D菜「Sさんが新しい推理小説を読みたいって」
B美は黙って小説を書いた。
私は見知らぬ部屋で目覚めた。
「ここは?」
「あなたはメタ探偵です」
「え?」
「私は助手です。それでは事件の説明を。
被害者は昨日、背中から日本刀で、
左肩から右腰にかけて斬られ、死亡しています。
容疑者としてX氏とY氏を拘留しています。犯人はどちらですか?」
「はあ?」
「メタ探偵は、これで犯人を当てられる、と聞いております」
私は頭を抱えた・・・わかるわけない!
助手は続けた。
「昼食を買ってきます。食べたいものは?」
私は首を振ると、何気なく聞いた。
「容疑者たちは何を?」
「X氏は幕の内弁当、Y氏はハンバーガーを希望しています」
私は笑った。
やっとメタ探偵のルールと犯人がわかったのだ。
(締切・15名もしくは11月9日)
メタ探偵のルール;本当にその中に犯人がいる。つまり、助手のいうとおりにすれば間違いないものとする。
犯人;日本刀で背中から抜き打ちに切られたなら、その抜刀の向きから右に帯刀して左に切り上げたと考えられる(切り下ろすのでも左からくるのは珍しい)→どちらにせよ犯人は左利き。それを隠そうとしたらハシでしか食べられない幕の内は不利なのでハンバーガーを頼んだY氏、犯人はおまいだ!(ハシは右、刀は左で使いこなすタイプの人はメタ探偵の世界や容疑者の間には一切いないものとする)
もっとメタではちゃめちゃな回答:助手か自分が犯人。部屋にいたのは2人だけで、わたしはだれかに刀で切られて死んだあと幽霊かなにかで生き返ったばかりだった(自分で自分のことを間違えるわけはない)。自分が切られたのはまちがいないし、自分がハンバーガーか幕の内のどちらかを食べたい気分だったのも間違いがない。助手が幕の内かハンバーガーのうち自分が選ばなかった方を買ってきたらX.Yのどちらにせよ自分(とんでもない装置による自殺の可能性あり)と助手が容疑者に擬されていることは、間違いないから、助手が犯人か自分が犯人かは自分が設定に従って知っていることになる。というメタ探偵こそなしうる叙述トリック。
メタメタですんまへ~ん
Y氏が犯人です
>被害者は昨日、背中から日本刀で、
左肩から右腰にかけて斬られ、死亡しています。
ゆえに左利き。
>「X氏は幕の内弁当、Y氏はハンバーガーを希望しています
x氏が左利きなら見て分かる。
そうでない物を頼んだならY氏が犯人
D菜は不思議そうに尋ねた。
D菜「本当にこれだけで犯人がわかるの?」
B美は微笑んだ。
B美「この情報だけで解ける、って知っているからこそ、
メタ探偵なのよ」
D菜は質問した。
D菜「メタ探偵って何?」
B美は説明した。
B美「自分が推理小説の中にいるって理解してる探偵のこと」
D菜はよくわからない、という顔をした。B美は続けた。
B美「たとえば数学の問題があって、半径rの円があり・・・とかいろいろあって、
選択肢に (a) r/2 (b)r/4 (c)r/8 って書いてあったら、
この問題の答えは(a)~(c)のどれかだ、と決めてかまわないでしょ?
D菜「うん」
B美「現実社会の問題は、答えがあるとは限らないし、
解くための材料も自分で見つけ出す必要がある。
余計な情報も混じってるかもしれない。
でも、数学の問題として出題されてたら、
そういう可能性は考えなくていいじゃない?。
問題文にわざわざ書いてあるからには、その条件は必ず使う。
書いてない条件を使わないと解けないような問題は、
決して出されない、と思っていい。
詰め将棋で言えば、余計な駒はいっさい置いてないし、
かならず詰むように出来ている、ってことね」
D菜はうなずいた。
D菜「もちろん。だから?」
B美は説明した。
B美「同じように、この小説では、犯人はX氏かY氏かどちらか、って、
頭から決めてかかってかまわない。
だって助手がそう言ってるんだもんね。
被害者の年齢や性別すら書いてないでしょ。
だからそれらの情報は、答えにはまるっきり関係ない、
ってこともわかる」
D菜はあいまいにうなずいた。
D菜「まあ、わからなくはないけど・・・もう少し教えてくれない?」
B美は親切に説明した。
B美「被害者の年齢とか性別とか、
いっけん、すごく重要な情報がない割には、
斬られ方の説明が異様に詳しいと思わない?」
D菜は問題文を読み返すとうなずいた。
D菜「背中から、とか、左肩から右腰に、とか、
妙にしっかり書いてあるわね」
D菜は何か思いついたようだった。
D菜「ひょっとして、昼食が幕の内とかハンバーガーっていうのも重要なの?」
B美はうなずいた。
B美「最重要よ! 『何気なく尋ねた』って書いてあるでしょ。
推理小説で探偵が『何気なく尋ねた』ら、
その返事は100%、重要な情報と決めつけていいの。
推理小説では、
テレビをつけたら事件に関係するニュースが流れるし、
助手が何か軽い失敗をしたら、それを見た探偵は、何かひらめくものよ。
で、そういうことをわかっている探偵こそ、メタ探偵なの」
D菜は確認した。
D菜「ええっと、今までのことをまとめると、
[1] 被害者は背中から、左肩から右腰にかけて斬られている
[2] X氏かY氏が犯人である
[3] X氏は幕の内弁当を希望し、Y氏はハンバーガーを希望した、
ってことだけで、犯人を推測できるはずだし、
推理しちゃってかまわない、ってことね?」
B美はうれしそうに言った。
B美「よくわかってるじゃない。そのとおりよ」
D菜は10分ほど考え込んだ。
D菜「犯人は左利き、って考えていい?
