国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)の高島明彦部長らの研究グループが16日発表した。
マウスに投与した実験で脳機能低下の抑制が見られた。治療薬の開発につながる可能性があるという。
認知症で最も多いアルツハイマー型認知症では、神経細胞内のたんぱく質の一つ
「タウ」が異常な状態となって結合し、毒性を持つことで神経細胞が死滅すると考えられている。
発表によると、グループは、理化学研究所が保有する数多くの天然化合物の中から、
タウの結合を防ぐ化合物を探索。有望な3種類の化合物を見つけた。
このうち一つの化合物が入った既存薬「イソプロテレノール」をタウが多いマウスに3か月間投与したところ、
タウが結合せず、異常な行動を抑える様子が観察できたという。この薬は不整脈の治療などに使われている。
http://www.yomiuri.co.jp/science/20151216-OYT1T50113.html より
そこで質問です。
①イソプロテレノールは、肺疾患の患者などに処方される薬ですが、この薬を処方されている高齢者には認知症は少ないのでしょうか?
英語圏の論文までざっと検索しましたが、私が調べた限りでは、イソプロテレノールを投与されている高齢者に認知症が少ないという発表は見つかりませんでした。
しかし、私の分析が正しければ、国立長寿医療研究センターの研究グループが使用している薬剤は、市販の製剤には含まれていないか、純粋な形では含まれていない成分ですので、現在投与されている人の認知症率はこの研究に直接の関係はない筈です。
国立長寿医療研究センターから出された、平成26年6月13日付けの文部科学省科研費の報告書が PDF で読めます。
https://kaken.nii.ac.jp/pdf/2013/seika/CFZ19_4/83903/23790313seika.pdf
これの5ページ目に以下のような記述があります。
ISO はβアドレナジックアゴニストとして広く知られており、心機能亢進剤として臨床応用されている。従って、ISO はタウ凝集標的薬剤としては特異性の面で改善できる可能性が残されている。そこで、ISO の光学異性体の1つでβアドレナジック作用がほぼない D-ISO を単離し、タウ凝集阻害作用を検討した。
ここで ISO はイソプロテレノールの事であり、彼らが使用しているのはイソプロテレノールの 光学異性体 の D体であると推測されます。
一方、市販されているイソプロテレノール製剤と光学異性体の構成をまとめると、以下の表になります。
製品名 | 剤型 | 光学異性体 |
---|---|---|
プロタノールS錠 | 錠剤 | D, L |
アスプール液 | 吸入 | D, L |
プロタノール-L注 | 注射 | L |
上記の引用にもあるように、D体は心臓や気管支に対する作用が殆どないので、D体だけの製品というのは存在しません。
不整脈や喘息のためのお薬ですから当然ですね。
注射薬に至っては、効果を高めるために L体だけの製品になっています。
D体だけの製剤が作れれば、心臓への副作用などの悪影響を考えずに高濃度の薬を投与できる事になります。
今まで邪魔者扱いされていた D-イソプロテレノールに着目した研究であると推測する次第です。