【人力検索かきつばた杯】

テーマ:3つの願い

創作文章(ショート・ストーリー)を募集します。
ルールははてなキーワード【人力検索かきつばた杯】を参照のこと。
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%CD%CE%CF%B8%A1%BA%F7%A4%AB%A4%AD%A4%C4%A4%D0%A4%BF%C7%D5

ルール
悪魔が3つの願いを適えてくれます。3つの願いがかなうと、魂を取られて死んでしまいます。死後も地獄で永遠の責め苦に苛まれます。
禁則事項
・1)不老不死の願いは魂が取れないので却下です。
・2)願い事を増やすのもNGです。

回答の条件
  • 1人3回まで
  • 登録:
  • 終了:2012/05/27 23:20:13
※ 有料アンケート・ポイント付き質問機能は2023年2月28日に終了しました。

ベストアンサー

id:alpinix No.6

回答回数617ベストアンサー獲得回数98

ポイント9pt

「・・・・ということなんだが、理解はできたなかな?」
老人の頭に豚に似た尻尾を生やした異形の物体は、明瞭な発音で"三つの願い"の詳細を説明した。
頭の良い青年は直ぐに内容を理解したが、その危険さにも重々気付いていた。
「三つの願いは今すぐお前に言わなければならないのか?」
異形の物体の目と思しき場所に怪しい青い光がともった。
「ほう、慎重じゃの。ということは願いをかなえる気はある、ということでいいのじゃな。時の流れはワシとお主では異なる。願いが決まったときにワシの名を呼べばよい。さすれば直ぐに馳せ参じよう」
青年はゆっくりとうなづいた。今願いたいことは決まっている。
「父を、この世から亡くしてくれ」
いつからだろうか? 自分と同じ公務員になれ、と命じる父に反抗するようになったのは。
純粋に勉強がしたいという自分の願いとは裏腹に工業学校に無理やり入学され、失意の日々を過ごすのはもう耐えられなかった。父が生きている限り自分の将来を自分で決めることなどできそうもない。
「いいのじゃな? 一つ目の願いを受けたが最後、後戻りはきかんぞ」
 
翌年の3月に父は病気でなくなtった。青年は学校から退学になったが、誰もそれを止めるものはいなかった。
 
時は流れ、30数年後。
「呼んだかの。久々じゃの、父殺しの男よ」
異形の物体の目の前には見事な口髭をたたえた壮年の男が立っていた。以前の面影を残してはいるが、威厳や威圧感といったものが体中に漲っている。
「そんな怖い目をするな、この会話はワシとお主しか聞こえておらぬよ。噂は聞いておったが、お主がこれほど出世するとはの。一国の主になるのもそう遠い話ではないの」
壮年の男は背中側で手を組んだ姿勢で立ち、すっと踵を返した。異形の物体と必要以上の会話をする意思がない、と無言で主張しているようだった。
「もう一度、お願いしたい。今の大統領に私に後を引き継ぐよう遺書を書かせ、その後すぐに・・・」
異形の物体の目とおぼしき場所が、赤く光った。
「その願い、二つあるようにも受け取れるが・・・まあいいじゃろう」
その国の大統領は「死んだら壮年の男に跡を引き継がせる」という遺書をしたためた後、死去した。
 
さらに時は流れ10数年後。
砲撃の音がこだまする。
その度に天井からは重苦しい鈍音と、土埃が舞い落ちてきた。
部屋の中には男以外にも愛人がいたが、その姿が見えているのは男だけのようだった。
「何をしにきた。呼んでもおらんし、もうお前に願う暇はないぞ」
異形の物体は男の前に立って顔とおぼしき場所をこちらに向けている。
「なぜ3つ目の願いを頼まんのじゃ。もうすぐお主は破滅するぞ」
異形の物体は余裕ぶった声で男に迫ってきた。たしかにこの苦境を救えるのは三つめの願いかもしれないが、男は願いを口にする代わりに拳銃を手にとっていた。
もう決めたことだった。
一時的に命を逃れたとしてもその先は決まっているからだ。
「すまんな、三つめの願いはお預けだ」
地下壕の、狭苦しくじめじめした部屋に、乾いた炸裂音が一つ鳴り響く。
愛人らしき女が男の身体にすり寄り、用意していたガソリンを丁寧に掛けていった。

(あ~あ、そんなことしちまったらワシが回収する魂が欠片ものこりゃあせんて)
異形の物体は壁をすり抜け、ふわふわと地上に浮かび上がった。そのまま空中を上昇し、街を見下ろす高度に達した。
ベルリンの街はあちこちから火の手が上がっており、遠くに寄せ手の戦車や兵士の姿が見える。 
 
「まあ、あの男のおかげで全体的には収支プラスとなったから良しとしようかの。
それにあの男、ワシが手を下すまでもなく地獄行きは間違いなかろうて」

id:garyo

ありがとうございます。
愛人の所で何となくそうかなと思いました。画家になりたかったんですよね。
楽しませて頂きました。

2012/05/25 13:07:21

その他の回答10件)

id:grankoyama No.1

回答回数560ベストアンサー獲得回数170

ポイント10pt

 とつぜん、犬が現れた。イングリッシュコーギーだっけか?
「あなたの願いを3つ叶えるワン! はてな関連限定だワン!」
「はてな限定?」
「そうだワン、はてな関連の望みで好きなものをいうとよいワン!」
……なるほど。しなもんさんだっけか?
会長職ともなれば、そりゃあはてなに関しては、社長を顎でつかい、ディレクターも
社員も思いのまま、どんな願いも叶えてくれるのだろう。ふか~く納得。
「く、くいずを……」
「クイズかワン?」
「そう、回答即オープンではなく、回答を伏せておける機能の実装おば……」
「おやすい御用だワン」
 しなもんさんは、その辺をくんくんと嗅ぎまわりながら、うろうろしている。
……叶ったのか?
「次の願いは何ワン?」
「わ、わたしに……し、質問者としての才能をください! 面白い質問とか、
全然思いつかないお約束クイズがすらすら思いついて、質問が注目を集めて、面白い回答がつくように……」
「一個の願いじゃあないような気がするワン。でもまあいいワン。
その願い、叶えてしんぜよう」
 何故だか最後だけ壮言に。しなもん会長は、犬用のひも付きボールにじゃれ付いている。
「し、しなもん会長?」
「儂はしなもんではないワン! 悪魔だワン!」
……あ、あくま~~~~!
「そうだワン。願いをみっつ叶えたら、魂をいただくワン。
3つの願いがかなうと、魂を取られて死んでしまうワン。死後も地獄で永遠の責め苦に苛まれますだワン!!」
そんな、聞いてないよ~。
「言うの忘れたワン。さあ、最後の願いを言うワン」
 追い込まれた私。困ったもんだ。
 そして私はひらめく。ある秘策を!
「じゃ、じゃあ……最後の願いは……かきつばた杯で……」


 かきつばた杯でベストアンサー取りまくりが、わたしの本来の願いであったのだが、
かきつばた杯はあくまでも実力や質問者との相性の世界。
このような安易な方法で得たいるか賞になんの価値があるのか。
と思い直す。さらに言えば、魂を抜かれ、地獄の責め苦というのがイヤだった。
 そして、おもむろに願いを言う。
 しなもん会長、もとい悪魔の力が絶大でも叶えられそうもない願いを。
「こ、講評を、素敵な講評を質問者さんから……過去の質問、かきつばた杯に答えた全ての回答において、
講評をつけて貰えるように……」
「…………ワン?」
「できますか?」
「………………ワン


 というわけで、しなもん会長、もとい悪魔は去っていった。
一つ目と二つ目の願いが叶えられるのはさておき、第3の願い。
悪魔の力を持ってしても…………。

id:garyo

ありがとうございます。
過去の質問は昔のかきつばたのように回答がそろうまで読まずにおいて、一斉に読んで回答をつけていたのですが、最近は回答を沢山頂いて中々難しくなっていました。
今回から回答を頂いたら即コメントつけることにします。
読んでコメント書くのはけっこうドキドキします。
さて感想ですが、読みやすくて面白いです。
すこし楽屋ネタ(かきつばたネタ)になっている気がします。私は判りますが、ネタを知らない人が読んでも面白いといいなと思います。

