先日、学校の生物の授業で次のような実験を取り扱ってました。
ハーシーとチェイスの行った実験についての内容です。
①大腸菌を硫黄の放射性同位体(35S)を含む培地で培養しそれにファージと呼ばれる他生物に感染し、増殖する菌を感染させ、ファージを35Sで標識させる。
②大腸菌をリンの放射性同位体(32P)を含む培地で培養しそれにファージを感染させ、ファージを32Pで標識させる。
③これらのファージを放射性同位体を含まない培地で培養した大腸菌に感染させる。
④大腸菌に付着したファージの殻を取るため激しく攪拌させる
⑤遠心分離させる
この事から遺伝子の正体がDNAであることが分かるらしいのですが、その理由が分からないです。その理由を教えて下さい。
私はまだ高校生なので専門的な言葉の知識は疎いです。
なるべく噛み砕いて説明してくれれば有り難いです。
詳しくは
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%81%A8%E3%83%81%E3%82%A7%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%81%AE%E5%AE%9F%E9%A8%93
にも載っていますのでまず読んでみてください。
キモは、
①ファージというのはDNAウィルスの1種で遺伝情報を(ちゃんと)もっている。
この遺伝情報をもつ遺伝物質がウィルス内の何に由来するのかを調べれば遺伝物質が何か判るだろう。
②ファージの有機質はDNAとタンパク質だけから出来ている。だから遺伝物質はDNAかタンパク質のいずれか。
(普通の細胞に含まれる細胞膜やATPなどをPを含む細胞質を含まないので
放射性Pで標識されるDNAだけ、放射性Sで標識されるタンパク質だけをトレースできる)
[このシンプルな系を見い出したのが最大の成功要因ですね。]
③ファージを大腸菌に感染させると、遺伝物質が大腸菌内に移動してファージの遺伝情報を発現させる。 移動する物質はファージを構成するうちのDNAかも知れないしたんぱく質かも知れない。
(ファージから大腸菌内に移動した物質が遺伝情報担っていると考えられる)
④攪拌と遠心分離で、大腸菌とファージの殻を分離したとき
ファージから大腸菌の細胞質に移動したのは放射性Pで標識されたDNAだけだった。
(ファージの構成物質から移動してきた物質にたんぱく質は無かった)
⑤以上から(ファージの)遺伝情報を担う遺伝物質がDNAであって、タンパク質は関与しない事が証明された。
ということです。
この事から遺伝子の正体がDNAであることが分かるらしいのですが、その理由が分からないです。その理由を教えて下さい。
質問に書かれた手順だけでは、まだ DNA が遺伝子であることは分かりません。
その後、
⑥遠心分離して、大腸菌とファージの殻に分離すると
35S で蛋白質にマーキングした方は、ファージの殻から 35S が検出される
32P で DNA にマーキングした方は、大腸菌から 32P が検出される
→ DNA だけが、大腸菌に取り込まれたことが分かります
⑦遠心分離した大腸菌を観察すると、どちらもファージが増殖する
→ 35S でマーキングした物質が無くても、ファージは増殖する。
ファージは蛋白質と、DNA だけで構成されるので、32P でマーキングした DNA が増殖に必要なもの、つまり、遺伝子なんじゃね?
ということになります。
ここに貼ってある Flash アニメが分かりやすいかも。
http://www.aichi-c.ed.jp/contents/rika/koutou/seibutu/se18/T2_Phage/T2_Phage.htm
実験当時では、ファージの形はぼんやりとしか分かってなくて、蛋白質と DNA だけで構成されているということが分かっていただけです。
とりついたときになんか注入してる、というようなイメージはハーシーとチェイスの実験では分かりません。
この実験の以前にもファージに放射性同位体でマークして追跡する実験はあった。その結果ファージの構成物質のほとんどが大腸菌由来であることが判明しており、これは触媒説を支持するとの見方があった。ハーシーとチェイスの実験は、これをより詳細に物質ごとに分けて追跡したものである。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%81%A8%E3%83%81%E3%82%A7%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%81%AE%E5%AE%9F%E9%A8%93#.E8.83.8C.E6.99.AF
大腸菌内部で増殖したファージの体は、もとのファージからではなく、大腸菌にある物質で作られている、ということが、その当時分かってました。
つまり、もとのファージからは、増殖に必要な(材料ではなく)「情報」だけが伝わって、次の世代のファージが出来上がっているのだろうと考えられてました。
「情報」すなわち、「遺伝子」です。
絵までも張って頂きありがとうございます。大変分かり易かったです。
前提:ファージは、DNAとタンパク質のみから出来ているウイルスで、自己増殖する能力はありません。大腸菌などに感染して(大腸菌DNAに自らのDNAを注入することで)増殖します。
①硫黄はタンパク質には含まれますがDNAには含まれていません。したがって、タンパク質が35Sで標識されます。
②リンはDNAには含まれますがタンパク質には含まれません。したがって、DNAが32Pで標識されます。
③大腸菌に感染したファージは、タンパク質が35Sで、DNAが32Pで標識されたものにになります。オリジナルの大腸菌は標識されていません。
④ファージの殻は35Sで標識されたタンパク質なので、この過程で除かれるはずです。
⑤遠心分離でDNAを抽出する作業です。ここで32Pで標識されたDNAが検出されるはずです。
よって、遺伝子の正体はDNAとなります。
丁寧な御回答ありがとうございます。
ちょっとだけ、だけど肝心な部分の誤解がありそうなので。
⑤ 「遠心分離でDNAを抽出する作業です」→遠心分離でファージの外殻と大腸菌を分離する作業です。だと思いますが。
振盪→遠心分離だけではDNAは手に入りません。
ここは、殻のついていない大腸菌から、ファージが量産されることを確かめる前提条件なだけです。
丁寧な説明、ありがとうございます
2013/06/23 12:52:31