テーマは「好きです。」
人生最高の告白(あるいはその妄想)を、架空の物語仕立てにして教えてください!
理想のシチュエーションは? 相手はどんな人? どんなふうに伝えた?
…なんてコト書いてくれたらあとは私が楽しく読みます。
私が読んでおもしろかった作品にポイントたくさん進呈します!
言葉は「好きです。」じゃなくてもいいし、好意があれば告らない話でもいいし、今回は10行ぐらいでもいいです(笑)
かきつばた杯についてはこちらを参考に。
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%CD%CE%CF%B8%A1%BA%F7%A4%AB%A4%AD%A4%C4%A4%D0%A4%BF%C7%D5
締め切りはもちろん2/14です♪ あとコメント欄をよければご覧くださいませ。
初めて書くヒト歓迎です。大丈夫、やってみたら意外と書けるから☆
では楽しんで!
「例えばさ、例えばなんだけど。」
「何よ。」
「ほんっとに例えばなんだけど。」
「だから何よ」
「ボクがユミを好きって言ったら、どうする?」
「ど、どうも、し、しないけど。」
「そ、そ、そうか。」
「何よ、言わないの」
「え」
「例えば、例えばよ。」
「う、うん」
「言ってみなければわからないことって、やってみないとわからないじゃない?」
「う、うん」
「だから、例えばって考えたんなら、それを試してみないとわかんないじゃない?さっき言ったのは、例えばっていう例文なんだから、ほんとに試したわけじゃないし、ほんとに、その気で私が聞いたわけじゃないし、例えばってことは、ほんの一瞬でも本気で言わなきゃならないわけだし、試してみないとわかんないし。」
「う、うん。そう、だ、ね」
「試さないの?」
「う、うん」
「じゃあ試しに、言ってみるね」
「そうね、試しだからね」
「う、うん」
「なによ、例文読めばいいのよ。ここに書いてあげるわよ。地面によ。こう書くわよ。ほら、これ読んで」
「う、うん」
「読みなさいよ。試しでしょ」
「う、うん」
「す き です」
「知ってた」
「好き」
ありがとう。
「好きだ」
うれしい。
「好きです」
僕だって。
「好きだよ」
知ってる。
「好きなんだ」
分かってるって。
「大好き!」
同じくらい君を。
「好きだから」
うん。
「好きよ」
ああ。
「好きってことさ」
そうかい。
「好きだって」
知ってるってば。
「だーいすきっ」
うるさいな。
「好き…」
何回言えば気が済むんだ。
「す、好きだっ」
もういい。
「好きー!」
黙れ。
「好きだってこと」
黙れ。
「君が好き」
煩い。
「あなたが好きなの」
何度言わせるんだ。
「好きなんです」
もう言わないでくれ。
「好きで悪いかっ!」
黙ってくれっ!
「好きだー!」
黙れ!
「好きだって言ってるだろ」
黙れ、黙れ!
「お前が好きだ」
煩い、煩い、煩い。
「好き好き好き好き好き!」
「好きなだけじゃないか!」
「ただ好きなだけじゃないか!」
「誰か、誰かっ」
「僕を」
「愛してる。君を」
ああ、たけじん先輩だ、私はあの人苦手なんだよなー。
いつも口の端があがってて、すれ違うとき私の頭くしゃくしゃってするから。
ちょっと苦手。
え?さとみはくしゃくしゃってされないの?あやかはあの口、見たことないの?
無表情だって?クールでかっこいいって?えええ
そうなの?
はい。山崎先輩、その通りです。
はい。たけじん先輩は、こんな感じにくしゃくしゃって、は い
口の端が、あ、そうです。そんな形で、はい。はい。
その通りです。はい。
え?ガンバレって?良かったな?
ま、いいかってどう言う意味ですか?
