かきつばた杯を開催します。
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〆切は
6/30(土)23時~
を予定しておりますが、先行してお題を発表しておきます。
テーマ:
「君にもう会えない。……その意味がようやく分かり始めたところだ」
から連想したストーリー
注意事項:
これは予告です。正規質問は〆切前1wを切った時点で立てます。
ポイントはそちらへ投稿されたものを対象とします。
こちらへの投稿は、この質問〆切時点で講評します。本戦への転載OK。
吾輩は赤シャツである
窓の外ではホトトギスが「特許許可局」と鳴き、遠山さんはそれを聴きながら「ねえ」とおれを見た。
「花鳥風月って、英語ではなんと言うのでしょう」
「ザ・ビュウチィズ・オブ・ネイチュアかな」
「それでよろしいの、本当に」
遠山さんはフラワアとかバアドを期待していたようで、目を丸くした。
「いや、もっというなら、ノンヒュウメン・ネイチュアだね。つまり人間以外の全てという意味で」
そんな講釈を打ちながらも、おれは先だってから別のことを考えていた。
――ホトトギスか――
「高浜のやつが今度、ホトトギス(雑誌)に小説を書いてみないかって、勧めてきやがるんだが」
「まあ、面白そうじゃありませんか」
「面白いかどうか、神経衰弱の治療の代わりだよ」
遠山さんは一瞬だけ暗い目になり、すぐに悪戯っぽく笑っておれの目を覗き込んだ。
「私のことも書いてくださらないかしら」
「いいとも、色の白い、ハイカラ頭の、背の高い美人のマドンナなんてどうだね」
遠山さんの色白の顔は見る見る赤くなり「まあ」と言って下を向いてしまった。
女ってやつはどうしてみんな小説なんかに書いてもらいたがるんだ。
キヨのやつも、自分を書いてくれって言ってやがった。
「古賀くんは元気かい?」
遠山さんの目がうつむいたまま、右に流れる。
「相変わらず病弱で…」
道後温泉本館。
おれが四国で一番好きな場所だ。
だが、こんな風にお互いの伴侶に隠れて逢っているおれたちは、犬か猫の畜生のようだ。
「俺は猫。吾輩は、猫である、か」
なんだか一つ、書けそうな気がしてきた。
おれは茶碗に残ったお茶を飲み干し、座布団を蹴って立ち上がった。
「東京へ帰るよ」
遠山さんは泣きそうな目で、おれを見上げて「金之助さん」と言った。
「今度はいつ、逢えるのですか」
俺は遠山さんに背を向けて応えた。
「小説のなかで」
了
あいつにはもう二度と会うことはない。その意味がようやくわかり始めてきた。
俺があいつに会ったのは、そう去年の夏だった。暇つぶしに出かけた市民プールの観覧席にあいつが居た。
25メートルの往復を繰り返す俺をじっと見つめていたあいつ。始めは誰か連れがいるんだと思った。
俺のことを見ているなんて思いもしなかった。
俺より先にあいつが来ていたと思い込んでいた。
プールから上がり際に声を掛けられた。
「凄い泳いでましたね!」
「?」
「ごめんなさい。突然声を掛けちゃって」
「あんまり楽しそうに泳ぐもんだから……」
「はあ…………」
プールでの会話はそれっきり。でも、俺の生活空間にあいつはしばしば現れた。
時には、いきつけのコンビニで。ある時には、新刊を探しに行った本屋で。
運命? 少なくともそんな気は一切しなかった。
あいつと俺との距離。徐々に近づき、近づいたと思ったらまた離れる。
俺とあいつ。あいつと俺。
交わることなんて不可能だ。生理的に無理だ。きもい、気色悪い。吐き気がする。
そう思って俺は、彼に相談した。
彼曰く……
「じゃあ俺が、お前の側に近寄らないように、がつんとかましてやろう。それでいいだろ? それでもダメなら警察に相談しようぜ! ストーカーだもんな、まったく。お前も、その言葉遣いさえ無ければ、おしとやかな女子高生にしか見えないんだから、気をつけろよ」
で、結局、彼の脅しにもめげずに、俺につきまとっていた小太りの男は、警察に通報してやった。
あいつ、俺の家の場所まで突き止めて、毎晩怪しげな手紙やらなんやら寄越してやがった。そりゃ度が過ぎるってもんだ。
あいつにはもう二度と会うことはない。こんなに嬉しいことはない。
この軟弱者!