2012/05/21 12:25:27
id:standard_one No.2

回答回数252ベストアンサー獲得回数23

ポイント9pt

ここはとある小学校
今日は未来ある子供たちに警察官がわかりやすく訓示を述べる行事の日
校庭に座る子供たちを前に警察官が切り出す
「皆さんは自転車に乗っていますか?自転車も交通ルールを守って乗る乗り物です、私はこの世から一切の交通事故がなくなることを願っています」
すると子供が一人立ち上がり大きな声でこう言った
「お巡りさん!ボクは悪魔です!ボクならお巡りさんの願いを3つまで叶えることができます!」
一斉に周りの子供たちがドっと笑った
警察官も笑顔で応えた
「それは凄いね、じゃあお願いしちゃおうかな」
すると子供はこう言った
「でも願いを3つ叶えるとお巡りさんは魂を取られてずっと地獄にいなければならなくなります」
周りの子供たちがまた笑う
「それは怖いな、でも世の中の平和のために尽くすのが警察官だからそれは我慢しよう」
そして警察官は交通事故の撲滅と犯罪の撲滅と世の中の人々の助け合いを願った
・・・
犯罪がなくなり助け合いの精神の元、現世から地獄へ来る人はいなくなり
地獄の亡者もポツリポツリと減り始め、今では亡者の数より鬼の数の方が多い始末である
ごく稀に地獄に落ちてくる亡者から聞いた限りでは今の現世は事故も犯罪もなく人々が助け合い充足した世界になっているという
そこにまたあの子供が現れる
「人間が人間同士の助け合いで願いを叶えてしまうからボクに願い事をする人間が居なくなってしまったぞ、どうしてくれる」
警察官は少し悩んでから答えた
「私は3つの願いと引き換えに地獄に居ます、あの願いがなかったことになったらどうなりますか?」
・・・
ここはとある小学校
今日は未来ある子供たちに警察官がわかりやすく訓示を述べる行事の日
校庭に座る子供たちを前に警察官が切り出す
「皆さんは自転車に乗っていますか?自転車も交通ルールを守って乗る乗り物です・・・」
なぜか警察官はそれ以上声が出ない、必死に喋ろうとするが声が出てこないのだ
見る間に大量の汗が吹き出し、いかに必死に喋ろうとしても言葉が出てこない
すると子供が一人立ち上がり大きな声でこう言った
「お巡りさん!何事もバランスが大切です!自転車もバランスがよくないと転んでしまいます!」
どこかで見覚えのある子供だ、しかし誰だったか思い出せない
そうしている間にも汗は噴き出し続けノドはカラカラだ
警察官は必死の思いで声を絞り出す
「み・・・水」
子供がニヤリと笑みを浮かべてこう言った
「それが願いですね」

id:garyo

ありがとうございます。
いいですね。思わすにやっとしてしまいます。
読みやすくて途中でどうなるのかなと思いました。

2012/05/22 17:16:23
id:grankoyama No.3

回答回数560ベストアンサー獲得回数170

ポイント9pt

「そ、そりゃあ自分の人生に満足してる! なんて言えないわよ。
こんな平凡な毎日を繰り返すのも嫌だし……
ある日突然真っ白くてほわほわの可愛い妖精とパートナーになって、
悪い奴と闘えたりとかしたら楽しいだろうなぁって思うときもあるわ。
プリキュアみたいな……」
「それがキミの望みなのかい? 鹿名目マミカ?」
「だからって悪魔みたいなのの力を借りようなんて思わない。
私が望むのは、その悪魔とかと闘う力なんだから!!」
「キミの願いを聞き入れた」
「えっ?」


「また、Qベエがやらかしたらしい……」
「ほんとにあいつは……。で今度は何?」
「それがな、契約時にはたったひとつ願いを叶えてやるだけで十分なのに
3つも願い事を受け入れたらしい」
「まあでも、それを叶えてやった後は、その少女から第二次性徴期の絶望……
じゃなかった……『魂』が手に入るんだろ?」
「それが、なにやら厄介なことになったらしくて……」


「ひとーつ、平穏な日常からの脱却。
 ふたーつ、白いパートナー。
 みーっつ、敵と闘う力!」
「えっ? なに? ざっくりと……まさか、それがわたしの願いだなんて……
いやよ、叶えて欲しくなんか……」


 怪しく光るモノアイ。とそれに続いて明らかになる巨大な機動兵器の全貌。
モスグリーンに彩色されたそれは、巨人のシルエットを持っている。
二体の巨人が会話を交わす。その内部にいる搭乗者間の通信だ。
「お前はここに残れ」
「は、曹長」
 一体の巨人――というかザク――は、住宅地に隣接した工業区画へと向かっていく。


「きゃあぁ! なに? あれ……」
 マミカの頭上を大きな黒い影が飛び去っていく。
「まさか……、あれが敵? 行かなくっちゃ! でも……わたし……
まだ、妖精さんと知り合って、闘う力を持ってないわよ」
 戸惑うマミカを見つけ駆け寄る人影。
「マミカ! 何しているんだ」
「お、お父さん?」
「何してるんだ、木馬へ行け、木馬へ」
「も、木馬?」
「あっちだあっち、早く行け!」
 父親に促され、木馬とかいう方面へ向かうマミカの前に一人の少女が立ちはだかった。
「鹿名目マミカ。あなたは自分の人生が尊いと思う?家族や友達を大切にしてる?」
「あ、あなたは……」
「わたしはホム村アケミ。って名前はどうでもいいわ。ほんとは良くないけど」
「え、えっと、わ、わたしは、大切、だよ。家族も、友達のみんなも、大好きで、とっても大事な人達だよ」
「もしそれが本当なら、今とは違う自分になろうだなんて絶対に思わないことね。さもなければ、すべてを失うことになる」
 そんなこと言われてもなあ……。ここからのストーリ展開のためには、マミカは立ち止まることは許されない。
 

 ホム村さんのことは無視して、マミカは駆け出した。とそこには一体の敵モビルスーツが。
「どうしよう、あんな敵想定外よ。妖精さんは見当たらないし……」
 と、ザクの放ったマシンガンの爆風の衝撃を受け、マミカは吹き飛ばされる。
そのまま、開け放たれた連邦軍のモビルスーツのコクピットへ。
「こ、これは……」
 マミカはモビルスーツの操縦経験など皆無だ。
だが、出来る……ような気がする。
マミカが得た三つ目の力、すなわちNT能力。それが開花しつつある。
「大丈夫、わたしは強い女の子じゃないか」
 操縦かんを握るマミカ。
「こ、こいつ、動くぞ」
 そのままガンダム――あ、言っちゃった――を起動させ、ザクに対峙する。
ザクはマミカの乗るガンダム目掛けマシンガンを放つがガンダムの装甲には通用しない。
「なにか、ぶ、武器は……」
 ビームサーベルを引き抜き、ザクを両断するマミカ。
返す刀で、Qべえもついでに八つ裂きにしようとおもったが、思いとどまり叫ぶ。
「美しき魂が! 邪悪な心を打ち砕く! マーブル・スクリュー!!」
 掛け声はそれっぽいが、結局頭部のバルカンを連射し、Qベエを葬り去った。
「……はぁ、はぁ…………。
 確かに、平凡な日常から……
 敵も居たし……
 白いパートナー……って
 なんか違~~~~う!!」

次回予告
「サイド7を発つ木馬を待ち受けていたのは、何事も無かったかのように復活していたQベエだった。Qべえは、紅いモビルスーツに載り、マミカと対峙する。マミカを絶望へ陥れるために……。
次回『マミカはとっても嬉しいなって、ぶっちゃけありえない』」


機動兵器マミキュア 第一話完


「で、願いは叶えたんだろう? 3つとも。Qベエの奴が?
なのに何故魂が取得できない?」
「それが、3つ目の願いが、完全ではないらしい」
「どういうこと?」
「真のNTとして目覚めるまでは願いは保留ということで……」
「じゃあ……逆シャアまでお預け?」
「そういうことだな……」
「そういうことか……」
「そういうことだ……」
「先は長いな……」
「先は長い」

id:garyo

ありがとうございます。
笑えました。
思いっきり趣味に走られているのがいいと思います。
……個人的にはほむほむも出てきたら嬉しかったと思います。

2012/05/23 22:04:06
id:minoru-0413 No.4

回答回数179ベストアンサー獲得回数23

ポイント9pt

「ただいま。」
誰も居ない部屋に、無意識に声をかけ、靴を脱いだ。
「御帰りなさい。」
ぎょっとして振り向くと、リビングから足音が近づいてくる。
姿を現したのは、にこにこと笑う青年だった。

