【人力検索かきつばた杯】


かきつばた杯を開催します。
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%CD%CE%CF%B8%A1%BA%F7%A4%AB%A4%AD%A4%C4%A4%D0%A4%BF%C7%D5

〆切は質問者の気分により前後しますが、大体次の土曜日の夜です。

お題:リンク(必須) アクセス(任意)

講評は希望者のみ、記載の無い方には一言コメントします。
一言コメントも要らない人は要申告。

50ポイント分は均等配分であとは加点につかいます。
(ただし、極端に文字数が少ない、まったく真剣味が感じられないなど、開催者の判断で均等配分ポイントも減らすことはあります)

回答の条件
  • 1人2回まで
  • 登録:
  • 終了:2013/01/13 22:06:39
※ 有料アンケート・ポイント付き質問機能は2023年2月28日に終了しました。
id:grankoyama

ラスト数行でアッと驚くような作品が読みたいなぁ(願望であって強制ではないです)

回答7件)

id:grankoyama

質問文を編集しました。詳細はこちら

id:kobumari5296 No.1

回答回数60ベストアンサー獲得回数4

ポイント25pt

「奏一。お前、本気なのかよ。」「本気さ。」
 時は西暦五二九六年。当たり前のように機械が人間社会に溶け込んでいる世界。人々は機械じかけの人造人間“エニカム”を、ある者は家政婦代わりに使い、ある者は恋人にし、ある者は偶像崇拝して熱狂した。どれにしろ、機械と離れられない生活を送っていた。先ほどから三千年前までは“携帯電話”と呼ばれていた文明の利器、“携帯型エニカム”を無言で三十分ほどピコピコいじっている、奏一と涼太もそこから漏れることない。逆にこの時代を生きる高校生の典型的な生活と言える。
「ったく、少女マンガもいいとこだぜ。まさかの小歌ちゃんかよ。」
「そのまさか。」
「好きだ、と。告白するわけ?誕生日に。」
「うん。」
 “小歌ちゃん”とは、彼らがよく学校生活を共にするグループの一人で、黒髪ショートの女子高生だ。奏一の幼馴染でもある。小柄だがスタイルがよく、小鳥が歌詞を紡ぐようにクスクスと笑う彼女は、幼馴染の奏一と比較されて“名前勝ち”と呼ばれている。奏一は、誰もが認めるインドア高校生で、成績も平々凡々なもので、何かを奏でたり何かで一番だったりしない。これこそまさに、“名前負け”なのだ。
「そんな、時代遅れの携エニで。」
「ウタは、古風なのが好きなんだ。昔っから、地球史で携エニ選ぶほど。でも、これはすごいぞ。エニカム発明百周年に限定生産で作られた、携帯型エニカム零式だ。」
「そんなことは、どうでもいいの。」
 涼太が奏一から携帯型エニカムを取り上げると、その文面に思わずふいた。
「こんなん入力すんのに、お前、手動でやってたのかよ!機械学の授業寝てんのかよ!いくら零式でもコンシェルジュぐらい組み込まれているだろうが!」
「こういうのはなぁ、凝ってんのがいいんだよ。コンシェルジュに『好きです、付き合ってください。』と話しかけるより、温度が伝わる手動の方が、女心にグラッとくるわけ。」
 涼太から携帯型エニカムを取り上げると、メモに保存してあったURLをメールの文面に張り付ける。これで、告白メールの完成だ。思わずガッツポーズをした奏一に、涼太がツッコミを入れる。
「お前、前に小歌ちゃん一筋って言ってなかった?」
「言った。」「そんな奴に女心が分かるかっ。」
「分かるよ。」
 送信ボタンを押した。これで、もう後に戻れない。
「少なくとも、ウタのことは分かる。俺らはリンクしてっからな。」

「小歌―!こっちこっち!」
「あ、御免。」
 てとてとと友人の声に導かれて歩く小歌は、稼ぎのない学生たちの祝い事の聖地・エニカムスクエアに来ていた。毎夜お祭り騒ぎのように、エニカムたちがショーをしたり、演奏をしたりしている。食事もリーズナブルで、小歌と友人たちは、祝い事が来れば必ずここに来る常連だ。
「もう、いい加減携エニ買い換えなよぉ。繋がんないじゃん、零式。」
「だって、折角の誕生日プレゼントだし、私、昔っから使いたいなって思ってて。」
「奏一だっけ?」
「うん、奏ちゃんがくれたの。去年の誕生日ね。」
「奏一も涼太も今はいないも同然!ここに居るのは女子のみっ!さあ、小歌の誕生日を祝して……乾杯!」
「かんぱーい!」
 実はこういうところが苦手な小歌のことを、友人たちは知っている。自分たちが騒ぎたいだけなのかもしれない。

 トイレに立った小歌を、親友の磨(みがき)が追ってきた。勿論トイレにも用あったが、何より小歌に用があった。
「小歌、大丈夫?」
「ん?何が?」
「携エニ。さっきっから、ずっと見てる。」
「うん……奏ちゃんから、来るかなぁと思って。奏ちゃん、自分は無精なのに、私がそうすると怒るから。」
「さすが、見抜いてますねぇ。」磨がクスクスと笑うと、小歌も微笑んだ。
 化粧直しも済んでトイレを後にしようとすると、小歌の零式ブルブルと振動した。
「あ、奏ちゃんだ。」
 小歌が文面を見る。許可を得て、磨ものぞいた。
「『ウタ、誕生日おめでとう。このリンク先を見てもらえると、非常に喜びます』……って、奏一め、小歌の誕生日に何を自分が喜んでるんだ。」
「繋いでみようか。」
 小歌はURLを選択し、リンク先を表示する。すると、立体映像が出てきた。
「うわぁ……!」「うわぁ少女趣味……」
 それは、小歌にしかわからない、奏一と小歌の写真だった。これは初めて海に行った時、これは泥んこになって遊んで親に怒られたとき、これは……と、小歌の口が止まらない。
「小歌……あんた……」
「うん……」
 写真の映像はクルクルと周り、最後は子供の時、桜の時期に撮った、子供の時の写真と、奏一の心からの一言だった。

