まず、喫煙が「体に悪い」事についてですが、これについては多くの医学的研究がなされています。
その結果を「エビデンス」と言います。エビデンスの信憑性には、レベルがあります。
エビデンスについて解りやすく説明したページがあります。
http://www.kango-net.jp/nursing/03/index2.html
これをみると、ランダム化試験のデータがあることが最もレベルが高い、とされていますが
喫煙に関してそのような試験を行うことは無理です。
「今から10年間煙草を吸い続けてください。10年後に肺ガンになっているかどうか検査します」
これは倫理的に問題ですよね。
なので、喫煙について調べるときはコホート研究を用います。
やり方として、喫煙している人たちと喫煙していない人たちを例えば10年間、追跡調査し、
10年後にどちらが肺ガンになっている人が多いか調べます。
もう一方のやり方として、肺ガンの人とそうでない人で、過去の喫煙について調べたときにどうであったか。
こういった調査を何百人何千人、何万人を対象として実施します。
喫煙については、こういったコホート研究によって、明らかな肺ガンのリスクである、とされています。
また、コホート研究の「エビデンス」を更に高めることとして「メタアナリシス」というのがあります。
http://www.weblio.jp/content/%E3%83%A1%E3%82%BF%E3%82%A2%E3%83%8...
簡単に言うと、コホート研究の論文を沢山集め、それぞれの論文に書かれている研究の
問題点等を明らかにした上で、総合的に判断するものです。
喫煙に関しては、喫煙を有害とするコホート研究が多数あり、それを検証するメタアナリシスも多く存在し、
それゆえ喫煙の有害性は明らかである、と癒えるのです。
せっかくですので、コホート研究の落とし穴についても述べます。
喫煙グループと禁煙グループで肺ガンの発生頻度を調べ、明らかに喫煙グループが頻度が高いとします。
しかし、たまたま喫煙グループに煤煙などの公害が多い地域の人が多かったとします。
その場合、肺ガンになったのは公害が影響しているのかも知れない、喫煙の影響と断定出来ない、
と解釈されます。メタアナリシスではこういった「研究結果の偏り」までをも調査し、
総合的に判断するのです。
喫煙の有害性のメタアナリシスについて、簡単にまとめたサイトです。
http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n2001dir/n2453dir/n2453_04.h...
さて、一方のマイナスイオンですが、こちらのエビデンスはどうでしょうか。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%83%8A%E3%82%B...
wikipediaの記述ですが、「マイナスイオン」といっても定義が曖昧であることがわかります。
また、その健康効果を謳った商品が多く出ていますが、それらはあくまで簡単な試験によるものでしか無く
「ランダム化試験」や「コホート研究」によって証明されたものは一つもなく、
メタアナリシスなども皆無なのです。従って、マイナスイオンが体に良い、ということは
「可能性はあるが科学的根拠に乏しい」と言えるのです。
良く誤解されるのが、ある有名大学の医師や教授が「○○は体によい」と言い、
それを宣伝に使っているケースです。
その発言がランダム化試験やコホート研究、メタアナリシスを考慮して言っているのであれば信じても良いですが
そうでないケースが結構あるようです。
たとえ肩書きのある人が言った発言であっても、その裏付け、根拠が無ければエビデンスと言うことは出来ないのです。
こういったことは最近インターネットや通販の健康食品で問題となっており、薬事法違反の対象になる場合もあります。
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kenkou/kenko_shokuhin/ken...
長くなって申し訳ありません。
わたしも喫煙が肺がん罹患のリスクを高めるということに疑いを持っていなかったのですが、昨年にNature誌およびNature genetics誌に発表された3つの研究は新たな論争を呼んでいるそうです。池谷裕二さんが連載されている潜在”脳力”を活かす仕事術の第五回目「タバコは肺ガンの原因ではない?」でこの論争を紹介していました:http://business.nikkeibp.co.jp/article/nba/20080530/160041/
詳しくは池谷さんの記事やネタ元の論文を見ていただきたいのですが、3つの研究はそれぞれ独自に肺ガンの発生率を高める危険遺伝子を探索し、同じ遺伝子にたどり着いたそうです。この遺伝子はニコチンの受容に関与する遺伝子なんだそうです (nicotinic acetylcholine receptor)。そして3つの研究グループはともにこのニコチンの受容に関与する遺伝子のわずかな遺伝的変異によって肺ガンのリスクが高まるという同一の結論に達しています。しかし、この危険遺伝子と肺ガンとのつながりの間に、喫煙行動が関与するのかどうかで3つの研究グループ間で結論が違うのだそうです。
池谷さんの記事から引用すると:
>>
面白いことに3つの研究グループで結論が異なる。アイスランドのdeCODEジェネティス社のステファンソン博士らは「危険遺伝子を持っている人は、ニコチン耽溺(たんでき)に陥りやすい」という疫学データを示し、「それ故、タバコを常用し、肺ガンになる」と結論している。
ところが残りの2つの研究グループは、この結論に反対している。「タバコと肺ガンは無関係だ」というのだ。特に国際癌研究機関のブレナン博士らのデータが象徴的である。タバコを吸わない人でも危険遺伝子を持っている人がいる。そこで非喫煙者についても遺伝子を大規模に調べたところ、「タバコを吸わなくても、危険遺伝子を持ってさえいれば、肺ガン発生率が高い」というデータが得られたというのだ。
<<
ということで、回答にもあったように、喫煙と肺ガンリスクとの間の「相関」関係は明らかなようですが、喫煙と肺ガンとの「因果」関係については、いまだ論争の余地があるという状態なんですかね。タバコ会社のやらせじゃないと良いんですけど。興味のある方は論文にあたってみてください。
Hung et al. (2008) Nature 452, 633–637.
Thorgeirsson et al. (2008) Nature 452, 638–641.
Amos et al. (2008) Nature Genetics 40, 616-622.
マイナスイオンについてはわたしはよく知りません。