「古代文明と気候大変動-ブライアン・フェイガン」のP274に「北海沿岸低地帯では、降水量の増加から地下水面が上昇して染みだしが増え、それによって地下水を通じた鉄の移動が促進された。その結果あちこちの湿地や湖で鉄鉱石が急速に形成され、鉄器を作り出すための減量がより容易に手に入るようになった。」との記載があります。
知りたいのは次の点です。
①降水量の増加と地下水位の上昇が1000年間程度の短期間に発生した場合に、人間が利用できる程度の鉄鉱石の集積が起きるか?
②そうしたことが北海沿岸部で起きたために、鉄器製作、耕作用具製作が盛んになり、北海沿岸地域の経済発展が起きたという説明をしている他の書籍やWEBなどを教えてください。
③BC850年~BC100年くらいの間に、北海沿岸部で寒冷化湿潤化の結果そうした鉄鉱石の集積が起きたという説明があるのは、この方面の研究者にとって既知の知識の一部なのでしょうか?
「①降水量の増加と地下水位の上昇が1000年間程度の短期間に発生した場合に、人間が利用できる程度の鉄鉱石の集積が起きるか?」にお答えします。
結論から申し上げると、起こり得ます。
以下、英語のページをいくつか参照しますが、わかりにくい部分があればコメント欄などで補足させていただきますので、お気軽に。
まず、鉱山の鉄鉱石を考えるとこのような現象は起こりにくいように考えがちですが、鉄鉱石の種類の中に「沼鉄鉱」(しょうてっこう:Bog iron)というのがあります。
これは、鉄分を含んだ水からできる沼で取れるものです。
日本でも、阿蘇谷湖の沼鉄鉱床 があります。
でき方は、化学的な沈殿作用やバクテリアの作用により、水中の鉄分が酸化作用を受けて沈殿する
とありますが、バクテリアの作用とは何かと言えば、鉄バクテリア (Iron bacteria) によるものです。
鉄バクテリアはその生命活動において、水の中の鉄イオンを酸化して不溶性にします。
この反応は酵素によって行われるので、地質学的な変化とは比較にならないスピードです。
バイキングの歴史について記述している Iron Production in the Viking Age では、バイキングが主として利用したのは、この鉄バクテリアが産生した鉄ではないかと書かれています。
When a layer of peat in the bog is cut and pulled back using turf knives (right), pea sized nodules of bog iron can be found and harvested.
沼の泥の表面を写真にあるツルハシのような道具で切り取ると、エンドウ豆大の沼鉄鉱が得られる、とあります。
取れる量は少量ですが、鉱石のように不純物を含んでおらず、しかも鉄バクテリアが存在している限り何回でも採取できるわけです。
これを踏まえると、
降水量の増加と地下水位の上昇
→周囲の山にある鉄分を含んだ地下水の増加
→沼鉄鉱を産生する沼地の増加
→沼鉄鉱の収穫量の増大
というストーリーが成立します。
以上、ご参考になれば幸いです。
これは②③へのお答えにもなりますが、個人的には
気象条件によるものだけで鉄器の普及が促進された、とは考えにくいと思います。
Iron Production in the Viking Age にも、スウェーデンには鉄鉱床があったと書かれていますし、
沼鉄鉱の増加は一因ではあっても主因ではないのでは、と考えています。
断言するためにはもう少し調べる必要がありますので、
また何かわかりましたら補足させていただきます。
Google books の Iron and steel in ancient times(古代の鉄鋼、2005年)
http://books.google.com/books?id=c947L8YJerUC
などいくつか読んでみましたが、鉄器時代の初期に使われた鉄の多くは
沼鉄鉱という事で良いようです。
沼鉄鉱の産生量についてはぴったりした記述を見つけられませんでしたが、
20世紀なかばのデンマークでは沼鉄鉱が年産5万トンであり、
イギリスやドイツ、ベルギー、オランダに輸出していたそうです。
なお、気候との関係という視点から論じたものは見つけられませんでした。
北大西洋の気候がおおむね1500年のサイクルで変動する、という説もあり、
1997年に Gerard C. Bond らが発表して有名になった事から Bond event と呼ばれているようです。
http://en.wikipedia.org/wiki/Bond_event
Bond event 1(約1400年前)が民族大移動の時代に、
Bond event 2(約2800年前)が鉄器時代の寒冷化に相当する、というものです。
個人的には、変動のスパンが「1,470年 ± 500年」と広すぎるので眉唾ぎみですが。
沼鉄鉱が昔は鉄器製造の元材料として使われたこと、結構多くの量の鉄器が使われたことなどはわかりました。
ヒッタイトがアナトリアで鉄を生産したのは、オフィオライトか砂鉄で沼鉄鉱ではないようです。
http://www.gsj.jp/Pub/News/pdf/1987/12/87_12_02.pdf
http://staff.aist.go.jp/nakano.shun/Jap/tatara/iron/iron4.html
http://www.gsj.jp/Pub/News/pdf/1967/10/67_10_06.pdf
http://www.toyohaku.gr.jp/sizensi/06shuppan/syuppan/takashi-kozo.pdf
素材が違いますが高師小僧のようなものでは、鉄器製造はできないようです。