―ウタ、好きだよ。付き合ってください。―

「……返信、していいと思うよ。」
「磨……」
「あんたたち、好きあってるもの。愛し合ってるもの。誰にも止める権利ないよ。小さい時なんでしょ?別れたの。」
「うん。」
「じゃあ大丈夫よ。なんかあったら、あたしがいるし。」
「フフ、頼りにしてます。」
「奏一の顔が、浮かぶね。」
 今度は、自分の真っ赤な顔の写真のURLを載せて、奏一にメールを打つ。
「きっと泣いてるよ。わかるんだ。」

―勿論です。奏一お兄ちゃん。―

「私と奏ちゃん、同じ血を持つ双子だもの。心が繋がって(リンクして)るから。」

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id:grankoyama

ご回答ありがとうございます。
>また書けたら、書きます。
お待ちしております。

さて、講評です。いきなりの『西暦五二九六年』『エニカム』。
設定としては面白いですが、それ以降のお話で(立体映像以外の)未来的な描写が無いのが勿体ないです。
読者を惑わすという計算上、現在や近未来の設定にしたのであれば、評価します。お話はすんなり読めましたから。
でも、3千年という時を経ているので、その辺りの詳細設定や時代背景にもうちょっと現実味を持たせてくださるか、数十年~百年後ぐらいにしておいても良かったかもしれません。

『幼馴染』というワードを出しているのがちと卑怯かも。その辺もう少しぼかしておいて欲しかった。

細かいことをつつくと、何故に手動入力の方が音声入力より『温度が伝わる』のか? が謎。
『携帯型エニカムを取り上げると』という同じ文章が繰り返されているので、どちらか一方は表現を変えた方が、単調な文章にならずによい。
『前に小歌ちゃん一筋って……』~『そんな奴に女心が分かるかっ』の会話の流れが理解できず。
磨ちゃんが、頭の中で麻呂に変換されて大変でした。気になってしょうがない。
『心が繋がって(リンクして)るから』は逆の『リンクして(心が繋がって)るから』のほうが個人的にしっくりくる。

とまあ、好き放題書きましたが、最後にアット言わされました。
面白かったです。
f:id:grankoyama:20130110120751p:image

2013/01/10 12:55:19
id:kobumari5296

講評ありがとうございます。

気分としては、ゲーム世界を想像して書きました。完璧に私の趣味です。
ご指摘の後に読み返してみると、確かに描写薄は否めませんね。
言い訳になってしまうのですが、奏一は女をウタしか見てこなかったので、一般的な女心は分からないだろう、という裏設定がありました。これも描写薄ですね……

色々ご指摘ありがとうございました。最後にアッと言ってもらい、嬉しいです(笑)
面白かった、と言われて、冥利に尽きると言いますか。
BAとれる書き手になれるように頑張ります!!!

そして、明日もう一本書けたら……と、思っておりますので、どうか、よろしくです。

2013/01/11 09:37:11
id:takejin No.2

回答回数1543ベストアンサー獲得回数203スマートフォンから投稿

ポイント20pt

「みずのさん。あけおめ」
「…」
「みずのさんってばぁ」
「…」
「あー、かきつばたが」
「…」
「わ、なにすんの。ノート閉じないでよ」
「もう、緊急なんだから静かにしろ」
「ええええ、おとなしくして」
「してない!」
「こわー」
「もう少しだから、外部と通信するな。それさわるな」
「本気のみずのさん初めて見た。おとなしくしてよっと」
「…バックアップは確保したし、データベースは回復っと。リンクしたファイルはチェックしたし。」
「リンクと言えばスケ」
「シッ」
「こわー」
「クライアントの画面のリンクも外して、と。アクセス数の増加に対応いたしましたメールも打ったよ、と。おしまい。」
「み   ず   の   さ  ん?」
「望月君あけましておめでとう」
「もう大丈夫なの?本職の仕事でしょ?」
「すんだすんだ。緊急事態は終了。クライアントからOKもらったよ。」
「では、あけおめ」
「なんで、そこ、省略形なの」
「これが、今は正式なの!」
「言い切るかなぁ。まいいや。」
「かきつばたですって」
「リクエストされたんだって?」
「そうなんす。この年末進行後始末と成人式準備で忙しいってのに」
「成人式って、誰が?」
「ええと、その、知り合いが」
「知り合い程度の準備で?そういえば、望月君ていくつなの」
「去年年男ですぅ」
「じゃあ、61か。そうは見えな」
「あのね。」
「かきつばたのお題がリンクね。では、ジェット・リンク」
「誰ですかそれ。」
「002だよ。サイボーグの。ラストシーンがなんとも」
「ああ、飛ぶだけの人ね」
「あのね。」
「ラルクの曲にありましたよね」
「ポルノグラフィティじゃなくて?」
「スケートリンクってのもあるね」
「りんくうって町があったよね。セントレアの近くに」
「だったら、リンクスって山猫だし」
「ツインリンクもてぎなんてのもあるか」
「リンクのリンクっていっぱいありますねぇ」
「そりゃ、繋がるのは当たり前だよ、リンクだけに」
「リンクにかけろ」
「それはリング」
「みずのさん、ノートパソコンに呪いのビデオがぁぁぁ、ほら、髪のなが」
「うわぁぁぁぁぁぁ」

