています。
彼は木林というチンピラです。
懸命な「かきつばた」読者なら、この回答者が何故わざわざ登場人物の苗字を地の文で説明する理由はお分かりだと思いますが、今回はアナグラム以上の意図はありませんので深読みしないで下さい。
木林は昭和のテレビドラマ飛び出してきたかのようなパンチパーマにアロハシャツ、短パンにサンダルという出で立ちです。
今朝、兄貴分から、
「おらー、夕方までにカモ見つけてこんかい!」
とハッパを掛けられて事務所から追い出されてきました。
もう半日も町を徘徊していますが、カツあげ程度しか経験の無い木林にはなかなかカモは見つかりません。
そこに先ほどの抜け殻のような青年との接触です。
(今のやつ、気い抜けすぎやったな。うまくすれば骨折れたことにして医者料ふんだくれるかもしれん)
短絡的に考えた木林は、素早く道の反対側に回りこみ、A2入口から先ほどの青年を追いかけ始めます。
同時刻、果名駅の地上エレベータ入口A3の前に、ランドセルを背負った少年が一人、立っています。
少年(津田君 以下唐突な登場人物の人名表記は上述と同じ)は、夕方からの塾に向かうため、駅に到着したところです。
学校の授業が終わると、彼は校庭で遊ぶ級友を横目に毎日まっすぐ駅に向かわなければなりません。
「あーあ、四年生から受験対策なんてばからしいなあ」
学校から塾までの移動の間だけは彼の自由な時間ですが、それもわずか数駅分の乗車時間のみです。
「なんか面白いことないかなあ」
エレベータが到着し、中からよその学校の小学生の集団が出てきました。
手に手に亀井堂のDDSというゲーム機を持っています。
勉強の道具ならともかくゲーム機など言語道断な家庭に育った津田君は反射的に顔を伏せました。
その小学生たちの会話を聞きたくないので、急いでエレベータに乗りこみ「閉」ボタンを押します。
「おおっと!、待った待った」
そこへ虚無僧のような、牧師のような不思議な衣装をまとった老年の男が駆け込んできました。
エレベーターの閉まりかけのドアに手を差し込んで強引にドアを再オープンさせてしまいます。
さらに俯き加減の津田少年を顔を無遠慮に覗き込むと、大声で先を続けます。
「なんじゃ、少年。溜息は一回につき幸せ一つ亡くすだけじゃぞ。あっはっは」
見えないようにこっそり吐いた溜息を見知らぬそれも変な格好の老人につっこまれ、津田君は顔をゆがめます。
「なんだよ! 坊主みたいな恰好なのに無理やり閉まりかけのドア開けたりして、マナー悪いのはそっちじゃん」
その返答を聞いて、目を丸くした老年(男=田中)は口角に皮肉な笑みを湛えた後、大きな口をあけて笑いだした。
「わしが見ておらんかったと、思っちょるのか。お前さんこそ他人を羨んでそれを見たくないようにわざとドアしめたじゃろ。わしがすぐ傍におることを見落として」
津田君は思わず老年の顔を見直しました。
「僻みや妬みも悪いとは思わんよ、わしは。とくにお前さんのような若者にはそれがエネルギーになって行動力を発揮することもままある。ただし、自分の感情には素直に向かうことじゃな」
津田君にはなんのことやらさっぱり分からず、先ほど一瞬だけ老人を見直したことを後悔しました。
「おっちゃん坊主なの? なんなの?」
「わしか、わしは宗教家、田中=バリテック=一法才じゃ」
なんで、坊主にミドルネームがあるんだよ! と、心の中で津田少年は突っ込みを入れる。
すまない、少年。それは"バ"で始まる苗字を思いつかなかったA楠が諸悪の根源なのだ。どこかから、馬場とか坂東とかあんじゃん、という突っ込みがあったことは勿論極秘事項だ。
二人はエレベータで駅に向かう。
暗いトンネルを5両編成の地下鉄が走る。
運転席から漆黒の闇をのぞき、ハンドルレバーを操作する田森運転士。
今日が初めての単独運転で、肩に力が入っているのが自分でも分かる。
旧式の5000系車両の狭い運転席には田森運転士以外は誰も乗車していない。
自然、独白も声に出てしまう。
「こ~んな私でも運転士になれるんだからウチの会社って人材難なんだね、やっぱり。あ、次、右カーブ曲がりまーす」
別に地下鉄の運転に右左折の操作は必要ないのだが、慣れない田森運転士は、実習の癖が治らず常に口頭に上がってしまうようです。カーブの数を指を折って数えていたところ田森運転士の顔が一瞬青くなります。
「まずい! そろそろアナウンスのタイミングだっ」