沼沢地に通常集積する程度の褐鉄鉱ではベンガラ・顔料を作るのが、昔なら精一杯と思えます。
10世紀以前の製錬技術で製鉄に使えるだけの鉄鉱床(沼鉄鉱・褐鉄鉱)が、1000年程度の短期間で形成できたのか
とても疑問のママです。
ぜひ どなたか褐鉄鉱や沼鉄鉱の鉱山の生成時期(期間)に関しての情報を教えていただきたいと思います。
このはてなの回答受付期限が迫っているのすが、期限一杯まで回答を待ちたいと思います。
http://www.geocities.jp/e_kamasai/kanren/kan1-2.html
ここに2万年前に北海道で褐鉄鉱を加熱処理して赤鉄鉱を作っていた跡があったとありますが、時代は石器時代ですから、
赤色顔料を作ったと言う意味なのでしょう。
アメリカ・ニュージャージー州の職業訓練校のサイト
Monmouth County Vocational School District
http://www.mcvsd.org/
に、沼鉄鉱の生成に関するページ
http://www.mcvsd.org/mccs/geo-hths/bogiron.htm
がありました。
これによると、沼鉄鉱を採取した後、次に取れるまでの期間は20~30年だそうです。
また、多くは小さいものだが、大きい沼鉄鉱は自動車より大きいものまである、ともあります。
YouTube にイギリスの番組からのクリップと思われる
Making History - Bog Iron
http://www.youtube.com/watch?v=nawCa-4dWgY
というのがあり、これを見ると結構大きな塊を採取しています。
ご参考になれば幸いです。
申し訳ありません。
5月24日のコメント(補足)に気づかずにいました。
(数回は確認したつもりなのですが、なぜか見落としていました)
本日コメント(補足)読ませていただきました。
本当に短期間に沼鉄鉱が形成されるのですね。驚きました。
ユーチューブの動画も見せていただきました。
申し訳ないのですが、英語がダメで内容がわからないのですが、短期間に大きな
露頭ができるといっているらしいとは思いました。
ユーチューブの最後で鍛造しているような模様が出てきますが、途中がはしょりすぎの
感じです。
露頭を持っている感じからしても比重が軽そうで、これから銑鉄を取り出すだけでも
大変そうな気がしました。
とにかく、製鉄に使える褐鉄鉱が短期間に生成されると言うことは驚きでした。
これまで[はてな]のサイトで質問させていただいたのですが、meeflaさんにばかり
お手数をおかけしているので、[地学]のカテゴリを独立させているgooに、継続質問
をさせていただきました。
もしも、引き続き、お教えいただけるのでしたら、下記の方にお願いいたします。
http://oshiete.goo.ne.jp/qa/5970377.html
雑誌[金属]2007.no11(Vol77)に永田和宏氏の連載[たたら製鉄の技術論(28)ルッペの製造実験]が掲載されていて、その中で、Mohkon(フィンランド語でメヒコ)村(カレリア地方)でのことが記載されています。
メヒコでは1849~1908年までメヒコ製鉄所が操業。木炭高炉で年平均3300トンの銑鉄を製造。1898年には鉄鋼石15609t+木炭43515tから銑鉄5849tを生産(当時のフィンランドの生産高の1/3で、19世紀品ランド最大の湖鉄鉱石精錬プラントと案内されているところだそうです。原料は湖から採取される鉄鉱石と言うことです。湖の水深は数メートルで、永田和宏氏も膝までの深さに入り、湖底を30cm角のカゴで浚って、水草と鉄鉱石の混合物から水草を洗い流して1cm~4cmの大きさの鉄鉱石を採取している写真を掲載しています。コイン状と説明されていますが、見た目[丸みがかったシミせんべい]のような状態です。これを白樺薪で焙焼すると成分組成(mass%)Fe2O3が約60%の乾いた煎餅状になるそうです。
なお成分組成はスエーデンボルグ氏のデータのようです。
その元になっている湖底でとれるシミせんべい(厚さ5~10mmの板状、直径3~4cmのコイン状)ですが、10年で再生するそうです。スエーデンボルグ氏は34年で再生すると述べているそうです。
再生機構は、[湖底から湧き出る地下水に鉄分が含まれており、寒いフィンランドの湖で冷却されて酸化鉄が析出する。地下水が湧き出るとき核種がかいてんするためコイン状になるという。]と書かれています。
インターネットで同種の報告がないのかを探しましたが、現状見つけられないでいます。
永田和宏氏は http://www.cms.titech.ac.jp/~nagata/nagata_gyouseki.html 日本鉄鋼協会俵論文賞、日本金属学会功績賞・論文賞、科学技術賞(文部科学大臣賞)など受賞多数した東京工業大学
大学院理工学研究科物質科学専攻教授、日本学術振興会学術システム研究センター主任研究員なので、孫引きや簡単に触れているだけの場合でも、全くいい加減のことは排除されていると思います。
砂鉄は、花崗岩・閃緑岩・玄武岩などの火成岩がが風化するときに磁鉄鉱が分離してできると言う意味では、現在も鉱床が生成中であり、採取が可能なのだと思います。鉄穴ながしで砂鉄を採取できる位ですから、自然状態でも条件が揃えばかなり短期間で砂鉄鉱床が形成されることがわかります。
フィンランドの湖鉄が、焙焼する前のコイン状の時に、なんと呼ばれるのが普通なのかわかりませんが、鉄分(鉄イオン?)が酸化鉄(固体)に湖水中で変わるのであれば、まさに生成です。それも人生よりも短い期間で数センチの塊が湖底に広く多数生成されるのであれば、本当にすごいです。
それが形成される場面や、何か視覚的にわかるものがあれば、どなたでも教えていただきたいと思います。