講評です。
完成までの時間にはビビリましたが、何度か読み返すと、正直、出来はそれなりかな、と思います。文章は読みやすくて良いですが、心に残る何かが足りない感じ。まあ習作ってことで次作に期待です。
吾輩は赤シャツである
窓の外ではホトトギスが「特許許可局」と鳴き、遠山さんはそれを聴きながら「ねえ」とおれを見た。
「花鳥風月って、英語ではなんと言うのでしょう」
「ザ・ビュウチィズ・オブ・ネイチュアかな」
「それでよろしいの、本当に」
遠山さんはフラワアとかバアドを期待していたようで、目を丸くした。
「いや、もっというなら、ノンヒュウメン・ネイチュアだね。つまり人間以外の全てという意味で」
そんな講釈を打ちながらも、おれは先だってから別のことを考えていた。
――ホトトギスか――
「高浜のやつが今度、ホトトギス(雑誌)に小説を書いてみないかって、勧めてきやがるんだが」
「まあ、面白そうじゃありませんか」
「面白いかどうか、神経衰弱の治療の代わりだよ」
遠山さんは一瞬だけ暗い目になり、すぐに悪戯っぽく笑っておれの目を覗き込んだ。
「私のことも書いてくださらないかしら」
「いいとも、色の白い、ハイカラ頭の、背の高い美人のマドンナなんてどうだね」
遠山さんの色白の顔は見る見る赤くなり「まあ」と言って下を向いてしまった。
女ってやつはどうしてみんな小説なんかに書いてもらいたがるんだ。
キヨのやつも、自分を書いてくれって言ってやがった。
「古賀くんは元気かい?」
遠山さんの目がうつむいたまま、右に流れる。
「相変わらず病弱で…」
道後温泉本館。
おれが四国で一番好きな場所だ。
だが、こんな風にお互いの伴侶に隠れて逢っているおれたちは、犬か猫の畜生のようだ。
「俺は猫。吾輩は、猫である、か」
なんだか一つ、書けそうな気がしてきた。
おれは茶碗に残ったお茶を飲み干し、座布団を蹴って立ち上がった。
「東京へ帰るよ」
遠山さんは泣きそうな目で、おれを見上げて「金之助さん」と言った。
「今度はいつ、逢えるのですか」
俺は遠山さんに背を向けて応えた。
「小説のなかで」
了
>ズルいようですが、先にこちらに掲載して様子を見て
そのための予告です。バンバンやってください。
講評です。
漱石、虚子あたりをモチーフにしたところは私は良いと思います。文体と言うか雰囲気も良いですね。
少し気になったのは、根幹となるストーリーというか、お話の主題がくっきりしていない印象を受けます。風波雲翼さんがイメージした世界や設定や物語があると思うのですが、それが見えそうで見えない感じ。
「俺」の思念であるとか二人の所作などの描写をもう少し書き込むともっとくっきりするかも知れません。たとえば、「俺」が遠山さんに逢う理由とか、離別を惜しむ(あるいは、一切惜しんでいない)心情とか。あと、道後温泉本館~のところが唐突な印象を受けるので、つながりについてもう一練りされると良いかも。
さよならシンちゃん
急に寝ているところを冷たい手で頭をなでられ、あたしは「ひゃっ」とさけんで目を覚ました。
振り向くと、すぐ目の前にシンちゃんの笑顔があった。
「冷たい手で触らないでよ」
シンちゃんに背中を向けると、真正面に窓が見える、さっきまで振り続けていた雪が止んでいるらしいことは、閉ざされた薄いカーテン越しにも判った。
タテヤマという所に行くといって出て行ったきり、一週間も帰ってこなかったのだ。
ヤマというところがどんなにいい所か知らないけれど、今日という今日は、もう許さない。
「そんなに怒るなよ」
シンちゃんは寂しそうに笑いながら、特別な時にしか出してくれない、高級な缶詰のキャットフードを開けてくれた。
「だめよ、こんなことくらいで、あたしの機嫌は直らないわ……でも、おなかペコペコだったのよねー……やっぱりおいしい、くやしいけどおいしいわ、むしゃむしゃ」
シンちゃんには彼女がいない。