あわててアナウンス用のボタンを右手で押し込みますが、手元を見て操作すればいいものを、慣れない田森運転士はトンネルの奥に視線を固定したままでボタンに手を伸ばしたため、なかなか押し込めません。
二度三度と人差し指を彷徨わせたところで慣れた感触が指先を伝わってきます。
『つぎは~、果名 果名 果名の次は拝紅に止まります』
悪いことは繋がるもので結果的にブレーキングポイントが過ぎてしまっていることに田森運転士は気付きます。
「まっずー!」
車掌からの呼び出しベルが鳴り出します。
(取らなくても分かってる、ブレーキ早くって言いたいんだろ)
でも規則上呼び出しが掛かった場合は原則5秒以内に受話器を取るのが社のルール。
案の定、持ち上げた受話器からは、
「タモリィィッ ブレーキィィッ!」
と叫び声が上がる。予想はしていたので予め受話器は耳から離した位置で持ち上げたが、それでも車掌の声は鼓膜を十二分以上に揺さぶった。
今の右カーブを抜けきると果名駅のホームが見えてくるはず。
「まったく! なんて目視しにくい位置に駅作るのよー」
田森運転士は何時でも警笛を鳴らせるよう、フットベダルに右足を乗せかえた。
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『それは1分間の出来事だった』
神田君は相変わらず俯きながら階段を下り、初めて利用する果名駅の地下ホームに付くなり、電光掲示板を見上げ到着電車の時刻を確認した。
それは自分の余命でもあるのだ。
入線は15:45とデジタル表示されている。
隣にあるアナログ表示の時計の長針は44分当たりを指している、ように見える。
(つまり、なんというか、あと、一分ということだ。何が? 僕の寿命が)
「えっ、俺あと一分で死んじゃうの?」
思ったより自分の人生があとわずかである事を実感して、ええともう一本後だとどうなんだろう、と掲示板を見直しする神田君の肩を、誰かが叩きます。
「おい、兄ちゃんよ~、豪快にぶつかっといてワビの一つも無いんはどういうこっちゃ。ワシの足、骨折で全治一ヶ月や診断されたんやで。どうしてくれんねん」
怪しい関西弁を使うチンピラ風、というかチンピラ、言い換えればカレー風味のカレーと言っても過言ではない男が睨んでいます。
記憶をたどると、ド派手なアロハシャツは確かに先ほど接触したような気がしないでもありません。そもそも認知障害を起こしている神田青年に正常な判断力は無いのでチンピラ木林に言いがかりが如何におかしなものであるかに思い至りません。
「ご、ごめんなさい。でもぼくはもう・・・・」
と言いよどんだところに、子供の声が響きます。
「ちょっと待てよ、あんたサッキこの兄ちゃんとぶつかった後、こっそり後付けてたじゃん。しかもA2入り口に小走りで回りこんで。俺道向こうのA3入り口からみてたんだぜ」
ランドセルを背負った小学生が神田青年を援護してくれています。
逆上した木林は顔を真っ赤にして、
「なんじゃガキが~」
を睨みつけます。
肩を竦めた少年の後ろに、
【ええと、オタク、宗派はどこですか?】
と小一時間問い詰めたくなるような、作務衣とも袈裟ともチュニックとも修道服とも言い難い不思議な衣装の老人が仁王立ちしました。
「よう、頑張ったな坊主、後はワシにまかせい!」
と少年を庇うように前に出ます。
神田青年には何が起こっているのかも理解できませんが、老人が敵の敵の味方なので、この場合は自分の敵だったのか味方だったのか計算することはできました。
その不思議な老人はチンピラに説教をするつもりのようです。
「なんじゃお主のその格好は! 健全な精神は健全な肉体に宿ると言うてなあ」
どこから突っ込んでいいのか分からないその説法? にチンピラ木林は当然のように逆切れして、老人を突き飛ばします。
「お前にいわれれとうないわー」
いや、その突っ込み自体は正しい。
という思いで見ていた反応が遅れた神田青年の背後の方向に、つまり線路の方に老人は転がっていきます。
と思いながら、神田青年は老人の手を掴みホームの中央に引き戻します。
一方、予備動作無しで老人の身体だけを注視して飛びついた神田青年の身体のバランスは崩れ、腕の力だけで引き戻した老人の重量エネルギー分、線路の方に転がっていきます。身体は老人を掴んで投げたために、チンピラ、小学生、老人の方を向いていますが、その彼らの目に悲哀の情が映ったのは気のせいではないでしょう。
耳に響くのは入線する電車の警笛です。
えっ、もしかしてこれって死亡フラグ!?