綺麗にセットされた髪を撫でながら、青年はソファに腰掛けた。
「どちら様ですか…?」恐る恐る訊くと、
「初めましてですね、一瀬と申します。」とだけ答えた。
暫くの沈黙、何を話すべきか、彼は何者なのか、不法侵入は110番か、と俺の頭は忙しく疑問や提案を述べてきた。
首をかしげて笑うだけの一瀬は、感情を顔に出そうとしない。
雨の音、
雨の音、
雨の音。
「貴方の御願を3つ、訊きましょうか。」
「…いきなり何ですか。」
保険会社のCMで見たような手振りで一瀬は語り始めた。
「私、一瀬悪魔という者です。本名ですよ。面白いでしょう。」
ただにこにこと仮面を脱がずに、淡々とした口調で、カセットテープのようにたらたらと言葉を流す一瀬。
怪しすぎる、怪しすぎるのだ。
「貴方の御願を3つ叶えます、叶え終わったら貴方を地獄に御招待しようと。」
「よく見る悪魔と同じですね…漫画とかで。招待されても困りますよ。」
「おや、弟さんと同じリアクションを取られてしまいましたね…ふふ。」
双子の弟はやはり一人暮らし、此処からそう遠くない街の洋食店を営んでいる。
小さい頃から料理が好きで、毎日楽しそうに働いている。
兄である俺は、そこらへんによくある不動産会社で普通に働いてるだけ。
何だろうな、この違いは。
二卵性双生児というのは赤の他人みたいだと俺は思う。
世間は違うかもしれないが。
「嬉しいね、アイツと似ているなんて言われるのは滅多に無いから。」
「良く似ていらっしゃると、私は思いますけどね。」
「だと良いですけど。」
「では1つ目から参りましょう。何にしますか?」
即答、理由は無い。
「殺されない夢が見たい。」
「と言いますと?」
「最近夢の中で必ず誰かに殺される。見飽きたんでね。」
一瀬は頷くと、俺の額に手をかざした。
「それだけ…ですか?」
「ええ、叶えましたよ。2つ目をお願いします。」
地獄行きだが、小さな願いにすれば苦痛も減るんじゃなかろうか。
ちょっと考えてみる。
小さな願いにしたら、針の山もツボ押しぐらいになるんじゃないだろうか。
火の海が40℃の風呂になるかもしれないじゃないか。
…結構阿呆らしいことを思いつくんだな、俺は。
弟ならどうしただろうか。
アイツは結構普通な奴だから…
そういえば、何で一瀬は俺の弟の事知ってるんだ?
弟と同じリアクションって、弟にもう既に会っている…
弟は既に…
地獄行き?
「雨は良いですね。悪魔は雨が好きなんですよ。」
「へぇ、初耳だ。どうして?」
「雨の方が人が殺し易いんですよ。傘や荷物で手が塞がってる人を狙う殺人犯居るでしょう?」
「…何だ、聞かなきゃ良かったな。」
「そろそろ決まりましたか?」
よし、これなら小さいから大丈夫だろう。
「弟が今どうしてるか、知りたい。」
「貴方の弟さんは今私の部下が伺っております。貴方と似たような御願をされてますね。やはり兄弟というのはよく似ていらっしゃる。」
「…テレパシーでも使えるんですか?」
「使えますよ。さて、3つ目をお願いします。」
さらりと答えた一瀬は雨の音に耳を傾けながら待っている。
…弟も願を叶えたら地獄行きか。
最後の願いも小さいものにしようと思っていたのに。
俺の心はそうじゃないのか。
一緒に地獄で苦しむというのはどうだ。
嫌な気分になるのは何故か。
俺は一体アイツに如何して欲しい?
「弟が、『寿命』が尽きて死ぬまで、そして死んだ後も幸せであるように。」
「叶えましょう、その願い…を……」

「おはよう。朝飯作っといたよ。」
寝ぐせを直しながらリビングに行くと、弟が居た。
合鍵を渡してあったが、来るなら連絡くらいくれれば良いのに。
「昨日変な夢を見たよ。悪魔が来て、3つ願いを叶えましょうっていう。」
弟はテレビのチャンネルを変えながら、楽しそうに語った。
「夢じゃないのかもしれない。兄貴が生きてるから。でも夢かな。俺生きてるし。」
その言葉を聴いて、俺は小さく笑った。
久し振りに、殺されずに夢から覚めた。
すぐ隣に居る弟の、今していることが分かる。
弟が生きて、笑っている。
そして、俺も生きている。
「俺も見た。その夢。」
結局俺等は、似てるんだな。

id:garyo

ありがとうございます。
ほのぼのとしたお話ですね。
2つの願いのタイミングもぴったり同じでないといけないところがいいですね。

2012/05/24 17:20:29
id:grankoyama No.5

回答回数560ベストアンサー獲得回数170

ポイント9pt

 全身に輝く透明の結晶を纏った人型が迫り来る。
 俺はそれから必死で逃れようと駆け出す。走る。
 しかし辿り着いた先は袋小路だ。遂には追いつかれ、数十という同じような結晶人間達に囲まれる。
 奴らはだんだんと俺に近づき……。
 やがて、その中の一人の手が俺の目前まで…………。



――またあの夢だ……
 5年前に起こった悲劇。俺達は幸いにして被害を免れているが、それでも俺の深層心理ではあの出来事の恐怖を抱き続けているらしい。
 ふと、ベッドサイドの時計を見た。
 5:50。
 いつもよりは少し早いが、もう一眠りするには遅い時間だ。
 俺はとなりで静かに寝息を立てる妻と子を起こさぬようにそっとベッドから抜け出した。

「今日はえらく早いじゃないか?」
 研究室で、コンピュータに向かう俺に背後から声がかかった。振り向くと所長が立っていた。手にはふたつのカップが握られている。
 所長はコーヒーの入ったそのうちのひとつを俺に手渡しながら、
「どうだい? ひよこちゃんの様子は?」
 『ひよこ』というのは所長が、俺の娘に付けたニックネームだ。
「ええ、おかげさまで相変わらず元気ですよ。今朝は、畑にイチゴを取りに行くとかで、はしゃいでました」
「そうか」
「もちろん、体温や心拍など、定期観測データも正常です」
「いや、いいんだ。そういうつもりで聞いたんじゃない。といっても、まあ気にはなってしまうがな……」

 5年前、この研究所でひそかに培養していたウィルスが盗みだされた。
 まさに絶海の孤島というべき立地のこの研究施設に進入し、厳重なセキュリティを掻い潜った犯行は、どこかの国家レベルの組織が背後に付いたものだと考えられている。

 盗まれたウィルスは2種類。
 『HOPE』、つまりは『希望』という名を冠した『H-α』と『H-β』。
 その二つのウィルスは、まさに人類の望みをかなえるべく意図的に改良を加えられていた。 炭素をダイアモンドに再構成させる能力を備えた『H-α』。
 感染した生物の遺伝子情報に関与しテロメアの短縮を阻止する『H-β』。
 つまりは金銭欲と不老不死という二つの願い――希望というよりはむしろ欲望だ――を叶えるべくして創り上げられたものだ。
 それらはほとんど完成していた。その情報は、極秘にはされていたが、漏洩を防ぐことはできなかった。
 せめてもの救いは、暴力的な手段によって、それらの奪取が図られ無かったこと。
 この研究所は今も、その機能を失っては居ない。

 5年前、、つまりは二つのウィルスの盗難の直後に世界は混沌に陥った。盗まれた『H-α』と『H-β』は、交じり合い、突然変異し、二つの力を併せ持つ、脅威のウィルスとなった。
 そしてそのウィルスが人類に猛威を振るった。


「あれから5年も経んだな……」
 ふと所長が漏らす。
「外はどうなってるんでしょうね」
 もう何度も繰り返されてきた会話だ。
 脅威のウィルスを発端とする悪夢の発生初期の映像は、この研究所でも衛星を通じて受信できていた。
 ウィルスに感染し、死を迎えることのない生ける屍となった者たち。
 その体の表面は、ダイアモンドで覆われ、思考能力を無くし、彷徨う。
 考えてみれば滑稽な話だ。高価な宝石で全身を飾りつけたゾンビが街を徘徊するのだ。
 しかし、それらを間近で見たものは、さぞ戦慄を覚えたことだろう。
 ことに、そのゾンビたちが新たな感染者を求めて、襲い掛かってくるとすれば……。

