この季節になるといつも思い出すことがあります。それはある雪深い地域で屋根の雪下ろしをお手伝いした時のことです。高齢化と過疎が進み、雪が降っても屋根の雪が下ろせない、助けてくれと友人の親戚からSOSがあったので、私も手伝いに行ったのです。
行ってみると辺り一面の銀世界で、家の屋根にはすっかり雪が降り積もっていました。しばしお茶など頂き小休止の後、屋根に上ってみると、下で見ていた時よりずっと積もっていました。とにかく屋根に上がれるスペースを作ろうと、ハシゴに乗ったままスコップで雪を払いました。やっとの思いで登れるスペースを作りましたが、屋根の上に立ってみると、雪は約1mは積もっていました。
まず屋根の周囲から雪を落としていきます。雪は屋根の外側にはみ出していますから、屋根の端の確認のためにも、この手順が欠かせません。まだ屋根があると思って雪しかない上に足を乗せたら則転落ですから、これは慎重にやらねばなりません。
友人は以前に何度かやったことがあると言っていましたが、私は初体験です。屋根の上は足場が悪く、おまけに滑ります。慣れないうちは決死の作業でした。しかも雪の量が半端ではありません。まるでスキー場をスコップで掘り崩していくような作業です。雪の中で私はもう汗びっしょりでした。
すると少し離れた道に、お年を召した男性が一人通りかかりました。かんじきを履いて、道の雪を踏み固めながら歩いています。友人が教えてくれました。ああやって次に通る人が通りやすいようにしながら歩くんだ、普段の何倍もかけて他人のために働きながら歩く、それが雪国の助け合いってやつさと。
立派な心がけだなと感心していると、道から声がかかりました。
「応援に来たのかい」
「そうでーす」
「滑らないように気を付けろよ」
「はーい」
それからしばらくすると、またさっきの男性が戻ってきました。手に何かを持っています。
「汗かいたろう」
「はい、こんな雪の中なのにもう汗だくです」
「終わったらこれ飲んでくれ、冷やしておくから」
「あ、ありがとうございます」
「地域を助けてくれる人に感謝の印だよ」
そう言うと男性は、缶コーヒーを雪の中に挿して、またゆっくりゆっくり来た道を戻っていきました。他人の家の屋根の雪下ろしをしている私達のために、大変な苦労をしながら届けてくれた缶コーヒー。作業が終わってそれを飲むと、汗びっしょりの体に心地よい涼やかさが広がっていきました。
家に入って濡れた衣服を着替え、コタツでいただく温かいお茶がひときわ美味しかったのも、雪で冷やされた缶コーヒーがあったからのように感じました。
私の耳に「感謝の印だよ」という男性の言葉が繰り返し響きました。他人のための行いを自分のことのように感謝出来る心。そしてその感謝を躊躇無く形に現すこと。それが今までの私にあっただろうかと思いました。以来私は「感謝の印」という言葉を、とても大切に思っています。感謝を心だけで終わらせず、それを形に現していくこと。そのことをいつも考えます。「感謝の印」、大切な言葉です。
この季節になるといつも思い出すことがあります。それはある雪深い地域で屋根の雪下ろしをお手伝いした時のことです。高齢化と過疎が進み、雪が降っても屋根の雪が下ろせない、助けてくれと友人の親戚からSOSがあったので、私も手伝いに行ったのです。
行ってみると辺り一面の銀世界で、家の屋根にはすっかり雪が降り積もっていました。しばしお茶など頂き小休止の後、屋根に上ってみると、下で見ていた時よりずっと積もっていました。とにかく屋根に上がれるスペースを作ろうと、ハシゴに乗ったままスコップで雪を払いました。やっとの思いで登れるスペースを作りましたが、屋根の上に立ってみると、雪は約1mは積もっていました。
まず屋根の周囲から雪を落としていきます。雪は屋根の外側にはみ出していますから、屋根の端の確認のためにも、この手順が欠かせません。まだ屋根があると思って雪しかない上に足を乗せたら則転落ですから、これは慎重にやらねばなりません。
友人は以前に何度かやったことがあると言っていましたが、私は初体験です。屋根の上は足場が悪く、おまけに滑ります。慣れないうちは決死の作業でした。しかも雪の量が半端ではありません。まるでスキー場をスコップで掘り崩していくような作業です。雪の中で私はもう汗びっしょりでした。
すると少し離れた道に、お年を召した男性が一人通りかかりました。かんじきを履いて、道の雪を踏み固めながら歩いています。友人が教えてくれました。ああやって次に通る人が通りやすいようにしながら歩くんだ、普段の何倍もかけて他人のために働きながら歩く、それが雪国の助け合いってやつさと。
立派な心がけだなと感心していると、道から声がかかりました。
「応援に来たのかい」
「そうでーす」
「滑らないように気を付けろよ」
「はーい」
それからしばらくすると、またさっきの男性が戻ってきました。手に何かを持っています。
「汗かいたろう」
「はい、こんな雪の中なのにもう汗だくです」
「終わったらこれ飲んでくれ、冷やしておくから」
「あ、ありがとうございます」
「地域を助けてくれる人に感謝の印だよ」
そう言うと男性は、缶コーヒーを雪の中に挿して、またゆっくりゆっくり来た道を戻っていきました。他人の家の屋根の雪下ろしをしている私達のために、大変な苦労をしながら届けてくれた缶コーヒー。作業が終わってそれを飲むと、汗びっしょりの体に心地よい涼やかさが広がっていきました。
家に入って濡れた衣服を着替え、コタツでいただく温かいお茶がひときわ美味しかったのも、雪で冷やされた缶コーヒーがあったからのように感じました。
私の耳に「感謝の印だよ」という男性の言葉が繰り返し響きました。他人のための行いを自分のことのように感謝出来る心。そしてその感謝を躊躇無く形に現すこと。それが今までの私にあっただろうかと思いました。以来私は「感謝の印」という言葉を、とても大切に思っています。感謝を心だけで終わらせず、それを形に現していくこと。そのことをいつも考えます。「感謝の印」、大切な言葉です。