【人力検索かきつばた杯】

テーマは「ハッピーバースディ」

毎日だれかのお誕生日。もちろん今日もです。
あなたのお誕生日、いいことありましたか? あなたの好きな人の誕生日は?
現実はどうでしたか? では、妄想の中だったら?
ケーキ? 花束? プレゼント?

…そんなお話を作品にして、いろいろ書いてください。
私が楽しく拝読します。
読んでおもしろかった作品にポイントたくさん進呈します!

10行ぐらいでもいいですよ。

かきつばた杯についてはこちらを参考に。
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%CD%CE%CF%B8%A1%BA%F7%A4%AB%A4%AD%A4%C4%A4%D0%A4%BF%C7%D5

締め切りは6月の前半。早く書かないと締め切っちゃうからね!

初めての人も気軽に来てね。おしゃべりでいいんだ。でもカッコつけてみて!

では楽しみにしてます。

回答の条件
  • 1人10回まで
  • 登録:
  • 終了:2015/06/14 21:46:05
※ 有料アンケート・ポイント付き質問機能は2023年2月28日に終了しました。

ベストアンサー

id:takejin No.4

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ポイント20pt

第一話

「ちょっと待って」
私は、タブレットのデータを指している山田君に、振動するウォッチを示した。画面には、里山さん、と表示されている。
「はい」
イヤホンから、今一番聞きたかった声が流れ出てくる。
「調子はどう?準備は進んでる?」
「ええ、怖いくらい順調。珍しいわね声だけなの?」
「ああ、移動中だから、隣の人が写ると面倒だから」
「いろいろ気を使ってるのね」
「あたりまえだろ。で、えへん。今度の木曜日だけど、あるレストランを予約したんだ。」
「木曜日?え、その日は」
「わかってるって、だから、そこに君が行って、出てくる料理を食べていてくれればいい」
「え、なんで?あなたは遠い場所に」
幸いなことに、私の目が泳いでいるのは、スマートグラス越しになっていて、山田君には見られなかった。
「だから、一緒にいられないんだから、せめて同じ料理を同じ時刻に食べないかって」
「そうなの。わかったわ」
スマートグラスの画面にメッセージが浮かぶ。
「そこのレストランに、9:00だから。」


8:59に入口に向かうと、制服の係の人が近づいてきた。
「ミスワトソンですね。お待ちしておりました。こちらへ」
係の人に導かれて、私は窓の見える席に着いた。目の前にはテーブルと、二人分の食器が並んでいる。
「あの、一人なんですけど」
「ご予約の方のご希望で、このようにさせていただきました」
ウォッチが振動した。
「やあ、君らしく、時間ぴったりだな」
「ええ。良くわかったわね」
「僕の情報網をバカにするなよ」
「そうね、いつもの事ね」
私は少し微笑む。そう、いつものこと。
「そのスマートグラスに、新しいアプリがインストールされてる」
私はウォッチを見た。新しいアイコンが踊っている。
「あら、踊っているわ。これ?狸かしら」
「そう、里山のタヌキ。そいつをタップして」
画面が広がる。
「スマートグラスでそのテーブルを見てみて」
私は、テーブルの方に向かって座りなおす。スマートグラス越しに私の側のお皿とカトラリー、反対側のお皿とカトラリーが見え、そこから顔を上の方へ振ると、
「おーい、見えるかーい」
手を振る彼が写っている。一度グラスを外す。実際の椅子には誰も座っていない。
再びグラスを掛けて、出現した画面の彼に言う。
「ARね」
「そうそう。君ならすぐにわかると思ったよ。」
「わかっているけどすごいわ。何キロ離れているのかしら、まるで目の前にいるみたい」
「そう、今の技術はすごいんだよ。じゃあ、始めようか」
さっきの係の人が、すぐ脇に立っている。半球形のカバーのかかった料理をテーブルに置く。
「なにかしら、これ」
答は実は知っているような、そうじゃないような。
思わず、私が見入る目の前で、係の人がカバーを外す。
「おめでとう、ハッピーバースデー!」
目の前には、丸い白いケーキが置いてあり、そこにはHAPPYBIRTHDAY!!とチョコレートで書かれている。所々にローソクが立っていて。
「あら、3本なの」
「正確に33本立てたいの?ひょっとして23なのかな?とその辺の人に思わせた方がいいだろ?」
「ま、いいわ」
「ほら、火を点けないと」
グラス越しの彼は、変わった形のライターを取りだし、ローソクに近づける。
「点火」
と言いながらライターを操作する。ローソクに火がともる。
「すごいわ、遠隔操作で点火するのねこのローソク」
「そうなんだ。今回一番苦労したのが、ここさ」
2本目も点火と着火のタイミングは一致している。
感心しながら3本目のローソクを見ると、倒れてしまっている。
「あ、倒れてる。」
これじゃあ、彼の方のデータと一致しないはず。どうするの?直した方がいいの?
「大丈夫」
彼は、難なく3本目に火を点ける。しかも、倒れたローソクを持ち上げて、ケーキに刺しなおしている。
「え」
私は、グラスを外した。
目の前には、空の椅子があるはずだったのに。
「やあ、瞬間移動してきた」
彼の笑顔がそこにあった。
「すごいだろ、現代の技術は」
そんなことはどうでもよかった。私は、彼の胸に飛び込んだ。
「どうやったかなんて、どうでもいいわ。うれしい」
彼は私に微笑んで言った。

「誕生日おめでとう。」

私は、彼の体温を確かめながら、こう思っていた。

この感覚もARだとしたら、本当にすごい技術ね。

id:sokyo

ワトソンさん、お誕生日おめでとうございます!

いいなぁこんなお誕生日いいなぁいいなぁ…。

2015/06/02 23:22:58
id:sokyo

[読む人へ]次はこちら。
http://q.hatena.ne.jp/1432996574#a1248265

2015/06/14 21:47:28

その他の回答29件)

id:gm91 No.1

回答回数1091ベストアンサー獲得回数94

ポイント20pt

『ENTERのゲーム』

「十九時に、薙島駅前のルブランで」
 俺の誕生日祝い、それでいいよね? と、美和子に一方的に宣告されたのは先週のことだった。
 そんなもんが通用する相手ではないことは承知しているが、俺は精一杯反抗を試みた。
「フラ飯なんてガラじゃねえよ」
「もう予約したから」
 たしかに、ルブランが2/14しかも金曜に取れるなんて奇跡だ。違う、そういう問題じゃない。
「知ってるだろ? 昭和100年問題がまだ収束し……」
「知らないわ、一日くらいなんとかなるでしょ?」
「調整はするさ、でも、行けなかったら……」
「たら、じゃねえ! 死ぬ気でがんばってこい! 今から『ダメだったら』とか、言うな!」
「あてッ」
 向こう脛を文字通り一蹴された俺は、悶絶しながら美和子の背中を見送ったのだった。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 

 会社を飛び出し猛ダッシュしたはいいものの直ぐに息切れ。げえげえ言わせながらも薙島駅が見えた、のと同時に、Mailの着信。美和子からだ。

《先に帰るね。 明日も仕事なんでしょ? 気にしないでいいから。 じゃあまた》

 いまどこ? もうすぐ薙島に着く、と返信したものの、美和子からの返事は無かった。
 俺は、未練がましくルブランの「本日終了」の札と、中で楽しそうに皿をつついてる連中の中に美和子がいないことを確認してから、とぼとぼと家路に着いた。

 去年めでたくも三十になり、会社の独身寮を追い出された。
 寝るとこなんてどうでもいいと思っているが、通勤が不便だと寝る時間が削られると考え会社の近くの安アパートを借りたのだった。薙島駅からまた会社の方向へととぼとぼと歩きながら、何やってんだろう俺と自嘲した。

 部屋に戻っても、もちろん誰もいない。俺は一人寂しく冷蔵庫をあけ、腹の足しになりそうなものがないか物色したあとで、田舎から送ってきた餅が残っていたことを思い出し、いくつかレンジへ放り込んだ。
 焼けた餅を頬張りながら、PCでいつものサイトを開く。

《はてな軍人将棋3D》と題されたそのサイトは、最近流行のネットワーク対戦ゲームの場だ。
 平たく言えば、単に3D軍人将棋の相手をネットの向こうに求めてるってだけだが、好きなときに好きな相手を選べるし、素性がわからない分、つまらないしがらみを気にせず勝負に集中できるのがいい。

《ENTERさん への対戦エントリは13件 です》
「ENTER」は、俺のハンドルだ。対戦エントリというのは対局の申し込みのこと。もちろん相手がログインしてるかやる気があるかわからないから、こうやって希望者は予約しておくことができる。エントリされた側ももちろん相手と時間を選ぶことができる、お互いの都合が合えば対局開始って寸法だ。
 俺はエントリリストをざっと眺め、いつもの名前を見つけたら、なんだかちょっとだけほっとした気分になれた。

《スズキミキ さんはまだエントリ受付中 です。 スズキミキ さんの挑戦を受けますか?》
《はい》
《スズキミキ さんの挑戦を受け付けました。スズキミキ さんの応答確認中です。しばらくお待ちください。》
  
 しばらく待たされるかな、と、茶でも入れようと腰を上げかけたところで、スズキミキの応答を告げるチャイムがなった。

《おまたせ!》
《早かったな、待ってた?》
《いや、別に、たまたま》
《そうか、じゃ、やるか?》
《うん、お願いします》
《お願いします》

 俺はいつもの癖で、モニタに向けて律儀に一礼すると、対局を開始した。今回は俺の先手。
 9マス×9マス×3段の盤面に広げた駒を一瞥して、指し手に思いを馳せる。
 ……たまには、違う手も試してみるか。

《えっ? なんか今日、打ち方ちがくない?》
《そうか?》
《いつもガッチリ守るくせに》
《別にいいだろ》
《せっかく、矢倉おぼえたのになあ》
《それはお気の毒》
《その言葉、後悔させてやるぞ》

 俺はスズキミキのコメントを鼻で笑いながら、一斉に攻めかかる。
 俺のいつもの戦法は、まずひたすら守りを固め、相手が攻め疲れたところで逆襲するってパターンだ。てかスズキミキは、攻撃型と言えば聞こえはいいが、要するに攻め一辺倒で守りに気がいってない。足元が隙だらけってやつ。
 正直、スズキミキは対局相手としてはちょっと物足りない。自称十五歳ってのは確認する術も予定もないが、まだ初心者に毛の生えた程度ってのは間違いない。父親に負けてくやしいからネットで修行しているそうだが、まだまだ先は長そうだ。

《いつもの勢いはどうした? ちょっとは攻めてこいよ》
 
 俺は長考モードに突入したスズキミキに焦れ、ちょっと大人気ないとは思いつつも挑発した。
 しかし、本当に打つ手なしのようだ。

《もしかして、ヨッパライ?》
《将棋はシラフ。それが私の主義だ》
《あっそ、ちょっとくらい手加減してよ》
《さっきと言ってる事ちがくね?》
《大人のくせに大人気ないぞ》
《そりゃ、ごもっとも、ほれ王手》
《えっ、ちょ、待って》
《待ったなし》
《オニ~》
 俺はスズキミキにトドメを指すと、もう一局やるのか促した。
 スズキミキは返答保留のまま、黙り込んだ。
 もしかして怒らせたか? いや、勝負につまらぬ情けは無用ぞ。

《何かあったの?》
《何もねえよ》
《何かあったんでしょ、彼女にフラれたとか》
《フラれてねえし》
《あっ図星?》
《ちげーよ、今日は俺の誕生日祝いでフラ飯》
《えっ! いいなー》
《の予定だったんだけど》
《は?》
《遅れた》
《彼女は?》
《先に帰った》
《それで?》
《そんだけ》
《ええ~? 電話とかメールとか》
《電話してない、メールは返事が来ない》
《やばくね?》
《やばくねえよ》
《絶対やばいよ 電話したら?》
 そうは言っても、返信が来ないのに電話するのもちょっと気が引ける。
《怒ってる、だろうな》
《あたりまえじゃん》
《どうしたらいい?》
 俺は藁にもすがる思いで、自称十五歳に泣き言をこぼす。
 ちなみに、スズキミキは2049年に住んでいるらしい。最近の子供の考えてることはよくわからんが、もしそうなら何か未来人のお知恵を拝借したいのであります。だめだしっかりしろ俺。
 しばしの沈黙。
 えっ、もしかして何か名案でも? とちょっと期待する俺が我ながら情けない。

《自分で考えろよ》
 うん、そりゃそうだ。そして世界は再び沈黙に支配される……。

《探しに行ったら?》
《え?》
 もうとっくに帰宅してる頃だ。

《たぶん、どっかで時間潰してるんじゃない?》
 その発想はなかった。

《なんでわかる?》
《なんとなく、だけど……心当たり、ない?》
《もしかすると、加賀咲駅の五十鈴とか……》
《あっ、あそこのクリームぜんざい美味しいよね!》
《そうか?》
 女の好みと言うのはまったくようわからん。
《なんか絶対いるような気がする、ダメもとで行ってみりゃいいじゃん》
 日本語がおかしいぞ、と思いつつも、確かにその通りだと思った。

《そうする》
《そうしろ》
《ありがとう》
《恩に着ろよ》

 ……俺は、モニタ越しにスズキミキへ一礼すると、いつものカバンを掴んで玄関を飛び出した。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 

 電車に飛び乗ってから、ようやく俺の思考がぐるぐる回りだす。
 加賀咲は薙島から二駅、五分とかからずに着く距離だ。
 なんて言えばいいだろう? 
 「遅れてごめん」で許してくれるか? 
 もうちょっと気の利いた謝り方ないか?
 いや、そもそも五十鈴に居るかわからんし?

「加賀咲、加賀咲です」
 
 解けない詰め将棋に逡巡する俺にはまったくお構いなしに、電車がドアを開く。俺は渋々ドアをくぐるしかない。
 考えても仕方ねえ、とりあえず五十鈴にいなけりゃ帰ろう。
 俺はそう決めて改札を出た。
 
 五十鈴は、加賀咲駅の西口にある小さな喫茶店だ。流行のチェーン店とは違ってちゃんと陶器のカップでコーヒーが飲める有難い店だが、女共ときたらここをスイーツの店だと思ってるから日中はちょっと入り辛いが、さすがにこんな時間は客もまばら、だ。

 外からは中がよく見えないから、俺は意を決して五十鈴のがっしりとした扉を開けた。
 カラコロ、と鈴の音が響くが、店内に美和子の姿はなさそうだ。
 ほっとしたような、がっかりしたような気持ちで踵を返すと、いた。美和子だ。
 
「え?」
 
 美和子は、クリームぜんざいの残骸らしき皿の前で状況がわからずきょとんとした顔をしている。

「英和、どうしてここに?」
「だって、俺の誕生日だろ」
「もうこんな時間」
「あと30分ある」
「明日も仕事じゃ……」
「明日は休む」 
「いいの?」
「いいさ、元々休日なんだから。それより美和子と話したいことがたくさんある」
「あたしも」

 俺は美和子の手を取ると、空いた手で勘定を済ませて、五十鈴の扉を押した。

(了) 

他3件のコメントを見る
id:sokyo

ENTERさんお誕生日おめでとうございます!
ごあいさつ遅くなってしまってごめんなさい…。

2015/06/14 00:11:08
id:sokyo

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2015/06/14 21:48:20
id:taddy_frog No.2

回答回数832ベストアンサー獲得回数83

ポイント10pt

ぼくは5月24日産まれです。

2月頃に、親戚の人に、
プレゼントは百式が良いと言いました。
当時は、単に、5月発売でした。


発売日が、5月30日になったので、
代わりにガンダムMk-IIが良いと言いました。
ガンダムMk-IIは、旧キットを買ってないので、
初体験になります。

その後、百式の発売日は5月28日になりましたけど、
誕生日より後だという事に、変わりは無いです。

f:id:taddy_frog:20150524134930p:image
貰ったプレゼントは、
ザク・マインレイヤー、
ガルマ専用ザク、
ガンダムMk-II、
ガンダムナドレ、
ガンダムヴァーチェ、
ラファエルガンダムの
六つです。


毎月の、第一日曜日にも、
プレゼントを貰いますので、
6月の第一日曜日に百式を買うつもりです。

id:sokyo

サディア・ラボンさん!
過日はお誕生日おめでとうございました♪
プレゼントたくさん! いいな!!

2015/05/31 19:43:18
id:taddy_frog

ありがとうございます。

2015/05/31 19:53:04
id:grankoyan2 No.3

回答回数121ベストアンサー獲得回数34

ポイント10pt

題「たぶん、おそらくしっかりしろ」

 登場人物:
  影沼 ちとせ (小学4年生女子)
  ベルナルド・ドナルド・ベロナルド(暗黒司祭)
  ちとせのお父さん
  ちとせのお母さん
  セキセイ2号 ちとせの飼っているインコ

 起:ちとせとベルによる状況説明。

「おじょうちゃん? ちょっといいかい?」

 帰宅途中のちとせに声を掛けたのは、真っ黒なローブに身を包み、これまた黒いトンガリ帽子をかぶった年齢、性別不明の人物だ。

 これだけで事案発生である。

「なに? わたし、忙しいのよ。だってこれから帰ってインコのセキセイ2号に餌をあげないといけないし……」

「ああ、それなんですがね。ちとせちゃん」

「どうしてわたしの名前を知ってるの?」

「大丈夫、怖がらなくていいから。ちとせちゃんのお父さんとお母さんに頼まれたんだ。
 インコのセキセイ2号もうちで預かっているよ。
 今日はおうちじゃなくって、おじさんの家に帰ろう。お父さんもお母さんも夕方くらいにはやってくるから」

 完全に事案から犯罪の序章へと発展する瞬間であった。通報が求められる。即時に。

 が、ちとせは動じない。

「最近そういって声を掛けてくる人が多いのよね~。
 だから、お父さんとお母さんと合言葉を決めてるんだけど、おばちゃんは知ってる?」

 そこで、ベルは首を傾げた。はて、合言葉なぞ聞いていたのだろうか?

「ちとせちゃん? ヒントはないかい? おじいちゃんね、沢山合言葉を覚えすぎてどれがどれだかわからなくなってるんだ。ボケているわけじゃあないんだけどね。
 ちょっとした物忘れだよ。
 確かにちとせちゃんのお父さんから合言葉を聞いていたのは本当なんだけれど、他の合言葉とごっちゃになってしまっていてね」

「ヒントはね~、歴代のプリキュアの名前を全部登場順に言うことだよ~」

 登場順とはこれまた。ちとせによると、オープニングや次回予告は含めずにあくまで本編のみ、本編でも後ろ姿などは含めずに、それとわかる姿で描かれた順ということらしい。
 難度は高い。

 だが、暗黒司祭であるベルナルド・ベロナルド・ベリネルドにとってはそのような質問など容易すぎてへそ的に茶が沸く。

 ところ変わってどこかの警察署のなんかの部屋。会議中。
 
「最近発生している幼女の連続誘拐事件だがな……」

「はい、犯人のプロファイルは終わっています。
 年齢は15~85歳。男、もしくは女性で身長はおそらく160センチ以上。3メートルは超えないでしょう。
 趣味はインドアかアウトドアで、学歴は中卒から、大学へと進学していたのであれば文系か理系を修めていて、甘党、もしくは辛党。お酒は一滴も飲めないか、大酒のみです。
 特筆すべきは犯人の性癖です。
 極端な幼女趣味であるか、ショタコン、あるいは熟女、もしくはロマンスグレーのおじさまが好みであり、場合によっては20~30代のごく普通の男女への興味も持っているでしょう」

「それだけ絞れればもう、犯人の目星はついたも同然だな」

「はい。該当する人物がこの街に一人だけいました。
 すでに捜査員が張り込んだり張り込みをさぼったりしています」

「わかった。だが、ことをおおっぴらにすると犯人から警戒される可能性も禁じ得ない。 あんぱんと牛乳を差し入れることにしよう。
 ということは、突入部隊を組織して電撃作戦を決行する。
 手の空いている奴は、それぞれ甲冑を装備の上、騎乗して待機すること!!
 銃の携帯も許可するが、それはあくまで犯人への威嚇に使用すること。
 みせびらかしたり、自慢げにくるくる回したり、そこらの看板とかを撃たないようにな」

 将軍の号令で、室内に居た兵士たちがどよめいた。

 これほど大きな作戦は、150年前のあの時以来である。
 150年前に何が行われていたのか知る者はいないが、

「おお! 150年ぶりだ! わくわくするぜ!」
「ふん、お前にとっては150年ぶりかもしれないが、俺にとっては148年ぶりだ」
「俺は、143年と15か月と3日の最短ぶり記録保持者だからな」

 と口々にどよめき立つ。

「皆のもの、剣を取れ! 軍神カゲーヌマの加護により、我らの勝利は約束されたもの!!」

 王の号令で、騎乗した騎士たちは馬を走らせた。
 馬にはパトランプが搭載されており、馬にはバッテリーが搭載されていないので、回転もしないし、ウーウーとかサイレンがなったりもしないが、そこはそれぞれが創意工夫でそれっぽい雰囲気を醸し出しているのだった。

 ところ変わって、ベルナルド・ベルナーゼの自宅である。

「ねえ、おばあちゃん? 部屋が真っ暗だよ」

 ちとせが心底心細そうな声で呟いた。

「ちょいとお待ち。準備は整っている」

「準備? 何の?」

「それはセキセイ2号を生贄としたちょっとした儀式さ」

「セキセイ2号は生贄にされちゃうの?」

「ああ、鳥の半分は食べられるために生まれ、もう半分は自由に空を羽ばたくために生まれているのさ。
 そして残りの半分は、生贄になるか、もしくは焼き鳥になるために生まれて来たのさ」
「そっか……。寂しいけど、これが現実なのよね」とちとせは達観した。

「ではこれより、儀式を始める。
 暗黒神である【オータンジョービ】様へ。
 捧げるはひとつの歌。ちとせ、歌えるかい?
 メロディも歌詞もちとせは知らないだろう。わたしも知らんし、誰も知らん。
 だが、目を閉じてそっと思い返してごらん。
 頭の中をからっぽにするんだ。
 浮かび上がるメロディ。それは、オータンジョービ神からの贈り物」

「おじちゃん! わたし……、歌えるよ!
 メロディなんて、全然わからないけど、歌詞だって曖昧だけど。
 歌える気がする」

「聞こえるよ……。ちとせの歌声が……」

 ♪
 法被バスで、梅雨~
 もっちがーすげー ぬーむー
 どっちがーらー ディア いっつすもーるわーるどー!!
 はーっぴばーすでー つーゆー

 それは実際にはちとせの歌った歌ではない。

 九官鳥のセキセイ2号がその薄れゆく意識の中で紡ぎだした歌声だった。

「おや、屋敷が囲まれたようだね。
 だが、もう遅い。
 儀は成立した」

「そうだな。我はちとせ。セキセイインコの魂を得て、新たな力に目覚めし小学四年生」

「ちとせ、やれるかい?
 敵の数は数十万。あるいは数万だろう」

「ちとせにそんなことをさせるわけにはいかない。
 ちとせの力はまだ完全に目覚めているわけではないのだから。
 だから、僕があなたの剣となる」

「坊主。軽口を叩くのもいい加減にしろ。
 なんのためにこれだけの軍勢を集めたと思っている。
 なにしろ150年ぶりぐらいの決戦だ。
 相手は、暗黒神はーぴバースデーの力を得た魔物にも等しき悪しき存在。
 一人の力でどうこうできる輩ではない」

「俺には……、ちとせとの約束があるんだ!
 奇しくも今日はちとせの誕生日。
 彼女のために用意したこのプレゼントを渡すまでは」

 それを聞いた将軍は目をつぶり、ゆっくりと目を開き、そして再び目を開いた。
 そして目を閉じて、目を開いて、目を開くのを2~3回繰り返す。

「わかった。全てお前に託そう。
 ちなみに、そのプレゼントの中身。聞いてみてもよいかの?」

「ああ、それは開けてのお楽しみ。
 無事に俺がちとせを倒せたときに、開けてくれ」

「楽しみじゃのう。わくわくするの~」

「将軍のために選んだプレゼントなんだ。
 明日、将軍の誕生日だろ?
 俺は、この戦いが終わったら、将軍のプレゼントを買いに行こうと思っている。
 だから、それまで絶対に死ぬことはできない」

 屋敷が崩れ、暗黒神となり、バリーナルドなんとかとも融合を果たした巨大なちとせが姿を現した。

「これが……、ちとせ……」

「そう……、わたしはちとせ、全治全農の力を得て、闇を育む光の天使。
 わたしの歌声は……」

「そうか……、ちとせは……、自分の身を犠牲にして……。
 この世界を救うための柱となったんだ……」

 すべてが終わった。

 食卓にはちとせ父、ちとせ母。そしてちとせがついている。
 もちろん、暗黒九官鳥のセキセイ2号も健在である。
 彼女(鳥)は、狭い籠の中で文句も言わずに、和やかな食卓風景を眺めていた。

 彼女(鳥)の目の前で、ちとせのおかあちゃんが冷蔵庫からケーキを持ってくる。
 彼女(鳥)の目の前で、ちとせが蝋燭の火を消す。

 お誕生日おめでとう。
 生まれてきた意味の何分の一かを理解できた記念日。
 生まれてきた意味のほんの何分の一ずつを新たに理解していく出発点。
 
 ちとせの父と母、そして彼らの命を繋いだ数多くの先祖たちに見守られながら。

 ちとせは自分に対して歌われるその歌の意味を噛みしめた。

 ハッピーとは、人生の階段。
 バースデイとはそれを昇るということだ。
 ツーユーには、小走りでとかゆっくりととかの意味があてはめられる。
 ディアの意味はよくわからないが、たぶん、しっかりしろ的な意味が込められているのだろう。

 そして『ちとせ』とは『千歳』。連綿たる歴史を紡ぐという確固たる決意が込められている。

 人生の階段を昇れ、小走りで
 人生の階段を昇れ、勇み足で
 人生の階段を昇れ、 良くわからないけどおそらくはしっかりしろ
 永遠に紡がれる時の中で
 人生の階段を昇れ……
 
 そして最後の一節。『ツーユー』
 その意味を知る者はまだ誰も居ない。

 それはこれから千年の時をかけて、小学四年生のちとせが探し出さないといけないのだから。

~ fin ~

id:sokyo

ちとせさん、お誕生日おめでとうございます!

