テーマ:F-4と女子大生
創作文章(ショート・ストーリー)を募集します。
ルールははてなキーワード【人力検索かきつばた杯】を参照してください。
締切は11月13日(土)夜10時、締切後に一斉オープンします。
黄色い風船
だれにも言ったことないけど、私は作家になりたい。てか、なれるんじゃないかと思ってる。
そんな私が、最初に小説を書いた日のことを書こうと思う。
一般言語学の授業中、私は居眠りをしていた。目を覚まして気づく。また同じ夢を見ていた。
「…ですので、FとPHは該当の関係ということです」
遠田先生が遠くでしゃべってる。となりで亜由美がiPhoneいじってる。
「ねえ、14日ヒマ? 合説いかない?」
「んー、何曜だっけ?」
寝起きの私は機嫌が悪い。
「日曜。あさってだよ。東京ビッグサイト行こうよ」
「行きたくなーい。就活かぁ、めんどいなぁ。ずっと学生でいいや私」
「なに言ってんの。夢ばっか見てちゃだめだよ?」
亜由美はまたiPhoneに目を落とした。夢ばかり見てちゃだめだよ、かぁ。鋭い亜由美のことだから、たぶん察知してるんだろう。私に就職する気がないこと。
「…ですので、FANSATY―幻想ですね―とPHANTOM―お化けですね―は語源が同じということです」
遠田先生の声で、急にさっきの夢を思い出した。
夢の中で、私はひとりF-4のコックピットに乗っていた。クルマの免許すら持ってない私は、F-4なんてどうやってエンジンを始動させたらいいかすらよくわからない。そうこうしているうちに、遠くの空に黄色い風船が飛んでいくのが見える。早くあれに間に合わせなきゃ、と思う。でも飛び方がぜんぜんわからない。風船はどんどん遠ざかり、見えなくなる。焦って、手も汗でべとべとになって、でもぜんぜんF-4を動かせない。動かせる気配もない。
そんな夢だった。
なんでF-4なんてモノが夢に出てくるのかというと、人力検索はてなに「かきつばた杯」っていう小説のコンテストみたいなのがあるからだ。そこに作品を投稿すればポイントももらえるし、練習にもなるし、ってわけでひとつ投稿しようと思ってるのだ。はてなからデビューする作家になれたらはてな初だと思う。今回のテーマは「F-4と女子大生」。女子大生ってことはまあ自分を主人公にすればいいけど、F-4ってなんだ? と思って最近ずっとネットで調べてたわけ。ぜったいそれのせいだ。
「かきつばた杯」は第1回から私ずっとウォッチしてて、今回で第4回っぽいけど、まだ1行も書けたことがなかった。でも、今回は書ける気がする。たぶん、書き始めたらカンタンなんだろうと思うけど、そこまでの道のりは険しかった。就活と同じぐらい難しい道を私は選んでるんだと思う。あーあ。授業中に夢を見て、それがファントムの夢で、そんなファンタジーな将来像を描いてるわけか私。ファンタジーとファンシーって同じ語源だろうか。
考え始めたら堂々巡りになりがちな私は、そのままぼんやりと亜由美と別れ、電車に乗って家に帰り、書かなきゃとわかってはいるのに、帰るなりベッドに倒れ込んだ。
そしてまた夢を見た。
私はF-4のコックピットに座っていた。遠くの空に黄色い風船が見えた。あれを取りにいかなくちゃ。でも飛び立てない。コックピットは耳鳴りがするほど静かなままだ。どのレバーも効かない。どのスイッチもつかない。
焦っていたら、向こうから亜由美が歩いてきた。私はここから降りて亜由美に声をかけようと思ったけれど、ドアの開け方すらわからなかった。飛べもしないし、出られもしない。焦って泣きそうになった。泣きそうなところを見られたくなくて、でも逃げ道もなくて。亜由美はしきりに私を指差したり、後ろを振り向いたりした。最初は私のことを笑ってるんだと思ったけど、亜由美の顔は笑ってなかった。なにかの手振り? 私は後ろを振り向いた。
いままで意識になかったけれど、後ろの席に私はかばんを置いていた。そしてそのかばんの上に黄色い風船が置いてあった。手を伸ばしてそれを取った。急に心が落ち着いた。飛べないならそのままでいいよ、と告げているみたいだった。私は風船に息を吹き込んだ。こんなの何年ぶりだろう。風船は最初のちょっとの抵抗をあきらめると、素直になってまるくふくらんだ。
