お題:「侵略」
という要素を含むショートストーリーを回答してください。
初心者のかたも歓迎です。
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・〆切前の加筆・修正はご自由になさってください。大幅に変えた場合はコメント欄などで通知してくださるとありがたいです。
・字数制限は設けません。読みやすく、内容に見合った長さにしてください。
・私個人の好みを前面に押し出した感想(場合によっては講評っぽい何か)を書きます。そんなのいらん、という場合はあらかじめおっしゃってください。
〆切:2017/10/2(月)の予定。
『すべてがNになる』
はじまりはバスだった。
9月1日。その朝も僕はいつも通り、駅へと向かうバスを待っていた。1学期までと同じ時間に到着したそのバスは、1学期までと同じ青色をしていた。これからまた、1学期と同じ単調な往復が始まる。
でもそのバスは1学期までとはすこし違う形をしていた。最初は、ラッピングカーか何かなのだと思った。
乗り込んでみて、その違いに気がついた。乗車口の横に、見慣れぬ猫のキャラクターのプリント。
僕の前に並んでいたサラリーマンは、慣れた手つきでスマホをその猫の額にかざした。
「ニャオン!」
という間抜けな音が車内にこだました。なんと、それがあれば乗車券も定期券をいらないらしい。
さらに驚きなのは、びっくりしていたのは僕だけだということだった。
夏休み、僕がひきこもっている間にも、この世界は変化していた。
* *
「ってわけよ! 最先端じゃね?」
部室での僕の熱弁を、シマネは「去年からあるじゃん」と一蹴した。どうやら都会の方だと、ずっと前から普及していたらしい。全然知らなかった。
シマネコウダイは僕と同じクラスで同じ部活。高校生活を生き抜くために、切れ者の友だちは実にありがたい。
僕はシマネのルーターのWi-Fiに勝手に乗って、ニャオンアプリを検索してみた。すると簡単に見つかった。レビューを見てみる。☆2.7。
「電車に乗ろうと思ったら残高不足でエラーとか恥かいた」
「俺のスマホに対応してない。最悪」
「使ってないのにお金が抜かれる。だから中韓アプリは危険」
なるほど、って僕は思った。だいたライフラインたるアプリはレビューの評判が悪いものなのだ(ここなどを参照)。予感は確信に変わった。
これは最高のアプリだ。
インストールもすぐだったし、シマネに教わった設定も大したことなくて、あとは帰りのバスで試してみるばかりとなった。
バスに並ぶ列。みんなスマホをいじったり、イヤホンで何かを聴いていたりする。この中で、今日からニャオンを使える選ばれし者は、この僕だけなのだ。神様がひとりひとりの属性をデータベースで管理しているとしたら、今日僕のニャオンのマスはNOからYESに変わったのだ。そう思うと行きの自分よりも3cmぐらい身長が伸びた気がした。
時間通りにバスはやってきて、僕は入口の猫ステッカーにスマホをかざした。
「ニャオン!」
こうして僕のスマホにも、電子マネー「ニャオン」が上陸したのだ。
それからはあっという間だった。9月半ばまでの間に、ほとんどの住民はニャオンでバスに乗車するようになった。バスに乗って隣町の駅まで出ないことには、この街からはどこへも行けないのだ。バスはつまりライフラインのひとつだった。
そのライフラインの中に、ニャオンという新しいメンバーが加わった、ということだ。
やったぜ。まどかに自慢しよ。
* *
「なあ、ニャオンって知ってるか? 今めっちゃ流行ってるんだぜ」
僕がいくら熱弁しても、まどかはスマホから顔も上げない。せっかくこの街からろくに出ることもないまどかに、世間の流行を教えて差し上げようとしているのに。
ところが画面を覗き見たらまどかはなんとニュースを英語で見ていた。まどかは画面から目を離さないまま言った。
「知ってるよ。ママがパートしてるお弁当屋さんでも使えるし」
「そ、そうなの?」
公民館の吹き抜けに、僕の声が変に響いた。世間知らずはこっちの方だった。
「バスでも電車でも使えるし、駅前ならゲーセンでも本屋さんでも、駅ビルに入ってるお店ならだいたい使えるよね」
