彼とは二年生の時に同じクラスになって、そして、どちらともなく惹かれて、自然とつきあうようになった。なにげないメール。たわいもない電話。おもしろかったよと教えてもらった図書館の本。わたしは、彼と帰る駅までの道が大好きだった。彼はわたしの駅まで、自転車引いて送ってくれた。わたしのかばんをさりげなくカゴにいれてくれて、そうして、いつも車道側を歩いてくれる彼の優しさがわたしは大好きだった。季節は過ぎて、推薦入試が始まった。サッカー部の彼は、指定校推薦で東京のサッカーの強い大学にいくことが決まった。将来は高校で体育を教えてみたいといつかうれしそうに話してくれた。わたしは、きっと、このまま、このちいさな町に残り、となりの市の県立の看護学校に通うだろう。こうしてふたりで帰れる日ももう数えることができる日数だ。「あのさ」「えっ」彼がわたしに何かを言った。その時、ちょうど、エンジンの音の大きいバスがふたりの横を通り過ぎた。「創作はてな」です。よろしければ続きを書いてください。

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  • 終了:2006/10/20 06:30:54
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ベストアンサー

id:raingirl33 No.10

回答回数49ベストアンサー獲得回数1

ポイント25pt

「ありがとう。」「えっ?」

「これと言った意味がある訳じゃないんだけど、なんか今言いたくなった」

「・・・・・」

「なあっ、久しぶりにあの場所行こうぜ!」

「い、今からーっ!」

あー、もう!あたしの気持ち、わかってるのかなぁ?

歩道の脇にカラカラになっても踏ん張っているくっつき草。子供の頃よく投げて遊んだなあ。

思わずむしりとって、さっさと先を歩く背中に向かって投げた。

id:aoi_ringo

きれいだと思います。

ありがとうございました。

2006/10/20 06:28:09

その他の回答9件)

id:sun5sun No.1

回答回数358ベストアンサー獲得回数7

ポイント10pt

あのさ・・・の続き。

「二人が夢をかなえて、お互い、大人になって、そしてそのときは、結婚しよう。それまでは離れ離れだけど。必ず向かえにくるから・・・」

そう残して二人は自分たちの夢を追いかけ、離れた。

id:aoi_ringo

ありがとうございました。

2006/10/20 06:18:51
id:uni90210 No.2

回答回数301ベストアンサー獲得回数5

ポイント15pt

バスの排気ガスが臭かった。「排気ガスって臭いし、環境に悪いよな。皆、自転車使えばいいのにな。」「そうね、世の中、環境を悪くしている会社が注目を集め儲けて優良企業とか言われているのよね。なんかおかしいと思わない!」

id:aoi_ringo

視点がユニークですね。

ありがとうございました。

2006/10/20 06:19:38
id:hanataku No.3

回答回数198ベストアンサー獲得回数6

ポイント10pt

「将来俺たちさ・・・結婚しよう!!」

「え??」

「駄目・・かな・・?」

涙「うん!結婚しよっ!!」

そして熱いキス・・・

id:aoi_ringo

ありがとうございました。

2006/10/20 06:20:06
id:taknt No.4

回答回数13539ベストアンサー獲得回数1198

ポイント20pt

遠くに見える山に 太陽が沈むころ 彼が あの山に行こうと言った。

「あー私も行ったことがない」といったら、即決定となってしまった。

今度の日曜に行こうという約束になった。

「じゃ、またね」と手を振って 彼とは 別れた。

あの山に何があるんだろう?

