未発表オリジナルの創作小説・イラストを募集します。
創作物の紹介ではなく、書き下ろしでお願いします。
最も優れた作品には200ptを差し上げます。
応募者全員に共通する課題テーマは「萌え」(具体的には、少なくとも一人は美少女または美少年キャラが登場すること)、
課題モチーフは、「秋」「巫女」「シスター」「女医」「ナース」のいずれか選択(複数可)してください。
400字程度(一割程度の誤差は可)の日本語文章、または最大400kb(メジャーなデータ形式)の画像・音声・動画等を、回答で掲示(画像等はリンク)してください。
投稿作品は「萌え理論Magazine(http://d.hatena.ne.jp/ama2/)」または「萌え理論Blog(http://d.hatena.ne.jp/sirouto2/)」への転載をご了承ください。
その他細かい事項はhttp://d.hatena.ne.jp/ama2/20061027/p1を参照してください。
『秋色の教室』
「ねえ、これ本当に似合うかな」
布地に針を通しながら彼女が聞いてくる。僕の手には彼女と同じ白い布地。
「なんだか偽者っぽいよね」
教室の入り口に設えた赤い鳥居の張りぼてを眺め、彼女がくすりと笑う。
窓の外を眺めると、夕暮れに染まった空と紅葉が描き出す、秋の世界。
「そもそも巫女喫茶ってね。私はお化け屋敷が良かったのにな」
静かな教室で2人きり。彼女は手を止めると、僕のことを悩ましげな目で見つめてきた。
「私も着る…んだよね」
諦めた表情でまた裁縫に取り掛かる彼女を見ると、自然と笑みが零れた。
「あ、笑ったな。ひどいんだ、ひどいんだー」
膨れ面になる彼女に苦笑を返し、ひとしきり文句を垂らし合うと、裁縫を再開する。
校庭から聞こえる野球部の掛け声だけが耳に響く静かな世界。
彼女の息遣いすら聞こえそうだ。
気づくと机に突っ伏し寝息を立てていた彼女。
僕は出来上がった白衣を彼女の肩にかけ、新しい布地にまた針を通していった。
野球部の掛け声と彼女の寝息が聞こえなくなるまで、のんびりと。
(終)
題名「神無月の出張」
「出雲大社に出張?」
巫女姿で神社の境内を掃除していたら、お稲荷さまが唐突にそんなことを言い出した。
「そうじゃ。来月は神無月じゃから、全国の神が出雲に集まるのじゃ。わらわも神の端くれ、当然往かねばならぬ」
「っても、お稲荷様ひとりで大丈夫?」
お稲荷さまは狐耳としっぽを生やした、座敷童のようなちっこい娘で、とても神様っぽく見えない。
「本当はわらわも少し心細いのじゃ。なにしろ出雲は偉い神様がたくさん集まるから、わらわのような末席は肩身が狭いわ息苦しいわで大変なのじゃ」
うるると眼に涙をためるお稲荷さま。あたしは少し同情して、つい出来心を抱いた。
「じゃあ、付き添ってあげようか?」
「まことか?」
表情を明るくしたお稲荷さまは、でもすぐにうつむいた。
「神に人の付き添いなど聞いたことがないのじゃ。恥ずかしいのじゃ」
「でもひとりじゃ不安なんでしょ?」
こくりと頷くお稲荷さま。
「だったらついていってあげる。恥ずかしがることなんかないわよ。むしろ人間のお供を連れてきたって自慢したらいいじゃない」
「そなたは本当によいのか?」
「ちょうど旅行にも出かけたかったし、神様が一杯集まる場所というのも見てみたいし」
するとお稲荷さまはうれしそうに飛びついてきた。
「ありがとうなのじゃ! そなたにはいずれ恩返しをするのじゃ!」
「うわっちょっと飛びつかないであー袴が脱げるー!」
「ありがとうなのじゃありがとうなのじゃ」
「きゃぁー!」
秋の夕日が、そんなドタバタ騒ぎを見下ろしてるように、あたしには見えた。
(終)
では講評に入ります。開始一時間経たずに投稿された初作品。文字数多し。
神無月に稲荷と巫女が出雲に向けて旅立とうという話。宮崎アニメからネトランまで、擬人化での感情移入は定番。「設定だけ」ですが、その後の展開を想像させ、微笑ましいムードが良い感じです。
稲荷の「~じゃ」が単調で、「じゃて」「じゃろう」「じゃがのう」など変化できます。「っても」「うるる」「きゃぁ」とおきゃんな巫女との対比は馴染みますね。
タイトル:「マグロ女と純白の堕天使」
白い病室は、消毒液の酸っぱい臭いがした。
白衣姿のナースが私の服を脱がし、私の身体を丁寧に洗う。
彼女は私の顔に化粧水・乳液を優しく塗り込み、その上にファンデーションを乗せていく。
眉毛をカットされ、ピンクの口紅を塗られた。彼女は満足しているようだった。
私の全身を舐め回すナース。
