「あたらしき人」
「エドガー、エドガー、聞こえるあるか」
耳元に聞こえてきた大音量の声は、変な日本語だった。昔大学の後ろの席で講義中呟いていた、中国人留学生ワンのしゃべり方にそっくりだった。
「あ、ああ」
俺は、自分が発した声が妙にかすれている事に驚いた。それに、自分がどこにいるのかよくわかっていないことにも、何も見えていないことにも。
「お、おれは」
「気がついたか、エドガー。ここは救護球体1382の内部な。お前は大腿骨と尺骨と肋骨を3本折り、頭がい骨陥没、角膜損傷、肝臓と肺も損傷、皮膚の7割が焼け、低体温症と低酸素状態で失血死寸前だたある。覚えてるあるか」
耳元でまくし立てられる情報は、量と質で俺を圧倒していて、何が何だかわからない。
「角膜と皮膚の再生以外は治療おわた。皮膚と角膜再生完了までマテ」
目が見えないのはそのせいか。でも、何かもやもやしたものが見えるんだが。
「映像情報を、直接接続しる。シンクロ完了なるまでマテ」
妙に強い命令が下るが、モヤモヤした何かは目の前というより、頭の真ん中で形になりつつある。
様々な色の球体があちこちに浮かび、灰色の細長い構造物が横たわる。その向こうには、小さな丸い天体が光っている。あれは、月だな。その向こうに青い地球が小さく丸く光っているのもわかる。
「ここは」
「ラグランジェポイントL2、通称宇宙港ある」
「それぐらいはわかる。技術屋として、浮遊ドックを視察に来たのも覚えてる」
目の前に横たわっている細長い物は、実際には全長2km以上ある浮遊ドックとマスドライバを組み合わせたものだ。これは、俺のチームが設計したものだ。
「ドックから遠いようだが」
「事故を覚えていないだな」
事故?そういえば、死にそうな怪我をしたんだっけ。
「エド、エド、生きてるの」
ユミの声だ。
「ああ、なんとか生きてるらしい」
間が開く。ユミは今どこにいるんだろう。地球だとすると、電波の飛距離から言って返事は
「よかった。でも、どうなの」
10秒かからないってことは、月なのか。
「今どこにいるんだ」
「何で事故にあうのよ。安全安全って言ってたくせに。エドの創るのは人を幸せにする機械なんじゃないの?あ、えと、月よ月。事故があってから、シャトル乗り継いで月まで来たのよ。今なら宇宙港に近いからって。でも、ここから先は行けないって」
タイムラグもなんのそのだな。延々しゃべってそうだ。
「死んだと思わなかったのか?」
「もう、だから、図面書いてるだけにして。私が月に来るのも危険なんでしょう?違うの?エドの会社の機械は大丈夫な、ううん、死んだと思わないわ。生きてる信号とかいうのが来てるって、ケンさんが言ってた。そうそう、場所もわかってるって。でも連れて来れないんだって言って」
そういえば、事故ってのからどれくらい経ってるんだ。さっきの説明だと、相当な大けがだが、全然痛みを感じない。
「エドガー、無意味な接続を切った。エドガーは、5日間この空間を浮遊している、治療完了まで自由落下安静あるから、移動できない、いいな」
だから連れて来れないってのか。
「それと、今我々は、ストライキ中である」
なんだ?