あ、いなくなっちゃった。もう、山崎先輩ぃ。
また、くしゃくしゃって。
わかってますよ、ええ。
長い間、くしゃくしゃしてくれてありがとう。
最期まで、言っては下さいませんでしたが。
だから。
最期に、私から。
「愛してます。」
あ、その口の端。
さようなら、あなた。
「頼む! 俺を噛んでくれ!!」
純平は扶亜の両肩を掴み、懇願した。その目には決意が宿っている。
「でも…………、そんな…………」
「いいから! 早く! 血を吸うんだ!」
扶亜はたじろいだ。確かに、出会った当初は扶亜は何度も純平を噛んでしまおうと考えていた。だが、今は違う。純平の血液が如何に美味であろうと、純平の体に自分を成長させるどれほどの力が眠っていようとも。
純平を自分のしもべにするという願いはとうの昔に消え去っている。
「だめだよ純平。噛めないよ! 血なんて吸えないよ! 純平が純平じゃなくなっちゃうんだよ!」
扶亜は吸血鬼の末裔。それでいて、他の野蛮な種族たちと異なり、人間との調和を目指す流派に所属している。それでも扶亜は一度は、夢を見た。吸血姫として、種族の頂点に立ち人間達を従えるある種の理想郷を。
そのために必要な力の元、石神純平にも出会うことができた。純平の血には特別な力があり、その血を吸えば扶亜は大いなる能力を得ることになるだろう。何億分の一の素材。それが石神純平、その血液。
そして、そのために純平に近づいた扶亜であったが、幾度のチャンスを逃し、未だに血を吸うことは叶わない。否、今は、純平の血を吸ってしまうことに躊躇と嫌悪すら感じてしまっている。
「だからって……それじゃあ俺たちは……もう……」
話しながらも、純平と扶亜の二人は襲い掛かる低俗な吸血鬼どもを幾体も葬っている。扶亜はその吸血鬼として生まれ持った魔力によって。そして純平は家系に伝わる聖なる剣――これまで扶亜から自分の身を何度も守ってきたその――刃によって。
また、扶亜がニ体、純平が一体と敵を打ち倒していく。しかし、数が多すぎる。これでは到底持ちこたえることができない。
「はやく! 手遅れになる前に!! 死んでしまったらおしまいだろう!!!!」
「でも…………」
「血を吸われても記憶は残るんだろう? それなら今までと一緒だ。俺はどこにも行かない。それどころかお前の言いなりになる。それで良かったんだろう?」
「でも……」
「じゃあ、二人でこのままみすみすとやられるのか! 俺は嫌だ! ……も守れないで……」
「えっ!? 今なんて……」
飛び掛る吸血鬼を魔力弾で迎撃した扶亜が振り返って純平に向き直った。
「『好きな女も護れないで』って言ったんだよ!」
「でも、それは……」
「知ってるよ、高貴な吸血鬼には人を魅了する力があるんだろう! そんなのはわかってる。でも、自信を持っていえる。そんなのがなかったってなぁ! 俺は、お前に惚れたんだ。お前のことを愛おしく思うんだ!」
「純平……」
「俺だって吸血鬼になればもっとましに戦えるようになるんだろ? こんなちっぽけなナイフじゃなくて。それでお前だって新たな力を得れるんだろう? 二人で戦えば、多少数が多くたって……」
会話をしながらも着実に扶亜と純平の二人は敵勢力の戦力を地道に削いでいく。しかし、多勢に無勢。この局面を乗り越えるには、なにか大幅な戦局の変換が必要だろう。
そのためのお膳立てはできている。扶亜の能力からして、扶亜に吸血されて誕生する吸血鬼――この場合は純平がそうなるのだが――は、基本能力も高く、魔力に秀でていて、下級の吸血鬼とは比べ物にならない戦力になるだろう。
そして、選ばれし血統である石神純平の血を吸えば……扶亜は今までの数倍の魔力を手に入れることができるはずなのである。この局面を脱するには十分すぎるほどの……あまりある状況がそこにお膳立てされている。
吸血鬼たちの攻撃が一瞬止んだ隙を見て、純平は扶亜の肩を掴む。そして見つめる。真摯に。