ここで私は目を覚ました。時計を見た。いつの間にか日付が変わってた。やば、今日って13日じゃん。締め切りじゃん。
その朝、私はやっと“わかった”んだと思う。いまの私には、おおげさな戦闘機はいらないってこと。
だから私はまず、ケータイを開いて亜由美にメールをした。夢の中で、コックピットのドアはついに開かなかったけど、ケータイのメールボックスを開くのはたやすかった。
ケータイを閉じた私は、今度はパソコンを立ち上げて、「お気に入り」の中からあのURLを開いた。やってみたら書くのなんてとてもとても簡単だった。思うことを言葉にすればいい。
こうして私は、最初の1行を書いたのだ。こんな風に。
だれにも言ったことないけど、私は作家になりたい。てか、なれるんじゃないかと思ってる。
『私の彼はパイロット』
「長谷二尉、今日の”お客さん”はなんと女性だってよ。しかも現役女子大生でなかなかの美人だぜ!羨ましいなおい。格好つけて無茶な飛び方すんなよー」
隊長からからかい半分にそう言われた時、なんとなく予感がしたのだがブリーフィングルームにて”お客さん”(試乗希望者)を目にした時、それは当たった。
「まさか本当にここまで来るとはな」
「だって千載一遇のチャンスだよ?逃すわけないじゃん!」
そう言いながら美沙紀は笑った。
確かにな。
H基地では初となるジェット戦闘機試乗体験の募集が締め切られたのが二週間前。予想以上に集まった多数の応募者の中から選定するために設けられた課題は甚だ女性に不利な条件ではあったが、ひるまずそのチャンスをモノにしたのは見事としか言うしかない。
「コーちゃんのヒコーキに乗せてもらうのが昔っからの夢だったんだから・・・」
光輝にだけ聞こえるよう、そっと美沙紀つぶやいた。
成人式を迎え、すっかり大人らしくなった姿に若干とまどいを感じつつ、その言葉につかの間の感慨を覚えた光輝であった。
父親の転勤によって九州からはるばる埼玉県に引越したばかりで友達もいなかった小学生の土井美沙紀に、なんやかんやと世話を焼いてくれたのが隣に住む年上の少年・長谷光輝だった。なかでも将来の夢がパイロットである光輝が雑誌やプラモデルを見せながら得意気に話すヒコーキの存在は、いつしか美沙紀の心の中にも強く印象づけられたのであった。
光輝のおかげで近所の子供たちとすっかり仲良くなれたはいいが、どちらかというと男の子趣味に染まってしまった娘の様子に、両親は嬉しい反面困惑も多少あったとか。
そんな兄妹に近い関係が続いた二人が男女交際の間柄に発展したのは、美沙紀が高校生、そして光輝が航空自衛隊に入隊してパイロットへの道を歩みだした時期だった。
もっとも光輝の方が二尉に昇進して茨城県H基地に配属されるまでは全国を転々としていたので、遠距離でのつきあいの方が長かったが。
搭乗を2時間後に控えて、最後の打ち合わせを行う。今頃試乗体験用に武装を外され入念な整備をされたF-4EJ改が格納庫から誘導路に引き出されている頃だろう。
そしてフライトスーツに着替え、パラシュートやライフキット等装備の点検を経てようやく飛行場を出た美沙紀らを待っていたのは多数の報道陣、それに一般客だった。
「うわっ、すごい人・・・」
思わず驚きの言葉を漏らす。
「うん、まぁ何かと異色のイベントだから。しかしせっかくテレビカメラに写るってのに、その格好じゃ残念でしたねぇ」
付き添いの整備士がからかい気味に言う。
「や。私はファントムに乗りに来たわけですから!」
確かにフライトスーツとヘルメット姿では遠めには誰が誰だかわからず、初めてジェット戦闘機に搭乗するという女性を一目見ようと期待して集まった人々にとっては残念であったに違いない。
この日のために純白の塗装を施され陽光を浴びてきらめくF-4EJ改の近くまで一行は辿りつき、基地関係者の見送りを受けて美沙紀から先に後部席に座る。
