http://q.hatena.ne.jp/1161949672 をもう一度楽しみましょう、との主旨です。この質問に出た21個のお題を再掲します。
回答者のみなさまは、この中の三題を適当にえらんでお話しをつくってください。まじめからだじゃれまで。採点は私の主観でさせていただきます。
・ルール:題を三つづつ七グループに分けます。同じグループから題を選んではいけません(私と共通の選び方にならないためです)
・お題
-ワクチン、みずぼうそう、超新星
-糸ようじ、クリスマス、空咳
-焼き芋、ユベントス、集中講義
-北朝鮮核実験、リーマン、コーンスープ
-コーヒー、みかん、レコードプレーヤー
-スタンプラリー、Ruby、袋小路
-掌典、キングギドラ、新庄
・補足1:前回のお題提出者もどうぞ!
・補足2:前回の意味とことなっていても可。リーマンが芸人だったり、数学者だったりしてもよい。
【逆転ホームラン】
「お、村上!英雄の帰還や~大丈夫なんかぁ?」
俺が憮然として大学生協でAランチをかっこんでいると、聞きなれたのんきな声が頭上に降ってきた。
「おう、真庭」
箸も置かずに答えると、真庭はにやにや笑いながら前の席に座った。トレイの上にはカレーうどん。ああ、俺もそっちにすればよかった。人が食べてると食いたくなる。
「アンタ、今頃みずぼうそうってヤバくないん?」
「まぁ、比較的症状は軽かったっつーか…ヤバイのはそっちより…」
「単位、ね。ま、そらそうやな」
なんだか最近妙に痒い、良く見たら水ぶくれみたいなのがぽつぽつと腹に出来てる、なんだ、おかしいぞ、と医者に行って「みずぼうそうですね」と言われたのが約十日前。その三日後は必修講座の発表当番で、その講座は発表とレポートと出席が単位に必要だった。既に俺には発表のチャンスはなく、教授から出された代替案に頭を抱えていた。
「もらえないことはないんやけど…」
「救済アリ?新庄教授にしては珍しい」
「…集中講義」
「は?」
「新庄が冬期休暇に毎年やってる集中講義に出たら単位くれるって」
真庭は俺の苦悩も知らずに「ええやん」と笑った。
「全然よかない。クリスマスイブとクリスマスの二日間やもん。あ~俺綾香によういわんわ」
「あ~…そういう」
今年の夏から付き合いだした綾香とは、この年末にグッと接近するべく問題の二日間の入った旅行を計画していた。旅行まで二週間を切った今、俺と行くのを楽しみにしている彼女にどういいわけしたらいいか…。彼女の激怒する顔が浮かんでAランチをもどしそうになった。
「アイツ、絶対嫌がらせだ」
俺の担当教官でもある新庄は40後半の独身で、カップルで講座をとったら両方必ず落とされるとまで言われている。
新庄は新庄でも野球選手の新庄とは大違いだ。
「絶体絶命やね」
「完璧袋小路…」
困ったことにこの単位を落とすと、三回生の俺としては下手したら留年の危険があった。来年は同じコマに卒論講座が入っている。
「ま、せいぜい悩みや。一人身には贅沢な悩みにしか思えんし」
「へーへー」
さっさと食べ終わった真庭は立ち上がり、去り際に何かをポケットから出して俺のトレイの上に置いた。
「何これ」
「差し入れ」
そう言って真庭は後ろを向いたまま手をひらひらさせて生協を出て行った。
俺はトレイの上の缶のコーンスープをまじまじと見て、少しだけ笑った。
触れるとそれはすっかり体温ほどにぬるくなっていた。
翌日、俺が昨日と同じ時間に学生生協でカレーうどんを食べていると、
また真庭がやってきた。今度はあいつがAランチらしい。
しまった、今日はからあげだった。
「…袋小路突破したで」
俺は真庭になにか言われる前に先手をかけることにした。
正直今茶化されるときついからだ。なぜなら。
「早ッ!ゆうか綾香ちゃんよぉ納得した…」
「…別れた」
真庭の顔が微妙な形に歪んだ。
「は?なんやそれ」
話はこうだ。
昨夜かなりの逡巡の後綾香に電話して事情を説明したところ、「じゃあ別の人と行くからもうええよ」と言われ、更に「電話もこれでしまいにしてな。バイバイ」ときたもんだ。俺も少し感情的になって売り言葉に買い言葉を…。結果は推して知るべしだ。
これをオブラートに包んで話すと、真庭の顔は怒りの形相に変わった。
「最低やんか」
「…別にお前が怒らんでも」
「怒ってへんよ」
「いや、すごい顔してるわ」
「…別れて正解やろ、それ。絶対二股かけて…」
「そういうこと言わんで!余計惨めになるやろ…」