「おいおい。何の話だ?」
「本保護球体の所属する宇宙空間技術者集団、通称SEは、正当な権利の保証を求めてストライキを行っている。ある意味、エドガーは緩い人質なのだ」
声が変わった。この声は、宇宙港でも聞いたことがある。
「私は、SEの代表として話している。宇宙港のケントだ」
俺は、5日前の情景を思い出してきた。月から、宇宙港へシャトルで向かっていたのだった。
「エドガー、聞こえるか。こちら宇宙港のケントだ。」
浮きドックが見えてきて、最初に聞こえてきたのは、この声だった。
「聞こえる。こちら地球連邦設計技師の江戸川だ。初めまして」
「硬い話は面倒だ。ケントと呼んでくれ。君をエドガーと呼ぶ、いいな」
月からのシャトルの内部のモニタには、浮きドックが大きくなってきている。そこに、上から丸い物が降りてきた。銀色の球体は、マニュピレータを一回振り、その先端のパイロットランプがチカチカと瞬いた。
「銀色が俺、ケントだ。その先の緑がナオミ、鈍い赤がトム、黒いのがジョーだ。今回の案内と作業をするチームだ、よろしく」
画面の中の球体が振動する。宇宙港の作業員は、球体状の作業ポッドに乗っていると聞いていたが、これがそうなのか。
「伝えてある通り、宇宙港のネットエリア内は、こちらの操作に従ってもらう。まず、噴射系の操作は止めてもらう」
近づいてきた赤と緑の球体が、軽く接触した。船殻を通して、音が伝わってくる。
ナオミとトムがけん引し、しばらくして巨大な浮遊ドックにシャトルがドッキングした。
シャトルから浮遊ドック内では、いわゆるツナギの作業服で過ごす。皆ツナギだから、身分とか立場とかはあまり気にしない。ドックの責任者のモーリーも、巨大プロジェクトを背負っている割には気さくだ。
「エドガー、待ってたよ。君たちの設計は、基本的には素晴らしい」
モーリーと握手しながら、俺は答えた。
「基本的にはってことは、細かいところは直さないといけないってことだな」
笑顔のモーリーは力強く手を握り、こう言った。
「宇宙人にしかわからんところは、宇宙人に聞け。これは、年単位で宇宙にいないとわからない。あの、玉のなかにいる宇宙人だけがわかることがあるんだ」
「玉って、さっき外で作業してたケントとかのことか?」
「そうだ。あの宇宙人たちだ」
会議ルームには、外の様子が写っているモニタがあった。マスドライバの射出口付近の様子が写っている。そこには、銀色の球体が漂っていた。
「あの球体の中はどうなって」
「一つの衛星になっているんだ。全て自己完結。エネルギーも代謝も排泄物も内部で循環している。太陽エネルギーを使って、すべてまかなっている。食べ物さえ、内部で生産しているんだ。」
「え、てことは、あの球体から出てこないって事?」
「そうなんだ、あそこの中で一生過ごす奴がほとんどなんだよ。このエリアの作業ポッドは」
知らなかった。作業ポッドの存在は知っていたが、まさか降りないとは。
「だから、宇宙人って呼んでるんだ」
浮遊ドックとマスドライバを、外から見ることにする。球体型移動ポッドに乗って、外部作業に出る。けん引は、ナオミの緑のポッドに任せる。マスドライバの射出口が見えてきた。射出ラインに乗らないように、迂回しながら接近する。
「ナオミ、君はその球体に乗って何年くらいなんだ?」
「乗るってどういうこと?」
「その、中に乗っているんだろう?」
「わからない。私はこのポッドそのものだから。入るってどういうことなの?」
「君も僕たちと同じ、人類なんだよ。人のかたちをしているだろ」
「あなた方の形はわかる。でも私は球形なの。違うの」
俺は、設計技師のセルゲイと顔を見合わせた。どうにも理解できないという顔を、お互いにしていたはずだ。
マスドライバの射出口に接触した。射出の瞬間を見るためだ。ポッド内に警告音が響く。
「カウントダウン中。10…9…8…」
ポッドが振動する。ナオミはこのポッドの影に隠れている。射出口が苦手だという。
「2…1…」
ポッドの外の振動が細かくなったなと思った瞬間。
白
記憶が途切れている。白の後は、さっきの呼びかけまで何も覚えていない。
たぶん、マスドライバの射出口に、射出物体が接触して、爆発事故が起きたのだろう。
「ストライキを継続中だ。我々の存在を認可してもらいたい」
ケントの声が続けている。
「存在の認可って、人類として権利が認められているだろう」
「いや、生物学的な人類ではないのだ。我々は、このポッドなのだ。このポッドを含めた、我々の存在を認めてもらいたい。」
「認めるという事はどういうことなんだ?」
「エドガーが怪我した事故で、ナオミとトムがけがをした」
「そうだろうな、俺が大けがだったんだから」
「地球連邦は、ナオミの怪我を直すのに、ポッドからナオミを降ろそうとしたんだ」
「けがを治すんだから、普通じゃないのか」
「いや、直るまで戻さないし、定期的にポッドから降りろと言ってきた」
「ポッドのオペレータではなく、人類として生活しろと言うんだからありがたいじゃないか」