「もっと、気持ち良くしてあげるね」
私は何も感じない。でも、彼女が喜んでいるのなら私はそれでいいの。
白衣の下のブラジャーが微かに透けて見えた。
それから彼女は私の首をメスで切り開き、私の血液を排出させる。
お腹に穴を開け、体液や消化器官の中の残存物を白い病室にぶちまける。
身体中の穴に綿を詰められて、縫合された。
ナースは私の全てを舐め回す。
「もっと、気持ち良くしてあげるね」
私は何も感じない。でも、彼女が喜んでいるのなら私はそれでいいの。
パンティーラインが微かに透けて見えた気がした。目が霞む。
赤黒い病室は、腐ったマグロの臭いがした。
(終)
初めてお目にかかります。
少し前にたまたまナースで妄想していたので、投稿させて頂きました
めざせ参加賞でございます。
謙遜しながらも、尖ったセンスの作品。「目が霞む」の叙述から、女の「私」は意識があるまま解剖されたのか。恐いですね。
タナトスとエロスの対照は古来よりの定型ですが、例えば『死者の奢り』では、「死」の重さに釣り合うクドい描写があります。ここでは「マグロ」という単語が、狂気をネタ化し中和して、実は表現をかえって弱くしています。単に「腐った臭いがした」とすると想像が広がります。
タイトル:もっと好きに、なってくれるのなら。
「今回は初詣に行けないかも」
この一言で、俺の予定は狂ってしまった。
毎年、裕未と一緒に神社へ初詣に行っていたのに。
大学受験のある今年に限って一緒に行けないなんて…。
一人で行くのもつまらないし。
と、思っていた。
しかし、気がつけばいつもの神社の前。
賽銭を済ませ、ふらりと御籤販売所へ行くと、そこには裕未の姿が。
「裕未、お前…」
「あ、和臣。やっぱり来てくれたんだ」
「行けない理由、これだったのか。だったら最初から言えば…」
「だって、言ったらまるで『私の巫女服を見に来て』って言ってるみたいじゃない」
「誰もそんなこと思わないって。さては、俺に見せたかったんだな。巫女服姿を」
どうやら、俺の考えが図星だったらしく、裕未の顔は真っ赤になった。
俺は、『来てよかったな』と思うと同時に、ふと気になることがあって聞いてみた。
「裕未、俺がこうやって来たからよかったけど、もし来なかったらどうするんだ?」
裕未は俺の言葉を受けて、照れくさそうに答えてくれた。
「だって、信じてたから。和臣が、ちゃんと来てくれる事を」
(終わり)
常連さんです。「俺がこうやって来たからよかったけど、もし来なかったらどうするんだ?」と作中でも言及していますが、やはり同様の疑問を感じてしまいます。作中で「信じてたから」と一応の答えは出ていますが、「気がつけば」「ふらりと」といった語が、自然さを装いながら結末に誘導しているようで、微妙にわざとらしさを感じてしまいます。どうせ誘導するなら、伏線があると行動に説得力が出ますね。
「清らかなる慈愛」
(本文)
「ふう……」
剣を振り、血糊を払う。
「終わりました。」
あたりには、妖魔の死体が散乱していた。
「その……すみません」
「いえ……」
私の言葉に、付き従うシスターは力ない口調でそうつぶやく。
「あのまま彼らが成長していたら、いつかは私達の手には負えなくなっていたはずですから……」
そう言うシスターの視線は、その中の一体に注がれていた。その足には傷の手当でもされたのだろうか、シスターの法衣と同じ、青色の布が巻きつけられていた。
「そうなる前に……前に……」
シスターの声に、嗚咽が混じり始める。その様子を見ているのがどうしようもなく切なくて、思わず、シスターの体を抱き寄せた。
「あっ……」
シスターはビクリ、と体を震わせる。
「あなたが自分を責められる必要はない。でも、それがこらえきれないことなら……」
腕に力をこめ、シスターをきつく抱きしめる。
「見ませんから……こうしていれば見れませんから、だから、自分を偽らないでください」
「っ……うわああああああっ!」
堰が切れたように、そのまま嗚咽は泣き声に変わる。
そしてシスターは、涙が涸れるまで泣き続けた。
(終わり)
初投稿の方です。アクションが終わったところから始めるという出だしの手法です。何が起きたのか大体見当はつくけれど、言い落としていることによって、想像の幅が広がりますね。その好奇心のくすぐり方がうまい。「かゆうま」みたいに、親しい間柄の人間が段々妖魔になるという悲劇なんでしょうか。最後の一行は微妙に蛇足かも。冒頭で鋭くトリミングしているので、最後も鮮やかに締めたいところです。
『緋色の記憶』