家に帰ったら調べなくちゃと思いつつ ホームから眺めてた。

そして日曜となった。

約束の場所にちょっと早めについた私は キョロキョロ見渡してた。

やがて時間ちょうどに彼がやってきた。

「まった?」

「ううん、そんなに」

軽く会話を交わして 山へと向かった。

山までは バスで30分程度だ。

バス停まで 行って、しばらくしたらバスがきたので乗り込んだ。

「もうあと少しだなぁ。ここにいるのも。東京に遊びにきてくれよな」彼がそう言って

私は「うん、絶対行く」と言った。

バスが登山入り口について、二人は 降り立った。

「よしっ登るぞ!」と彼は子供っぽくはしゃいだ。

二人でがんばって山を登り二時間ぐらいで頂上に着いた。

頂上にあったベンチに座って 学校がある町を眺めた。

「東京に行っても この町を 忘れないようにしないとね」

「うん」

何にもない町だが、二人の出会いは あった。

今までを 思い出しながら町を眺めてたら 涙が出てきた。

「東京に行ってもがんばってね」

「うん、君も看護学校 がんばれよ」

私は、この日かわした約束を一生 忘れないと思った・・・。

id:aoi_ringo

すてきです。

ありがとうございました。

2006/10/20 06:21:13
id:kurupira No.5

回答回数2369ベストアンサー獲得回数10

ポイント20pt

バスが行った後、彼は何か言いたそうなそぶりを少し見てた後、「じゃあ」と言って家の方向に歩いていった。

私も少し彼の姿を見送った後、家の方向に向かった。

そして今、あれから数十年が過ぎ、私は高校の卒業アルバムを懐かしみながら見ている。

id:aoi_ringo

余韻が残りますね。

ありがとうございました。

2006/10/20 06:22:09
id:arakiseizou No.6

回答回数16ベストアンサー獲得回数0

ポイント10pt

「えっ、何なに?聞こえなかった」

「あのさ…」

「えっ?」

「あのさ、この前みんなで海いったときあったじゃん」

「うん」

「で、ダンスパーティーやったじゃん」

「うんうん。マイムマイム楽しかったね~」

「そんとき、オマエと組んだときオレ言ったじゃん」

「…?」

「そんときの答えまだ聞いてないんだけど…」

「えっ??」

その時、ちょうどまたエンジンの音の大きいバスがふたりの横を通り過ぎた。

「答え聞きたいんだけど」

「ええっ?おぼえてない、あのとき何て言ったの?」







「好きだ…大学卒業したら結婚しよう、って…」

「ええーっ、うっそー!!」

ゆかりは天にも舞い上がる気持ちであった。

ぱおんぱおん、ぶろろろろーーー

その時、ちょうど、エンジンの音のやたら大きいバイクがふたりの横を通り過ぎた。









「へへっ、うっそぴょーん!」

バイクの騒音にかき消され、彼の声はゆかりに届かなかった。

id:aoi_ringo

にぎやかな通りですね。

ありがとうございました。

2006/10/20 06:23:07
id:asde11fsfdds No.7

回答回数11ベストアンサー獲得回数0

ポイント20pt

バスが過ぎ去った後、その後も何台もの車が通り過ぎていく。

彼の口元が動いていた。

彼:「あの・・・4年後・・・ずっと・・・たら、・・・

・・・しよう。」

車のエンジン音で彼の言葉が途切れ途切れに聞こえた。

彼女:「えっいまなんていっ」

がっ!!!

言いかけた私は彼に初めて抱きしめられた。

行きかう車、町の騒音、町の音はそっと小さくなっていった。

id:aoi_ringo

がっ!!!

がいいかも。最後の一行も。

ありがとうございました。

2006/10/20 06:24:43
id:karasimiso No.8

回答回数41ベストアンサー獲得回数1

ポイント10pt

バッと布団をはねとばし、時計を見る。


「あ、こんな時間、、。」


あれから十数年後、私は地元の市民病院で看護士として働いていた。ときおりメールでやりとりをしていたものの、お互い忙しい日々が続き、いつのまにやら途絶えてしまっていた。もう、彼とは終わってしまった。そんな感覚を覚え始めてはや六年になる。わたしも新しい彼氏をさがさないといけないのかなあ、なんて思いはじめていた。


そんな帰り道。病院は高校のそばにあるため、いつもその近くを通って、あのころの景色をながめながら帰っている。


ふと高校のほうを見ると、校門の前にちいさな女の子が座りこんでいた。古い型の携帯電話をかかえこんで、今にも泣き出しそうな顔をしていた。しかし、わたしを見るとむくっと立ち上がり、こちらへ駆け寄ってきた。


