http://www.gizmodo.jp/2008/12/213m1.html
上の記事を読んでとてもテンションが上がってしまったので、こういった舞台、状況設定をモチーフとした小説が読みたくなりました。
応募条件は「地下水路を舞台にしていること」です。「地下」に存在する「水の流れる道」であれば、どのような場所を舞台にしても構いません。下水道でも上水道でも、水没した地下道でも、なんでも可です。
分量は200〜1000字程度。〆切は12/20まで、とします。
一番僕好みの小説を書いてくれた方に200ポイント差し上げます。
糞…どうしてこんな事に…。
俺は臭い下水道を這って進んでいた。
中腰になるのも不可能なほど細いやつだ。
臭い、汚い、冷たいの三拍子揃っているこの狭い空間の中で、俺は自分の運の悪さを呪っていた。
始まりは、些細なことだった。
ほんの数時間前の話だ。
丁度丑三つ時くらいだろう。
よくある飲酒運転って奴だ。
酒がかなり入ってかなり上機嫌になっていたおれは、あっさり事故を起こした。
川(住宅街に通っている水位の低い奴だ。)のフェンスをブチ抜いて俺の運転する乗用車は川に落ちた。
「んぁ~?何だこのポンコツ~!」
確かそんなことを怒鳴り散らしながら車を蹴り飛ばしていた。
おまけに雨まで降り出した。
「畜生~!どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがって~!」
完全に近所迷惑だったと思う。
様子を見に来た住民に石を投げたり、暴言を吐いたりしていた時、周辺住民の通報だろう。警察がやってきた。
そこでようやく事態の重大さに気付いた俺は、丁度目に付いた下水道に潜り込んだというわけだ。
前後から声が聞こえる。
多分警察だ。
このままだと多分挟み撃ちだ。
冗談じゃない。
おおよその位置はばれている。
果たして逃げ切れるのだろうか。
酔いは完全に覚めていた。
とにかく逃げ切ることと不安が俺の頭の中を渦巻いていた。
「…さ~ん。そこは危険です!早く出て下さ~い!」
今の声はかなり大きかった。ほんの十数メートルといったところだろう。
その時、それまで暗闇だったこの細い空洞の中に光がともった。
どうやらそこは下水道の交差点だったようだ。十字路の右側から光は差し込んでいた。
このままではすぐに見つかってしまう。
仕方なく俺は来た道を引き返そうとした。
しかし、人間は光を見ると安心するらしい。引き返そうとする俺の足取りは鈍っていた。
捕まりたくない。
そう思っていた筈の俺の心は、光を見た途端、徐々に諦めの心が支配し始めた。
もう諦めろ。
良心が俺に囁く。
駄目だ。何としても逃げ切るんだ。
そう自分に言い聞かせても、すぐにその心は広がって行く。
体力ももうあまり無かった。
自首しようか。
その考えが浮かびはじめる。
もういいだろう。もともと俺が悪いんだ。
…そうだ。もうやめよう。
引き返そうとしていた俺の足は、光のほうへと向けられていた。
狭い十字路を無理やり曲がり、光のほうに向かう。
ようやく出られるんだ。長かったな。
そう思っていた俺の心は、次の瞬間にまた深い闇へと落とされた。
俺は確かに光のほうに向かっていた。
なのに一向に光にたどり着けない。
むしろ離されている位だ。
どうやら向こうが引き返しているらしい。
寒さの所為か体が動かない。
「早く!戻ってきてください!」
そんな事言ったって、お前が早すぎるんだろ。
ちょっと位待ったっていいじゃないか。
こちとらずっとこの状態だぞ。
「早く!早く!」
前から聞こえるその声に、俺は苛立ちを覚えていた。
何だよ。俺を捕まえるんじゃないのかよ。