霜月、緋色の男女が夕暮れの中を走る。蜻蛉が周囲を飛び、自転車を仲間のように見守る。
「脚が冷えるな」
「我慢しなさいって。靴下はいてるでしょ」
配達物が満載されるべき籠ははずされ、そこでは白い小袖に緋色の女袴を着た女性が青年の腰に腕を回している。青年の胸には、ゆうメイトの名札。
「綺麗だよね」
女性が腕に意識を集中させ、青年の背中に頬をあずける。空気が冷えても、寒いと感じる暇はない。
「この景色も見納めかな。一人で夕日を見ても寂しいからな」
青年はペダルに力を込める。
年始のアルバイト。年賀状配達、甘酒とおみくじを振る舞う巫女。
春には別々の土地にいる、だから、女性は一足早い時期に写真を撮ろうと提案した。
「なあ、なんでおれまで巫女さんの格好なんだ?」
「宝物にしろってこと。お守りの中にでもしまって、他の人に見せるなよ」
坂を一気に下る。肌に感じる風までも緋色に染まる中、蜻蛉が家路につく。
耳をすますと聞こえてくる音。そのお互いの鼓動は、写真よりも確かな形で胸にしまわれた。
萌やし・燃やし賞から参加です。カップルが二人とも巫女の衣装で写真を撮りに行ったのでしょうか。作中でも「なあ、なんでおれまで~」とありますが、二人とも巫女の衣装を着ようという発想が、感動にも笑いにも行かず奇妙に残り、何か腑に落ちないところはあります。そこだけ気になって他の箇所の印象が薄くなってしまうというか。ネタは中途半端に入れると、かえって全体が弱くなります。
タイトル「すべては医学の進歩のために!」
http://d.hatena.ne.jp/hanakaeru/20061027
***
いつもおもしろく読ませていただいています。
前回の「ゴスロリ」のテーマに参加できなかったのがさみしかったのでゴスロリナースを描きました。
よろしくお願いします。
イラスト参加。ナースの卵です。ポーズが女の子らしい。人形を使うことによって、残酷さや怖さの感情を押さえて上品です。綺麗にまとまっていて、キャラも可愛らしいのですが、大人しい感じで、もう少し表現の強くてもいいでしょう。例えば注射器とかリボンは大袈裟に大きくデフォルメできますし、ゴスロリナースならフリルはもっと豪華に決めたい。渋谷・原宿あたりのコンサート会場前のゴスロリは派手でした。
『秋色の教室』
「ねえ、これ本当に似合うかな」
布地に針を通しながら彼女が聞いてくる。僕の手には彼女と同じ白い布地。
「なんだか偽者っぽいよね」
教室の入り口に設えた赤い鳥居の張りぼてを眺め、彼女がくすりと笑う。
窓の外を眺めると、夕暮れに染まった空と紅葉が描き出す、秋の世界。
「そもそも巫女喫茶ってね。私はお化け屋敷が良かったのにな」
静かな教室で2人きり。彼女は手を止めると、僕のことを悩ましげな目で見つめてきた。
「私も着る…んだよね」
諦めた表情でまた裁縫に取り掛かる彼女を見ると、自然と笑みが零れた。
「あ、笑ったな。ひどいんだ、ひどいんだー」
膨れ面になる彼女に苦笑を返し、ひとしきり文句を垂らし合うと、裁縫を再開する。
校庭から聞こえる野球部の掛け声だけが耳に響く静かな世界。
彼女の息遣いすら聞こえそうだ。
気づくと机に突っ伏し寝息を立てていた彼女。
僕は出来上がった白衣を彼女の肩にかけ、新しい布地にまた針を通していった。
野球部の掛け声と彼女の寝息が聞こえなくなるまで、のんびりと。
(終)
燃やし賞から参加。「個人サイト萌え補完計画」の方も楽しみです。本編、メイド喫茶ならぬ巫女喫茶の準備をする二人。
例えばカタカナを用いないなど、端整な文体が赤と白の「静かな世界」に合っています。最後に「のんびりと」している主体は「僕」ですが、「のんびりと」という修飾がのんびりと遅れてやってくるとか、そういう細部が叙述の呼吸を作っています。物語の展開は地味だけど、良質な言葉で綴られていますね。
『体温計』
熱っぽいので、体温を測りに保健室へ向かう。
「いらっしゃーい」
出てきたのは、ナースの格好をした都子だった。ピンク色のナース服に、腕には赤十字のマーク。手には玩具の注射器を持っている。
都子はナース部の部員だ。部員は都子一人しかいないけど。というか、ナース部ってアホか。こんな部を公認したうちの学校はおかしい。
「昨日も来たよね。熱っぽいって言ってなかった?」
「今日も熱っぽい」
「じゃあ体温計でお熱測りましょうか」
都子は俺を座らせ、自分のおでこと俺のおでこをくっつける。
「たーいおーんけいっ」
都子の体温が、おでこを通して感じられる。最初ひんやりとしてたそれは、徐々に熱を帯びてくる。