「あ、あのー、『今度この道で会うときは家族になろう』って約束しましたよね。」


突然、あのときの彼の言葉を言われて「ひえっ!?」と裏返った声で驚いてしまった。しかし、よくよくその子の顔を見てみるとなんとなく彼のおもかげがあった。


この瞬間、わたしは事情を理解した。そして同時にあのころの懐かしい風景が心の中でよみがえる。気がついたときにはその女の子をぎゅっと両手で抱きしめていた。



「かえろうか?」

id:aoi_ringo

不思議な展開ですね。

ありがとうございました。

2006/10/20 06:26:37
id:marumi No.9

回答回数2608ベストアンサー獲得回数3

ポイント10pt

あのさ、学校卒業しても会いたい・・

卒業したらこうして一緒には帰れなくなるけど、休みの日には会おうよ。

言ってもらいたい言葉なので書きました。

id:aoi_ringo

ありがとうございました。

2006/10/20 06:27:06
id:raingirl33 No.10

回答回数49ベストアンサー獲得回数1ここでベストアンサー

ポイント25pt

「ありがとう。」「えっ?」

「これと言った意味がある訳じゃないんだけど、なんか今言いたくなった」

「・・・・・」

「なあっ、久しぶりにあの場所行こうぜ!」

「い、今からーっ!」

あー、もう!あたしの気持ち、わかってるのかなぁ?

歩道の脇にカラカラになっても踏ん張っているくっつき草。子供の頃よく投げて遊んだなあ。

思わずむしりとって、さっさと先を歩く背中に向かって投げた。

id:aoi_ringo

きれいだと思います。

ありがとうございました。

2006/10/20 06:28:09
  • id:TomCat
    ああ、残念。今書き上がったのですが、20分違いで締め切りになってしまいました。とりあえずファイルにセーブしてとっておきます。宮沢賢治みたいに、何十年か経ってから未発表原稿~、なんて発掘されたらいいな(^-^)
  • id:aoi_ringo
    よかったらコメント欄に書いてください。ささやかですけど、ポイント送信しますから・・。このテーマも早かったみたいですね。
  • id:aoi_ringo
    それにしても・・、最近の質問は我ながら、「妄想」が激しいですね。みなさん、すみません・・。
  • id:TomCat
    ありがとうございます。ではお言葉に甘えて、こちらの欄で参加させていただきますね。
    あ、ポイントは気にしないでください。こういうのは発表の場をもらえるだけで嬉しいものですから(^-^)
     
    ----------
     
    そして、私たちはそのまま別れました。あの日彼が何と言ったのかも聞けないまま日々が過ぎ、私たちはそれぞれの道を歩きはじめました。
     
    もちろん、メールするね、電話もいっぱいするね、時々は帰ってくるよ・・・・。色んな約束をしましたが、それも時間が経つと、だんだん色褪せていきました。
     
    というか、それぞれ希望通りの道に進めた私たちは、それぞれの道を歩くことに一所懸命だったんです。まだ私たちは、恋だけに生きるような年齢ではなかったのかもしれません。
     
    最初の夏。私たちは会いました。わくわくしながらその時を待って、そして初めてのキスもしました。でも、どこかすれ違う心を感じました。彼、変わっちゃったのかな、と思いました。
     
    秋になって、メールが途絶えました。いえ、私の方から途絶えさせてしまったのかもしれません。どちらのせいということもなく、自然に二人の距離が開いていきました。
     
    それからさらに時が経ちました。人並に、私もちょっとだけ恋をしました。でも、やっぱりだめ。心のどこかで、恋に対して臆病になっている自分を感じました。
     
    看護学校は3年制です。彼より1年早く私は社会に巣立ちます。どんどん距離が離れちゃうな。私はだんだん学校に行くことが辛くなりはじめてきました。と、そんな時です。養護教諭養成課程の存在を知ったのは。
     
    養護教諭。つまり、保健室の先生です。そのためにはあと1年、どこかの大学に入りなおして勉強しなければなりません。でも私には、その1年がとても魅力的に感じられました。彼と同じ時間が歩ける!! 離れていても、まだ彼と並んで歩いていける!! 私はこの新しい夢に全てを注ぎました。
     
    がんばって看護師の国家試験に無事通り、その勢いで大学も決まりました。高校の終わりのあの頃が、また私の心の中によみがえってきました。あの頃と同じ、進路に迷い、悩みながら過ごした日々。それをさりげない優しさで支えてくれた彼。全てが鮮やかによみがえりました。
     
