次の客は初老のおじいさんだった。
G老「ここが悩み相談のできる喫茶店じゃな」
B美は困った顔をした。
B美「お話を伺い、お客様に合う飲み物をお勧めする喫茶店ですが」
G老は一喝した。
G老「似たようなもんじゃ!」
G老はスタスタと席に着くと話し始めた。
G老「儂の家は代々続く鰹節屋なんじゃが、売り上げが落ちてきてのう」
B美は尋ねた。
B美「なぜでしょう?」
G老は答えた。
G老「息子は『うちの鰹節は、品質は最高級で値段も安い。でも丸のまま売るからダメなんだよ。削り節にして小さなパックで売ろうよ。通販もしよう。ボタン一つで買えるサイトを作ってあげるよ?』と言うんじゃ」
B美は首をかしげた。
B美「良いアドバイスだと思いますが」
G老は首を振った。
G老「鰹節をかく手間も省くようでは世も末じゃ! 母親が鰹節をかき、味噌汁のにおいがして、家族が集まって夕食の団欒となる・・・これこそ鰹節屋の目指すものじゃろうが!」
B美はきっぱり言った。
B美「お勧めのドリンクがございます」
※小説風回答を6月26日(水)21:00-21:59に。22:00以降に締切。
「ドリンクソムリエール」というクイズや回答方法については、過去の問題を参考にしていただければと思います。
http://q.hatena.ne.jp/1349464702
http://q.hatena.ne.jp/1352060942
http://q.hatena.ne.jp/1358687537
いつものとおり、小説風回答を歓迎します。
参加予定の方は、コメント欄に参加する旨を書いていただけると嬉しいです。
コメントやトラックバック、ブックマークなどで、決してネタバレしないよーに!
G老「なんじゃ? それは?」
B美「その前にちょっとクイズを出しましょう。
鰹節を削る際に、大事なのはなんでしょう?」
G老「そりゃあ、薄さじゃよ」
B美「ひとつめのキーワードは『薄さ』。覚えておいてください。
では、鰹節を作る際に大事なのは?」
G老「いろいろあるが、原料じゃな」
B美「そうですね。原料、材料も重要ですね。
では、町にあったりなかったり、100円ぐらいを入れて気軽にボタンひとつで買えるものといえば?」
G老「自動販売機?」
B美「これで、答えは出たようなものです。これをお飲みください」
B美は乳白色の液体が注がれたコップを差し出した。
G老「なんじゃ? これはカルピス?」
B美「ええ、カルピス。といってもこれはカルピスウォーターですけど。
その昔、カルピスも売り上げが落ちて大変な時期がありました。
その危機を救ったのがこのカルピスウォーターなのです。
時代はバブル。手軽に買える自動販売機で売っている飲み物に人気が集まりました。
しかし、当時はカルピスは原液でしか発売してませんでした。
それを、手軽にボタンひとつで購入できるように、改良したのです」
G老「なんじゃ! 水で薄めただけじゃろう!」
B美「ところがどっこい。さきほどお話したキーワード。
カルピスウォーターの開発には三つの秘話があります。
ひとつは、もっとも美味しく感じられる薄さ、つまり濃度へのこだわり。
もうひとつは、そのままでは保存に向かなかったカルピスを水で割った状態で保存できるようにした改良。
最後のひとつが、美味しい水の追究です」
G老「カルピスが頑張ったのはわかるが……、それと息子の言うこととどう関係があるんじゃ?