そんなことを思っていると、二十メートルくらい先に出口が見えてきた。
光はすぐに上がっていった。
待てよ。まだ俺が居るだろう。
声を上げようと口を開けた瞬間。
口に水が飛び込んだ。
「?!」
何が起こったのか分からずに俺は咳き込む。
水位が上がっていた。
もはや前に進むことは出来ない。
やがて、俺は細い下水道一杯になった水に流され、力尽きた。
勢いで書いたら何か携帯小説みたいになってしまったな。
千文字超えてそうだし。
バッドエンドだし。
すみません。
ずっと上の方にある四角い穴のことを、俺がガキの頃にいた年寄りたちは『空』と呼んでいた。
それが他の穴と違うのは、青かったり黒かったり、ときどきぴかぴかと光ものが見えることだったが、
俺がそういうと、俺の相棒は「そんなものは珍しくもない。燐が燃えたり、虫が光れば、どの穴だって
色が変わったり、光るものがあったりするだろ?」と、特に興味もなさそうに淡々と足下の泥水をくみ
上げる作業を続けていた。
俺たちの『仕事』はこの河で泥水をくみ上げ、十フロアほど上にある街まで売りに行くことだ。
子どもは生まれて、荷物を持ってあるけるようになると、水を汲んで上のフロアへ運ぶ仕事をするよう
になる。より上のフロアへ持って行くほど、水は「高く売れる」。「高く売れる」というのは、大量の
食い物と交換してもらえる、という意味で、どうしてそれを「売れる」と言うのかは、年寄りたちも知
らなかった。
俺が子どもの頃には、フロアのずっと上の方にある、あの『空』のところまで水を売りにいったら、
持ちきれないほどの食い物を持って帰れるんじゃないかと思っていた。だが、大人になって、二十フ
ロア分の階段をあがってみても『空』の位置はまるで変わらなかった。
俺のガキは、まだ水を売りにいけない。
だが、もう少しすれば、泥水をくみ取ることはできるようになるだろう。
そうしたら、俺のバケツは、たぶん俺のガキのものになる。
俺は少し前まで、三十フロア上まで水を運ぶことができた。二十フロア上がるのがきつくなってきたのは、
つい最近のことだ。だが、今ではもう、十フロアが限界だ。それ以上行こうとすると、翌日に堪える。
「最近? 十フロア上で商売するようになって、もう五年ぐらいじゃないか?」
その晩、8つほど上のフロアで、酒を飲んでいたら、相棒がそう言った。
「『年』ってなんだ?」
相棒は腕時計を示して、太い針と、細い針の後ろにある数字を示した。
2108-12-13
「この一番左の数字が『年』だ。お前とは、もう二十年になる」
俺がオヤジからもらった時計には、太い針と短い針しかないが、相棒は、その時計を、
自分のオヤジから受け継いだらしい。
俺たちも、きっと自分のガキどもに、自分の持ち物を譲っていくのだろう。泥水を運んでも、
もらえるものは食い物とちょっとの酒くらいで、残るものは何もない。
酒を「舐め」終わり、相棒と別れ、階段を下り、寝床に向かう。
寝床に入る前、ふと上の方に目を向けると、四角く、青い、『空』のなかで、
なにかゴマ粒のような小さな黒い点が、『空』を横切って流れていった。
俺のガキも、階段を上って、あの『空』までたどりつくことを夢見るんだろうか。
そして、俺は、下のフロアを流れる水の音と、慣れた泥の臭いの中で眠りについた。
元テーマからずれていたら申し訳ないです。「えすえふ」っぽく。
ちゃんと改行されるか不安です。
そんな長いつきあいなら、腕時計くらい確認しろよ、と書きながら思いました。
格好いい!舞台の設定・構造がそのままストーリーに直結してるのがたまらんです。オリジナルの水路というのもいいですね
タイトル