光輝の方は外野の喧騒におかまいなく、まずは機体周りの点検から離陸準備に入り真剣そのもの。美沙紀にとって初めて見る表情だ。
そして操縦席に乗り込んで最終チェックを済ませた光輝がマイク越しに話しかけてきた。
「じゃ、ちょっくら行くか?」
まるで散歩にでも行くような軽い調子の言葉にふっと余計な力が抜けた。念願のフライトとは言え、直前になってさすがの美沙紀も言葉も出ずに硬くなっていたようだ。
「うん。コーちゃんの腕を信頼してるから」
「よっしゃ!任せろ」
エンジンに点火されたファントムの周囲は轟音に包まれる。
滑走から離陸までの瞬間はあっという間だった。ドンっと急に体を押し付けられたと思ったらいつの間にか機体は雲ひとつ無い冬の蒼空を急速に駆け上がっていく。
(すごい勢いで空が流れていく・・・)
かつて経験したことのない感覚に美沙紀は声も出なかった。
高度を稼ぎ、水平飛行に入って余裕のできた光輝が話しかけてきた。
「とりあえず今6000まで上がった。そんでさっき説明した通りに霞ヶ浦まで南下した後、太平洋に出て北上し帰投するコースな・・・って大丈夫か?」
「あ、うん、大丈夫。わかっていたつもりだけど圧倒されちゃった。よくわかんないけどいい機体だよね。これ」
「そうそう、前にも言ったかもしれないけど、最初はファントムライダーになるんだって決まって内心ガッカリだったよ。イーグルに乗る同期が羨ましかった。見た目もちょっとドンくさい気がしたしね」「だけど乗ってみてわかった。開発から長年運用され続けているだけの堅実さというか渋さっていうかな。乗れば乗るほど愛着がわく。まだまだやれるよ、こいつは」
ヒコーキのことになると途端に饒舌になるのは変わらないなぁ、と美沙紀は微笑んだ。そのくせ肝心な時には不器用なんだから。
巡航速度となって余裕のできた美沙紀はふと外を見下ろしてみる。快晴に恵まれて視界は良好だ。前方に霞ヶ浦の広々とした水面と所々に市街地らしき塊が見える。この高度では人家や建物はほんの小さな点に過ぎない。
「なにかリクエストあるかな?といってもあんまり激しい機動は禁じられているけどな」
「えーとね、まず背面飛行に宙返りにぃ、インメルマンターン、スプリットSにー木の葉落とし!」
「ちょっ、アクロバットじゃないんだから!っていうか最後のは零戦の得意技だろが・・・」
「あはは」
「んじゃ、ちょっと口結んでろ」
おもむろに軽く操縦桿を引き、再び上昇しながらの連続ロールに入る。
再びGに翻弄されるが今度はぐるぐる振り回されるような揺さぶりがきつい。今まで美沙紀が経験した一番のジェットコースターをさらに数倍激しくしたようなきつさだ。
それでも光輝の操縦するファントムの機動を身をもって感じられるなら後悔はない。
ふと気がつくと機体は水平飛行に戻り、海岸線を左に見ながら北上していた。
「あと10分ほどで基地上空に達する。で、体験試乗はいかがでしたか?お嬢さん」
「あぁもう、すごかった。病み付きになりそう」
「ははは、それは頼もしいことで。美沙紀はパイロットの素質があるのかもな。目もいいし体も丈夫だから」
急に黙り込んだ美沙紀を気にして慌ててように光輝は言った。
「あ、いや冗談だから。まだ学生だし、じっくり将来のことを考えろよ」
「あのね。今日コーちゃんのヒコーキに乗ったら言おうと思っていたことがあるの」
「なに?」
「ちょっと早いけど、わたし就職先は自衛隊に決めたの!そして将来の目標は職場結婚してパイロットのお嫁さんになることだから・・・今後ともよろしくね!」
かろうじて操縦桿の操作を誤らなかったのは鍛錬のたまもの。しかし驚きの余り今度は光輝は言葉が出なくなる番だった。
「・・・あー、もうすぐ着陸だから。しっかり掴まってろよ」
「りょーかい!」
やがてH基地を視界に捉えた機体は徐々に高度を落としていく。
この時、二人は気づいていなかった。二人の会話は安全性の都合上、管制によってモニタされていたことを。やがて任務を終えた光輝は基地の仲間によって手荒い歓迎を受けることになる。
~Fin~
