下のような報告をしている方もいます。
過重労働に起因するうつ病は、抗うつ薬に比較的良く反応し、当初みられる不眠や不安焦燥感は短期間で消失する。一方、倦怠感や易疲労性は治療開始後も数ヵ月残存し、社会復帰を妨げる要因となる。こうした症状は既存の抗うつ薬では改善しにくいため、筆者は有酸素運動を促すことにより回復の促進を図っている2)。補中益気湯は、慢性疲労症候群(CFS)に効果があることが知られており3)4)、運動療法と併用することで倦怠感や易疲労性の改善を促進することが期待される。また、薬物に対する過敏性が高く抗うつ薬の服用ができない患者に対して用いることにより、回復を導く手助けとなり得る。また、うつ病の発症直後は食欲不振を呈することが多いため、スルピリドやミルタザピンなど食欲を促す抗うつ薬を用いるとともに、補中益気湯を併用することで食欲の改善を図り、うつ病の回復に必要な栄養摂取を確保することが可能となる。さらに服用回数の面からいえば、1日2回服用タイプの補中益気湯は、社会復帰後、職場での服薬に抵抗を示す患者の服薬コンプライアンスを向上させるためにも有用である。
うつ病治療において、抗うつ薬の占める役割が大きいことは言うまでもないが、それだけで全ての問題が解決するわけではない。回復段階に合わせ、十分な栄養摂取や適切な運動を行い、身体全体の回復を促す必要がある。漢方薬は不必要な鎮静をもたらすことがないため、適切な方剤を選択し併用することが治療の一助となる(表)。うつ病の本質的な症状というべき倦怠感と易疲労性に対し補中益気湯を用いることは、有益な併用療法であるといえる。