 瞬く間に、都市はその機能を失い、ライフラインも断絶。この隔離された研究所からはそれら様子を伺い知ることはできなくなった。
 ここにいる研究員や職員、およびその家族以外の生存は絶望的ではないか? という意見も多数を占めている。

「なあに、うちの研究所は無事なんだ。他にも孤島や山奥で生き延びている奴らはいるさ。早いとこ、助け出してくれって願ってるんじゃないか、今頃みんな」
 所長は軽く言う。意識して、深刻に考えまいとしているのだろう。
 俺達に関して言えば環境が、味方した。
 元々極秘の研究を行うために、本島から遠く離れた孤島に設立された研究施設。その状況の特殊さゆえに、初期段階から自給自足が可能となるように設計されていた。
 農業をするものもいる。周囲は豊富な漁場で、水産物に困ることはない。電力は自然エネルギーによってまかなわれている。水も海水をろ過して生成可能なのでなにも困ることはないのだ。
 この島に居る限り、ウィルスの感染から逃れ、自給自足の平和な毎日が続けられた。
「そうですね……。そうだといいのですが……」
 それを聞いて、所長は遠くを見つめながら呟いた。
「その為にも…………」
 そこで、所長は言葉を切った。
 所長の言いたいことはわかっている。
『希望の卵』。
 人類を滅亡寸前まで追いやった『H-α』、『H-β』に対抗すべく、研究を重ねて辿り着いた実験体。
 幸いにして、『H-α』、『H-β』のふたつのウィルスのサンプルはこの研究所にもわずかではあるが、残されていた。
 それを元にして、脅威のウィルスに耐えうる遺伝子構造を持ったサンプルが創りだされた。
 わずかな望みではあるが、残された人類にできたささやかな抵抗の産物。

「しかし、皮肉なもんだな」と所長。
「…………?」
「ええ、考えても見ろ、ランプの魔人か、悪魔でも現れて3つの願いを叶えるといわれたら……人間は何を望む?」
「ダイアモンド……、永遠の命……」
「そうだろう。『H-α』は炭素から無限のダイアモンドを生み出す。
いわば金銭欲を叶える存在。
『H-β』がやってくれるのは、人間の老化防止だ。
そもそも、盗み出した連中がずさんな管理であんな悲劇を生み出さなければ……」
――そうであればどうなったのだろう?
――ふたつのウィルスは平和的に活用されたのか? それとも……
 俺の顔に浮かんだ微妙な表情の変化には気付かずに所長は続ける。
「残る願いはあとひとつだ。慎重に考えないとな。みっつの願いを叶えた後は地獄で永遠の責め苦を……なんて洒落にもならん」
 みっつめの願い……。俺は何を望むのだろう。
 悪魔のウィルスの根絶か……。
 その時、机の電話が鳴った。俺はそれを取り上げる。
『緊急事態です。所長をお願いします』
 嫌な予感がする。俺は受話器をそのまま所長に渡した。
「なに!?」
 電話に出た所長の顔が一瞬にして青ざめる。まさか……。
「島内に感染者が出たらしい。とりあえず、隔離作業に入ってはいるが……」
 あのウィルスには長い潜伏期間がある。後手に回った今……。
 この島ももう終わりなのかも知れない。そして人類も。
「悠長なことをしている場合では無かったな。とはいえ……、できることは全てやってきたか……」
 諦めにも似た口調で所長は言うと、研究室を後にした。

 ウィルスに対抗する措置として、様々な研究が行われた。
 その中で唯一、成果を挙げたのは、生まれてくる胎児の遺伝子を改変するということだった。
 たまたま、その時期に妊娠が発覚した妻とさんざん話し合った。
 そして決意した。生まれてくる子供にウィルスへの耐性を持せてやろうと。
 その結果、誕生したのが愛くるしい娘だ。まさに人類の最後の希望、砦といえる。 しかし、それ以降、他の胎児に同じような遺伝子治療を行うことは出来なかった。
 人体実験のサンプルとすることを恐れたのか、どの夫婦も子供を設けなかった。
 唯一として、最後となる俺の娘。
 島の人間が全て、ウィルスに感染してもあいつだけは、生き残るのだろう。
 たったひとり。
 そして、孤独のまま果てていく。

 俺はどうすればいい?
 俺の最後の望みは……。
 娘が少しでも、生きながらえることを願うのか? 他の人間が次々に怪物化していくという地獄のような責め苦を味あわせながら……。
 それとも…………。
 俺は培養機に向かい、密かに開発した新型のウィルスを手に取った。
 娘の体にも通用する、つまりは娘も俺たちと同じ病になるための、
本来であれば、何の利用価値も無いはずのそれを……。

id:garyo

ありがとうございます。
SFですね。とても読みやすかったです。
読んでいるうちにどういう落ちになるのだろうとわくわくしました。
全体的に上手に書かれているので、落ちにもう少しインパクトがあるとさらに良くなると思いました。

2012/05/24 22:16:53
id:alpinix No.6

回答回数617ベストアンサー獲得回数98ここでベストアンサー

ポイント9pt

「・・・・ということなんだが、理解はできたなかな?」
老人の頭に豚に似た尻尾を生やした異形の物体は、明瞭な発音で"三つの願い"の詳細を説明した。
頭の良い青年は直ぐに内容を理解したが、その危険さにも重々気付いていた。
「三つの願いは今すぐお前に言わなければならないのか?」
異形の物体の目と思しき場所に怪しい青い光がともった。
「ほう、慎重じゃの。ということは願いをかなえる気はある、ということでいいのじゃな。時の流れはワシとお主では異なる。願いが決まったときにワシの名を呼べばよい。さすれば直ぐに馳せ参じよう」
青年はゆっくりとうなづいた。今願いたいことは決まっている。
「父を、この世から亡くしてくれ」
いつからだろうか? 自分と同じ公務員になれ、と命じる父に反抗するようになったのは。
純粋に勉強がしたいという自分の願いとは裏腹に工業学校に無理やり入学され、失意の日々を過ごすのはもう耐えられなかった。父が生きている限り自分の将来を自分で決めることなどできそうもない。
「いいのじゃな? 一つ目の願いを受けたが最後、後戻りはきかんぞ」
 
翌年の3月に父は病気でなくなtった。青年は学校から退学になったが、誰もそれを止めるものはいなかった。
 
時は流れ、30数年後。
「呼んだかの。久々じゃの、父殺しの男よ」
異形の物体の目の前には見事な口髭をたたえた壮年の男が立っていた。以前の面影を残してはいるが、威厳や威圧感といったものが体中に漲っている。
「そんな怖い目をするな、この会話はワシとお主しか聞こえておらぬよ。噂は聞いておったが、お主がこれほど出世するとはの。一国の主になるのもそう遠い話ではないの」
壮年の男は背中側で手を組んだ姿勢で立ち、すっと踵を返した。異形の物体と必要以上の会話をする意思がない、と無言で主張しているようだった。
「もう一度、お願いしたい。今の大統領に私に後を引き継ぐよう遺書を書かせ、その後すぐに・・・」
異形の物体の目とおぼしき場所が、赤く光った。
「その願い、二つあるようにも受け取れるが・・・まあいいじゃろう」
その国の大統領は「死んだら壮年の男に跡を引き継がせる」という遺書をしたためた後、死去した。
 
さらに時は流れ10数年後。
砲撃の音がこだまする。
その度に天井からは重苦しい鈍音と、土埃が舞い落ちてきた。
部屋の中には男以外にも愛人がいたが、その姿が見えているのは男だけのようだった。
「何をしにきた。呼んでもおらんし、もうお前に願う暇はないぞ」
異形の物体は男の前に立って顔とおぼしき場所をこちらに向けている。
「なぜ3つ目の願いを頼まんのじゃ。もうすぐお主は破滅するぞ」
異形の物体は余裕ぶった声で男に迫ってきた。たしかにこの苦境を救えるのは三つめの願いかもしれないが、男は願いを口にする代わりに拳銃を手にとっていた。
もう決めたことだった。
一時的に命を逃れたとしてもその先は決まっているからだ。
「すまんな、三つめの願いはお預けだ」
地下壕の、狭苦しくじめじめした部屋に、乾いた炸裂音が一つ鳴り響く。
愛人らしき女が男の身体にすり寄り、用意していたガソリンを丁寧に掛けていった。

