『十字架嫌悪シンドローム』
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著者 ピーター・シャビエル ぴーたー・しゃびえる
電子書籍:作品紹介
本作品は、二千年のキリスト教信仰の出発点であり、その土台とも言うべき「十字架」そのものの意味を根本から問い直そうとするものである。そのため、『ダ・ヴィンチ・コード』以上にセンセーショナルなテーマを扱っていると言えるかもしれない。
キリスト教徒にとって神聖な「十字架」を嫌悪する現象が世界中で起こり始めた。対策委員会が招集され、その原因究明が試みられたが、原因がわからないまま自体は深刻さを増していく。
やがて、日本の一修道女が、シンドロームの最初の発症者であること、イエスが彼女に現れ、「私の心情は誤解されてきた」と啓示したことが明らかになり、事態は思わぬ方向へと展開して行く。
「十字架嫌悪」という言葉は著者の造語のようだが、十字架刑という非常にむごたらしいイエスの死に方に対して、キリスト教以外の諸宗教や日本人一般が持つ潜在的な負のイメージを的確に表現しており、それが一体何なのか好奇心をかきたてる。
本作品の特徴は、単なる興味本位のミステリーや、キリスト教会のスキャンダルを暴き批判しようとするものなどとは異なり、イエスの心に焦点を当てて、従来キリスト教の伝統においては不可分であった「十字架」とイエスとの分離を試み、それによって彼の本当の願いと目的が何であったのかを問おうとしている点にあると言えよう。
「十字架」というキリスト教の大前提を問い直すというテーマを扱った読み応えのある長編小説であるが、それでいて、ミステリー的な面白さや、日本とヨーロッパにまたがるダイナミックな展開、主人公の日本人神父と修道女との純粋で真摯な関わり、修道女が幼子イエスの十字架を取り除く童話的な美しさを湛えた回想場面、教皇暗殺未遂事件、カトリック教会が抱えている諸問題など、随所に興味深い要素が盛り込まれ、長さをそれほど感じなかった。最後は感動的であり、さわやかな気持ちが読んだあともしばらく心に残った。
価格¥500(税込)