「うーん、ちょっと熱っぽいかも? お、なんだか熱くなってきましたよ?」
「都子」
「何?」
「こーゆーこと、俺以外の奴にやらないで欲しい」
熱だ。熱のせいだ。
「何言ってるの」
都子は人差指で、俺のおでこをぴしっとはじいた。
萌やし賞から参戦。保健委員ではなく「ナース部」なのが、お題だからとはいえ、けれん味があります。「おでこで熱を測る」という定番シチュもツボを押さえています。全体的に「お医者さんごっこ」っぽいので、おでこをくっつける前に前髪をかきあげるとか、そういう一文を忍び込ませるとスパイスが効きます。鶴屋さんみたいにおでこが出ている娘でもいいんですが、それならそれで書いておきましょう。
タイトル:ぺいんしふと
「また、助けられなかった……ごめんね章ちゃん、愚痴ばかり言って」
「先生は頑張りましたよ」
看護士は医学生の頃のように女医の頭をなでる。
「うれしいけど、子供扱いされてるみたいで、なんか複雑」
ちょっと拗ねた顔をするけどされるがまま身を委ねてくる。
「ちょうどなでやすいところに頭がくるんだから仕方がないですよ」
「なにー! ボクがちびっ子だっていうの気にしてていってる?」
首を振る。
……わずかな沈黙。
「章ちゃん、ごめんね。章ちゃんの夢の分まで頑張れなくて」
「先生は頑張ってるいるじゃないですか、同じ先生にはなれなかったけど、一緒にいられるのは嬉しいです」
シーツたなびく屋上、風が少し冷たい。遠くに見える山は赤く染まっている。
「二人の時くらい、他人行儀やめよ」
「すみません」
「……あのさ、幼稚園の時の約束憶えてる?」
看護士は女医の口を塞いだ。彼の唇で。
「章ちゃん……」
「女の子に遠まわしに告白させちゃうなんて、ほんと、ダメですね、オレ」
ここは救命医療センター。
一刻を争う急患が担ぎこまれてくる戦場。
初参加です。最後の二行が落ち着かないオチで気になりますね。戦場でイチャイチャしている、という皮肉にも読めてしまいます。それならそれで悪いこともないんですが、もし意図していないなら、想像の広がりがあまり良い方向に向かわない気がします。最後の二行を最初に回すだけで、普通のラブストーリーになります。結末は上座みたいな重要な位置で、そこに置かれている言葉が普通のものであっても、予想外の効果を発揮します。
「ライバルは、いくつになっても」
病院のベッドの上で。両腕にギプスを巻いた男は、夕食を運んできたナースに笑いかけていた。
「にしても、こんなとこでお前と会うなんてな。……はは」
ナースは表情を崩さない。むしろいっそう、冷ややかな目を向ける。
「そうね。仕返しする前に中学が別々になっちゃったものね、あんたとは」
約10年前、小学6年生のころ。勝ち気で真正直な性格の女の子といたずら好きの男の子はよく張り合っていた。運動も勉強も彼女にまるでかなわなかった彼はいつもちゃちないたずらでやり返し、からかった――
「ところでさ、俺、腕こんななんだよな。看護婦さんってこういうとき、食べさせてくれないの? あーん、て」
あのころと同じように、からかう調子で男は言う。とたんに、ナースは顔を紅潮させた。
「こっちは忙しいんだからね。ひとりにそんな構ってられないんだから」
ナースは大股で病室をあとにする。男はしぶしぶ、スプーンを指先で器用に握った。トレーの奥から手前へ、皿を引き寄せる。
――皿の下から、小さなメモ紙がはみ出してきた。
『はやく治せバカ それじゃリベンジできないだろ!』
連続出場。喧嘩するほど仲が良い二人でしょうか。病院が舞台である必然性がさほどないのと、出てきたメモ用紙の文章にあまり意外性がないところが弱いですね。子供時代から十年経っているので、喧嘩友達もいいんですが、何かの変化が欲しいですね。あと「約10年前~からかった――」という過去の回想は、冒頭や結末とか、入れる位置で印象が変わって来ます。ポンと置いてあるようでちょっともったいない使い方ですね。
「憧れの職業」
するすると制服のスカートを脱いで、わたしは下着だけになる。
姿見には下着だけのわたし。
(どうしよう、恥ずかしい……)
「次は……と」
ハンガーにかけられたナース服を手にとる。
わたしの憧れの仕事。憧れの制服。
やっと着れるんだ……。身体に当てて確かめてみる。
生地のひんやりとした感触。真新しい匂い。
(わたし、これを着るんだ)
いろんな期待に背筋が震えた。
ハンガーを外す。そしてその淡い色のワンピースを着た。
「あ、あう~……」
着てみれば、もうナースになった気分。嬉しい!