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いざ書こうと思って気づいたのですが、私の乏しい航空機の知識では今回かなり難易度が高いことを。まして女子大生を主役どころにもってくるにゃどうすれいいんだと。
それで結局オーソドックスな展開になりました。
また、ボロが出ないようにところどころ省略したのですが、それでも2000字を遥かに超え、しかも一人称が二転三転するという読みにくい文章になってしまい申し訳ないです。
ただ数日して回答の付きが悪いようだと、解説や取っ掛かりのヒントをコメント欄に投下するようにします。
<< hokurakuさん から 53point >>
「とりあえずのっけます!」
とのコメントをいただいております、皆様ふるってご参加ください。
この文から読み取れる可能性が二つあって、
1. 女子大生は趣味ではない。社会人もしくは高校生以下が趣味である。
2. 女子大生が本命なので、質問者の意図から離れた解釈は許さない。
いや、なんでもありません。忘れて下さい。
神田・栗原しか思いつかないので、考え直します。
お題としては相反する素材を重ねた方が面白みが増すので、"女子大生"という登場人物!? を選択しました。年代は少し上ですが、"セーラー服と機関銃"のように一見水と油のようなガジェット同士を組み合わせると、話が転がし易いだろうとの思惑からです。(あくまで自論)
なもので趣味の方のF-4は国内でも次々と退役していっているファントムを一応は差しています。
では、何故にファントムを持ってきたかというと、先日迷彩ファントムの現物を入間で久々に見る機会があったからで、ほかに他意はあったりなかったり。
ぶらい、ですね。もちありですが、あまり拘って欲しくないのでこれ以上は言及はさけます。
ご応募予定の方で、「ちょっと待って!」という方がいらっしゃいましたらコメント欄に投稿予定時刻をお知らせください(考慮いたします)。
たまたまですが、関連しなくもない興味深い質問が挙がっていますね。
http://q.hatena.ne.jp/1289448666
皆さんおまちしております。
(余程の回答でなければ、少なくとも参加賞20pは贈呈させていただく予定ですので今からでも、という方も是非お願いします)
でも間に合わなかったらごめんなさいで。
ただし、懸賞金つけるhokurakuさんの都合もあると思いますので、懸賞金対象からは外れる可能性がある点ご了承ください。
取り急ぎ、ご参加いただいた方、ウッォチャーの方、ありがとうございます。
今回、hokurakuさんの賞金がありますので講評は後ほど、と考えておりましたが、スターについては、付けて頂いて問題ないかと思います。
(hokurakuさんなら引用スター程度なら問題ないだろうと思いますし、スターをつける動作って、どうしても見た瞬間、読んだ瞬間の勢いが必要ですので)
というわけでみなさまスターのオヒネリよろしくお願いいたします。
>>hokurakuさん、
懸賞金のご選考お願いします。(または該当なし)
一応、質問投下日時の関係で明日の夕方くらいに配点、いるか選定の予定ですが、それまでにご指定がない場合は懸賞金分抜きで配点させていただき、一旦ご返却または、(質問終了後のタイミングでご選定いただいた場合)ポイント送信での懸賞金送付とさせていただきます。
配点ですが、ご参加いただいた方に最低一律20ポイント、長文または唸る展開、仕込みをいただいた方に加算点とさせていただく予定です(予想外に別質問で大量に回答ポイントをいただいたので資金はあります)。
いや、堂々とタイトルに借用した私も人のことは言えませんが(笑)
「俺とF4しようぜ!」
彼女は、容赦なく[ALT]-[F4]した。
ちゃんちゃ(ぷちっ
id:takejinさんの作品は届いてないようですが、今回の懸賞金はid:sokyoさんに差し上げることにしたいと思います。
前半で思いもよらずカットインしてくる「かきつばた杯」とラストのリアルタイム感がぐっときました!