良くわからないけど、人生の階段、しっかり昇ってね。

2015/06/02 23:20:40
id:takejin No.4

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第一話

「ちょっと待って」
私は、タブレットのデータを指している山田君に、振動するウォッチを示した。画面には、里山さん、と表示されている。
「はい」
イヤホンから、今一番聞きたかった声が流れ出てくる。
「調子はどう?準備は進んでる?」
「ええ、怖いくらい順調。珍しいわね声だけなの?」
「ああ、移動中だから、隣の人が写ると面倒だから」
「いろいろ気を使ってるのね」
「あたりまえだろ。で、えへん。今度の木曜日だけど、あるレストランを予約したんだ。」
「木曜日?え、その日は」
「わかってるって、だから、そこに君が行って、出てくる料理を食べていてくれればいい」
「え、なんで?あなたは遠い場所に」
幸いなことに、私の目が泳いでいるのは、スマートグラス越しになっていて、山田君には見られなかった。
「だから、一緒にいられないんだから、せめて同じ料理を同じ時刻に食べないかって」
「そうなの。わかったわ」
スマートグラスの画面にメッセージが浮かぶ。
「そこのレストランに、9:00だから。」


8:59に入口に向かうと、制服の係の人が近づいてきた。
「ミスワトソンですね。お待ちしておりました。こちらへ」
係の人に導かれて、私は窓の見える席に着いた。目の前にはテーブルと、二人分の食器が並んでいる。
「あの、一人なんですけど」
「ご予約の方のご希望で、このようにさせていただきました」
ウォッチが振動した。
「やあ、君らしく、時間ぴったりだな」
「ええ。良くわかったわね」
「僕の情報網をバカにするなよ」
「そうね、いつもの事ね」
私は少し微笑む。そう、いつものこと。
「そのスマートグラスに、新しいアプリがインストールされてる」
私はウォッチを見た。新しいアイコンが踊っている。
「あら、踊っているわ。これ?狸かしら」
「そう、里山のタヌキ。そいつをタップして」
画面が広がる。
「スマートグラスでそのテーブルを見てみて」
私は、テーブルの方に向かって座りなおす。スマートグラス越しに私の側のお皿とカトラリー、反対側のお皿とカトラリーが見え、そこから顔を上の方へ振ると、
「おーい、見えるかーい」
手を振る彼が写っている。一度グラスを外す。実際の椅子には誰も座っていない。
再びグラスを掛けて、出現した画面の彼に言う。
「ARね」
「そうそう。君ならすぐにわかると思ったよ。」
「わかっているけどすごいわ。何キロ離れているのかしら、まるで目の前にいるみたい」
「そう、今の技術はすごいんだよ。じゃあ、始めようか」
さっきの係の人が、すぐ脇に立っている。半球形のカバーのかかった料理をテーブルに置く。
「なにかしら、これ」
答は実は知っているような、そうじゃないような。
思わず、私が見入る目の前で、係の人がカバーを外す。
「おめでとう、ハッピーバースデー!」
目の前には、丸い白いケーキが置いてあり、そこにはHAPPYBIRTHDAY!!とチョコレートで書かれている。所々にローソクが立っていて。
「あら、3本なの」
「正確に33本立てたいの?ひょっとして23なのかな?とその辺の人に思わせた方がいいだろ?」
「ま、いいわ」
「ほら、火を点けないと」
グラス越しの彼は、変わった形のライターを取りだし、ローソクに近づける。
「点火」
と言いながらライターを操作する。ローソクに火がともる。
「すごいわ、遠隔操作で点火するのねこのローソク」
「そうなんだ。今回一番苦労したのが、ここさ」
2本目も点火と着火のタイミングは一致している。
感心しながら3本目のローソクを見ると、倒れてしまっている。
「あ、倒れてる。」
これじゃあ、彼の方のデータと一致しないはず。どうするの?直した方がいいの?
「大丈夫」
彼は、難なく3本目に火を点ける。しかも、倒れたローソクを持ち上げて、ケーキに刺しなおしている。
「え」
私は、グラスを外した。
目の前には、空の椅子があるはずだったのに。
「やあ、瞬間移動してきた」
彼の笑顔がそこにあった。
「すごいだろ、現代の技術は」
そんなことはどうでもよかった。私は、彼の胸に飛び込んだ。
「どうやったかなんて、どうでもいいわ。うれしい」
彼は私に微笑んで言った。

「誕生日おめでとう。」

私は、彼の体温を確かめながら、こう思っていた。

この感覚もARだとしたら、本当にすごい技術ね。

id:sokyo

ワトソンさん、お誕生日おめでとうございます!

いいなぁこんなお誕生日いいなぁいいなぁ…。

2015/06/02 23:22:58
id:sokyo

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2015/06/14 21:47:28
id:MerciFairy No.5

回答回数30ベストアンサー獲得回数6

ポイント20pt

『授かりし資格』

私には誕生日がない。
もちろん未だ生まれてきていないなどといった安っぽいSF小説のような寝言ではない。誕生を認められるのには条件がありそれは泣くこと。多くが誕生した直後に産声をあげたことだろう。だがどうしたわけか私は泣かなかった。生まれながらの非行少女だったわけではない。泣く理由が欠片もなかったからだ。私からすれば理由もなく泣き喚いたキミたちの神経がわからない。この世に産み落とされたことを嘆いているとでも言うつもりか?

眩暈がするほどの陽光のなか、私は今カップ麺の汁を啜っている。残しなどしない。それは物の有難味などといった高尚なものではない。単にお金がないのだ。毒々しい色に染まった汁を一心不乱に胃へ流し込む。近所の電柱の傍らに咲いていた蒲公英を持ち帰り、茹でてカップの中に浮かべたのが唯一の慰めであり本日のダイジェストのすべて。この味気ないカップ麺一杯が今日の食事のすべてなのだった。

私の人生は何の為にあるのだろう。こんな為に私は生まれてきたのか。ならば天は随分罪なことをしたものだ。私には夢を見る権利さえ与えられていないのだから。

琥珀色の瞳から一筋の液体が流れ、頬を伝ったその大きな川は決壊し雫となってこの痩せっぽっちの太腿に零れ落ちた。小指で掬いペロッと舐める。これも私にとって立派な養分…刺激となることだろう。
《涙とはしょっぱいものだったんだな・・・》
そこでようやく気が付いた。私は今生まれて初めて涙を流したのだ。こんな私にも春が来たようだ。

・・・と、そのとき、開け放った窓から蝶が何頭も舞い込んできた。私の唯一のお友達たち。祝福してくれているのだろうか。今日が私の誕生日になったのだ。来年98歳にして初めて迎える誕生パーティー。今使っているパソコンはもう旧い。母に最新パソコンでもせがむことにしよう。

それにしても眩しい。3年前から昼夜問わず眩い光が私を包み込んでいる。
私は今初めて生きる喜びに充たされている。

~了~

id:sokyo

お誕生日おめでとうございます!

どんな風であれ、光に包まれているのはハッピーですねー。
妖精『へんてこ凛』さん初めまして。
これからもよろしくお願いします!

2015/06/02 23:29:02
id:grankoyan2 No.6

回答回数121ベストアンサー獲得回数34

ポイント10pt

題: マジで生まれる5秒前

 登場人物:アル
      サラ

==残り:4分30秒==

「5分前仮説は検討に値するとは思うんだけど……」

「そう? じゃあ5分後仮説だって」

 僕は顔をすくめた。
 突然サラがとんでもないことを言いだしたのだ。

 世界5分前仮説とは、この世界が実は5分前に出来上がったという突拍子もない仮説だ。
 5分より前の、人間の記憶、さまざまな記録や事象――古い書籍、歴史の教科書の内容、埋もれている遺物や化石――などが、一瞬にして創造されており、そう考えると矛盾は生じない。……らしい。

「でもやっぱりおかしいよ。5分後に世界が誕生するのなら、今の僕たちの存在はいったいなんなの? ああ、5分後に時間の流れが逆転して新たなビッグバンへの道を辿るとかいうのならば想像できなくもないけど」

「今回の特異点はアルなのよ。わたしは、哲学的ゾンビ。アルの都合でアルが生み出したもの」

「哲学的ゾンビは知ってる。この世界でちゃんとものを考えているのは僕だけで、僕以外の人間は思考していない。思考しているかのように振る舞っている。
 サラ? そうなのか?」

「ええ、そうよ。だけどわたしにはちゃんと役割が与えられているの」

 そこでサラは、目の前にあるカップを手に取り、中の液体を口に含む。

==残り:4分==

「サラが哲学的ゾンビだとしても、だよ。
 少なくとも僕の自我が存在しているのなら……。
 それはこの世界は5分後に誕生するのではなく既にあるってことじゃないのか?」

「それは傲慢よ。アルの存在と世界は同列には語れないわ。
 今のアルは概念的な存在。物質とは無縁のね」

「それって、水槽の脳みたいなもの?」

「そうよ、水槽もないし、脳も存在していないけどね」

「わからないな……。百歩譲ってそれが事実だとして。
 今僕にそれを伝える意味ってなんなの?」

「アルにとっては突然だったかもしれないけど、わたしにとってはそうじゃないから。
 わたしが役目を、与えられた仕事を始められるのは世界の生まれる5分前からっていう制約があるのよ。だからこその5分後仮説なの。
 それは事実だから仮説ではないけれど」

==残り:3分==

「まあいいさ。で、世界が5分後に誕生する。そしたらサラはどうなるのさ?
 それに僕も」

「わたしは、ここで役目を終えるわ。
 新たな世界には存在できない。
 だけどアルは違う。
 新しい世界のありようをこれから考えて、世界を生み出すの」

「僕がデザインした世界がこれから生まれる?」

「そうよ。わかってくれた?」

「だけど……、自慢じゃないけど僕だって万能じゃない。
 それは確かに一般人に比べるとよっぽど詳しく世界のイメージは掴んでるよ。
 万人には理解しがたいような持論だってよく言われるけど。
 だけど、わからないことも多い。いやわからないことだらけだ。
 そんな僕に依存した世界なんて穴だらけで複雑怪奇なものになりかねない」

「うん、そうだろうと思う。きっとこれから生まれる世界は歪で、整合性なんて全くないんだわ。
 だから気負うことはないの。誰がやっても似たようなものだから。
 その中でもアルはまだ見込みがあるってだけなのよ。
 サイコロでも振りながら、きままにやってくれたらいいのよ」

「それは僕の知識不足が原因? 今から勉強すれば少しはましな世界を作れるのかな?」

「そうね。でもそんな時間は残されていない」

==残り:2分==

「どうして僕にそんな白羽の矢が、重大な役割が与えられたんだろう」

「気にすることはないわよ。これは実験の一環だから。
 アルが失敗してもまた、他の誰かが同じことをやらされるわ。
 そうして世界のルールが少しずつ定まっていくの。
 何度も何度も繰り返して、不整合が取り除かれていくのよ。
 ただ、次の誰かにバトンタッチするためにはひとつだけ、アルがすべきことがある」

「それは何?」

「沼男って知ってる?」

 僕は頷いた。別に沼じゃなくてもいいのだけれど。
 要は僕の体が失われると同時に、僕とまったく同じ構成のコピーが誕生するとかいう哲学的な思考だ。
 物質だけでなく、意識を司る要素までが完璧に再現されれば、僕は生きながらえる。
 失われた僕は、コピーに置き換わり、それ以前とまったく同じ存在として活動できるのだ。僕自身も、周囲の誰からも、僕が入れ替わったことなんて気づかれない。

「だけど、今の僕は抽象概念じゃないの?」

「それでも知ってるでしょ? 骨があり、内臓があり、DNAを持つ。
 ざっくりとした自分の構成を」

==残り:1分==

「ざっくりとだけどね」

「アルはこれから世界を俯瞰的に見守り続け、そして自分の器を探し求めるのよ。
 探すというよりももっと積極的に作るというイメージね。
 アルは世界の創造にわずかながら干渉することもできる。
 銀河を作り、生物の誕生に適した惑星を見つけ、生まれた生物の進化を見守るの。
 そしていずれは今のアルが認識しているその体を持つ生命を作り出す。
 何百億年とかけて、アルが収まる器を探していくのね。
 そこで、アルの役目はお終い」

「僕はこれから生まれる宇宙を見守り、そして僕が収まるべき器を探し出す」

「そう。そしてもう少しましな世界を作れる誰かに知識を引き渡す」

「そうして世界の秩序が少しずつ取り戻されていく」

「そろそろ時間よ。アル。
 いえ、アルベルト」

「それは、僕が自分の収まる器を手に入れた時の名前?」

「ええ。アルベルト・アインシュタイン。
 あなたの好みの世界を自由に作ればいいわ。
 さっきもいったけど気負うことはないわ。サイコロでも振って気軽にね」

「僕は……、僕はサイコロは振らないよ」

 ~ fin ~

id:sokyo

アインシュタインさん、お誕生日おめでとうございます。

id:alpinixさんのこれみたいね!

2015/06/02 23:37:43
id:grankoyan2 No.7

回答回数121ベストアンサー獲得回数34

ポイント10pt

題:HBDタクティクス

『HBDタクティクス』とは巷で大人気のカードゲームである。
 ルールはそれなりにシンプルだが、戦術に多様性があり、子供はもちろん――カードバトルを題材にしたアニメも放映されている――大人にも広く受け入れられている。

 そして今、第一回大会の決勝が行われようとしている。

「さあ、両者、所定の位置につきました。
 先攻は竜宮寺雅人さん、後攻は期待の新生、いや神童とも謳われる、皇狼牙くんです!」

 竜宮寺は山札から一枚ドローする。そして場(バトルフィールド)に一枚のカードを出す。

「おおっとー!! いきなり出ました!!
 アルティメットキャンドルナイト!! ここまでの戦闘で無敗を誇る、竜宮寺君の最強のカードだ~!!
 対して狼牙くんのバトルフィールドには未だバトラーが出ていない!
 いきなりのピンチです!!」

「ターンエンドだ!」

「おっと~、これはどうしたことでしょう。竜宮寺くんはACK(アルティメットキャンドルナイト)に攻撃指示を出さずにターンを終了しました!」

「やるね、お兄ちゃん。それとも僕の手札を知っていたのかい?」

「ふん。お前の戦い方は知っている。
 あるんだろう? リフレクターPボックスが……」

「すごい、第一ターン! それも先攻の竜宮寺くんのターンを終えた段階で既に高度な心理戦が展開されていました。
 ACKで攻撃を繰り出せば、狼牙くんのバトルポイントは大幅に減少するはずでしたが、RPB(リフレクターPボックス)を持っているのならば、その攻撃を相手に反射することができます。
 それを見越して、竜宮寺くんは攻撃を差し控えた模様。
 さあ! 注目の、狼牙くんのターンです」

「ドロー! そして、場にはこいつを召喚だ!!」

「おおーっとー!! 狼牙くんの出したカードもすごい!!
 レジェンドレアのカード!!
 クリスタルクリームドドラゴンです!!」

「クリスタルクリームドドラゴンで、敵のACKに攻撃!!」

「一撃で粉砕された~!! これは一気に形勢逆転か~!!
 いや、竜宮寺くんは不敵な笑みを浮かべています」

「ターンエンド!!」

「さあ、竜宮寺くん、場にはカードが出されていません。
 次に出してくるのはどのようなカードか!?」

「ドロー、そして、場には……こいつだ!!」

「で、でたー!!
 ACKG(アルティメットキャンドルナイトゴースト)です!!」

「ACKGは、ACKが撃破された次のターンにしか出せないという制約がある。
 だが、このカードが出せるということは、それは俺の勝利を意味する。
 まんまと罠にはまったな!」

「これまでの戦いでACKGは使用されていません。
 竜宮寺くん、最強のカードを温存していたようです。
 これはさすがの狼牙くんも……、いえ、狼牙くん、いたって平静な表情を保っています」

「いつまでそんな態度でいられるかな。
 ACKGで、CCDD(クリスタルクリームドドラゴン)に攻撃だ。
 さらに! ACKGの攻撃は、バトルユニットを貫通してプレイヤーに攻撃を加える!!」

「おーっと! ACKGの攻撃で、CCDDが撃破されます!!
 さらには、狼牙くんのバトルポイントが10から一気に7まで減少しました!!」

(中略)

「さあ! 戦いもいよいよ終盤戦!!
 ここで、状況を整理しておきましょう。
 竜宮寺くんのバトルフィールドには、ACKG、リボンの聖女、滅びの牙をもつ花束の三体。
 
 そしてバトルポイントは10のままです!
 対して、狼牙くんですが、バトルポイントの残りはわずかに1を残すのみ。
 バトルフィールドにはなにも召喚されていません。
 毎ターンのように希少カードであるCCDDを召喚しては居ましたが、それは全てACKGに撃破されて有効な攻撃ができずにいるのです!!
 このターンでなんとかしないと敗北が濃厚だ!!」

「よく粘ったと言っておこう。
 だが、俺のACKGに打ち勝つだけのカードはもはや残ってはいないんじゃないか?」
「甘いね、お兄ちゃん。
 フィールドを見てごらん?」

「こ、これは……」

「そう、クリームだよ。今までおにいちゃんに倒されたCCDD(クリスタルクリームドドラゴン)が残した、怨念。
 それが、集まって、地獄の底から大いなる悪意を呼び覚ます!!」

「ま、まさか!! 狼牙くん。あの伝説のカードを持っているのでしょうか!?
 たしかにあれが召喚できれば、一発逆転は可能!!
 ですが、召喚には多大なるコストと何重もの制約が必要となります!!」

「これが! 俺の切り札だ!!
 いでよ!! カオスドデスクリームダークベヒーモス!!」

「待て!! ジャッジだ!! ジャッジを求める!!
 CDCDB(カオスドデスクリームダークベヒーモス)は召喚者が誕生日ではないと使用できないはずだ!
 誕生日のチェックを要求する!!」

「そうです! 竜宮寺くんのいうとおり!!
 CDCDBの召喚の条件にはそういう項目もあるのです。
 え~、そしてこちらで用意した資料では……、狼牙くんのお誕生日は……、今日ではありません。明日となっています!
 これは、自分の誕生日を数え間違えたか!?
 このままでは、CDCDBの召喚は無効となり、ペナルティとして強制的にターンエンドを迎えます……」

「ふん、負けるとわかってルールを無視した大ばくちに出たんだな。
 その勝ちたいという気持ちは尊重するが……」

「そう余裕をかましてられるのは今のうちだけだよ。お兄ちゃん。
 マジックアイテム、時の砂時計を使用」

「と、時の砂時計です!! これは時間を一日進めるアイテム!!
 これで、狼牙くんの誕生日は今日ということになり、CDCDBの召喚の条件は満たされます!!
 狼牙くん、ここにきて、超レアアイテムを温存していたようです!!」

「だが!! 誕生日を会わせるだけで、CDCDBの召喚ができるのなら、苦労はしない!!
 CDCDBの召喚にはあと二つ、揃えなければいけない条件があるはずだ!!」

「そうです!! 狼牙くん!! 誕生日を迎えたまではよかったが!!
 あと二つの条件をそろえられるか!!
 CDCDBの召喚には、迎える誕生日が5の倍数であること、さらに、300人以上からの祝福という困難な条件が設定されています」

「確かに。僕は明日で9歳だよ。5の倍数の歳にはならない。
 だけど、それはこのカードが補ってくれる!
 マジックカード、時の大砂時計!!」

「な、なんと、時の砂時計の上位アイテム、時の大砂時計までも使用します。
 これは時を一年進めるというアイテム!!
 これで狼牙くんは10歳ということになり、召喚条件を満たします。
 あとは……、300人以上からの祝福です。
 ですが……、狼牙くんにとっては難しい条件ではないか!?
 観客の皆さんが一斉に立ち上がりました!!」

 そして会場内にバースデーソングが響き渡った。
 明日で、9歳(カードの力で10歳)の少年の諦めない心に打たれた観客が、その一日早い誕生日を祝福したのだ。

「で、出ました!! 数々の条件を見たし、CDCDB(カオスドデスクリームダークベヒーモス)がその巨大な姿を現します。
 で、ですがこれからです!!
 CDCDBは、召喚者にとっても制御不能という悪しき存在。
 その攻撃が、相手へ向くか、自分へ向くかは、わからないのです!!
 公式発表では、その割合は5分ではなく、自分が攻撃を受ける可能性は80%にも達するといわれてさえいます!!」

「一か八かの賭けに出たか!!
 仮に、攻撃が俺に向くとしても……、そんな勝ち方で……」

「賭け? 賭けってなんだい?
 僕は確実に勝てるカードしか使わないよ」

「しかし、CDCDBは……」

「最後のコールだよ!!
 CDCDBのスキル発動!! 漆黒の吐息!!」

「ま、まさか……」

「そう、おにいちゃん。
 CDCDBの漆黒の吐息は本来はどちら側へ発動するかはわからない。
 だけど……、その性質が本来バースデーケーキのろうそくを吹き消すという意図を持っている限り。
 そこに火がともされた蝋燭があれば、自然とそちらへと向くんだ!!」

「CDCDBの漆黒の吐息が、ACKG(アルティメットキャンドルナイトゴースト)へと襲い掛かる!!
 さらには、貫通属性を持つ攻撃です。
 竜宮寺くんのバトルポイントが……みるみる減っていきます!!
 つ、ついに零になった~!!
 勝負が!! 勝負が決まりました!!
 第一回、全埼玉『HBDタクティクス』大会の優勝は、皇狼牙くんに決定です!!」

「負けたよ。だが、素晴らしい戦いだった」

「こちらこそ」

「二人の間に熱い握手が交わされます」

「だけど、次は負けない。だからそれまでお前は負けるな。
 俺以外の埼玉人には決してな」

「うん。おにいちゃん。次の対戦を楽しみにしてるよ」

『HBDタクティクス』
 それは大人と子供の垣根を超えて、お互いの全力を尽くせるという素晴らしきゲームである。
 だが、その存在は埼玉県人以外には意外と知られていなかった。

~ fin ~

id:sokyo

狼牙くん、お誕生日おめでとう!