右利きの人が刀を振り下ろしたら、ふつう、左下がりに斬るもの」
B美は頷いた。
B美「うん。それで謎の半分は解いてる」
D菜はさらにがんばった。
D菜「私が犯人だったら自分が左利きなことは隠す。
だって死体を見れば、犯人が左利きってバレバレだもん。
だからランチも、自分が左利きってバレないものを注文する。
箸をつかう幕の内弁当より、ハンバーガーを頼む。
だからY氏が犯人。これでいい?」
B美は拍手をした。
B美「正解!」
D菜は興味を持った。
D菜「私もメタ探偵の推理小説、作っていい?」
B美「どうぞ」
D菜が考え込んでいるところにF吉が来た。
F吉「やあ、何やってんの?」
D菜は叫んだ。
D菜「思いついた! F吉、質問よ。
2月中旬のこと、ある高校生が殺害されました。
犯人は同じクラスのX男かY子の、どちらかです。
さて、どっちが犯人で、殺害方法は何でしょう?」
F吉は目を丸くした。
F吉「え? え? わかるわけないだろ?」
D菜は尋ねた。
D菜「B美はわかる?」
B美はくすくす笑った。
B美「被害者の性別も当てさせるようにすれば、
問題はもっと簡単になるわね。
さらにヒントを出したいなら、
悩むメタ探偵を見かねて、助手にこう言わせて。
『気分転換におやつでもどうでしょうか。
何か甘いものも持ってきます』って」
D菜は不安そうに言った。
D菜「この問題、かなり強引な推理だけど・・・」
B美は慰めた。
B美「まあ仕方ないわ。それがメタ探偵なんだから。
でも出題者は、回答者の示した答えが、
すべての複線をきちんと拾っていて、
しかも自分が想定していた答えより鮮やかなら、
そちらを正解にしてあげてね。
自分の証明よりも、より短く鮮やかな証明があれば、
そちらのほうが望ましいでしょ?」
D菜はうなずいた。
D菜「そうする」
B美は、モ ニ タ の 前 の あ な た にお辞儀をして言った。
B美「メタ探偵の推理が強引でも、
あんまり細かいこと言わないで、広い心で受け入れてあげてね。
あと『はてな』でメタ探偵ものを募集するから、
思いついたら、ぜひ応募してね。待ってるわ!」
F吉は不思議そうにD菜にささやいた。
F吉「B美のやつ、いったい誰に向かって話してるんだろうな?」
------【メタ探偵・幕の内弁当とハンバーガー・終わり】------
http://q.hatena.ne.jp/1194625530
何か思いつかれた方、ぜひご応募を。
メタ探偵を少し勘違いしていたようです。
それにしても左利きはまったく気づきませんでした。
くやしい限りです。
ちなみにD菜の問題は
Y子、毒殺とかでいいんでしょうか?
…まぁ、敢えて欠点を指摘するなら、右利きの人が無理に左利きの振りをして犯行を行い、そして自分が右利きである事をアピールするために、幕の内弁当を頼んだ…とも言えますよね。隠す事ができるのと同じように、間違った結論へ導く事も、可能性としてはあります。
ですので、そういう可能性は考えなくて良い、というルールが時には必要かもしれません。
D菜の問題は、もちろんY子、毒殺でOKです。
みごと正解にたどりつかれたみたいですね。
kuro-yo様、実はネーミングが、
かならずしも適切ではなかったかと、ちょっと反省中なのです。
で、こちらの想定では、あんまり複雑なことは考えなくて良い、と想定しています。
複雑なことが起きている場合は、それを示す記述をすべきなのです。
それがない限り、素直な状況を想定してかまわない、と考えています。
剣道2級の息子に聞く。
「竹刀を振り下ろすとき、右胴と左胴どちらを狙う?」
ちょっと考えて、
「どちらも同じ、隙があるほう」
「どっちでも同じように払えるの?」
「大丈夫!」
という。
剣道教室の居合いの達人の先生に聞く。
「真剣で切るとき、左斜めと右斜め、どちらが普通ですか?」
「どちらも同じにできんといかん」
という。
切り口の方向では、利き手はわからんのです。
ここで、たぶん利き手の話で進めればよいのではないかと思ったのですが、上記理由で特定できないと考え様子を見ることにしました。
また、利き手がばれるのが恐いなら、背中から切るんだから逆手でもいいんじゃない?とも思えますね。
今回はちょっと「待ち」でした。
ドジな男のすぐ先にバナナの皮が落ちていれば、物語的に起きることはただ1つです。
たとえ現実世界ではそうなる可能性が0.001%であろうと、そんなのは関係ないのです。
メタ探偵シリーズでは、「現実の世界で実現性が高く合理的な推理」ではなく、
「物語の世界でいかにも起こりそう」と「みんなが納得してくれそうな」解釈をする必要があって、
ですからあまり高度な推理は求められません。
で、ためしに書いてみましたよ。
結構難しいです。特に、伏線を使い切る「本格推理小説」が、あまり好きじゃないので。(でも、読んでる。って実は好き・・・・・なのかなぁ)