科学史においては、
古代ギリシャのアリストテレスやフランスのデカルトらが、
論理学や数学と親和性の強い演繹法を、
イスラムのハイサムやイギリスのベーコンらが、
統計学と親和性の強い帰納法をおおむね作ったと言ってよい、
という風に理解しております。
ところで、この演繹法と帰納法をうまく組み合わせると科学的方法になる、
という風に理解しておりますが、
これを組み合わせて「ああ、こりゃ歴史的に最初の科学的方法と言えそうだね」
といえそうな実験や論文を出した学者は、歴史的には誰になるのでしょうか。
いまいちGoogleなりWikipediaなりを調べても分からないので、
ご存知の方がいらっしゃいましたら、教えてくださると幸いです。
(なおドイツのカントは「演繹法と帰納法はこれこれの場合には使ってはならない」
ということを示したのであり、彼自体が科学的方法を示したとは考えていませんが、
これもそうではなく、「ちゃんと科学に影響を与えているんだよ」というのであれば、
そういった話もお聞きしたいです)
明確に、演繹法と帰納法とを統合・洗練し、仮説演繹法を提唱したのは誰か、というを示すのはなかなか難しいですが(一応、19世紀のハーシェルやヒューエルなどが中心的な人達として挙げられるでしょうか)、著書において仮説演繹法のような方法に言及した人物で、より古いのは誰か、といった場合、まだこちらで出ていない論者としては、ロバート・グロステストがいます。「蟻と蜘蛛と蜜蜂」の比喩を用いたフランシス・ベーコンの論とあわせて、野家啓一『科学の哲学』から引用します(P67-P68)
すでに見たように、演繹法と帰納法は、それぞれの長所と短所をもっている。両者の長所を生かして、短所を補おうとう(原文ママ)するのが仮説演繹法にほかならない。これを明確な形で方法論として定式化したのは19世紀の科学哲学者たちであったが、それ以前にも、その萌芽的形態はすでに自覚されていた。たとえば、F. ベーコンは『ノヴム・オルガヌム』(1620)の中で、近代科学の方法を「経験的能力と合理的能力との真実の正当の結婚」として特徴づけ、その結婚の内実を「蟻と蜘蛛と蜜蜂」の比喩に託して以下のように語っている。
「学を扱ってきた人々は、経験派の人か合理派の人かの何れかであった。経験派の人は蟻の流儀でただ集めては使用する。合理派は蜘蛛のやり方で、自らのうちから出して網を作る。しかるに蜜蜂のやり方は中間で、庭や野の花から材料を吸い集めるが、それを自分の力で変形し、消化する。」(参考文献6-2 ※引用者註:ベーコン[著]桂[訳]『ノヴム・オルガヌム』)
つまり、蟻とは経験的データを収集して結論を導く帰納法の、蜘蛛とは公理から合理的推論のみによって結論を紡ぎ出す演繹法の比喩である。それに対して、蜜蜂はさまざまな材料を集めてきては自分の中で変形し消化する。これは帰納法と演繹法を組み合わせた仮説演繹法の比喩と見ることができる。
しかし、仮説演繹法に関してはベーコンよりも前に、さらなる先駆者が存在していた。「分解と合成の方法」を提唱した13世紀の哲学者R. グロステストである。「分解(resolutio)」とは、現象をその構成要素にまで分析してそこから一般原理を発見する過程であり、明らかに帰納法に相当する。「合成(compositio)」とは、見出された一般原理を組み合わせてそこからもとの現象を演繹的に再構成する手続きであり、これは演繹法にあたる過程である。そして、彼はその過程で導出された命題は経験的にテストされなければならないと主張した。その意味でグロステストの方法論は、19世紀に定式化される仮説演繹法の原型であったと見ることができる。
とあります。
この後に、19世紀になって定式化された事が示されていますが、そこで挙げられているのは、ジョン・ハーシェル、ウィリアム・ヒューエル、ウィリアム・ジェボンズなどの名前です。
この辺りの議論や歴史については、こちらで引用した『科学の哲学』や、内井惣七『科学哲学入門』などが参考になると思います。
また、グロステストについては、道家・赤木『科学と技術の歴史』にも、
グローステストは,イギリスの神学者で,オックスフォード大学教授,後にリンカーンの司教になった人で,アリストテレスの『自然学』や『分析論後編』に註釈を施し,農学,気象学,物理学,特に光学の研究を行なって公表し,数学的合理性と実験による実証性を結びつけようとした人と評価されている。
と紹介されています(P96)。この本では、グロステストとともに、13世紀のアルベルトゥス・マグヌスとロジャー・ベーコンが、「自然科学研究を行い,さらに実験科学研究の重要性を説く学者」(P96)として挙げられています。
以上、ご質問の回答となっているかは心許無いですが、参考になれば幸いです。
こちらは参考になるでしょうか。そもそも論になりそうですが、科学には、「実験による検証のプロセス」がないと駄目で、「帰納法と演繹法の統合」だけでは不十分だと思います。(^_^;
ちなみに、「実験による検証のプロセス」を持ち込んだのは、ガリレオで、「帰納法と演繹法の統合」は哲学の範疇でカントだと思っていましたが、ウィリアム・ヒューウェルあたりかも。(^_^;
●仮説演繹法
仮説演繹法という名前を最初につけたのはウィリアム・ヒューウェルであるが、これは科学的方法の記述として提案されたものである。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BB%AE%E8%AA%AC%E6%BC%94%E7%B9%B9%E6%B3%95
●仮説演繹法
http://kotobank.jp/word/%E4%BB%AE%E8%AA%AC%E6%BC%94%E7%B9%B9%E6%B3%95
●実験レポート/考察の書き方を解説 試験対策に物理学解体新書
http://www.buturigaku.net/main02/Report/index.html
●科学的方法
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A7%91%E5%AD%A6%E7%9A%84%E6%96%B9%E6%B3%95
なお、やはり全部大変面白かったので、均等に1000PT/5=200PTといたします。
ご回答された皆様には誠に有難うございました。
また機会があればよろしくお願いします。