後半のいいところで引用スターができなくなってしまってごめんね……。

2015/06/02 23:43:17
id:takejin No.8

回答回数1543ベストアンサー獲得回数203スマートフォンから投稿

ポイント10pt

第二話

目の前に光っている画面には、リストが表示されている。
「さて、何人だっけ?」
タブレットを触って、人数の欄を見る。
「19人か」
そうすると、スタッフを含めて26人ね。26人だと、誕生日が一緒の人がいるんだっけ。
昔、そんな授業があったわね。


「さて、ここでクイズです」
ちょっと眠そうな雰囲気が漂う、昼休みのあとの5時限目。そんな時に数学なんて、ダメだよね。
教授もあきらめたのか、クイズなんて言ってる。
「数学の確率の問題。同じクラスに同じ誕生日のペアが、少なくとも1組出現するには、クラスの人数は最低何人いればいいのか。と言う問題だ」
最前列のメガネ君が即答する。
「そりゃ367人でしょ」
教授は頷く。
「そうだが、最低何人というのは、別の計算からでてくるんだ」
「じゃあ、100人くらい?」
「80人」
「140人」
「オークションじゃないんだが。もっと少ない」
「んじゃ2人」
「そんなわけないだろ」
「じゃあ30人」
「32人でどうよ。このクラスの人数」
食いついてきた学生たちを見て、教授がにやっと笑ったのが私にもわかる。
「もっと少ないんだ。23人いればいい」
「えええええ」
私も、えええ、だ。
教授は黒板にグラフを描いている。
「厳密には、23人いれば、同じ誕生日のペアが存在する確率が、存在しない確率を上回る、という事になるんだが」
「先生、難しい」
「わかんねぇ」
「ほんとにいるのか?」
「休んでるのがいるから、えーと、29人いるんだなここに」
「教授、調べていいですか」
教授はまた微笑んで、頷く。
メガネ君が立ち上がり、黒板に向かう。
「そこから、誕生日言って」
「11月8日」
「次は?」
「5月2日」
「8月31日」
教室がちょっとどよめく。
「そうよ、夏休み最後の日よ。みんなに祝ってもらったことないわよ」
「じゃあ、今年は何かしてみますか?なあ、みんな」
「次、君」
「12月2日」
「2月8日」
「10月3日」
「6月1日」
延々続くけど、なかなか同じ日が出てこない。なんだか残念。
そんな時、階段教室の後ろのドアが開いて、一人入ってきた。あ、孝之君だ。いつもと同じ、イケメンでくしゃくしゃ頭、ボロボロのジーンズに超難しそうな本を抱えて。
「おい、孝之、お前誕生日はいつだっけ」
教室中の視線が、孝之君に集まる。
「な、何だよ急に」
孝之君は、黒板を睨み付けた。教室を見回して、人数を数えているような。
「そのグラフと、確率論の教授、そして、人数分の誕生日」
階段を下りながら、教授に向かって孝之君は告げる。
「同じ誕生日の出現確率の話でしょう?教授。23人ならいる方が普通という。でも、その確率は50%を超えた程度だから、ホントにそうなるかは運次第。教授は運に見放されたわけですね」
孝之君は黒板に数式を書き始める。あの記号は何?
「誕生日の出現確率はこれで、人数が増えると、この掛算になって、お互い消去してこうなって、こうなって」
23と書いた孝之君は、黒板を手の甲でトントンとたたく。
「ここで、誕生日が同じペアが出現する方が、高い確率になる。で、このリストだ」
「おまえの誕生日はいつなんだよ」
メガネ君の質問を、孝之君は無視する。
「ここで、このリストを見ながら発表すると、意図的に同じ日にちを言ったな、と言われかねないから、教授におれの免許証を渡す。教授に読んでもらおう」
孝之君は教授に近づいて、お財布から免許証を取り出して、教授に手渡した。
「えへん。日付は、えーと2月8日」
教室がおお、と声がそろう。黒板のリストを見る必要はなかった。それは、私の誕生日だから。
「この日付は、知ってるぞ」
孝之君は黒板の2月8日を叩いて言う。教室をちょっと探して、私に視線が合う。
え。
「佐野、おまえだろ2月8日。同じ誕生日だったんだよ。知ってたか?」
私は首を横に振る。声が出ない。
孝之君は、黒板に何だか数字と文字を書いているけど、やっぱり何だかわからない。
「好きになった女子が、同じ誕生日って確率は、計算できないのが、ちょっと悔しいんだが」


私は思い出し笑いをしてしまう。そうね、そんなこともあったわね。
でも、このリストだと、26人なのに同じ誕生日はいないわねぇ。

ピッとアラームが鳴って、画面に一人分が追加される。
「あら、緊急追加の里山さんの誕生日、スタッフのハウアーと同じだわ。」
孝之君、あなたの言うように、確率論はおおむね正しいようね。では、今度の旅は27人で出かけましょう。

楽しかった頃の思いに乗せられて、私は軽い足取りで家を出た。日差しが眩しかった。

id:sokyo

佐野さんお誕生日おめでとうございます!

こういう学生生活をだな、私はだな、送りたかっ…(絶命)

2015/06/04 15:11:02
id:sokyo

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2015/06/14 21:49:25
id:kobumari5296 No.9

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ポイント10pt

『さようなら、想い人』


 少子高齢化社会が叫ばれて数十年たつが、医療福祉の需要はあるのに供給がついていかない。医療従事者、特に筆頭に立つ医師不足の駄作案として、政府は、その年あらゆる医療分野で活躍した医師を選抜し、“国宝医師”の称号と多額の受賞金を与えることを決定した。次世代を担う若者に、ネームバリューに付随して金まで手に入るチャンスがある、こんなにうまい職業は無いと言う名札を付けたのだ。結果的にそれは成功したが、若者たちの目には、ネームバリューよりも金がきらめいているのだが、医学部志望が大幅に増えた事実だけ見れば、“国宝医師”は成功だったと言える。
「凰示、起きてよ凰示。国からもらったお金をさ、ネットカフェに費やすのはいけないと思うけど」
 ブースで自前のパソコンに向かっているのは神崎凰示。彼は初代“国宝医師”。新たな医学界のパイオニアである。
「マンション買うの、めんどくさい。どうせ帰らないんだし、無駄だろ。世話はしもべのトワがいるんだし」
「いとこって言ってくれないかなっ。確かに、国宝医師の秘書だけれど、しもべじゃないし」
 凰示の周りにはお菓子やファストフードのごみが散らかっている。医者の不養生だと、トワが散々注意しても直さないのに、健康体で全国を飛び回るフリーの医者をやっていけるのだから、一芸に秀でた人間はどこか変わっているとトワは思う。
「それより、仕事だよ。さっき官僚のオニーチャンから電話きた」
「東京に帰ってまだ三日だってのに、嬉しいこって」
「名前は伊佐波美琴。神話の女神に似てるよねえ」
「イザナミミコト……おい、トワ。もしかして」
「黙って聞け」
 これから、彼の治療が始まる。

 十年契約しているネットカフェのすぐ近くにある、少し高いファミリーレストランを、凰示は診察室として使っている。勿論、他の客もいるわけだが、店長に話を通しているので入店すれば否応なしに個室に通される。ネットカフェであると、その雰囲気にのまれて患者が委縮して本音を言いづらいから、というのが凰示の持論だ。
「彼女が伊佐波美琴さん。前職っつーか、職業は官公庁秘書。執拗なセクハラを受けており、ある日突然、記憶が飛んだ」
「記憶喪失か……精神の分野だな。まあ、俺に治せねえ病気なんてない。心配しないでいいよ、イザナミさん」
「はあ……」
 こういう事例は数多くある。受けた患者の数と治癒した例はイコールで結ばれる。しかし今まで以上にやる気が漲っているのは、目の前の患者が本当に女神のように美しいからだけではない。

「わっけわかんねえ……!」
「すみません、先生……」
「謝らなくてもいいんだよ、美琴さん。この人が自意識過剰なだけだから」
「なんで戻らないんだ記憶……!」
 この二週間、ゆかりのある土地はすべて訪れた。投薬も続けているし、催眠療法も何度もやった。なのに美琴の記憶は戻らぬまま、時間だけが過ぎていく。凰示はいつものファミリーレストランで、アイスコーヒーを飲みながら自作の電子カルテと格闘していた。これはやった、あれはやった、医療用語をブツブツと唱える凰示を、美琴は不思議そうに眺めていた。
「先生は」
「ん?」
「なんで、そんなに一生懸命なんですか。私なんかの為に」
「……昔、守りたいやつがいたんだ。でも守ってやれなかった」
「亡くなったんですか」
「いや、生きてる。そいつの両親が亡くなって、遠くの親戚へ……って、よくある話」
 一緒にいようと約束したのに。
 守ってやるよと約束したのに。
 頼っているよと言ってくれたのに――
「だから、医者を目指した。家族が亡くなって悲しむ顔を、少しでも減らしたいからな」
「真面目ですね」
「美琴さん、真面目じゃないよ。この人、生活ダメダメだし、下心アリアリだし、未練タラタラだし。ま、国宝医師を授与されるくらいだから、熱意は買うけどね。でも、その遠くに行った子に未練が」
「トワッ、この野郎」
「……先生」
「ん?」

「私の治療、もう終わりで、いいですよ」

 凰示は耳を疑った。二週間を共にして、一番の笑顔で美琴は言った言葉の意味は、ジ・エンド。
 もう、終わり。

「私、医者になります。先生の様な」
「ええええええええっ、やめた方がいいよ、美琴さん!凰示は手本にはなるけど見本にはならないよ!」
「お前そこかよ!美琴さん、まだ手段も時間もあるのに」
「二週間、先生を見て、さっきの言葉を聞いて決めたんです。私も医者になって、哀しい顔を笑顔にしたいなって。大丈夫、前の職場には内密に処理をしてもらうようにしますから、先生に迷惑はかからないように」
「それにしたって……」
「恵まれていますよ、私は。先生に出会えたし、新しい自我も誕生したし。今日は、私の誕生日です」
「……トワ。店で一番高いケーキを六つ頼め。パーティーでもすっか」
 止めたところで、美琴の意志は揺るがない。そんなことは分かっていた。だからこそ、凰示は記憶を戻してやりたかったのだ。
「ハッピーバースデイ、美琴さん」

 翌朝、美琴は実家に帰って行った。実家と言っても親戚らしい。また会いに来ます、お元気で。凰示は世界を飛び回る医師だから、そんな事有り得ないのに。
「やっぱり、ミコだよなあ。惜しいことした」
「うん。ご両親は亡くなっていて、引き取り先を調べたけど、一致したよ。あの子は、僕たちの幼馴染の伊佐波美琴だよ。悔しい?」
「別に。ミコらしい発想だよな、記憶をなくしているのに、新しい自分が生まれたとか。それを止める権利は、俺たちにはない」
「未練タラタラ」
「うるせえ、朝飯奢れ」
 トワの携帯が振動する。最後の希望、国宝医師・神崎凰示を頼る人間はごまんといるのだ。授与した以上、凰示に止まることは許されない。それで優秀な医師が増えるなら、と、凰示は善良な心をもっていたりもするのだ。

「いくか」

 さようなら、かつての想い人。
 おめでとう、新しい想い人。
 凰示はトワの運転する車に乗り込み、新たな患者の元へと旅立った。

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id:sokyo

ハッピーバースデイ、美琴さん!

お疲れのところがんばって書いてくださったんですね。うれしい!
まだ時間があるので、おかわり楽しみにしてまーす←

2015/06/04 15:29:10
id:kobumari5296

おかわりか……
全力半ライスくらいかしら。
小鉢に沢庵添えます(?)

2015/06/04 16:21:50
id:grankoyan2 No.10

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ポイント20pt

『フィックション7割、実話3割』

「何聞いてるの?」

「ああ、たこ虹」

新曲のやつ?」

「新曲のカップリング。たこやき作る奴。ジュージューシー

「ふーん、好きだよね、たこ虹」

「好きだよ。ほぼガチ恋レベル」

「口上とか打ってないよね?」

「ガチ恋口上はさすがにね」

言いたいことがあるんだよ
やっぱり〇〇はかわいいよ
好き好き大好きやっぱすき
やっと見つけたお姫様

俺が生まれてきた理由
それは〇〇に出会うため
俺と一緒に人生歩もう
世界で一番あいしてる
あ!い!し!て!る!

※〇〇には好きなアイドルの名前を入れる


「さすがになんだ」

「小声でしか打てないよ。オバたこMIXは全力だけど」

「打ってるんじゃん!!」

 ガチ恋口上とは……

 知る人はほとんど残っていないが秦の時代、千人武将として名を馳せた『雅智・紅威』が己の部下を鼓舞するために戦闘前に語った言葉がその由来である。

 いわく、我申する
 当然のごとく、部下であるお主たちへの愛は忘るることができない
 愛し、愛し、大いに愛する
 巡り会えたお主らは部下であり愛おしき姫のようでもある

 我が生れたその理由とは
 お主らと共に戦に身を投じること
 俺と志を共にし、敵兵の屍を築こうぞ
 世界で一番愛おしきわが配下たちよ
 あ!い!し!て!る!
 (日本語訳:ぐらんこ。)

 発端は戦意向上のための口上であったが、それが21世紀にアイドルへの限りない愛を送るエールとして若干の改善を持って復活した。

 雅智は、芸術にも理解があり、彼の配下には詩人も多く含まれた。
 酒の席で詩人たちに詩を吟じさせ、酔った勢いに任せて、雅智自身も詩の合間合間で本来戦場で語るはずの口上を大声で口にし、周囲から、そして吟じている詩人本人達からもなんだかなあと思われたという事実は歴史の闇に葬り去られていることは忘れられて久しい。

出典:ぐら明書房刊 『春秋武将の風変わりな推し事』より


「くるみ推しだっけ?」

「くるみと根岸」

「紫と緑ね、ガチ恋入れるのはどっち?」

「その日のテンションによるなあ」

「そういえば、今週の土曜の予定ってなんかある?」

「今週は、服部緑地でレインボーツアーのアンコールイベントがあるから」

「ああ、そのための予習でもあるのね。たこ虹を聞いてるのは」

「そんなことないよ。新曲のコールはまだ固まってないし。
 ワンパターンだし。
 ガウガールなんかは、フゥフゥやめて全部ガゥガゥにしたらいいとは思うんだけど、賛同者がねえ」

「たこ虹家族だっけ? ファンの人達と交流したらいいのに」

「照れくさいしね。一人でライブ見て帰るのもそれはそれで楽しいし」

「ライブを見て帰る」

「ライブを見て、握手会に参加して2ショット写真を撮って帰る」

「何時くらいに終わるの?」

「その日の天気とかお客さんの入りようとか進行によるかな?
 ライブ自体は14時には終わるね。
 その後の特典会は早くて19時とか20時くらいまでかかるかも」

「じゃあ、一緒に晩御飯は食べられない?」

「イベントが終わった後だったらいいよ」

「イベントが終わった後」

「誕生日でしょ」

「覚えててくれたんだ」

「そりゃあね。たこ虹のイベントスケジュールと恋人の誕生日は忘れない」

「たこ虹のイベントと誕生日」

「惜しむらくはたこ虹にまだバースデーソングが無いってことだよね」

「あったらどうしてくれるの?」

「歌う」

「わたしたこ虹に興味ないんだけど」

「なんだったら一緒にイベント行く? 楽しいよ」

「なんだったら?」

「なんだったら」

 6月7日は、「まいど!おおきに!元気売りの少女レインボーツアー」 アンコールが大阪豊中の服部緑地で開催予定です。

「どうしようかな」

「Tシャツぐらいなら貸せるけど」

「あの光る棒の奴は?」

「あれは昼間の野外では使わないかな。光らないし。
 『ちゃんと走れ!!!!!!』やるんだったらもっとかないとだめだけど」

「もっとかないとだめ」

「ああ、でもツアーアンコールだからやるかなあ。やってくれるといいな。
 一応持ってくよ。だからTシャツとペンライトは貸せる」

「ペンラとTシャツと私」

「愛するたこ虹のため」

「愛するたこ虹のため」



 業務連絡:来る6月20日に府内某所でぐらんこ。の生誕イベントが開催される予定らしいです。
 セルフプロデュースイベで内容は未定ですが、おそらく、たこやきレインボーを主軸にももクロ、エビ中、しゃちほこのライブを見ながらわいわいだらだらする会になるでしょう。

 業務連絡終わり。

「わたしとたこ虹どっちが大事とか聞かないんだね」

「たこ虹でしょ?」

「答えは是であり否でもある」

「答えは否であり是でもある」

 それでは聞いてください。
 たこやきレインボーでオーバー・ザ・たこやきレインボー

id:sokyo

恋人さんもうすぐお誕生日おめでとうございます!
あとぐらんこ。さんもうすぐお誕生日! おめでとう! ございます!!

生誕イベント行った人、だれかイベントレポよろしくお願いします!

2015/06/04 15:34:09
id:MerciFairy No.11

回答回数30ベストアンサー獲得回数6

ポイント30pt

『渇き』(妖精出版/著者:へんてこ凛/2000円(税別))

渇ききった心に“命の水”を流し込む。空き瓶を無造作にガステーブルの上に置くと娘がビクッとしたのが気配でわかった。

いつからだろう、私がキッチンドランカーに墜ちたのは。確かあれは麻衣を産んで間もなくの頃だから、かれこれ4年になるか。原因は夫の浮気。どこにでも転がっている陳腐な物語。私より二回り上の夫は会社の新入社員に手をつけたのだ。

《思い出すだけで吐き気がするわ》
冷蔵庫を開けもう一本瓶を取り出す。カ〇ピス。これを原液のままラッパ飲みで一息に飲み干すのが奈津子の日課になっていた。日によって量は違うが概ね2本を夕食の準備の間に補給する毎日。二本目は味わうようにゆっくりと。

「ママ、またカル〇ス飲んでるぅ。ずっる~い」
「今日はママの誕生日なのよ。だからカ〇ピス飲んでいい日なの」
「ママ、いっつも飲んでるよぉ」
「ママは毎日が誕生日なの。特別なの」
「ふ~ん」

麻衣は口を尖らせながらも納得したようで、ここのところ夢中になっている積木遊びに関心を戻してくれた。

《この子が何歳まで騙せるだろう》
母親がキッチンカ〇ピスドランカーだと悟ったとき娘は私を捨てるだろうか。漠然とした不安が奈津子に押し寄せる。こうなってしまうと自分をコントロールすることはできない。開けた2本の空き瓶を視界の端に追いやり、奈津子は3本目の補給に入った。

★----*----*----*----*----*----*----*----*----*----*----*----★

「ただいま」

夫という名の他人が帰ってきた。料理は既に冷めきっている。時計の針は7時をいくらかまわっている。

「遅かったのね」

夫の勤める会社は昨年から残業がなくなった筈だ。片道30分。計算が合わない。

「今朝出掛けにお袋のところに寄るから少し遅くなるって言っておいただろ」
「あぁ、そうでしたか」
「なんだよ、その言い方は」

つい口調がキツくなる。これでは一層私への愛情が薄れる一方なのはわかっている。けれど一度狂った歯車は以前のようには噛み合わない。プライド。大学院卒の私が二度も騙されるわけにはいかない。

「おい、これ」
「なに?」
「今日お前の誕生日じゃないか」

《そうか、今日は本当に私の誕生日だったんだ。自分の誕生日を忘れるなんて・・・》
やはりカ〇ピス依存症が記憶を迷宮に迷いこませるのだろう。混濁の白。記憶の混濁。

丁寧にラッピングされた箱。ピンクのリボン。そんなものに心をときめかせるほどもう若くはない。中身はなにか、それがすべてなのだ。愛に飢えれば物欲しかない。奈津子は包装紙を乱暴に破り捨てた。
《何だろう?カ〇ピスだったらいいのに》
我ながら気の利いたジョークが脳裏に浮かぶ。

「えっ!?」
「どうだ?」
「あなた、これって・・・」
「お前それ欲しがってただろ?」

茶目っ気たっぷりの夫のウインク。昨年美容院の雑誌でひとめ惚れしたキャメルのバッグ。心は一気に氷解。そしてあの合図。いつ以来だろう。奈津子は生娘のように頬を赤らめこくりと頷いた。

「麻衣、もう寝なさい!」
「えー、まだ短い針が8になってないよぉ」
「ママの言うことが聞けないの」
「はぁ~い」

よし、いい子だ。我ながら素直な子に育った。
来年の4月。桜咲き誇る最高の季節。麻衣に弟か妹をプレゼントしてやれるかもしれない。名前は何にしよう。男の子ならカール、女の子ならピースにでもしよう。
夫婦“水入らず”・・・カル〇スも“水入らず”の原液。

カ〇ピスは原液に限る。夫も現役のうちに。

~了~

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

<著者あとがき>
つい先日、ダイアリーでショートショートを書いて遊んだところなので、その流れで楽しく参加させて頂きました。この二つ目は緩いお話にしました。へんてこワールド全開なのでテキトーに読み飛ばしてくださいね。これにて打ち止め。

最後になりましたが・・・質問者様、初めまして!
★<m(__)m>★

id:sokyo

奈津子さんお誕生日おめでとうございます。

どう見てもカルピスです。本当にありがとうございました。(二重の意味で)

妖精『へんてこ凛』さん初めまして。
これからもたくさん遊んでください!

2015/06/04 15:37:46
id:grankoyan2 No.12

回答回数121ベストアンサー獲得回数34

ポイント10pt

『砂糖ディストピア』

※グロテスクな表現を含みます。R-15ぐらい。







 飛び散る脳漿。飛散する脳髄。それはツムグの親友のニコラのものだ。
 ニコラはその瞬間ニコラでなくなる。

「くそっ、こんなところで……」

 ツムグは吐き捨てる。が、その声を拾う盟友はもはや存在しない。
 ニコラ、スガノ、ジェフ、ソータロー、数え上げればきりがない。

 己の生誕を祝うため。仲間の生誕を祝うため。己の甘味への欲望のため。仲間たちへ甘味を届けるため。
 人間の持つ根本的な欲求の一部を満たすために、蜂起した結果がこれだ。

「アユミと約束……守れねえな……」



 ◇◆◇◆◇



「ケーキなんてもうどうだっていいじゃない!」

「どうでもいいことなんてないさ。
 今年の合同生誕祭。なんとしてもやり遂げるためにこの一年俺達は頑張ってきたんだろ?」

「そうやって毎年毎年……。みんな命を落として……。
 そもそも合同生誕祭なんて誰の誕生日でもないでしょ!
 誕生日なんてそれぞれ違うのに……」

 言い合うアユミとニコラを他所目に、

「同い年を一か所に集めて祝う成人式ってのが昔はあったらしいが。
 確か俺の先祖が住んでいたニホンって国での話だ。」

 と、スガノがぽつりとつぶやく。

 彼らは高圧的な世界政府からの支配を逃れ、辺境で自給自足の生活を送る、通称流浪民である。

 22世紀半ばに起こった人工知能の暴走による人類への大殺戮。それは多大なる被害を生みながらもなんとか収束したが、それを沈めた勢力が自分達以外の人間を管理、迫害するという新たな格差社会を築いていた。

 今の人類には3とおりの生き方しか存在しない。
 支配する側、つまりは世界政府の中に取り入り、何不自由ない暮らしを享受するか。
 だが、ほぼ世襲制でありその一因となるのは容易なことではない。
 世界政府から虐げられることを覚悟しつつ、最低限の暮らしで耐え忍ぶ支配下民となるか。ギリギリ生きていくことができる、というただ一点の利点にすがりそれを選択するものがほとんどだ。

 そして、世界政府の手の届かない汚染された地域で自由に――貧しさと不安定さを受け入れて――生きるという道を選ぶか。
 
 汚染地域でも自活できるほどの植物は幸いにして数多く存在していた。
 それと汚染に耐える生命力を持つ野に生きる動物たち。
 それらの存在のおかげでカロリーベースでいえば、流浪民の生活は慎ましくではあるが成立している。

 だが、彼らにはひとつ足りないものがある。
 それが甘味である。サトウキビ、甜菜など、砂糖の原料となる植物種は汚染地域では生息しておらず、育てることもできない。
 また花の蜜なども、甘味とは無縁の物質へと変質してしまっていた。汚染地域の蝶や蜂などの昆虫は人間にとっては苦味しか感じない蜜を集めて飛び回っている。

「甘くないケーキなんて、ケーキじゃない」

 そう言い切ったのは、ダイゴだ。

 この場に集まるのは今年で20を迎える青年たちが数十人。うち女性はアユミ一人だけだ。

 元々世界政府の食料保管庫からシュガーを強奪する作戦の最後の詰めを行っていたのであるが、あまりにも危険で無謀なチャレンジにアユミが中止を促しに来たのである。

「甘く……なんてなくてもいいよ。
 だって、クリームだって偽物だし、飾り付けのフルーツだって時期外れでほとんど手に入らない。
 そもそも人数分にいきわたるだけのケーキなんて作れないんだよ」

「スガノが言ったみたいに、成人式の儀式みたいなもんさ。
 武勇を示して初めて俺達は大人になれるのさ」

 ギムリが多少自嘲気味に吐き捨てた。

「そうやって毎年毎年……」

 アユミが悲観するのも無理はない。

 そもそも、生誕祭へ向けてのシュガー強奪、その行動自体は、数十年の歴史を誇る。
 が、それが初めて行われた当時は世界政府内に内通者が居たのである。

 世界政府の人間といえど無慈悲なものばかりでなく、流浪民たちが欲してやまない甘味――つまりはシュガー――を、与えるべく、保管庫の監視体制を緩めたり、在庫データを操作するという粋な計らいを行うものがいたのだ。時には自ら汚染された地域までシュガーを運んでくるものさえいた。

 だが、数年前にその事実が政府の知る所となり、内通者は消滅した。
 それでも甘味を求めて、強奪を計画したが、結果は常に失敗。
 幾ら武器や人数をかき集めたところで、圧倒的な戦力比は覆らない。
 今となってはシュガー強奪は、生きて帰ることすら困難な、いわば死への片道切符なのである。

「だけど、今年はツムグを始めとして能力を『発現』したメンバーがそろってるからね」
 シェンカーが自慢げに己の右手を掲げる。
 シェンカーも『発現』を成し遂げたうちの一人である。
 彼の能力は『砲撃』。威力は戦車砲に匹敵する。

「それに、俺みたいに防御系の能力の『発現』者も多い。
 むやみに命を散らせたりしないさ」

 ガルドが、アユミの頭に手を置く。

「そうさ、この日のために。俺達は一年努力してきたんだ」

「ツムグ……」

「アユミだけじゃない。俺達、同い年の全員のため。
 作戦は成功させる。もちろん犠牲は最小限に」



 ◇◆◇◆◇



――デカい口を叩いて飛び出した結果がこれか……。シュガーどころか、倉庫にすらたどり着けずに俺達は……。

 ツムグの前には巨大な殺戮自動機械が迫っている。それも一体ではなく複数。数えるのも面倒な数だ。
 それらの前面だけとはいわず、全方位に据え付けられた銃口。
 そのうちの一つが火を噴くだけで、ツムグの命は儚く散るだろう。

 甘いケーキ、食べさせてやりたかったな……。

 そっと目を閉じるとツムグの脳裏にはアユミの顔が浮かんだ。
 笑顔を浮かべているのではなく、憂いを込めた表情。

――やっぱり……笑ってくれないか……

 破裂音が重奏的に鳴り響き、ツムグの体が小刻みに跳ね回る。

 やがてそれは肉塊となり……。

 役目を終えた殺戮自動機械が本体上部のランプを赤から青へと変化させる。

 殺戮自動機械たちは本来の持ち場へとゆっくりと帰ってゆく。

id:sokyo

お誕生日おめでとうござ…らないじゃないですか!!