    彼に会いたい。ものすごく会いたい。メール、してみようかな。電話、かけてみようかな。揺れる思いで、震える指で、携帯のキーを押しました。でも・・・・。こんなに時間が過ぎてしまったら、もうアドレスも電話番号も変わっているに決まっています。途中で、キャンセルボタンを押しました。そして私の新しい大学生活がはじまりました。
     
    それからさらに1年。幸いにも就職先が決まり、私は母校の養護教諭となりました。サッカーの盛んな高校です。いつも保健室はサッカー部の子たちで満員御礼。
     
    「あなたたち、ただがむしゃらに練習したってだめよ、本当にセンスのある選手っていうのは、ケガなんてめったにしないものなのよ」
    「なんだよー、知った風なクチ聞いちゃって」
    「あーら、こう見えても私、サッカー詳しいのよ」
    「じゃさ、じゃさ、一番いいトレーニング方法教えてよ」
    「そうねえ、あなたはいい足してるから・・・・」
     
    毎日毎日、生徒たちを相手にサッカー談義。彼から聞かされた言葉の端々までの記憶が、小さな保健室の中によみがえります。
     
    と、その時です。「こらー、お前ら、かすり傷くらいでサボるんじゃない」と元気のいい声が響いてきました。
     
    「かすり傷とは何よ、全ての負傷には適切な治療が必・・・・」
     
    その声は!! 私は一瞬で、涙で曇って前が見えなくなっていました。さらに声が続いて響いてきます。
     
    「あの日語り合った夢の通り、君も養護教諭を目指してくれたんだね!!」
     
    生徒たちの冷やかす声と口笛で、保健室が一杯になっています。
     
    「帰ってきたよ、僕もこの町に。まだ時間講師だけど、今日から僕もここの教師なんだ。よろしく、保健室の先生!!」
     
    これからまたあのバス通りを、二人肩を並べて歩けます。彼のカバン、今度は私が持ちたいな。
     
  • id:aoi_ringo
    すごくきれいです。
    ありがとうございました。
  • id:threecloudjp
    私も今書き終わりました。終わってたんですね。
    コ、コメント欄に書いてもいいでしょうか…(ドキドキ)
  • id:TomCat
    おおっ、書いてください、ぜひ!! って、aoi_ringoさんを差し置いて(^-^;

    threecloudjpさんの作品は、タクシーのも、そしてメンタルフレンドのも、すごく読み応えのある力作でした。今度はどんな作品か、楽しみです!!
  • id:aoi_ringo
    ぜひぜひ。
    わたしなんて、どんどん差し置いてください(笑)。
    わたしはただ、ボールを投げるだけです。
    あとは、みなさんで楽しく遊んでください。
    わたしも、threeclooudjpさんの作品、大好きですよ。
    ポイントは(実はあまり残っていない・・。購入しなきゃとは思いつつ・・)ので差し上げられませんが、それでよければ、ぜひ書いてください。楽しみにしています。
  • id:aoi_ringo
    お二人様、わずか、30ポイントですが、ポイント送信させていただきました。ご笑納下さい。
  • id:TomCat
    ポイント、届きました。ありがとうございました。
     
    最近私は、かなりこの「創作はてな」にはまっています。ライトノベル風に、ラジオドラマの原作風に、短編小説風に、などなどと、その時その時でスイッチを切り替えながら、出題から見えてくる様々な風景を想像して書いています。だからイメージを膨らませるまでにだいぶ時間がかかってしまうんですが、毎回楽しんで書かせていただいてます。
     
    また、満員御礼ではみ出してしまったら、こんな形で参加させてください。ありがとうございました(^-^)
  • id:aoi_ringo
    ありがとうございます。あまりに、設定を凝りすぎると、みなさん、書きにくいかな、と思いながらも、ついつい書き込んでしまいます。

    そうすると、何気なく書いた一言に着目して頂いて、物語が思わぬ方向に行くこともあります。「雨」「手帖」「アルバム」・・。さきほど、わたし的には恋愛系で質問した質問が、「はてな」ネタで想定外の方向に広がり、こころから笑いました。

    質問はマイペースで続けたいです。さきほど、ポイントも購入しましたから、大丈夫です(笑)。
  • id:threecloudjp
    ポイント受け取りました。ありがとうございますm(_ _)m
    楽しませていただいてるのはこちらのほうなので、本当にお気持ちだけでいいんですよ。ご無理なさらないでくださいね。
    TomCatさんにそんなふうに言っていただけるとなんだか不思議です。同じ高校で再会…あぁ、いいなぁ。憧れます。うっとり…