「バスなら知ってるよ」
「バスだけかよ」
まどかは隣の家に住む中3。僕のいっこ下だ。
YESかNOかしかなくて、中途半端がないまどかは、勉強をすればちゃんと吸収するし、部活もずっとレギュラーらしい。
そんなまどかに僕が勉強を教えてあげることになってしまった流れはよくわからない。去年、僕がこの街から都会の方に出て高校に進学したのは珍しかったらしい。いつの間にか親たちの話が盛り上がって、土曜日の午後は僕がまどかの家庭教師ということになってしまっている。
だから今こうして公民館にいるわけなんだけど、ぶっちゃけまどかは僕より優秀だった。勝手に勉強するまどかに、僕が教えるようなことなんか正直あんまりない。
だからこうしていつもおしゃべりばっかりしている。しかしそれでも本人は構わないらしい。
「でもさー、なんでもニャオンになるとか、つまんないよねぇ」
ってまどかは言う。
「そんなことないっしょ。便利だよ、小銭出さなくて済むし、両替もいらないし、早いし」
「それぜんぶバスの話じゃん」
「バスでしか使ったことねぇんだよぅ」
「現金はいいよ~。無駄遣いしなくていいし、ちゃんと持っておけば消えたり盗られたりしないし」
「ニャオンだって盗られたりしないでしょ」
「ほんと? あたし信じない」
「そんなことより勉強、勉強」
「どっちが話ふってきたんだか」
そう言いつつも、ちゃんと数学のワークを開くまどか、家庭教師の生徒としては本当にいい。ラクだ。当たりだ。
家庭教師としては、って自分で言ってから、僕はなんだか急にわからなくなった。
自分とまどかの間に、他の「として」なんてない。
ないくせに。
* *
3年生が引退すると、部活は1年と2年だけになった。LINEでは「DK男子卓球部2017年[現役]」っていう新しいグループができて、今までおとなしかった2年生がはっきりと態度を変えるようになった。部の活動に関係ないような話も増えた。内輪の話もグルチャでたくさん届くようになって、スマホの通知欄が崩壊した。
金曜日の夜、眠ろうとしたとき、2年生の先輩からこんなLINEが届いた。
「ニャオンのコード、友だちに送るやりかた誰か知らん?」
ここでいう「誰か」っていうのは、要は1年生の誰か、ということだ。
「わかります!」
反応したのは、僕と同じ1年生のバリーだった。米屋の息子でわがままバディな体型だから最初はふざけてバリーと呼んでいたけど、今や本人がそれをLINEのスクリーンネームにしている。
「はよ!」っていうスタンプ。バリーは手順を割と手際よく説明していった。僕はそれを見守っていた。先輩やバリーの目線からは、たくさんの既読が増えていくのがリアタイで見えたに違いない。
誰がどう考えても、その手順でつまづくことなどないはずだった。ニャオンのコード送信など簡単なのだ。でも先輩は手こずっているようなリアクションをする。
「スクショ送って」
と先輩は言った。
その直後に、ニャオンのコードが書かれた画像が現れた。
あれっ?と僕は思った。またスマホが鳴った。今度はグルチャではない。シマネからのこちゃだった。
「これヤバくね」
とシマネ。
僕が返信に迷っている間に、シマネは手際よく、僕、シマネ、バリーの3人のグルチャを作った。特に仲良くはなかったけど、ここは同じ1年生同士だから、ってことらしい。
3人だけのグルチャで、シマネは言った。
シマネ:「バリー、ニャオンの残高教えて」
バリー:「えっと、516円」
シマネ:「最近ニャオン使った履歴出して」
バリー:「えっと、4分前。150円」
バリー:「あれ、やっぱおかしい」
シマネ:「バリーが部活のグルチャに上げたコードで、誰かが買い物したってことだ」
バリー:「まじで…」
バリー:「先輩…?」
シマネ:「先輩とは限らない。っていうか、たぶん誰だか突き止められないと思う。あのコードがあれば、誰でも買い物できるから」
バリー:「そうなのか…油断してた」
シマネ:「たぶん今回は、諦めるしかないと思う。次から、ちゃんと自衛して」
シマネ:「俺も、できることがあったら手伝うから」
自分「わかったけど、どうして150円しか使われなかったんだろう」