「いいから……やってくれ……俺はずっとお前とともにある。それが人間であっても、吸血鬼になってもだ!」「ごめんなさい……できない。やっぱりできないよう。私は純平が好きなの。今のままの純平が! 吸血鬼じゃなくって、人間であるあなたが好きなの!」
「そんな……」
再び吸血鬼たちが集団で二人を襲う。なんとか持ちこたえているが、そう長くは持たないだろう。
その時、純平の手にしていた短剣がにわかに輝きを放ちだした。そして純平の脳内にメッセージを送り込む。
(少年よ、力が欲しいか? お前こそ選ばれしものの後継者。長きに渡る人間と吸血鬼の戦いに終止符を打つ者)
「なんだ? だれだ? この剣が語りかけてくるのか……?」
(わが力を解き放て。さすれば、全ての吸血鬼たちのその存在を抹消することが出来よう)
「なんでもいいからやってくれ! それでこの局面が打開できるなら」
純平は、短剣で、自らの上に傷をつけた。その血がみるみるうちに短剣に吸い取られる。
と、同時に短剣がまばゆい光を放つ。周囲に居た吸血鬼たちは一掃された。
「む、武藤さん!」
扶亜は、純平の傍らで倒れこんでいた。
「じゅ、純平……」
「なんてことだ! そうか、吸血鬼を倒す力……それが武藤さんにも作用するなんて……なんて俺は馬鹿なんだ……」
「いいの……あのまま二人で死んでしまうよりは…………あなたの中で……わたしは生き続けるから……」
純平に抱きかかえられた扶亜は、苦しさに耐えながら必死でそんな台詞を搾り出した。
扶亜の体は徐々に崩壊していく。純平の短剣から放たれた力の影響だろう。如何に高貴な血統にあるといっても扶亜も吸血鬼である。対吸血鬼としての力を受けて、無事ではいられない。
「武藤さん……」
「純平……あ、り、が、と、う……あなたに出会えて…………良かった……」
「扶亜!? 扶亜! ふあ~~~~!!!!!!!!!!!!!」
純平の腕の中で扶亜の肉体は消滅した。痛みに、恐怖に耐え、安らいだ笑顔を浮かべながら。
(俺は扶亜を愛し続ける。この先何があっても、何年経とうが、俺は扶亜を愛し続ける……)
昼休み。学校の裏庭で――
「昨日はごめん、D沢くん」
「仕方ないよ、B中さん。急に教室にゴキブリが出てきちゃったんだから」
――ゴキブリが出た時にB中さんが悲鳴を上げて虫をはねのけようとして代わりにメガトンパンチを喰らったのは痛かったけど
「D沢くん」
「何?B中さん。急に改まって」
「あのっ・・・」
B中は何か言いたそうな顔でD沢を見つめる。
「好きだから・・・」
「えっ?」
B中の意外な言葉にD沢は不意を打たれた。
「えっ、えー!」
――クラスのアイドルのB山さんが僕に告ってる
プシュー
D沢の血が頭に上って自分の世界に入っていく。
「好きだから・・・」
B中の声がエコーになってD沢に響いていく。
――B中さんと付き合えるということは僕とB中さんはイチャイチャでお弁当なんかをアーンしてもらったり、膝枕してもらったり毎日ウハウハで
B中に見とれるD沢に彼女の声が聞こえてきた。
「友達として」
「へっ?」
唖然とするD沢にB中が続ける。
「ゴキブリの件で嫌われちゃったと思って」
チーン(終)
あの頃はただ夢中だったね。
周りも見ないでずっと綺麗なものばかりに憧れてた。
皆が何を言おうと追いかけてた。
窓から差す日の光が、床に落ちるだけで世界は鮮やかだった。
ビー玉を転がして、ガラスの花瓶にぶつかって、キラキラするのを眺めてた。
夏の透明な昼下がりも、浮かんだ道にサンダルつっかけて駆け回った。
廃屋さえ世界を埋め尽くすパズルのピースだったんだ。
遠くに見える摩天楼も近くに佇む電信柱も皆蝉が止まったようだった。
一人自転車をこいで、遠くまで逃げたこともあった。
田んぼの真ん中を切り開く畦道で、青空が眩しかったのを覚えてる。
あの頃、僕はまだ喜びに満ち溢れていた。
砂利道を二人並んで歩いてた。
夕焼けに伸びた影に落書きをして遊んだ。
無邪気だったよね。
君が「好き」と言ってくれたから。
となりが空っぽになったのは、いつからだったろう。
どうすればいい?