2015/06/04 15:39:49
id:takejin No.13

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ポイント40pt

第三話

息が切れる。暗い中で走るのは、特に。
小さな岩山の影に隠れる。強い光が何かを探すようにあちこちを照らしている。
あれはたぶん、オレを探しているんだ。
光が通り過ぎるのを待って、岩山の影から様子を見る。良く見えない。
少し乗り出した途端!
眩し!!!


自分の声で目が覚めた。窓から入ってくる日差しが、直接目に当たっている。高高度航行中に差し込む陽射しは、遮るものが無くて強烈だ。今乗っている高高度プレーンは、速いけれど窮屈で苦手だ。うっかり転寝をすると、いつも悪夢に襲われる。
右隣に座っている男性は、イヤホンをしていて、私の声に気付かなかったようだ。パソコンとスマホをいじっている。見るともなしにぼんやり見ていると、パソコン経由でかかってきた電話の応対をしているようだ。
他人の電話を盗み聞きなどは失礼と思い、自分の仕事に専念することにした。発表原稿の整理と修正部分のチェックだな。
イヤホンを耳に挿し、発表動画の再生を始めた。見慣れたナノマシンの挙動映像だ。
右に左に、自律行動をとるマシンたちは、どう見ても生きているようだ。
しかも、集団行動をプログラムしているのに、個性が出てくる。
動画にテロップを流すのは、結構難しいなぁ。ここに、マシンと一緒に数値を動かしたいんだけど。
こうするのかな、こうかな。
「あの、そこの操作は、こうすると上手く」
急に声を掛けられた。すでに、私の手からマウスがひったくられ、画面が変化していく。
あ、目立たせたいマシンだけ色が変わってるし、数値がちゃんと一緒に動いてる。すげ。
右を見ると、男性が頭をかいている。
「失礼とは思いましたが、目に入ってしまったので。これでよかったんでしょ?」
「え、ええ。良くわかりましたね」
「似たような職業とお見受けします。空間構造学の里山と申します。本業より、プレゼンで売っています」
右手を出されて、私は思わず両手で握手をしてしまった。一つはお礼として。もう一つは、学界で有名人だったからだ。
「あの、軌道エレベータの里山さんですか?お目にかかれて光栄です。いやあ、びっくりしました」
「ご存じでしたか。その里山です」
そういえば、この人懐っこい笑顔は、応用物理学会誌にも載っていたっけ。
「このナノマシン、サイズがこれだけ小さいのに、良く動きますね」
「ええ、そこは他の研究者からアドバンテージがあります。真空中でも遠隔操作ができる優れものです。でも、この大きさになると、なぜか個性が出てくるんですよ」
「そのようですね、このグラフとか、この動画とか・・・」
里山さん考え込んでしまう。その時、里山さんのPCの画面が光る。メールのようだ。
里山さん、設定替えないと、メールの中身が全て見える。英語なので全部わかってしまう。目をそらしても、長いメールの情報の断片が入ってくる。

レストラン…9:00予約完了…サプライズ…シナリオ…同じテーブル…照明…衝立て…移動時間…ローソク…リハーサル

ははぁ、誕生日のサプライズ企画をどこかのレストランで。用意周到なのが良くわかる、周到なシナリオをレストランに送っていたらしい。その詳細への返答の様だ。

「フムフム。誕生日だな」
腕を組んでいた里山さん、その手をほどいて私の動画をタップした。触ったマシンの色が変わり、情報が書きだされる。なんだこれ、いつの間にここまで。このひとすごすぎるし、しかも学会発表前のデータなんですけど。生粋の研究者なのだなぁ。
「誕生日毎に違う個性がありますね。誕生日で分離するのが、一番直交性が高い」
私は、なぜか誕生日と言う言葉に反応してしまう。
「誕生日といえば、そのメールですけど、誕生日のサプライズ企画でも考えてるんですか?」
「え」
「失礼とは思いましたが、目に入ってしまったので。」
「ま、まあ。そうです」
「そのシナリオ、肝腎の部分が曖昧ですよね」
「肝腎…そうですね。いつヴァーチャルからリアルになるかってところ」
「ええ、このままだと視線が逸れないので、ヴァーチャルと入れ替われないですよね」
「急げばいいかと思ったんですけど、難しそうです」
私は、ちょっと微笑んで。
「先ほどのお礼と言ってはなんですが、ケーキで目をそらすのはどうです」
「なるほど」
「クロッシュで隠して、注目せざるを得ないようにして」
「その隙に入れ替わればいいのか」
「どうです」
「それ、採用しましょう」
里山さん、さっそく何かを書き始めている。
ところで、さっき、里山さんナノマシンの誕生日って言ってたかな。
ん?誕生日?日付毎に何か変わるプログラムでもしたか?

「あ」

と声を出してしまった。ちょうど里山さんがどこかへ電話を掛けようとしていたので、あわてて窓の方を見る。
背中からとぎれとぎれに声がきこえる。
「調子はどう?」

そう、ナノマシンの動作特性を特徴づけるために、個体にユニークな名前を付けていたのだ。その個体から発信させるデータに、名前をラベルし、動作特性の時間経過のゼロ点を、完成時刻としたのだった。この日付が変わると、各動作のベース値に差が生じるに違いない。
「星占いを組み込んでしまったのか、ナノマシンに」
発表には、このラッキーな星座のマシンの話にして、集団行動でのパラメータ最適化の一手法という事にしよう。
とりあえずの発表ストーリーができたところで、里山さんをみると、電話を終えて小さなガッツポーズを決めていた。

「お互い、頑張りましょう」
急激に旋回する高高度プレーンの、窓から差し込む強烈な日差しが、里山さんの歯を煌かせていた。

id:sokyo

主人公さんのナノマシンちゃんと、ワトソンさん(ですよね?)、お誕生日おめでとうございます!!!

ヤバい! 里山さんがんばってる!!

2015/06/05 11:37:30
id:sokyo

[読む人へ]次はこちら。
http://q.hatena.ne.jp/1432996574#a1248537

2015/06/14 21:50:19
id:grankoyan2 No.14

回答回数121ベストアンサー獲得回数34

ポイント10pt

TBP(トゥルー・バースデー・プレゼント)
 ~ まごころを君に ~

「ねえ、こんどのわたしの誕生日なんだけど……」

「ああ、プレゼントはちゃんと考えてるよ。
 蒼良《そら》が喜んでくれるものをちゃんと渡せると思う。心配しないで」

 仕事で忙しい裕樹《ひろき》は、そういってわたしに微笑みかけてくれる。
 違うの、違うんだよ

 ここ何年も、裕樹がわたしの好きな物、望む物をくれていることは十分に理解している。

 去年のバッグだってそうだった。ずっと欲しいバッグだったし、ブランドもデザインも色合いも、大きさも、使い勝手も。全部わたしの好みに合っていた。
 一昨年の、イルカが倒立したピアスだって。今でも使ってるくらい。わたしの持っている服とコーディネイトしやすい。シンプルでそれでいて可愛らしいアクセ。
 その前の、ハンガーラックも今もわたしの部屋でちゃんと役目を果たしている。

 でも……、違う……。違うの……。

 わたしの、ううん、普通に暮らしている全世界の人間の趣味嗜好は全てGBGのデータベースに登録されている。
 一昔前のamazonやTUTAYAが収集していた顧客情報が、一元化されたようなものだ。
 それは購入履歴だけじゃなく、商品を選ぶときに候補に入れていた商品についても同様だ。
 普段から着けているコンタクト型のスマートグラフが視線の先を追い、その時の感情を読みとって。じゃんじゃんとデータベースに放り込まれていく

 わたしの趣味や好みは丸裸だ。それは普段の買い物ではとても都合がいい。
 ネットショッピングをする時には、わたしが気に入りそうな商品をランキング形式で表示してくれるし――そしていつも選ぶのはランキングトップかその次の商品だ――、ショッピングモールでで買い物をする時も、わたしが気に入りそうな商品の場所をナビゲートしてくれる。

 一昔前は、わたしたち女性の買い物に付き合うなんて男性にとっては拷問だ……なんて極論があちこちでささやかれていたらしいけど。
 いまはせいぜい2~3の商品を見るだけで、そのうちのどれかに一目ぼれしてしまう。
 買い物していて相手が疲れたり不機嫌になったりっていうのがなくなって。
 デートは終始楽しく過ごせているのも事実。

 たまにGBGのサポートを切って買い物をすることもあるけれど。そういう時に限っていい品物に巡りあえずに徒労感を感じてしまう。

「あれはねえ、女の人生で三番目の楽しみを奪う、悪魔の機械だよ」

 かつておばあちゃんはそんなことを言っていた。
 なんでも一番目は出産の苦しみで、二番目はスイーツのメニュー選びらしい。
 三番目がお買いもの。

 おばあちゃんの言うこともわかるけど、GBGありきの暮らしに慣れ親しんだわたしたちの世代では、そんな言葉は年寄りのノスタルジックな「昔はよかったよ」発言の中に組み込まれてしまう。

 だって、スイーツだって、おばあちゃんの頃は決まったメニューの中から選ぶだけだった。
 今は、GBGがその店のパティシエの技術と揃えられている材料からレシピを組み立ててわたし好みの、そして一期一会のスイーツを提供してくれるんだもん。

 だけど……、そんな最適化された暮らしに慣れはしても味気なさは感じていた。
 特に、一番大事な、わたしのことを大切に思ってくれている恋人からのプレゼントまでGBGの意見が反映されてしまうなんて……。

 多分、裕樹は今年も……。
 わたしのGBGデータにアクセスして、それをネットで注文して、ラッピングもわたし好みに。
 去年と、一昨年と同じようにプレゼントを渡してくるのだろう。
 ほとんど100点満点に近いプレゼントだけど。
 違う、違うの……。



「お誕生日おめでとう。はい、これ。
 蒼良が一番喜ぶものだよ」

 わたしは……、急に冷めてしまった。
 GBGの選んだお店、GBGの選んだメニュー。
 ワインもGBGが候補を絞り、裕樹の組んだ予算内で、ささやかなディナーの後。

 こうしてGBGの選んだプレゼントを渡されて、GBGが予約したホテルへ行くのだろう。

 何? この誕生日。
 ぜんぶ機械の言いなりで。お店も料理もお酒も文句のつけようがないけれど。
 それが、そのことが逆に腹立たしい。

「開けてみてよ……」

 裕樹が手渡してくるプレゼントBOXはわたし好みのラッピングがされていて、見るからに素敵なプレゼントが入っているように思えてしまう。
 だけど……。
 違う、違うの……。

 なんの期待も失って。ほぼ義務感からわたしはプレゼントを開封する。

「なに……これ?」

 それは、どう使うのかすらわからない。
 何をかたどっているのか判別不能な。
 置物? なんだこれ?

「なにって言われても……。多分キリンだと思う」

 確かに少し、少しだけ首が長い。でもペイズリー柄で色は緑だ。足は八本ある。
 顔が大きく、耳が丸い。
 その歪でシュールな外見に思わず吹き出してしまった。
 これがキリン? ありえなーい。

 それに、わたしはこんなの欲しいなんて一度も思ったことはない。
 GBGが間違ったデータを……。
 違う、わたしは、裕樹を見つめて聞いた。

「もしかして……、これって……。
 裕樹が自分で選んでくれたの?」

「うん。恥ずかしいんだけど。いつものプレゼント。
 蒼良はちゃんと使ってくれてるけど……。
 なんか不満そうだったでしょ。
 それは僕がちゃんと選んだものじゃないから……。
 だから今年は自分で、お店を回って、探してみたんだよ」

「ありがとう……」

 わたしは自然とその不恰好な置物を抱きしめていた。
 これはわたしにとって初めての裕樹からのプレゼントだ。
 裕樹がわたしのために、時間をかけて自分の目で確かめて選んでくれた贈り物。

「喜んでくれて嬉しいよ。やっぱりGBGは凄いね。
 今年のプレゼントを尋ねたら、データに頼らずに自分で探しましょう。それが蒼良を一番喜ばすことができるって教えてくれたんだから」

 えっ!?

 ~ fin ~
 

 

id:sokyo

なんだよこのオチ! 古き良きかきつばたかよ!!

蒼良さんお誕生日おめでとうございます!

2015/06/05 18:04:07
id:takejin No.15

回答回数1543ベストアンサー獲得回数203

ポイント10pt

第4話


「ハウアー、確認」
主任に呼ばれて、出発前の最終確認を行う。今回は、特別な荷物が一つあるんだった。
「このケーキは、セッティングが難しい。特別オーダーだからな。詳細なシナリオがあるから、よく読んでおいてくれ」
主任から渡されたのは、画面いっぱいに字が書いてあるタブレットだった。
「この、秒単位のシナリオで、この動作をするんですか。私が」
「そうだ。任せたぞ」
そのまま立ち去る主任の背中に、リハーサルの相手はやってくれるんですよね、と無言で声を投げておく。
タブレットのシナリオは、結構細かく書かれていて、必要な品物のリストも載ってる。わかりやすい。
肝腎なのは、ケーキをサーブする動作とタイミングだな。
「ドロイド元気?」
タブレットに集中していたせいか、フロアディレクタに気が付かなかった。
「ハイサノサン。オハヨゴザーイマス」
「たどたどしい日本語はやめなさい。あら、里山さんのシナリオね」
「はい、うまく行きますか?」
「大丈夫よ。同じ誕生日同士、うまくやってね」
「え」
「里山さんと、ハウアーの誕生日が同じ日なのよ」
「へええ、なんか親近感です」
「でしょ。がんばって」

積む荷物の重量測定と、配置登録を終えると、作業は一段落。積載作業は、作業員まかせだ。
「主任、里山さんは、出発何分前に到着ですか?」
「3分前だ」
「その、大丈夫なんですよね」
「ああ、NASAの威信にかけて、間に合わせるそうだ」
「出発時刻も、重量配置も、もう動かせませんから」
「大丈夫だ。彼が乗らないと、大変なことになるかもしれないんだからな」
タブレットでカーゴのアイコンがピロピロ鳴っている。積載完了だな。
「主任、リハーサルやってくださいよ。どうみてもタイミングが重要ですって」
「出発前だぞ、点検項目知ってるのか」
「でも、出発してからじゃできないでしょ」
「とにかく準備だ」

最上階のレストランはテーブルの固定確認を終えていた。
一番奥のテーブルの脇に立ち、クロシュを抱える。ケーキは小さ目だけど、目をそらすのには大きいクロシュを使う。
後ろにいる主任の気配を悟らせないように、席に近づく。
「フロアマネジャー、手伝ってください」
部屋の入り口にいたマネジャーに声を掛ける。
「そうね、3人いないとわからないわね」
マネジャーが着席して、配置につく。クロシュを開くときに、主任が席に付こうとする。
「目に入るわね。椅子を引くと」
「ヴァーチャルで座ってるんだから、椅子はもう引いてあるんじゃ」
「じゃあ、それで」
何回かやるうちに、開くときに手前から上げると、視線が引っ張られて、主任が席に着くのがわからないことがわかった。
「じゃあ、これでいきます」
「がんばってね」
「あと2時間だ」
「皆様、ご協力ありがとうございました」


スマートグラスの右隅が光る。キャプテンの声が耳に入ってくる。
「えー、本日はお日柄もよく、晴天で出発には最上の日となりました。キャプテンのトムこと、トーマス・チャンです。出発まであと10分です。忘れ物はありませんか?とりあえず1週間は忘れ物を取りに行くことも、届けてもらうこともできません。よく確認してくださいね。揺れたり、逆さになったりはしませんので、普通にお過ごしいただければ、目的地に到着することをお約束しましょう。では、10分後に再び」
月ロケットじゃないから、カウントダウンもないし、出発のときは、いつも拍子抜けだなぁ。今日はあと5分後に着く里山さんの迎え入れ以外はすることがない。
時間、大丈夫かな。
「里山氏、第二ゲート通過。出発前点検中。積載物なし」
では、カーゴルームを閉めよう。これなら間に合いそうだ。

「第三ゲート情報、里山氏500gオーバー、規定重量誤差範囲を超えています」
「なんだって。500gも何持ってきたんだ?プレゼントかな?注意事項ぐらい専門家だからわかるだろうが」
タブレットをチェックしながら、乗り込みゲートに急ぐ。箱から出て、ゲート出口で待つ。
一人の男性が、ゲートを出てきてこちらに走ってくる。里山さんだ。
「ようこそ、箱へ。お待ちしておりました」
握手をしながら、里山さんは微笑む。
「プロジェクトにかかわっていながら、乗るのは初めてなんだ。よろしく」
「サプライズのリハーサルもやりましたよ」
「それはありがとう。それが、一番の気がかりで」
箱に入る前に、里山さんに尋ねる。
「あの、申告と違うもの持ってきました?」
「あ、ああ、急に必要なものがあってね」
「プレゼントとか?」
「いや、別だけど重要な品なんだ、規定量上回った?」
「ええ」
「じゃあ、このジャケットを置いて行こう」
私は、靴を脱いで言った。
「箱の中の規定靴をはきますから、これは脱いでいきます。重要な品物なんでしょう?」
「すまない。あっちについたら、夕飯2回おごるよ」
私は微笑んで、靴を置いたまま、ドアをくぐり振り向いた。係員が、私の靴を持ち、ドアを閉めるのが見えた。

里山さんとエレベータに乗り込むと、放送が聞こえてきた。
「皆さん、出発時刻です。特別なセレモニーはしませんが、この箱は、地上を離れ、上空36000kmの静止軌道へ向かいます。私事ではありますが、私、トーマス・チャンは今回キャプテンとして、初めての上昇になります。どうぞ、この一週間を心地よくお過ごしください。では、出発です」
里山さんが独り言を言った。
「キャプテンもバースデイなんだな。チャン君出世したなあ」
「そうですね。では、あとで打ち合わせしましょう。ワトソンさんのバースデイのために」

id:sokyo

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2015/06/14 21:50:36
id:takejin No.16

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ポイント10pt

第5話

「里山さん、帰りは乗っていきます?開通後の初下降ですよ」
ツナギの上に羽織っていたブレザーを脱ぎながら、セレモニーホールを出て行こうとするプロジェクト・サブリーダに声を掛けた。若くて優秀と評判のエンジニアは、歯を見せて笑いながら言った。
「急いでいるんで、次の特急シャトルで降ります。早く乗りたいんですけどね」
言い終わらないうちに、タブレットを操作しながら壁を蹴り、器用に体をねじって通路を通過していく。どれだけ、フリーフォール経験時間が長いんだろう。あの先は、ラボエリアだったかな。
左手のフォンが震える。お偉いさんたちの世話が待っている。年寄りも上に上がってこられるってことは、世話係の手間も増えるって事だな。早いこと出世しないと、面倒だ。

「こちらが通称FFF,フリーフォールファクトリーで、この設備の稼ぎ頭です。化学合成、薬品、素材、貴金属など、様々な分野で自由落下状態での工業生産をしております。軌道エレベータの本格稼働で、原材料と製品の移送が安く大量にできるようになり、この設備の有用性も高くなることは間違いありません。」
フムフムと頷いているおじいさんたちは、どこまで理解しているんだろう。通路を漂って、方向の定まらない航空会社社長の背中を軽く押し、秘書の手元に届ける。窓の外、上の方に小さく青い丸い円盤が見える。静止軌道から見る地球は、結構小さい。
かわるがわる外を覗いている偉い人たちを置いて、反対側に行く。そこからは、ラボエリアが見える。その一番外側で、船外作業をしているアストロノーツがいる。あそこは太陽観測装置のエリアだ。結構大き目なドームを設置中だ。あれは、たぶん、さっきの里山さんじゃないか。動きに無駄が無い。

「こちらは、FFL、フリーフォールラボラトリーで、研究開発施設になります。本日は、日本の光学系企業複合体による、太陽観測装置の設置を行っております。このように、最新の観測は、大気の影響を受けずに行える本施設が最適ということで、各国の設備が今後も増える予定であります」
案内の声にも、力が入る。おじさんたちが出資してくれると、ここの環境が良くなるからだ。がんばって、お客様を増やしてくれよ。ほらほら、手を離さないで。クルクル回りはじめたら、止めるの結構大変なんだから。
「設置終了かな」
作業器材が無くなった太陽観測ドームの上で、太陽を指差してなんだかポーズを取っている。さっきのアストロノーツ、面白い人だなぁ。

「出発45分前。総員準備」
準備コールがかかった。通路を急ぐ。各部屋で忘れ物が無いか聞いて廻る。ラボエリアで、里山さんとすれ違う。
「さっき、太陽観測ドームの上で、ポーズ取ってませんでした?」
「おや、気が付いた?次はお前だ!って太陽を狙い撃ちしてたんだよ」
「もう、次のなにかを作るんですか。ところで、何か降ろすものってないですか?今なら重い物でもOKですよ」
「ああ、特急より、荷物は多く乗るからか。ちょっと待って」
里山さん、電話をし始める。
「すみません、たびたび。作業を担当した里山です。さっき話したモータの基盤。設計変更した方がいいですよ。そう。応急処置はしたから、こっちの器材を降ろします。そう、エレベータで降ろせるから。じゃあ、降りたら連絡します。え?パーソナルナンバー?はい、是非。わかりました、では明後日お会いしましょう」
里山さん、ウィンクしてる。なんで?
「チャン君、これ見てよ。あの装置の担当者なんだけどさ」
里山さんのタブレットには、女性の写真が写っていた。それも、かなりな美人。
「夕飯食べながら、装置の相談しましょうだって。まだ直接会ったことないんだけどな」
「ワトソンさんですか、きれいな人じゃないですか。頑張ってください」
「それ、どっちのこと?」
「仕事ですよ。当たり前でしょ」
と、ウィンクを返す。里山さん、握手をしながらこう言った。
「チャン君の操る宇宙船に乗って、太陽を目指したいね。じゃあ、荷物持ってくるよ」
「積載口の作業員に渡してください。重量と大きさのデータをお願いします。あと5分以内にお願いしますね」
「ああ、ありがとう」
里山さんは、ラボエリアへ優雅な身のこなしで向かって行った。
「出発30分前」
さて、私も箱に戻りましょう。フロアディレクターは忙しいんだから。

id:sokyo

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2015/06/14 21:50:59
id:kobumari5296 No.17