(あ~あ、そんなことしちまったらワシが回収する魂が欠片ものこりゃあせんて)
異形の物体は壁をすり抜け、ふわふわと地上に浮かび上がった。そのまま空中を上昇し、街を見下ろす高度に達した。
ベルリンの街はあちこちから火の手が上がっており、遠くに寄せ手の戦車や兵士の姿が見える。 
 
「まあ、あの男のおかげで全体的には収支プラスとなったから良しとしようかの。
それにあの男、ワシが手を下すまでもなく地獄行きは間違いなかろうて」

id:garyo

ありがとうございます。
愛人の所で何となくそうかなと思いました。画家になりたかったんですよね。
楽しませて頂きました。

2012/05/25 13:07:21
id:minoru-0413 No.7

回答回数179ベストアンサー獲得回数23

ポイント9pt

暗い夜道の上、独りぼっちの電灯の下で、青年は言った。
「泣かせて下さい。貴方の胸を借りて泣きたい。」
青年は私の腕の中で静かに泣き続けた。
青年の腕はかたかたと震え、掴まれた肩が痛いくらい掌には力がこめられていた。
怯えか、これは。
いや、感情が溢れているのだろうか。
声をかけてやるべきか。
「理由を。話せば楽になる事もあります。」
こういうとき、人間ならばもっと感情のこもった声で相手を想う事が出来る。
そう思う。
私は私である事を嫌っている。
悪魔である自分を他の者のように誇らしげに語るようなことはできない。
感情が生まれつつある悪魔は恥じる。
人のように泣き、笑う悪魔を悪魔は嫌う。
私は感情が欲しい。
「大丈夫ですか。背中擦りましょうか。頭撫でましょうか。」
青年は首を横に振り、静かに涙を流していた。
声もあげずに泣き続ける彼を、私は優しく抱きしめた。
最近気付いた『愛おしさ』というのが喉を絞める。
遠くから聴こえた踏切の音に、青年の堪えた息の音が混じり、私の耳元に優しい歌のように響いた。
時が衣擦れのような音を立てて流れていった。

赤い目を恥ずかしそうに手で隠し、青年はこう言った。
「明日、一緒に水族館に行きませんか。」
「それが2つ目の願ですね。」
翌日の昼間、私は青年の待つ公園に向かった。
青年は静かに優しく、私の隣を歩いた。
風が私の心を擽るように吹き抜ける。
これが、『嬉しい』という感情か。
奢ってもらった缶ジュースを両手で包み、胸のあたりがあたたかくなるのを感じた。
「クラゲを見たかったんです、貴方と。」
青年は青い照明に浮かび上がった生命を懐かしむような瞳で眺めていた。
『美しい』と感じながら私も眺めた。
青年の横顔もまた『美しい』だと思った。
ああ、私は本当に悪魔なのだろうか。
きっと私は人間なんじゃないか。
普通の人間として青年と並んで立っているのではないか。
そう思った。
そうであってほしいと思った。

「3つ目。これが最後です。」
青年は既に決めていた答えを、言った。
「明日は雨が降りますように。」

私は堕ちた。
青年の魂を見送った後、いくら待っても門が開かなかった。
私は向こうの世界から追放された。
感情が生まれた私は人間になった。
望んでいた結果。
『嬉しい』。
『悲しい』。
何故かそう心は言っていた。
彼の泣いていた理由は分からなかった。
人ごみの中に足を滑らせていく。
空が私の代わりに1日中泣き続けていた。

id:garyo

ありがとうございます。
>空が私の代わりに1日中泣き続けていた。
いい表現ですね。
私が主人公で、そのために青年があるのはわかるのですが、
青年がなぜ悲しんでいるのかがもう少し書き込んであればと思いました。
記号化されているというか、うん、名前でもあるともう少し世界に入り込めたかも。

2012/05/26 21:23:20
id:gm91 No.8

回答回数1090ベストアンサー獲得回数94

ポイント9pt

【我輩は悪魔】


『あなたの活躍を祈っているわ。長谷川さん』

 祐理が、僕を名字で呼んだ事が彼女なりの決別の意思表示なのだと思ったが、あえて……いや、だからこそ僕はそれを無視した。
「祐理さん!わけがわからないよ!ちゃんと説明してよ!」
『……ごめんなさい』
 祐理はそれっきり、僕の電話に出ようとはしなかった。

 2ヶ月の海外出張から帰国した僕は、真っ先に祐理の職場へ押しかけた……りはできなかったが、何日もしないうちに取引先として顔を合わす機会があった。
 彼女は戸惑う素振りも見せずにお愛想して去っていった。

 ――僕は何故このような仕打ちを受けねばならないのか、全く理解できなかった。

 帰国後、憔悴した僕を見かねたのか職場の先輩が「お疲れ様会」と称して飲み会に誘ってくれたものの、食い物が喉を通らない。紛れもなく腹は減っているのだけれど、胸につかえて呑み込めないのだ。自分でも笑ってしまうがどうしようもない。
 先輩には申し訳なかったが、僕は自分の悪酔いに気が付いたところで早々に退席するのが精一杯だった。

 自室に戻り、循環するしかない思考と空きっ腹の酒で痺れた頭を壁にぶつけたまま、僕は茫然自失としていた。

(世界など滅んでしまえば良いのに)

 自分でも訳のわからないことを考えている。そう自嘲した時、誰かの声が聞こえた。

「3つだけ願いを叶えてやろう。お前の魂と引き換えに」
 振り向くと、声の主はテディベア。……祐理が出張前に残していったものだ。
 学生の頃だって、こんなひどい酔い方はしたことがない。
 だって、テディベアが立ち上がって話しかけて来るなんて、今時少女マンガでも在り得ない。

「あんた、誰」
「我輩は悪魔である。これは世を忍ぶ仮の姿である」
「そうか、じゃあ、世界を滅ぼしてくれ」
「よいか青年。願い事とは、もっと具体的でなければならない。それにあと1万年もすれば勝手に滅ぶのだフハハ」
「冗談ならとっとと帰ってくれ、地獄でも魔界でも」
「生憎、冗談ではない。それも無効であるな」

「……じゃあ」
 祐理と話をさせてくれ、僕は戯れにそうつぶやいた。我ながら情けなくて泣けてくる。

「お安い御用だ」
「?」
 その直後、メールの着信。……祐理からだ!

《この間はごめんなさい。あなたの言う通り、きちんとお話すべきだと思います。
また連絡します。祐理》

 僕は、突然のメールにそれこそ心臓が止まるほど驚き、そしてどうしたらいいかわからず狼狽したが、とりあえず自分の気持ちを静める事に努めた。

「まず、1つ目であるな」

「……偶然だろ?」
「おお、人間というのは何故そうも疑い深いのか?」
「じゃあ、酔いを今すぐ醒ましてくれ」
「お安い御用だ」
「!?」
 確かに、目が覚めたように頭がスッキリした。完全にシラフだ。

「2つ目であるな。やっと信じる気になったかな?」
 ――どうやらこりゃただ事じゃないぞ。うまくすれば祐理のことも……

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「お安い御用だ」
「え?」
「それが3つ目の願いであるな」
「いや、そうじゃなくて、取り消し、いや、じゃあ願いをあと3つに増やしてくれ」
「取り消しも追加も禁則事項である」
 そ、そんな……。何と言う事だ……。

「では約束通り魂をいただく前に、説諭である。心して聞くがよい。
 これは、人間の言葉であるが、幸運の女神は前髪しか生えていない」
「振り向いたら、通り過ぎる前に前髪掴んで引き倒すしかない、ってことか」
「解ればよろしい」

「魂取られりゃ……死ぬんだな?」
「無論」
 在り難いお言葉であるが、今更ってことか。つまらん人生だったなあ……。

「では我輩はこれにて」
「え、魂は?」
「魂を刈るのは死神の仕事である」
「へ?」
「奴もなかなか多忙ゆえ、申し訳ないがしばらく待たせる事になろう。
せいぜい百年くらいの内には順番が来るであろうから、それまで短い余生を愉しむがよい。さらば」
 座り込むテディベア。