どちらかを選ばなければいけない、それはよくわかってる。でも決められないんだ。
どっちのことも好きなんだ、優劣なんて付けられない。
ああ、なんで俺はこんなことに?
ずっとアイツのことを一途に思ってきたと言うのに、どうして今頃になって浮気なんて?
ああ~バカバカ!俺の浮気者!バカバカバカ!
いや、違う。これは浮気なんかじゃない。本気で両方好きなんだ。
そう、本気。
両方本気で好きなんだ。
どうすればいい?
どちらかを選ぶなんて、俺には、できないッ!
「お客さ~ん、あのう~」
「あ、う、むむむ、味噌ラーメン、ください。メンマトッピングで」
「あいよ、みそ、メンマいっちょ!」
ーーごめん。豚骨も、好きです。
「例えばさ、例えばなんだけど。」
「何よ。」
「ほんっとに例えばなんだけど。」
「だから何よ」
「ボクがユミを好きって言ったら、どうする?」
「ど、どうも、し、しないけど。」
「そ、そ、そうか。」
「何よ、言わないの」
「え」
「例えば、例えばよ。」
「う、うん」
「言ってみなければわからないことって、やってみないとわからないじゃない?」
「う、うん」
「だから、例えばって考えたんなら、それを試してみないとわかんないじゃない?さっき言ったのは、例えばっていう例文なんだから、ほんとに試したわけじゃないし、ほんとに、その気で私が聞いたわけじゃないし、例えばってことは、ほんの一瞬でも本気で言わなきゃならないわけだし、試してみないとわかんないし。」
「う、うん。そう、だ、ね」
「試さないの?」
「う、うん」
「じゃあ試しに、言ってみるね」
「そうね、試しだからね」
「う、うん」
「なによ、例文読めばいいのよ。ここに書いてあげるわよ。地面によ。こう書くわよ。ほら、これ読んで」
「う、うん」
「読みなさいよ。試しでしょ」
「う、うん」
「す き です」
「知ってた」
「宇宙の掃除士 #05」
ピンポン。
夜も更けた頃、自室で一人寂しく、もとい気ままに晩酌を愉しんでいた私に、チャイムが来客を告げた。
「俺だ」
「隊長?」
「すまん、こんな夜中に。明日にしようかとも思ったんだが、早く渡した方が良いと思ってな」
そう言って、隊長は一通の封筒を私に差し出した。
「?」
「『預け荷物』の整理をしていたらこれがあってな。Indexにも載ってなかったから気がつかなかったが、お前宛だ。タカノから」
「タカノ君が?」
「じゃ、俺もう寝るわ」
そう言って隊長は自室に帰って行った。
残された封筒には簡単に封がしてあった。私は、少し思案した後、その封を切った。
* * * * *
荒木 美夏様
高野です。これをあなたが読む頃、僕はもうこの世にはいないでしょう。
手紙なんて柄じゃないし、書くべきか迷ったけれど、やはり伝えておきたいことがあったので筆を取った次第です。
あなたがFシステムで冬眠に入ってから、もうかれこれ7年が過ぎようとしています。詳しいことはあなたを追いかけていった隊長から聞いていると思いますが、僕は今スイーツ隊を抜け、Fシステムの研究に没頭しています。ここまでだいぶ時間がかかったけれど、なんとか蘇生の方法を確立できそうなところまで漕ぎ着けました。あとは根気よく臨床試験を続ければ、きっとあなたは帰って来れるはず。時間はかかるでしょうが、後は甥の貴一がうまくやってくれそうです。いや、これを読んでいると言うことはうまくいったということか。これはめでたい。おめでとう。