>id:takejinさんの作品は届いてないようですが、今回の懸賞金はid:sokyoさんに差し上げることにしたいと思います。
ありゃりゃー、実はいるかはtakejinさんの作品が出ない限りは・・・と考えていたのでW受賞ですね。
今日は講評までは難しいので終了処理までさせていただきます。
>kuro-yoさん
それ受けました。ある程度の尺で話が流れた後、そのオチもってこられていたらと思うとぞっとします(笑)。
いるかはsokyoさんで。(迷いました。苦悩はポイントに表れていると思います)
で、実はポイント配分を色々考えてるうちに懸賞のことをすっかり失念していたため、懸賞についてはポイント送信という片手落ちになってしましました。
hokurakuさん、sokyoさん申し訳ありません。
一応証拠の画面をば。
http://f.hatena.ne.jp/alpinix/20101114171719
講評・感想は後ほど(今日遅くか明日以降)にコメント欄に投下させていただきますが、質問は無事完了しましたので、参加者やウォッチャーの方のご感想やご意見、質問などありましたら、どうぞお気軽に書き込み下さい。
お待たせしてすみませんでした。
『飛行機雲』
「ママ、この箱は何?」
「どうしたのそれ」
「納戸の奥にあったの。すごく重いのよ。」
娘の亜美が、段ボール箱をリビングに持ち込んできた。
「何かしら。」
亜美が箱を開ける。「うわ、汚なーい」
中を覗こうとした私は、動きを止めた。中には、薄汚れたカバンが入っていた。
「忘れてた。」
私の呟きを無視して、亜美はカバンを開ける。
中からは、ホコリやらカビの匂いやらが飛び出してくる。
「カメラだ。レンズも沢山。すごい。」
「そうね、沢山入ってるはずよ。」
「パパのね。パパのなのね。」
あの日。青い空が広がっていた。雲ひとつ無かった。
見上げると、空に一本の線が引かれていく。
「うわー、まっすぐだ」
独り言を言いながら、私は線が長くなるのを見つめる。
「どこまで続くんだろう」
「あと五秒くらいだよ」
後ろから、カシャッという音と共に声がかかった。
振り返ると、大きなレンズが私に向いていた。
「ごめん、思わず撮っちゃった。」
「あなた誰」
大きなカメラを下ろして、若い男性が現れた。
「ただのコウクウファン」
「コウクウ?」
「飛行機好きだよ。ほら、雲が途切れた。」
彼の指差す先に、まっすぐな線の終わりが見えた。
「スクランブルだな。2機で北へ行く。」
青いキャンバスに、二本目が描かれていく。
「君こそ何者だ?」
「私?ジョシダイセイ」
「ん?ちょっと恥ずかしい単語の一つの、女子大生ですかぁ。」
「そうよ。それも、一人。」
「航空自衛隊基地の近くの、何にも無くて、戦闘機見るくらいしか楽しみない所にねぇ。」
「変でしょ」
カシャッ。
「今のいいよ。うん」
「え」
「いや、なんでもない」
私は、なんだか、少し心が軽くなった。
「ねえ、クイズ出していい?」
「え?」
「正解なら、お茶おごって上げる」
「いいけど」
空に描かれた二本の線を指して、私は言った。
「あの戦闘機って、なんていうの?」
彼は即答する。
「ファントム。F4EJ。無骨で美しい戦闘機だ。」
「正解。」
「知ってたの?」
「ふふ。秘密。」
「ママ。どうしたの?」
「ううん?なんでもない」
亜美が心配そうに私を見る。
「パパの宝物なんじゃない?これ」
「そうね。」
「私にくれる?これ」
「え、でもこれデジタルじゃないわよ」
「いいの。レンズは使えるし。」
「いいわよ。大事に使ってね。」
もう五年も経ったのね。あなたに似て、カメラと飛行機が好きよ。この子。
「あ、フィルムが」
亜美が、カバンの底から、35mmフィルムのパトローネを取り出す。
「なんか書いてある」
「え」
「マジックで、メモ書きがしてあるのよ」
パトローネにかすれた字が並んでいる。
「F4…と…女子?…大生」
亜美が首をかしげる。
「ああ、F4って、このカメラね。女子大生って…ひょっとして大昔のママ?」
私は微笑む。
「ねえ、これ現像してみよう?いいでしょ?」
「そうね」
私は、うなづく。
20年も前のフィルム。もう何も写っていないと思うけど。