 ……僕は我に返ると携帯を掴み、祐理の番号をコールした。

「もしもし、祐理さん?メールありがとう。明日、時間とれますか?ええ、午後……」


END

id:garyo

ありがとうございます。
ほのぼのとしたSSですね。こういうハッピーエンドは好きです。

2012/05/27 23:56:58
id:gm91 No.9

回答回数1090ベストアンサー獲得回数94

ポイント9pt

『宇宙の掃除士』#02

 ……また、この夢だ。
 そう、夢であることはわかっている。
 俺は、1羽のカモメとなり大空を舞っている。
 空はただひたすら青く、眼下には穏やかな海が広がるのみ。

 何度か旋回をする内、上昇気流を捉まえて高度を上げる。
 なおも俺は羽ばたきを続け、息苦しさに耐えかねる程昇り詰めた後、遥か下の海面へ向け急降下する。翼を隼のように短く折り畳み、風圧の壁を切り裂きながら速度を上げてゆく。
 ぐんぐん迫る海面。激突の恐怖に屈した俺はバランスを崩し、きりもみ状態から失速、無様に海へ叩きつけられる。 
 その次の急降下では、羽毛の塊となって風圧にはじけ飛んだ。
 それでも挫けず、ひたすらダイブを続ける俺。

 群れの仲間なのだろう、無様な俺を見かねた別のカモメ達が声をかけてくる。
「おい、いい加減にしろよ」
「まだあの悪魔に取り付かれているのか?」
 そして、何故かお決まりの文句で俺は反論する。
「彼は悪魔なんかじゃない。彼の望みはただ3つ。何よりも速く、何よりも美しく、そして、」
「そして『何よりも自由に』か?
 3つの願いと引き換えに、あの悪魔に魂を奪われ地獄行きさ。
 いいか、俺たちはカモメなんだ、小魚やパンの切れ端に群がることを馬鹿にしているのかもしれないが、それこそが俺たちに一番必要なことだ」

 収束の兆しの見えない議論に嫌気が差した俺は、沈黙したまま、再び上昇気流を探しに飛び立った。

 ★ ★ ★ ★ ★

「隊長!」 
 甲高い声が俺の鼓膜を揺らし、俺は夢から醒める。
 目がしょぼついて開けるのが億劫だが、声の主は解る。ミカ・アラキ、俺の部下だ。
 歳は隊で一番若いが腕は確かだ。

「まったく、そんなところで居眠りなんかして!」
 ちょっとお節介気質なのが玉に瑕かもしれないが。

 かつての愛機、オウガヘッダー。今は退役して格納庫で埃を被っている。
 年に何度か試運転する他は、特に用もない筈なのに、気が付くと俺はここに来てしまう。
 コクピットでかつての戦友たちを偲んでいる内、そのまま居眠りしてしまったようだ。

「……お前、よくここがわかったな?」
「スガセ班長に聞きました。あっそうだ、班長から伝言です。
『本日業務終了後、速やかにサンテックスに集合されたし』
以上」
「おお、班長の命令とあれば仕方ない」
「あんまり飲みすぎないで下さいよ。非番は明日のお昼までなんですから」
「はい!少尉殿!気をつけるであります!……奢ってやるからお前もちょっと付き合え」
「喜んで!」

 ★ ★ ★ ★ ★

 バー「サンテックス」では、カウンターにてスガセ班長殿が俺達を待ち受けていた。

「遅いぞ~!折角のビールがぬるくなる」
 ……どう見てもジョッキ2、3杯は空けてるっぽいが、この際些事は不問とする。

「すまん。やはりオウガヘッダーの寝心地は最高だ」
「よく言うよ、現役の頃は腰に来るとかケツが割れるとか文句ばっかり言ってたくせに」
「……そんな昔のことは忘れた」
「スガセ班長も昔はオウガヘッダーに乗ってらしたんですよね?」
「ああ、そうさ、あれは最高だった。
G.A.I.A.も悪い機体じゃないが、なんかこう……乗っててつまらん」

 その感覚は俺にもよく解る。

 5年前、俺たちは新天地への到着を待ちきれず適当な石っころ(といっても幅30kmくらいはあるが)を拾って仮住まいに仕立てた。無理やりエンジンを取り付けて、仮住まいごと旅は続けているのだが。
 ルナツーと名づけられた仮住まいの最大の特典は、床下に盛大な鉱脈が眠ってたところだ。
 資源不足に泣かされる心配から解放され、ちょっとしたゴールドラッシュに沸いた俺達は、仕事道具の開発にも情熱を注いだ。その結果の一つが、新型モビルスイーツの開発だ。

「G.A.I.A.」仰々しい名前の機体は、俺達オウガヘッダー乗りの度肝を抜く性能を持っていた。
 マイクロクエーサードライブが産み出す準ビッグバンパワー、とかいうのは正直よくわからないが、おかげでそれまで秘蔵の必殺兵器だったプラズマビームをバカスカ撃てるのは在り難いを通り越して呆れた。
 なんせ、死ぬような思いで対応していた敵の機動衛星をタコ殴りにしてしまうくらいの威力。もはや反則だ。
 ただ、高度に自動化が進んだ機体の操縦性に違和感を覚えるパイロットも多く、オウガヘッダーが事実上退役すると、スガセの様に別の道を歩む奴も多かった。
 俺は他の仕事を探すのが面倒で、ズルズルとパイロットを続けているが、時々オウガヘッダーのコクピットが無性に懐かしくなる。

「隊長、ブランデーに氷なんて邪道ですよ」
「何を言う。オンザロックこそ蒸留酒の正当なる味わい方だ。愚か者めが」

 アラキは、わかってないなあ、とでも言いたげな表情をして、ブランデーグラスからこぼれる芳香に目を細める。
 スガセと言えば、仕事の疲れなのだろう、カウンターに突っ伏して高いびきを始めていた。いつもの事だが、今日はちょっと待ちぼうけさせてしまったかも知れない。今はバーテンを務めているトキスも、スガセをちらりと一瞥しただけでまったく動じない。こうなったらしばらくそっとしておくのが、俺たちの奴への愛情なのだ。


「……最近、良く夢を見る」
「夢、ですか?」
「どこかの星なんだろうな、カモメになって空を飛んでるんだ。」
「カモメ、ですか?映像アーカイブで観たことがあります。」
「傑作なのは、夢の中の俺ときたら、ひたすら高高度からのダイブに明け暮れてるんだ。海に叩きつけられても、群れの連中から嘲笑を浴びても、ただひたすら急降下。確か、昔何かで読んだような、なんだっけ、リチャード……」
「Richard Bachですね。学生の時、古典の講義で読みました」

「……なあ、アラキ、俺たちの旅の目的は知っているな?」
「はい。見果てぬ新天地を求めて宇宙の海を往く、邪魔する奴らは許さねえ!」
 はしゃぐアラキ。

「……しかし、この旅はいつ終わるのだろう?
もしかして、これは何かの罰なのかもしれない、そう考える事がある」

 水を差すように続けた俺の言葉に、アラキの表情がさっと曇る。
「罰って……一体、何の罪で?」
「故郷の大地を捨て、自由を求め羽ばたいた代償、それが永遠に続く責め苦ってわけだ」

「……私にはよくわかりません。ただ……」
「ただ?」
「隊長にはしっかりしていただかないと困ります。」
「そうだな。すまん」

 ★ ★ ★ ★ ★

 スガセを部屋に投げこんだ後ようやく自室に帰還した俺は、早々にベッドに潜り込んだ。
 そしてまた例の夢を見る。

 青い海から上昇気流に乗って、高高度からの急降下。
 風圧に耐えつつ羽の先をちょっとだけ、ほんのちょっとだけ捻じ曲げる。
 海面に激突する寸前、カモメから別の飛翔体に進化した俺の体は、その角度を水平に切り替えることに成功した。

 ……できた!遂にできた!
 海面スレスレを水しぶきを上げ疾走する俺。群れの連中が呆気に取られて俺を見つめているのがよくわかる。そうだ、これなんだ、俺は遂に手に入れたんだ。
「完璧なる飛翔」……いや、「完全なる自由」
 群れの分からず屋共の肝を潰してやる。俺の魂は俺の物だ、誰にも渡すものか。

 有頂天になった俺は、再び高空へ舞い上がり、再び急降下からの弾丸水平飛行を披露する。今度は宙返りのオマケ付き。

 三度目、俺は急降下の途中で次に披露する曲芸を何にするか悩むほど余裕が生まれていた。考えがまとまらないまま、また水平飛行へ。
 海辺を駆け抜ける弾丸となった俺は、今度こそ新たな曲芸を決めようと上昇気流を探した、その時!
 目の前にふらふらと躍り出た、こないだまでヒヨコだったらしい若鳥。
 俺は左に避けるのが精一杯、そして、そこには岩壁がそびえていた。