あなたは今頃、未知の世界に放り出されてきっと寂しい思いをしていることでしょう。そのことを相談したら隊長は快く引き受けてくれました。なんとほぼ即決です。男気のある人だなとは思っていましたが正直驚きました。僕もお供したかったのですが、僕にはやらねばならないことがあり、ここに残ることにしました。おかげでなんとかうまく行きそうですが、ちょっと寂しいのも事実です。いや、実は隊長が妬ましい。隊長には内緒ですが。
叶うことならば、もう一度あなたにお目にかかりたい。そう願わない日はありません。いや、それが叶わぬ事は僕自身が一番よく知っているのですが。つらい。
あなたとチームを組んで戦っていた日々のことを今でもよく夢に見ます。あなたにとって僕は頼りない存在だったかもしれないけれど、僕にとってあなたはかけがえのないバディでした。帰れるものならあの日々に帰りたい。
いや、僕にとって尤も悔やむべきは、僕の気持ちをあなたに伝えられず終いだったことです。あなたの気持ちがどこに向いているかわからぬまま告白することに躊躇していた事も事実ですが、あなたを失いたくない、その思いが僕の決心を鈍らせた。今更何を言っても言い訳なのですが。
この手紙を書く横で眠っているあなたの横顔を見る度に、僕の胸はあなたへの想いと自分への後悔で締め付けられます。よく「胸が痛い」なんて言いますが、本当なんですね。自分でもびっくりしています。あ、病気じゃないんですよ。いや、あれから無理が祟って体を壊したのは事実ですが、心臓は至って健康なのです。でもあなたの事を想うとキリキリと痛くてたまらないのです。
とりとめのない話ですみません。僕にはもうあまり時間が残されていませんが、これだけは書き記しておきたい。
僕は、あなたが好きです。これからもずっと。
さよなら
高野 貴志
あなたとお付き合いを始めてから、初めてのバレンタインデーね。
分かる?
このトマト煮は、チョコレートを隠し味に使っているのよ。
あなた、甘いもの苦手じゃない。
でも、せっかくのバレンタインデーだから、チョコレートを贈りたかったの。
わたしとしては、良い出来だと思っているのだけれど、気に入ってもらえるとうれしい。
ねえ、初めて会ったときのこと、覚えてる?
あれは聡くん主催の飲み会だったかしら。
あなた、遅れてきて、ひとしきり謝った後、ほとんどしゃべらずに、他の人のお話に相づちを打っているだけだったわね。
今まで言ったことはなかったけれど、あのときからわたし、あなたのこと気になってたのよ。
付き合い始めた後も、どうして俺みたいなやつのことなんか、って、よくあなたは言ってたけれど、大事なのは、顔の造作が整っているとか、お洒落のセンスが良いとか、そういうことじゃないの。
ありきたりな言い方かもしれないけど、その人の中身と言うか、そのものが大切なの。
初対面から気になっていた、なんて言った後にこういうことを言うのも、ちょっとおかしなことかもしれないけれど。
でも、そう思ったの。
取り柄が無いってあなたは言うけれど、そんなことない。
例えば、あなた、独り暮らしが長いと言っていたけれど、食事のバランスに気を付けているのは分かるわ。
それって、とても大事なことだと思うの。
体脂肪率が一桁だとか数字を自慢している芸能人がいるけれど、わたしはバランスが大事だと思うわけ。
あなたは隠しているつもりかもしれないけど、トレーニングをしていることも知ってるわ。
初めて、あなたとキスをしたあの日、背中に回した手がしなやかな筋肉の存在を教えてくれた。
やだ、恥ずかしい。
初対面のときとは違って、二人きりになると、あなた、意外とおしゃべりだったわね。
色々と面白いお話が聞けて楽しかったわ。
お仕事の話をすると目が輝くようになって夢中に話してくれたり、自分の背の高さよりも積もる雪なんて、わたしには想像もつかないような子供の時のこととか、楽しいお話をいっぱいしてくれてありがとう。