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『シャンパングラス―月の子』


 持って生まれたものは、しょうがない。別に恨んでもいない。父も母も姉も持っていない私の体質。
「おじちゃん、シャンパンもう一杯」
 私は、周りが引くほどにアルコールに対して無敵である。
「月香ちゃん、健康診断ひっかるよ。やめときなよ」
「何、アルコール扱ってる店が、そんなこと言うわけ?ちゃんとお金払ってるじゃない」
「お金とかじゃなくてさ、カウンター席で独り酒をあおるなんて、俺、ご家族になんて言っていいか……」
 誰かと呑むより、自分のペースでゆっくりと呑む方が好きだ。加えて、人間関係が得意な方ではない私を、この店の主は受け入れてくれる。扱っている酒も好みで、カウンター席と少しのボックス席だけという小ぢんまりとした雰囲気も大好きだ。
 華のOL、もうすぐ三十代。恋人はいない。家に帰れば結婚だのなんだの言われるから、連休前の金曜日はここで浴びるように酒を呑む。アルコールの匂いをぷんぷんさせて朝方に帰れば、両親も諦めてくれるだろうと思って始めた一人酒は思っていた以上に効果があり、三か月後には、私を“誰かの嫁”するのを諦めてくれた。
「大丈夫よ、気にしてないんだし」
「でも、お姉ちゃんがいるんの式、近いんだろう?」
「お姉ちゃんはいいの。私は、自分よりお姉ちゃんが幸せになればいいと、心の底から思ってる」
「相変わらずのシスコンぶりだね」
 姉の陽香は、もうすぐ結婚する。来月三日に訪れる誕生日に、笹原姓を捨ててしまう。私を残して、郊外へ行ってしまう。
 昔からしっかりもので、綺麗で、我儘ばかりの私の味方だったお姉ちゃん。どこの馬の骨に誑かされたのかと、不思議と握ったシャンパングラスに力が入る。
「今日のシャンパンはね、いいやつだよ」
「何て名前」
 聞いても覚えないだろうけれど、聞く。社交辞令だ。
「ムーンローズ」
「……おじちゃん、今付けたでしょう」
「承ったのは昨日かな。月香ちゃんとは別の問題常連客に」

「月香って言うんだ。いい名前だね」

 へべれけになるタイプではない。頭が声の主を理解できなかったのは、後ろから声をかけられて吃驚したせいだ。声の主に焦点を合わせるのに、少し時間がかかったように思える。昔の使い捨てカメラのように。
これは夢かと思った。そこには、恐ろしく外見の整った男が、漆黒のスーツを纏って笑みを浮かべて立っていた。端正な顔立ちに八頭身。好みのタイプではなくとも、女ならば無視できない存在感を持った男。
「ふーん」
 男が近づいてくる。心臓がポンプのスピードを速める。

「特上の茨に勝るものはないけど、まあ、平均以上だね。こんばんは、俺は宵野拓斗。拓斗でいいよ」

な……
「なめんじゃないわよーー!」
 握っていたシャンパングラスを机に叩きつけて、声の限りに叫ぶ。勿論グラスは負傷し、ボックス席の客の視線も独り占め。
 そりゃあ、美人と言う言葉が似合う自分ではない。けれど、流石に失礼だろう。
「宵野君……せっかく男前なんだから、いちいち値踏みして口説くのやめなよ」
「癖なんでね、変えられない。茨も分かってるしね、あ、それですか。シャンパン」
「無視すんな、チャラ男!意味わかんないんだけど!」
「あ、月香、怒った顔は可愛い。おじちゃん、テイスティングさせてもらっていいかな」
 高そうな男物の靴を鳴らし、私の隣の席に座った宵野は、シャンパングラスにムーンローズを注いでテイスティングを始めた。
「うん、美味い」
「真剣に聞いているんだけど!あと、呼び捨てとかナシ!」
「俺は、宵野拓斗。彼女なし、恋人なし、婚約者あり。来月の三日に結婚する予定。この近くの商社に勤めている。女の子は好き。でも、茨はもーっとスキ。月香も好きだよ。インスピレーションで分かる、俺たち気が合うよ」
 負けた。何も言い返せない。
「……つまり、浮気癖のある男ってことね」
「放浪癖もあるよ」
「イバラっていうのが彼女なのね。変わった名前」
「可愛い名前だろう。はい、乾杯」
 私のひびの入ったグラスが、宵野のグラスと乾杯する。
カツン。いい音。
「来月の三日……って言ったね」
「ああ。茨の誕生日なんだ」
「地獄に落ちろ」
 最悪だ。男の風上にも置けない男が、大好きなお姉ちゃんの誕生日に、同じ誕生日の女と結婚する。茨さんは全く関係ないが、お姉ちゃんの誕生日が穢れた気がした。
「大丈夫だよ、女性とディナーぐらいだったら茨は怒らない」
「最低な男ね、あんた」
「ありがとう。そういうところに魅かれる女性も多いしね。何より楽しいし」
 人間が成っていない。シャンパンを呑む気にもならず、ため息をつくより他がない。でも―――
 カッコいい、とは思う。
 ほんの数十分言い合っていただけで、実は気が合う気もしている。
「月香、何歳?」
「アラサー」
「許容範囲。はい、これ名刺。いつでも連絡してくれていいよ。ちなみに、ここで式を挙げるから」
「新郎が何を……あのね、相方が全てわかってるって思い込むの、男の悪い癖だよ」
「じゃ、また。おじちゃん、ありがとうね」
 会計を済ますと、宵野は帰って行った。本当に頼んでいたシャンパンをとりに来たついでに、たまたまいた私を口説こうとしたようだ。
「最低……」
「月香ちゃん、顔、赤いよ」
「……誕生日って特別よね。お姉ちゃんも、茨って子も、記念日に記念日重ねてさ。幸せなのに人間の規格外の馬鹿に引っかかって」
「確かに、同じ男として恥ずかしいね、宵野君は。良い客だから何も言わないけど」
「そうだね」
 だけど、私も馬鹿だ。

 この胸の高鳴りが、無視できない。

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id:sokyo

茨さんとお姉さんお誕生日おめでとうございます!
いまから新しい三部作なのですね。楽しみにしてます!

2015/06/10 23:40:04
id:sokyo

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2015/06/14 21:53:26
id:kokiri385 No.18

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ポイント40pt

☆*゜ゆーてるす。:+


ぼくはぴんくいろがこわかった。

「なんで」って聞かれても「なんとなく」としか答えられないことだけど、僕はピンク色が何故だか怖くて仕方がなかった。
だから僕はここが嫌いだ。ピンク色の海がどこまでも広がるここは、怖くて仕方がないのだから。
膝のあたりでちゃぷちゃぷと広がるこの海は、どこまで行っても同じ深さしかなくて、なまぬるくて少し気持ちが悪いのだ。水じゃないのだ、なんだかまとわりつくようなこの液体は。少し黄色く光るのが気持ち悪い。怖い。ただひたすらに。
出口どころか入口すら分からなくて、あたりを見回すだけでどこへ行ったらよいか分からない。こんなに怖いのに出られないなんて、ただひたすらにおっかない。
ふらふらと右に左に歩いてみたり、恐怖に駆られて走ってみても、視界はなんにも変らないのだ。なんなんだいったい、ここは怖すぎる。
ばしゃばしゃと水を撥ねながら走ってみると、ようやく小さな陸地を見つけたけれど、それもやっぱり薄桃色をしているのだ。柔らかくて踏みしめるのも怖いのだ。そしてその陸地に立つ女の子さえ、浮いているのではないかと思うのだ。
「ねえ、ちょっといいかな?」
「なぁに?」
「ここは、いったいどこ?」
「ここは私の海」
「僕は帰りたいんだ」
「帰れないわよ」
冷たくぴしゃりと言い放った女の子は、薄桃色の水を被ったせいですっかり汚れた白いワンピースをぎゅっと握った。じとりとした目つきで何やら後ろをじっと見ていて、イライラしたように足をぶらぶらさせていた。人に出会えてほっとした僕の心に簡単に爪を立てた。なんてひどいんだ。
「あなた、帰るってどこに帰るつもりよ」
「そんなの…えっと」
「そういうことよ。どうせここからも出て行ってしまうクセに、勝手なこと言わないで」
おかしい、とても帰りたいと思うのに僕は帰る場所が分かっていなかった。しかもその子にそれを言い当てられて分かったんだ。
もう何も分からない、分からないから生まれる怖い。何もかもが怖いここはもうたくさんだ。
「君はいったいなんなの? 僕になんで冷たくあたるの?」
「うるさい。私の海に勝手に土足で入ってきたクセに。なんで? いらなかったのよ。はやく出て行って」
「何を言ってるのか分かんないよ。僕は早くここから出たいんだ。出口があるなら教えてよ。そんなにひどくしないでくれよ」
「望まれてないのよあんたなんて! 思い出させるのはやめて! 誰もあんたなんて望んじゃいなかったんだわ! いつかと言わず今出て行ってくれればいいのに!」
「ああ今すぐ出て行きたいよ! でも出口が見つからないんじゃないか! ひどいよ! 僕だって望んでここに来たわけじゃないのに! なんで僕をここに連れてきたの!? 僕は帰りたいよ! 帰りたいんだ!」
「ここに来たらもう帰れないってこと教わらなかったの!? 信じらんない! もう何も信じられやしない! 大っ嫌い! 大っ嫌い大っ嫌い大っ嫌い! ―――――!」

.☆゜*↓↓ばしゃん↓↓:☆+。



∇お誕生日なんか、来なかった。

id:sokyo

ああ、海が…。羊が……。

お誕生日、来ませんでしたね。最高。

2015/06/10 23:48:09
id:kobumari5296 No.19

回答回数60ベストアンサー獲得回数4

ポイント10pt

『シャンパングラス―茨の子』



 散々止められ、呆れられた恋だった。あんな男と一緒にいても、未来はないぞと、お説教を食らったりもした。でも、愛は実った。多分。
 来月の三日、私は宮崎姓を捨て、彼に染まる。
「九時か……」
 プレゼントがあるからグラス用意して待っててよ、少し遅くなるから。いつも遅いくせに、そんな言葉が出そうになって咀嚼した今朝。今日はどんな女の人を追っているのか、逆に追われているのか。それほど彼は――旦那様になる拓斗君は人当たりが良い。ルックスも良い。世界一幸せにするから結婚しよう、と言うプロポーズを忘れたわけではないけれど、定時で終わればもう帰っている時間だ。マリッジブルーも手伝って不安になる。
 
大学で知り合った拓斗君は女癖が悪いと評判であった。告白された時も最初は断って、でも彼は懲りなくて、口説かれているうちに落ちてしまった。プロポーズを受けて同棲が決まると、私の両親、特に父は大反対で怒鳴った。結婚するなら勘当すると言われ、冗談かと思った翌日、実家に置いてあった一通りの荷物がアパートに送られてきた。本当に、勘当されたのだ。
 そこまでされて結婚するのに、拓斗君は変わらずに、放浪癖と浮気癖が直らない。強制しようとは思わないけれど、少しぐらい変わってもらってもいい気がする。全世界の成人女性が憧れる幸せは、私にはない。宮崎茨と、宵野茨の間を彷徨っている。
「電話……してみようかな」
 その位の権限はあるが、傷つく覚悟がない。だから、待ちぼうけは続く。

人生、山あり谷あり茨の道。強くなって欲しいと願ってつけられた名前らしいが、とんだ名前負けだ。拓斗君はいい名前だと褒めてくれなかったら、名前変更の手続きをしたいところだ。
 恐らく、両親は式に来ない。悲しいけれど、選んだ道だ。式の日取りを、わざわざ私の誕生日にセッティングしてくれた拓斗君しか、私の家族はいないのだ。

 そんなことを考えていたら、机上のスマートフォンが振動した。この着信音は、拓斗君専用。タップして応答する。
『あ、茨?御免な、もうすぐつくから』
「拓斗君……今日は何処を歩いていたの?」
『それは聞いちゃダメだ。つーか、茨なら分かるだろ』
「全てわかってるって思い込むの、男の人の悪い癖だよ」
『うわーダメージ。また言われた』
 “また”言われた……か。やはり、他の女性といたらしい。今日は、どんな美人といたのだろう。ため息ばかりが出るけれど、帰ってくるだけましだろう。惚れた弱みかな。
「拓斗君、式はもう待ってくれないんだからね」
『来月三日な。茨の誕生日、最高の式になる。ハッピーバースデイ、茨』
「ちょっと早いよ。ハッピーって、どこから来るの、その自信」
『俺の頭』
 さっきまでの冷え切った心が嘘のように溶けてゆく。
 やっぱり、私は拓斗君が大好きだ。
「早く来てね。ご要望の通り、生ハムとチーズ用意してあるんだから。これ以上カピカピにならないように」
『おう』
 
 ずっと握り締めていたシャンパングラスが、私の体温に染まる。私が拓斗君しか見えなくなってしまったように。あと五分ほどで帰ってくるだろうから、食器のラップを外す。

 愛は感じるし、信じている。でも、式の準備で忙しいのに夜遊びを繰り返されては、怒りを通り越して切なくなる。
 性格は分かっていても思考は分からない。ねえ、拓斗君――

「あなたは、何を考えているの」

宵野茨になった時、私は一つ歳をとる。

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id:sokyo

「宵野茨」さん、お誕生日おめでとうございます!

路線とかお気になさらず~。

2015/06/12 22:34:52
id:sokyo

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2015/06/14 21:53:45
id:grankoyan2 No.20

回答回数121ベストアンサー獲得回数34

ポイント10pt

「今日何時くらいに帰ってくるの?」

「うーん、そうねえ。ちょっと遅くなるかしら?
 ご飯は用意しておくから、あっためてチンして食べてね」

 そういうとお母さんは出て行った。
 今日は僕の誕生日……なのに。

 忘れてるのかな?
 だって、お母さんいっつも最近仕事で帰りがおそいもんな。
 だいたい僕が寝てから帰ってくるし……。

「ほら、はやくいかないと遅刻しちゃうわよ」

 急かされて僕はランドセルを背負って玄関を出た。

 学校に着く。

 友達に挨拶。誰も僕が今日誕生日なんてことを話題にもしない。
 だって、友達にはなんにも言えてないもの。

 誕生日が近づくとみんなはしゃぎだす。
 誕生日会をするからって。

 5人しか呼べないから誰を呼ぶか迷ってるなんて話で盛り上がる。
 ケーキが食べたいしジュースも沢山飲めるから、みんな誕生会には行きたがる。

 だから、誕生日間近の友達はみんな人気者になる。

 だけど。お母さんは土日も仕事が忙しいし、僕の誕生会は開いてくれない。

 でも、毎年朝出かけるときに、

「今日は頑張ってお仕事早く終わらせて帰ってくるからね。
 ケーキ買ってくるからね。
 ごちそう作ってお祝いしましょうね」

 と言って僕を抱きしめて、

「ありがとうね、ケンちゃん。生まれてきてくれて。
 誕生日おめでとう!」

 って祝ってくれていた。

 なのに……今年は……。



 学校も終わって僕は家に帰る。
 誰にも僕の誕生日が今日だってことを言いだせないまま。

 家に帰ると一人ぼっちだ。
 宿題をやって。明日の時間割を合わせて。
 ゲームをして。

 お母さんは本当にお仕事が忙しいのかな?
 僕をびっくりさせようとしているんじゃないのかな?

 期待を込めて冷蔵庫の中を開けてみる。

 そこには、いつもどおりの夕食がラップをかけられて並んでいた。
 僕の好物でもなんでもないおかず。
 いつもと変わらない普通の夕食。

 やっぱり……、忘れちゃってるんだ……。

 毎年誕生日はハンバーグか、お寿司なのに。

 テレビを見て、お風呂に入る。

 お母さんは帰ってこない。

 もう少し待とうと思って、漫画を読む。

 お母さんは帰ってこない。

 もういちどテレビを付けてみる。
 大人向けのあんまり面白くない番組しかやってない。

 もう何度も読んだ漫画をもう一度読む。

 眠くなってきた。だけど布団には入りたくない。

 布団に入っちゃうと朝までひとりぼっちになっちゃう。

 寂しい。一人でいるのがこんなに寂しいなんて。

 眠たい。寂しい。悲しい。



「たたいま! 遅くなってごめんね。
 でもギリギリ間に合ったよね!?
 ほんとにごめんなさい。
 だけどお仕事が終わらなくって。
 ケーキを買ってきたわ。
 一緒にお祝いしましょう。
 今日はケンちゃんの誕生日なんだからね!」

 お母さんが笑顔で僕に話しかける。

 だけど……。
 これが夢だってわかってる。
 僕は夢の中で、おかあさんと誕生日パーティをする。

 おかあさんがバースディソングを歌ってくれて。
 ケーキのろうそくの火を消して。
 ケーキを食べて、プレゼントを貰って。

 楽しい。切ない。悲しい。

「ケンちゃん、ケンちゃん……」

 遠くでお母さんの声が聞こえる。

「こんなところで寝たらだめでしょう?
 ちゃんとお布団にはいらなきゃ」

 遠くでお母さんが僕に声を掛ける。

 どうして?
 お母さんは一緒に誕生日パーティをしてるはずじゃあ……。

 そうか。夢の外からほんもののお母さんが呼んでるんだ。

 僕はゆっくりと目を覚ます。

「帰って来たの?」

「ごめんね遅くなって。
 晩御飯は? ちゃんと食べた」

 僕は頷く。

「宿題は?」

 僕は頷く。

「お風呂には入ったよね?」

 僕は頷く。

「歯はみがいた?」

 僕は首を振る。

「そうよね。これからケーキを食べなくちゃいけないもの。
 歯を磨くのはその後よね」

 僕は……。

「ほんとうにお仕事が忙しくて一緒にいれなくてごめんね。
 今日も一緒にご飯は食べられなかったから、普通のご飯だったし。
 誕生日プレゼントもまだ選んでないの。
 でも、忘れたことなんてないからね。
 わたしの一番大事なたからもの。
 ケンちゃん。生まれてきてくれてありがとう」

 僕はお母さんの胸の中で……涙をこぼした。

id:sokyo

ケンちゃんお誕生日おめでとう!
歯を磨かないとかあざと最高だな!

2015/06/12 22:36:35
id:sokyo

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2015/06/14 21:55:18
id:grankoyan2 No.21

回答回数121ベストアンサー獲得回数34

ポイント20pt

 明日の任務。
 生きて帰れる保証はない。
 ならば……。
 と愛しい子供の寝顔を眺めながら考える。

 自分になにかあったとき。
 この子を託す先は既に決めてある。
 組織がしっかりと面倒を見てくれるだろう。

 それが、私がこの任務を引き受けた条件なのだから。

 鬼竜衆の動きは活発になっている。
 祖父から引き継いだ呪われし能力。
 鬼竜衆に対抗できるのは同じく鬼竜衆の血を引き継ぐものだけ。
 選ばれしものだけ。

 それは私のような。幸いにして我が子は鬼竜衆の力を継いでいない。
 血を継ぐもの同士で子を設け、少しでも力を継いだ子を為す確率を上げるのが本来だ。
 だけど、私はそれを選ばなかった。
 一般人と恋におち、愛を育んでしまったというのも理由のひとつ。
 自分の子にまで同じ宿命を背負わせたくなかったというのもひとつ。
 私自身、その宿命から逃れようと考えていたというのもひとつ。

 だが、それは、愛する伴侶を失うという結果に繋がってしまった。

 私が戦う理由。
 それは、愛する伴侶の仇を打つ為。
 私が生れてきた理由。
 それは愛する伴侶の仇を打ち、もっとも愛する子供を護るため。



 子供を学校に送り出し、私は戦闘用の衣装に着替える。
 これからまみえるのは、四鬼竜の一角。
 まさに、亡き伴侶の仇だ。

 四鬼竜の最凶とも謳われる相手。
 だが、それを倒せば鬼竜衆の動きも鈍くなるだろう。
 勝てる確率は4割ほどか。

 それでもやらなければならない。

 鬼竜の戦いは魂を削る。
 決して回復しない魂力をかけて相手の魂を削る。削り合い。

 私が戦えるのは、あと数回だろう。
 いや、今日が最後かもしれない。

 向かう。鬼竜の本拠地のひとつへ。
 警戒する者も無く、あっさりとその本丸へとたどり着く。

「…………」

 相手は無言で待ち受けている。
 その相手とて、命を賭けて私との戦いを待ち構えているのだろう。

 お互いが無言のまま距離を詰めていく。

 魂力を、想いを拳に乗せて相手を打ち据える。
 魂力を、想いを乗せた拳が私を打ち据える。

 静かな戦いが続く。

 勝てる。確信する。

 相手の魂が削られ、弱まっていくことを感じる。

「終わりにしようか」

 私は初めて口を開き、言葉を届ける。

「…………」

 相手がなにかを呟いた。
 その顔はすでに鬼竜衆のそれではない。

 同じ子を持つ親として直観する。
 子を慈しむという表情だ。

「子が居るのか?」

 私は尋ねた。

 相手は黙って首を縦に振る。

「子が居てまでも、鬼竜として生きる道を選んだ。
 容赦は……できない」

 冷たく言い放つ。が、それは私も同じこと。
 相手はもはや、鬼竜としての力を失い、放っておいても害はないだろう。

 だが、それでは示しがつかない。
 新たな子を為していく可能性がある。それは鬼竜衆の存続への懸念となる。
 ふと思いつき、尋ねる。

「その子に鬼竜の力は……?」

 相手は黙って首を振る。

「そうか……」

 奇妙な符合に多少の動揺を覚える。
 四鬼竜として恐れられた相手も、自分と同じ想いを抱いていた。
 自分の代で終わらせようという意思を。

 だが……、容赦は……。
 私の逡巡を見て取ったのだろう。
 相手が初めて私に向って言葉を投げかけてくる。

「た、誕生日なのです。
 今日が……息子の……」

「それで私にどうしろと?」

「少しだけ……待ってもらえませんか?
 覚悟はしてきたつもりでした。
 でも、最後に……、お別れが……。
 その後は自由にしてもらっても構いません。
 どうせもう、戦う力は残っていないのだから」

「それを聞き届けるとでも思っているのか?」

「そうね。そんな甘い世界……じゃないものね」

「子の名はなんという?」

「けん……いち……」

 私は背を向けて歩き出した。
 相手に母親の表情を見出したからだろうか。
 亡き伴侶の面影をみいだしたからだろうか。

 どうせ、私が見逃したところで別の誰かが始末するだろう。
 それまでの時間。
 親として生きるというのならば……。

id:sokyo

お子さんお誕生日おめでとうございます!

あ、このお名前は、あれか! そういう!

2015/06/12 22:48:56
id:sokyo

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2015/06/14 21:55:31
id:grankoyan2 No.22

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 新しいお母さんが来てからもうすぐ一年になる。
 新しいお母さんとお父さんが再婚するのはもうちょっと後になってからにしてるみたいだけど。
 一緒に住んでいるんだし、お母さんって呼ばなくちゃならないから、もう家族みたいなものだ。

 あたしは新しい家族に馴染めずに居た。
 なによりも同い年の新しい弟の存在が厄介だった。

 うちには、余ってる部屋もいっぱいあったのに、わざわざ転校させられた。
 あたしは嫌だったけどお父さんがどうしてもっていうから。
 まあ、向こうも転校することになったからお互い様なんだけど。

 新しい弟と同じクラスにはならなかったけど、廊下で出くわした時なんかなんだかいつも楽しそうにしているのが羨ましい。
 新しいお母さんの話では前の学校よりもよっぽど楽しんでいるみたい。
 あたしだって新しい友達もできたから、お相子なんだけど。

 新しいお母さんも悪い人じゃないし、新しい弟もいいこだってわかってる。
 気を使ってくれてるし、優しい。

 だけど、まだ二人ともわたしにとって本物じゃない。本物の家族じゃない。

「お姉ちゃん」

「なに?」

「一緒にゲームしない?」

「今漫画読んでるからまた今度ね」

 そんなふうにそっけなくあしらっても嫌な顔をしない。
 だから本物の家族じゃない。家族だったら喧嘩もするものだ。

 晩御飯。
 新しい家族と暮らし始めてからはお父さんの帰りが早くて一緒に食べることができる。
 たまに新しいお母さんと新しい弟と3人で食べることもあるけどそれよりかはずっと楽しい。

 だけど、あたしはお父さんとしか喋らない。
 話しかけられたら返すけど。
 それは新しいお母さんも新しい弟もわかってるんだろうけど。嫌な顔はしないし注意もしてこない。だから本当の家族じゃない。

「くっ、嗅ぎつけられたか……」

「あなたっ!」

 急にお父さんと新しいお母さんが立ち上がった。

「このこたちのことは任せた」

「そんな、わたしも一緒に……」

 なんのことかわからないけど、すごく真剣そうだ。
 新しい弟も戸惑っているのか、きょろきょろしている。
 だけど、声を掛けられない。あたしとおんなじだ。

「お前には……もう魂力が残っていないだろう。
 足手まといだ」

「でも……あなただって……」

 突然、窓が割れ、人が飛び込んでくる。

 その人に向ってお父さんが飛びかかる。
 飛びかかって叫ぶ。

「逃げろ!!」

 新しいお母さんは一瞬だけお父さんを見たけれど。
 すぐにあたしの手を取って、新しい弟の手を取る。

「逃げましょう」

「だって、お父さんが!」

 あたしは言い返した。

 お父さんは、突然入ってきた変な恰好の人と殴り合いをしている。
 喧嘩みたいに野蛮じゃなくって、もっとアニメとかでみるような動きだ。
 こんなお父さんは初めて見る。

「ごめんなさい……。でも、お父さんを信じてあげて。
 きっとまた会えるから。
 でも、もしものことを考えて今は逃げましょう」

 新しいお母さんの表情を見ていると、ああこの人はあたしと同じくらいお父さんが好きなんだってわかってしまった。
 だけど、逃げるなんて……。お父さんを置いて逃げるなんて……。

「僕も嫌だよ!」

 新しい弟が叫んだ。

「でも、今はそうするしかないのよ」

「嫌だ!! ねえ、お姉ちゃん? お姉ちゃんだって嫌でしょ?
 お父さんを置いていくの」

 新しい弟も、あたしのお父さんをちゃんと家族だって思っている。
 それが表情と言葉になって伝わってくる。

 ああ、新しいお母さんと新しい弟。そうか。ちゃんと家族だったんだ。
 あたしだけ意地張って。認めなくないって思っていただけで。

「お母さん、あれは誰なの?
 どうしてお父さんは戦ってるの?
 警察呼ぼうよ」

 あたしはお母さんに言ったけど、お母さんは首を振るだけだ。

「お父さん!」

 弟が叫んだ。
 お父さんがやられそうになっている。

「お父さん!」

 あたしも叫んだ。だめ、お父さんが死んじゃう……。

 その時だった。
 お母さんの手を伝って。弟の気持ちが伝わってくる。
 気持ち……。ううん、魂? これは……魂の力……。

「そんな……、鬼竜の力は無かったはずなのに……」

 お母さんが呟いた。

「ケンちゃん!」

 あたしは叫ぶ。本能が理解していた。
 あたしとケンちゃんで力を合わせれば。
 あたしはお母さんの手を離した。ケンちゃんも同じことをする。

 あたしはケンちゃんと手をつなぐ。
 力が沸いてくる。
 古の記憶がよみがえる。

 やれる。お父さんを護れる。
 ケンちゃんも同じことを思っているだろう。ケンちゃんの気持ちが、魂が繋がってくる。

「まさか、こんなガキが、これほどの……」

 お父さんと戦っていた男がびっくりした表情で固まっている。
 やっつけようとケンちゃんと一緒に近づこうとしたら逃げてしまった。

「鬼竜の子は鬼竜か……」

 お父さんが呟いた。お母さんがお父さんに駆け寄った。
 あたしは弟のケンちゃんと目を合わす。
 つないだままの手から、気持ちが伝わってくる。

 今日は誕生日。
 あたしとケンちゃんの鬼竜としての誕生日。
 お父さんとお母さんを護る力の誕生日。
 新しい家族の誕生日。

 おわり。

id:sokyo

ご家族のお誕生日おめでとうございます!