現像を頼んでみよう。丁寧に扱ってもらって。
何も写ってなくてもいい。あの日の情景は、私の心に刻まれているから。
まだどこかで飛び続けている、ファントムのように。
(次の「かきつばた」に限らず)
個別の感想にチラホラ書きましたが、「F-4と女子大生」というお題目をどう料理してくれるのかに注目しておりました。あきらかにマニア向けのお題に見えますが、戦闘機を知らないタイプの回答者がどううまくこのお題を料理してくれるのか、そっちに期待をしていました。(全然別のF-4を持ってくるとか、ですね)
■1『私の彼はパイロット』goldwellさん
タイトル見た瞬間にひっくり返りました。確かに戦闘機のアニメと言えばアレの影響は強いですね。meeflaさんの作品にも出てきていますし。ちなみにご存知だとは思いますが、アレのモチーフはF-4ではなく、F-14です、念のため。
ただのF-4ではなく、F-4EJ改と表記されているところに並々ならぬ調査の跡がうかがえます。無茶振りで申し訳ありませぬ。
未経験者への訓練とか体験はT-4とかで行われることが多いはずですが、F-4が複座であることをうまく利用した展開だと思います。
H基地だけがよく分かりませんでした(百里基地?)。
最後の無線オチはベタですがこういうの好きです。
■2『戦え!武藤さん』grankoyamaさん
多分僕の守備範囲外のネタがテンコ盛なのだと思います。恐らく僕はその半分も拾い切れていないのではないかと思いますが、感想まで。
>>
はじめ、カメラのことかな?と思いながら
<<
おしいー、そのまま書いていただいていて全く問題なかったのですが。コメント欄に不用意に書かなければ良かったですね。
「これが違和感なく人型に変形した時に見るものに与える心理的影響」じつはgoldwellさんと同じアレですかね。影響力高いですね。
僕も人の指摘ができるほどではないのですが、ワザとでないのなら地の文の中に括弧書きの脚注(特に身体的特徴)が多いと少し読みづらいです。でも会話文がテンポよくて意味不明のキーワードが沢山羅列されているにも関わらずストレスなかったです。
■3 無題 yossiy7さん
いや、いいです。この無理展開!。
全然有りです。女子高生じゃなくて女子大生なんですけどね。
ただプロレスネタがわかんないので何か埋め込まれているものを拾い損ねている気がしないでもないです。
■4『F-4が流行って』rihanさん
桜花と身勝という名前? が出ているのですが、この一箇所しかないのでどうにもつかみ所がなくてつるつる滑ってる感じです。(多分僕の守備範囲外のネタが仕込まれているのかもしれないですが、他にとっかかりが無いので突っ込むこともできないですね)
ちなみに勘違いされてそうですが、お題は女子高生ではなく女子大生です。一人称が女性ということは伝わりましたが、文章量が圧倒的に足りないので次回はもう少し伝わる作品をお願いします。
あと、僕はいいのですが、ほかの方が主催の「かきつばた」のときにはオープンしてもらえないかもしれないです。
■5 無題 meeflaさん
やられました。導入の二行巧すぎです。お題の難しさを逆手に取って、最初の二行で設定全部を風呂敷にくるんでしまう、凄い技でした。ダントツでスター付くだろうと踏んだのですが案の定でしたね。
景気の浮揚とファントムのペット化を絡めた創作ネタは、これでもかと畳み掛ける数々のパロディでめろめろにさせてもらいました。個人的には「高高度」と「私を百里に連れてって」が一番受けました。
ただ"いるか"はとても悩みました。sokyoさんのがなければ、というところだったのですが、"ショートストーリー"という観点からどうか、という点で次点とさせていただきましたが、評価は高いです。(meeflaさんらしい詳細で多面的な調査に基づいた回答だったと思います)
■6『黄色い風船』 sokyoさん