わたしもおしゃべりをするのがあまり得意な方ではなかったので、あなたには退屈な思いをさせてしまったかもしれないけど、あなたとおしゃべりをするのが好きだった。
とても気に入っていたのよ、本当に。
この食事が最後だなんて、とても残念。
わたし、あなたのことが大好き。
思っていた通り、トマトとの相性が抜群だわ。
何か言ってほしいのかもしれないし、何も言ってほしくないのかもしれない。
傍に居てほしいのかもしれないし、傍に居てほしくないのかもしれない。
人間は嫌いだ、でも寂しがりな僕は縋るしかなかった。
抱きしめてほしいのかもしれないし、触れられたくもないのかもしれない。
慰めてほしいのかもしれないし、優しくされるのも辛いのかもしれない。
人間は難しい、でも上辺だけの仲では虚しくなるだけだった。
気にかけてほしいのかもしれないし、放っておいてもらいたいのかもしれない。
幸せにしていればそれだけで良いのかもしれないし、消えてもらった方が楽だったのかもしれない。
人間は分からない、でも自分が一番分からないんだ。
でも君だったらそんなこと思わなかった。
君は特別だった。
世界も、僕の意思すら放り棄ててしまえるほどに君の存在は特別だった。
そう、依存だ。
僕は君に依存している。
君の存在に依存している。
存在そのものに依存している。
「好きです」
違う、僕は君の存在に依存しているんだ。
君の存在だけに依存しているんだ。
ああそうだ、その言葉が欲しかったわけじゃない。
君は綺麗だった。
純粋だった、傷一つなければ汚れてもいなかった。
僕が汚した、汚してしまった。
君の瞳に映ってしまった、心に居座ってしまった、口を声を汚してしまった。
もう君は汚れてしまった、穢れてしまった。
もう君も僕と同じに、真っ白になってしまったんだね。
君が好きだったよ。
さあ行こう、地の底へ。
「僕の夢はアイドルのナカミナさんに『好きです!』って告白されることかな」
そう話すタクミの顔からは、何か吹っ切れたような清々しさすら、私は感じられた。病院の白いベッドの上で朝日を浴びている横顔を見たからかもしれない。
タクミはベッドの柵に橋渡した簡易デスクの上で、そのアイドルに宛てた手紙に封をしている。
ほんの一カ月前までは一緒に体育の授業でドッチボールをしていたというのに。
「アユミは暇なの? 毎日のように来てくれるのは、その、嬉しいんだけどさ」
強気と弱気が交じりきっていない、唐突な質問。
クラスの他の子たちはタクミの”最初の入院”のときには度々見舞に来ていたが、ここ最近はこの個室に足を踏み入れるのはタクミのお母さんと私くらいだ。
タクミの容貌が、元気よく登校していた頃と比べて弱弱しくなっていることも理由の一つだと思う。悪気はなくとも内心では痛痛しさを感じている人が、続けてこられる場所ではない。
“ナカミナ”なるアイドル女性に向けた手紙はベッドの下の自作の簡易ポストに入れると、タクミのお母さんが定期的に切手を貼って投函している、らしい。
「ねえ、タクミ。ナカミナさん、来てくれるかな」
タクミは間髪入れずに「くる、くる、ぜってーくるよ」と自信満々だ。その自信がどこから湧いてくるのか不思議でしょうがないが、そう言って強がっている姿にホッとしている自分もいて、悔しい。
「なんたって来月はバレンタインデーもあるしさ」
今回の入院から持ち込んだパソコンを起動し、日課の検査結果表の数値の打ちこみを始める。
「エクセルってグラフ作るの便利なんだけど、セルの範囲が決まってないと横幅難しいね」
横軸に日付、縦軸に腫瘍マーカー値を入れた表組を私に自慢気に見せる。情報システムの授業で習ったグラフ作成を一番使いこなしているのはタクミだと思う。