シマネ:「それはね、」
シマネ:「もし残高が足りなかったら、バリーに警告がいくから」
シマネ:「残高はふつうわかんないから、少額で試してみたんだろう」
シマネ:「それと、1000円を超えると決済音がニャニャオンになって、10000円を超えるとニャオーーンになるだろ」
シマネ:「たしかそれに応じて、段階的にセキュリティがかかるんだよな」
シマネ:「どの点でもその場でバレにくいのは1000円以下だった」
http://free-illustrations.gatag.net/2013/07/10/190000.html
著作者:Vector Graphics
質問画像は気になさらないでください。ただの自己満足です。作品に絡める必要は全くありません。むしろ離れてくださるほうが。
http://sanpo-movie.jp/
https://kakuyomu.jp/works/1177354054884143785
↑暇で暇でどうしようもない人向け
ずーーっと静まり返ってて、いったいあたしは何をやらかしたんだかどうしたものかと思い悩んでおりましたが、作品が集まって感謝しきりです。
寄稿してくださった皆様がた、素晴らしい作品を本当にありがとうございます。心よりお礼申し上げます。
ベストアンサーはNo.5 sokyoさんに。ポイントは原則に則り均等配分としました。
参加&ウォッチしてくださった皆様、楽しんでくださいましたでしょうか。ここをこうすればいいよ!てなご意見があればぜひご指摘くださいませ。
ごぶさたしてます。私は元気にやってます! 久しぶりにこんなに文章書いた…。1年2ヶ月ぶりだってさ……。
あのひとやあのひとからまだスターいただいていないので、待ってますね!!
ですから、そんな視点のSF侵略物を書きたかったわけで。
しかも、主人公が何者なのか、前半では見当もつかないという方針。
ゆえに、地の文が主人公の視点になるので、主人公の表層に浮かぶ「説明ではないつぶやき」を綴っていく。
そこには、意識の二層ほど下にある主人公が異星人である部分や、恵子先生がどのように操られているかの推測などが隠されている。
自然と、語りすぎないという足かせを履かせるので、削りすぎの部分が増えちゃいました。
コーヒーが熱くなるのと軟着陸は、主人公諸星が超能力が使えるという表現と、恵子先生がバナナクリップにて守られているという表現なんです。が、削りすぎてなんだかわからなくなってますね。コーヒー冷えるほどの時間経過じゃないし。このシーンは、大友克洋の「宇宙パトロールシゲマ」の火星人・金星人たちの自己紹介ともいえる超能力発現シーンへのオマージュになっています。宇宙パトロールシゲマのように異星人たちが我々の生活に溶け込んでいたら、宇宙人がなぜ来ないのか(来ていないと思っているのか)がわかるわけで。
黄色いジャンパーを着た風来坊諸星ダンと、菱見百合子似の恵子先生との束の間の遭遇という、ウルトラセブン教の信者としてはベスト設定を使ってしまいました。
そして、セブン放送から50年、
「このお話は遠い遠い未来の物語なのです…。え、何故ですって?…我々人類は今、宇宙人に狙われるほど、お互いを信頼してはいませんから…」
狙われた”街”は、まだ存在していないようですね。ただ、タバコを買う人は壊滅状態ですが。
sokyoさん、お久しぶりです。なんだか、イオンに行きにくくなりそうです。私の財布にも、ワオンがいるので。(え?イヌ派は大丈夫なの?)
→ ビットコインでお香典って、だれかやりそうだよなぁ。
たけじんさんの、説明しすぎない研ぎ澄まされた文章は大好きなので、これからもぜひ貫いてほしいです。けど、
>>
僕は、恵子先生の横に置いてあるコーヒーカップに視線を投げた。
<<
のところに、僕が意図的にカップに超常的な何らかの操作をしたことを暗示する文言をちょこっと付け加えても、説明しすぎにはならない気がします。恵子先生(=宇宙人)の反応を試すためにしたと書いてもギリ大丈夫かなと。いかがでしょうか。
いぬ派、キリン派、たぬき派、ペンギン派などはだいじょうぶ!!