構成の巧さが際立っている点、ショートストーリーとしての体裁が秀逸な点をもっているかとさせていただきました。そして実は密かに考えていた「F-4を知らない人がどうやってショートストーリに絡ませてくれるか」を一番体言している作品というのも理由の一つです。明らかに基本知識(男の子脳)の高い他の方とは対照的な展開(風船の意味深な登場など)と、設問内容を小説の中に組み込む、逆入れ子の手法は面白かったです。そしてそれを綺麗に最後の一文にループさせて終わらせる"回想型"の物語だったとは恐れ入りました。構造と時系列を二重に倒置していたわけで、しかもそれを嫌味に思わせない女子大生の淡々とした思考の地の文が、さらに好感をもたえてくれました。
■番外 『飛行機雲』takejinさん
お忙しいところ、お呼び立てしたようで恐縮です。折角のお休みを削っていただいのかもしれず失礼しました。風邪っぴきで週末は引きこもり状態だったのでコメントの書き込みが督促まがいでしたね。
さて、F-4をカメラに絡める、という展開はいいですね。お題を考えたときに「同一のシチュエーションに戦闘機と女子大生を登場させるのは難しいから、どっちかを回想か伝聞にするのがいいだろうなあ、」とはぼんやりとかんがえていました。(意地悪な設問者だな)
敢えて細部を書かない文章なので、余韻や行間が凄く詰まっている感じを受けます。会話文ばかりの昨今のノベライズには辟易しているのですが、こういう地の文を敢えて省略した書き方は好感です。
番外ですが、F-4のお題を一番スマートに取り込んでいただいたのかな、と感じています。
ネタバラシを少々。
> 導入の二行巧すぎです。
ここと最後の3行は、伝説的深夜番組の「カノッサの屈辱」です。
うまいとすれば、オリジナルの功績ですね。
本当は全編で「カノッサの屈辱」仕立てにしたかったのですが、
お題も含めた難易度が高すぎて断念しました。
もう少し時間があれば、「飯倉交差点をタキシングする F-4EJJ」の
(合成)写真とかを入れたかったわけです。
「虚実入り交じった歴史講義」というコンセプトだけ借用した形になりました。
> 個人的には「高高度」と「私を百里に連れてって」が一番受けました。
「高高度」は、回答の直前に迷いながら入れたネタですので嬉しいです。
> "ショートストーリー"という観点からどうか
激しく同意ですw
書いていて思ったのは「『ショート・ストーリー』じゃねーよなー」でした。
かろうじて「創作文章」とは言えると思いますが、
レギュレーション違反ギリギリですよね。
前質問の【解決編を執筆して下さい】でストレートなのを書いてたので、
趣向を変えようとしてちょっと遊びすぎたようです(^^;
機会があれば、ですけど、次回は真面目にやるつもりです。
# でもなー、真面目に書いてもレアスターはもらえないからなー ←懲りてない
やはり皆はん、そこは避けて通りはったんか?一瞬でもそんなプロットを考えんのは、わてだけ?
それはさておき(武藤さんもさておき)、「黄色い」の親近感&ひねりこみ、「私の彼」の安定感、
yossiy7さん、rihanさんの勢い、meeflaさんのぶっちぎりの爽快感。堪能しました。
こうも作品にバリエーションが出るものかと感動。(バカパクとシブ知?がそれぞれレベル高すぎ)
カテゴリに偽りなし。これからも文芸的側面と、ツボをくすぐる独特のネタの世界が融合する
カップであって欲しいなと個人的に熱望&応援します。
<追って回顧>カメラで構想などと書きつつ、カメラの知識はたわばさん仕込み(ほぼ空っぽ)
なので追加コメントのヒントが無ければ参加を見送っていたかも知れません。
(ファントムであってくれたので、逆に自己満足かつ趣味の世界を突っ走れました。多謝。)
現代に生きる武藤さんのお父様が設計されたヤツの見た目は「goldwellさんと同じアレ」のような
形状になってしまっていますが、私個人の想いはフランクリンさんの息子が設計したヤツです。
「括弧書きの脚注」は半分ワザと半分悪癖です(66対34)。「ヒロインに言いたいこと全部言わせない」
作品にも関わらず、自分の過剰説明癖、注釈好き、省略下手が露呈してしまいました。脱帽です。
反省点だらけですが(ネタのテンコ盛りどころか、ちょい盛りとおしんこ程度)、
中途半端な苦しいアナグラムで初めておいて、下手な駄洒落で終わる尻すぼみ感(伝わったのかなぁ?)