「だれかスマホアプリでもつくってくんないかなー」
そんな残酷なアプリ、appleの申請を通んないと思うよ、という突っ込みを私はぐっと飲み込んだ。
タクミは一昨年「いくらアユミでも女にはぜってー言えねえ」という病名で入院、手術した。退院後通常の生活に戻っていたのが、年末の定期検診の結果が出たところで、
「ごめん、PSA30越えてたから一緒に学校いけなくなったわ」
というショートメールと共に教室から消えた。
入院直後は、見舞にきたときに一緒に院内の庭を散歩していたのが、今月に入るとベッドに半身起き上がった状態で面会時間を過ごすことが多くなっている。
月が変わり、市内の雪もあらかた溶けつつある。
タクミの部屋は個室なのでボリュームを押さえればラジオも流せる。ヒット曲をBGMに他愛のない会話をしていたとき、ふいにタクミが手で会話を遮った。
≪・・・we are young So let’s set the world on fire・・・≫
「この曲のここだけ、好きなんだ、若さがあれば何だってできるって」
サビが終わるとタクミは説明してくれた。ベッドの下に無造作に置かれたパソコンの筺体にこころなしかヒビが入っているのを横目にしながら、私は曖昧に頷いた。
「ところで、ナカミナさんだっけ? 宛先ってどう書いてるの?」
話題に困ると私はタクミの”ラブレター”を使うことが多い。自虐的だと我ながら思う。
「えっと、事務所の住所だっけかな、を書いてるよ」
珍しく歯切れの悪い回答。
「さては、お母さんに任せっぱなしだな」
タクミは悪戯が見つかった少年のように笑った。その意味に気付いたのは週末だった。
いつものように部屋に入ると、タクミは不在で代わりにお母さんがベッド周りの掃除をしているところに出くわした。
「あら、いつもありがとうね、アユミさん。タクミ、今検査入ったとこなの」
この一年で髪に白いものが混じるようになったタクミのお母さんとは、私とも小さいころからの知り合いだ。
簡易ポストからアイドルへのラブレターを回収すると、お母さんはそれをベッドの下からひっぱりだした段ボールにゴムで纏めて丁寧にしまいこんだ。よく見るとそのゴムどめの束は他にも十個以上、箱にしまわれている。
「な、なんで、投函しないんですか」
お母さんは正確に両目を三度づつしばたいた。
「アユミさんには言ってなかったのね。この手紙ね、あの子が出さなくていい、出してほしくないからって」
同情で来てもらっても嬉しくないから、ナカミナさんだってこんな手紙貰っても困るだろうし、というのが理由らしかった。
あと三日でバレンタインデー、私はアイドルの事務所に電話をしようか、さんざん迷ったが何もできなかった。しなかった。
代わりにamazonでFUN.のCDを注文した。自分の注文ですら使ったことの無いお急ぎ便を利用して。
その日、タクミはベッドから起き上がるのもつらそうだった。後ろ手に隠さなくても包み袋に気付く気配がないほどに。
「なあ、今の俺ってセカチューの主人公そっくりじゃない、病名はちょっと格好悪いけどさ。こういう状況ってキセキが起きて、今にもそのドアからナカミナさんが駆け込んできそうじゃない?」
私は自分の靴のつま先しか見れなかった。
「・・・今日はナカミナさん来れないって」
「そっかあ、残念」
でも今だけは少し頑張って顔を上げるよ。
「代わりといっちゃなんだけどね、私から」
『好きです。』
書き始め 2/14 13:14
待つこと…………2時間。いくらなんでも待たされすぎだ。
ことの起こりは今朝の学校で。机の中に入ってたんだ。手紙が。