Quiet Riot
本文
理想の火は二十年燃える。どんな国であれ、建国から二十年の内に腐敗することはない。二十年ごとに社殿を白木で建て直すという伊勢神宮の奇妙な習俗には、それなりの政治史学的根拠がある。
しかし二十年を過ぎたその後で、国を起こした原初の火は、徐々に消え始める。一斉にではなく、緩慢に。
明治二十年代初頭は紛れもなくテロルの季節だった。体の一部をもぎとられた要人たちの死体は何かを象徴しているようでもあったが、その造形に、人間的な意志を感じとれる者はいなかった。
それもそのはずと言うべきか。逓信省燈台局内に設けられた調査班の言によれば、初期の実行犯は巨大な鰐だった。正確に述べるなら、「地中を泳ぐ鰐のようなもの」である。それがそのまま省の結論となった。当然、逓信省は丸ごと正気を疑われた。
柴林太郎に加え、当時来日中だったアルス・マグナス・エリクソン。日本初の工学博士と世界有数の技術者が出した新たな調査結果でさえ、半信半疑の域を越えて受けとられることはなかった。神田下水の各所を食い破るように穿たれた横穴竪穴、秘法じみた手順で乾板に写し出された地中の像。そんな「証拠」の解釈について、まともな議論の場を設定できるような政府など、世界中のどこを探しても無い時代だ。
歴史の作り手を自任するがゆえに「何が起こったか」を確定することに鈍重な政府。「祟り」という言葉を核にして、瞬時に結晶化する民意。両者の間に生じた時間的な断絶を縫うようにテロルは進む。
四谷で遊ぶ元閣僚の右半身は消えた。恥も外聞も公務も捨て牛込の妾宅に隠れ住んだ高級官僚の頭部はもがれた。出血多量で一時危篤となった銀行家を刺したのは、被害者いわく「鰐の顔に変じた息子」だった。当の息子の失踪により、親子が再び顔を合わせることは以後無かった。母の述懐によれば、息子は父親似の容姿であったという。
「鰐のようなもの」が蒔いたテロルの種は、冬に大輪の花を咲かせる。
言葉にならない不満、口に出せない欲、明滅する厭世観。そのようなものを腹の底に、溢れだしそうなほど抱えていた者達は、新たな理念を構築するより、問答無用の鰐になることを選んだ。出合い頭に殺し、死を想うことなく処刑され、検挙の手を逃れた者は、のっそりと地下へ潜った。抵抗の拠点ではなく、睡眠の場として地下道を求めた。下水に浸り、寒い日には流れを枕に死んでいた。
東京の各所に空いた穴から地下水に降り込む雪。地上の国へ何も遺すことなくやがては消えた彼ら静かな暴徒たちこそ近代最先端のテロリストであったというのが私の持論だが、いまだに理解は得られていない。
後記
タイトルは頭脳警察の曲からいただきましたが、私の誠意不足のため、原曲に忠実な小説化とはなりませんでした。望むところです。
後頭部をガツンといかれた気分です。Underground Resistanceですね。最後の方を読みながら浮かんでくる映像が何とも格好いいです。
「シット!」
無線からスティーブの声が聞こえた。
今、スティーブと僕は地下水路の補修作業に当たっている。今日のスケジュールは、第百四十四分岐水路の亀裂補修の任務だ。名前の通り分岐水路は、基幹水路から各方面へ水を分ける分岐点にあたる。大口径水管から狭い口径にかわるため、その付近は水流の流れが速く複雑になっている。
ちょうどスティーブは、境目の下部にアンカーを取り付けて作業していた。僕は、上部の亀裂を修復しいる。上部から下を見ると薄暗い中にわずかに明かりの点が見える。スティーブのヘッドライトの明かりだ。流された訳ではないらしい。
「大丈夫か。何かあったか?」
無線に呼びかけた。水中での事故の怖さは知っている。それだけに緊張が走った。