確かに、小分けにして手軽に買えるようになれば売り上げは上がるじゃろうが……」
B美「ジジイの鰹節も同じです。
手軽に購入できるように、それでいて原料も良いものを、削り方もそれぞれの家庭で削るより、プロがこだわりをもった削り方を研究して削れば、どんな家庭でも同じ美味しいカツオ出汁が取れるようになるでしょう。
あとは、風味を損なわないための工夫ですね(窒素充填とか)」
G老「なるほど……、そういう考え方もあるのじゃろうか……。
しかし……、今から儂にもできるじゃろうか?」
B美「諦めたらそこで、試合終了ですよ」
参考:
http://www.calpis.co.jp/corporate/history/story/12.html
http://www.tbs.co.jp/gacchiri/archives/20101212/2.html
しばらくしてB美が飲み物を手にしてあらわれた。
B美「お待たせいたしました。これがお勧めのドリンクです」
G老「なにぃ、これはコーヒーじゃないか」
B美「はい、コーヒーです」
G老は少し拍子抜けだった。
G老「まぁ喫茶店だからコーヒーは定番じゃが、それにしても当たり前過ぎるんじゃ?」
B美は説明しはじめた。
B美「これはただのコーヒーではありません。“ブラックアイボリー”といって世界一高価なコーヒーです」
G老「どこが高価なんじゃ?」
B美「これはコーヒー豆を象に食べさせて、その糞から採取したコーヒー豆を使っています。よく似たものにジャコウネコの糞から採取した“コピ・ルアク”というのがありますが、こちらの方がより高価です」
G老「こりゃ驚いた!」
B美「これは手間もかかっていますが、何より発想が変わっています。お客様のように鰹節をそのまま売るのではなくて、一捻りして販売したらどうでしょう?という御提案です」
G老は納得した。
G老「そうじゃな、発想の転換か。いつまでも同じ事にこだわっていてはいかんな。硬いのは鰹節だけにしとかにゃいかんのう」
(今回はいつもより“喫茶店”を強調していたように思いました。
で喫茶店といえばコーヒー、スタスタ歩きでスタバが思い浮かびました。
母親がコーヒーを挽いて、そのにおいがして家族が集まって朝食の団欒となる・・・
というのもアリかなっと。
そして世界一硬い食べ物ともいわれている鰹節に対抗して、世界一高価なコーヒーを選択してみました。
あ、それから鰹節は、巨大な黒い牙“ブラックアイボリー”に見えなくもないですね)
MEI-ZA-YU様、最初の回答、ありがとうございます。回答に至った思考を書いていただいているのでありがたいです。それでは正解発表まで、少々、お待ちください。
MEI-ZA-YU様、いつもながら博識+検索力を生かした見事な回答、ありがとうございます。「コピ・ルアク」は知っていましたが、「ブラックアイボリー」は初めて知りました。
鰹節が「世界一硬い食べ物」というのは、今回は使わなかったのですが、面白いトリビアですよね! 「コーヒー」というのも、他にはないオリジナルな回答でした。
B美はG老の前に、透明なコップに入った緑色のドリンクを差し出した。
G老「冷茶かの?」
B美は肯いた。
G老「儂は茶にはうるさいぞ」
B美「まずは一服お召し上がりください」
G老は冷茶をすすった。
G老「うーむ。乾いた喉にしみわたるわ。……宇治茶か?」
B美は微笑んだ。
B美「京都の老舗、福寿園のお茶です」
勝ち誇ったような笑みを浮かべたG老が口を開く前に、B美が言葉を続けた。
B美「ただし、メーカーはサントリー。『伊右衛門 贅沢冷茶』ですわ」
言葉を失ったG老に、B美は隠してあったペットボトルを見せた。
B美「『水出し抹茶入り』とありますよね。『石臼挽き抹茶』を使用しているそうです」
G老「なるほど。じゃが、なぜこれが儂へのお勧めなんじゃ?」
B美「福寿園は創業寛政2年で、220年の歴史を持つ老舗です。『伊右衛門』のネーミングも、初代の福井伊右衛門にちなむもの。サントリーとコラボするに当たっては、異論も出た事でしょう」
B美はG老のしゃがれた声を真似しながら、
B美「急須に茶葉を入れる手間も省くようでは世も末じゃ! 家族が集まって夕食の団欒となった後、母親が茶を入れる・・・これこそ茶商の目指すものじゃろうが!」
G老は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