    彼の声は、舞い上がる灰色の粉塵とともに轟音に掻き消されてしまった。
    バスが通り過ぎ、一拍置いてあたりが静かになってから、わたしはなにげなく、彼に言った。
    「ごめん、バスで聞こえなかった。もう一回言って?」
    わたしたちの歩みは、ゆるく長い坂道に差し掛かった。
    わたしの乗車駅は、高台を登りきったところにある小さな無人駅だった。
    坂の途中で、真新しく小奇麗な家の並ぶ新興住宅地を抜ける。
    彼は押し黙ったまま、ぐいぐいと自転車を押し続けた。
    無造作におろした茶色い地毛の前髪が、そのたびに規則正しく揺れた。
    聞こえなかったのかな、と思って彼の顔をうかがう。
    サッカー部の割に白いな、と、こうしてまじまじと見て思う。
    私は彼の横顔が好きだ。
    まつげが長くて、すっと通った鼻筋が上品だ。
    それらが最も映えるのが、こうして左から見る横顔なのだ。
    彼は日焼けしにくい体質らしく、毎日グラウンドで駆け回っている割に肌が白い。
    きれいな風貌の人だった。
    そのことにわたしはコンプレックスを感じている。
    わたしは彼のように線の細い女性ではなく、友達は「かわいい」「癒し系」と評してくれるけれども、自分の背が低く丸っこい雰囲気があまり好きではなかった。
    中学時代から、なんとかバランスよく見えるよう雑誌で綿密な傾向と対策を考え、髪型にはかなりの気を遣っている。
    校則の範囲内でわたしのイメージどおりに繊細なカットを施してくれる美容師さんが見つかるまで、この田舎町でずいぶんとサロンキャラバンをしたものだ。
    それでもやっぱりわたしは、自分の容姿に満足できない。
    もっともっと、きれいになりたいと思う。足りないところばかりだと思う。
    彼もわたしのその気持ちはよく知っている。だから、何かにつけて、わたしの容姿をほめてくれる。
    そういう彼のやさしさが嬉しくもあり、すこし、息苦しくもあった。
    「ねえ、さっき、バスで聞こえなかったんだ。もう一回言って?」
    わたしは繰り返した。
    「うん」
    彼は言ったきり、その後を続けない。
    何だかわからないが、二度は言いづらいことだったらしい。
    こういうときに何度も問いただすと、彼はへそを曲げてしまう。
    会話においてそういうことをやるのは「趣味が悪」くて「美学に反する」ことらしい。
    だから、しばらく放っておいてみようと思ってわたしも黙った。
    黙ったまま、ふたりで坂道を登り続ける。