でもちょっと恥ずかしい。でもでもやっぱり嬉しい!
だって……ずっと夢見てたんだから。
「つ、次、次は……!」
ガラリと音を立て、部屋のドアが開いた。
「う、うあ! なにしてるの!」
妹が部屋に入ってきて叫んだ。
わたしは赤と白で作られた装束を手にしている。
「ぉ、お兄ちゃん……」
「あ、あう~……」
女の子のような声でわたしはぺたんと座り込んだ。
(糸冬)
夢を持つことはすばらしいことですよね(´ー`)
そうですね、夢を語りあえるような関係も素晴らしいです。
さてガッカリオチ系の作品ですが、「制服のスカート」から「女の子のような声」までの叙述の仕掛けが分かりやすくキレイにまとまっています。「お兄ちゃん」で主人公の正体が分かるわけですが、「女の子のような声」が出るという情報は読後の不快感の抑制に一役買っています。すなわち、そうひどくはキモイ外見ではないだろうなと思わせます。というかそうであってほしい。
『声』
夕方の電車。
まばらな乗客。
僕は端っこの席に腰掛ける。
目を閉じて、聞こえてくる声に耳を傾ける。
声は、時に激しく、時にはもっと激しく、僕に愛を訴える。
穏やかな日常。
愛についてなんて、考えない。
少し前は必死だったのに――。
中学の時のあの子。
受験のごたごた、受かった高校の違いから自然消滅した。
あれから、この秋で一年。
茶色い目をした子だった。
まだ声を覚えている。
そういえばこのアーティスト、最初はあの子と一緒に聞いたんだっけ。
優しい詞を、がなるように歌う。
シンプルなコードで繰り返す。
僕のギター、少しは上手くなったのかな。
目を閉じたまま、歌詞をつぶやく。
いきなり、右のイヤホンが外された。
僕は驚いて目を開く。
あの子が立っていた。
見慣れない紺のカーディガン。
短くなった髪。
変わらない茶色の目。
そして、懐かしい声。
「覚えてる?」
戸惑いながら頷く。
君はイヤホンを自分の耳に当てると、僕に笑いかけた。
「新しいアルバム、買ったんだね」
電車が揺れる。
次の駅まであと少し。
車内放送はもう届かない。
今回も参戦。詩の味わいですが、感傷的な気分には浸らず、小説的な仕掛けがあります。ここでは小道具のイヤホンに注目しましょう。『エヴァ』のシンジのように、自分の殻にこもりたいときに一人で音楽を聞くことはあります。しかしここでは、それが二人で共有されています。独り言を聞かれたり日記を見られて恥ずかしいのと同じで、声の空間は私的空間ですが、その絶対領域の変化が出会いの驚きと結びつくという効果です。
題:『廃校舎の霊退治』
「わ、わわっ!」
壮絶な音を立てて宮理が廃材につまづいた。
「い、いったあー……」
もくもくと白い埃を立てながら、巫女装束を着込んだ少女が起き上がる。
宮理の家は、代々続く巫女の家系だ。
「……なあ、何で俺たちが旧校舎の悪霊退治なんてやらなきゃいけないんだ?」
「できる人がやるの!……うん。やらなきゃ。私、巫女だもん!」
噂の元凶はすぐ解った。廃屋の中で一際禍々しい怨念を放っている扉。
この向こうにそれはいる。
「開けるぞ」
扉を開ける。びゅう、と疾風と悪意が吹き荒れた。
「あ、あわっ」
宮理は戸惑う。
「え、えーっと……りん、ぴょー、とー、しゃ、かいちん……れち」
「烈」
「れつ、ざい、ぜんっ!」
宮理が詠唱を終えると同時に、僕は密かに後ろ手で印を結び、霊気を放散させる。
「わ、わ」
室内に充満していた邪気が、雲を払うように霧散する。
「……やたっ!」
跳び跳ねる宮理。
「ヒロくん!」
宮理は太陽の様にぱっと振り返って叫ぶ。
「これからも、私がヒロくんを守ってあげるからね!」
その笑顔を見ながら僕は思う。どっちが、だか。
初参加。巫女の怨霊退治。短い中でもアクション。「僕は密かに後ろ手で印を結び、霊気を放散させる」と、主人公がサポートしているのが、この手の話のミソです。しかし、最後の「どっちが、だか。」がやや嫌味で、余韻を消しています。細かいですが、「僕も(守る)ね」位だと抵抗を感じない。本編は「僕がね」に近い表現なんですね。特にこの作品では結末ではじめて主人公が「思う」ので、たった一語でも、価値が高いのです。