テム、フランクリン&嫁、ハンゲルグ、モニカ(あやとり好き)、最近ではカーディアス等という名で
ピンと来ない人には伝わらない(ゲンドウ要素もちょい含む)間口の狭さ
あと、森ミステリZシリーズの影響などなど。(そういう意味で今作は2つの”Z”から生まれました)
今後(今回はあえて疑問符はつけません)に活かせたらなぁと思います。
お読みいただきありがとうございました。あとツンデレなんていいつつ、優しい評価も。
機体のモチーフに関しては目をつぶったんですが気づかれちゃいましたか。
女子大生とパイロットの彼氏というカップリングから始まったので、タイトル借用ついでに二人の名前も登場人物をもじってりして。
また、省略した裏設定ではオープンかつ親しみのある組織を目指す自衛隊が思い切って一般人の現役ジェット戦闘機への試乗体験をしたというつもりだったので、T-4じゃダメなんです(笑)
一応、ウィキペディア読んで、部隊が存在する中でなんとなく関東にある百里基地が身近で書きやすいとして選びました。
実は時計の針を70年近く戻して、F4Fとヤンキー女性パイロットというストーリーもできるか、とちょっとだけ思って思いとどまりました。
・・・それにしても、もう少しショートショートとしてうまくまとめられるように、他の方の文章に学ばなければ。
すいませんー日曜日は亜由美といっしょに合説いってて(←嘘)。
でもどうもありがとうございます☆
講評までいただきましてうれしいです。
なんだか難しいキーワードが多くて、わかったようなわからないようなですが(爆)、
うれしいのでまた来ます♪
でも今度はもっとテーマを生かせるようになりたいっ!
まあ、やはりファントムはずせないということで。
非常に現実に近く、地に足のついた小品を書いてみました。
元々地の文が少ないのが私の文体なので、これが一番地に近いと思います。
とはいえ、バタバタしていて推敲もせず、あげくにお待たせして間に合わないという失態。
すみません。
催促ではなく、普通だと思います。こちらがわがままでした。
F4持ちとして、どうしてもNIKON F4を入れたかったんですけど、フィルムカメラを登場させるのは、すでに難しい状況。どうしても回顧にせざるを得ないですね。
ははは、女子大生がファントムを駆って、ミサイル乱射!!なんて作品が「違和感なく」書けるようになりたいです。
防衛大学校の女生徒なら(意味違っ
むしろ、一般の女子大生が志願してパイロットにしてしまう設定の方が自然かもしれません。「違和感なく」そうさせるまでが大変といやぁ大変だけど。
ご無沙汰しております。hokurakuです。
皆様にお願いがありまして。
思いつきなのですが、このかきつばた杯を編集してpubooの電子書籍として配布したら面白いかなぁ、などと思いました。
<ブクログ パブー>http://p.booklog.jp/
もちろん、配布は無料で行います。
要は、皆さんの質問&回答を電子ブックリーダーやスマホにダウンロードして読めるようにしたらいいかなぁ、というものです。
そこで皆さんにお願いなのですが、各質問&回答の著作権は皆様にありますので、pubooへの転載しても構わないよー、という方はお手数かけますがこちらにコメントをお願いします。
なお、はてなには皆様から了解が得られれば転載は構わない旨、回答いただいております。
※同様のコメントを各回の質問に載せたいと思いますので、常連さんにはご迷惑おかけします。すいません。