10mm鉄鋼盤を仮面ライダーオーズのタトバフォームのトラ右手爪で切りつけられたような耳触りな金属音が、長く響きわたる果名駅のホームを、地下鉄車両としては旧式の5000系車両が滑り込んできます。
(ああ、俺の24年の人生もはかなかったなあ。思えば高校の時告白したミズキちゃんには「ごめんなさい、ワタシやりたい夢があるから!その後で」なんて言い方で振られて以来、女性にも縁は無いし、仕事だって頑張ってやっと慣れてきたシステム会社の仕事が今日でいきなり首だし、田舎のお袋には合わせる顔がないなあ。ていうか轢死って身体がマトモに残らないから棺桶に窓が無いって聞いたことあるけどホントだとしたら、文字通り合わせる顔ないよなあ。そういえば一分って結構ながいんだね。なんかもうホームについてから一時間以上経ったような感覚だよ。正確には1660文字(Word2003プロパティ表示による/但しスペース除く)しか経過してないっていうのに)
ドンッと背中が何かにぶつかる衝撃がきた。
そして神田青年の身体はホームの転落防止柵の開閉扉にぶつかって止まった。
【到着の電車は市営子午線、上り方面電車です、下りる方が優先ですのでドアの脇に避けてお待ち下さい】
プシューというドアの開閉音と同時に、先頭車両から運転士らしき人影が飛び出してくる。
「すいませーん、ドアにもたれ掛らないでくださーい。センサー鳴ってるし(私のオーバーランこれで帳消しできる?)」
最近は転落防止のため、新幹線ホームのような電車の到着時のみ開く自動の柵が地下鉄にも設置されているのです。
その運転士が神田青年を見て口を両手の平で押さえました。
「あれ、神田君じゃない、久しぶり」
ドアに倒れこんだ神田君が見上げた先にはまだまだ板に付いていない運転帽子を頭に載せた女性運転士が立っています。
「あっあれ、ミズキちゃん。もしかしてやりたい夢って運転士?」
数年越しの引っかかりがようやく解けたことと、自分の思い人だった人が面影を残して目の前に現れたことで神田青年の心に余裕が生まれたようです。
「えへへー、似合う? 神田君もどう? 今、うち人手足りなくて、いろいろ絶賛募集中なんだ」
面接抜きで有能な正社員を一名引っ張ってきた田森ミズキ運転士が、翌年の社の勧誘ポスターに抜擢されたのはまた別のお話。
______________________________
アテナ「ねえねえルーシー、寝過ごしたせいであの質問終わっちゃったよ」
ルーシー「いいじゃない。そもそも一分しか時間なかったんだし、私が居なくても人間の力だけで十分奇跡は成就してるしね。それにワタシ、今の担当は地球だけじゃなくなったんだからさ」
はやぶさ二号の軌道を掠めるように、5番6番のジェット推進ノズルを三秒間だけ噴射。
月の周回軌道に向かって航路を鷲座方向に微修正。
私の名前はルシード。
私はいつも皆の周りに居るし、ずっと遠くの皆とは異なる世界に住んでいるよ。
FIN(第二版).