題名「ある兄妹のデレデレ」
帰宅すると妹が待ち構えていた。手には学校からのプリント。目が笑ってない。
「うふ、どういう事?高校最後の思い出なのに」
「いや……クラスのみんなの迷惑になるし」
「アタシがついてけばいいじゃない」
「それがまずいんだよ」
しまった。妹の表情が目に見えて硬くなる。
「そっ、そういう意味じゃないんだ!僕の体の事は皆も知ってるし」
「アニキ」
「でもおまえに迷惑をかけたくないんだよ。おまえもこんなことのために飛び級までしたわけじゃないだろ?だから……」
「アニキ!」
怒鳴らせてしまった。
「それ以上言うと怒るかんね。
アタシはね、自分で決めたのヨ。アニキの体はアタシが診るんだって。
だから遠慮はお門違い」
妹はふっと表情をゆるめ、続ける。
「ねえ、アニキ。
アタシら家族だよ?
面倒くらい見さしてよ。“こんなこと”なんて言わないで。
……お願いだよ、アニキ」
感謝の言葉も無い。
「いつか恩返しするよ、絶対」
妹は一瞬呆れた顔をして、けれどまた笑顔で言った。
「楽しみにして、待ってるから」
(終)
crow_henmiさんに喧嘩売ってみるテスト。課題モチーフ+旅行の付き添い縛り。
しかし今回はまたみんな早すぎでないですか?
なんだってそんなマッハなのか。
飛んでっちゃえばいいのに。
今回は投稿ペース早いですね。過去最速。本編、病気だとは思いますが、「僕」の身体に具体的に何があるのかがよく分かりません。説明不足か説明過剰かはいつも難しいところですが、この場合は病名や症状を明かしていいでしょう。ガンなのか水虫なのか病気の重さが分からないと、感動か恐怖か笑いか感情が決まらないので、中途半端にモヤモヤします。たぶん深刻ではないがそれなりに重大で、兄思いのいい話なんだろうと推測します。
そろそろ誰か本気で「萌え」の定義を教えて欲しいです。あーさっぱりさっぱり。
----------
タイトル『ブレインウォーカー』
またベッドの上で目覚めた。まだ思考も視界も朦朧とする。
部屋は薄暗く、周りのカーテンが揺れているのが見えるだけだ。
カーテンの隙間から風がいつもの匂いを運んでくる、消毒液と、せっけんと、…それに煙草とコーヒー。
「…内藤先生、寒いんで窓閉めて下さい…」
「あ、起きたか。…これで5回目?」
ハスキーな声に続いて、カーテンから先生の顔が覗く。
くたびれた白衣は煙草とコーヒーの匂いが染みついている。
「…運動とか嫌いなんですよ」
「そりゃそーね。自称頭脳派特有の細っこい体してた。補習のし過ぎ?」
からからと笑いながら、がしがしと僕の頭を撫でた。
…無反応でいると先生に顔を覗き込まれた。
「んーまだぼーっとするか。ちょい待ち」
カーテンの外に先生が引っ込む。
窓のサッシが閉まる音。続いてぱちんと部屋の照明のスイッチが入る。
湯が注がれる音。いつもの臭いを打ち消す甘いココアの匂い。
「頭働かせるには甘いのが一番」
カーテンが開きマグを渡される。一口、…甘い。暖かい。
思考がはっきりしてくる。先生の顔も良く見えてくる。
…ココアを飲み干した僕をにんまり見つめる先生が、いつもより女性らしく見えた気がした。
----------
…萌えって難しいですね(遠い目)
っていうか文字数が文字数がががが。
燃やし賞は発想が素晴らしいですね。作品の方、題名が格好良さげですが、実はモヤシっ子が倒れて保健室に運ばれた話でしょうか。
冒頭でこれは何回か経験している状況だと分かり、少しずつ意識が戻り、それが安心感に結びつく、という感情の動きがよく伝わります。
「女性らしく見えた気がした」のは公的な人と二人きりの私的空間で再会したからでしょうが、その際他人に見せない一面が垣間見える、というのは常套手段です。
『神無月だけど神様います』
「おい、掃除手伝えよ」
図書室のカウンターに行儀悪く腰かけて、足をぶらぶら揺らしながら本を読んでいる女子に声をかける。