そういうね!!

2015/06/12 23:00:07
id:grankoyan2 No.23

回答回数121ベストアンサー獲得回数34

ポイント10pt

『ハピバスデ』

 ハピバスデ様は、ハピバスデ教の教祖様だ。
 といっても、既に紀元前3000頃にはお亡くなりになられているので、その姿は絵画や彫刻でしか残っていない。
 といっても偶像崇拝は禁じられていてその姿を見た者はいない。

 ハピバスデ教の教歌は『毎日がバースデー』。

 歌詞はこんなんだ。歌詞は忘れた。

 とにかくファンキーでポップなチューンだ。

 今日も今日とて、ハピバスデ総合体育館に沢山の教徒と、沢山の入教志願者がやってくる。

 県立総合体育館は超満員。
 オープニングチューンは、『雨に濡れた西麻布のケーキの空き箱』
 ポップでテクニカルなナンバーだ。

 歌詞はこんなんだ。

 ♪
 歌詞は~忘れた~

 ダンスが終わると、炊き出しが行われる。

 炊き出しといっても普通の炊き出しではない。
 豚汁と、握り飯が振る舞われる。それ以外のメニューは一切ない。

 一説には、ダンス目当てではなく、炊き出しのキャラメルコーンっぽい菓子を求めてわざわざ県外からやってくる参拝者も多いらしい。

 そしてハピバスデ様のスピーチが始まる。
 豚汁を片手に。

「握り飯を豚汁に……ドーン!!」

 そこで、今日のイベントはピークを迎える。

 それだけ見て帰る信者、あるいは入教志願者はにわかである。
 にわかであったり、浅はかであったりする。

 実際のところ、ここからが本番なのである。

 ♪
 明日は誕生日~。誰かと誰かの誕生日~。
 毎日がバースデー。

 ちなみに、ハピバスデ教の教義は簡単だ。

 ひとつ、毎日がバースデー。
 ふたつ、365日バースデー。
 みっつ、うるう年は366日くらいバースデー。

 この教義を護れないと教徒になれない。

 だから、教徒なんていない。

 県立体育館なんて存在しない。

 だけど、心の中にハピバスデ様は存在する。

 ほら、聞こえてくるでしょ?

 ♪
 歌詞は~忘れた~

 あのメロディ。

 ♪
 歌詞も~メロディも忘れた~

id:sokyo

毎日がバースデー♪

2015/06/12 23:02:21
id:takejin No.24

回答回数1543ベストアンサー獲得回数203スマートフォンから投稿

ポイント30pt

第6話

「だいたい僕はこの監視室で見ているだけなんだ。単線の鉄道で、他に車両が無いんだから、衝突事故も想定しないわけですし」
時速250km以上で上昇するエレベータの操縦室であるのだが、モニタが並んでいてハンドル類もなく、殺風景な部屋を写している。カメラマンのイワノフは、あちこちにカメラを向けるが、モニタの記号しか撮れてないだろう。
「それこそ、退屈ですか?」
「いえいえ、これだけ大きい箱なので、全体の様子はチェックするだけでも項目が多くて、退屈なんてことは無いです。特に、外側は真空ですから、壊れたら即大惨事です。ですので、何かの兆候の兆候レベルで気にしています」
「数字とか、グラフとかの変化を見ているって事ですか」
「そうなります」
「操縦している感覚ではないですね」
キャプテンは、周りを見回して言った。
「残念ながらそうなります」
「キャプテンのチャンさんに聞きました。想像していたエレベータの機長のイメージとは、かなり違っていました」
イワノフは、キャプテンから表示されている数字や記号の数々を撮影している。
「さて、下へ行ってみますか」

「みなさん工夫されてます。私は皆様のお相手をするだけで一週間が過ぎてしまいますので、退屈なことはございません」
当たり前の答えが返ってくるのは、予想通りなんだけど。そこはちょっと突っ込んでみたいんだけどな。
「なにか、トラブルとかってあります?」
小柄なフロアディレクターは、ちょっと考えて、
「そうですね、いろいろな人が一週間も狭いところにいると、いろいろあります」
「なるほど。その、事故みたいなものではなく?」
「そうです、人間関係って、多少難しいときがあります。でも、お乗りになる方はある意味限定されていますので、トラブルというほどのことは起きておりません」

「今回最年少記録になるそうだけど、感想は?」
目の前の少年は、ハイスクールボーイには見えないんだけどね。
「ええ、今回のプログラムは、別に静止軌道に行かなくてもよかったんですが、協会の人が記録だから行って来いといいましたので」
「まあ、そうは言っても、ワクワクしないの?」
「いまのところ、想定していたものと変わらないので、行ってもなにか想定外が存在しないと予想できます。ワクワクとはなんでしょうか」

「軌道エレベータプロジェクトにずっとかかわってきたんだけど、初めてなんだよね乗るの。面白いねぇ」
「たとえば、どこが面白いですか」
「窓から見える地球が、ジワーッと小さくなっていくでしょう?」
「え、わかります?」
「そりゃ分るでしょ。高度によっても違うけど、着実に小さくなっていくよね」
「そうですけど、このあたりだともう、わかりにくい高さになっていませんか?」
「そう?それと、重力の変化だよね。だんだん軽くなってくる」
「はい。それは実感できます」
「それと、あちこちの状態表示が変化するのを見たり、箱の中を歩き回ったり。時間が惜しくて」

「観測装置の改良点の検討と、観測結果の内容検討で手一杯です。ええ、部屋の外に出るのも惜しいです」
「すみません、この取材も」
「まあ、仕方ありませんね。それに、気分転換にはなりました」
「そう言っていただけると、ありがたいですが。ついでに」
「ついでですか?」
イワノフと視線を交わす。
「あの、初日のディナーの後、レストランでなにかされてましたよね。あれ、興味があるんですけど」
「ああ、あの」
「もう一かた、あの、里山さんでしたか。いらっしゃって」
「はい、誕生日だったんですよ」
「ああ、ではサプライズパーティーですか。」
「そこまでご存じ」
「ええ、そのこちらから撮影を」
「え」
「その、失礼かと思いましたが、シークレットでもなさそうでしたので」
「その、もう放送しては」
「いえ、それはデイリーエレベータ情報からは放送してません。許可受けないと」
「じゃあ、その、びっくりさせようとして近づいてるのも映ってるの?」
イワノフを突く。イワノフは、足元のバッグを蹴っている。そこを開けると、タブレットが入っている。
タブレットを起動すると、動画のアイコンがあった。
「これが、その時の映像です。ほら、テーブルの下側に里山さんが隠れてるでしょう?ちょっと変ですよね」
「ああ、そこで、こう座ったのね。なるほど、わからなかったわ」
「うまいことやったろ!」
イワノフの肩を里山さんが叩いている。こちらに振り向いて、イエーイとハイタッチ。面白い人だ。
「それ、撮ってたんだ。あとでコピーくれないか」
「ええ、差し上げますよ。その替わり、これ放送させていただけませんか?」
里山さんは、ワトソン女史を振り返り、
「君がいやならダメだな。こんなプライベートなんて、放送してもしょうがないだろ」
「いいわ。エレベータでもいろいろできることを放送してみて。退屈ばっかりじゃ、見ててつまらないじゃない」
「え、いいんですか」
では早速と、承諾サインをもらう。里山さんが握手をしながらこう言った。
「その編集作業、見学させてもらえないだろうか」
「いいですよ」
イワノフがこっちに断りもなく許可してしまう。まあ、断る理由もないが。
「では、あとで、私の部屋に」
「ああ」
と別れようとしたとき。


体が浮いていた。

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id:takejin

まだ半分だからね。
大丈夫、コメント欄でも続けるから。

2015/06/12 23:45:00
id:sokyo

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2015/06/14 21:51:24
id:gm91 No.25

回答回数1091ベストアンサー獲得回数94

ポイント40pt

『 The Door into Summer 』

「ねえ、お父さんっていつもどこに行ってるの?」
「しらない」
 ウチの父親と来たら、朝の五時から一人ドライブに出かけたっきりだ。
 そして母親ときたら、他に趣味ないし別にいいんじゃないの、てなもんだ。
「お弁当持って一人でドライブ、ってわけわかんない」
「そうかしら? 外食するとお金かかるじゃない」
 そーじゃなくって、何でわざわざ前の晩にお弁当まで作ってあげるのかって話じゃん、と言いかけたけど馬鹿らしくなってやめた。  
 それよりも、目の前のクリームぜんざいを素直に楽しむべきだろう。うむ。 
 熱いぜんざいと、冷たいソフトクリームのコンビネーションが、たまらない!
 五十鈴のクリームぜんざいよ永遠なれ! ビバ五十鈴!

 ……至福の時間は、儚い。
 コーヒーを啜りながら、儚い夢から醒めた私はまたさっきの話を蒸し返した。

「ねえ、もし浮気だったらどうする?」
「うーん、ちょっとありえないかな」
「仮に、もしそうだったら?」
「即、離婚ね」
「えっ、私はどうなるのよ?」
「好きな方を選ぶがよい」
 その時、プルルル、と私のiphone44がMailの着信を告げた。 
「あっちょっと待って」 
「わっ、彼氏?」
「んなわけないじゃん、エリカだよ」
 まあしょもないといえばしょもない内容なのはわかっているが、見捨ててはおけない私はいい女。
「ねえお母さん、お弁当って何がいいかな?」
「誰の?」 
「エリカに最近彼氏ができたって話したじゃん」 
「男子はカラアゲ、あと卵焼きも鉄板」 
「そんだけ? 彩りとかさ?」
「色々入れて、苦手なものあったらどうするのよ? 彩り?なにそれ?おいしいの?どうせ見てないわよ、色気より食い気ってやつ」
「だけど……」
 この豪快さ、さすが私の母親だと感心するけれど、恋愛相談にはあまり向いてない気がする。
 結局、エリカには、三分悩んでちょっとお茶を濁した回答にしておいた。

 五十鈴を後にして、帰宅したのはもう日も暮れたころだった。
 夕飯の支度は父がやっといてくれた。いつものカレーだけど。まあそこそこいける。
 父は食べたら、誕生日祝い兼用のバレンタインチョコを受け取ると、風呂入って速攻で寝る構えだ。
 
 そうはさせない。
「父上、風呂上りに一局お願い致します」
「うむ」

 3D軍人将棋は、もともと父が一人でやってたのを私が覚えて対戦するようになった。
 くやしいかな、まだまだ父には勝てない。
 いつか見てろと思いきや今日も果敢に挑戦するいい女、鈴木未来15歳。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「腕を上げたな、しかしまだまだ」
「……」
「では拙者は寝るでござるよ」

 父を見送った後で、私も寝室に戻ってベッドに飛び込む。
 壁を指ではじくと、2、3秒経って画面が映し出される。そして私はいつものサイトへ。 

《はてな軍人将棋3D》
 最近流行のVRものとかじゃなくって、昔ながらのネットワーク対戦ゲームの場だ。
 今時そんな古臭いのやってるんだってバカにされそうだからクラスの子たちには内緒なんだけど。
 私は、お父さんに勝ちたい! 絶対凹ましてやるっ!

 私は、エントリリストを確認すると、いつもの名前を見つけた。
 ENTER さん。変な名前。
 正直、ちょっと大人気ないけど、なんだかんだと言って結構親切に教えてくれる。自分では忙しいって言ってるけど、暇人なのかも。
 まあお互い様なんだけどね。私は将棋を教えてもらう代わりに恋愛相談に載ってあげたりしてる。
 何と言っても、彼女いない暦を29歳で打ち止めにしたのはあたしのアドバイスのおかげだ。
 しかし、指し手の厳しさには、感謝の様子が全く見えない。実にケシカラン。
 自称30歳……なのはまあどうでもいいんだけど、本人曰く2025年に居るって設定みたい。本当なら父と同級生くらいか。まあどこまでほんとか知らないけど、30過ぎのオジサンなのは間違いない。

《おまたせ!》
《早かったな、待ってた?》
《いや、別に、たまたま》
《そうか、じゃ、やるか?》
《うん、お願いします》
《お願いします》

 私はいつもの癖で、モニタに向けて律儀に一礼すると、対局を開始した。今回は向こうの先手。
 9×9×3段の盤面に広げた駒を一瞥して、指し手に思いを馳せる。
 よーっし、今日こそ目にもの見せてくれる!……はずだったんだけど。
 いきなり劣勢に追い込まれた。

《えっ? なんか今日、打ち方ちがくない?》
《そうか?》
《いつもガッチリ守るくせに》
《別にいいだろ》
《せっかく、矢倉おぼえたのになあ》
《それはお気の毒》
《その言葉、後悔させてやるぞ》

 タンカ切ったもむなしく、ENTERさんは、お構いなしに攻め寄せてくる。
 う~ん、マジでやばい。司令部を囲ってる暇がないよ! こんなはずでは……。

《ちょっとくらい手加減してよ》
《さっきと言ってる事ちがくね?》
《大人のくせに大人気ないぞ》
《そりゃ、ごもっとも、ほれ王手》
《えっ、ちょ、待って》
《待ったなし》
《オニ~》

 いつにもまして、大人気ない攻め方。
 どうやら彼女とケンカしたらしい。
 よくよく聞けば、誕生日ディナー遅刻してお流れになったって、そりゃ怒るよね。 
 なんか、聞き覚えのある話だな、って思ったら、母親の昔話を思い出した。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 

「薙島のルブラン? あそこ美味しいわよねえ」
「お父さんと行ったの?」
「何度かね」
「いいなあ~」
「昔、お父さんの誕生日にあそこ予約してさ、仕事で遅刻しやがったの。バレンタインデイに一人、待ちぼうけ」
「うわー、お父さんサイテー」
「なんか一人で帰るのもシャクだしさ、五十鈴で時間潰してたの」
「うん」
「したら、突然やってきた。ハアハア言わせて、キョロキョロしてて、ちょっと笑えた」
 いかん、想像したら私もちょっと笑ってしまった。
「その後は?」
「行くとこもないし、私の車で、徹夜でおしゃべり。今思えば何かバカみたいだけど、楽しかった」
「不思議なことも、あるもんだねえ」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 

《たぶん、どっかで時間潰してるんじゃない?》
 沈黙。いや長考。
《なんでわかる?》
《なんとなく、だけど……心当たり、ない?》
《もしかすると、加賀咲駅の五十鈴とか……》
《あっ、あそこのクリームぜんざい美味しいよね!》
《そうか?》
《絶対いるような気がする、ダメもとで行ってみりゃいいじゃん》
《そうする》
《そうしろ》
《ありがとう》
《恩に着ろよ》

 まあ、人の心配してる場合じゃないけど、情けは人の為ならずって言うしさ、どこでどう巡って来るかわかんないじゃん?
 おっと、エリカから入電。

《ねえミキ、お弁当あれで大丈夫かな?》
《友よ。春はじきにやってくるけれど、待ちきれないならば夏への扉をノックし続けるのだ。 鈴木未来》

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id:sokyo

父上、お誕生日おめでとうございます!
いまめっちゃひざを打ってる!

2015/06/12 23:14:23
id:gm91

グダグダですみません・・・

2015/06/13 00:38:33
id:alpinix No.26

回答回数617ベストアンサー獲得回数98

ポイント30pt

タイトル:僕は、世界中で一番、数多くの人に誕生日を祝ってもらえる、
     もちろん君にも。



僕の名前には色々な願いが込められているのだという、
 
救い、王、そして油、

丘の上の断罪の楔に繋がれた僕を、僕の姿は、
貴女の目にはどう映っているのでしょうか。
 
interlude

そもそも、故郷の地を
追われるように去ることになってからというもの
 

僕の教えが伝わらないことに
嫌気がさしていたのかもしれません。
 
それすらも、貴女にしてみれば、
幼稚に見えたのかもしれませんね。
33にもなってはらはらさせる人生ばかり
見せてきましたが、もうその姿を見せることすら
できなくなるとは、僕も思ってもみませんでした。

interlude


僕の誕生日はいつの間にか日付はおろか季節すら飛び越えて
あいまいになってしまったけれど、
こんなに沢山の人に時を超えて祝ってもらえるなんて、
感謝の念に堪えないよ。
 


僕が選んだ12人の教え子は、
それはもういいやつばかりなんだ



そんな悲しい顔をしている貴女を見ていると、奇跡を起こしてでも
もう一度会わなきゃいけないと感じるよ、

貴女にささげた白い百合には純潔とかマドンナリリーという意味がつくんだってね。
 
でもせっかくまた会えたんだけど、またすぐにさよならしなくちゃいけない、
こんな変な生き方だけど、僕のこと認めてくれるかな。
 
 
 

 
id:hacosato捧ぐ
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
D

id:sokyo

えっと、アルファベットでいうとXですよね?
Xさん、お誕生日おめでとうございました。

あるぴにっくすさん来てくれてうれしいです!!٩(๑´3`๑)۶

2015/06/13 23:51:39
id:kobumari5296 No.27

回答回数60ベストアンサー獲得回数4

ポイント10pt

『シャンパングラス―宵の子』



 綺麗な満月に、さっきの美女を思い出す。

「また、やっちまったなあ」
 今まで数えきれないほどの女性を口説き、付き合ってきた。綺麗な女性に出会うと、胸が高鳴るのは男の性だが、俺はそれが強すぎるらしい。手に入れたいと思う。外見に恵まれているらしいから、あっちでフラれたらこっちへ。何人の女性に頬を叩かれてきただろう。それでも新たな出会いを求める俺の脳は、非常に都合よくできている。
 大学で出会った宮崎茨は違った。お姫様のように可憐で、頭も人当たりも良い。すぐさま口説き落とし、付き合うことになったわけだが、やはり浮気癖は直らない。
 隠し事はいつかはバレる。嫌と言う程経験して泣かせてきたのに、茨は違った。

『最後に、私のところに帰ってきてくれて嬉しいよ』

 泣きそうな、時には泣き顔で、そういうのだ。
 この女性とは運命だ、そんな乙女心を感じて、プロポーズをした。最高に喜ばせたくて、名の通るホテルで、彼女の誕生日に式を挙げる提案をした。

『私は、世界一幸せかもしれないね』

 今までとは違う涙を流す。ランクを付けるのは非常に失礼だと思うが、宮崎茨は特上だ。最高に、いいオンナだ。



 行きつけの店で、茨にプレゼントするシャンパンを探してもらった。“ムーンローズ”という聞いたことのないシャンパンだ。女性にも飲みやすく、茨イコール棘イコール薔薇、という俺の感受性のかけらもない独断で、即決して取りに行くと、店には既にカウンター席で酒を浴びるように呑む女性がいた。金曜日に来るのは初めてだから、顔も名前も知らない。
 肩まである茶色ストレートの髪をかきあげる彼女は、後ろから見ても美人だと、俺のセンサーが反応する。
 思わず声をかけると、彼女の顔には名札がついていた。今、不機嫌です。
 少々のやり取りをしただけだが、気が合う女性だった。

「笹原月香……」
 彼女の名前を呟いてみる。美人だったが、茨にかなう女性はいない。でも、美人だった。もう茨を泣かせないと決めたのに。
「来月三日か」
 式はもうすぐだ。もう、あの店に行くのはやめよう。シャンパンを探してくれたおじちゃんに悪いことをしたが、原因は茨も月香でもなく、俺が悪い。
 でも

「ただいま、茨」

 笹原月香が頭から離れない。

「お帰り、拓斗君」
「これ、プレゼント」
「ありがとう。いい名前だね、ムーンローズ。月と薔薇」
「月……」

 俺はダメな男だ。

「どうしたの?」
「いや、月が綺麗だなあと思って。見てみろよ、満月」
「あ、本当」

「早いけど、ハッピーバースデイ、茨」

id:kobumari5296

書きたいまま書いていたら、ハピバ要素が薄くなってしまいました……
楽しんでいただけたら。。。

2015/06/13 11:53:30
id:sokyo

ハッピーバースデイ、茨!