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id:grankoyama

ケータイに向ってぶつぶつつぶやいているたけじんさんを想像すると、ちょっと笑えます。

2013/01/09 16:48:16
id:takejin

会話が多いと、「カギカッコ」とか、「カイギョウ」とかのブツブツの方が多くて、ますます変な人に。

2013/01/09 17:00:20
id:ibuki81 No.3

回答回数125ベストアンサー獲得回数11スマートフォンから投稿

ポイント25pt

私にとって、『バレー』って何だろう。


練習するのが楽しかったのに、
試合に出られるのが嬉しかったのに、

今はあんなに毎日楽しみにしてた部活でさえも

憂鬱な時間でしかない。


「今から、次の試合のメンバーを発表する」

顧問の先生の言葉が耳に響く。
皆が真剣な表情で先生の次の言葉を待つ中、
私は先頭の列のど真ん中で
一人うつむいて震えていた。


__メンバーに……

選ばれたくない……__

先生が読み上げていくメンバーが定員の数に近づくのに比例して、
私は無意識に拳を強く握りしめた。

「最後は……佐藤、以上だ。今呼ばれたメンバーは、より意識を高めて練習に取り組め。皆の“代表”だからな。」


解散したあと、皆が着替えはじめても
私はしばらく動かなかった。

……動けなかった。

『また“代表”として試合に出なければならない』

その不安と緊張で、胸が張り裂けそうだった。

__“代表”

その言葉が過去の嫌な思い出とリンクする。

甦る記憶をかきけしながら、着替えはじめた。

あれは先月の新人戦。
“代表”に選ばれた私は、
エースアタッカーとしてコートに立った。
調子は悪い方ではなかった。

でも……


「ス……ストップ! タイムだ!!」

突然相手チームの監督が叫んだ。
何事かと思って目をやると、一人の選手がうずくまっていた。
相手チームのエースアタッカー。

どうやら私のアタックを受けた時に右腕を痛めてしまったらしかった。

「スポーツに怪我は付き物」
「佐藤さんは悪くない」

チームの皆は罪悪感を感じて立ちすくむ私に、優しく励ましの言葉をかけてくれた。
しかし、それよりも私に響いたのは、

「わざと当てたんじゃないの?」
「卑怯者」

相手チームの私に対する陰口だった。

勿論、そんなつもりで当てたんじゃない。
当てようとしたわけでもない。
怪我したのは相手のミス。

わかっていた。そんなこと。
なのに……

「佐藤!! なにやってるんだ!!!!」
「す……すみませ……」

「佐藤さん!!」
「あ……ごめ……」

陰口を意識しすぎた私は、
自分でも情けなくなるようなミスプレイの連続だった。

もう陰口は言われたくない。
怪我をさせないようにしなければ。
なんてことを考えて……

そんな私を、監督が黙ってコートに立たせておくはずがない。

「タイム!! もういい佐藤、さがれ!!!!」

ああ、やってしまった。
エースアタッカーに選んでくれた先生の期待を、
私を“代表”として受け入れてくれた皆を、
裏切ったんだ……。

プレイに無駄がありすぎる、集中できていない等と先生にしたたか注意されたが、そんなことはあまり耳に入ってこなかった。
ただ、動揺してしまった自分が情けなくて、恥ずかしくて、
ベンチで息を殺して泣いた。

幸い、皆は私を攻め立てるようなことはしなかった。
でも私には“代表”としてコートに立つ勇気も、エースアタッカーとしてチームを背負っていく自信もない。

“代表”という言葉とリンクする過去を振り払うこともできず、重い足取りで家までの道を歩いた。

__次の試合まであと1ヶ月。


翌日、また放課後の憂鬱な時間が始まる。

「今日は、新しくバレー部に入ることになったメンバーを紹介する。」

ざわつく体育館に、聞きなれぬかわいらしい声が響く。
興味なんかない。

練習などする気分でなかった私は、
皆が準備を始めると同時に体育館を出た。

「どこ行くの?」

私は足を止めて振り向いた。
見なれない、小柄で華奢な女の子。
正直、こんな子にバレーなどできるのかと思った。

「練習、始まっちゃうよ?」
「そんな気分じゃないから……。」

そう言ってまた歩き出すと、私の隣についてきた。

「じゃあ私もさぼろうかな♪」
「え……?」

入部初日から?
凄い子だな……

それと同時に、その思いきった行動力が羨ましく思えた。
私にもそんな勇気があれば……

あんな失敗はしなかった。
皆の期待を裏切ることもなかった。

私たちは中庭のベンチにしばらく無言で座っていた。
すると、あの子が口を開いた。

「私ね、ほんとはバレーするのこわいんだ。」
「え……?」

何で?
私がそう問うまえに答えた。

「私がコートに立つとね、皆が笑うの。
すぐ吹っ飛ばされそうな華奢な体で、身長も小さいのにバレーなんかできるのかって。」

……ごめん、私も思った……((汗

「でもね、バレーが好きだから。ずっとやっていたいから、やめたくないんだ。」

優しい声が心にしみる。
私も、バレーをするのがこわい。
試合に出たくない。
だけど、『バレーをやめてしまいたい。』
そんな感情は不思議と生まれてこなかった。

それはきっと、バレーが好きだから。
まだ続けていたいという自分がどこかにいたから。

__この子は……私と同じ。

気がつけば私も、
自分の思いを打ち明けていた。
なんでかはわからないけど……。

その子は、私の目の前に来て笑顔でこう言った。


『一緒に、勇気へアクセスする方法を探そう』


__これが、後に世界のコートに共に立つことになる、私と貴方の始まり……__


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id:grankoyama

ご回答ありがとうございます。

面白かったです。
バレーボールが当たって怪我というのが、ほんとにあることなのかどうなのか引っ掛かりましたが(アタックを受けた怪我をわざとだとか罵る敵チームの不自然さも)、それ以外は読みやすくスムーズな流れで、テンポよく読めました。
閉じカギかっこ(」)の前の読点(。)があったりなかったりするのが気になってしまったので統一しておいたほうがよいでしょう。
世界への第一歩という締め方は素敵です。びっくりは無かったですけど。