正直図星を指されただけに、思わず俺はきつめの口調で言ってしまった。だがそれに気づいたのは真庭の顔色が変わったからだった。
「…悪かった」
真庭はそれから食べ終わるまで一言も話さなかった。
カレーうどんは伸びていた。
集中講義一日目の朝、俺は嫌々だったこともあって寝坊をし、開始ギリギリに講義室に着いた。
息を切らせて空いた後ろの席に座ると、少し前の席に見慣れた背中があるのに気づいた。
真庭だった。
真庭とは彼女と別れたという話をして以来会っていなかった。
なんとなく気まずかったこともあって自分でも無意識に避けていたのかもしれない。
結局午前中の講義は真庭にどうやって切り出すかばかり考えていて、講義内容など全く頭に入らなかった。
大体とる必要もない講義に出ていること自体も気になった。
おかげで板書もしていなかったので、講義が終わってから慌ててノートに写していると、いきなり頬に冷たいものが触れて飛び上がった。
「ッ!…真庭」
顔を上げるとみかんと真庭が目に入った。
「やる。実家からぎょうさん送ってきてん」
実家が和歌山だという真庭は確かに毎年講座の仲間にみかんを配っていた。
俺はありがと、とみかんを受け取ると、とりあえず剥いてひとふさ口に入れた。
冷たさと甘酸っぱさが気持ちよくて、さっきまでもやもや考えていたことが少し晴れたような気がした。
「真庭、俺さ」
「…明日暇か?」
俺は出鼻をくじかれて次の言葉を失った。
なかなか俺が答えないので、「暇じゃないならいい」と行きかけた真庭の手首をとっさに掴んだ。
思ったより細いそれに内心驚いていた。
「何」
「いや、…暇、だけど。これ終わった後なら」
すると真庭はすっと一枚のアドカードを机の上に置いた。それは女の子の間で人気だというレストランのカードだった。
「ここ。予約できたから。…一緒に行かん?」
俺はようやく自分がひどくバカなことをしていたことに気がついた。
大体女の子にこんな顔をさせて断れるヤツがいるんだろうか。
「俺がおごるよ」
すると真庭はようやく笑ってくれた。
「当たり前や、アホ」
2006/10/31 rikuzai
お題を飛び越えて7グループそれぞれから一つずつ選んで、
7つのお題を放り込んでみました。
1.みずぼうそう
2.クリスマス
3.集中講義
4.コーンスープ
5.みかん
6.袋小路
7.新庄
ちょっと苦しいところもありますが、楽しんでもらえたら幸いです。
教授がまた奇妙な実験を始めたという。なんでも、宇宙をフラスコの中で出現させると昨日は息巻いていた。私は教授の爆弾が炸裂したようなヘアスタイルと、破滅的な理論から、彼のことを“ドク”と呼んでいた。もちろん、あの有名な『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の天才科学者ドクのことだ。もうドクの長い研究につきあって何年になるのだろうか。この地下研究所も、ずいぶんと人目に触れていない。
私はひんやりとした鉄製の廊下を一人歩きながら、白衣を揺らして白い息を吐く。誰もいない廊下に私の足音がコツコツと響く。この研究所はドクの趣味で、巨額の資金で買い取ったものだ。ドクの父がずいぶんな資産家だったおかげで、この物々しい研究所を買い取ることができたらしい。だが、最近では博士の研究の資金に多額の資金が垂れ流されていた。
そもそも、この研究所が維持できるのは私が研究とは別に、必死に夜間のバイトをしているからだ。高速の傍で旗を振る仕事だ。正直、50歳にもなるとかなりきつい。あと、携帯が鳴ったら私は仕事現場をこっそり抜け出して、歌舞伎町のホストに変身する。そうでもしなければこの研究所はすぐにでも閉鎖されてしまうだろう。本当ならばこんなところはいち早く辞めてしまうに限るが、実はそうもいかない。私に対し、良くしてくださった方がいるのだ。名もない私に研究の場を貸してくださり、多くの著名人とのパイプを作ってくれた方だった。それが、ドクの父だった。私はそんな理由で、この研究所を辞めることが出来なかった。
しばらく歩くと、右手に発電室が見え、私はその部屋の明かりを付けると、いくつもの重々しいレバーを順番に下ろしてゆく。数少ないドクの発明品で、この研究所内の電力を一手に担う機械だった。それは完全な永久機関であるとドクは自慢していたが、私は知っている。これは単なる近所の電線から電力をピンハネしたものだった。ドクター中松さえひれ伏すそのアイディアに、私は今日もため息をつく。
