お題:橙色の光
めでたく開催の運びとなりました。
ショートストーリーを募集します。
締め切りはだいたい1週間後を予定してますが、延長もOKです。
難しいこと分からないので、講評はなしで感想をつけたいと思ってます。
はてなキーワードさん↓
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%CD%CE%CF%B8%A1%BA%F7%A4%AB%A4%AD%A4%C4%A4%D0%A4%BF%C7%D5
『光が奪うもの』
出会いは軍の養成学校二期目の春だった。進級試験を突破したエリート軍人候補たちは専攻によって編成されたクラス表を受け取り、今まで過ごした一期生棟を後にして、これから一年を過ごす二期生棟に向かう。一番奥の一組は、進級試験の上位者の中で宇宙物理工学専攻のクラスである。段ボールに私物を詰め込んで向かう私の目的はそこだった。
私が教室に入ったことを確認するや否や、席についていた新しいクラスメイト達は、よろしくね、頑張ろうね、と次々に笑顔でたかってきたが、その目は笑っていなかった。笑顔の面の下には、妬みやっかみ、その他諸々の薄汚い顔をしているのだ。
「七光り」
「すねかじり」
どこかから、そんな言葉が聞こえた気がした。
「よっこらせ、っと」
不意の大音に驚いて隣を見ると、机に段ボールいっぱいの参考書を置く白衣を着た男子生徒がいた。見たことがない。
「お隣失礼。どうやら僕の席はここみたいで」
「……別に気にしていない」
「よかった。なんだか、空気が重苦しいけど、何かあったの?ホームルーム、まだだよな」
初めてだった。この男は、私を色眼鏡で見ていない。ただの隣の女子生徒としてしか認識していない。
「……空気清浄機みたいだな、お前は」
「初対面の男に、空気清浄器呼ばわりも凄いと思うけど」
「すまない。慣れてないんだ」
「いいんだよ、当たり前だからね。僕は、ムカイシオン。宇宙飛行士の向井さんに、紫の恩情で“向井紫恩”。君は?」
「……知らないのか?私を」
「当たり前だってば、一期の時は違うクラスだったんだから」
初めての自己紹介。その相手が紫恩だった。
「リンダアカリ……私は、凛田紅莉、だ」
「隊長、また見てるんですね。疑似太陽」
「見なければバイオリズムが狂う。常識だろう。私の体調なんかで3rdにいる日本人に心配をかけては、亡くなった祖父に示しがつかない」
「凛田元帥ですか……亡くなってから何年になります?」
「さあな。気にしていない」
私の祖父・凛田陽光は最期の宇宙軍元帥だ。資源の枯渇により人間が住める惑星でなくなった地球、その極東・日本において、一番の権力者だった。第三宇宙ステーション、通称“3rd”への移住の必要性を地球で最初に訴えたのも祖父だ。学生時代、七光りと言われた続けた所以はそこにある。勿論、祖父の力を借りたことなど一度もない。きちんと正規のルートで軍の上層部に出世をし、人口の減少から宇宙軍から改名した日本宇宙隊に隊長を務めている。
「懐かしいですね。思い出します、地球の夕陽。橙色の光がこう、世界を包むというか」
「光学は学ばなかったのか、副隊長。光は、赤・橙・黄・緑・青・藍・紫の順に届く。太陽が沈む夕方はその逆で、最後まで残るのが赤で……」
「頭痛いんですけど。そして隊長を見ていられないんですけど」
「私をか?」
「3rdに住む日本人およそ三百人、この夕陽の時間になると、みんな心配してますよ。知ってるんです、紫恩先輩と隊長のこと」
「やめろ」
「はい」
養成学校で出会い、共に過ごす中、私と紫恩が惹かれあうのに時間はかからなかったと思う。私は四面楚歌だったし、紫恩はこれぞ研究者というか、とにかく変わったやつだった。人と触れ合うより参考書を読む方に時間を費やしていたが、人の輪の中に入るのも上手い奴。私は紫恩の器用さに惹かれ、紫恩は私の一途さがいいと言っていた。思い込んだら、絶対やりとげる。それは、すごいことだよ、と。
『僕たちの名前には、色が入っているよね』
『ああ』
『赤と、紫。光学的にいうと、一番離れているね』
『……』
『でも、環になれば、ずっと手を繋いでいられる』
無事に日本宇宙隊に入隊して間もなく、祖父が亡くなった。日本宇宙隊の入っているビルは荒廃した日本では一番高い。酸素マスクを被らずにはいられない程廃れた地球で、数少ない高層ビル。祖父の葬儀の日は珍しく快晴で、橙色の光を携えた夕陽が私たちを照らす。もうすぐ暗くなる。紫恩の顔も見えなくなる。
『紅莉、3rdの移住に成功したら君に伝えたいことがあるんだ』
言ったのに。
『今、言えなくて申し訳ない。とても大事なことだ』
なんで。
3rdに向かう残り五百人弱の乗った宇宙船は、最大登場人数が四百人。百人もの人間が詰め込まれていたから、必然といえば必然、不幸と言えば当時の日本宇宙隊の上層部を恨め、といったところだった。これでも枯渇した資源を最大限に活かしたのだ、と思えば先祖を恨めばいい。
『隊長!凛田隊長!機体バランスにトラブル発生です、胴体着陸します』
『やむを得ない、全乗員に非常用装備を……』
『足りませんよ!百人分の装備が足りません!』
『隊長!』
『なんだ!』
『研究者たち五十名が、装備を提供すると……』
胴体着陸は、半分成功半分失敗だった。無傷三百名、重症五十名。研究者全員を含めた残りの百五十名は――
何を言いたかったのか疑問だけ残すなんて卑怯だ。一番憎いのは自分の無能さと宇宙空間の脅威。私から紫恩を奪ったすべての起因が憎い。
「何が、言いたかったのか……」
「隊長。どうか、宇宙を憎まないでくださいね。いつか、許してやってください。お二人が出会ったのも、この環境があってこそです」
「ああ、分かっている。それでも私はこの橙色の光が憎いよ。この橙は私の心に鎖をかけたんだ。そのくせ、居なくなったと思ったら全てを根こそぎ奪う」
「……自分は、先輩から隊長を任されています」
「知っている。ただ、私は靡かない自信があるぞ」
「分かっています。先輩を差し置いて、奪うなんてできません」
「日が暮れた、か。見回りに行くぞ、副隊長」
「はい」
まぶたに焼き付いている青春の光。字の如く青くはない、橙色の暖かい思い出。私は、紫恩の言葉を信じる。それしかできない。
「想い出は、永遠ですよ。いっぱいもらったはずです」
「……いいこと言うな、お前は」
「先輩の後輩ですから」
「国語は苦手か?」
「若干」
制服をただし、あと何回見られるか分からない疑似映像の電源を切った。心の中で、行ってきますと呟いた。
BAがあってもなくても、誉めていただいて充分なので。
私は(笑)
これは…これは…私がふがいないからだわ!!!
ということで、これからもがんばります!(`・ω・´)
…悔し。