あ、辛めをご所望でしたね。
演出として最後に名前が呼ばれるのはわかるんですが、バレーって控えメンバーもいますよね? 代表。
最後に呼ばれたらレギュラーじゃないんじゃない? って思ってしまいました。
佐藤さんが引き続きエースアタッカーとして期待されているみたいな描写が欲しかったかも。
もしくは控えメンバーですら嫌だという心理描写。
新人戦試合中の「佐藤さん!!」ってのがちと不自然かな? 新人戦だから佐藤さんの同学年が多いように思えます。
自然にあだ名とかも醸し出しておいたほうが、チームの結束とか仲良しぐあいが表現できたと思います。
そんな感じ。
f:id:grankoyama:20130110120751p:image

それよりなにより入試に向けて頑張ってください。

2013/01/10 12:55:39
id:sokyo

おおおスゴい! 伊吹。さんの部活シリーズだ♪(≧▽≦)/

お勉強がんばってね。応援してます☆

2013/01/12 21:24:38
id:misato385 No.4

回答回数59ベストアンサー獲得回数9

ポイント33pt

『うたう』

 ククワの森。聖地の入り口があるとされ、立ち入りを禁止されている場所で、ククワと呼ばれる樹が生い茂る美しい森だ。聖地の入り口には神殿が建てられ、そこを守るためにククワの民と呼ばれる者が存在する、と何かの本には書かれていた。
 しかし森への進入……侵入は呆れるほどに容易かった。入口には立ち入り禁止の立て看板のみで、道はひたすらに一本道。ククワの民の住む小さな村が見えてきても、門はなく見張りも居なかった。
 「誰よ、あんた!!」
ふいに聞こえた声に驚き、辺りを見回したが相変わらず人の姿は見当たらない。隣を歩く愛馬のコリンが、足を止めた。何かが居るらしい。
「誰だって訊いてんのよ、無視するな!!」
キンキン声の主を探すと、声のした方――足元に、小人が立っていた。
(……初めて見たなあ、小人)
ゆっくりと腰を下ろし、小人の少女の姿を観察する。昔話の絵本で見たククワの民、小人の一族。背丈は人差し指と親指を広げた長さくらいしかない、小さな人間。普通に生きていれば一生会うことはない筈の存在に、僕は今話しかけられている。3年前の、弱虫だった自分からはとても考えられないだろう。
 「黙ってないで何とか言いなさいよ!!」
「え? ああ、ごめん……僕はマチアス。ロビンを探してるんだ」
『ロビン』の名前に、彼女は顔色を変えた。行方不明の少年、僕の友達の名前だ。口を閉ざした彼女に、僕は今までのことを話した。

 ククワの民は、精霊が各地で保護した迷子を世話するという仕事を持っているらしい。村の中には小人と子供ばかりで、大人の姿は見当たらなかった。けれど何故か皆僕を見ても驚かない。
「ここで育ったカルガラ人は、神官になって聖地を守るために、大きくなるとこの森の奥にある悟りの樹海で修行をするの。別に大人がいるのが珍しいってことはないわ」
先程のキンキン声よりは落ち着いた声で、小人のリリーは言った。
 小さな村は、黄水仙の咲き誇る美しいところだった。小川には清水が流れ、小動物たちは人間に怯えることなく丘を駈けている。
「ここで育ったんだな…ロビンは」
そう思うと羨ましくもあり、少し切なさを感じた。
「長老なら、きっとロビンのこと知ってるわ。ロビンが何故旅立ったのかもいい加減教えてもらいたかったのよね」
肩に座っているリリーは、
「ついてってやるんだから、感謝しなさいよ」と偉そうに笑っている。素直に礼を言ったら、何故か勘違いをするなと耳を引き千切らんばかりに引っ張られた。

 「長老、カルガラ人が来たよ。ロビンを探してるんだって」
広間の切り株に腰掛けて、子供たちを笑顔で見守っていた老人に、リリーは声をかける。老人はしばらくしてゆっくり振り向き、僕の姿を見るなり眉間に皺を寄せた。
「ここは立ち入りを禁じられた森だ。何をしに来た、小僧」
長老は傍に立てかけてあった槍を手に取り、鋭い視線で僕の喉元を見据えた。突然の殺気に背筋が冷たくなる。コリンが落ち着きをなくし始め、慌てて首に手をまわして宥めてやった。
「だから、ロビンを探して…」
「リリー、この馬鹿者が!! 何のために武術を習ったか考えろ!!」
 気付くと武器を構えた子供たちに囲まれていた。自分が侵入者であることをようやく実感する。今にも跳びかかってきそうな彼らと戦うつもりはないが、どうやら話を聞いてくれそうにない。しかし、見張りが居なかった理由が――戦闘に慣れていることがその隙の無い構えと滲み出る殺気から分かる。
「何か方法は…」
コリンに預けてある荷を見て、何か使えただろうかと考える。背中に背負う剣以外、武器の殆どは運び屋に任せてしまったし、やはり戦闘は避けたい。この状況をどうにかできるものがあったかどうか……!!

 ――竪琴。

 ロビンがあの日教えてくれた子守歌を。彼がいなくなってからも、何度も練習したあの歌を。ロビンがくれた竪琴を取り出して、僕は意識を研ぎ澄まし、繊細な音色を紡いだ。
 『この音色が僕の、僕らの絆だ』
ロビンの言葉を思い出す。彼が育ったこの村の歌。少し物悲しい旋律は黄水仙の花咲く森に響き渡る。音の粒一つ一つが、故郷に帰って来られたことを喜ぶかのように弾けた。
 ロビンの持っていた筈の竪琴に、そして自分たちしか知らない筈の歌に、子供たちは皆驚いて武器を落とし、長老は槍を静かに下ろした。刺々しかった空気が無くなったころに、弦を弾く指を止める。
「僕はマチアス。ロビンを探しています。彼は大切な友達なんです。何か知っているんだったら、教えてくれませんか」
暫くの間。信じてもらえる自信もなかった。しかし目を逸らさず、訴えかける。
「……信じてみよう、マチアス」
静かに長老は頷いた。リリーが隣で安堵し、僕もホッと溜息を吐いた。
 竪琴の音色がまた、僕に新しい繋がりを与えてくれた。