 ★ ★ ★ ★ ★

 鳴り響く警報。

 『ウィロー隊、スクランブル。警戒中のパンナコッタ隊が敵編隊と遭遇。全機発進準備急げ』
 ちょっとだけ早めの非番明けだが、仕方がない。出撃だ。
 俺は最悪の気分でパイロットスーツに袖を通して部屋を飛び出した。

「こちらウィロー。各機、聞こえるか」
『ブリュレ、異常なし』
『タルト、異常なし』
『カステラ、異常なし』
『ラクガン、異常なし』

「よし、よく聞け。今日は初の実戦となる。お前らの初陣を祝して3つ良いことを教えてやる。
 1つ、訓練で覚えたことを忘れるな、冷静さが何よりも肝心だ。
 2つ、味方を撃つな、味方の前に出るな。
 3つ、……必ず生きて還れ。何があっても絶対に、だ」
『了解!』

4人の応答がシンクロしたと同時に、各機は戦闘宙域へワープした。



「こちらウィロー、援護する。状況知らせ」
『こちらパンナコッタ、編隊規模LL、我が隊損傷軽微。ウィロー隊はEフィールド方面を処理願う』
「了解!全機続け!」
『了解!!』

 ★ ★ ★ ★ ★

 我らがヒヨコ共の初陣は、予想以上にあっけなく終了した。
 頼もしいヒヨコ共は敵さんを圧倒したまま完勝。目立った損害なし。 
 さすが俺の教え子たちだ。


「ブリュレより入電」
 G.A.I.A.の支援システムが秘匿回線の着信を告げる。

「こちらウィロー、どうした?」
『もっと他人を愛することを学ぶことだ。』
「?」

『われわれ一羽一羽が、まさしく偉大なカモメの思想であり、自由という無限の思想なのだ』
「……」

『どのドアも閉ざされている、と絶望的になってしまう。
 しかし、ひたすら叩いているうちに、どこかのドアがポンと開くはずだ。その開いたドアが、自分のいちばん求めている、愛するものへの道だと、とりあえず信じるのだ。
 そこへ入る、またドアが全部閉まっている。必死になって叩くと、またひとつだけドアが開く。
 それを繰り返すうちに、いつか、ものすごい光を自分の中に見つけることができる』

「無限……なんだな、『ジョナサン』?」
『……私は、そう思います』

「小娘の分際で上官に説教とは生意気だ。
修正してやるから、帰投後2100にサンテックスへ集合だ」
『喜んで!』

『こちらラクガン、隊長、どうしました?』
『こちらブリュレ、皆の衆!朗報だ!我らの勝利を祝して隊長殿の奢りで宴じゃ!
2130サンテックス集合、遅れるでないぞ!』
『やったー!』

 ……まったく、余計なところまで息がピッタリのヒヨコ共だ。

#02 END

id:garyo

ありがとうございます。
お題の消化具合がちょっと……かな。
お話は楽しめました。

2012/05/28 00:02:59
id:gm91

まあお題の件はご愛嬌、じゃなくて私の力量ってことで。お目汚しご容赦ください。
あと、ちょっと長すぎましたかね。これでもだいぶ削ったんですけど力尽きました。

2012/05/29 01:43:45
id:sokyo No.10

回答回数1377ベストアンサー獲得回数97

ポイント9pt

『       ● 』

むかし、あるところに おとこのこが すんでいました。
おとこのこは おもいびょうきだったので、ひろいびょうしつの せまいベッドで ずっと ねていなければなりませんでした。

あるよる、おとこのこがねていると、ゆめにあくまがでてきて、
「おまえの ねがいを みっつ かなえてやる」
と いいました。
そこで おとこのこは、
「となりのベッドのおんなのこを げんきに してあげてください」
と いいました。
となりのベッドのおんなのこは おもいびょうきで にゅういんしていたからです。
つぎのひのあさ、おとこのこがめをさますと、となりのベッドのおんなのこは すっかり げんきになっていました。
おとこのこは ゆめはほんとうだったんだ、と おもいました。
そのひ、おみまいにきたおかあさんに、おとこのこは
「ぼく、おんなのこを げんきにしてあげたんだよ。えらかった?」
と ききました。
おかあさんは、
「まあ、それはえらかったわ。こんどは げんきをもらうほうになれたら いいわね」
といいました。

つぎのひの よるにも、ゆめに あくまがでてきました。そこで おとこのこは、
「ぼくに おとうとを ください」
と おねがいしました。
そのひ、おみまいにきたおかあさんは、
「きいて。こんど あなたに きょうだいが うまれるのよ」
といいました。
ゆめは、やっぱり ほんとうになりました。
おとこのこは、
「ぼくが、あかんぼうを よんだんだよ。えらかった?」
とききました。
おかあさんは、
「まあ、それはえらかったわ。はやくあえると いいわね」
といいました。

はるがすぎ、なつになり、あきになり、ふゆになりました。おとこのこは まだ びょうしつのベッドで ねていました。
おとこのこには、おとうとが うまれました。おかあさんは ひさしぶりに、おとこのこのところへ おみまいにきました。
「ぼくは、おとうとに まだ あったことがないけれど、おとうとが いま どんなふうに おもっているか、わかるよ」
と おとこのこはいいました。
「まあ、それはすごいわ。じゃあいま、なんて おもっているかな?」
と おかあさんはききました。
「うん、おうちは とてもあつくて くるしくて、たすけてほしくて ないている」
と おとこのこはこたえました。
「まあ、それはたいへん。でもだいじょうぶよ。そんなことはないわ」
と おかあさんはこたえました。
「ほんとうに あつくて くるしいんだよ。でもね、ぼくが たすけてあげる」
と おとこのこはこたえました。

そのときです。ふたりしかいないはずの せまいびょうしつに、くろいひとかげが あらわれたではありませんか。
くろいひとかげは、なんと あくまでした。
「おまえの みっつめのねがいは、それでいいのか」
と あくまは おとこのこに ききました。
「ほんとうに いいのなら、おまえのたましいは おれがいただく」
と あくまはつづけました。
おとこのこは いまにも「はい」とこたえようとしました。そのとき おかあさんは、まどのそとの おかしなようすに きづきました。
おかあさんの いえのほうから、くろいけむりが あがっていたのです。
おかあさんは おとこのこに、
「ぜったいに へんじをしてはだめ。ここで おりこうさんに まっていて」
と いいました。
そして、いえのほうへ いちもくさんに はしりだしました。

いえのまえには たくさんのひとがいました。おかあさんは ひとがきをかきわけて、ひのなかへと とびこみました。
あかんぼうは にかいにいます。おかあさんが かいだんを いちだんのぼるたび、おかあさんがあるく すぐうしろのいちだんが やけおちて はいになりました。
あかんぼうは、ぶじでした。
おかあさんは あかんぼうをだきあげると、いえのにわへ とびおりました。
そして、そのまま びょういんのほうへと もどっていきました。
おかあさんは、ひのなかで ガラスを ふんでしまっていました。それで おかあさんが はしったあとには、あかい てんせんが できました。
いっぽすすむごとに あしは やけたように いたみました。それでも おかあさんは、はしりました。
おとこのこの ことが とてもしんぱいだったのです。

びょうしつにつくと、もう あくまは いませんでした。
そのかわりに、おいしゃさんや かんごしさんが いました。
「おかあさん、ぼく、えらかった?」
おかあさんには、おとこのこの こえが きこえたきがしました。
おかあさんは、おとこのこのほおに そっとふれました。
とても つめたくなった ほおに ふれました。
おかあさんは おとこのこの ほおを ぬぐってあげました。
けれども ほおについたすすは、どんなにぬぐっても きえませんでした。

おとこのこの ベッドのまえには あかい おおきな まるができました。

id:garyo

ありがとうございます。
シューベルトの魔王を連想させるような素敵な作品ですね。

2012/05/28 01:13:23
id:yarukimedesu No.11

回答回数284ベストアンサー獲得回数48

ポイント9pt

人!物!金!人!物!金!人!物!金!