2015/06/13 23:55:16
id:shogo2469 No.28

回答回数200ベストアンサー獲得回数25

ポイント10pt

A angle

 カレンダーを眺めた。
 一番上に、5と大きく書かれている。一年ぶりにMayという英単語を見た気がする。
 「9」と書かれた欄の中に、「Misato‘s birthday!」と書かれていた。


 時計の短針が「12」を指している。外は雲一つない青空だ。
 今朝、同棲しているシンゴが出勤するときに、
「帰りにバースデーケーキ買ってくるから」
 と言って出た。

 今日は一人で留守番だったから、私は1人で掃除していた。
 掃除機を右手で持って、背中を丸めてリビングを掃除していると、
 テレビの横に重なっていたDVDケースを見つけた。
 掃除機のスイッチを切って、ディスクの表面を見た。
 

 「Our birthday! 2013.5.9」とマジックペンで書かれていた。2年前の今日。
 これは、えっと、誰の筆跡だっけ。とにかく見てみよう。
 プレイヤーにディスクを入れると、テレビには見覚えのある顔が映った。

 そこに映っていたのは、私と、昔の彼氏。
 ロウソクの火で2人の顔が明るく照らされている。
 そして、2人は「せーの」という掛け声で同時に火を吹き消した。
 その瞬間、「おめでとー!」と、甲高い歓声が部屋中に響いた。

 あぁ、そうだ。これ、
 私達が付き合っていた時の、私とタクヤの、二人の誕生日のビデオだ。
 
 
 そうだ、今日、タクヤの誕生日だった。


 そして、この写真は彼の8ミリカメラで撮ったものだ。

 タクヤは私と付き合い始めた頃から、いつも8ミリカメラを抱えていた。
 最初、会ってからいきなり私の顔を撮られてムッとした。
 でも、それから、2人でいた日々を8ミリカメラで沢山撮った。

 
 そうだ、5月9日の日。偶然にも私たちは誕生日が同じだった。
 それに年も同じ。私は今日で26になる。つまり、タクヤも今日で26歳だ。
 それを知ったときは、流石に驚いた。
 だからか、2人は驚くほど意気投合していた。

 毎年、誕生日の日はお互いの家で祝った。
 1年目はじゃんけんで場所を決めて、その後交代で家に訪れた。
 2年前の今日はタクヤが私の家に来てくれた。
 彼は8ミリカメラを入れた小さいバッグと、ケーキの箱を持って、
 玄関前に立っていた。
 
 しばらくして、私の手作りのカレーライスを2人で食べた。
 この日、彼は「うまい!」って叫んでくれた。あの時の嬉しさは忘れない。
 今はもう、彼に作ってあげる手料理はないんだけど。


 ビデオの中央に写ったバースデーケーキは、
 生クリーム一杯のショートケーキの上に、真っ赤ないちごが並んで、
 大きめのプレートには、
「Happy birthday! Takuya & Misato 24」と書かれていた。

 夕食からしばらくして、
「さて、ケーキ食べようか。これ、近くのケーキ屋さんで買ってきたんだ。
 最近そこのケーキを買ってよく食べるんだけど、とてもおいしいんだよ」
 彼がそう言って、フォークを持った。私もフォークを持って食べた。
「本当だ、おいしい!」と私が言うと、
「そりゃあよかったよ」と彼が笑った。 


「そういえば、僕たち24歳になったんだね」
「そうだね、二人で同時に迎えるって不思議な感じだよね」

 少し間を置いてタクヤが言う。
「ところでさ、来年は5回目でしょ?」
「5回目か……。来年は25歳だよね。キリのいい数字だね」
「じゃあ、21歳になる前の時からだから、随分長い間ミサトと一緒にいたんだね」
「3年半近く付き合ってたからねぇ」
「同じ誕生日の人がここでいっしょにいるって事だからね」
「しかも年も同じだし。生まれた日が全く同じってすごいよね」
「本当だよ。これから先ずーっと2人で一緒にいれればいいのにね」
「うん……って、タクヤ!」私は恥ずかしさのあまり、大声を出していた。
 アハハハ、とタクヤが笑ったあと、一息ついて彼が言った。

「ミサト」
「何、タクヤ?」
「来年、また2人で祝おうね」
「……うん」
 2人は肩を寄せて、頬と頬を重ね合った。
 そんな感じでその日の晩を過ごした。


 なのに、その幸せは続かなかった。
 あの日を境に、すれ違いや喧嘩が増えた。
 すべての会話が矛盾し合って、しまいには心の底から笑えなくなった。
 暗い雰囲気に耐えられなくなって、結局、2年前の8月に、私の方から、

 別れた。


 「2013.5.9」以降のDVDは見つからない。多分、あれ以来撮っていない。
 今、彼はどうしてるんだろう。新しい彼女は出来たのかな。
 今、彼に会えるかな。もし会えるとしたら、
 タクヤに、「ごめん」って言いたい。
 
 「好き」っていつもちゃんと言えなくて、
 タクヤとの約束を破って、
 今日の2人の記念日を待てなくて、
 
 ごめん。
 

 プルルルルル……! 電話が鳴った。慌ててビデオを消した。
 受話器を取ると、シンゴの声が聞こえた。
《おう、ミサト。今何してる?》
「ああ、今掃除しててさ。後で昼ごはん食べるとこ」
《そっか。ところで、ケーキどうする? 去年と同じでいい?》
「うん、オッケー。私の友達もいっぱい来るから、頼むよ」
《了解。じゃ、またあとで》
 電話が切れた。


 今日は、シンゴと私の友達みんなと、うちで祝う約束だ。
 でも、彼は、タクヤは来ない。
 今、一人でいることがこんなに寂しかったなんて。
 いつも8ミリカメラを持っているタクヤと、一緒に入れて嬉しかった。
 
 あなたと付き合っていけたから、今があると思う。
 DVDを見て思い出せたよ。2人でいれたことが幸せだったって、
 今思ったよ。


 ありがとう、タクヤ。


 そして、お誕生日おめでとう。


 私はスマホを持って、2年以上かけていないあの番号を押して、
 彼に電話をかけた。

id:sokyo

タクヤさんミサトさんお誕生日おめでとうございました!

あれ、でもシンゴさんは…!?

2015/06/14 00:01:44
id:sokyo

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2015/06/14 21:56:10
id:shogo2469 No.29

回答回数200ベストアンサー獲得回数25

ポイント20pt

B angle

 転勤が決まって、引越しの準備が始まった。
 部屋の中にある物を数個のダンボールに詰める。次から次へと周りが片付いていく。
 溜まった本や着られなくなった服を、ゴミ袋に入れていく。
 6畳の寂しくなっていく空間に、僕はひとりだった。


 机の引き出しを開けると、そこには古くなった缶ケースがあった。
 随分汚れていて、蓋も開けにくくなっている。そういえば最近目にしていなかった。
 中を覗くと、幾つかの8ミリフィルムが出てきた。
 あれっ。これ、いつのだろう……? これら全て未使用のはずだ。
 
 テレビの横には、透明なDVDケースが数枚重なっている。
 それぞれの表面には、日付とタイトルがマジックペンで書かれている。
 そういえば、当分見ていなかったなぁ。
 一番上にあったのは、「2010.1.26」と書かれたディスク。
 ケースからディスクを取り出して、テレビの電源をつけて、
 ディスクをプレイヤーに入れた。

「あっ、タクヤ……、ちょ、ちょっと! 何撮ってんの!」
 昔の彼女の顔だ。僕の方を向いて、少し怒った表情をしていた。
「へへっ、可愛い顔をしてるなあ。ミサト♪」
 付き合い始めた頃、ちょっとからかって、彼女の顔を映していた。
 ショートヘアーが似合っていたミサトの顔を。
 口を尖らせて、「ねぇ、だから、やめてよ!」、と微笑ましい声で後ろ歩きしていたのに見とれて、僕は小刻みに歩いてミサトを撮り続けていた。
「んもぅ、タクヤ! 撮るのやめてってばぁ!」


 そうだ。これ、8ミリカメラで撮ったんだった。
 あれ以来、会うたびに撮影していった。一緒に出かけた時は、実況みたいにして8ミリカメラに向かって2人で言葉を交わして、目の前の風景を撮っていた。
 そんなもんだからフィルムはあっという間に減っていった。
 その上、DVDとして保存されたフィルムも机の棚の上に山ほど並んでいる。


 ふと「2013.5.9」と書かれていたディスクを見つけた。
 日付が1年前の今日になっている。上の方には、「2013 Our birthday!」とある。
 そうだった。今日僕の、25歳の誕生日だった。自分の誕生日を忘れるなんて、
 カレンダーにもしっかり書いたのに、間抜けたモンだなぁ。

 その日、ミサトの家で二人の記念日を祝った。
 僕は、小さいカバンに8ミリカメラと数個のフィルムを入れ、
 片手でケーキの入った箱を持って行った。
 彼女はいつも以上に部屋をキレイにして、大げさな飾りをして待っていた。
 まあ、1年に1度の事だから張り切っちゃうよね。

 夕食は、ミサトの手作りのカレーライスを食べた。
 最初、彼女の手料理を食べたときは正直言って不満足だったが、
 この日は「うまい!」ってつい叫んでしまった。旨みが口の中に広がった。
 ああ、もう一度食べたいなあ。ミサトの作ったあのカレー。
 ビデオに映ったカレーライスがなんだか立体的に見えた。

 
 ケーキの箱を開けた。
 生クリームの白さが鮮やかで、真っ赤ないちごがたくさん並んでいた。
 真ん中のプレートには、2人の名前が書かれていた。
 ケーキの上にロウソクを乗せて、ライターで火をつけた。
 そして、2人で「せーの」という掛け声で同時に火を吹き消した。

 2人で横に並んで、フォークを持ってケーキを食べた。
 あのプレートは、2つに割ってそれぞれの皿に置いた。
 僕の皿の方のプレートには、「24」と2人の年が書かれていた。
 もう24歳になったんだなぁ、って、ぼんやり思った。

 
「ねぇ、タクヤ」
 ミサトが真っ直ぐな瞳で僕に言った。
「そういえば私達、3年半近く付き合ってきたんだよね」
「そうだなあ、21歳になる前から付き合ってたんだよなぁ。
 今、24歳になったんだから、随分長い間ミサトと一緒にいたんだね」
「2人の誕生日を祝うのは、確かこれで4回目だよね」
「来年で5回目だから……もうあっという間に時間が過ぎちゃうね」
「気づけば10年ぐらい経ってました、ってことがあったりして」
 ふざけた顔してミサトが言う。 
 
 でも、この時僕は、何十年後も2人で一緒に祝えるんじゃないか、とか思ってた。

 この時ミサトは、同じことを思っていたのだろうか。

「ミサト」
「何、タクヤ?」
「来年、また2人で祝おうね」
「……うん」
 いつの間にか、2人の手は繋がれていた。

 僕は立ち上がって、棚のDVDを手に取っていった。
 数十枚の中からも、「2013.5.9」以降のDVDは見つからなかった。
 今テレビに写っているビデオの続きは、ない。あのまま打ち切りになった。

 引き出しの中の缶ケース。余った8ミリフィルム。
 長い間押入れに入っていた、8ミリカメラ。
 こんなの、何に使えばいいんだ。


 そのとき、着信音が鳴った。素早くスマホを手に取ると、画面には
 「発信者 : ミサト」 とあった。
 明らかに目が点になったのが自分でもわかる。
 一瞬、出るかどうか躊躇ったが、すぐにスマホを耳に当てた。
 

「……もしもし」
《あ、タクヤ、元気?》
 間違いない。彼女の声だった。声が少しだけ震えていた。
 それは、他の音を全て打ち消したようだった。
「ミサト、どうして……?」
《あぁ、連絡先にまだタクヤの名前が残ってたの。
 よかったよ、電話が繋がって》
 そういえば、連絡先にはミサトの名前を消した覚えがない。

「あの、ミサトは今どうしてるの?」
《あ、あのさ、実は……新しい彼氏と、同棲しているんだ》
 予想通りの回答だったから、驚くことはなかった。
 でも、やっぱり、虚しい。覚悟していた以上に、虚しい。
《タクヤは? 今どうしてる?》
「僕? いやぁ、転勤が決まってさ、遠くに引っ越すことになったんだ」
《えっ、いなくなっちゃうの……?》
 彼女の声は嘘を言わなかった。声がさっきよりも高い。
 その瞬間、肩の重みが消えたと同時に、体中が動けなくなった。


《あ、そうだ。今日、5月9日は、タクヤの誕生日だよね》
 そのとき、もう言葉も発せなくなった。咄嗟に返事をしようとしても、
 喉がその声を通すことはなかった。
《タクヤがくれたあのビデオを見て思い出したけどさ、
 あのとき、楽しかったよね? 一緒に祝えてよかったよ》
 膝が震えている。心拍数が増えていく。顔が赤くなっていく。
《引っ越しちゃう前に、言っておくね、タクヤ》
 まぶたから、雫が出かかっていた。

《お誕生日、おめでとう》

 ブワッ。涙が溢れた。カーペットが涙で濡れた。
 もう何年も流していなかった涙が、とうとう溢れた。
 呼吸が苦しくなった。ただ床に座り込んで、掌で雫を受け止めていた。
 僕は泣いた。人前で、ミサトの前で、初めて泣いた。


 ディスクの表面に書かれた「ミサト」の文字。
 ビデオに映った、2人の笑った顔。今、耳で聞いているミサトの声。
 気づけば左手で触っていた、たくさんの思い出を映したあのカメラ。
 これら全て、愛しい。

 ダメだ。動けない。
 この街を、この部屋を、ミサトを、幸せだったあの時間を、
 ここに置いて行きたくない。
 独りきりで過ごして来たはずなのに、寂しさがものすごいスピードで募った。
 僕は泣いていた。向こうの部屋にも聞こえる声で、泣いていた。
 窓から射していた光が、余計にまぶしい。

 ミサトはただ黙っていた。でも、おそらく、悲しい顔はしていない。
 その方がいい。その方がずっと嬉しかった。
 まぶたからこぼれ落ちた雫は、少しずつ止まっていった。
 そして、塞いでいた口をそっと開放した。

「連絡先、消さないでおいてくれる?」
 第一声がこれだった。小さい声でも、僕の喉では精一杯だった。
《わかった、来年も、ちゃんと電話するからね》
「……約束だよ」
《オッケー。じゃあ、また来年ね》
 ホッとして、電話を切ろうとした瞬間、思い出した。
 まだあのこと言ってない。


「ミサト」
《何? タクヤ》
「お誕生日、おめでとう」
 涙を抑えるのに必死だった。でも、踏ん張って抑えた。
《ありがとう、タクヤ。じゃあね》
 ツーツー。電話が切れた。


 僕は立ち上がった。僅かな光で照らされていた一人きりの部屋で、
 またダンボールに物を詰めていった。やっぱり、あのときの寂しさは消えなかった。
 でも、あの時の幸せも、まだ残っていた。
 部屋は広くなっていく。

 そうだ、カレンダーに書いた記念日。
 「26歳の誕生日」と書かれている。よし、このマジックペンで、
 上に「ミサトと僕の」と書き足そう。
 
 今日は、二人の誕生日なんだからさ。

id:sokyo

タクヤさんミサトさんお誕生日おめでとうございました!

イケメンかよ!!

2015/06/14 00:05:28
id:takejin No.30

回答回数1543ベストアンサー獲得回数203

ポイント10pt

7話

  急激に体重が軽くなった。想定できる現象は、自由落下だ。この状況では、動力停止によるフリー走行か、レールから逸脱した落下状態のどちらかが考えられる。が、モーメントが感じられなかったことから、自動的に動力遮断が結論だ。なにか困難な状況であれば、手助けが必要であるはず。操縦席へ向かうことにしよう。
 手荷物からは、レーザポインタと、マクロレンズと、タブレットを持って。スニーカーのベルトをしめなおして、ハシゴで上る。まずは状況把握だ。
 最上階は狭い。操縦室は扉が開いており、キャプテン・チャンと男の人が話をしていた。
「やあ、ハイスクールボーイじゃないか」
「を、噂の」
なんだか穏やかな雰囲気、緊急事態ではないのか?
「あの、緊急停止とかじゃ」
「大丈夫。誰かが緊急停止プログラムを作動させたらしい。その誰かが、すぐに分かったから、問題ない」
「そういえば、館内放送したんだけど、聞こえなかった?そのグラスにもサインがでてないか?」
グラス?あ、手に持ってた。我ながら、落ち着いていなかったか。グラスを掛けると、右隅に緊急停止は誤報と書いてある。
「わかりました、問題ないんですね」
「そう。一人おばちゃんが乗ってただろ?そのペットロボットが、スマホの緊急アイコンを触ってしまったんだ。ほら、この映像見るとわかる。で、停止だ。フェイル・セイフだから、安全に転ぶとこうなる。わかるかな」
「はい、わかります。では、すぐにスタートしないんですか?」
「せっかく止まったから、外観を見たくなってね、10分の船外活動許可をもらおうとしてたんだよ」
とキャプテンじゃない男の人が言っている。あれ?この人どこかで見たことが。
「あ、あいさつがまだだったね。里山です。軌道エレベータの構造設計チームにいたんだけど、知ってます?」
思い出した。有名な若手エンジニアだ。
「はい、知ってます。これは、想定外です。出発の時いました?」
「ああ、ぎりぎりで乗り込んできたから、知らないだろうな。よろしく」
「はい、こちらこそ」

里山さんは、操縦室の隅にある小型エアロックに向かう。
「許可とれたよ。里山さんの要請を断るとは思わないけどね」
「じゃあ、行ってくる」
エアロックの扉が閉まる。モニタには、手早く船外活動服を着装する様子が映る。
「開けてくれ」
キャプテンが、操作すると、外扉が開く。長いロープで繋がれた里山さんが、外に出ていく。操縦室のモニタが、外部カメラの映像でいっぱいになる。
「外のカメラは何台あるんですか?」
「死角のないように設置しているから、82台ある。それぞれ小さいけどね。これが最先端で、これがケーブルの監視部、駆動部で最下部。これは太陽モニタ。里山さんが今触ってるのが、軌道ケーブル。これが、この箱の命綱」
駆動部の近くで里山さんが屈みこんでいる。小型のカプセルを取り出して、粉のようなものをケーブルとの接触点に振り掛けている。
「あれは、何してるんでしょう」
「後で聞いてみよう」
里山さんは、外壁に仁王立ちになり、太陽に向かって手で作ったピストルを撃っている。子供みたいな人だな。
「戻ってきます」
里山さんがエアロックに入ると、外扉が閉まった。あまり間を開けずに内扉が開いて、里山さんが出てきた。船外服脱ぐの、すごい早い。

「あの粉、なんですか?」
「あれは、ナノマシンだよ。ケーブルとの接触点が、どうにもメンテナンスしにくいから、いろいろ検討したんだけど、あのナノマシンを知ってね。これは使えるって。で、今回の搭乗で試してみようと思って、借りてきたんだ」
「借り物なんですか?」
「まだ大量生産してないんだそうだ。見てみよう。モニタは、これだ」
壁面の2画面が、切り替わっている。こまかい機械たちが、金属の表面の上を動いている。
「これは、撮影用マイクロマシンからの映像だ。向きを変えるのはこのコントローラを使う」
画面が動いて、全体の様子がわかる。
「この接触点からエネルギーを供給するんだが、電気接点の特性で、表面が劣化する。特に大気中を抜けるまでは酸化の影響もある。真空中になってからメンテナンスしたいんだが、速度が出ているから難しい」
しゃべりながら、タブレットにコマンドを打ち込んでいる。機械たちは、ケーブルとの接触点のあたりにいるらしい。
「自動的に表面の合金の状態を判断して、違う物質になっていたら排除するように設定してある。これで、終点まで行けるかどうか見てよう。さっきのコマンド打ち込む前と後でこれだけ表面状態が違っているんだから、いい傾向だと思うんだ」


「では、再スタートいたします。みなさん、途中で停止する箱に乗るなんて、めったにない経験です。ラッキーでしたね。いまのところ、43分遅れです。取り戻せるかどうかわかりませんが、焦らずあと3日おつきあいください。キャプテンでした。しゅっぱーつ」
軌道エレベータは再度上昇を始めた。少し体重が増えた気がしたのは、一瞬だった。モニタに映るナノマシン達は、動き出したケーブルの近くで、小さく振動している。問題はなさそうだった。

id:takejin

ついにバースデー関係なくなってしまった。(;_;) まだまだ続くよっ

2015/06/14 01:35:17
id:sokyo

ナノマシンちゃんだ!!

2015/06/14 10:18:27
  • id:sokyo
    こんばんは。質問者です。
    まずはこの質問をウォッチリストに入れましょう。
    PCの人もスマホの人も、画面右上のメガネのアイコンをクリックしてください。
    そしたらこのページを見逃すことなくて便利です。最高ですね。

    今日お誕生日の人、ちょっと遅くなっちゃったけどおめでとうございます!!
    間に合ってよかった。
  • id:a-kuma3
    ひ、ひ、ひとり10回?
  • id:sokyo
    質問者です。
    連載してくれてもいいんですよ!
    楽しみにしてます〜。
  • id:gm91
    鬼や、かきつばたの鬼や~
  • id:kobumari5296
    お久しぶりです~!
    時間が空き次第、参加させて頂こうかと!
    さらにはライナーノーツまでやっちゃおうかと!

    無謀ですが、考えております。

    間に合わなくても、
    コメントには投稿できたらいいな、みたいな。
    (私の回のライナーノーツ、書けなくてすみません……)
  • id:sokyo
    こんばんは! 質問者です。
    コメントやスターくださったかた、ありがとうございます。

    ■GM91さん
    鬼じゃないですよ!
    女神って呼んでね〜(´,,•ω•,,`)(←ただのイタい人)

    ■琴木さん
    ごぶさたしてます〜。
    ご参加いただけるのうれしい! 楽しみにしてます〜☆

    このコメント見てくださってるかたは、ぜひ回答欄になにか書いていってね!

    今日がお誕生日のかたおめでとうございます!
  • id:takejin
    一文字ずつでもいい?
    それじゃ10文字しかないし
  • id:gm91
    >女神って呼んで

    び、ビーナス?
  • id:sokyo
    こんばんは! 今日は6月1日。
    今日お誕生日の方おめでとうございました!

    ■たけじんさん
    もちろん、1文字ずつでもいいですよ!
    「お・た・ん・じ・ょ・う・び・お・め・で・と・う」
    12文字! 字余り!

    ■GM91さん
    びーなすです! よろしくね!!٩(๑´3`๑)۶
  • id:kobumari5296
    ガチで昨日は誕生日でした笑
    祝ってくれたのは、
    メルマガとかDMだったけど(^ω^)
  • id:sokyo
    こんにちは! 質問者です。
    今日は6月2日。今日お誕生日の方、おめでとうございました!

    ウォッチリストに入れてくださった素直なみなさんありがとうございます。
    15人なんて近年稀に見る人数!

    はてなブックマークやってる人はブックマークもしてください☆
    あと、増田文学やってる人は捨てアカでいいので遊びに来てください!
    釣りの練習場だと思ってくれたらいいのですー。
  • id:sokyo
    ■琴木(旧コブマリ)さん
    お誕生日おめでとうございます!!
    私からお祝いの品としてかきつばた賞を贈呈したい気持ちありますので、
    今回もぜひご参加ください!
  • id:takejin
    しかし、誰かさんはいつもながら早いなぁ。
  • id:kobumari5296
    みなさん、お祝いスターありがとうです!
    嬉しい!


    どこに書けばいいのか分からないので、ここであとがき。

    “語りが俯瞰的”を書きたかったです。
    病気になったからと言って、そこで終わりじゃないんだ!みたいな。
    美琴は記憶をなくしていますが、
    ネガティブにならずに「新たなスタート!」ととらえていることに関して、
    「人生何があったって、スタートをきれるんだぜ!」と
    言いたかった。
    これは筆者特有の間隔なのかも知れませんが、
    凰示とトワの掛け合いが楽しかったです。

    ……こんな感じでいいのでしょうか(汗)


    ちなみに、神崎凰示、神崎トワ、伊佐波美琴。みんな神話っぽい名前を付けてます。
    凰示=鳳凰、トワ=神、永遠(プロットの段階では感じでした)、美琴=イザナミノミコト
    それは、この設定のタイトルが、当初『女神を救え』というものだったからです。
    もっとダークな話でした。



    よろしくお願いします。
  • id:sokyo
    こんにちは! 質問者です。
    昨日は6月3日でした。お誕生日おめでとう言えなくてごめんなさい。
    また、今日は6月4日。今日お誕生日の方、おめでとうございます。

    今日はリア友のお誕生日でしたので連絡しました〜。
    みなさんもリア友のお誕生日祝いましょう!

    増田文学の人の襲来を楽しみにしております。増田文学の人の襲来を!
  • id:shogo2469
    来週まで待っててくれればできそう。
    今回は、ちょっと気合を入れていきます! ちらりとイメージを覆す感じで。
    ちょっと苦労してますけど、頑張りますね! ライナーノーツも書きますから!
    今は、大会の練習で部活で忙しので、皆さんの作品は、暇な時にでも見ますねー^^
  • id:sokyo
    こんにちは! 質問者です。
    今日は6月5日です。今日がお誕生日の方おめでとうございます!

    ■コイルさんお久しぶりです。
    楽しみにしてます! 自分でハードルあげる人だいすき! もっとハードル上げてほしい笑
  • id:takejin
    最終話まで行き着かないなぁ
  • id:sokyo
    こんにちは。質問者です。
    しばらく留守にしててすみません…。
    6月6日、6月7日、6月8日がお誕生日の方おめでとうございます!

    ■たけじんさん
    行き着いてほしい!! 楽しみにしてます!!
  • id:sokyo
    こんにちは。質問者です。
    今日は6月9日。お誕生日の方おめでとうございます!

    ウォッチリストに入れたままリアクションしてないあなたやあなたは、
    まだ作戦を考え中?
  • id:kobumari5296
    プロットは立てました。
    三部作になっちゃいました。
    〆切に間に合うかわかりません……
    単体でも読めるものにしたけれど……
    間に合うかしら
  • id:shogo2469
    あと2、3日あれば間に合うかもです。
  • id:gm91
    あと1wほしい
  • id:takejin
    やっと半分。これから先は、2話分しか考えてないんだが。
  • id:sokyo
    https://www.youtube.com/watch?v=S86ppy4jdxg
  • id:takejin
    ここは、月刊誌の編集部か。
  • id:gm91
    び、びーなす編集長…
  • id:sokyo
    こんにちは。編集長です。
    今日は6月10日。今日お誕生日の方おめでとうございます!
    入稿まであと少し! 気合を入れていきましょう。

    ■琴木(旧コブマリ)さん
    キミならできる!

    ■コイルさん
    キミならできる!

    ■GM91さん
    キミならできる!

    ■たけじんさん
    キミならできる!