 沢山のものが変わってしまっても、それでも変わらないものがあるから、僕らは生きていけるんだろうね。

id:misato385

御免なさい、結局ネタがなくて続編書いた上にお題和訳しまくりました←
言葉遊び楽しいです。
ラストも特になんにもないです、起承転結を意識したような気がするようでしないです。
講評は…おまかせで。激辛は食べられないですけど…。

2013/01/11 08:23:00
id:grankoyama

ご回答ありがとうございます。

これは面白いとか面白くないとかとは別次元の作品。
3回ほど読み直しました。
で、特に粗がない。充分な文章力と独自の世界観に裏付けされた良い作風だと思います。
ただ、面白味という点ではどうでしょう。
長ーいながーいお話の一部抜粋としては、文句のつけようもないのですが、
ショートストーリとすると盛り上がりに欠けるかなってのが、唯一の惜しい点。
あと、びっくりが無い。
BAには届きませんが、良い作品であることは確か。
どうしても緑の勇者さんの世界が喚起されるのは、致し方なしか?
☆よっつに限りなく近い、みっつはんです。
f:id:grankoyama:20130110120751p:image

2013/01/11 13:25:04
id:kobumari5296 No.5

回答回数60ベストアンサー獲得回数4

ポイント32pt

 出会いがあれば別れがある。そんな当たり前のことを、学生時代は知らなかった。知らないふりをしていたのかもしれないし、心の奥で知っていたが前に出なかっただけかもしれない。とにかく、意識なんてしていなかった。気づき始めたのはいつものメンバー全員が大学合格をして、卒業式まであと数日という頃。思い出づくりにいつも以上に仲良くすればいいものを、なんとなくぎくしゃくして、言葉をのせたボールを相手に投げるのだって、恐る恐るになっていた。このままではマズイ、ルームシェアまで考えた仲良し四人組が崩壊してしまう、と思いつつも、そのまま迎えた卒業式。ムードメーカーの旭が、登下校に使う駅で泣きながら抱き合う三人に、涙をこらえた鼻声で言った。
「お酒!」
 叫んだ、と言った方が早いかもしれない。旭の言葉に美鈴も藍子もミサも、意味が分からず、涙でグシャグシャな顔を向けたまま、口をあんぐり開けて旭を凝視していた。
「おさけ?」
 おっとりタイプの藍子が問う。
「そう、お酒!つまり、ハタチになってこの日を迎えたら、学校にまた集まろう。」
「あんた、何でわざわざ二年も待つのよ。」
 ツッコミ役のミサが小突く。三人とも、なんだか冷静になってきた。
「違うよ、連絡をとらないの。それでも二年後覚えていて、集まったら素敵じゃない?」
 いかにも天然の旭らしい。お別れの涙はもう止まって、代わりに流れたのは笑いと期待と感謝の涙。
「素敵だね……バカ旭。よかったね、あたしたちが遅生まれで。早生まれだったら、成人式で会うじゃない。」
「あ。」美鈴は、いつもの通り旭を馬鹿にした。笑いが起こる。

 それから、ちょうど二年。
「ちょっと、お母さん、なんで起こしてくれなかったの?!」
 立川美鈴、ニ十歳と十か月。現役バリバリの大学生だ。
「大学生にもなった子が、耳にタコができるぐらい楽しみだって聞いた日に寝坊するなんて、思わないでしょ。」
 美鈴は法学部に進んでいた。目指すは新進気鋭の弁護士。裁判官をやっている父親の影響で、法曹の世界に入ろうと思うのは自然だった。
「あ、あんた、そんな恰好で……!」
「いいのっ!行ってきます。」
 飛び切りの笑顔で母親に言い、トーストを口にくわえて飛び出した。まるで、漫画のひとコマだな、と自分に言うが、興奮が収まらない。

「じゃ、行ってくるわね。」
 国分藍子、ニ十歳五か月。旧姓・小金井。進学した音楽大学で出会った一歳年上の先輩と学生結婚し、子供に恵まれた。お互い中流家庭で学生結婚と言う、貧乏街道をまっしぐらで進んでいたため、籍を入れただけだ。
「決して酒は飲むなよ。一人の身体じゃないのだから。」
「分かってるわよ。びっくりするかな、みんな。」
 この日を楽しみにしていた藍子は、友人たちに自分の事情を伝えていない。ちょっとしたサプライズを仕掛けているのだ。
「では。」
「お、おい藍子!」

「……ばっかじゃないの。」
 小平ミサ、ニ十歳と半年。本来なら大学二年生なはずのミサが、大学一年生を頑張っているのは決して勉強が好きだからではない。俗にいう留年、というやつである。
「来ないし。」
 ミサは誰よりも早く高校に来ていた。五分前行動は社会通念上常識だが、もう二時間は待っている。いくら気の強い人間でも弱気になるだろう。
『もしかして、忘れてる……?』あの日、決めた秘密の約束。
「あ、ミサだ!」「ミサー!」
 友人たちは、期待を裏切らない。ミサは、いいことなしの日常を暮らしていた自分の口角が、久々に上がるのが分かった。
「あんたたち、おっそい!私なんて、二時間も待ってたんだから。このカッコで!」
「ミサー、やっぱり君はいつまでも気が早い。」
「やっぱ、学校に集まると言ったらこれだよねぇ。まさか、みんなも制服で来るとは思わなかったな。」
「うっさい美鈴……って、藍子、そのお腹……!」
「結婚したのー。」
「お、教えてくれればいいのに!」「ねぇ~、あたしも言ったんだけど、サプライズしたかったんだって。」
 柔らかく笑う藍子。興奮のせいで叫んでばかりいるミサ。それを見て笑っている美鈴。まるで高校時代に戻ったかのようだ。決して約束していたわけではない。久々に会ったメンバーは、皆、制服で集まっていた。意思疎通もバッチリどころか、ここまで合うと流石に怖い。
「で、発起人が来ないわね。」
 清瀬旭の姿がない。高校時代の彼女なら、ミサよりも早く来るはずだ。三人できょろきょろとあたりを見ていると、駅の方から中年の女性が、こちらに向かって手を振った。
「もう、みんな元気だった?」
「旭のお母さん!」
 二年の年月は意外と長いのか、久々に見た旭の母は、一回り小さくなっていた。
「あの、旭は――」