 電車がホームに入ってくる音。「ごとんごとん」が、「死のう死のう」と聞こえる時が来る。そうなると、電車に乗る時、もうその事しか考えられなくなる。電車通勤ではなかったのだが、例えば、ビルの屋上に立った時、そこから転落することを想像するように。自分が落ちて死ぬ姿。落ちて死んだら楽になれる。プラットホームが、ビルの屋上だったのじゃないか、と思えてくる。

 ここから落ちて死ねたら、どんだけ楽だろうか。だけど、それは身勝手な行為であり、そんな考えは、言い訳でしかなく、自分勝手であろうが、何であろうが、飛べないのは自分であり、その弱さのおかげで、男は死ねないのである。

 今日も死ぬことはできなかった。憂鬱な職場、家に帰ろうと思った時、雲が太陽を隠し、屋上は、そのビルの周囲は影の世界に入った。その中に一人の男が立っていた。初めてみる顔だった。


 男は、軽く会釈をして立ち去ろうとすると、後から現れた男に呼び止められた。立ち止まると、男は、三つの願いを叶えてやる、と言う。男を見る。男は本気らしい。さらに、ルールを教えてくれた。曰く、悪魔が3つの願いを適えてくれます。3つの願いがかなうと、魂を取られて死んでしまいます。死後も地獄で永遠の責め苦に苛まれます、とのことだ。急に事務的になるのは、不思議な感じだった。

 男は、バカバカしいと思いながら、何故か、その男には心を許せた。悩みを話した。話してみれば、その殆どは、金、お金、マネーで解決できることだと分かった。ほんの冗談で、男は、だったら、1億円を下さい、と言った。男は呪文のような言葉を呟き、屋上から去っていった。

 家に帰ると、彼の伴侶、結婚相手の女が大慌てで、玄関にやってきた。思えば、この女と顔をあわせたのは、どれくらいぶりだろうか。不快な音、声を解読してみると、銀行に記帳行くと、預金残高が1億円増えていた、とのことだった。手帳を覗き込むと、見た事ない数のゼロが並んでいた。その晩は、久しぶりに夫婦の営みを2回した。



 それから三ヶ月経ち、男は、やはりビルの屋上にいた。どうしてあの時、10億円と言わなかったのか?と最初一ヶ月くらいは後悔したものだが、1億円という金額は、生活を逆転させるには十分すぎる金額だった。もう働かなくても良い、とは言えない金額。これから子どもが生まれたとしたら、それにかかる費用などを考えると、仕事は続ける必要があった。しかし、貯金という後ろ盾、その金額があると、少しは、いや、大いに気持ちが前向きになった。そう思っていた。

 だがしかし、それでも、男はビルから飛び降りて、想像できる範囲でぐちゃぐちゃに潰れている自分の姿を思い浮かべていた。はっと気付くと、すぐ後ろ、背後に、あの男が立っていた。男は、おじぎをして、そして、1億円のお礼を言った。男は、幸せになれましたか、と聞いた。その質問に男は答えられなかった。

 この男の前に立つと、自分の心を洗いざらい話してしまいたくなる。もしかしたら、それは、男が持つ魔力のようなものなのかも知れない。男は言葉になる限り、男に伝えた。それは、お金を得たことで見えてきた、彼の心の部分、精神の話だった。人と一緒にいるとそれだけで蝕まれるものがある、自分は長く一緒に誰かといると最終的に嫌われる、誰かが自分の領域、例えば、敷地に入られるだけで、心が削りとられる。マンションの共用部分の使い方。電車の乗り方、電車の降り方、電車の中の過ごし方。団体競技の経験がある人間は、みんな嫌いだったし、運動をする女も嫌いだった。わざわざ帰宅部を特別扱いするCMも嫌いだった。独り言を言う人間は、男にとって全て敵だった。学歴でチーム分けをするクイズ番組に疑問を持ちながら、差別的な思考が支配している自分が嫌いだった。そのようなことをとめどなく話した最後に、自分が死ねば一番だと思うのだけど、死ねない自分がいる。なんとかしてくれないか、と枯れた声で、男に言った。

 男は1億円をくれた時と同じように、呪文のようなことを呟き、そして、なんとかしましたよ、と言うと、屋上から去った。


 しばらく呆然として、ふらふらと、職場に戻った。誰もいなかった。いつもなら、お昼休みであっても、おかまいなしにかかってくる電話も、一つもならなかった。男は、自分の妻に電話をかけてみた。通話になることはなかった。



 男はふらふらと家に帰った。家につくまで誰とも会わなかった。ふらふらと、今度はマンションの屋上に昇っていくと、そこには、あの男がいた。男は、なんとかしてくれ、と言った。男は、呪文を呟いた。男は魂を取られて死んだ。死後も地獄で永遠に責め苦を味わうらしい。結果として、あの男だけが世界から消えた。マンションの屋上で、男は、ルールだから仕方がない、ルールだから仕方がない、と呟き続けた。

id:garyo

ありがとうございます。
どっちも「男」で混乱しました。
>その弱さのおかげで、男は死ねないのである。
生きてるやつは死ぬ勇気のなかったやつだというのはあると思います。

2012/05/28 01:18:24
id:yarukimedesu

 ありがとうございます。

 整合性はとれてないですが、男と男が同じ人物だったら良いな…と思って、あえてそうしました。1億円の行方まで書けば良かったです。

 「弱さ」に関しては、わりとありふれたことだと思ったのですが、文章にすると、精神的にクルものがありました。

2012/05/28 07:25:49
  • id:alpinix
    「・・・・ということなんだが、理解はできたなかな?」
    老人の頭に豚に似た尻尾を生やした異形の物体は、明瞭な発音で"三つの願い"の詳細を説明した。
    「もちろん、最初の願いは人類の滅亡だ!」
    「・・・い、いいのか? ワシの言ったことちゃんと理解しているのか」
    「次の願いは、浄化の力だ。最近、食糧に毒物がまざっていて命を落とすものが続出しているんだ」
    (・・・・選んで食えよ)
    「そして最後は、究極の繁殖力を」
    (・・・・いらねえだろ、あ、君、後ろ後ろ)
     
    缶の先端に突き出たノズルから真っ白い煙が噴射され、そいつは床にのた打ち回りはじめた。
    もう長くはあるまい。
     
    「やっぱり交渉相手は人間に限るよなあ」
  • id:garyo
    皆さんさすがに一筋縄ではいかず、ひねってきますね。
    >[はてな]むーふ。締め切りがない。油断していると時間切れになりそうだ。
    終了予定:日曜日の 23:19:19です。
  • id:alpinix
    >終了予定:日曜日の 23:19:19です。
    質問と直接関係ない、システムに関する疑問なのですが、教えてください。
    garyoさんのログイン状態では、質問の終了予定時間って表示されてますか?(それが終了予定 23:19:19?)
    それってもしかして5日目に突入してから表示されるようになりましたか?
    ログアウトしてもその予定時間って見えてますか?
     
    僕からは今現在、この質問の終了時間が見えていない(表示されていない)のです。
     
  • id:garyo
    >garyoさんのログイン状態では、質問の終了予定時間って表示されてますか?
    出てますよ

    回答の条件

    1人3回まで
    13歳以上

    登録:2012/05/20 23:19:19
    終了予定:2012/05/27 23:19:19

  • id:garyo
    >ログアウトしてもその予定時間って見えてますか?
    ログアウトすると見えませんね
  • id:sokyo
    わー! 今回は別格の傑作がたくさんあったので、
    それを除けば私きっと実質1位のポイントもらえたしありがとうございます☆
    引用スターがうまく付けられない…いつもくやしい…υ

    みなさんほかの質問で大忙しなのかしら…(・_・
  • id:gm91
    陛下。民草が待ちかねておりまする。
    http://q.hatena.ne.jp/1338128004
  • id:sokyo
    GM91さん、あと呼んでくださった方ありがとうございます☆
    冷静に考えてみたら「別格の傑作」って10コぐらいあったわ。
    なんなのこのレベルの高さ…汗

    さて、ここならもうみんなあんまり見てないと思うから予告します!
    えっと、もうすぐ私かきつばたに参加して20回めになる予感です。
    20回めを書いたら、私また感想文ぼしゅうの質問をするよ!
    http://q.hatena.ne.jp/1324043526
    ↑コレの続き的な。
    もし空き時間とポイント欲と気の長さがあれば、ぜひお付き合いくださいませ♪

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