刑法第245条は、第36章 窃盗及び強盗の罪を[電気は、財物とみなす]ことで準用させる規定です。
刑法第251条は、第37章 詐欺及び恐喝の罪を[電気は、財物とみなす]ことで準用させる規定です。
刑法第38章は【横領の罪】の規定です。
準用の規定を作るとしたら、[この章の罪については、電気は、物とみなす]という実質を持たせる必要があり、
また、そうすると、横領した電気にも【盗品等に関する罪】も自動準用されるのことになりそうです。
『電気』は、もともと『物』ではなくて『物理現象』です。
刑法で財物とみなしているのは、電力の使用権です。
本来物ではないけれど、財産価値、商取引の価値があるので、法的に権利を認めようとしたのでしょう。
土地や装置機材、現金などは『もの』があるから、それについての使用権を決めやすいのですが、『物理現象』に使用権を設定するというのはいかにも無理があるように思えたので、『電気は財物とみなす』ことで、社会の中でのトラブル解決の方策を作ったのだと思います。
では、横領はどうでしょうか。
横領が成立するには『自己の占有する他人の物』が必要です。電力について、これをどう考えれば良いでしょうか。
自分で発電した電気、電力会社から購入した電気を、他人(従業員)の占有にゆだねる状態がないと、成立しません。
おそらく、立法の当時、このような状態を想起しにくかったことが、法律に規定を作らなかった一つの理由ではないかと思います。
自分で発電した電気、電力会社から購入した電気を保存するには二次電池を使うことになります。この充電した二次電池(ニカド、リチューム、ニッケル水素、鉛電池など)を他人(従業員)の占有にゆだねることは可能です。それを占有している人(業務でも業務とは関係なくても)が電気を使ってしまう(横領する)ことも可能です。
刑法は次の様に規定しています。
(窃盗) 第235条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
(横領) 第252条 自己の占有する他人の物を横領した者は、5年以下の懲役に処する。
(業務上横領)第253条 業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、10年以下の懲役に処する。
罪としては、窃盗が重く、横領は軽いのです。
盗みに入って財物を私した場合は、託されて占有していた財物を私した場合より重い罪です。
託され占有していた場合でも、仕事・業務で占有していた場合には、窃盗に準じる罪になっています。
横領罪が刑法になかったら、おそらく、業務上横領も、横領も、窃盗罪で処罰するでしょう。
電気に横領罪を適用する(準用する)規定を作っていなくとも、電気に窃盗罪や詐欺罪を準用する規定が作ってあれば、刑法としては十分だと考えたのではないかと思います。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1070883...
例えば、勤務先の電気について、事例を考えます。 (電動自転車でも同じです)
① オフィスのコンセントを利用して、私用の携帯を充電した。
② オフィスのコンセントを利用して、携帯の補助電池を充電し、私用に持ち歩いている。そして使った。
③ オフィスのコンセントを利用して、会社の携帯補助電池に充電し持ち歩いている。それを私用の携帯に使った。
元の電力は勤務先の会社か役所のもの(経済価値)です。
①②③を別の罪として刑法に規定する強い必要性はないと思います。
最近は技術が進歩して、蓄熱も可能です。他人が貯めた熱を窃盗する、横領することも可能です。
音楽も、小説や映画に関しても、ものとは別に著作権、放送権などを作りますが、コピーだけでなく、視聴権、閲覧権なども問題になるかもしれません。そうした時に、その横領についてもまた罪を規定するようなことがいいのか、横領についてわざわざ決めなくても、充分に社会的ルールや刑法裁判ができるのではないでしょうか。
このように考えると、電気が横領罪の準用の中に規定されていないのは、元は[横領]の状態が想起しにくかったからであり、その後はことさら[横領罪]を新規に追加する必要がなかったからではないかと思います。
刑法では、情状やその経済的価値を考慮して、電気の窃盗の罪(量刑)を決められるので、今のところ、電気について横領罪を準用する規定まではいらないのでしょう。
これがピッタリだと思います。
有体性説と管理可能性説からの考察です。
http://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/bitstream/10086/12558/1/rons...