B美「それでも福寿園はサントリーとの共同開発の道を選びました。『良いお茶を一人でも多くのお客様に』という思いがあったのではないでしょうか。今や『伊右衛門』は、コンビニにおけるシェア1位です」
一息入れたB美は、G老に尋ねた。
B美「贈答品でもらった最高級の鰹節を、『カビが生えている』という理由で捨てた、という話は御存知ですか?」
G老「まさか『本枯節』の事か?何ともったいない……」
B美「台所に鰹節削り器のある家のほうが珍しい、というご時世です。伝統を守るのも大事ですが、息子さんのおっしゃるように、時代に合わせた商売の方法を取り入れてみてはいかがでしょうか。それが、『品質は最高級で値段も安い』鰹節をより多くのお客さんに届けられるやり方だと思います。この『伊右衛門』のように」
G老は肯くと、コップの贅沢冷茶を一息で飲み干した。
(了)
ポイントと高評価、ありがとうございます。
いやー、ドリンクソムリエールって、ほんっとに難しいですね。
ちなみに、コメント欄で「準正解」と書いた時に考えてたのはコーヒー系でした。
ネスカフェの香味焙煎とか、ちょっと高級なインスタントコーヒーで。
ありがとうございます。今回は出題の練り込みが甘く、「お茶」の方がより正解としてふさわしいのではないかと思いました。次回ドリンクソムリエールを出すときは、もう少し、正解を絞り込めるようにしたいです。
B美「お待たせいたしました。お客様にお薦めする飲み物はこちらです。」
B美は薄緑色の飲み物の入ったグラスをテーブルに置いた。
G老「ん?これは冷たいお茶だな。ほほぅなかなか美味しい。」
G老「これは何の飲み物なんじゃ?」
B美「ペットボトルの伊右衛門です。」
G老「これが、ペットボトルの飲み物なのか、なかなか馬鹿には出来ないのぅ。」
G老「じゃが、なぜこれをわしに?」
B美「伊右衛門はサントリーと京都の老舗、福寿園がコラボレーションして生まれた商品です。商品名「伊右衛門」は福寿園の創業者の名前に由来しています」
B美「福寿園は寛政2年創業、200年以上の歴史を誇っています。この伊右衛門の発売は、福寿園が昔ながらのやり方にこだわることなく、美味しいお茶をより多くの人に楽しんでもらいたいと考えたからこそ生まれた商品ではないでしょうか。」
B美「本来であれば、お茶も急須を使って入れる飲み方が一番美味しいと思います。ただそのためには、お湯を沸かし、急須を使い、湯飲みを温め、均等な濃さになるように、複数回に分けて注ぐ、飲んだ後は茶葉を捨て、急須、湯飲みを洗うなど非常に多くの手間がかかります。」
B美「珈琲、紅茶、ウーロン茶などなど、ライバルも増えています。また非常にやる事が多くなった現代人はゆっくりとお茶を楽しむという時間も少なくなってしまいました、古いやり方にこだわり過ぎていては、お茶を飲むという文化そのものが無くなってしまう危険性もあるのではないでしょうか?」
G老「なるほど、つまり鰹節も売り方にこだわり過ぎていては、鰹節そのものが無くなってしまうということか。」
B美「その通りです。確かにお客様のおっしゃった光景は理想かもしれません。しかしもはやそうしたものは過去の幻影にしか過ぎないのでは無いでしょうか。忙しすぎる現代人は少しでも手間を省こうとしています。」
B美「味噌汁も出汁を取ることすら最近では珍しいと思います。粉末の出汁または出汁入り味噌、お湯を注ぐだけの味噌汁、味噌汁を作ることすら絶対では無くなっています。」
B美「そうした中、鰹節をかくことにこだわっていては出汁を取るという文化すら失ってしまいます。出汁は味噌汁に限らず、日本食全般に必要なものです。たった一手間だけかもしれませんが、あらかじめ削っておけば格段に利用してくれる確率は上がると思います。」
G老「うむ・・・。息子とよく話合ってみることにするか。手軽さというのも大事なのかもしれん。」
B美「ペットボトルのお茶もコンビニでもスーパーでも買える、自販機でボタン一つで買える、何の準備もいらない、後片付けも楽という手軽さがあったからこそ、これだけ広まったのだと思います。」
B美「お茶を清涼飲料として広めたのは伊藤園ですが、当初はお茶をわざわざ買って飲む人はいないだろうと言われていたそうです。鰹節も今までに無い発想で考えれば、またより広く使われるようになる日も近いのではないでしょうか。」
おわり