「・・・・だ」
ダイバースーツを着ていると音が籠もり聞き取りにくい。
「よく聞こえない。もう一度言ってくれ」
「だから、屁をこいちまったんだ。スーツの下から臭いがあがってきやがった」
一気に体の緊張が解けた。スティーブの口の悪さと気ままさは作業チームの中で一番だ。おそらく、地上でも彼にかなう相手は少ないだろう。
僕は、わざとシリアスな声で無線に答えた。
「大事態だ。すぐに汚染アラートを出すんだ」
緊張した声で早口でスティーブに告げる。
「よく聞けよ。屁をこいたんだ。」
「だから、NY中の水にスティーブの屁が混じる可能性がある!すぐにアラートを出すんだ」
無線から笑い声が破裂する。
「もし、スーツから漏れても心配すんな。俺の屁は、すげーいい匂いだし、体にいいんだよ」
「二人とも、無駄口はやめて早く作業を続けてくれ」
マイクだ。彼は、ステーションでモニタリングしている。
リーダーのスティーブ。サブリーダのマイク。そして自分。
一ヶ月近く、仕事も私生活も一緒に過ごす。仕事は地下水路、私生活はガスタンク状の密室空間一つ(ダイバーたちはダイビングベルと呼んでいる)のためほとんどプライベートが無い。友人には、頭が狂いそうだと言われるが、慣れたためか性格かまったく気にならない。
もちろん喧嘩することもある。でも、仲が良いから出来ることだし、このチームになって3年近く経つが誰もチーム換えの希望をしていない。所属するGDS社の中では最長チームだ。
本当は、スティーブとマイクともう一人のチームだったが、その一人が事故で亡くなってしまい、ちょうど配属待ちだった僕にスティーブから声がかかりこのチームに入った。
僕は、このチームが大好きだ。
--------------------------------
記事中のダイバーたちの様子を、想像して書いてみました。
きっと、特殊空間で作業する強者たちはこのぐらいの乗りがありそうな気がします。
ハリウッド映画の一場面のようでした。こういう風に記事に載ってたNYの地下水道を文章化したものも読みたかったのです。ありがとうございました。
小川一水の「群青神殿」の冒頭が、お好みのシチュエーションに近いように思います。
潜水艇で深海に長時間潜って、海中の新資源を探査するお話です。
(途中から路線が変わってきますが……)
ただ、2002年発行な上に、出版社が故・朝日ソノラマなので
新刊で見つけるのはむずかしいかもしれません。
ありがとうございます。少し探してみます。どうでもいいんですが、「コインロッカーベイビーズ」で沖縄の海に潜ってダチュラを探している最中にイルカに襲われるシーンがあるんですが、あそこが凄い好きだったのを思い出しました。
グルバビッツァの盲抗
どうも、どうも。よくいらっしゃいました。しかしまあこんな所、どうやって見つけたんですか?あ、改修するんですか。それで水路調査をされていたと、なるほど。え、盲腸みたいな縦穴ですって?そんな役立たずみたいな事おっしゃらないでくださいよ、まあ事実ですけど。この水路を設計された技師さんによれば、なんでも当初はこの先にバルブを設ける予定だったので、水撃作用を開放するためにこの縦穴を掘ったんだと。私 -この小部屋ですが- は機械室になる予定だったんですが、先に述べたバルブの取り付け位置が変わったのでご覧の通り、がらんどうって訳です。
しかし鼠だって見向きもしない私ですが、お客さんがいないこともないんです。そちらの扉、向こうはもう土かぶりですがなぜかそこから入ってくる方がいるんです。彼はサッカー選手だったんですが、「グルバビッツァのヨハン・シュトラウス」なんて呼ばれてましたね。なにか決断する時はよくここにいらしてました。大学を辞めてサッカーの道に進む時、フランスに行く前、監督のオファーを受けた時、じっと床の上で膝をかかえて水路を見つめていました。まあこんな暗くちゃなにも見えませんが。