「嫌だ」偉そうにその女子が言う。「神様はそんなことしない」
彼女は学校創立以来、ずっとここにいる図書室の神様だ。エジプト・タウト一族の末裔で、本当は西欧で就職したかったらしい。だが不運なことに日本が赴任先になってしまったのだ。
秋の読書週間だから本を読んでるみたいだけど、ここの本なんてもう読み飽きてるだろうに。
「お前、出雲での会合もサボってるんだろ? こんなとこで本読んでていいのか? 稲荷のとこは従者つきで出かけたらしいぞ」
「めんどい」
彼女は神様の仕事を一言で切って捨てた。
「ちょっとは神様らしく力でも使ってみろよな」
全く神様っぽくない彼女に文句を言うと、本に視線を落としていた彼女が急にこちらを見た。
「………………本当にいいのか?」
「その間はなんだ」
「私はな、トキの化身なんだ。だから、力を使おうとすると頭部が鳥になる。それでも力を使わせたいか? お前の目の前で? でりかしーのないやつめ」
「……トキって、あのクチバシがとんがった鳥か」
「そうだ、あのクチバシがとんがった鳥だ」
「なら、バードキスは得意だよな?」
====
crow_henmiさんのにインスパイアされて書いています。まだまだ広がる、神様が出張する世界「神無月ワールド」(嘘)。
「神無月ワールド」の作品。トトですが、何となくエジプトの壁画みたいなイメージが浮かんできます。何でも眼鏡図書委員にする必要はないですが、ラノベと違い挿絵がないので、(鳥になる前の)ビジュアル面をもう少し描写して欲しいです。例えば、外見が人間だとしても日本人風ではないですよね。
「稲荷のとこは従者つきで出かけた」とあるように、20人の中でもシェアワールド化してしまうのは、とても斬新で面白い発想です。
『鏡の夜』
薄暗い病院の一室。
少しだけ開いた窓から、夜風が虫の音を運んでくる。
見上げた空は、ほんのりと明るい。
「綺麗な月ね」
看護婦さんがしみじみ言った。
「あんなの全然キレイじゃないよ」
私の返事は負け惜しみぽかった。
欠けたところのないお月さま。
確かに見た目はいいかもしれないけど、本当はデコボコだらけなんだ。
そういうの、昔から、私の前にたくさん転がってた。
「窓、閉めるね。今夜すっごく冷え込むんだって」
優しい瞳の看護婦さん。
最初に目を覚ましたときから、私にとって、たった一人頼りになるひと。
遅くの呼び出しにも、気を引きたくてやった意地悪にも、いつも真正面から応えてくれる。
そして、手をとって囁いてくれる。
「ね、マリちゃん。看護婦さんにできること、何かないかな」
でも、知ってるんだ私。院長先生とのこと。
あなたもデコボコだったんだね。
「ないよ。もう二度と来なくていいから」
私は笑顔を作った。
彼女の顔は見たくなかった。
息詰まる空気の外から、月の光がなにか訴えてくる。
すべて振り払って、私は分厚い布団をかぶり直した。
(終)
第四回に続いて参戦。なにやら深い事情が伺えますが、私と院長先生との直接的関連は分かりません。主人公が邪険ですが、「私」に対して優しいならそれでいいのでは、とも思ってしまいます。しかし例えば、主人公は幼く、「大人の関係」自体に嫌悪しており、しかもそれが家庭事情に結びついている、といった事情なら分かります。まあこれでは昼ドラみたいなベタ設定で、保護者を独占したいという感情は分かる気もしますけどね。
タイトル:敗戦の理由
二〇一〇年、日本の首都「東京」の秋空は真っ赤な血の色に染まっていた。
同年八月一五日、アジアの超大国「C国」は突如日本に宣戦を布告。
C国の最新兵器「先行者」の投入により、日本の自衛隊と我が合衆国の連合軍は事実上壊滅、戦況は悪化の一途を辿っていた。
「衛生兵!衛生兵は前へ!」
そう叫びながら振り返ると、私の所属していた部隊はいつの間にか死体の山になっていた。
「ウィル…、俺、まだ死にたくないよ…」
頭から血を流しながら、ユージーンは私の胸の中で泣き始めた。
そのときだった。
「私が助けましょうか?」