 旭の家は、高校最寄りの駅から一駅だ。旭の母に招かれた三人は、約束を交わした時とは違う涙を流していた。
「美鈴ちゃん、藍子ちゃん、ミサちゃん。あなたたちに会うことを楽しみに闘病していたのだけれどね。一緒にお酒呑むんだーって、もう、本当馬鹿よね。」
 旭の顔は、白かった。生気がなかった。しかし、唇は不自然に赤かった。この体は――ぴょんぴょんと跳ねていた旭の身体は、ただの臓器の入れ物になっていた。
「最期、本当に最期よ。あの子、遺言みたいにこう言ったの。」
 それを聞いて、旭らしい、と、三人は泣き顔で笑った。旭の母は、涙を堪えきれなかったのか、「さぁ、こちらへ。紅茶でも飲みながら、お話聞かせて?旭の代わりに。」と促した。三人とも、それに続く。ニコリと笑った顔が、高校生にしては童顔の旭とリンクする。

『お母さん、泣かないで。私はどこへ行っても、お母さんたちと、美鈴と、藍子と、ミサの傍にいるから。私たち、運命の赤い糸……ううん、赤いパイプみたいなので繋がっているんだから。』

他1件のコメントを見る
id:grankoyama

よくできていると思います。

難点。かなり早い段階でネタバレというか旭が来ないフラグが立っちゃってると思いました。
小説なんだから、時系列をずらすとか心理描写とか入れて、旭がさも元気に集合に向かうぞ!みたいな描写を入れてだまくらかしておけば、ラストがもっと活きると思いました。
BA候補です。

2013/01/18 11:52:46
id:kobumari5296

講評ありがとうございます。
的確ですね。ズバッと指摘していただき、「なんだろう」と思っていた“パッとしない感”が晴れた気がします。すごいと思います。
まだまだ若輩者ですが、先輩たちに追いつけ追い越せで頑張ります。
BA候補まで上がれたことは、嬉しいです。感謝感謝。

2013/01/19 14:39:18
id:sokyo No.6

回答回数1377ベストアンサー獲得回数97

ポイント34pt

『ずる休まない』

バタン!
玄関扉が閉まった。静寂が訪れた。
俺は時計を見た。8時10分。
まだ、間に合う。

「じゃあ、今から会社行ってくるけど、今日はちゃんと卒業式出るんだよ? まだ間に合うんだからね」
母親はそう言って家を出た。絶対に来るなと言い含めたから、母親が学校に来ることはないだろう。
今日は俺の、中学の卒業式だった。今から俺がすべきことは、朝飯を食い、顔を洗い、制服に袖を通して、明るい顔で学校へと向かうことだ。
そのために必要なことは、もうほとんどお膳立てしてあった。台所に朝飯は用意してあったし、洗顔は浴室から洗面台に持ってきてあったし、制服はブラシ済みで壁に掛けてあったし、ワイシャツはこたつの中で温めてさえあった。
朝は身体が重かった。それでも起きた。こたつに気をつけながらの朝飯はほとんどのどを通らなかった。それでも食べた。洗面台の水はしびれるほどに冷たかった。それでも洗った。けれど、こたつから取り出したワイシャツはしわだらけだった。
こたつの反対側から飼い犬が逃げ出した。
…ああ。やっぱり無理だ。
俺はワイシャツを投げた。緊張の糸にハサミを入れた。

最後に学校に行ったのは、ちょっと思い出せないぐらい前だった。別にいじめられた訳じゃない。今流行の体罰とかでもない。授業や、クラスメイトや、校則やらのレベルの低さに嫌気が差しただけだ。そこには事件もドラマもなかった。いつしか俺は昼を家で過ごすようになった。
家族が出払うと、家の中はとても静かになった。俺はとりあえずPCを立ち上げた。そしてその起動の画面を見ていた。
今クラスの奴らは、めいめい卒業証書を受け取るころだろうか。そしたら校長の話だろうか。来賓の挨拶だろうか。その他に卒業式って何をしただろう。
今日を逃すと、クラスの奴らに会うことはないだろう。俺は、遠方の私立に合格を決めているけど、そこに行く奴はこの中学にはいない。この気持ちは、名残惜しさじゃない。でも清々しさでもない。切なさじゃない。悲しみじゃない。でも喜びでもない。
PCにはすぐ飽きて、俺はリビングのテレビを点けた。情報バラエティ番組が、聞いたことのある名前を発している。「kiss & keep」。確かメンバーが俺の中学の出身とかいうバンドだ。
画面は、まさにその中学を映し出した。
「…が、出身中学でサプライズライブを行いました」
カメラは体育館の小さなステージを映し、バンドのパフォーマンスを映し、切り替わって歓声を上げる卒業生たちが映した。いや、卒業生たちじゃない。それぞれ固有名詞を持つ、俺のクラスメイトだ。俺はひとりひとりの顔を見て、ひとりひとりの名前を思い浮かべた。
ふと、俺はその群衆の中に、驚くべき人を見つけた。
俺が、いた。
馬鹿な、と思う。しかし、クラスを、出席番号を鑑みれば、やはりその位置に立っているのは、俺だった。俺はあんなところで、いったい何をしているんだろう。