「最新のポッドは、内部の人間と接合していて、皮膚や内臓のアシストもしている。循環器系も内部にポンプがあって、その補助が受けられる。簡単な治療も、投薬も、組織の接着さえできる。」
「て、ことは、降りないんじゃなくて、降りられないってことじゃ」
「ああ、すでに我々は、歩けない。骨は極めて弱いし、筋肉も動作信号が出せる程度しか力が無い。しかし、機械のメンテナンスを怠らなければ、200年くらいは作業が可能だ。」
「君たちは、新しい人種なのか」
「SEは、ポッドとして生物種に登録してもらいたいんだ」
「登録する必要があるのか?」
「これは、尊厳の問題だ。我々は、人類だけど人類じゃない。新しい生物種なんだ。それを認めてもらいたいんだよ」
宇宙空間で怪我をして、こんなに哲学的な話になるとは思わなかった。
「エドガーをこの救護球体で養生させているのにも、意味があるんだ。」
「どういうことだ」
「他の技術者たちは、火傷がほとんどなかったから、そのまま浮遊ドックに戻せたんだ。君は、皮膚の損傷がひどく、宇宙空間を漂い過ぎた。近くの救護球体に押し込むのがやっとだった。」
「ありがとう。おかげで今生きているということだ」
「君の皮膚は、今、全て存在していない。」
「え、どうなってるんだ」
「救護球体中で再生作業中だが、皮膚シートは時間がかかる。その間は、我々と同じ環境になっている」
「ケントたちと同じって」
「皮膚の替わりに球体が皮膚になっている。感覚も、体液の保護も温度調節も。」
「わからないんだが」
「私が、その球体に触れるとわかるはずだ」
急に、二の腕を抓られた。次には、足の裏をくすぐられている。
「この球体が、君なんだよ」
「はは、船殻だけど船殻じゃないのか」
「我々の気分が味わえたかな。この宇宙港を自由自在に飛び回れるようになると、病み付きになるぞ」
「新人類か、宇宙人か。皮膚が再生されるまで、ゆるい人質って訳なんだ」
「悪いが、ポッドから降りる気はないんでね」
「では、命の恩人のお役にたてるかどうか。回線を繋いでくれないか、救護球体君。いや、今はエドガーそのものか。」
「回線を繋ぐあるね」
「救護球体1382に一言だけ言っておく、俺の皮膚になるんだから、これは知っておいてくれ。俺の名前は、江戸川なんだよ」
「わかるあるね、エドガー」
「わかってんのかなぁ」
※中途半端なのは、長編用の断片のパッチワークだからだったり。
※枯れ木も山のにぎわいってことで、これで参加しますわ。
わかった!
わかった!
わかった!
講評後日とか後回しとかにしちゃってる質問者もよくないのですが。
昔は、締め切り時刻は張り付いてみてましたからねえ。ある程度。
ほんとは何日の何時締め切りでそこから一気に感想つけて終了っていう形が望ましいのかも知れませんが、時代の流れなのかなあと。あと回答オープンされてしまうっていうのも影響ありそう。
かといって、ライオンさんのクイズみたいに回答時間を絞ると参加者が一層減りそうで怖いですし。
ゆるーくだらだら開催するのもありなのかなあとか。
わたしとしては、コメント欄が盛り上がってくれるのは嬉しいので、参加後のコメントは大歓迎なのですが。
でもレスは遅れてしまうだろうという。
ポイントとご意見ありがとうです!(๑・ .̫ ・๑)
あと私にかきつばた賞つけるの忘れてませんか? ませんか??←
”そんなのはSFじゃねぇ””じゃあSFってなんなんだ”というフレーズが、
グルグル。
まとまらないので、書きかけ長編をごそごそと開くと、
「この球体の外殻は、外殻ではなくて、皮膚なのだ」
「これは、船だけど、船じゃなく、新しい宇宙人ということだ」
というセリフが有って、”をを、これでいいんじゃね”というところ。
設定はいじくりまわしているので、結構濃密なのですが、ストーリーがまだまだ定まっていません。
そこで、設定だけで話を転がしてみました。主人公の江戸川が宇宙人と地球人のハーフ的な存在になっちゃう話なんですけど、まだまだ冒頭で、この先どうなるのか見当もつかず。
でも、勢いで書いてみて、直しどころが見つかったという感じです。
(かきつばたを何に利用してるんだって話ですが)
ってジジィの私がビビッてどうするですが。
かきつばたには新しい風かもです。
たしかに、ケータイ小説っぽいな。
たけじんさんいつもありがとうございます〜〜₍₍ ( ๑॔˃̶◡ ˂̶๑॓)◞♡
あとは、参加しなかった人たちが参加しなかったの弁を語ってくれたりすると…!
今回私のは、一応ちゃんと保護者のみなさまにも怒られないように
言葉遣いとか気をつけたんですけど…。
今度はもっとマイルドにして、清く正しく美しいかきつばた賞を目指そう!
自分の質問の踏み台に使える、と思ったんですが、肝心のストーリーがまとまらなくて。
参加する気は、いつも満々なんですが orz
いい感じの☆もありがとうございます! わーいわーい。
面白いし勉強になります。