これは改正経過措置で改正前民法が適用され、不法行為なので相殺できません。
しかし、おそらくそういうことを質問したいわけではないんだと思います。経過措置を無視して現民法が適用されるとします。
現民法だと民法509条の「悪意による不法行為」をした側はそもそも相殺できません。現民法のここの判例はまだ見当たりませんが、破産法253条1項に同様の規定があって、この「悪意」は「故意」よりも悪質な行為を指すとされます。例えばあなたが画期的な防水方法を発明して特許を取ったとします。すると公開されますから、技術的には真似しようと思えば真似できます。それで、業者Xがあなたに無断でその防水技術を使ったとします。この場合、Xがあなたに怨みがあるからわざとやったのなら悪意ですが、まあ問い合わせれば有料で許諾を得られるだろうけど金がかかるし無断でやってもばれないだろうから経費節減のために無断でやったというだけなら悪意とは言えません。(単なるたとえ話であって、実際の判例は「不法行為 悪意」で検索しましょう。)
それで、論点甲について、「悪意」と言えない場合に相殺できるのか、というと、
民法
(時効により消滅した債権を自働債権とする相殺)
第五百八条 時効によって消滅した債権が【その消滅以前に相殺に適するようになっていた】場合には、その債権者は、相殺をすることができる。
とあるので、論点甲のとおりだと考えられますが、ただし【その消滅以前に相殺に適するようになっていた】というのは相殺を実際にしようと思えばできた(要するに、特許権侵害をされたことを認識していた)ことも要すると解釈するなら、BによるA特許の侵害が時効完成前に分かっていなければAは相殺できない、ということになります。
論点乙については、特許権の存続期間内に行った行為がその時点での不法行為なので、不法行為債権の時効は特許権が切れても影響はないということでおかしくありません。