ところで例のドンパチやっていた時、彼がいきなり入ってきたのにはびっくりしました。ご存じの通り、あの頃はこの街と外との行き来はとても困難でしたし、なにより彼はギリシャで働いていましたから。彼が尻を濡らしながらじっとしていると、やがて扉が開いて顔をみせたのは女の人でした。女性は肩がふれるかふれないかくらいの間隔で彼の横に腰を下ろし、ふたりで足下の水の流れを見ていました。ずいぶん長いこと時間がたって、最初に彼、そして彼女が扉から出ていきました。彼の姿はそれから見ていません。
旦那はご存じないでしょうが、ここはひとりしか入っちゃいけないんです。ふたりがここで時を過ごすっていうのは、夢の中に他人が入ってくるようなもんで不作法なことですからね。私の見立てだと旦那はこの縦穴を開放して点検口として使うのでしょうが、外の光に照らされる事によって私の役割も終わります。私は私でなくなりますが、それはふたりを受け入れた時から決まっていたことです。もちろん私が決めたことです。
あなたはか細い水の流れを足元に感じつつ、両腕を満足に広げられない暗がりの中を前進している。
鼻をつくのは、戦時中防空壕に凝集された生活臭と、かつての溜池から漏れ出した汚水の錆とも甘酸っぱい腐臭とも取れる臭気。
短編小説のネタにと郷土史を漁り出掛けた先、歴史の重みと傲慢なるリゾート開発の煽りで開けた陥没に巻き込まれたあなたは、己がまだ動けるという事実だけを頼りに、負傷した箇所も確かめられぬ暗黒を漠々と行く。
伝承。民話の段階で耳にした話では、この地には雛袋を流す習慣があるそうだ。それは戦乱の時代、若くして駆り出され無念のうち死んだ多くの者へ寄り添う人形という形ではじまり、やがて欧州の説話や風俗と混沌と混ざり合い、船の形をした水袋に死者の形見の品と、その死者と生きながらにして結ばれる役目を負った人を模した人形、そしてその間に儲けられるであろう子の名を記す筆を入れ川へ流すということなのだ。
悪寒。オカン。御棺。週末しがない小説を書く、それだけを楽しみに生きてきたあなたの脳裏に文字が浮かんでは霧散していく。
そもそも防空壕を発見したため商業開発を取り止めた山へ出向いたのは、現存河川の周囲ではまったく雛袋の話を聞けないためであった。平成昭和生まれは元より、生き字引的な老婆さえも「柿を食いねぇ。寒さの中で柿を食うと寒ぅくてち(し)んじまうが、いまは夏さ」と世間話に花を咲かせるだけであり、ここは現地の人が忌み嫌う地に活路ありと踏み込んだ先の顛末であるのだ。
臨兵闘者カツレツ前菜付千五百円。あなたはまだ冴えている。意識は多少朦朧としているが、出血によるショック症状又は健忘多考はない。
雛袋の説話に見られる、川を越えあちら側へ旅立つという割合ポピュラーな部分。しかし、あなたが惹かれたのは生者と死者を結ぶという点である。人形という依り代に託されてはいるが、かつては生身の人間、供物という形で儀式の中核を成していたのではないかとあなたは考えたのだ。
歩み始めは底の抜けた革靴越しに感じていた汚水の感覚も緩慢になり、纏わりつく闇からは蒸すような圧迫感が増していく。子宮回帰願望。ささくれふやけ乾き痩せ落ち血も出ぬ指先で岩を撫でると、あなたは厳格な父と寒日手を腫らす母を思い出す。
はて、いまはなんじつなんようびときはいくつなりてめしはどこ? あなたは口から出た呟きに驚く。これではキ○ではないか!