    「矢野先輩」
    彼がぽつんと言った。
    彼の部活のひとつ上の先輩、先代の主将で、今は隣の市にある国立大の教育学部に通っている。
    いかにもなサッカー部員だったと思う。
    ほどよく筋肉質で背は高くイケメンで、性格は豪快にして鷹揚、男からも女からも、後輩からも教師からも人気があった。
    私たちが2年生のときの体育祭では、我らが赤団の応援団長を務めた。
    後輩たちから来訪を熱望され、たまにグラウンドに顔を出している。そのたびに人だかりができるのだ。
    「うん、矢野先輩ね」
    私はとりあえずあいづちを打った。
    彼は驚くべきことを口にした。
    「矢野先輩さ、去年ぐらい、一時期お前のことが好きだったって知ってる?」
    「は?」
    本当に驚いた。知らなかったし、そんな話題を振ってくる彼にも驚いた。
    「なんか、俺が言わなきゃコクるところだったって言ってたよ」
    「はぁ…そうなんだ…」
    それきり、彼はまた押し黙ってしまった。
    妬いてるのかな、と思った。
    来年からの新生活、矢野先輩がわたしの近くにいることに危惧の念を抱いているのだろうか?
    わたしと矢野先輩との間に、彼以外の接点はない。
    看護学校に進学した後も、たぶん、ないだろう。
    でも、そういうことをわたしが弁解がましく言うのもなんだかおかしい。
    「俺、実は矢野先輩ってちょっと苦手だった」
    彼がもらした。
    「どうして苦手なの?」
    「うーん…なんていうかな。あの人、成績よくて、運動もできて、しかもさわやかだろ。人望もあるしさ」
    俺と違って、という彼の心の声が聞こえてきた。
    「とっつきにくい?」
    「そういうわけじゃない」
    「部活がサッカー部だから、っていうのはあるのかな」
    「それはある。なんか、自分と比べちゃうんだよな。俺より明らかにサッカー向いてるのにさ、教育学部ってのが」
    わたしは苦笑した。
    これ以上サッカー部員らしいサッカー部員はいないだろうという矢野先輩が教育の道を志し、その存在を前にして、繊細で線の細い(サッカー部員としては珍しいタイプの)彼が、サッカー推薦という道を選んだ。
    矢野先輩は本当はサッカーで進学したかったらしくその実力もあったのだが、家庭の事情を考えて地元の国立を選んだ、という噂も聞いたことがある。
    そんなこんなに、彼はどことなく気恥ずかしさを感じているのだろう。
    「俺なんかがいいのかな、って思ってしまう。変なんだけどね」
    彼は首をかしげながら話し続けた。
    「お前のことも正直に話してくれたし、あと、推薦が決まったあとも俺に普通にやさしくしてくれてたし」
    「それがかえって息苦しかった?」
    「そう、それだ」
    彼は、わが意を得たり、と言ったはっとしたような笑顔でわたしを見た。
    「やっぱすげぇな、お前」
    彼は心からの感嘆を込めてわたしに言った。
    「お前と話してると、いろんなもやもやしたものの正体が一瞬にしてわかる」
    わたしはうれしくて、にっこりした。
    彼のことばや、彼がすっきりしたという事実もうれしかったし、また、わたしが彼に対して抱いていたのと同じように、輝いているもの、美しいもの、ただしいもの、に対したもやもやとしたコンプレックスを抱えていたのだということも、彼には悪いが、うれしかった。
    まぶしいほどに美しく繊細な目の前のこの男の子も、わたしと同じなんだ、って思える。
    こういうときに、わたしのなかで彼との距離がぐんと縮まる。
    「高校生って、そんなものなんだって」
    わたしはこの前本で読んだことをそのまま伝えてみた。
    「そういうお年頃?」
    「らしいよ」
    「ありがちなのかな」
    「うん」
    だってわたしも、と言いかけてやめた。
    他人と自分を比べずにいられない弱さ。自意識が過剰にふくらんだ僻み。
    わたしは、こういう彼の弱さにことさら惹かれる。
    それではふたりの関係は長く続かない、ともその本には書いてあった。
    弱さ、痛み、そういったベクトルにばかり気持ちが向くようになると、関係は破綻するらしい。
    言っていることはわかる。
    でもわたしは、そういったものが好きだ。
    そういったものにこそ魅力を感じる。
    それではいけないのだろうか。
    「お年頃」だから、なのだろうか。
    この時期を過ぎたら、もっとちがう感受性になっていくのだろうか。
    それこそ、矢野先輩のような、強く、明るく、ただしいもの、そういうものに惹かれていくのだろうか。
    わたしたちは、どんな大人になるんだろう。
    わたしは背伸びして、彼の髪を、よしよし、と撫でた。
    「なんだよ」
    彼は照れたように笑った。
    その笑顔を見て、まぁいいか、と思った。
    わたしは弱い人間だし、彼だってそうだけれども、その弱さを誰かに是とされなくても、好きだ、という気持ちが薄らぐわけではない。
    その点においてはわたしはとても強い人間だと思う。
    彼がわたしに潜む強さを掘り起こしてくれたのだな、と思う。
    それは彼と付き合うようになってから初めて得た感覚で、わたしはこれを、本当に得がたいものだと思った。
    だから、本に書いてあることとすこし違っていても、まぁいいか、と思った。
    「結婚しようね」
    とわたしが言うと、彼は、ついっと目を逸らして
    「当然だろ」
    と、小さくてもしっかりと聞こえる声でつぶやいた。
  • id:aoi_ringo
    ありがとうございました。
    なにげない風景描写や設定が細かく書き込んであり、
    本当にわずかなポイントで申し訳なく思います。
    こころから楽しませていただきました。
    ありがとうございました。

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