【謎解き・ドリンクソムリエール・スランプの絵本作家・問題文】
「ソムリエール喫茶」に、二十代後半の、黒髪のロングヘアーに大きな瞳が印象的な客が入ってきた。その客はB美のすぐそばまで来ると、顔をぐっと近寄せて尋ねた。
E瑠「ここの喫茶店では、何か悩みを言うと、ぴったりの飲み物を出してくれるそうですね…情報通の友達から聞きました」
B美は頷き、E瑠を席に案内した。E瑠は話し出した。
E瑠「私は絵本作家なんですが、スランプなんです。話はいかにも童話でありきたりだし、人畜無害でつまらない。もっと大胆な発想はできないのか、って、よく出版社の人に叱られます。絵は逆に、子どもの絵本にしては人工的で無機質な絵だとか言われちゃいます。幼いころに読んだ、思い出の絵本をもう一度読めれば、スランプを抜け出せると思うんですが・・・。私にとって、絵本作家を志すきっかけとなった本なんです」
B美は興味を持った。
B美「詳しく聞かせていただけますか?」
E瑠は長い説明を始めた。
E瑠「私がすごく幼いころ、そう、まだ幼稚園に通ってた頃だと思います。とっても不思議な絵本を読んだんです!」
B美「どんな?」
E瑠は困った顔をした。
E瑠「それが、よく思いだせないんです。とにかく他とは全然違った印象の絵本だった、としか覚えていません。私は当時から絵本が大好きで、親もたくさん本を買ってくれましたから、その時点でも、ゆうに300冊は持ってたと思うんですが、それらのどんな本とも違う、鮮烈な印象がありました」
B美は眼を輝かせて、続きを促した。
E瑠「ストーリーは、囚われて寒そうにしている美しいお姫様を、王子様が助ける、って話だった気がします。その後、お姫様は王子様のキスで目覚めて、口から金のリンゴを吐き出して、2人は幸せに暮らしました・・・ってことだったと思うんですが、父から聞いた話とごっちゃになってるのかもしれません。その絵本を、家で読んだのは確かなんですが、いつもとは別の場所で読んだような気もして、そのことがいっそう、印象を強くしたんだと思います」
B美は首をかしげた。
B美「白雪姫に少し似ていますが」
E瑠は首を振った。
E瑠「もちろん私も、そう思いました。でも自分の本棚の白雪姫とは、ぜんせん印象が違いました。白雪姫にもバージョンがいくつかあるのかもしれませんが、両親が同じ話を2冊も買うはずがないので、その可能性はないと思います」
B美「図書館から借りてきた本だった、ってことは?」
E瑠は再び首を振った。
E瑠「私の家は豪農で裕福でした。家も大きく、部屋もいっぱいあるような家でした。ですから本を図書館から借りることなんて、一度もありませんでした。両親も絵本はぜんぶ買ってました。収納場所にも困らなかったので、一冊も捨てませんでしたし、両親もそう言ってます。私が大人になってからは、外国のを含めて、白雪姫のあらゆる本を調べましたが、その本はありませんでした」
B美は頷いた。E瑠は続けた。
E瑠「当時から、ときどき『もう一度あの本を読みたい』って思うときがあって、自分の本棚を何度も探したんですが、見つかりませんでした。両親に尋ねても知らないっていうし、大きくなってからみんなに尋ねても、白雪姫じゃないの、とか、それだけじゃわからないって、笑われてしまいます。それだけに、かえって気になって。こんな話、喫茶店で話すなんておかしいですよね」
B美は首を振ると、きっぱりと宣言した。
B美「いえ、よくぞ話していただきました。あなたにぜひお勧めしたいドリンクが2本、ございます」
E瑠は好奇心いっぱいに尋ねた。
E瑠「何ですか? なんで2本もなんですか?」
B美は申し訳なさそうに続けた。
B美「商品名はあとで申し上げます。本当は1本にしたかったのですが、そのドリンクは現在、入手が困難です。そこで2本の合わせ技で、その1本の代わりにしたいと思います」
E瑠「はい」
B美は続けた。
B美「またお客様の探されている本についても、題名はわかりませんが、どのような本で、なぜそのような体験をされたのか、およその見当はついております」
E瑠は驚いた。
E瑠「どんな本だったんですか?」
一呼吸おいて、E瑠は大きな声で言った。
E瑠「わたし、気になります!」
夢の中の家で読んだとか?
▽2
●
グラ娘。 ●500ポイント ベストアンサー |
その様子を影から見守っていたD菜とF吉。
D菜「ねぇねぇ、F吉はどう思う?」
F吉「僕は金のリンゴでピンと来たね。これはファンタのゴールデンアップル味だよ。今は売ってないんだ。
だから、現在発売中のゴールデングレープ味とアップル味で合わせ技でお勧めするんだと思う」
D菜「それと、絵本のスランプとかどう繋がるのよ?」
F吉「えっと、ゴールデンアップル味には、いわくがあって、絶対に飲んだっていう証言が後を絶たないんだけど、公式にはそんな商品は発売してないっって状態がずっと続いたんだよ。その存在はまさに都市伝説みたいでね。
で、結局、その噂を受けて、ゴールデンアップル味が実際に発売されたんだ。
それを、絵本の話につなげると……
つまりは、絵本を読んだっていう記憶は勘違いで、その勘違いの記憶を元に絵本を描けばいいんだってことだと思うんだけど」
D菜「なんか決め手に欠けるわねぇ」
F吉「そういう、D菜はなんかアイデアあるの?」
D菜「絵本のお話がありきたりだとか、絵が無機質だとかそこにヒントがあると思うの。それって温かみが足りないってことでしょう?
だから、飲み物はあったかいホットドリンクだと思うのね。で、リンゴが出てくるならアップルティーとか、生姜湯とか……」
F吉「でも、それって、どこでも買えるし、他の話と繋がらないよね?」
D菜「そうなのよねぇ」
そこへ、I穂が現れた。手にはビールとトマトジュースを持っている。
I穂「二人で何の相談?」
D菜とF吉が事情を話した。