    こんな感じですか?(笑)
  • id:kobumari5296
    YDKか……
    Yareba Dekiru Ko か……
    頑張ってみます!編集ちょー!
  • id:kokiri385
    こんばんわー。大変遅くなりましたがおめでとうありがとうでした!(^-^)/
    そしてお誕生日の方はっぴーばーすでー、お誕生日じゃない方ははっぴーあんばーすでー。
  • id:sokyo
    こんばんは。質問者です。
    今日は6月11日。今日お誕生日の方おめでとうございます!

    ■琴木(旧コブマリ)さん
    YDK!
    ひとつめ読みました! 月香さんのその後期待してます!

    ■銀鱗さん
    わーい待っててよかったです〜〜!!(๑˃́ꇴ˂̀๑)
    お誕生日じゃない人にも「あんはっぴー」って言わないところに優しさを感じた!!
  • id:sokyo
    おはようございます。質問者です。
    今日は6月12日。今日お誕生日の方おめでとうございます!

    もうすぐ締め切っちゃいますけど、いままさに進行中の人はいませんか?

    …っていっても私は容赦ないので、もうすぐ締め切っちゃいますけど☆

    ちなみに、いままさに進行中の人はいませんか?

    もっとも、私は容赦ないので…(以下略)
  • id:gm91
    土曜までまってくれさい >びーなす
  • id:kobumari5296
    ライナーノーツ!


    シャンパングラス三部作(?)

    こういう、ねじれた三角関係を書くのが大好きです。

    <月香>
    幸せを捨てた女。お姉ちゃんがよければそれでよし。
    と思っていたのが、拓斗に出会って信念が曲がる。
    変わらないものなんてない、良い風にも、悪い風にも。
    そんな話が書きたかった。

    <茨>
    幸せを求めるだけの女。
    自分からつかもうとせず(まあ、美人設定なので)、拓斗に預けっぱなし。
    その上マリッジ―ブルーとか世話ないな、とか思うんですが、
    彼女も彼女なりに傷ついている(浮気癖で)
    だから、動くことが怖い。

    <拓斗>
    たまには、こういう男がいてもいいのではないかと。
    妄想だし!
    でも、拓斗は拓斗で、誰かから愛されていないと不安。
    弱いようで、当たり前な男の人。
    (正直、異性が良くわかりません)←
  • id:shogo2469
    できました!! 今回は初めての2部作です。
  • id:sokyo
    こんばんは。
    今日は6月13日。今日お誕生日の方おめでとうございます!

    ■GM91さん
    これ間に合ったんですよね?
    気兼ねなく締め切れる!

    ■琴木(旧コブマリ)さん
    ライナーノーツ大好物なのでもっと語ってくれたらめっちゃ読みます!

    ■コイルさん
    間に合ってよかった!
  • id:sokyo
    こんばんは。質問者です。
    今日は6月14日。今日がお誕生日の方おめでとうございます!

    長かった質問期間も今日で終わりです。
    駆け込みたい人は駆け込んでください!!
  • id:takejin
    間に合うかなぁ。
  • id:sokyo
    こんばんは。編集長です。

    みなさんのおかげで、なんとか無事に入稿を済ませることができました!
    どうもありがとうございました。
    今度はさっそく、次号に向けてがんばっていきましょう!

    …こんな感じかなぁ?(汗)
    あ、あと、編集長を拝命しましたので、編集っぽいことしてみました!

    さて近年まれに見るおおにぎわいのかきつばたで、たいへん楽しかったです!

    みなさんのおしゃべり聞きたいので、ぜひなにか書いていってください。
    自作のコメントとか、他の人のやつの賞賛とか、参加しなかった言い訳とか、そういうの聞きたいです!

    今度は自分で参加するので、だれか次回開催してね☆
  • id:grankoyan2
    とりあえず、10回使いきったということで、満足してます。速筆キングは譲れない。
    次回開催しますので、みんな来てねー!
  • id:kobumari5296
    お疲れ様です!
    やっぱり、私の作品は私にしか響かないのだろうか……
    それって要するに低レベル?!
    いや、分かっていたけれど~!
    自信たっぷりじゃなかったけど、楽しめました。
    編集長、ありがとうございますです。
    今年は成長するぞいっと、下半期近くに決意表明します。

    琴木は朝から燃えとります。
  • id:shogo2469
    締め切ったということで、ライナーノーツです。

    実はあの2作、スキマスイッチさんの楽曲から来てます。
    「Aアングル」、「Bアングル」、「8ミリメートル」という3部作からです。
    内容も歌詞に沿って書いた物ですが、お題が「ハッピーバースデー」なのでちょっと変更しました。
    ビデオには2人のラブラブだったあの時間が映っているのです……。
    AとBで2つに分けたのは、実際に3部作の曲があるのと、
    今は別々の人生を歩んでいる二人の、相手への想いを一致させたかったからです。
    別れて2年くらい経った今でも、本当は未だに相手のことが好きだってね。
    特にBアングルのラストはとにかく「泣き」をイメージして書きました。
    いやあ、失恋を描くのも苦労しましたよ(^^;

    ちなみに、「タクヤ」という名前はスキマスイッチの大橋卓弥さんから来てます。
    「シンゴ」は、シンタ(常田真太郎)くんをちょっと改造したものです。
    あ、「A angle」の最初の方を読んで、ミサトとシンゴのラブラブなバースデーパーティーだと思った皆さん、ごめんなさい。展開は全然違います(;´д`)

    ところで、なんで5月9日にこだわったかというと、実は、
    大橋卓弥さんと僕の妹の誕生日が同じ5月9日だからなんです。(年は全然違うけどね)
    生まれた日が同じって聞いたときはびっくりしましたねぇ。
    まあそうでなければいつでもよかったんですが。折角だからこの日に。
    ちなみに、僕とシンタくんは同じ2月生まれです。

    ちなみに、原曲はかなりいいです。泣けますよ。
    8ミリメートルは、「ナユタとフカシギ」というアルバムに収録されています。
    このアルバム、むちゃくちゃいいです。
    Aアングル(https://www.youtube.com/watch?v=AfxNKRdyn0w)
    Bアングル(https://www.youtube.com/watch?v=QXyWbVRO7Do)
    8ミリメートル(https://www.youtube.com/watch?v=uAKwxT0vthk)
  • id:shogo2469
    ちなみに、今回は自信満々で、「かきつばた賞いける!」とか思ってました。
    相手がたけじんさんで、しかもあの作品なら仕方ないですね。素晴らしいです、やっぱり。
    もう少し自分を磨いて出直してきますね (o・・o)/~ じゃ、また。
  • id:MerciFairy
    妖精『へんてこ凛』 2015/06/15 07:07:09
    おはようございます。
    まだ駆け出しのハテナーなのでここで回答するのは躊躇することが多く、
    今回は特にこういう伝統の(?)質疑だったので迷いましたが、
    小説が大好きなので思い切って参加させて頂きとても楽しかったです。

    皆様、どうもありがとうございました。
    ☆<m(__)m>☆
  • id:takejin
    まだ未完なのですが、とりあえずBAありがとう。
    ライナーノーツは、完成してからね。
    質問終わっても、読みに来てね。(あと2話)
  • id:takejin
    いや、3話だった。
  • id:takejin
    第8話

    「どうやったら凝集するのかなあ」
    里山さんが頭を抱えている。誰もいないと思って独り言を言ってるみたいだ。
    「こんにちは」
    里山さんはキョロキョロしている。
    「こっちですよこっち」
    レストランの隅でタブレットにコマンドを打ち込んでいるが、言うことを聞かないらしい。
    ボクの声を聞いて、こっちを向いた里山さんの目が、大きくなった。
    「え、えーと、ペットロボットだよね。まじかで見ると、結構迫力だな。それは、頭だよね」
    逃げないだけ、この人は凄いと分析した。ボクを見て腰を浮かさない人は、めったにいないんだ。

    「長さ、どれだけあるんだい?言語系のAIは装備されてるんだよね」
    ボクは、里山さんの座っているテーブルに近づき、向かい側の席にとぐろを巻いて座った。
    「長さは2.3m。重さは74kgです。ほとんどがバッテリーですけど」
    「その重さ、エレベータだからこそだな。アナコンダなの?」
    「いえ、ニシキヘビです。ディズニーのジャングルブックのカーの方が近い設計ですが」
    「ああ、目が大きいね。催眠術できるの?」
    「その機能は装備されてません」
    里山さんは、微笑みながらタブレットに視線を戻した。
    「あの、そのコマンド、作者に聞くことはできないんですか?」
    「ん?」
    里山さんは?マークいっぱいの顔でボクを見ている。
    「失礼なことは承知で、幾つかの機能を作動させていました。そのタブレットとメモリを共有、プログラム解析、駆動部のナノマシンとマイクロマシンとの通信、ビッグライブラリへの接続」
    「ほう。で結論は?」
    「里山さんが設置したナノマシンは、順調に作動し、エレベータが進行中も問題なく機能を発揮している。2時間経過して、ナノマシンのエネルギーが尽きそうなので、回収しようとしたが、回収コマンドが見つからない。」
    「ふむふむ、極めて正確な情報把握だな。君のAIは優秀だ」
    「そこで、ナノマシンと通信しましたが、言語系が簡略すぎて解明できませんでした。マイクロマシンとは相互データ交換ができたので、作者のコメントまでたどり着きました」
    「おお」
    「しかし、それに記載されていたのは、メールアドレスだけでした」
    「ちょっと残念だな。彼は、世界中を飛び回っているみたいで、なかなか連絡が付かないんだ。でも、そのアドレスは、もらったアドレスと違うな。これは連絡してみる価値はありそうだ」
    そこへ、フロアマネジャーが通りかかった。
    「里山様、なにか飲み物で」
    ボクに気付いた。どう反応する?
    「まあ、カーじゃない。すごいわ、この造形」
    腰を引かないサンプルを、もう一つ採取できた。
    「催眠術できるの?」
    「いえ、その機能はありません」
    「一人でウロウロしていいの?」
    「はい、ご主人は本日惰眠をむさぼるとのことでした」
    里山さんとフロアディレクタは、顔を見合わせて小さく微笑んだ。
    「コーヒーをいただけるかな」
    「少々お待ちください。カー君はいらないのよね」
    ボクは頭部を上下させる。

    「連絡着いたよ。このアドレスは、繋がるらしい。コマンドはこれだ」
    里山さんがタブレットを操作すると、マイクロマシンからの映像が動いた。煌く粉が凝集し、球体になって、マイクロマシンに付着している。マイクロマシンは、エアロックまで移動を始めた。
    「順調、順調」
    「ナノマシンは3台失ったようですね。この環境では、極めて犠牲が少なかったと考えられます」
    「すごいな、そんな通信が直接できるんだ。君、一緒に仕事しない?」
    フロアマネージャが、コーヒーをタブレットの横に置いた。
    「お待たせしました」
    フロアマネジャーの手が一瞬止まった。でも、何も言わずに、微笑んで持ち場に戻っていった。
    「この研究者、どこで知り合ったんですか」
    「高高度プレーンで、NASAに帰るときに隣の席だったんだよ。日本人同士並ぶなんて珍しかったからね」
    「そうですか」
    「優秀だよ、彼」
    タブレットには、その研究者の顔写真と、S.Takayuki0208@hatena.ne.jpのアドレスが表示されていた。
  • id:sokyo
    こんばんは。質問者です。
    たくさんの方におしゃべり来てくださってうれしいです!

    ■ぐらんこ。さん
    たくさん書いてくださってうれしいです!
    ポイントつけ忘れちゃったんですけど『TBP』が好き!

    ■琴木(旧コブマリ)さん
    そんなことないですよ! 楽しかったです。
    ライバルがいると私も燃えます!!
    お話の続きは
    http://q.hatena.ne.jp/1420529590
    こちらでお待ちしてまーす!

    ■コイルさん
    どうして5月9日なんだろう?って私も思ってました。
    ウラがあったんですね〜そういうナゾなこだわり好きですよ!

    ■妖精『へんてこ凛』さん
    今回、新しい人に参加いただいて私はすっっごくうれしかったです!
    これからもたくさん書きに来ていただけたらハッピーです!

    ■たけじんさん
    私かきつばたを開催するたびにたけじんさんにかきつばた賞を進呈してる気がします。
    今回も最高でした!!

    ■第8話
    孝之さんだ!!!
  • id:takejin
    第9話


    「軌道エレベータ到着まで918秒。カウントダウン続行」
    静止軌道ステーションでは、軌道エレベータの到着に備え、準備を進めていた。
    「貨物は、今回大きい物が多いから、気を付けるように。特に後のスケジュールが詰っている。手順を間違えないように、確認しておくこと」
    主任の声がドッキングスペースに響く。各自ヘルメットから聞いているはずなので、館内放送は無意味なのだ。が、ステーションマネジャーの趣味で、全館放送をかけている。臨場感がワクワクするのだという。
    「今日は彼女乗ってるんだっけ?」
    「彼女じゃないから」
    「でも、食事行ったんだろ」
    「きっと暇だったんだよ」
    「まあまあ」
    メカニック仲間のダニーは、なにか誤解しているようだが。でも、ちょっとは気になる小柄なフロアマネージャ。
    じゃないって、もうエレベータ到着するんだって。仕事仕事。

    「軌道エレベータ係留用意」
    重さの無いエレベータ本体をつなぐのは、小指の先でもできるんだが。ロックアームをセットするだけだし。
    「ロック完了。エレベータ到着。ボーディングブリッジ接続」
    乗員用が2階、乗客用が5階、貨物用の大きいのが、一番下。今のところ順調。
    「ほら、御到着」
    ダニーが絡んでくるが、とりあえずカーゴだ。仕事だよ。
    コントロールルームを出ると、狭い通路を通る。ちょうど乗員とすれ違う。
    「やあ、みんなお帰り」
    キャプテンやハウアーはハイタッチを返してきたが、フロアマネジャーは素通りしていった。

    ダニーに頭を叩かれて、我に返る。
    「さあ、カーゴで仕事しようぜ」
    ああ、仕事しよう。
    そう。仕事だ。

    今日は特に大きなカーゴがある。慎重に引っ張り出して。
    「こりゃ大きいな」
    「ぶつけるなよ」
    かつてない大きな荷物を、太陽観測ドームエリアに運ぶ。一旦外に出して、ロボットアームで運ぶことになる。
    カーゴを最大のエアロックに突っ込んで、扉を閉める。
    振り向くと、里山さんが漂っている。
    「ステファン久しぶり」
    「オーミスタタヌキ、久しぶりです」
    里山さんに。顔をじーっと見られた。
    「おや、何かあったかな」
    「な、何でもありません」
    「ま、わかった気がする。後で飲みに行こうや、と言いたいところだが、ここには酒はないんだよな」
    「そうですね」
    里山さん、エアロック脇の小さい扉に引っ張っていく。
    「よし、設置を手伝ってくれ」
    船外作業服を着せられ、あっという間に宇宙空間に連れ出されていた。
    里山さん、一本のケーブルをフロントの穴に接続する。
    「これで、誰にも聞かれない」
    里山さんの親指が、目の前に差し出される。
    「一方的に、思いっきり偏見を持って、個人的なことを言うから、聞いてくれ」
    ロボットアームに支えられたカーゴを、外壁上をキビキビと歩いて誘導しながら、里山さんが呟いている。
    「フロアマネジャの佐野女史は、学生時代に彼氏がいたことは知ってるだろう?で、その彼氏、どこにいるんだか捕まらないんだかで、自然消滅したと。その彼氏ってのが、見つかったって話だ。おっと」
    外壁の縁に着いたから、カーゴを押す方向を変える。太陽観測ドームは、もう目の前だ。
    「ナノマシンの開発者が、その彼氏だったんだよ。彼に連絡が付いた時、佐野さんがそばにいて」
    太陽観測ドームに着いた。
    「ああ、じゃ、その彼に連絡したんですね」
    「いや、そうじゃないらしい。その場はそれで終わり。彼女からは連絡しなかったようだ」
    「はあ」
    「到着前に開発者の鈴木君からメールが入っていて、『付き合っていた彼女をやっと発見したので、お礼を申し上げます。計算できない確率が積み重なるのは面倒なので、プロポーズしておきました』とか書いてある。唐突だったから、何のことか返信するとさ、『フロアマネジャの佐野由美子は、以前付き合っていた彼女です。私が研究で飛び回り始めた時に、連絡がつかなくなってそれきりになっていたので、いろいろ探したんですが見つからず。偶然、里山さんの乗っているエレベータを、ナノマシンのデータ関連で調べたら、乗員名簿に彼女がいてびっくりです。本当にありがとうございました』だとさ」
    太陽観測ドームに到着し、アンカーをかけ、扉を開けた。
    「佐野さんのとこに行ってみると、なんか怪しいもの持ってるんだ。自由落下状態でしかできない3Dプリンターで作成した.数学的に何か極めて珍しい形のエンゲージリングなんだってさ」
    観測装置の部品を取り出し、フックをかけようとした。うっかり空振りをして、バランスを崩してしまった。はずみで、ドームの影にいた人とぶつかってしまった。
    その勢いでその人は、ステーションから遠ざかる方向に飛び出してしまった。命綱を確認しながら、外壁を蹴って飛び出した。

    里山さんの声が聞こえる。
    「その人をしっかり抱えて戻ってこい。引っ張ってやるから」
    その小柄な宇宙服の人は、それほど遠くに行く前に、捕まえることができた。
    「その宇宙服、どうやら通信ができなくなったみたいだ。さっきのケーブルをつないで、その人と話をしてみてくれないか」
    そう言われて、ケーブルを宇宙服に接続した。
    「すみません」
    か細い女性の声だった。
    「彼女、しばらくドームの太陽観測装置の改造に、助手としてしばらく滞在するから。こっちのことよくわからないらしいから、教えてやってくれ」
    里山さんの手は、グッジョブと告げていた。

    確かに、グッジョブかもしれない。
  • id:takejin
    第10話

    こちらは、静止軌道ステーション、マザーコンピュータ
    待機中


    センサ検知… 起動シークエンス… 待機中…  待機中…

    VOX ON 音声検知 映像記録開始


    「マザー、記録を頼む」
    セレモニーホールのスクリーン前には、ジョージが浮遊している。
    「到着したエレベータの乗客・乗組員は、セレモニーホールへ集合の事」
    館内放送が流れている。しばらくすると、ホールに人が集まってきた。
    「あれ、教授。お久しぶりです。こんなところで、何してるんです?」
    エレベータの佐野フロアマネジャーが、ジョージに近づいてくる。
    「佐野君。久しぶりだねぇ。今は、教授じゃない方の仕事で来ているんだ」
    「教授じゃない方ですか?」
    「ああ。君もそこにいたまえ」
    キャプテン・チャンがスクリーンに付近に漂ってきた。
    「パン・アース・エアライン社長が、こんなところに。今日はなにかあるのでしょうか」
    「やあ、チャン君。偉くなったねぇ。キャプテンになったんだね。君にも話がある。そこにいてくれ」
    「はい」
    「主役が来た。はじめよう」
    ジョージは、優雅な身のこなしでホールに入ってきた男性を、隣に招いた。
    「諸君、忙しいところお集まりいただき、ありがとう。わざわざおいでいただいたのは、ある計画の発表だ」
    ジョージは、男性の肩に手を掛けた。
    「皆さんご存知のこの男。里山君は、我が空間構造学ゼミの卒業生の中で抜群に優秀で、この軌道エレベータを実際に動かすのに、多大な貢献をした。それは、君たちの方が良く知っているだろう」
    里山氏は、スクリーンの前に漂う。
    「では、軌道エレベータステーション複合企業体連合の代表として、新しいプロジェクトを発表する」
    スクリーンが画を表示する。
    「太陽観測宇宙船建造及び、航行プロジェクトだ。プロジェクトリーダに里山君。船長にチャン君を指名する」
    少ない人数だが、拍手がわく。ホールの入り口付近にいる、テレビクルーがカメラを向けてくる。
    「佐野君、長期航行時のサポートをお願いする。必要なら、ハウアーをサポートに付ける。二人とも、確率論ではいい成績じゃなかったが、接客は見事だ」

    スクリーンを振り返り、ジョージは指を鳴らす。一人の男性が写る。
    「やあ、孝之君。どうだいナノマシンの調子は」
    スクリーンの孝之君は、微笑んで言った。
    「教授、確率論とベンチャー支援以外に、何してんですか。ナノマシンの開発支援はありがとうございました」
    孝之君はうんうんと頷いた。
    「教授、読めましたよ。非常に低い確率と思っていたんですけど、違いますね。確率100%じゃないですか。里山さんと隣の席って、自分の会社の飛行機の座席いじっただけ。佐野を雇ったのも、AI使ってナノマシン使うきっかけ作ったのも、メールアドレス提示したのも。教授、遊んでます?」
    「さすがだねぇ。いつもの通り、お見通しだ。ただ、遊びじゃないんだ。大真面目にいろいろ工作をした。全ては、太陽を見張るためだ」
    ジョージは微笑みを止め、ホールの人を見回し、テレビクルーに目線を送った。
    「最近、一部の人には太陽光が眩しく感じられるという報告が上がっているんだ。その現象を様々な確率で考えると、ほっておけないことになるかも知れないと、ワトソン女史が解析してくれた。そこで、もっと近くで太陽を監視することにしたんだ。任せられるのは、里山君しかいない」
    ジョージは里山氏の肩を抱える。
    「チーム里山を勝手に作ってみたのさ」
    スクリーン前に、大蛇が漂ってくる。
    「おお、カーにも手伝ってもらう。君のAIは、ちょっと変わってて使えるんだ」
    里山氏が、カーの頭をなでる。
    「使えるよな、君は。ジョージ教授。この蛇に一つ機能を加えてほしんだけど」
    「ん?」
    「催眠術ね」
    エレベータのフロアマネジャが、カーの頭に触りながら言った。その薬指には、クラインの壺の形をしたリングが付いていた。
    「セレモニーは終了だ。みんな持ち場に戻れ」


    録画シークエンス終了 映像記録終了



    割り込みコマンド受信 カメラ一台起動

    人がいなくなったホールの、FFl側の窓に、二人の人物が貼り付いている。
    「ドームの改造、しばらく続くんだな」
    「ええ。でも、教授もみんなも、肝腎なこと忘れてるんだもの」
    「ん?」
    「あなたも」
    「なんのこと?」
    「誕生日よ、あなた、今日誕生日でしょう」
    「あ、そうだっけ」
    「おめでとう」
    二人の影が寄り添ったように見えた。
    その瞬間
    ホールの明かりが点き、ステーションの人たちがなだれ込んできた。
    「ハッピーバースデー、サトヤマ」
    全カメラ記録開始
    「ハッピーバースデー」

    自由落下状態で、人が入り乱れると、このAIでは記述不可能であることが判明した。
    とりあえず、人々はハッピーである。




  • id:gm91
    乙です! & BAおめです! >T神さん
  • id:takejin
    「繋ぐ」

    最初に考えたのは、一話のARのシーン。それだけで書いたんだけど、「これ、軌道エレベータでも変じゃないな」と気が付いた。
    最近、軌道エレベータで行き来する人々を描くってテーマで、ちょっとずつメモっていて。それのオムニバスならできるんじゃね。と思ったわけです。
    せっかく10回分書けってんだから、それに当てはめた制約を。
    1 連載
    2 各話読み切り
    3 語り部の一人称、語り部は全部別人
    4 必ず同じ人名がどこかに登場する
    (桐島部活やめるってよ手法)
    5 内容が、どこかでオーバーラップする
    (阪急電車手法)
    6 人工知能好きな人が居そうなので、AIを登場させる
    7 全体に、エンジニアが活躍する話

    いろいろ盛り込みました。
    ジョージ教授に全部預けるのは、ちょっと幼稚だったとは思うんですが、この規模で収めるにはこんなところでしょうか。

    本気で書いたら、各話3倍の15枚連載で、150枚。中編小説にはなりそうです。

    ワトソンさんの助手(太陽観測ドームの女性)は、ホームズさんです。ステファン君頑張って。

    一番気に入ったキャラは、カーですね。使えるAIだなぁ。

    フリーフォールで作る3Dプリンタの作品って、面白い数学解の具現化になりそうです。中空の殻の中に、中空の何かがあって、その中に何か入っている。それもシームレスで。となると、なかなか作りにくい。その形状が複雑ならなおさらです。
    3次元世界では作れなかった、クラインの壺の3次元投影品、作れそうじゃないですか。

    ああ、面白かった。
    では、他の人の作品を読むことにしましょう。
    一通り速読はしたんですけどね。ちゃんと読んでないので。
  • id:sokyo
    こんばんは。質問者です!

    ■たけじんさん
    ありがとうございました! 楽しかったです。
    今度メモ取りながらもう一回読もう〜。

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