ヤマばっかり登ってるから、できないのだ。
いつもあたしと二人きり。
就職試験に失敗して、ヤケ酒を飲んだ時もあたしがつきっきりでなぐさめてあげたのだ。
「仕方ないな、今日は一緒に寝てあげてもいいかも」
あたしが少しだけ機嫌を直していってあげても、シンちゃんは浮かない顔をしていた。
――あたしを放ったらかして、好きなだけあそんできたくせに、なにさえない顔してんのよ――
あたしがそういおうとした時。
――な、なに?誰かくる――
あたしが毛を逆立てて身構えるとまもなく、ドアのカギをガチャガチャと開ける音がして、リナさんが入ってきた。
リナさんはシンちゃんの妹だ。
「よかった、気がついてくれたか」
シンちゃんがリナさんにそう声をかけたが、リナさんは無視して、あたしに歩み寄り抱き上げた。
「ごめんねあなたのこと忘れてて、さっきお兄ちゃんの声が聞こえたような気がして、思い出したの」
「声が聞こえたって、今そこにいるじゃん」
リナさんは、キャットフードの缶詰に気がつき、手に取り上げて部屋を見回した。
「まだ開けたばかりみたいだけど……もしかして、お兄ちゃんいるの?」
――だから、目の前にいるでしょって――
「いるよ、でも残念だけど、お前には見えないみたいだな」
シンちゃんが悲しそうな声で答えたが、リナさんには本当に聞こえないらしく、相変わらず部屋をキョロキョロ見回している。
「チーコちゃんは私が面倒みるわ、だから安心して天国に行って、好きなだけ山に登ってね」
「ちょ、ちょっと待って、天国って、ぜんぜん意味が解かんないんだけど」
シンちゃんは小さな声だけど、力強く「ありがとう」とうなづいた。
「リナも元気でな」
「ちょっと待って、もう、怒ってないから、機嫌なおったから」
「チーコもごめんな」
と、シンちゃんはまた冷たい手であたしの頭をなでた。
「嫌がらせに干してある寝袋におしっこしたこと謝るから、もうどこにも行かないで」
「すっかり吹雪かれちまってさ、雪の中でまる二昼夜頑張ってみたんだけど、あの眠さには勝てなかったよ」
「だったら今夜はあたしが抱っこさせてあげるから、ゆっくり寝てってよ、あたしたちのベッドで」
シンちゃんは今にも泣きそうな顔でしばらく目を閉じ、もう一度目を開けた時には力いっぱいの笑顔になっていて。
「ごめん、もう行かなくちゃ」
と笑いながら消えていった。
リナさんはまるでそれが判ったように、
「さよなら」
といって泣いた。
窓からはやわらかい西日がうっすらと差しはじめていた。
了
かきつばたは、書きたいもの、読みたいものを憚らずに書いてもらえればそれでOK!
講評です。
根幹となるストーリーは、ありきたりと言ってしまえばそれまでですが私は好きですよ。
主人公の所作/思念がちょっと淡々としすぎている感じなのでもっとメリハリをつけると情感が増すかもしれません。
あと「いつもあたしと二人きり」なはずなのに妹の存在がそれを打ち消しちゃってる感じがします。
いっそ登場させない方が寂寥感が増すかも。
>ズルいようですが、先にこちらに掲載して様子を見て
2012/06/19 22:40:37そのための予告です。バンバンやってください。
講評です。
2012/06/23 00:33:24漱石、虚子あたりをモチーフにしたところは私は良いと思います。文体と言うか雰囲気も良いですね。
少し気になったのは、根幹となるストーリーというか、お話の主題がくっきりしていない印象を受けます。風波雲翼さんがイメージした世界や設定や物語があると思うのですが、それが見えそうで見えない感じ。
「俺」の思念であるとか二人の所作などの描写をもう少し書き込むともっとくっきりするかも知れません。たとえば、「俺」が遠山さんに逢う理由とか、離別を惜しむ(あるいは、一切惜しんでいない)心情とか。あと、道後温泉本館~のところが唐突な印象を受けるので、つながりについてもう一練りされると良いかも。