ついに耳から水音が消えた。変わりに飛び込んできた妄執、怨嗟、色情、生きている者の風習を呪う様々な時代の言語・身振り手振りの風切り音を、あなたは聴いた。
積み上げられた、どこから流れてきたかも知れぬ雛袋の山。陽も届かぬ不乾の穴で、あなたの旅は終わったのだ。
(了)
Title:流れていひ
文字数:1115
もう一編書きました。
地下水路、いいですねぇ。
《空から美少女》
*****
はっと気がついたときには足が浮いていた。
……嘘でしょう? わたし、白ウサギなんて追いかけていないのに。
不思議の国への導き手は存在しなくても、重力というものは等しくそこに存在する。彼女がわたしを下へ下へと誘うのを、九枚重ねたペティコートとフリルのパラソルが必死で引き留めていた。
やがて空中遊泳は、とても突然に、終了する。素敵な旅とは言わないけれど、到着のアナウンスくらいあってもいいんじゃないかしら?
「うわあぁっ」
いきなりジーンとした衝撃が足元から駆け上がってきて、同時に(なぜか)冷たいシャワーを浴びせられたものだから、思わず乙女らしくない声をあげてしまった……ああ、でも、シャワーの音はとても大きかったようだから、誰か居てもそんな声は聞こえてないのかも。
「うっひゃぁ!」
……居たわ、『誰か』。わたしの傍で、さっきのわたしの失態よりももっと乙女らしくない声を発している誰か。
顔に浴びた水(じゃりじゃりした細かい砂が混じってきもち悪い。その上なんだか、くさ〜い!)を拭って振り向くと……振り向こうとしたら地面が揺れてぐらついたので振り向きざまに尻餅をつくと、ロリポップ・キャンディみたいな縞のシャツを着た男の子がわたしと同じような恰好をしているのと目が合った。頭から水を被っているのまで同じ。わたしがパラソルの柄を握りしめているのとおなじように、彼は木で出来た大きなバターナイフみたいなものを両手で抱えていた。
地面の揺れが収まらないと思ったら、わたしたちは二人で座り込むのがせいいっぱいの細長いお皿のようなものに乗って、水の上に浮かんでいるようだった。これはきっと、本で見たゴンドラというものだわ。どうやら、わたしは本当に地下まで落ちてきてしまったらしい。
……なんて、まるでわたしが落ち着いて周囲を観察しているようだけど、実際にはそんなに余裕があったわけじゃない。いま思い出せるのが、そういったことだけという話。その時に思ったことなんて、あんまり慌てていたからすっかり忘れてしまっているの。
そんなパニック状態のわたしに碌なことが言えるわけもなく、その場で先に話し出したのはキャンディ・シャツの男の子の方だった。
「きみ、天上からきたんだろ?」
わたしは声を出せるほど落ち着いてなかったので、首を縦に振るジェスチュアで返事した。
「やっぱり! 天上の人はふわふわした服だからすぐわかるんだ。
あ、僕はマリオ。君の名前は?」
「アンジェラよ」
どうにか声が出せるようになったので短くそう答えた。考えてみれば一方的に喋って名前を聞き出すなんてずいぶん失礼なものだと思うけど、パニックから解放してくれたのだから感謝するべきなのかも。
落ち着いたついでに、わたしはこちらからも質問してみることにした。
「ねえマリオ、ここは地下……よね?」
「天上の人はそう言うよ」
唇を尖らせて彼は答えた。
「きみたち、上の方に自分たちの地面をつくっちゃっただろ? それ以来こっちには碌に日も当たらなくなっちゃって、まるで本家地下水道そのものさ」
*****
>地下水路を舞台にして明るい話とかハッピーエンドとか書くほうが難しいかもしれないですね。
というコメントがありましたので、地下で水道というキーワードだけ残して(曲解しまくって)挑戦してみました。
イメージ的には舞台はヴェネツィアです。あそこには地下水道もあったと思いますが、地上の上にもう一層あれば川とか運河も地下水道でしょう。たぶん。
文字数は1200ちょいと、少々オーバーしてしまいました。
……というかそもそもの話、下水道の話でテンションの上がったllppさんは、こういうふわふわした少女小説調はお好みでしょうか……?(汗)
ありがとうございます。今気が付いたんですが、地下水路を舞台にして明るい話とかハッピーエンドとか書くほうが難しいかもしれないですね。