突然の声に銃口を向けると、その先には如何とも名状し難い服装に身を包んだ日本人の少女が立っていた。
「銃弾を摘出するぐらいしかできませんが…」
「それで充分だ。やってくれ」
すると彼女は胸元から一本のウィスキーボトルを取り出し、中身を自分の手に振り掛けた。
「これを…」
私はウィスキーボトルを受け取り、中身の半分を被弾したユージーンの腹部に掛け、残りの半分をユージーンの手に握らせた。
「助かるぞ!ジーン!お前は助かるぞ!」
彼女は太股からメスを取り出し、手術を始めた。
「有難う。助かったよ。ところで、君の所属は…、そもそもその奇妙な服装は一体何なんだい?」
「これですか?これは『巫女みこナース』という日本のエロゲーのコスプレです」
「巫女…、エロゲ…、コスプレ…。成程、日本が負ける訳だ」
異色作。文字数多し。「先行者」はいいですが「東京」は現在と同じで、括弧の意味が分かりません。括るのは「ネオTOKYO」とか。ネタっぽいですが、銃創なんかの痛みの描写とネタを同時にやろうとすると「痛いネタ」になりがちです。
「エロゲなんかやってたらダメになる」というのは常識的な発想なので、「ブラック」ではありますが、「エロゲのおかげで戦争に勝った」くらいの発想をすると、「ブラックユーモア」になります。
タイトル「 正義のナース 」
http://f.hatena.ne.jp/km37/20061028055742
病院を乗っ取ろうとする女医をとめるべく
正義のナース(とその助手)がやってきた!
みたいなかんじで描いてみました。
今回20人枠がうまっていくのが早くてびっくりです、
これからも楽しみにしていますー。
今回もイラストで参加。淡い色遣いが独特でみずみずしい画面になっています。主役が女医さんっぽい構図ですね。左から大・中・小みたいな。主役が存在感で喰われてるので、「顔だけ出てる悪役」がでしゃばり過ぎないように主従の関係をつけるといいでしょう。
背景は何でしょうか。素材でもいいし、病院のイメージからそう遠くもないのですが、色が人物より目立っているのがやや問題ですね。ここでも主従の関係が逆転しています。
『世界一の名医』
玄関のドアを開けるとそこに女医さんがいた。
制服の上に白衣、顔にはマジックで書いたツギハギという完全装備だ。
「何してるんですか先輩」
先輩は俺の発言をスルーして、「3日も学校を休んでいるらしいな」と低い声で言った。
「君の先輩から依頼されて治療にやってきたのだ」 暇なんだなこの人。
部屋に上がりこんだ先輩は少し顔を染めながら脈をとり、台所を借りると言い残して
しばらくすると湯気の立つ器を持って帰ってきた。
「薬だ。体力が落ちているようなので私が飲ませてやる」
先輩は嬉しそうにふーふーと雑炊を冷ます。
「じっくりと味わうがいい。成功すればお前のパンチのスピードは倍になる」
先輩なんか混じってます。
玄関のドアを開けるとそこに先輩がいた。
「先生はどうだった?」
「とても美人で優しい人でしたよ」
何で先輩が照れるんです、と突っ込もうとしたが、可愛かったのでやめておいた。
ラストの投稿作品です。先輩のデレ小芝居系。変だけど可愛いから困惑しながら許しちゃうみたいな。冒頭は「雪国」、ツギハギは「ブラックジャック」と、インスパイアも。
ネタといえばそれまでですが、どうでもいい設定であるがゆえに、「少し顔を染めながら脈をとり」というような、微妙な匙加減がかえって大事になります。ただ、全体的に掛け合いが微温的で、中途半端にせずもう少しハッスルしましょう。
燃やし賞から参加。「個人サイト萌え補完計画」の方も楽しみです。本編、メイド喫茶ならぬ巫女喫茶の準備をする二人。
例えばカタカナを用いないなど、端整な文体が赤と白の「静かな世界」に合っています。最後に「のんびりと」している主体は「僕」ですが、「のんびりと」という修飾がのんびりと遅れてやってくるとか、そういう細部が叙述の呼吸を作っています。物語の展開は地味だけど、良質な言葉で綴られていますね。