ぼくは、目の前で見た、初めての光景・・・ボクシング選手の激しい殴り合い、相手が倒れるまでの時間それはたった一分の出来事だった。これほどまで凄いものなのか・・・僕は、しみじみ思った。
これだからガキは嫌いだ。
それは一瞬の出来事だった。
奴はよりによって、私の股の下をすり抜けて外へと逃げ出したのだ。
私は振り向いて、全力で追いかけた。これだからガキは嫌いだ。
そもそもをさかのぼると、彼は―「たっくん」は、3時ごろに店にやってきた。店長は奥に引っ込んでしまって、売り場には私しかいなかった。
花屋に、幼稚園児(たぶん)がひとりでくるなんてことはまずない。時期的に父の日かなにかだろう。そんなアタリをつけて、私は一応の「お客さん」に話しかけた。店長が仕入れすぎた黄色のミニバラ造花を売りつけてやろう。
「いらっしゃいませ。ボクどうしたの?」
「あのね、お誕生日だから」
外れた。誕プレか。
「お友だちにあげるの?」
「うん。しなもん」
だれだそれ。
「だったら、この黄色いバラでちっちゃい花束つくる? きっとかっこよくてステキな花束になるよ」
「そうする! あのね。すぐあげないといけないの。あしたじゃだめなの。きょうなの」
「すぐやりますからねー。お待ちください♪」
ガキを操るなど簡単なのだ。私は我ながら手際よくミニブーケを仕上げた。
「これでいい?」
「みせてー」
奴がそう言うから、私はかがんでブーケが見えるようにした。
油断していた。奴は私の手からブーケを奪うと、最短経路で出口へと駆け出した。私はその前に立ちはだかる。しかし奴は私の股の下をすり抜けて外へと逃げ出した。ムカつく――っ!! 私は振り向いて、全力で追いかけた。
奴はすばしっこい上、道をよく知っていた。私だって地元だけど、でも回転寿司の駐車場を抜けて、塀を越えて、コンビニの裏手へと抜けるルートなんて知らない。
やっと追いついた場所は、ベンチしかない小さな児童公園だった。私は奴の首ねっこをつかんで言い放った。
「いちごサマに、逆らうなど、10年早いわ!」
息が上がっているのは私のほうだった。ごめんのひとつでも言えばいいのだ。それなら許してやるのに。なのに今度は泣き出しやがる。
「だって、だって…! 」
「な、泣くなよバカ」
「だって、まだ終わりなんかじゃないもん! これで最後なんてやだもん!」
最初、私はこの発言を勘違いしたのだ。
「いやでも万引k…」
通りすぎる人たちが私たちのことをじろじろ見ている。私はエプロンを外して、隣に座って、奴の背中をさすったり、そっとたたいたり、涙をふいてやったりした。
気づいたら奴は私にもたれて眠っていた。いつの間にか夕方になっていた。頬の産毛が金色に揺れた。ケヤキの葉が一枚落ちた。遠くの小学校でチャイムが鳴った。
「おい。起きろよ。きみ家に帰るんだろ?」
私は奴を揺さぶって起こした。
「きみ家どこなの?」
「んー。わかんない」
「名前は?」
「ヒトに名前を聞くときには、まず自分が名乗るでしょ」
半分寝てるくせにそんなことを言う。
「榎本いちごサマだよ。将来は歌って踊れるアイドルだから覚えとけ」
「AKBではだれ推し?」
「ともちん推し☆」
「ふうん」
「 …って、そんなこといいの。で、きみ名前は?」
「たっくん」
「ちがーう! 本名は?」
「んー。わかんない」
「じゃもっかい聞くけど、家は?」
「わかんない」
お前はまいごのまいごのこねこさんか――!!
私は奴の背中からリュックを奪った。名札には「桜井 誕」という名前とともに住所も書いてあった。電話番号はない。でも住所は意外なことに、私が前に「美女」のバイトをしたアパートだった。そこならすぐ近くだ。
送ってやるか。で、そのまま帰ろう。本当は店長に謝らないとだけど明日にしよう。かばんは店に置きっぱだけど明日取りにいこう。
私は、まだ寝ぼけ眼の奴を背負って、ブーケをリュックに入れて、リュックを手に持った。軽っ。子どもって軽っ!
生まれて初めて子どもなんて背負いながら、私は今日のことを考えた。
たっくん「終わりなんて嫌だ」なんて言ってた。なんだそれ。さっきは気持ちが高ぶってたけど、最初から私はたっくんを警察に突き出すつもりはなかった。それに終わりだなんて私言ってないし。じゃ「しなもん」の終わり? でも誕生日なんだよな。「今日じゃなきゃ」って言ってたな。今日が誕生日なんだろうか。違う気がする。なんだろう。私にも、あんな風に今日やらなきゃって思えることあったっけ。終わってほしくないことってあったっけ。
不思議な一日だった。店に子どもが来た。そいつがブーケを奪って、私はそれを追いかけた。で、いまこうしておぶって家に送ってる。あの坂道の上に、アパートはもう見えてくるはずだ。
「ありがと」
耳元でたっくんがささやいた。え? 聞き返したけど、返事はなかった。私は自分の身体が急にほてるのを感じた。
「降りなよ。本当は歩けるんでしょ?」
「やだ」
奴は小さくつぶやいて、私の肩をまたぎゅっと抱いた。
これだからガキは、嫌いだ。
アパートはもうすぐだった。
「なんか私に言うことあるでしょ」
「…あ。わすれてた。ぼくね、さしこ単推し」
話ちげーよ!!
最後の角を曲がったら夕陽の光が私たちを照らした。それは、春の終わりの一日の出来事だった。
やっぱり、今日は一回お店に帰ろう。
さよならバービロン♪
2018/07/10 23:39:19