やがて、研究所内に電気が通ると、研究所内がウォンウォンと音を立てて鳴り始めた。どうしても無駄な効果音が好きであるらしい。実は、これは駆動音ではなく、電源駆動と同時に効果音が鳴る仕組みにしてあるようだった。もちろんドクの趣味だ。
私は部屋を出ると、私はこの地下研究――というよりは秘密基地の奥へと進む。やがて頑丈な扉が見えた。その扉は無駄にSF風味で、右手の赤いボタンを押すと開く仕掛けだ。私は再びため息をつくとボタンを押した。大げさな不協和音と共に、扉は斜めに開いてゆく。しかも、ご丁寧に中央から右上・左下に開いてゆく。古いアニメか何かにある、あんな感じの扉だ。もっと古い言い方をすれば、『海底二万マイル』のノーチラス号のあの扉を想像していただくと分かりやすい。まさか、東京の地下にこんな馬鹿げたものがあるなんて、誰も思いつきもしないだろう。
扉を開けた瞬間、目玉がそこにあった。大きな血走った目玉を見て、私は思わずのけぞった。その拍子にバランスを崩して後ろに倒れ、尻餅をついた。
「おお! 我が愛しの助手よ、よく来たね。今日はとっておきの成果があるんだ!」
ドクだった。お化け屋敷にインスパイアされるのは止めてもらいたいものだ。私は気を取り直して立ち上がると、出来るだけ失礼のないようにドクにこう聞いた。
「なんの成果ですって?」
しかし、やはり本心は隠せない。だるそうな声になってしまった。それを察知したのか、ドクはむっとした表情で私に言った。
「なんだね、今までとは違うぞ、天才は遅咲きなのだよ」
はいはい。私は心の中でそうつぶやいた。
その部屋はドクと私のルーティンワークをこなす部屋で、中央には巨大なプラズマ・ボールが紫色の電流を流し続けている。まるで宇宙船のコクピットのような座席がいくつもあり、そこには車のレバーと何の状況を表すのかさえ判然としないレーダーが備え付けられていた。すぐにでも宇宙戦争が始まりそうな雰囲気だ。それもかなりレトロな宇宙戦争が。
私は座席の一つにつくとレーダー風の表示を切り替え、右側にある電源スイッチを入れた。なんてことはない。じつはデスクトップPCが背後に隠れているだけだ。画面を見れば分かる。起動画面にはLinuxディストリビューションの一つが表示される。ドクはああみえてもPCには弱いので、Linux=セキュリティと思ったらしく、今では所内の全てのPCがLinuxだ。どうせ、ubuntuですらまともに使えないくせに。それに、メンテは私が全部やらなくちゃならない。いいかげん、そんなことを考えるとイライラしてきて、今日にでもこの研究所を止めたくなってくる。
そんな中、ドクが背後から私に言った。
「見なさい」
私が座席から身を乗り出して振り返ると、ドクはこの研究所には全く似つかわしくないガス・ストーブの上でヤカンを乗っけて、テレビを見ている。こういうところまでは彼のデザイン・センスは回らないらしかった。
ぼろぼろの、赤いブラウン管TVのアンテナを時々修正しながら、ドクは画面に釘付けになっていた。時々意味なくTVの側面を叩いて苛立ちを見せる。もちろん、叩いても電波状況が変わるはずもない。
「おほー、この男、すごいぞ!」
なにやらドクが珍しくTVを見ているので、私は少し気になってTVの方向へと身を乗り出した。おそるおそる歩いてゆくと、画面には野球中継が写し出されていた。
ドクに野球中継を見る趣味なんてあっただろうか。
私は不可思議な気持ちになりながらも、ドクの方を見た。熱中していたドクが突然こちらを向く。私はまたびっくりして、再度のけぞった。転倒は免れたが、いつみてもこのぎょろ眼とアインシュタインばりの表情には驚かされる。
「見なさい、この新庄とという選手!」
ドクはそう言うと再び画面を見つめ始めた。
はあ、新庄? 私はさすがに眼を細め、そして顔をしかめた。
「新庄がなにか?」
私の問いかけに対して、ドクは全く答えない。また、どうせロクでもないことを考え出したのだろう。私はそうっとその場を後にしようとすると、ドクは奇声を上げた。
「そうだ、そうだったんだ! 新庄のバッティングがホームランを導き出すとき、私の作ったフラスコの液体に小宇宙が誕生するのだぁー!」
びくぅ! と反応した私をよそに、ドクはTVを消すと、いそいそと何かの作業を始めた。なにやらどろどろとした液体を缶切りで開けると、フラスコに慌てて流し込む。次いで、部屋の奥にある物置へと走っていった。