takanoha様、回答ありがとうございました。B美のよどみない説明には異様に説得力がありました!! meefla様の回答もあり、よっぽど自分の解答を書き換え、「実は正解はお茶」と発表しようと思ったほどです。また「ボタン一つで買える」=「自販機」というところを拾ったのもすごい! 「後片付けも楽という手軽さ」は、こちらの回答を上回っています。「当初はお茶をわざわざ買って飲む人はいないだろうと言われていた」「鰹節も今までに無い発想で考えれば」という部分も最高です。
過分な評価ありがとうございます。カルピスソーダは全然思いつきませんでした。「薄くする」キーワードを見落としてましたね。
楽しませて頂きました。ありがとうございます。
G老「なんじゃ? それは?」
B美「その前にちょっとクイズを出しましょう。
鰹節を削る際に、大事なのはなんでしょう?」
G老「そりゃあ、薄さじゃよ」
B美「ひとつめのキーワードは『薄さ』。覚えておいてください。
では、鰹節を作る際に大事なのは?」
G老「いろいろあるが、原料じゃな」
B美「そうですね。原料、材料も重要ですね。
では、町にあったりなかったり、100円ぐらいを入れて気軽にボタンひとつで買えるものといえば?」
G老「自動販売機?」
B美「これで、答えは出たようなものです。これをお飲みください」
B美は乳白色の液体が注がれたコップを差し出した。
G老「なんじゃ? これはカルピス?」
B美「ええ、カルピス。といってもこれはカルピスウォーターですけど。
その昔、カルピスも売り上げが落ちて大変な時期がありました。
その危機を救ったのがこのカルピスウォーターなのです。
時代はバブル。手軽に買える自動販売機で売っている飲み物に人気が集まりました。
しかし、当時はカルピスは原液でしか発売してませんでした。
それを、手軽にボタンひとつで購入できるように、改良したのです」
G老「なんじゃ! 水で薄めただけじゃろう!」
B美「ところがどっこい。さきほどお話したキーワード。
カルピスウォーターの開発には三つの秘話があります。
ひとつは、もっとも美味しく感じられる薄さ、つまり濃度へのこだわり。
もうひとつは、そのままでは保存に向かなかったカルピスを水で割った状態で保存できるようにした改良。
最後のひとつが、美味しい水の追究です」
G老「カルピスが頑張ったのはわかるが……、それと息子の言うこととどう関係があるんじゃ?
確かに、小分けにして手軽に買えるようになれば売り上げは上がるじゃろうが……」
B美「ジジイの鰹節も同じです。
手軽に購入できるように、それでいて原料も良いものを、削り方もそれぞれの家庭で削るより、プロがこだわりをもった削り方を研究して削れば、どんな家庭でも同じ美味しいカツオ出汁が取れるようになるでしょう。
あとは、風味を損なわないための工夫ですね(窒素充填とか)」
G老「なるほど……、そういう考え方もあるのじゃろうか……。
しかし……、今から儂にもできるじゃろうか?」
B美「諦めたらそこで、試合終了ですよ」
参考:
http://www.calpis.co.jp/corporate/history/story/12.html
http://www.tbs.co.jp/gacchiri/archives/20101212/2.html
doumorimikan様、楽しい回答、ありがとうございます。B美がさらっと「ジジイの鰹節も同じです」と言い放っているのに大笑いしました。それでは正解発表まで、あと少し、お待ちください。
doumorimikan様、おめでとうございます。「カルピスウォーター」で正解でした! 今回は正解がいくつかあり得るとはいえ、こちらの想定した答えを誰も答えてくれないと、とても残念だったので、たいへんうれしいです。小説も軽快でたのしく読めました。
doumorimikan様、楽しい回答、ありがとうございます。B美がさらっと「ジジイの鰹節も同じです」と言い放っているのに大笑いしました。それでは正解発表まで、あと少し、お待ちください。
2013/06/26 21:32:21doumorimikan様、おめでとうございます。「カルピスウォーター」で正解でした! 今回は正解がいくつかあり得るとはいえ、こちらの想定した答えを誰も答えてくれないと、とても残念だったので、たいへんうれしいです。小説も軽快でたのしく読めました。
2013/06/26 22:05:27