その時だ。不意に玄関のチャイムが鳴った。しまった。これでは家人がいることが筒抜けだ。普段ならこんなに間抜けなことはしなかった。これではまるで、善良な中学生が、慣れないずる休みをしているみたいだ。
外の人物は鍵を使って玄関扉を開いた。廊下を歩いてリビングに近づいてくる。飼い犬は吠えない。誰だ。母親か。どんな顔をしたらいいのだ。
考えている間にリビングのドアが開いた。現れたのは、意外な人物だった。
それは、俺だった。
制服を着て、胸の名札に花を付けていた。奴は誇らしげな顔でにやりと笑い、
「卒業式に行かないのか」
と言った。

俺は無理やりテレビに目を戻した。さっきのニュースはとうに終わっている。でも視線を動かしたくなかった。見るのが怖かった。聞くのが怖かった。
しばらくそうしていると、今度は奴のほうから視界に現れた。奴は制服を脱ぎ、紺のパーカーに着替えていた。そういえば、いつの間にかさっき投げたはずのワイシャツが消えていた。
「立てよ」
奴は言う。
「いいから立てよ。まだ遅くない」
しつこい。俺には関係ない。
「関係ないだと。大アリだ。リンクしてんだよ。過去は現在と。現在は未来と」
テレビに目を戻した。
「俺は、未来のお前だ」
うるさい。
「お前は今、時の流れから取り残されてんだよ。このままだと多分、一生中3の3学期のままだぜ」
テレビに集中できない。
「アクセスしろよ。外の世界に」
テレビのボリュームを上げる。聞きたくない。
「じゃ、俺は先に行くからな」
テレビのボリュームをさらに上げる。聞きたくない。聞きたくない。
「クラスの奴らと、飯を食いに行ってくる」
テレビのボリュームをさらに上げる。聞きたくない聞きたくない聞きたくない。
「今のお前には信じられないだろうがな。じゃあな」
奴は家を出た。

バタン!
玄関扉が閉まった。静寂が訪れた。
俺は時計を見た。8時10分。
まだ、間に合う。

id:grankoyama

おおっう!
SFチックですね。
仕掛けとストーリはばっちり。特にとやかくいうようなことがないくらいまとまってます。
その分、主人公の感情というか、そっちの描写が希薄な感じがするのが唯一惜しいところ。
筋立てや着想、テンポ等の総合評価は一位です。
これで、こころを掴むなにがしかがあれば、BA確定でした。

2013/01/18 11:55:08
id:gm91 No.7

回答回数1091ベストアンサー獲得回数94スマートフォンから投稿

ポイント31pt

「伝説」

(話が違うぜ、会長!)

 俺はリングの上で、無敵のチャンピオン様にボコられらながら、この場に立っている事を後悔せずにはいられなかった。
 無敵のチャンピオン、そう、今俺の目の前に立っている男、人呼んで「M」は、24戦24勝20KOまさに無敵の男だった。
 Mってのは、奴の隙の無い冷徹なファイティングスタイルから来ているあだ名だ。
 MachineとかMasochistの略って話だが、本人はあんまり興味がないらしく真相ははっきりしない。

「無敗とは言え40過ぎのロートルだ、お前が伝説に終止符を打て」
 なーんて調子のいい言葉にノセられた俺も軽率だったが、なんだってこんな化け物相手にボクシングなんてやらなきゃいけないんだ。

 今にして思えば、「40過ぎで無敗のチャンピオン」という点をもっと真剣に考慮すべきだった。パンチの重さはそうでもないし、スピードだって俺と互角だ。しかし、俺と奴では決定的に何かが違う。闘志、いやそんな生やさしいもんじゃねえ、殺意とでも言うべき恐るべき意志の塊が俺の目の前に立ちはだかる獣の正体だ。
 
 こいつはmachineでもマゾでもねえ、正真正銘のMurderだ。

 とにかく、俺は奴のパンチをかわすのが精一杯。1Rを何とか凌いだものの、俺は絶望と疲労で折れる寸前だった。俺はうがい水を吐き出したついでに、恥も外聞もなく弱音も吐きだした。
「俺ダメっす、もう無理っす、勝てる気がしないっす!」
 顔を茹で蛸のように紅潮した会長は、俺を必死に奮い立たせようとする。
「何を言うか!試合前に教えた言葉を思い出せ!」
(え~~~となんだっけ?)
 頭が痺れて思い出せない。なんだっけか?

 カン、と乾いたゴングの音が無情に響く。

「あの、えっと、会長?」
「しっかりしろ!いいか、アクセスだ!アクセス!」
 ああ、そうそうアクセスだった。
「セコンドアウト!」
 レフリーから厳しいお言葉が飛ぶや否や、さっとリング下へ飛び降りる会長。

 そうそう、苦しいときの秘密の呪文、ア・ク・セ・ス。
 あせらず、
 くじけず、
 せいかくに、
 す・・・・・・え?え?マジ思い出せないんだけど?

 狼狽える俺に容赦なく襲いかかる奴の拳。
 右右左、右右左とジャブが続き、ガードの上からおかまい無しに渾身の左フック!
 ガードした腕がビリビリと痺れる。
(痛ってえ!いやいやいやいや、落ち着け俺!)

 尚も襲いかかるチャンピオン、右右左とジャブを繰り出してくる。
 必死で逃げ回りながら俺は呪文を唱え続ける。

 あせらず、・・・うん
 くじけず、・・・うん、まだいける
 せいかくに、・・・うん、まあなんとか
 す・・・・・・・・・・・・すすすすすすすすすす!くっそー!!
 すこやかに! 違う!
 すみやかに! 惜しい!
 すっぱい! ああそうさ、この試合のことさ? じゃなくてっ!
 すーすーすっ! それはお袋の口癖だ!
 すれちがい! DSやってる場合じゃねえ!
 すばらしい! 何が?日曜?
 すばる! さらば~♪違うっ!