私はおそるおそる、ドクが入れた液体の正体を探るべく、そっと空き缶に近づくと、そのラベルを見た。
“コーン・スープ”
ラベルにはおいしそうなコーン・スープの写真が載っていて、すぐに裏面をめくると、原材料名にもコーンスープと書かれている。なんだこれ。普通にコーンスープじゃないか。
ドクが慌てて物置から戻ってくるのを見て、私は缶を元の位置に戻すと、何食わぬ顔でドクが戻るのを待った。やがてドクはフラスコを手に持つと、静かに攪拌し始めた。
いくら混ぜてもコーン・スープはコーン・スープにしかなりませんよ、ドク。
しかし、フラスコに入れると、普段はうまそうなコーン・スープが、なぜもこんなにおいしくなさそうに見えるのか。
私の思いをよそに、ドクは攪拌を終えると、物置から持ってきた緑色の液体を注入する。さらに攪拌して今度は赤色の液体、さらに攪拌して黄色の液体、次々と液体を注入する中、フラスコの内容物は黒く濁っていった。まるで、小学生の時の絵の具の筆洗いの様相だった。もはやコーンの面影は微塵もない。
あらかた混ぜ終えると、ドクは興奮気味にこう言った。
「さあ始めるぞ」
ドクはスタスタと歩いてTVを付けると、再び野球中継のチャンネルにダイヤルを回した。リモコン付きではないところがミソだ。しかし、チャンネルを回すと、CMが始まっており、新庄がコーヒーのCMに出演していた。
「違うのだ、バッター・ボックスに立ったお前でなければ全く意味がない!」
ドクはツメを噛みながら眼を血走らせてイライラし始めた。私はうんざりしながらその光景を見守った。
「実はな」
ドクが突然切り出した。
「この新庄のホームランを打つときに生じるパワーと、私の薬品が同期するとき、あのフラスコの中に小宇宙が誕生するのだ!」
「それさっき言ってましたよ」
私の切り返しも早かった。さすがに礼節を気にしている暇はなかった。さすがに今回のドクの思いつきには心底うんざりさせられた。
やがてCMは終わり、中継は再び開始された。ドクは両手でテレビを掴むと、おお、と感嘆の声を上げ、後ろにあったフラスコを急いで取りに行き、再びTVの前に戻ってきた。ちょうど、バッター・ボックスには新庄が立っていた。打席がやっと回って来たらしい。2アウト満塁、ピッチャーの額から汗が流れ落ちる。ナレーターの迫真の実況が場を否が応でも盛り上げた。
そうこうしていると、ピッチャーの動きが変わった。両手を空高く持ち上げると、片足を地面から持ち上げ、大きなモーションで白球に魂を込めて投げつけた。全てがスローモーションで展開される中、新庄の歯がきらりと光ったような気がした。
「おお! いけ!」
ドクは興奮気味に眼を血走らせる。
やがてボールはバッターボックスの目の前を通過し、その軌道上には新庄のバットがあった。白球とバットがミートした瞬間、空気が止まり、やがて白球は空高く舞い上がると、遙かセンターを越え、観客席へと消えていった。
それと同時に薬品がボン! という音を立てた。
私は再びのけぞらざる得なかった。煙立ちこめる薬品を前に、ドクは甲高い声で言葉にならない言葉を口走った。出来たぞー! と言った気がするが、それは定かではない。
やがてあれほど濁っていた液体は無色透明の液体へと代わり、ドクは満面の笑みでそれを眺めた。
まさか本当に新庄のバッティングで、化学実験が成功するとは。いや、まあ偶然だとは思うが。
だが、私の脳裏には、先ほどのドクの言葉が耳に残っていた。
「小宇宙が誕生する」
確かにドクはそう言った。だが、出来たのは透明の液体。私は怪訝な顔つきでそれをドクと一緒に眺めた。
「あの……先ほど小宇宙が誕生するとおっしゃってましたよね? その、超新星はおろか、液体があるだけなんですが」
私の疑問に今度はドクが怪訝な顔つきをした。
「うぬ? そんなことは言っておらん。ただ私は“焼酎”が飲みたかっただけだよ」
ドクはそう言うとゴクゴクとフラスコの中の液体を飲み始めた。
「ぷぅはー! たまらんわい。おまえもどうだ? うん?」
私がこの研究所を辞めたのは、それから一週間経ってからだった。
おわり
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使用キーワード:超新星/コーンスープ/新庄
作者ElekiBrainより:できればこちらにも参加して欲しいです。お願いします(CM)。
ポイントは、お題の使い具合をかんがえ、
いるか賞は、リアルな話しを選ばせていただきました。