この公園で待ってますって。かわいらしい文字で。
誰かは多分わかってる。あいつしかいない。俺のことを好きになるなんて物好きは……。
だけど……、これはあまりにも……。遅い。
誰かの悪質ないたずらじゃないかって考えが頭をもたげる。
そろそろ諦めて帰ろうか……。
それでも、俺は未練がましく、あいつの家の方向へ向かって遠回りをして帰ることにした。
出会える可能性は皆無ではないだろう。
「ぐ、ぐらこ君……」
あいつだ。目に涙を浮かべて……、息も切れ切れ……
「どうしたんだよ、ずっと待ってたんだぞ」
「ごめん……なさい……」
「あの手紙……やっぱりお前なのか?」
「うん……チョコレート……バレンタインだから……作ろうと思ったんだけど……」
そういう目にはまたたくまに涙があふれだした。
「バレンタイン? チョコ? 作れなかったのか?」
「頑張ったんだけど……」
そういやこいつは極端な不器用さんだ。だからといってチョコレートが作れないなんてひどすぎる。
とは、口に出しては言えず。
「その気持ちだけで嬉しいよ」
「わ~ん……」
俺の胸にいきなり飛び込んで泣きついてきた。やれやれ。
「泣くなよ。人も見てるし……、お前の気持ちはわかったから……」
「でもチョコが……」
「チョコなんて……」
ふと、口元を見るとチョコレートが付いていた。涙で流れて首元まで溶けだしている。
「チョコならあるよ、味見でもしてたのか? ハッピーバレンタイン」
ぺろりと舐めたチョコレートは涙と混じりあって甘じょっぱい味がした。
書き終わり 13:22 5分じゃ無理!
『月が綺麗ですね』
金曜日は、特別講義があって、校舎を出ると夕暮れだった。バイトまで時間があるから、フラフラと通用門へゆっくりと歩いていく。
見上げた空には、ほんのりと西の空に残る赤紫の層雲と、今光り始めた金星が輝いている。振り向くと、そこには、大きなオレンジ色の丸い物が浮かんでいる。
満月である。山の稜線にまばらに生えている杉の木が、丸いオレンジをギザギザに切り取っている。
顔だけ振り向いて、じっと満月を見ていると、背中を叩かれた。
「あ、ツキだ。」
顔を元に戻すと、茜色の雲に照らされて複雑な色に光る細い髪に縁どられたユウコの顔があった。形の良い眉から下は、ボクの落とす月の影に入っている。
「なあに?」
ちょっと左に傾げた首の後ろで、産毛が金色に光っている。おでこのオレンジ色と合わせて、複雑な色のハーモニーに見とれる。
「何見てんのよ」
ちょっとふくれた頬を、宵の口の風がなでていく。髪がなびく。
燃えさしのようにわずかに赤く光る雲に、細く長い髪が斜線を入れていく。
ボクはわずかに口を動かす。
「なあに?なんて言ったの?」
聞こえるわけはない。発音してないから。背中の月について、感想を述べただけだ。
ちょっと不満げなユウコに、ボクはこう告げる。
「見とれちゃったよ。」
「え」
「夕焼けが、きれいでさ」
「もう」
街灯が点き始め、ユウコを彩る複雑な色合いは消えていく。
「ツキだよ。ツキ」
ユウコはボクの後ろを指差す。君は、さっきも言ってなかったかな?
「ユウコ。」
「なあに」
「月見つけるたび、ツキだ!って言いすぎじゃないか?」
「だってぇ、ツキなんだもん」
これは、滑舌が悪いだけなんだろうか。ボクは別の意味がありそうな”ツキ”について、それ以上問いただすことはしなかった。ユウコが夏目漱石のあの言葉を知ってるとは思えなかったし。
オレンジ色の、丸くて大きな、綺麗な月が浮かぶ夜だった。

2013/02/14 23:13:51うわー、手作りですね。ありがとう。
2013/02/15 00:03:48