 焦燥する俺をあざ笑うかのように奴の攻勢は続く。そして防戦一方の俺。
 うおお、必死でガードするが段々腕が痺れてくる
 ひるんだ俺の一瞬の隙を見逃さず、奴のボディーブローが土手っ腹に入った。
 うげっ、と俺が苦痛に顔を歪めるのをチラ見して、とどめとばかりに襲いかかる奴の左フック!俺も上体をスウェーして必死にかわそうとするが、間に合わない。
 やられる!
 そう観念した瞬間、力の抜けた俺が体制を崩すと、俺の鼻先を掠めて奴の左フックが空を斬った。一方、本能的に右足を踏ん張って転倒を免れた俺の右腕はバランスを取る為に大きく空中を泳いでいた。そしてそのまま大きく弧を描いて、奴の左顎へ吸い込まれる俺の右拳。

 感触はなかった。空振りしたのかと思ったくらいだったが、奴はバレリーナのようにクルクルと3回転した後、リングに沈んだ。
 レフリーがひどくゆっくり10を数える間は何が起きているのかわからず、夢でもみているような心持ちだったが、ガンガンガンと鳴り響くゴングの音と歓声と悲鳴と怒号と会長の暑苦しい泣き顔が俺の頭の中で一斉にリンクした時、俺はひょっとして奴の伝説にトドメを刺してしまったのでは無いか?という新たな疑問に取り憑かれた。

(了)

他1件のコメントを見る
id:grankoyama

以前に汗臭いの好きっていってましたので、あれの返歌のように受け止めれました。
笑えました。
『す』がなんなのかがわからずじまいでありつつ、スウェーしちゃってるので、勘違いを防ぐためにもスウェーしない方が良かったと思います。ダッキングとか。
ラストでのあっという驚き不足。

なんだかんだまとまってて、良かったのでBA候補でした。

2013/01/18 11:57:43
id:gm91

我無念我的力量。
我気楽、陛下的作品是素敵。
多謝。

2013/01/18 13:51:04
id:grankoyama

sokyoさんに、何かひとつ、印象深いフレーズがあればBAでした。

京さんに、もうすこし起伏というか盛り上がりというか山場があればBAでした。

コブマリさんにサプライズとか伏線やトリックがあればBAでした。

GM91さんがもっと突っ走ってればBAでした。

というわけで未だ決めきれてません。

つみほろぼしにまたかきつばたやります。

  • id:misato385
    リクエスト ありがとう ごじます。
    ……ええ、頑張ります。
    緑衣の勇者さんに走らないように頑張りますよ!!
    関連商品が気になりすぎるけど我慢しますよ!!
  • id:kobumari5296
    重なりますが、リクエストありがとうございます。
    期待(?)に沿えず、申し訳ない……
  • id:maya70828
    開催中で気が早いかもしれませんが、次回のかきつばた杯はたけじんさんに開催して欲しいとリクエストを希望!
  • id:takejin
    自動終了必至だと思うんだけどねぇ。しばらくは難しいなぁ。
  • id:gm91
    リクエスト もろたはいいが ネタがない

    りんくうタウンまでラピートで20分の好アクセス!
    とかぼんやり考えてたらあえなく撃墜された。
  • id:ibuki81
    皆さんリクエスト受けてらっしゃったんですね。
    勝手に参加したのって自分だけかな……((殴
    後 自分リンクとかアクセスの使い方がおかしい気が←

    いろいろとすみませんでした←((orz

    受験頑張ります。

  • id:kobumari5296
    伊吹。さん、受験fightです。
    私も今月MOSの試験、控えてるのでドキドキです。
  • id:ibuki81
    皆さん、色々とコメントありがとうございます!!

    指摘していただかないと気づかない不自然さがまだまだあるようで……((汗
    まだうまくなる余地、ありますよね??←
    次はもっとましな作品かけるように頑張ります。
    ご講評ありがとうございました!!!!

    受験頑張れとのメッセージもいただき、嬉しい限りです(^^)
    2か月後、良い報告ができるよう努力します。
    まず2月1日の私立だ、うん。←
    公立は3月です←←

    コブマリさんも頑張ってくださいね(*´∀`)
  • id:kobumari5296
    伊吹。さん、ありがとうございます。私も頑張ります。
    私は今月25日です(^_^.)
  • id:a-kuma3
    ああ、何か駄目だ。
    せっかく、リクエストをもらったのに、ごめんなさい X-(

    かきつばた的には、まだ年が明けていません...
  • id:gm91
    うう~~ん、なんとなく、ぼや~~~っと壮大なストーリーの断片が浮かんできたような気がしますが、全然まとまる気配がない・・・oTL
    もうダメかも・・・。
  • id:grankoyama
    グラ娘。 2013/01/12 22:29:29
    明日の夜まで待ちますよ(*^_^*)
  • id:gm91
    変化の胎動が感じられる気がしなくもないので、ギリギリまでがんがります。
  • id:kobumari5296
    頑張ってください、GM91さん!
  • id:gm91
    夜って、何時だ〜?
  • id:grankoyama
    グラ娘。 2013/01/13 17:11:00
    22時くらい?
  • id:gm91
    間に合った!
  • id:grankoyama
    グラ娘。 2013/01/13 23:12:31
    すんません。講評は、時間のある時にしますので、気長にお待ちください。
    (といっても次ぎの火曜か水曜か木曜か金曜にはするつもり)

    BAは、上位の方々が団子です。好き嫌いではなく、全体的なまとまりとか、オチとか、印象フレーズとかでポイントに差を付けたのでBAとは必ずしも一致しません。しばらく悩ませてください。
    (とはいえ、sokyoがまたBA取る可能性も高いんですよね~)
  • id:kobumari5296
    グラ娘。さん、真剣に考えていただいてありがとうございます。
    精進します。

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